phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: *た行の作家

悪女の品格 (創元推理文庫)
辻堂 ゆめ
東京創元社
2020-08-24

保険のセールスレディとして働いているめぐみは、最近何者かに狙われていた。まずはマンション近くのゴミ置き場に閉じ込められたのだ。扉の外には犯人からと思しき手紙が残されていた――「監禁の後は、理科の実験」と。そして今度は彼氏が街頭でもらったというボディミストを使ったところ、中身は塩酸で、吹きかけた左手にやけどを負ってしまったのだ。度重なる事態に恐怖を感じためぐみは自宅に帰らず、衝動的に湘南まで逃げてきたものの、途中で財布を盗まれてしまい、帰る手段を失ってしまう。途方に暮れるめぐみは、交通費を出してくれそうな男性を探そうと、たまたま駅の近くで開催されていた婚活パーティーに参加することに。そこで若くして准教授になったというエリート男性・山本と出会っためぐみは、彼と付き合うことに。現在同時進行で付き合っている3人の彼氏のことは隠しつつ、ストーカー被害のことを打ち明けると、山本は親身になって相談に乗ってくれたうえ、犯人捜しを手伝ってくれるという。実はめぐみには犯人に心当たりがあった――手紙に書かれていた内容は、めぐみがかつていじめの標的にしていた同級生・真木に対して行った仕打ちをなぞっていたのだから……。

男を手玉にとる「悪女」光岡めぐみが、自身を狙う何者かの正体を暴こうと奮闘するミステリ長編。

父親は大手携帯キャリア会社のトップ、母親は有名な女優ということで、何不自由ない生活を送っていためぐみ。しかし子供のころから、両親から与えられる金を湯水のごとく使い、周囲を操っていじめを繰り返していたというのだから恐れ入る。しかも長じては、かつての同級生にしていじめ仲間だった3人の男性――医者の秋庭、麻布一番の大地主の息子である玉山、そしてIT企業社長の樋口と同時進行で付き合って貢がせているという状況。まともな友人はほとんどおらず、周囲を利用しながら贅沢三昧の暮らしを送るめぐみには、恨まれる理由など山ほどあるからして、犯人が誰なのかは全くわからない。もちろんめぐみ本人は反省などするはずもなく、どうにか反撃に出ようとするのだから面白い。

とはいえめぐみだけでは犯人に迫る能力も知恵もなく、婚活パーティーで知り合った大学准教授・山本と手を組むのだが、この人物の正体が判明してから、事態はますます混迷を極めていく。タイトルにもなっている「悪女の品格」とは何を指すのか――そして犯人の狙いは何なのか。めぐみのしたことは決して許されることではないが、最後まで読むとなんとなく憎めないような気持ちになってくるのが不思議。彼女の行く末を見届けたくて、一気に読み終えてしまった。




日菜子が現在夢中になっているのは、若手舞台俳優の須田優也。ファースト写真集は5冊買ってツーショットチェキ券もゲット済だし、今度出演する舞台の原作は何度も読み返して予習は万全、舞台のチケットももちろん入手済だし、当日着ていく服も決まっている。さらに学校から帰ればブログやSNSでの情報収集も欠かさない――その中で日菜子は、優也が大平という俳優仲間らしき相手に対してリプライを送っているのを発見する。その内容から、次の公演後に大平と優也が合流するとにらんだ日菜子は、観劇にやってきた大平を探し出し、終演後に彼を尾行した結果、めでたく居酒屋で俳優仲間たちと歓談する優弥の姿を眺めることに成功するのだった。しかしその翌日の公演で、優也が手にしていた小道具のナイフが本物にすり替えられており、共演者を刺してしまうという事件が発生。日菜子は昨夜の優弥たちのやり取りを思い出しながら、優弥が何者かにはめられたという証拠を探し始め……。

恋多き女子高生・追掛日菜子が、様々な問題に巻き込まれた愛する「推し」たちを法律違反ギリギリ(!?)の手段で救い出してゆくライトミステリシリーズ。2018年に第1弾が、そして今月(2020年10月)に第2弾が刊行されている。

タイトルに「片想い」とあるが、まあそれは広い意味での「片想い」であり、彼女が行っているのは、厳密には「推し活」と呼ばれるもの。身近な人物ではなく、芸能人などが相手なのだが、日菜子のそれはストーカー行為スレスレだったりする。ネット上で本人や事務所が発信する情報を調べ、彼らの活動を応援するというだけならまだしも、日菜子はそれに加えて彼らのプライベートや交友関係まで調べ上げる。なんなら家まで突き止めたり、私的な会話を録音したり……と、読んでいてこちらまでヒヤヒヤさせられるような行動のオンパレード。共用の部屋(一応アコーディオンカーテンで仕切ることができるが、基本的に日菜子に開けっ放しにされる)の壁や天井を推しの写真だらけにされ、休みの日にもなにかと付き合わされることもしばしばな大学生の兄・翔平への同情が止まらない(笑)。しかしその情報収集能力のおかげで、日菜子は推したちが巻き込まれるトラブルを次々と解決してみせるのだ。

そんな日菜子の「推し」はしょっちゅう変わる。舞台俳優、力士、天才子役、覆面漫画家、果ては総理大臣、人間国宝、クラスメイトの父親等々……年の差などなんのその、これと決めたら一直線な日菜子の姿にはもはや脱帽の一言。そんな彼女の性癖が実は追掛家の家系(?)によるものだと2巻で判明したのには驚かされた。今後の活躍にも期待したい(笑)。


和泉沢にどうしてもと頼まれ、中国大使館で開かれたパーティーにしぶしぶ参加した陽菜子。だがそこに現れたのは惣真で、和泉沢への顔つなぎを要求されたうえ、劉という男には注意するよう忠告して去っていくのだった。その劉という男性とも引き合わされ、帰宅したのち、陽菜子は「劉」がかつて八百葛の里を抜けた統領候補の子孫・柳凛太郎であることに気付く。しかもその劉=柳が雇われている上海の企業は、陽菜子が勤めるIMEとの提携を狙っているようで……。

里を飛び出してOLになったはずの落ちこぼれ忍者・陽菜子が、なぜか会社の運命をかけた忍者たちの戦いに巻き込まれるはめになる隠密お仕事小説、第2弾。今回も2016年に刊行された同作の再版ではあるが、穂乃香の視点で描かれた書き下ろし短編「風に偲ぶ恋」が新たに収録されている。

人事異動で和泉沢とは部署が別になってしまった陽菜子だが、「そんな彼女のところになにかと泣きついてくる和泉沢の図」は相変わらず(笑)。しかし和泉沢が抱えていたのはまたしても会社の地位を危うくする可能性のある提携話であり、その陰には陽菜子たち八百葛の里とも因縁がある忍者・柳が関わっていたからさあ大変。対和泉沢要員としてまたしても惣真に駆り出される陽菜子だったが、改めて「自分は何のために戦うのか」という命題を突き付けられることになる。しかし今回、陽菜子は迷いながらもひとつの結論を下すことに。忍者としての生き方を否定していたのに、忍者として動くことを求められ、けれどいつしか自分の意志で行動を起こす陽菜子の生き方がなんともまぶしい。

そんな陽菜子に、忍者としてでなくひとりの女性としても転機が訪れる今巻。和泉沢の台詞に驚かされる一方で、惣真の考えもなんとなく見えてくるという展開に。特に惣真の想いについては、書き下ろし短編にて穂乃香の視点でも語られているのでまず間違いはないはず。ということで、ますます今後の3人の関係が気になるのでぜひ続編を……!


◇前巻→「忍者だけど、OLやってます」


とある忍者の里の統領の娘でありながら、忍者としての合理主義で利己的な考え方に嫌気がさし、里を捨てOLとなった望月陽菜子。そんな彼女の目下の悩みのタネは、同期でもある上司・和泉沢創の存在だった。社長の息子で容姿もいいのだがいかんせん頼りなく、ボンクラという意味を込めて「ボン」と影で呼ばれている和泉沢。なぜか陽菜子になついている和泉沢は、出張帰りに取引先と交わした重要な契約書を紛失したと陽菜子に泣きついてきたのだ。しぶしぶ状況を聞きだした陽菜子は、彼に接近している女性がライバル会社の社員であり、彼女が書類を盗んだ可能性が高いと考える。かくして陽菜子は忍術を使ってその女性に接近し、書類を取り戻すことに成功。しかしその直後、幼馴染にして元許嫁でもある向坂惣真から連絡が入る。里を捨てたはずの彼女が忍術を使ったことを問題視した惣真は、里を守るために陽菜子を社会的に抹殺するとまで言い出したのだ。里に戻りたくない陽菜子は、期間限定で忍に戻り、外務省で働く惣真のために必要な情報を集めるという交換条件を出して……。

2015年にMF文庫ダ・ヴィンチmewにて刊行されていた同名小説の再刊行版。抜け忍の主人公・陽菜子が会社の危機を救うために奮闘する、隠密お仕事小説第1弾。

訳あって里を脱けたものの、実は凄腕のくノ一で……というのはよくある展開だが、本作の主人公・陽菜子はその逆。どちらかといえば落ちこぼれで、かろうじて得意なのは変身術のみ。幼馴染にして許嫁の惣真は完璧主義者のエリート忍者だし、現在同居中のお目付け役にして親友の穂乃香もくノ一としての能力は折り紙付きだしで、劣等感を感じるのも無理はない話。さらには里の人々の考え方に嫌悪感を示しつつも、あらゆることに受け身で、「自分」というものをどうしても持てないため、普通の女性としてもなかなかうまく生きていくことができないというジレンマに苦しんでもいる。そんな中で陽菜子はもがきながらも、純粋でまっすぐな和泉沢をどうしても救いたいと考えるようになる。それはきっと彼が自分にないものを持っている理想の存在だから――だろうか。あるいは、彼だけが陽菜子の変装を見破ったから――本当の陽菜子自身を見てくれているからかもしれない。

そんな中で気になるのはやはり陽菜子を軸とする三角(?)関係。陽菜子が和泉沢のことをどれだけ意識しているか、そしてその逆もよくわからないし、惣真が陽菜子のことをどう思っているかも今のところ判然としない状況。つまり三角関係と言いつつどこにも矢印が向いていないというか、矢印がうっすら見えかかっているだけという感じではあるのだが、続編ではそのあたりがどう進展するのだろうか。

きのうの影踏み (角川文庫)
辻村 深月
KADOKAWA
2018-08-24

友人から聞かされたのは、彼女が子供の頃に流行った「十円参り」という都市伝説の話だった。団地の裏山にある神社の賽銭箱に、嫌いな人――「消したい人」の名前を書いた紙を10円玉と一緒に投げ入れる。これを誰にも見られることなく10日間続けると、「消したい人」が本当に消えてしまう。その時、投げ込んだ10枚の紙は真っ赤に染まるのだという。団地に住む小学5年生のミサキとマヤは、親友のなっちゃんが消えてしまったのは、この「十円参り」のせいではないかと疑い始める。3人は仲良しではあったが、その実、ミサキとマヤが水面下でなっちゃんを取り合っているような状態。ふたりはそれぞれ密かに「十円参り」を行い、そこになっちゃんや相手の名前を書いていたのだった……。(「十円参り」)

日常に潜む、あるいは忍び寄る様々な怪異を描く短編集。それぞれの作品の長さはまちまち。ある作家のもとに届いた妙なファンレターが、彼女の周辺の作家たちにも届くようになる「手紙の主」や、大学生が合宿中に潰した虫のようなものの正体を描く「殺したもの」のような得体のしれないホラーが多いが、中にはそれを通り越してふっと笑ってしまったり、あるいはどこか心温まる結末を迎えるものもある。もちろんどちらのエピソードにしても、その原理がわからないのだから怖いことには違いない。実際に私たちの見ている現実の皮を1枚めくれば、こういった世界があるのかも、と思わされるような物語だった。


引きこもり支援カウンセラーの竺原丈吉は、自分が受け持っている「引きこもり」3人に対し、ある提案をする――それは「人間を創る」というもの。ウィザードとも称される正体不明の凄腕ハッカー「ロックスミス」の協力を取り付けた竺原は、絵の上手い芹香にキャラクターデザインを、PCに詳しい聖司にプログラミングを、そして音声に詳しい洋佑にはキャラの声を担当させ、いわゆる「不気味の谷」を超える「ヒト」を創ろうと試みる。しかしその目的は、誰にも明かされないまま。やがて丈吉の動きに不審なものを感じ取ったロックスミスは、丈吉に加え、彼と関係が深そうな聖司を除外し、芹香と洋佑を含めた3人で「アゲハ」という美少女キャラを作り上げ、丈吉に売りつけようと考える。しかしそのさなか、ロックスミスのネットワークに「ジェリーフィッシュ」と名乗る別のハッカーが侵入していたことが判明。さらに自分が排除されていることを知ってもなお、丈吉は特に動揺することなく、どころか次は「幻の象を作り出そう」などと言い出して……。

2016年に刊行された長編小説を文庫化。どこかつかみどころのないカウンセラーが、引きこもりたちと共に様々なものを「創る」物語。

引きこもりといってもその理由は様々で、学校が原因であることもあれば、家庭が原因であることもある。いっさい外出できないわけでもない。けれどそのことを当然のこと、仕方のないことと思って諦めているわけでもなく、それぞれが罪悪感なり焦燥感なり、複雑な想いを抱いたまま、引きこもらざるを得ない自分に苦しんでいるのだ。そんな彼らの得意分野に目を付けた竺原は、彼らにコードネームを付け、しかも「凄腕のハッカー」などというある意味非現実的な存在まで引っ張り出して、現実に存在しないモノを創り出そうと試みる。

もちろんその目的が金儲けではないとは決して言いきれない。しかしそれはあくまでも副産物であり、あるいは次の「創造」のための資金集めのようなものでもある。その手際は褒められる手合いのものではないことも確かにあるが、しかし竺原のやっていることが間違っているとは到底言い切れない。自分たちのしていることは誰かを不幸にすることではないんですよね、と問われた竺原は、それを否定する。その潔さが逆に清々しいし、なおかつ引きこもりの彼らに厳然たる「現実」を突き付けているようにも見える。そうしながらも、一方では彼らに現実との向き合い方を教えているようにも思えるのだ。まっすぐに向き合わなくてもいい。少しでも、指の先が触れる程度でも「外」に関われていれば、それでいいのだと。

「外」に揺さぶられたばかりに引きこもっていた彼らは、竺原の計画に乗ったことで「外」を揺さぶる側になった。そうした成功体験が彼らに自己肯定感をもたらし、その可能性を広げていく。狭い、居心地のいい部屋の中でだってできることはあるのだ、と。物語の最後に置かれた「続けろ!」という言葉の力強さが、とても印象に残った。

山手線謎日和(2) (ハルキ文庫)
知野みさき
角川春樹事務所
2019-01-11

営業先でもあるカフェ「SATSUKI」のオーナー・小岩井、そして同僚の鳥飼と共に、喫茶店「デザート・ムーン」へ行くことになったイズミ。ふたりを招いてくれたオーナーの榊、そして店の常連である怜史も交えたその席で、小岩井は自分の店で起きたある出来事について語り始める――店内で客同士がぶつかり、売り物であるマグカップが落ちて割れてしまった。ぶつかった側の女性客はその場から逃げてしまったのだが、バイトの子が言うには、その客は店長である小岩井のことを探るような行動をとっていたのだとか。小岩井に思いを寄せているらしい榊や鳥飼はストーカーではないかと心配し、イズミにそれとなく探りを入れてくるように。榊の頼みで「SATSUKI」にやってきていた怜史と共に、イズミは逃げた女性客を探し始めるが……。(「渋谷駅事件」)

お人好しで正義感の強い編集者のイズミと、洞察力は鋭いがひねくれ者の読書家・怜史が、山手線周辺で起きる奇妙な謎を解き明かすライトミステリ第2弾。今回も絶妙なコンビネーションを見せてくれるふたりから目が離せない。

小岩井のストーカー疑惑、イズミの正義感が裏目に出てしまうコインロッカー事件、中国人女性と男子小学生の縁を繋ぐエピソード……と、今回もなんというか不思議な事件が勢ぞろい。ひとつの話に対し、メインの事件とは別の小さな事件が絡んでくるため、多少散漫な印象がなくもないが、イズミと怜史はこれらの事件をひとつずつ解明していくことに。2巻ともなるとだいぶイズミも怜史の扱い方に慣れてきたようで、ひねくれ者な怜史の手綱をうまく操っているのがなんとも楽しい。とはいえ怜史の方はとうの昔にイズミの扱い方はマスター済みなので、うまいこと利用されることの方が多かったりもする(笑)。実はこのふたりより、鳥飼・榊・小岩井の三角関係(?)の方が進展している気配もあるので、続編があればイズミと怜史の関係の進展も期待したいところ。


◇前巻→「山手線謎日和」

山手線謎日和 (ハルキ文庫)
知野みさき
角川春樹事務所
2017-12-13

とある小さな出版社に編集者として勤める折川イズミは、山手線内で自社から発売されたばかりの翻訳ミステリを読んでいる男性を見かける。その3時間後、イズミはまたしても山手線内でその人物を目撃。しかも読んでいた本が残り十数ページになっていることに気付き、彼は何者だろうかと首をかしげるのだった。その翌日、移動中に立ち寄った五反田駅のホームで、歩きスマホの女性が何者かに押されて転倒する事件に遭遇したイズミ。その様子を、昨日見かけた男性も目撃していたことに気付いたイズミは、とっさに彼の後を追って山手線に飛び乗ってしまう。事件のことを問うイズミを軽くいなしつつ、男はこの電車がイズミの乗りたい方向とは逆回りであることを指摘。慌てて次の駅で降りながらも、イズミは事件のこと、そしてあの男性のことが気になって仕方なく……。

編集者の折川イズミと、山手線内で読書に勤しむ男性・和泉怜史が、山手線とその周辺で起きる事件を解決していくライトミステリ連作。

ということで、イズミが山手線内で何度も遭遇した読書家の男性は、アパート経営のため働く必要がないため、山手線に乗って読書を楽しんでいるというなんともうらやましい生活を送っているという和泉怜史なる人物。「いずみ」繋がりであることや、職場の先輩の行きつけの喫茶店に、たまたま怜史も入り浸っている(オーナーと親しいらしい)ということもあり、おせっかいの気のあるイズミが怜史を引っ張っていく形で、様々な事件に首を突っ込んでいくことに。

今のところ恋愛感情的なものはなさそうだが、ふたりがなんだかんだ言っていいコンビになりつつあるのが楽しい。その突き放すような口調や態度とは裏腹に、怜史が思いのほかイズミの面倒をちゃんとみてくれたり、彼女の気持ちを尊重してくれたりするところもいい。1月に出たばかりの2巻でふたりの関係がどうなるのか気になるところ。


「中原」と呼ばれる大陸の中央政権から離れ、ほぼ独立している都市国家群「東和」――その第7の都市「歌仙」に住まうのは、東和七宮とも呼ばれる姫君・空澄。先王の隠し子であるとされる空澄だが、その実態は軍師トエル・タウと将軍テン・フオウに見出された、素性不明の孤児の少女。天下を取りに行くというふたりの言葉に惹かれ、彼女は空澄として生きることを決意したのだった。しかし穏やかに過ぎる日々は終わりを告げる――歌仙の隣に位置し、東和四宮・琥珀を擁する都市・鼓が歌仙に侵攻を始める。そのさなかにトエルもテンも行方がわからなくなり……。

第9回電撃ゲーム小説大賞《金賞》を受賞し、2003年に電撃文庫で刊行された「七姫物語」の新装版。巫女姫となった孤児の少女が、うつろいゆく世界を見つめ続けるファンタジー作となっている。

天下を取るという信念のもとに空澄を担ぎ上げ、歌仙にて力を蓄え続けるトエル・タウとテン・フオウ。そんなふたりにとって、空澄は利用する対象であり、共犯者のひとりでもある。空澄もまた、自分が利用されていることはきちんと理解していて、それでもなお彼らについていくことを自分で決めた。それはきっと、彼女が世界を見たいと、そう思っていたからこそ。

鼓の侵攻により、護衛のヒカゲと共に逃避行を続ける中で、空澄はたくさんのことを知る。彼女が生きる「東和」という世界の危うさ。城の外の世界。トエルとテンが行っていること。人々が巫女姫をどう思っているか。そして、黒衣の麗人との出会い。姫宮として祀り上げられた少女たちが、それぞれ自分の立ち位置を模索しながらもその勤めを果たしているのを目にした空澄。これまで城の奥で守られて過ごしてきた彼女もまた、この事件を通して、なすべきことをようやく手にしようとしていた。

そして気が付けば、現時点で末の姫宮である彼女の存在が、東和を動かす火種になりつつある。だというのに、本人にはまるでその自覚はない。そのことがどことなく恐ろしくもある。琥珀姫は自身の境遇について、「琥珀は自分より大きなものを内包できない」と告げた。では空澄は――どこまでも広がる「空」の名を持つ姫宮は、どんなものでも受け止め包み込むことができるのかもしれない。彼女がこの名前を得たのは偶然だったのか、それとも必然だったのか――それはきっと、ここから紡がれる歴史が証明してくれるのだろう。


黒音幸多が働く映画館「奥田映写館」で、とある話題作を観た観客たちが次々と払い戻しを訴えてくるという事態が発生。映画の内容と字幕がまったく合っていないというのだ。その場に居合わせた常連客の「先生」こと雪穂史郎はこの事態に興味津々。幸多を伴い、さっそく映画の配給会社へと向かう。奥田映写館だけでなく、他の映画館にも字幕の違うフィルムが出回っていたことを担当者から聞かされた雪穂は、その担当者から無理やり「依頼」を取り付け、字幕をすり替えた犯人探しに乗り出すが……。

講談社タイガでの新作は探偵もの。好奇心旺盛すぎる「先生」こと雪穂と、そんな彼に引きずられるように事件に関わってゆくバイト青年・幸多のでこぼこコンビ(と見せかけて実は……?)による「字幕泥棒」探し。

雪穂が何の「先生」なのか、そして幸多が不承不承といったていで探偵業に携わる目的だとか、そのあたりが終盤まで説明不足な感じで進むので、ちょっとわかりづらい部分もあるのだが、序盤でその幸多が疑われて捕まったり、調査中に雪穂が殺されそうになったりと、思いのほかハードな展開が続くのでびっくり。とはいえ幸多の「正体」がわかってからはとんとん拍子で事が進むのでひと安心。しかしふたりの関係――特に雪穂が幸多に(あるいは探偵が解くべき「事件」に?)興味を持っている理由がよくわからないので、続編があればそのあたりも期待したい。


千景たち「キューブ」の面々のもとに飛び込んできたのは、鈴蘭学園という美術科で有名な高校で起きたふたつの事件だった。ひとつは山際由美という女生徒が校舎から飛び降りたという自殺未遂事件。そしてもうひとつは、その女生徒が「虹展」という有名な絵画展に出そうとしていた絵が行方不明になったという事件。しかもまだ賞もとっていないその絵を、プラチナ・ミューズ画廊の矢神が買い取ろうとしていたという情報のオマケつきで。その絵に興味を持った面々はさっそく捜索を開始。その一環として、千景が編入生と称して鈴蘭学園に潜入することに。そこで千景はふたつの相反する証言を得るのだった――一方は由美が常にひとりで行動することを好む少女だったという証言。そしてもう一方は、いじめを受けて孤立していたという証言で……。

「図像術」が隠された呪いの絵画を追う美術ミステリシリーズ5巻。今回は千景が女子高生として学校に潜入!?という驚きの展開に。

もともと他人との感性の違いもあって他者と馴染めなかった千景だけに、透磨は千景のJK作戦に否定的。もちろんそれは彼女のことが心配で仕方ないからなのだが、当の本人は思いのほかけろっとしているし、男子生徒に言い寄られて興味半分で放課後デート的なことをするしで、透磨の機嫌は悪くなる一方。当たられる千景としては憤懣やるかたないとは思うが、傍から見ているとなんというか楽しすぎる流れに(笑)。

しかし山際由美の描いた「絵」の正体が明らかになるにつれ緊張が走る。図像術を持つ絵を模写できるものはいない――というのが千景の持論だったが、もしかしたら由美が数少ない「できる」人物だったのかもしれないということ、そして彼女がかつて、欠損があるものの「本物」を見たことがあるという事実が、事態を緊迫させてゆく。そして千景は彼女の存在に自分を重ねずにはいられなくなるのだ。それでも周囲の支えがあって――キューブの面々の存在、そして見ないふり気付かないふりをしているようだが透磨の存在のおかげで、だいぶ立ち直りつつある千景。しかしその一方で、彼女の失われた記憶が少しずつ戻りかけている気配も。これはこれでまたひと波乱ありそうな予感……。


◇前巻→「異人館画廊 当世風婚活のすすめ」


人気アニメ「精霊機想曲フォーゲルシュバリエ」を見ていたイラストレーター志望の高校生・水篠颯太。しかしそのさなか画面にノイズが走り、気が付くと颯太はアニメの世界の中にいた。彼の眼前で戦っていたのは、この作品のヒロイン・セレジアと、作品には登場していない軍服の少女だった。少女の攻撃からとっさにセレジアを庇った颯太だったが、次の瞬間、セレジアもろとも自室に帰還。お互いに驚くふたりだったが、そこに軍服の少女も現れ、再び襲い掛かって来る。圧倒的な彼女の攻撃に抗戦一方のセレジアだったが、そこにマント姿の白い髪の少女が現れ、これを退けるのだった。その場はそのまま姿を消した3人だったが、翌日、学校から帰宅した颯太の前に、セレジアと白髪の少女――RPG「追憶のアヴァルケン」に登場する賢者・メテオラが現れる。メテオラいわく、あの軍服の人物――「軍服の姫君」は自分たちのようなアニメやゲームといった作品の登場人物――「被造物」をこの世に「現界」させ、共にこの世界を滅ぼすつもりなのではないか、と……。

2017年8月現在放送中の同名アニメ「レクリエイターズ」の公式ノベライズ。この上巻では第1クール(4〜6月放送)分が収録されている。

人気のある漫画、ラノベ、アニメにゲームといった作品から召喚された登場人物たちが、2つの陣営に分かれて世界の存亡を賭けた戦いを始める――というこの設定だけで面白い本作。しかし召喚されたキャラクターたち――「被造物」はそれぞれの世界で実際に「生きている」ため、自分たちが作者、すなわち「神」によって、他の「神々」の娯楽のために作られた存在であるということに苦悩し、あるいは縛られる。そして「神」の側もまた、そんな「被造物」たちの問いかけを受け止めざるを得ない立場に立たされる。元々は想像の産物に過ぎないのかもしれないが、しかしどのような理由でその「世界」を作ったのか――その覚悟を問われることになるのだ。

そして傍観者にすぎないと思われていた語り手・颯太にもまた苦悩が存在する。想像から作り上げた「世界」が周囲に認められた者はまだいい。しかしそうなれなかった者は?という、クリエイターならきっと一度は通るだろう道の中にいる颯太には、前半部分にあたるこの上巻ではまだ「軍服の姫君との繋がりがある者」というくらいの関係性しか持たなかった。しかしこの先、ようやく自分の過去を見つめ直すことのできた彼は、この戦いにどう関わっていくことになるのだろうか。


書店でのアルバイトを始めた美咲は、店頭に飾られたポップの字体が気になり、写真を撮って東雲に見せることに。すると東雲はその文字から、書き手の精神の不安定さ――例えば自殺したがっているような――を感じ取ったという。するとしばらくした頃、そのポップの書き手であるバイトの大学生・大橋から相談を受ける美咲。実はポップの文字部分を書いたのは大橋の友人・山内で、その山内が誰かに殺意を抱いているようなことを口にし始めているのだという。美咲は慌てて東雲に相談するが、ひょんなことからその山内が、最近東雲に謎の脅迫文を送りつけている張本人であることが分かり……。

筆跡から人の想いを読み取る不愛想青年と、お人好しな女子大生が、文字に込められた謎を解き明かすライトミステリ連作シリーズ3巻。

今回東雲のもとに持ち込まれたのは、殺意がこもった書店のポップ、病で亡くなった先輩が残した御朱印帳、認知症を患った老人が探している本、そして苛められているという子供のカバンに忍ばされていた「死ね」という手紙。御朱印帳や本については、書き文字だけではなく押印や印刷なども絡めた複雑な謎となっていたのだが、相変わらず東雲はそれらの謎を鮮やかに解いてゆく。とはいえ、確かに謎を解くのは東雲だが、美咲のなにげない発言がそのヒントになっていることもしばしばなので、いいコンビだなと微笑ましい気持ちになってくる。

ちなみに、そんなふたりの関係はどうなったかというと……あまり進展しているようには見えないのだが、しかし東雲は以前よりも美咲に対するハードルが下がっているし、美咲も恋心はないと何度も断言しながらも、時折見せる東雲のノーガードな発言にどきっとしている場面も。まだまだ道のりは遠そうだが、お互い少しずつガードは薄くなっているようなので、今後の歩み寄りにも期待。


◇前巻→「筆跡鑑定人・東雲清一郎は書を書かない。 鎌倉の猫は手紙を運ぶ」


吹奏楽部を辞めたものの、ジャズに興味を持ちしばしば上京していることが母親にバレてしまった典子。逆上した母親にサックスを壊されショックを受ける典子だったが、やがて気を取り直して再び上京。尾之上という楽器修理を請け負う人物と知り合い、見事修理してもらうのだが、そのやり取りの中で典子のサックスの下の持ち主が「トモキ」という人物であることが判明するのだった。そんな折、メンバーを募集していた大学生のジャズバンドに参加しようと考えた典子。しかしそこで遭遇したのは、以前ジャズバーのセッションで出会ったサックス奏者の水之江由加里だった。由加里も典子と同じくメンバー募集の貼り紙を見て応募してきたというのだが、オーディションの結果、ふたりとも採用されることに。プロを目指しているという由加里の技術には到底及ばない典子だったが、そのプレイスタイルの違いや将来性を買われてのことだった。しかし典子をライバル視する由加里には見下され、メンバーに勧められてジャズの理論を学んだものの、今度は「面白味がなくなった」と酷評され……。

アルトサックス奏者の女子高生・典子が、両親の過去にまつわる因縁に巻き込まれながらも、ジャズに魅入られ成長していく青春音楽小説、完結編。

いよいよ本格的にジャズへの道に進むことになる典子。試行錯誤しては何度も壁にぶつかり、悩みながらも「ジャズ」について自分なりの答えを見出そうとする展開はまさに青春小説そのもの。まさにタイトル通り、典子は「風」から「嵐」へと変貌を遂げてゆくのだ。

しかしそんな彼女に忍び寄る影――典子のサックスの元の持ち主であるプレイヤー「トモキ」の存在。父親の死の真相と、母親の常軌を逸した過保護ぶりの理由。そしてチコの正体。ジャズの世界へ向かってゆく中で、いくつもの真相が明らかになってゆくのだが、それすらも典子の糧になってゆく。ちょっとうまくいきすぎなきらいもあるが、それでも一途に音楽の道を突き進んでゆく典子の姿が清々しかった。


◇前巻→「ウィンディ・ガール サキソフォンに棲む狐1」



新宿で父親が事故死して以来、以前にも増して過保護になった母親の反対を押し切り、高校の吹奏楽部でアルトサックス奏者となった永見典子。理不尽なほどに厳しい顧問・ボンパのしごきに耐えつつも、次のコンクールに向けた部内オーディションに向けて練習に励んでいた典子だったが、そのさなか、クラリネット担当の祥子が大怪我を負ってしまう。実は先日の帰宅途中、祥子が「烏塚」と呼ばれる石碑を壊していたことから、怪我はカラスの呪いだという噂が流れる部内。典子が所有する質流れ品のサックスに棲む「管狐」のチコは、状況証拠から真犯人を導き出して典子に伝え……。

吹奏楽部でアルトサックスを担当する女子高生が、自らの楽器に棲む「管狐」なる存在と共に、周囲で起きた奇妙な事件を解決しつつ、やがて音楽の道にのめりこんでゆくライトミステリ的青春音楽小説、第1弾。

部内やその周辺で起きた奇妙な「日常の謎」をサックスに潜む「管狐」ことチコがあっさり解き明かしてゆくライトミステリパート、そしてサックスという楽器とその可能性に目覚め、やがてジャズに興味を持ち始める主人公の姿を描く青春音楽小説パートが並行して進んでゆくのが本作。そこに事故死した父と過保護すぎる母による永見家の過去も絡んできて、とにかく息をつかせぬというような展開が次々と畳みかけてくる。

偶然聞いた有名プレイヤーの演奏によってジャズに目覚めた典子が、少しでもその世界に近づこうと初めてのバイトを始め、ジャズの曲を聴きこんだりプロに師事したりなど、いろいろと試行錯誤してゆくという展開がやはり中心となるのだが、新しい世界への好奇心に加え、過保護すぎる母親への反発心をもバネにしてがむしゃらに突き進んでゆく典子の姿には「若いなあ〜」と何度もしみじみとさせられる。若さゆえの無謀さと言ってしまえばそれだけかもしれないが、しかし本当に好きなものに向かって邁進してゆく典子はとても眩しく、そして少しうらやましくも感じられる。ここまで好きになれるものがあるなんて、と。

一方で、物語は永見家の家庭の事情へとシフトしていきそうな流れも見える。典子が幼い頃、なぜ夜逃げをするように今の町に引っ越してきたのか。それから後に、なぜ父親は遠く離れた新宿で泥酔した状態で死んでいたのか。カスタムメイド品だという典子のサックスと、そこに棲むチコ(推理力もすごいが、それ以上にやたらジャズに詳しいところも怪しい)の正体も含め、謎は深まるばかり。


このページのトップヘ