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読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 桜庭一樹

じごくゆきっ
桜庭 一樹
集英社
2017-06-05

都立高校に通う女子高生・金城は、副担任の若くてちょっとおばかな女教師・由美子から突然「どこかに逃げましょ」と学校から連れ出されてしまう。東京でも珍しく雪の降った、冬のある日の放課後のことだった。デパートでフリルのたっぷりついた流行りの服を着せられ、弁当とケーキを買って夜汽車に飛び乗り、「じごくゆきっ」と囁く由美子。鳥取の砂丘を見たい、と西へ向かうふたりだったが、金城はそんな由美子の動機について考えていた。例えば体育教師と恋仲だといううわさのこと、だとか。しかしそんな金城の考えなどお構いなしに、由美子は途中下車して旅館に向かい、ここの仲居になろう、などと言い出して……。(「じごくゆきっ」)

作者の最新短編集である本作は、2005〜2014年の間に各種雑誌・アンソロジーにて発表された作品7本が収録されている。

何か ――おそらくは「女であること」、そしてその先にあるもの――から逃れようとする女教師との逃避行を描く表題作「じごくゆきっ」もいいが、個人的に印象に残ったのは「暴君」「A」「ロボトミー」の3作。

「暴君」は作者の過去作「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」の後日談とも言われている短編。近所で起きた無理心中事件が、主人公の女子中学生・翡翠に及ぼした影響とは。お年頃的にも「厨二病」真っ只中としか言いようのない翡翠と、その親友である紗沙羅。しかし同級生の男子・陸に起きた事件は、その「特別」のヴェールをいともたやすく、そして暴力的にはぎ取ってしまう。一方で陸に起きた変化は一体なんだったのか。「特別」はひとを選ぶということを突き付けられる、無残な夏の物語。

「A」はアイドルをめぐる短編。かつて日本に存在していた「アイドル」と呼ばれる消費の女神、あるいはアイコンの存在を追い求める男がふたり。彼らは表舞台から姿を消した最後のアイドル・Aを探し出し、魂を喪った美少女Bにその精神を接続し、新たなアイドルを作り出す――というSF作。「神」であったはずのアイドルすらも消費してしまう逆説的な結末がなんとも恐ろしい。

そして「ロボトミー」は、ある母娘の因縁をめぐる中編。元アイドルのユーノと結婚し、幸せな日々を送るはずだった孤児の青年・鷹野。しかし式の当日、娘の結婚を惜しみ泣き続けていたのが、ユーノの母親その人だった。以後、義母が執拗なまでに結婚生活を邪魔することに耐えかねた鷹野は、口論の際にかっとなってユーノを殴ってしまう。このことが原因でふたりは離婚することになるのだが、その後、義母は鷹野の職場に現れ、ユーノが鷹野の暴力によって後遺症が残り、ひとりでは生きていけない身体になったと言い散らすのだった。そのこともあって職場にいづらくなり、なんども転職を繰り返す鷹野が知ったのは、ユーノが本当に脳に損傷を負っていて、鷹野と結婚していた当時の記憶を繰り返しているという事実だった……というような、常軌を逸した母娘と、そんな母娘に翻弄される男の姿が描かれていく。

鷹野のTwitterのタイムラインに一瞬だけ現れた「ロボトミー」というアカウントの発言、そしてユーノのために人生を狂わされたといっても過言ではない鷹野の半生。これは義母の呪縛なのか、それともそんな義母に抗おうとしたユーノの意志によるものなのか。どちらにせよ、終わらないふたりの関係がしあわせなのか、それともふしあわせなのか――それはふたりにしかわからないし、結論はきっとふたりにも出せないのだろう。

ほんとうの花を見せにきたほんとうの花を見せにきた
桜庭 一樹

文藝春秋 2014-09-26
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父親がマフィアのボスの愛人に手を出して逃走したせいで、見せしめとして母親と姉を殺されてしまった少年・梗。隠れていたため犯人たちの目を逃れた梗が見たのは、母親の遺体から血を啜る、見知らぬ男の姿だった。普通の人間とは異なるその姿を見た瞬間、梗はかつて父親から聞いた話を思い出す――中国の山奥に、竹から生まれた吸血人種がいるという。バンブーと呼ばれるそれは肉を喰らい、血を啜るのだと。梗はムスタァと名乗るそのバンブーに自分の命を差し出そうとするが、ムスタァはバンブーの掟により、生きた人間の血を吸うことはおろか、関わることも禁じられているのだという。いったんは見捨てられかけた梗だったが、なんの気紛れか、ムスタァは梗を屋敷から連れ出してくれる。梗はムスタァと、その相棒だという別のバンブー・洋治のふたりによって、追手の目をくらますため、女の子――死んだ姉である「南子」として育てられることになり……。(「ちいさな焦げた顔」)

竹でできた身体を持つ吸血種族「バンブー」と、彼らと関わる人間との関係を描く中編連作。バンブーであるムスタァに育てられた少年・梗の成長を描く「ちいさな焦げた顔」、ムスタァが死の直前に拾ったヒトの少女・桃と、掟を破ったはぐれバンブー・茉莉花との別離を描く「ほんとうの花を見せにきた」、そして日本におけるバンブーの王・類類の過去を描く「あなたが未来の国に行く」の3編が収録されている。

見た目は人間と一緒だが、太陽の光に弱く、鏡にも映らず、夜にしか活動できない。食事は血液で、これは人間でもそれ以外の動物でも構わない。年はとらないが、120年ほど経つと白い花を咲かせて消滅する。元は中国の山奥にいたが、一部が日本に移住してきており、先天的な者と、バンブーの血液が体内に入ったことでバンブーになってしまう後天的な者とがいる……。とまあ、どこまでも一般的な「吸血鬼」と同じ性質を持つバンブーだが、彼らには生きている人間を脅かさず、そもそも関係を持たないという掟があった。人間と親しい関係になることが最も重い罪であり、それを犯せば火刑――太陽の光にさらされ、燃え尽きて死んでしまう――とされる。けれどムスタァと洋治は梗を育てたし、「はぐれ」だとはいえ茉莉花は桃を守り続けた。彼らをそこまで駆りたてたのはなんだったのか。

120年という永い時を、姿かたちを変えずに生きていくバンブーにとって、100年に満たない時を常に成長しながら生きていく人間という生き物は、もうそれだけで羨望の対象なのかもしれない。変わり続けていく人間はいつか自分たちのことをすっかり忘れてしまうかもしれないけれど、それでもいい。絶えず成長し続ける人間の命の「火」――それは彼らは決して持つことのできない、そして彼らにとっては尊くうつくしいものなのだ。けれどその持ち主である人間たちは、そのことに気付かない。そしてそのままバンブーの存在自体を忘れてしまう。永遠の片想いにも似たこの関係は、どこか儚く、そしてうつくしいものとしてこの目に映った。

傷痕傷痕
桜庭 一樹

講談社 2012-01-12
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「キング・オブ・ポップ」と呼ばれる、偉大なるスターが急死した。「楽園」と呼ばれる彼の住居に残されたのは、色とりどりの遊具、そして「傷痕」と名付けられた彼の娘だった。世界が悲しみに暮れる中、チャイルド・スターとして颯爽と現れ、だれよりも速くうつくしく世界を駆け抜けた彼のことを、彼女たちは思い出し、そして語り始める……。

新作は「小説現代」に連載されていた長編で、マイケル・ジャクソンをモデルにした物語。
貧しい一家に育った「彼」は、父親の指導のもと、兄弟たちと共にデビューし、瞬く間にスターになる。やがてグループを解散した「彼」は、唯一無二のスーパースターとして世界に君臨するも、次第にその奇行が暴露され始める。閉鎖された小学校を買い取って遊園地のように改造し、「楽園」と名付けてそこで暮らす。恵まれない子供たちを招待しては「楽園」で一緒に遊んでいたのも束の間、その子供のうちのひとりから性的虐待で訴えられることになる。その少女とは示談が成立したものの、やがて2人目、3人目の「被害者」が現れる。2人目は同じように示談が成立したのだが、3人目とは裁判で争い、勝利を収めたものの、事実は闇の中であり、少女たちとの間に何があったのかは謎のまま。そして謎と言えば、突然「娘」として現れた存在・傷痕のことも。傷痕は誰が生んだのか、そもそも本当にキングの血を引いているのか……。

様々な謎に包まれた「キング」のことを語るのは、娘である傷痕、彼のファンであったとある中年男性、彼の欺瞞を暴こうとするジャーナリストの滋田、彼を訴えたひとりめの「被害者」であった少女、そして彼の姉であり、彼と最も親しい肉親である女性・孔雀。
結局謎は謎のままというか、当事者たちの話は、どこまでが真実なのかがさっぱりわからない。けれどみな、「彼」を愛していたということだけは事実。
こどものまま大きくなってしまった「彼」は、自分が手に入れるべきものを手に入れられなかった代わりとでもいうように、世界に、そして娘にすべてを与え、そして消えてしまった。大いなる喪失は、けれど新しい世界の呼び水となる。仮面に覆われ、楽園の中で隠れるように生きてきた傷痕は、父親という世界の終わりを経て、新しい世界へとその一歩を踏み出すことになる。失うことで得られるものもまた、かけがえのないものなのだと、そう思わされる結末だった。

GOSICKVIII下‐ゴシック・神々の黄昏‐ (角川文庫 さ 48-28)GOSICKVIII下‐ゴシック・神々の黄昏‐ (角川文庫 さ 48-28)
桜庭 一樹

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-07-23
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母コルデリアの手引きで監獄〈黒い太陽〉から脱出したヴィクトリカは、ブライアンと共に新大陸を目指すため、東洋の島国へ向かう船に乗ることに。一方、一弥は戦地に赴き、通訳などに駆り出されていた。戦況が悪化する中、遠く離れたふたりが想うのは互いのこと。だがヴィクトリカにはオカルト省からの追手が迫り、一弥も前線で激しい敵襲に遭遇し……。

ついにシリーズ完結。
たくさんのものを失いながら、それでも生きて、光の射す方へ、未来へと走り始めたヴィクトリカと一弥。離ればなれの空の下、互いのことを想いながら、そして再会することを夢見て、ただ前に進むことを決意する。そうして迎えたラストで、ヴィクトリカは一弥がクリスマスの、そして誕生日に贈った15番目の謎の答えを得る。本当に大切なものを得ることができたふたりの未来はあまりにもまぶしい。待ち望んでいた結末に、語るべき言葉は少ない。けれど、これだけは言える。
とにかく良かった――本当に良かったと、ただそれだけしか言いようがないラストだった。


◇前巻→「GOSICK 8(上)神々の黄昏」

GOSICKVIII上‐ゴシック・神々の黄昏‐ (角川文庫)GOSICKVIII上‐ゴシック・神々の黄昏‐ (角川文庫)
桜庭 一樹

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-06-23
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クリスマス当日。クリスマス用と誕生日用、ふたつのプレゼントを持って現れた一弥に対し、ヴィクトリカは自分の年齢と同じ、15個の謎を要求する。ほとんどの生徒たちが帰省して誰もいなくなった学園、果てはその外の村をかけずり回って謎を集める一弥だったが、なぜか村に都会からやってきたとおぼしき人々が多いのが気になり始める。そんな中、グレヴィールが村で起きた殺人事件の謎を解くためやってくる。その話を聞いたヴィクトリカは、いよいよ「2度目の嵐」がすぐそこに迫っていることを知り……。

本編8巻は上下巻構成。今回の上巻ではクリスマスから年越しを経て、一弥とヴィクトリカに訪れる残酷な運命が描かれてゆく。

ヴィクトリカが察知していた「2度目の嵐」――それはすなわち、第二次世界大戦の勃発。これにより一弥が本国へ連れ戻されること、そして自身も父であるブロワ伯爵によって利用されることに、ヴィクトリカは気付いていた。クリスマスや年越しにふたりきりで過ごす中、ようやく一弥はヴィクトリカが大切な存在であるということを自覚するが、その直後、突然別れは訪れる。たったひとりの小さな力ではどうすることもできない、世界が求める大きな変化――引き離されたふたりは、そのうねりに否応なく巻き込まれてゆく。

一弥が日本語で遺した手紙をその肌に刻みつけるヴィクトリカの痛みと、そして実家に戻った一弥が、姉の前で流した涙――悲痛なふたりの叫びが胸に詰まる。ヴィクトリカがブロワ伯爵の意向で連れ去られたことは何度かあったが、その時は一弥が助けに行っていた。けれど手の届きようがないくらいに引き離されてしまった今、ふたりは再会する日はやってくるのだろうか。今月末刊行予定の下巻が今から待ち遠しい。


◇前巻→「GOSICK s 4 冬のサクリファイス」

GOSICKsIV‐ゴシックエス・冬のサクリファイス‐ (角川文庫)GOSICKsIV‐ゴシックエス・冬のサクリファイス‐ (角川文庫)
桜庭 一樹

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-05-25
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クリスマス前日の聖マルグリット学園では、人間を駒に見立てたチェスをするイベント「リビング・チェス大会」の準備で大わらわ。警視総監夫人・ジャクリーヌは学園を訪れ、ひょんなことから幼なじみであるグレヴィールと再会する。セシル先生は寮母のゾフィと喧嘩したり酒盛りしたり、アブリルはチェスの駒として仮装の準備に勤しんだりと、それぞれの冬の日を過ごしていた。そして一弥は今日も、ヴィクトリカのもとへと向かうが……。

短編シリーズ「GOSICKs」第4弾で語られるのは、一弥も知らない過去の事件――なぜグレヴィールがあんなドリル頭になったかというお話(笑)などなど。過去に起こったいくつもの事件。それをたちどころに解決してしまうヴィクトリカ。その中で払われていく、いくつもの「犠牲」――例えばそれは事件の犠牲者とも言えるし、ヴィクトリカに謎解きを依頼したことに対する代償とも言える。そしてもうひとつ、ヴィクトリカとグレヴィールとの間の溝を深め、彼女が「灰色狼」の娘として孤独を深める原因となっていたことも「犠牲」と言えるのかもしれない。グレヴィールから心ない言葉をかけられ、ヴィクトリカが流した涙――これこそ、彼女がこれまで払い続けてきた「犠牲」の一端なのだろう。

けれどそんな彼女を救ったのは一弥だった。少しずつ互いの大切さに気付き始めたふたりにどきどきしたのも束の間、不穏な雲が欧州を覆い始める。ヴィクトリカが察知した「嵐」が、ふたりをどう翻弄していくのか――あらすじに書かれている「最後の平穏な日々」という言葉が胸に刺さる。やがて来る戦乱という名の嵐は、ふたりに何をもたらすのだろうか。


◇前巻(長編)→「GOSICK 7 薔薇色の人生」

ばらばら死体の夜ばらばら死体の夜
桜庭 一樹

集英社 2011-05-02
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神保町にある小さな古書店。かつてその2階に下宿していた吉野は、今その部屋に住んでいる若い女と衝動的に関係を持つ。沙漠と名乗るその女は、美しいがあらゆることに無頓着で、なぜ見知らぬ彼を受け入れたのか分からない。だがある時から、沙漠は彼に金をせびり始め……。

2010〜2011年にかけて「小説すばる」に発表された本作は、タイトルの通り、夜の匂いに満ちた物語。冒頭で誰かが誰かを殺し、その死体を解体している。いったい殺したのは誰で、殺されたのは誰なのか――吉野と沙漠、吉野の妻の友人である里子、そして沙漠が下宿している古書店の主・佐藤の視点から、吉野と沙漠の間に起こった出来事を描いていく。

資産家の娘である由乃を妻に持つ吉野は、細々と大学講師と翻訳の仕事に打ち込む日々。妻の実家の援助のおかげでそれなりに裕福な暮らしを営んではいる。だが貧しい生い立ちのせいか、常になんらかの屈託を抱えて生きてきた男。
そして沙漠は、美しい容姿を持っているものの、日々何をしているのかが全く分からない女。風呂もエアコンもない家賃1万の部屋に暮らし、近くのラーメン屋でバイトしたり、たまに古書店の店番をしたり。そんな女を吉野が求めた、その理由は何だったのか。

読み進めるにつれて、ふたりの過去が少しずつ明らかになる。吉野については里子の、沙漠については佐藤の記憶がふたりのエピソードを補足していくのだが、このふたりにもいろいろと複雑な過去があったり。そうやって物語は次第に、冒頭のシーンに近付いてゆく。まるで坂を転げ落ちるように破滅に向かうふたり。ふたりが落ちた先は谷底なのか、それとも底なしの沼なのか。そして殺されたのはどちらなのか。

ふたりのこれまでの人生には、いつも金が暗い影を落としていた。金がなかったことが不幸を招き、金さえあれば幸せになれると思っていた吉野と沙漠。けれど資産家である由乃の父は言う――金は不幸の元を追い払うもの、ただそれだけだと。持てる者の理屈と、持たざる者の理屈。持たざる者だったふたりは、金にすがることしかできなかった。そうしなければ生きていけなかった。吉野が沙漠を求め、沙漠が吉野を受け入れたのも、それが原因だったのかもしれない。どこか浮世離れしたような物語の中で、くっきりと浮かび上がってくるその存在感にぞっとさせられた。

GOSICKVII‐ゴシック・薔薇色の人生‐ (角川文庫)GOSICKVII‐ゴシック・薔薇色の人生‐ (角川文庫)
桜庭 一樹

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-03-25
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クリスマスを間近に控えた聖マルグリット学園。ヴィクトリカは父・ブロワ公爵によって首都ソヴレムへ呼び寄せられる。ブロワ公爵は彼女に、ソヴュール王妃ココ=ローズの死の謎を解き明かすよう迫る。そこに現れたのは、ヴィクトリカを心配して後を追ってきた一弥。一弥を巻き込みたくないヴィクトリカは彼を冷たくあしらいながら聞き込みを始めるが、一弥も自ら捜査を始め……。

久々のシリーズ最新作は、ヴィクトリカと一弥のふたりが離ればなれになりながらも、ソヴュール王国最大の謎と呼ばれる王妃の死に迫る物語。かつて好評を博した、ココ=ローズの生涯を巡る演劇が再演されようとする中で、その関係者たちが明かしたのは、以前の主役であったニコル・ルルーなる踊り子のこと。だがある時、そのニコルが行方知れずになってしまったこと。さらに巷間で噂されている、ココ=ローズの生前の奇矯な振る舞いのこと。さまざまな断片を組み立て上げ、ヴィクトリカはその死の真相を突き止めていく。そうして明かされたのは、王妃の死というスキャンダルよりも、もっと大きな事実だった。

ソヴュールそのものを揺るがしかねないその事実を知ってしまったヴィクトリカと一弥は、これからどうなってしまうのか。そしてそんなヴィクトリカの姿を影から見守り続けるコルデリアはどう出るつもりなのか。大きな嵐が迫りつつある、というヴィクトリカの言葉が不穏に迫ってくる。このふたりのささやかな、けれど確かな絆が断ち切られることのないよう祈るのみだが、果たして……。

……とか真面目に感想を書いてみたものの、ヴィクトリカと一弥のでこぼこコンビっぷりだとか、グレヴィールの変人ぶり(笑)だとか、セシル先生のこれまた変人ぶり(?)(トランクに入り込むってのはちょっと……)だとか、相変わらずの面々をとても懐かしく感じてしまったりもして。みんなそのまま幸せであってほしいと思うのだが、さて。

道徳という名の少年道徳という名の少年

角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-05-11
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町でいちばんの美女は、父親の知れない娘を立て続けに4人産んだ。母親ゆずりのうつくしい娘たちは、それぞれ「1」「2」「3」「悠久」と名付けられる。だが間もなく、母親は黄色い瞳の商人と共に姿を消してしまう。4人の娘は宮殿のごとき娼館に身を寄せ、娼婦として暮らすようになった。そして時は過ぎ、4姉妹の前に年老いた母親が現れる。母譲りの美貌と、父譲りの黄色い瞳を持つ少年――つまり、4人の弟を連れて……。(「1、2、3、悠久!」)

桜庭一樹の久々の新刊は、「小説現代」や「パピルス」など、様々な雑誌に掲載された短編を収録。それぞれ違う雑誌に掲載されながら、実は連作になっていた5編が収められている。

「1、2、3、悠久!」に登場した4姉妹の末っ子・悠久は、いつしかうつくしい顔立ちと黄色い瞳の男の子を産み落とす。
「ジャングリン(道徳)」と名付けられたその息子が主人公なのが「ジャングリン・パパの愛撫の手」。戦争で両手を失ったジャングリンは、幼なじみの娘と結婚することになる。が、そんなふたりの日々にひっそりと寄り添っているジャングリンの父親。そして娘は、昔からその父親に焦がれていた。
「プラスチックの恋人」では、その娘とジャングリンの息子で、貴公子のようで貴婦人のような美しさを持つ歌手・ジャングリーナが登場。
さらに「僕の代わりに歌ってくれ」では、ジャングリーナの息子である一兵士・ジャンが、そして「地球で最後の日」では、ジャングリーナの親戚だという少女が、病床のジャングリーナを訪ねようとする。

こうやって血の流れを描いていくのは今までも見られたモチーフだったが、今回はどこまでも暗い色がにじみ出てくる。「道徳」とは名ばかりで、甘やかな絶望に絡め取られた、どこまでも「不道徳」な人々が織りなすのは、滅びに向かってゆるやかに下降していく物語。絶えることない音楽が響き続ける、そんな物語。

お好みの本、入荷しました (桜庭一樹読書日記)お好みの本、入荷しました (桜庭一樹読書日記)

東京創元社 2009-12-26
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東京創元社HPにて公開されている、桜庭一樹の読書生活+αにまつわる日記の書籍化第3弾。2008年4月から2009年5月分までを収録。

ちなみにこの間に出版されたのは「荒野」「ファミリーポートレイト」と読書日記の2巻。「荒野」は完全な新作と言うわけではないし、執筆期間は2巻の間のことなので、あまり言及はないが、「ファミリーポートレイト」についてはちょこちょこと執筆時の状況なんかも書かれていて、相変わらず興味深い。
また、直木賞受賞後ということもあり、新作が出るたびにインタビューだの宣伝だのと忙しくしている姿も垣間見えて、改めて「直木賞」効果の凄さを感じてみたり。テレビの企画で海外に行ったりもしてるし。

けれど本を読むペースが落ちるわけではなく、相変わらずどこででも本を読む。お風呂でも。そして編集者や書店員たちと本談義に花を咲かせては、また新しい本を買ってきて読む。たまに買ったことを忘れた本が部屋から出てきたり、以前買ったものとまったく同じものを買ってきていたり。最後のはともかく、本好きにとっては理想的な生活で、うっとりしてしまう。
また、巻末には2巻刊行時に行われた三村美衣との対談が収録されているのだが、そこで言われている、大人になってからの本の読み方の変化――「買った本を読まなくなる」とか「図書館で借りた本を読まずに返してしまう」とか「本の買い方が変わった」というのもすごく納得(苦笑)。

そしてなんと本作の中では結婚まで!
相手は芸人の方ということで、結婚披露パーティーは吉本の東京本部にて。なぜか新郎新婦の入場の際、発泡スチロールで出来た壁を蹴破ることになるふたり。うろたえる新婦に新郎は「俺がついてるから大丈夫」と男らしいセリフ(笑)。
――だが、その壁を蹴破ったところで「つづく」となってしまったので(エッセイ集?で「つづく」って……)、このあとどうなったのか非常に気になる。


◇前巻→「書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記」

製鉄天使製鉄天使

東京創元社 2009-10-29
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1980年代の鳥取県、赤珠村。緑ケ丘中学に入学してきたのは「赤緑豆製鉄のバカお嬢」とあだ名される赤いリボンの少女・小豆。入学早々にこのあたりを牛耳るレディース集団「エドワード族」に目をつけられ、ボコボコにやられてしまう小豆だったが、ひょんなことから鉄の武器屋を営む元総番・大和イチと出会う。以降、鉄に愛されるというその能力を生かして、小豆は仲間を増やしてゆき、エドワード族を倒し、さらには中国地方のレディース制覇を目論んで突き進んでいく……。

新作は「赤朽葉家の伝説」に登場した赤朽葉毛毬のレディース時代のエピソードを基にした、まさに帯の惹句通り「唖然呆然の一代記」。総番・大和タケルとの出会いから始まり、親友スミレとの出会い、仲間たちとの出会いとエドワード族との抗争、レディース「製鉄天使」の旗揚げ、近県への遠征、中学卒業とスミレとの別れ、そして中国地方制覇直後、忽然と「製鉄天使」そのものが姿を消したこと――様々なことがたった数年の間に目まぐるしく起きては終わり、その中で小豆は「伝説」となっていく。そんなあっという間の展開が、わざとくずした文体でもってスピーディに綴られていく。

レディースというある意味特殊な境遇に身を置きつつも、その中で友情と、恋と、夢に生きる小豆。「えいえんの国」を求めて前進し続ける小豆の姿を描く本作は、まごうことなく青春小説。
そんな本作、何者かが小豆のレディース時代のことを別の何者かに語っている――というスタンスで書かれているようで、時折その情景が挿入される。この語り手は何者なのか、なぜこうも克明に小豆の「伝説」を知っているのか――それが明らかにされる結末も見もの。一般文芸作として提示されてはいるものの、かなりラノベのテイストに近いエンターテインメント作品だった。

桜庭一樹日記 BLACK AND WHITE桜庭一樹日記 BLACK AND WHITE

富士見書房 2006-03-11
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東京創元社から出ている「読書日記」とはまた違い、こちらは公式サイトのブログの書籍化。2004年9月から2005年12月分を収録。

本作は日常生活を中心としたブログなので、読書についての言及はほとんどなし。時期的にはラノベ書きが中心の頃の話なので、ラノベ関係のイベントに出たり、桜坂洋と合作したり、現在とはまた違った日々がつづられている。

とりあえずよくわかるのがイケメン嫌い(笑)。ヨン様ブームまっさかりの頃に酔っ払ってヨン様グッズを買いまくってしまって途方に暮れたり。というか終始「ヨン」とか「ペ」とか呼び捨てなんだから相当のもの。また、作者の中ではイケメンのボスはキムタクらしい。なのに時々、脳内にキムタクが現れ、状況に応じてまさにキムタクっぽい事を言うので、自分でそれに反発したり(笑)。たぶん。メイビー。とか。

また、サンボマスターが大好きで、でも周囲はスキマスイッチ原理主義者(笑)が多く孤軍奮闘。しかしある年の紅白にスキマ「だけ」が出場することが決まって悔しがったり。

……なんていうか面白すぎる。

書店はタイムマシーン―桜庭一樹読書日記書店はタイムマシーン―桜庭一樹読書日記

東京創元社 2008-10
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「少年になり、本を買うのだ」に続く、桜庭一樹読書日記第2弾。東京創元社HPにて公開されていた2007年3月から2008年2月までの日記を収録。

前作では「赤朽葉家の伝説」で直木賞を逃した作者だったが、今作では「私の男」にて直木賞を受賞。めでたい!

というわけで、受賞の連絡を受けるところや、受賞後の取材攻勢についても詳しく書かれていて興味深い。読書好きということを前面に出した取材スタンスに応えようと、カメラの前でも本を買ったりする作者のサービス精神には脱帽。日記中でも言われているが、本を読むことが、一般的には「変わったこと」として見られる風潮がなんとかなればいいのに……。

とりあえず積みっぱなしの倉橋由美子「ポポイ」「聖少女」や多和田葉子「犬婿入り」を読みたくなった。他にも色々。村田喜代子「龍秘御天歌」とか気になる。
とにかく、本読みのはしくれとしては、刺激されまくりな日記なので、読むと面白い半面、読みたい本が増えて困る(笑)。

少年になり、本を買うのだ 桜庭一樹読書日記 (創元ライブラリ) (創元ライブラリ L さ 1-1)少年になり、本を買うのだ 桜庭一樹読書日記 (創元ライブラリ L さ 1-1)

東京創元社 2009-08-30
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2006年から東京創元社HPでスタートした読書日記の書籍版。2006年2月から2007年1月分を収録。

毎日のように本を買い、打ち合わせの時には編集者と本談義。実家のある鳥取に帰る時は、読む本をあらかじめ決めておいてまとめて送っておき、なおかつ道中に読む本も決め、機内でも家でもとにかく読む。けれど新作にとりかかるときだけは本は読まない。テーマとなる音楽を聴き、そのPVを見て構想を練り、文字通り寝食を忘れて打ち込む――そんな桜庭一樹の日々があますところなく詰まったのがこの日記。

とにかくミステリを中心として、多種多彩な本が登場。脚注に読んだ本の書影やらデータが載っているので、気になる本があればすぐに買いに行けるのもいい。

とりあえずジェフリー・フォード「白い果実」(山尾悠子訳!)とスコット「人魚とビスケット」(絶版らしいので古書店か……)と笹公人をチェックするのと、積み中の西村賢太「どうで死ぬ身の一踊り」を読むときは東京事変「大人」をBGMに、ということで。他にもいろいろある。とにかく、もっと本を読みたい気分になってくる、そんな1冊。

ファミリーポートレイトファミリーポートレイト
桜庭 一樹

講談社 2008-11-21
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若く美しい女、マコ。その娘はコマコ。ふたりはいつも一緒――呪いのように互いを求め、離れることのない親子。コマコにとってマコは「すべて」――世界そのもの。マコのためにだけ存在するコマコは、過去に追われるように逃げ続けるマコに付き従う。しかし旅に終わりが来る――「過去」に追いつかれたマコは湖に身を投げ、コマコはたったひとり、この世界に残されてしまう……。

桜庭一樹の新作は書き下ろし1000枚!の長編小説。「赤朽葉家の伝説」と「私の男」の流れを汲む、母と娘の物語。前半では親子ふたりの放浪を、後半ではコマコ――駒子のひとりきりの彷徨を語ることで、マコとコマコの親子のかたちを描き出す。

マコの望むように生きてきたコマコは空っぽで、だからひとりになっても彼女には常に「マコ」の影がまとわりつく。ひとを映す空虚な鏡のような駒子は、その深淵から「物語」を引きずり出していくようになる。救いも安息もない中で、駒子はうつろに、でも確実にひとりで歩いて行く。

桜庭一樹の書く「親」は子供がそのまま大きくなったような存在で、だから「子」が「親」――しかも「母親」たることを要求されている。例えば「私の男」でも花は淳悟の娘であり、恋人であり、母親だった。コマコもまたマコの娘であり、分身であり、彼女のすべてを許し受け入れる母親としての役割を持っていた。しかしこの「子」たちは、そんな「親」をすべて受け入れる。だからこそ、その「親」を失うと、途端に途方に暮れてしまう。子供のように「子」に寄り掛かる「親」と、母親のように受け入れることで「親」に寄り掛かる「子」。どちらが欠けても成り立つことのない親子の絆というものが、行間から浮かび上がっては読者に突きつけられる。

それは、恋愛小説に描かれるような、ありえないほどの恋人同士の絆にも似た究極の関係。つくりごとだとしても、羨まずにはいられない存在。

桜庭一樹がつきつめてきた、濃厚なまでの「血」の関係――その集大成がこの「ファミリーポートレイト」という作品なのかもしれない。

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