小学校の帰り道、いつも坂の下の小さな喫茶店で、仕事帰りの母親を待っていた「わたし」。店の隅に置かれた大きなコーヒー豆の樽を気に入り、中に入り込んでいた「わたし」を見て、常連客である老小説家は彼女に「タタン」というあだ名をつける。タタンと呼ばれるようになった彼女は、喫茶店にやってくる様々な常連客達と言葉を交わし、成長するにしたがって今度は店の手伝いまでするようになって……。
小説家である主人公が、かつて「タタン」と呼ばれていた頃のことを回想していく、どこか不思議な物語。
樽が好きだから「タタン」――タイトルを見てもわかるように、「タルト・タタン」をもじって「タタン」というあだ名をつけられた主人公。しかし彼女にその名前を付けた老小説家は、タタンには双子の姉か妹がいるという設定も付け加える。自分には双子の姉がいるという想像をするのが好きだったタタンは、その設定を進んで受け入れることに。当初はただそれだけだと思っていたのだが、物語が終盤に差し掛かると、その設定が突然息を吹き返すのだ。
死後の世界を信じていない祖母。女グセの悪い歌舞伎役者「トミー」と、そのタニマチである「神主」。体調不良でふらついていたタタンを助けてくれたものの、それ以降は奇妙な言い訳を繰り返す「学生さん」。サケウシという聞いたこともないような生物を研究しているという「バヤイ」(「場合」という単語を「バヤイ」と発音するため)。しもやけの克服方法を教えてくれたノースダコタ出身のサンタ・クロース。タタンの周りにいる大人たちはどこかヘンで、しかしタタンはそれをヘンとも思わず、当たり前のように接し、やがて彼らを見送っていく。そうして最後に現れたのが「トモコ」だった。タタンに瓜二つな、けれどいつからそこにいたのかこにいたのかわからない、タタンの本名と同じ名前を持つ少女。
彼女がタタンの「双子の片割れ」だったのかどうか、それは今となってはわからない。けれど老小説家は言う。小説家に『それはほんとう?それとも嘘?』と聞いてはならないのだ、と。今や小説家になってしまった彼女の回想は――タタンと呼ばれていた頃の思い出は、ほんとうのこと?それとも嘘?と聞いてみたい気もするが、もうそれはできないのだろう。















