phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: *は行の作家

百万光年のちょっと先 (JUMP j BOOKS)
古橋 秀之
集英社
2018-02-02

家事全般を担う旧式の自動家政婦が寝物語に語るのは、「すこしふしぎ」ないくつものお話だった――例えば宇宙船の前に現れた死神の話。培養された受精卵を人工子宮ごと格納した「まだ生まれていない兵士」たちの戦争の話。目に付く星を喰らっては知識として自己の中に収めていく究極の百科事典と、ポケットの中に納まるポータブル百科事典との対決の話。見た目も性格もすべてが好ましい青年が、恋人と結婚するにあたり「身の丈ひとつ」になろうと借りていたものを皆に返していくお話……これらはすべて、百万光年のちょっと先、今よりほんの3秒むかしの物語。

2005〜2011年にかけて「SF Japan」に掲載されていたSFショートショートの書籍化。書き下ろしを含む全48話が収録されている。

「百万光年のちょっと先、今よりほんの3秒むかし」という出だしで始まる、すこしふしぎな物語の数々。SF的な設定に満ちているものもあれば、ラブロマンスあり、おとぎ話ありといった、バラエティに富んだ内容となっている。個人的に気に入ったのは、胎児を兵隊とする戦争で起きた奇蹟(?)を描く「卵を割らなきゃオムレツは」、タイトル通りその身ひとつで恋人のもとへ向かう「身の丈ひとつで」、10億個の恒星を管理する男性のもとにやってきた少女の正体が驚きの「十億と七つの星」、自分以外の人間の存在が許せない高慢なお姫様の顛末を描く「首切り姫」、パンがバターを塗った面を下にして落ちることからまさかのアイディアが生まれる「パンを踏んで空を飛んだ娘」の5編。どれもこれもユーモアと奇想に満ちていて、最後まで楽しく読めた。

シンメトリー (光文社文庫)
誉田 哲也
光文社
2011-02-09

多数の死傷者を出した列車事故の原因は、踏切内に飲酒運転の車が侵入したことだった。危険運転致傷罪が施行される前の事件だったため、車の運転手であった男・米田の刑期はたったの5年。「被害者と遺族の会」は出所後の米田を会合に呼ぶが、再三の要求に対しようやく現れた米田は反省の色を見せず、開き直ってすらいるのだった。当時JRの職員だった徳山は、顔見知りの女子高生を助けようとして脱線した車両に近付き、横転に巻き込まれて右腕を失ってしまう。事故によるPTSDに苦しみながらも、彼女を死に至らしめた犯人を許せない徳山は復讐を誓うが……。(「シンメトリー」)

捜査一課の女刑事・姫山玲子が主人公の警察小説シリーズ、第3弾は短編集。現在の話もあれば過去の話もあるが、いずれも玲子が持ち前の勘で事件の闇を暴いてゆく。

表題作となった「シンメトリー」はなんとも後味の悪い結末となってしまうが、そもそも人が他者を殺めるという事件の後味がいいはずがないのは致し方ないこと。しかし一方で、玲子がその罪を暴いたことで、自身のしたことにきちんと向き合えるようになった者もいる。また一方で、罪を犯そうと考えている存在を察知し、なんとか止めようとするエピソードも。どのエピソードでも、玲子の勘の良さと上昇志向の強さは相変わらずで、どんなに暗い話であっても、そんな彼女の強さに救われるような気がする。


◇前巻→「ソウルケイジ」

ソウルケイジ (光文社文庫)
誉田 哲也
光文社
2009-10-08

多摩川土手に放置されていた車両から男性の左手首のみが発見された。車両の持ち主である高岡賢一は行方不明で、彼の営む工務店のガレージは血の海といった有様で、発見された手首とガレージに残った血の血液型が一致したことから、手首の持ち主は高岡であると推定されている。玲子はなぜか蒲田署に異動になっていた井岡とペアになり初動捜査に携わることに。しかし現場近くに住み着いているホームレスに話を聞くも、何も見聞きしていないとして追い返されてしまう。その後、高岡本人の関係者に聞き取りを行うことになるが、苦手意識を持つ同僚・日下に出し抜かれ、玲子は工務店に勤める唯一の従業員・三島ではなく、その彼女とされるファミレス店員・中川の担当に回されてしまい……。

事件に関する嗅覚と直感力が人一倍な女刑事・姫川玲子の活躍を描く警察小説シリーズ第2弾。今回は、前巻で玲子が毛嫌いしていると評されていた同僚刑事・日下が登場。

玲子が日下のことを嫌う理由はふたつ――ひとつは玲子と異なり、微に入り細を穿つような方法で捜査を進めるというそのスタンス、そしてもうひとつは、玲子が学生時代に巻き込まれた「事件」の犯人に似ているから。後者は完全なるとばっちりでしかないが、玲子本人にとってはある意味どうしようもない話。しかし今回の事件で日下と競い合うように捜査に当たる中で、少しはその考え方が変わったのであればいいなとも思う。

そんな今回の事件は、左手首以外の部分が行方不明の死体遺棄事件。しかし聞き取りをしても、被害者である高岡がバラバラにされるほどの殺意を向けられるような人物には見えない。それではなぜ――という展開なのだが、この事件の真相も前巻同様、なんともやりきれないもの。弱者が搾取されるばかりの事件はあまりにも陰惨で、だから今回の犯人にも同情しかしようがなく、それでもこの人物が裁かれてしまうというのは憤りが残る。まあそれを言ってしまうと法が成り立たなくなるのでどうしようもないというのもまた事実なのだが、そんな事実を玲子が明らかにしてくれるのであれば彼らも多少は救われるのではないだろうか。


◇前巻→「ストロベリーナイト」

ストライクフォール3 (ガガガ文庫) (ガガガ文庫 は)
長谷 敏司
小学館
2017-11-17

シーズンオフを迎え、雄星はシルバーハンズの一軍強化キャンプに参加することに。憧れのスター選手たちと肩を並べられることに意欲を燃やす雄星だったが、あまりにも大きな実力の差を目の当たりにする日々。そんな中、チーム内で行われた紅白戦において、アデーレが第1リーダーであるケイトリンを撃破。その後も慣性制御を用いた戦法で何度もケイトリンを負かしていくアデーレに対し、これまでケイトリンを中心として重視してきたフォーメーション戦法を見直すことも検討し始める監督たち。しかしケイトリンはあくまでもフォーメーション戦法を追究しようとしていて……。

雄星が所属するシルバーハンズ1軍、そしてストライクフォール新時代の幕開けを告げるシリーズ3巻。

前半ではシルバーハンズの強化キャンプ、後半では新シーズン開幕戦の様子が描かれる今巻。そのいずれでもやはり重要な意味を持つのはもちろん「慣性制御」。前半ではこれを使って有利な戦闘を繰り広げるアデーレと、これまで通りにフォーメーションを重視した戦闘で対抗するケイトリンのふたりのリーダーの攻防が中心となっている。あくまでもその直感的な戦闘センスでもって敵の急所を突くことにこだわる蛮族系(ってひどい言われよう・笑)ヒロイン・アデーレに対し、ケイトリンはこれまで長きにわたりリーダーを務めてきた経験と自負、そして理論によって、慣性制御という新しい技術に振り回されることない立ち位置をキープし続ける。それは彼女のチル・ウエポン耐性が要求されるレベルぎりぎりであることもあるし、なによりこれまで培ってきた矜持によるところもあるのだろう。この前半だけ見ていれば、ふたりの攻防が「努力は実を結ぶ」という言葉がぴったりな結末を生むという展開には納得させられる。

しかしそれをすべてひっくり返すのが後半戦。前シーズンの覇者であるホライズンズとの開幕戦は、ケイトリンのみならず誰もが想像しえなかった展開に。まさに雄星が「コントラクター」によってこじ開けたものはパンドラの箱とも言うべきか――慣性制御を用いた新戦法も、そしてそもそも「ストライクフォール」と言う競技そのものを取り巻く環境の激変も。誰もが手探りで、しかし確実にその新しい技術を利用して「勝ち」をもぎ取ろうとしていく中、雄星は何度もうちのめされ、あるいは押しつぶされそうになりながら、そのたびに立ち上がっていく。その前向きさがなんとも頼もしい。新しい世界の始まり――そのスタートラインに誰よりも優位な立ち位置で臨んでいるはずの雄星は、この先どこへ向かっていくことができるのだろうか。


◇前巻→「ストライクフォール2」

ストロベリーナイト (光文社文庫)
誉田 哲也
光文社
2008-09-09

警視庁捜査一課の警部補・姫川玲子がこのたび担当することになったのは、溜め池近くの植え込みにブルーシートにくるまれ放置されていた男性の遺体だった。全身に大小さまざまな切創があるが、ひときわ目を引くのはみぞおちから股関節にかけて大きく切り裂かれた痕。被害男性は普通のサラリーマンで、こんな無惨な殺され方をするくらいに恨まれるような理由も見当たらない。そんな中で玲子が気になっていたのは、植え込みに遺体が放置されていた理由と、大きな裂傷をつけた理由。やがて玲子は、この遺体を本来は別の人物が溜め池に捨てる予定だったのではないかと推理し、溜め池内の捜査を進言。すると似たような遺体がもう1体見つかり……。

ドラマ化もされた人気警察小説「姫川玲子シリーズ」、第1弾。

本作でなんといっても特異なのが、主人公・玲子の事件に対する「カン」としか言いようのない直感的な捜査。もちろん聞き込みなどの地道な捜査も行うが、いくつかの状況証拠を繋ぎ合わせて一足飛びに事件の真相に迫ろうとし、そして見事それを的中させてしまうのだ。今回もその直感で、この事件が連続殺人であることを当ててしまうのだからすごい。

しかしそんな彼女のやり方を苦々しく思い、目の敵にしているのが、「ザ・悪徳刑事」といった感じの男性刑事・勝俣。玲子が学生時代にある事件の被害者となっていたことを知っている人物で、そのあたりを巧妙につついて玲子を牽制しつつ、地道なアプローチで真相へと近づいていく。物語はそんなふたりの視点を交互に切り替えつつ事件の真相を暴いていくことになるのだが、タイトルにもなっている「ストロベリーナイト」が意味するものはなんともえげつない。そしてそんな事件を起こした犯人に玲子が肉薄できたのはなぜなのか――目の敵にしていた勝俣がその理由を看破してみせるラストには、なんだかうすら寒いものを感じるのと同時に、ふたりの奇妙な関係が浮き彫りになっている象徴的なシーンのようにも感じられた。玲子と部下・菊田とのロマンスも気になるが、個人的には勝俣との関係がどうなるかも気になるところ。


ゴーストをめぐる事件に巻き込まれたせいで、情報局の上層部はカイの存在に注目し始めていた。カイはエドによって四元素の属性を調べられたあげく、金銭面の援助も含めた破格の条件でロンドンへの移住を打診される。しかしその間にランスが黙ってウィッツバリーへ戻ったことを知らされたため、エドへの返事は保留としたまま、ランスを追ってウィッツバリーへ戻るのだった。鞠子の家を引き払っていたランスだったが、ノアからのヒントのおかげで居場所を突き止めるカイ。言い争いを繰り返しながらも、カイはランスをなんとか自宅に連れ戻すが、今度はそこにタガート兄弟が現れて……。

シリーズ5巻はカイの決断編。自身の今後のこと、鞠子のこと、そしてランスのことについての。

事件の後遺症――悪夢に悩まされ苦しみながらも、やはりカイが気になるのはランスのこと。これまでの間でそれなりの関係は築けていたはずなのに、結局ランスは黙ってカイの手を離そうとする。本人はカイのためと思っているのだろうが、普段の態度や行動からそれを察するのは難しいし、なにより本人が察してほしいとも思っていなさそうなのだから質が悪い。だからこそカイは苛立つし、そしてそんなカイにランスもまた苛立ってしまうのだろう(そうは見えないが、あれは苛立ってるに違いない、と思う)。

結局のところ、どんなに突き放そうとしてもカイはランスを諦めないし、ランスもまた、突き放しているように見えてカイを心配しているのだから、ふたりの関係については「いいコンビだなあもう」としか言いようがない。あとはランスがもう少し、自分のことを顧みて、自分のしたいことができるようになってくれればいいのだけど――きっとカイもそう望んでいるのだろうから。


◇前巻→「英国幻視の少年たち4 ウィール・オブ・フォーチュン」


2浪中の予備校生・長島の前に現れたのは、高校時代に少し気になっていたクラスメイト・広崎ひかり――ではなく、彼女にそっくりな自称「新型爆弾」のピカリだった。ピカリの胸元には懐中時計のようなものが埋め込まれており、ピカリが青春的なときめきを感じるたびに時間が進み、12時を指すと爆発を起こすのだという。そして爆発を起こすために協力してほしいと、ピカリは長島をデートに連れ出すのだが……。(「ある日、爆弾がおちてきて」)

2005年に電撃文庫から刊行されたボーイ・ミーツ・ガールSF短編集の新装版。書き下ろし「サイクロトロン回廊」が新たに収録されている。

ドラマ化もされた表題作をはじめ、書き下ろし以外の7作は、普通の少年がすこしフシギな少女たちと出会う時間SFものとなっている(書き下ろしのみ主人公が少年ではなくおっさんだったりする)。個人的に気に入っているのは、記憶が退行する奇病に罹った幼馴染の少女を描くコメディチックな「おおきくなあれ」、毎日3時間目にのみ教室の窓ガラスに映る少女との交流を描く「三時間目のまどか」、そして過去の戦争で使用された時空潮汐爆弾により、60億分の1の速さで流れる時間の中に取り残された少女のエピソード「むかし、爆弾がおちてきて」の3作。これ以外もそうだが、コメディだったりホラーテイストだったり純愛ものだったり、時間SFという縛りはあるものの、いろいろと作風が幅広いのも楽しい。また、改めて読んでみても、10年以上前の作品とは思えない内容には、単純にすごいと思った。

ちなみに書き下ろしの「サイクロトロン回廊」は、亡き伯父が住んでいたボロ家を管理することになったフリーライターが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を見ている最中に、時空を超えて現れた親戚のタミコ姉ちゃん(失踪中の伯父さんの娘!)に遭遇するというまさかの展開。失踪の原因がこの時空転移なのかも、という展開には、(実際笑い事ではないが)つい笑ってしまった。

ストライクフォール 2 (ガガガ文庫)
長谷 敏司
小学館
2017-03-17

事故死した弟・英俊になりすましてストライクフォールの試合に出た雄星は、試合終了後に拘束。弟の葬儀にも出られぬまま下された処分は、シルバーハンズ2軍への受け入れだった。しかしこの事件でシルバーハンズには大きなペナルティが課されたこと、そしてなにより雄星が起こした前代未聞のルール違反および「慣性制御飛行」を成し遂げたこともあり、チームメイトたちからは冷ややかな視線が注がれるのみだった。それでも上を目指し続ける雄星に、監督のブラバッキーは慣性制御を使用したテストと訓練を課してきて……。

スポーツか戦争かという命題を突き付けられるアクションSFシリーズ2巻。作者曰く、実は前巻と今巻を合わせてようやく物語がスタートというか、ここまでがオープニングになっているとのこと。確かに。

雄星のやったことは賞賛されるべきところもあれば罰せられるべきこともある。現時点では後者ばかりがあげつらわれるが、実は前者も相当なものであるということが、今巻を通して本人にも、そして読んでいるこちらにもじわじわと理解させられるという展開に。まあ一方的に賞賛されるべきということでもないのかもしれないが――しかし雄星の実現した慣性制御は、確実にストライクフォールという競技のルールを大きく変えてしまうこと。そしてこの競技に限らず、他のことにも応用できうる大変な発見なのだという。

そんな大人たちの思惑も重要だが、しかしこの物語の主人公は雄星だからして、一番の目標はやはりストライクフォールの選手となり、シルバーハンズの1軍で戦うこと。そしてその向こう側にある夢を――かつては英俊の夢でもあったそれをつかむこと。周囲の冷遇にもメゲず、数少ない理解者たち(ただし女子率高し・笑)に支えられながら慣性制御を試合に応用できるよう訓練を続ける雄星だが、そんな彼にまたしても大きな問題が突き付けられる。すなわちストライクフォールはスポーツなのか、戦争なのかということ。戦争の代替として始まったという側面の強いストライクフォールだが、しかし「スポーツ」というレッテルを貼ることで、戦争となにがどう違うのか。そんな問いを真正面から受け入れ、答えを返す雄星。その在り方はストライクフォールがスポーツであるということのなによりの証左なのかもしれない、とはっきり感じさせられるほどに説得力のあるものだった。雄星には大人の思惑に取り込まれることなく、ひたすら前へ進んでいってほしいと思う。


◇前巻→「ストライクフォール」


「第二の目」を持つことで悩み続けていた皆川鞠子は、かつて英国特別幻想取締報告局に所属していたという老女ジェーンの勧めで渡英する。目的はもちろん報告局に入ること。語学留学という名目でオックスフォードにやってきた鞠子は、妖精と出会い言葉を交わすことができたら、ジェーンの知己であるというハイドなる人物に連絡をとろうと考えていたが、なぜか彼女の前に妖精たちが姿を見せることはなかった。そんな中、森の奥でリュートを弾く青年を見かける鞠子。彼の周りにはたくさんの妖精たちが集まっていたが――そして鞠子の気配を察知するとみな逃げてしまったが――、もちろん彼にはそれが見えていないようだった。戸惑いながらも、鞠子はその青年――グレン・バーンズに話しかけるのだった……。

妖精と人間との関わりを描く現代ファンタジーシリーズ、4巻は過去編。主人公・カイの周辺の人々の過去と、妖精との関係について描かれていく。

渡英した鞠子とグレン・バーンズとの出会いと別れ、エルフの森を追放されたノアとハイド氏との出会い、妖精の国へと連れ去られたグレンのこれまで、そして幼いランスとハイド氏の出会い――描かれるのは、現在に繋がる彼らの「出会い」。彼らが誰かと出会うことで運命の輪は回り始め、そして現在へと至る。サブタイトルの意味がひしひしと伝わってくるような短編集だった。

そうしていくつもの過去を経て、物語は現在に戻る。美柴が消えたことを「ずっと前から決まっていた」と告げる鞠子の言葉は、今巻を経てようやくその意味を明らかにする。そしてそれは同時に、鞠子が背負わされた「贈り物」の重さをも思い知らされることとなるのだ。とはいえ、第三者がその絶望を知ることはとても難しい。現にカイもそうだった。しかしその理解を手助けしたのはランス。ますますいいコンビだなあ、というラストに少しだけほっとさせられた。


◇前巻→「英国幻視の少年たち3 グリム・リーパー」


近頃、成島美代子は中学時代を思い出すことが増えていた。吹奏楽部の強引な勧誘に遭ったこと、しかし顧問との出会いがきっかけでそのまま入部し、オーボエ奏者になったこと――かつての強豪校だった母校の吹奏楽部はしかし、顧問の転勤をきっかけに成績が下がったという。また当時、合同練習をしていた他校の吹奏楽部が、指導者不在のために廃部になったとも。友人からそんなことを聞かされた美代子は、部員の頑張り以上に、顧問の力量が大きく作用していることの意味について考えるのだった――草壁という優秀すぎる顧問の存在を得ている今だからこそ、なおさら。そこで美代子は、過去の活動日誌になにかヒントがないかと考える。部員が減少の一途をたどり、一時は活動休止に追い込まれたというこの10年の記録――その中で美代子は、部員がたったひとりだったという時期の日誌を見つけ……。(「ひとり吹奏楽部」)

まもなく実写映画化を控えている「ハルチカ」シリーズ、初となる番外編。チカとハルタ以外の吹奏楽部メンバーたちにスポットを当て、彼らの日常、あるいは吹奏楽部との関係を描いてゆく短編集となっている。

カイユが後輩の後藤と共に犬好きのおばさんにまつわる謎を解く「ポチ犯科帳」、芹澤さんと前部長との不毛すぎる応酬がクセになる(笑)「風変わりな再会の集い」、マレンが妙なバイトに誘われる「巡るピクトグラム」、そして表題作である「ひとり吹奏楽部」の4編に加え、本編1巻のこぼれ話的エピソード「掌編 穂村千夏は戯曲の没ネタを回収する」を収録。本編同様に謎解きが含まれていたりもするが、どれもハルチカコンビが関わった事件とはまた違う雰囲気。それぞれのキャラクターが色濃く反映された内容でどれも面白かった。そしてほとんど登場しないが、チカとハルタの相変わらずな感じが伝聞的に見えてくるというのも。

特に印象に残ったのは、表題作の「ひとり吹奏楽部」。部活動を支えているのは顧問なのか、それとも部員なのか。部員がいくら頑張っても、指導者がいなければいい演奏はできないのか――そんな成島さんの問いに対し、過去の日誌がひとつの答えをもたらすという展開に。日誌が指し示すものは、確実に今の部にそろっていることに気付かされる成島さん。草壁先生がこの高校で吹奏楽部の指導をしているというのは奇跡に近いことだ、とは本編で何度もささやかれていたこと。けれど今のこの部なら、いつか草壁先生がいなくなっても大丈夫――そんな希望がほのかに光るエピソードだった。


◇前巻→「惑星カロン」


篠笛教室「吹寄せの会」へと向かう女子高生・八重は、着流し姿の美青年と出会う。彼の連れの下駄の鼻緒が切れたことに気付いた八重は、持っていた手ぬぐいを貸してやることに。すると後日、篠笛教室にその青年が現れる。宝紀琥珀と名乗るその青年は、八重の持ち物や服装から推測してこの教室を突き止めたのだという。当初は八重にお礼を渡すためにやってきたという琥珀だったが、なりゆきでそのまま入会することに。そんなある日、八重は同じ篠笛教室の生徒である相良から相談を受ける。彼の娘が七五三を迎えるため、着物を着せたいと考えているのだが、当の娘が「着物を着ると泥棒になる」と言い張り、嫌がるのだという。なぜそんな発想に至ったのかと相良も八重も首をかしげるばかり。そこで八重は、着物に詳しそうな琥珀に相談するが……。

第6回アガサ・クリスティー賞・優秀賞受賞作。着物嫌いの女子高生・八重が、ひょんなことから知り合った仕立屋・琥珀と共に、着物にまつわる謎を次々と説いてゆくミステリ連作。

篠笛教室に通っていたり、琥珀と出会ったことで着物について勉強するようになったりと、意外なところで和風趣味なヒロイン・八重だが、着物を着ることだけはなぜかかたくなに拒み続けていた。一方、偶然出会っただけのはずだった琥珀は、八重にどんどん近付き、その距離を縮めてゆく。いくつかの着物絡みの事件を経るうちに近くなるふたりの関係は、ベタといえばベタだがそこがいい。しかしわからないのは、なぜ琥珀が八重にあっという間に惹かれていったのかということ。そして、なぜ八重がこれほどまでに着物嫌いなのかということ。

物語はやがて、八重の過去に隠されたある事件を暴き出す。ここから物語は一変。スピーディーな展開の中でいくつもの謎が解けてゆくのがなんとも清々しい。大人たちの思惑に振り回される八重がかわいそうではあるが、そんな彼女の名前に秘められた父親の想いにはぐっとくるものがあった。そして、それらを乗り越えた先に待っていた、琥珀との関係の行きつく先も。中盤で自分が人魚姫になってしまった、とごちる琥珀の言葉が言いえて妙で、なんとなく最後まで印象に残っていたので、こんなにもハッピーエンドで本当に良かったと思った。


アリステルに青空を取り戻した功績を称えられ、〈青空のヘクセ〉として一躍有名になってしまったカリムと揺月。揺月は持病のためカンデラの森にこもりっぱなしのため、人々の注目はカリムに集中。一方で青空が戻ったことによる弊害――精霊が容易に地上に降りるようになったことで拠り所を見失い、主に子供たちにとりついて眠らせる〈宿無し〉の発生が頻発。取材攻勢にうんざりしつつも、カリムはその対策にも乗り出さざるを得なくなる。そんなカリムを見つめるのはヘクセ仲間のレイシャ。カリムと揺月の距離が縮まっていることに焦るレイシャは、カリムへの募る想いをどうすればいいのか悩み続け……。

(予想はしていたけど)三角関係ついに発生!のシリーズ2巻。

先の事件でわだかまりもずいぶん解消され、距離が縮まってゆくカリムと揺月……を見守るのは、カリムに絶賛片思い中のレイシャ。まもなく開催されるイベント「ブルースカイ・フェスティバル」にカリムと一緒に行きたいと願うも、なかなかそれを口に出せない乙女心がなんともかわいいやらいじらしいやら。揺月とレイシャがふたりきりになる場面では「修羅場……!?」とか思ってたら、自覚的な意味で揺月はまだまだレイシャの敵ではないものの、カリムと揺月の関係が特別なものであることにに何ら変わりはなく……ということで、誰が優勢なのかよくわからないまま三角関係はゆるやかに形成されていく。そんな中で揺れ動くレイシャの心を無自覚に傷つけてしまうカリム。カリムが悪いわけではないが、見ているとやりきれなくなってくる。

今回の軸のひとつは、青空が戻ってきたことによる新たな災害、〈宿無し〉騒動。しかしそれすら、3人の関係をより深めてゆくものになるのだからたまらない。(仮)宣戦布告を行ったレイシャと揺月に対し、カリムがどう出るつもりなのか気になるところ。


◇前巻→「いつかの空、君との魔法」


ハイド氏の招きでロンドンの報告局本部へと向かうことになったカイとランス。表向きは先日の妖精の国行きについての謝罪ということになっていたが、そこで見せられたのはひとりの男の写真。その男はグレン・バーンズ――ふたりが妖精の国で出会った、鞠子の知人男性だった。ハイドの意向でしばらく本部に滞在することになったふたりは、行方不明になった美柴の幽霊の行方を探るべく、ランスの知り合いのゴースト・リヴァーから話を聞こうと試みる。リヴァーの手引きでゴーストたちのパーティーに招かれたふたりは、ゴーストを殺す存在がロンドン市内に出没しているという噂を聞き……。

シリーズ3巻はロンドン編。前巻はランスがメインだったが、今回はカイがメイン。かつて彼の目の前で自殺した少女・美柴との再会が描かれてゆく。

1巻で幽霊としてカイの前に現れ、精霊の策略で囚われてしまった美柴。しかしランスが言うには、鞠子によって助け出されたはずだという。それは正解であったわけだが、それでは彼女はなぜ幽霊になり、カイを追ってイギリスにやってきたのか――そもそもなぜ、彼女はカイの目の前で死ぬという行動に出たのか。

時同じくしてロンドンに姿を現した鞠子が語るのは、幽霊が消えるための条件。もちろん心残りを解消することが一番ではあるが、その心残りを別のものにすり替えることができるのだと鞠子は言う。そして鞠子はそれを美柴に対してやった、とも。カイの憤慨ももっともではあるが、友人というには近く、しかし恋人という関係にまで踏み込むことができなかったふたりだけに、伝えたいことを伝えることができた今回の顛末はまだしも救いがあったのではないかとも思う。

といった感じでひとつの問題が片付いた――わけではないがそれでもひとつの終わりを見た今巻の展開だったが、相変わらず鞠子の動向の根底にあるものはわからないまま。次巻は過去編とのことだが、いったい誰の何が語られるのだろうか。


◇前巻→ 「英国幻視の少年たち2 ミッドサマー・イヴ」


クリスマスを目前に控えてにぎわう駅前――から一本入った、古びた飲み屋横丁にあるのは、名もなき万華鏡専門店。ここに置かれている万華鏡を作っているのが、佐香鏡一郎という青年だった。パトロンでもある青年実業家・森住理人と共に不定期で開けているこの店には、時折奇妙な客が舞い込むことがある。例えばこの日やってきたのは、20代半ばと思しき、思いつめた表情の女性客。彼女が手にした万華鏡について説明しようとした佐香だったが、なぜか映し出されていたのは佐香が作ったのとは似ても似つかない歪な映像だった。不審に思ったが女性客に目をやると、そこには「物妬み」と呼ばれる人ならざるモノが取り憑いていた。そしてその視界が佐香にも伝染していたのだ。佐香は彼女から「物妬み」を祓うため、新しい万華鏡作りに取りかかり……。

あやかしを万華鏡に封じることのできる万華鏡師・佐香が、店を訪れる奇妙な客たちのために万華鏡を作ってゆく現代あやかしファンタジー。

貴族めいた美貌と類稀ない万華鏡作りの才能を持ち、時にはその「美」そのものに魅入られてしまうほどに万華鏡作りにのめり込んでいる佐香だが、その実態は生活能力ゼロで金銭面も無頓着、なおかつ対人能力もかなり低く、つまるところひとりでは生きていけない系な男子。そしてそんな佐香を金銭面でも生活面でもサポートしてくれるのが、若くして数々の成功を収めている青年実業家の森住。とにかくお金が大好きで、佐香の作品に正当な評価を付けることでその価値を守り、なおかつ料理の腕前でもって佐香を餌付けしつつ彼の生活および制作活動を全力でサポートしているというのだから、その愛情の深さは推して知るべしという感じ。親友と呼べるほどの気安さはないものの、単なるビジネスパートナーというほどドライでもなく、まだどこか探り探りな気配も漂うふたりの関係がどうしても気になってしまう。

いつかの空、君との魔法 (角川スニーカー文庫)
藤宮カズキ
KADOKAWA/角川書店
2016-08-31

ダスト層雲によって常に空が覆われている都市アリステル。その雲を箒でもって払い、精霊を呼び寄せる儀式「グラオベーゼン」ができるのは、《ヘクセ》と呼ばれる魔法使いの少年少女たちだけだった。そのうちのひとりであるカリムは並外れた飛翔能力を持ってはいるが、高く飛びたくさんの精霊を呼ぶことができないため「三流」とも呼ばれている少年。そんなカリムの前に、当代随一の《ヘクセ》にして幼なじみの少女・揺月が現れる。ある病のおかげで以前とは外見がまったく異なってしまった揺月は、久しぶりの再会に喜ぶでもなく、カリムの飛翔をひたすらけなしてばかり。しかしカリムには彼女に対する負い目があるため、反論することすらできないでいた。それでもカリムは揺月を心配し、グラオベーゼンを行おうとするのをやめさせようとするのだが、揺月はより頑なな態度になるばかりで……。

第21回《春》スニーカー大賞・優秀賞受賞作は、文字通り「魔法使い」である少年と少女が、長年のすれ違いに悩み続ける青春SF長編。

覆い隠されているのはまだ見ぬ青い空、そして揺月の本当の心。幼なじみだったふたりは、ある事故がきっかけで疎遠になってしまう。カリムは揺月がその事故のせいで病を得たことを後悔し続け、そして揺月はその病ゆえに周囲から遠ざからざるを得なくなってしまったことで、殻に閉じこもってしまう。しかもその孤独は、カリムの後悔そのものによって助長されていく。カリムが揺月に対して後悔すればするほど、ふたりの溝は深まるばかりなのだ。しかし過去にとらわれ過ぎて現在が見えなくなっていたのはカリムだけではないことが、物語が進むにつれて見えてくる。そんなふたりの閉ざされた関係が、ダスト層雲と一緒に晴れてゆくさまは本当に清々しいと思った。

そんなふたりの関係の変化を映し出していくのが、彼らが行うグラオベーゼンの描写。この世界では子供だけが魔法を使えて、大人になると魔術しか使えなくなるのだという。つまり魔法は子供だけの特権なのだ。その特権を、カリムと揺月は箒に乗って空を翔けることで最大限に行使する。その描写がなんとも美しく、そしてなによりも彼らの心そのものを雄弁に表現していくのだ。だからこそエピローグで、大人である宮古がふたりにかける台詞かなんとも切ない余韻を残す。彼らが最後まで笑顔で空を飛べるように、と願わずにはいられないラストだった。

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