都立高校に通う女子高生・金城は、副担任の若くてちょっとおばかな女教師・由美子から突然「どこかに逃げましょ」と学校から連れ出されてしまう。東京でも珍しく雪の降った、冬のある日の放課後のことだった。デパートでフリルのたっぷりついた流行りの服を着せられ、弁当とケーキを買って夜汽車に飛び乗り、「じごくゆきっ」と囁く由美子。鳥取の砂丘を見たい、と西へ向かうふたりだったが、金城はそんな由美子の動機について考えていた。例えば体育教師と恋仲だといううわさのこと、だとか。しかしそんな金城の考えなどお構いなしに、由美子は途中下車して旅館に向かい、ここの仲居になろう、などと言い出して……。(「じごくゆきっ」)
作者の最新短編集である本作は、2005〜2014年の間に各種雑誌・アンソロジーにて発表された作品7本が収録されている。
何か ――おそらくは「女であること」、そしてその先にあるもの――から逃れようとする女教師との逃避行を描く表題作「じごくゆきっ」もいいが、個人的に印象に残ったのは「暴君」「A」「ロボトミー」の3作。
「暴君」は作者の過去作「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」の後日談とも言われている短編。近所で起きた無理心中事件が、主人公の女子中学生・翡翠に及ぼした影響とは。お年頃的にも「厨二病」真っ只中としか言いようのない翡翠と、その親友である紗沙羅。しかし同級生の男子・陸に起きた事件は、その「特別」のヴェールをいともたやすく、そして暴力的にはぎ取ってしまう。一方で陸に起きた変化は一体なんだったのか。「特別」はひとを選ぶということを突き付けられる、無残な夏の物語。
「A」はアイドルをめぐる短編。かつて日本に存在していた「アイドル」と呼ばれる消費の女神、あるいはアイコンの存在を追い求める男がふたり。彼らは表舞台から姿を消した最後のアイドル・Aを探し出し、魂を喪った美少女Bにその精神を接続し、新たなアイドルを作り出す――というSF作。「神」であったはずのアイドルすらも消費してしまう逆説的な結末がなんとも恐ろしい。
そして「ロボトミー」は、ある母娘の因縁をめぐる中編。元アイドルのユーノと結婚し、幸せな日々を送るはずだった孤児の青年・鷹野。しかし式の当日、娘の結婚を惜しみ泣き続けていたのが、ユーノの母親その人だった。以後、義母が執拗なまでに結婚生活を邪魔することに耐えかねた鷹野は、口論の際にかっとなってユーノを殴ってしまう。このことが原因でふたりは離婚することになるのだが、その後、義母は鷹野の職場に現れ、ユーノが鷹野の暴力によって後遺症が残り、ひとりでは生きていけない身体になったと言い散らすのだった。そのこともあって職場にいづらくなり、なんども転職を繰り返す鷹野が知ったのは、ユーノが本当に脳に損傷を負っていて、鷹野と結婚していた当時の記憶を繰り返しているという事実だった……というような、常軌を逸した母娘と、そんな母娘に翻弄される男の姿が描かれていく。
鷹野のTwitterのタイムラインに一瞬だけ現れた「ロボトミー」というアカウントの発言、そしてユーノのために人生を狂わされたといっても過言ではない鷹野の半生。これは義母の呪縛なのか、それともそんな義母に抗おうとしたユーノの意志によるものなのか。どちらにせよ、終わらないふたりの関係がしあわせなのか、それともふしあわせなのか――それはふたりにしかわからないし、結論はきっとふたりにも出せないのだろう。
















