高校3年生の男子・兼古緑は、秀才だけど友人はいない。家に帰れば不仲な両親に挟まれて、受験生だというのに心労が絶えない日々。そんなある秋の日、緑は担任から、病欠しているクラスメイト・荻原楯に届け物をするよう頼まれてしまう。いつもみんなの人気者である楯のことが苦手で、できれば関わりたくなかった緑だったが、楯のプライベートに触れたその日を境に、だんだん彼のことが気になってしまい……。
2055年という少し未来の東京を舞台に、孤独を抱える主人公・緑が、クラスメイトである楯に惹かれていく姿を描く、恋と青春の物語。
楯のことを苦手に思っていた緑なので、担任から楯の家に行くよう頼まれてからの彼の口ぶりは「いまいましい」といった具合だったのだが、楯と顔を合わせ、眠る彼の顔に触れてしまってからというもの、その態度は変化していく――少しずつ、でも急激に、楯のことが気になって仕方なくなるのだ。それはもう「恋する乙女」そのものの姿で、のちに楯本人からも、かつて自分を嫌っていたのは独占欲の裏返しでは?と指摘されてしまうほど。そう、実のところ最初から、緑は楯に惹かれ続けていたのだ。
両親が衝突しているのは昔からなので、緑には自分が「愛されている」という自覚がほとんどない。だからこそ、誰からも――友人からも、もちろん家族からも――愛されている楯がうらやましくて仕方なかったのかもしれない。彼といれば、自分も「愛する」あるいは「愛される」ということがどんなものなのか、わかるかもしれないから。そしてそんな楯への想いは、両親の関係が修復不可能になっていくにつれ、どんどんエスカレートしていく。やがてみどりは楯に告白し、楯もそれを受け入れるのだが、楯はじつに上手に緑を「愛して」くれる。だからこそ、緑も楯に依存することなく、彼を「愛する」ことができているのかもしれない。高校卒業後、別々の進路を選んだふたりの別れのシーンで、そう強く感じられた。このふたりなら、きっと大丈夫、と。


















