phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 青木祐子


飲食店のオーナーを自称していた恋人・理空也は単なるフリーターであり、ある日突然あすみの前から姿を消してしまった。彼と結婚するつもりだったあすみはすでに「寿退社」しており、残されたのはふたりで暮らすはずだった家賃9万2千円のマンションと、直近の支払いを除けば残高が428円になってしまう貯金通帳のみ。結婚を反対されていた手前、家族に助けを求めることもできず、親友の仁子からも厳しい言葉をかけられたあすみは、ひとまず家計簿をつけ、最低限の自炊を始めるなどしてやりくりを始めることに。しかし日雇いのバイトをこなしつつ派遣会社に登録したものの、なかなか思うように職が決まらず……。

金欠アラサー女子・あすみが、迷走しつつもなんとか生活を立て直していく節約&お仕事小説。

恋人の理空也の甘い言葉にすっかり乗せられ、カードで買い物をしまくり、挙句の果てには無職だわ結婚の予定は白紙だわ、さらに残高不足で次回のカードの引き落としも家賃の支払もままならない……と、冒頭から人生詰みっぱなしな主人公のあすみ。日々の暮らしはどんぶり勘定で、なるようになるとある意味で無軌道な生活を送っていただけあって、こうなるとどこから手を付けたらいいかわからないという状態のあすみに対して抱くのは同情ではなく、むしろ親友の仁子と同じく説教したい気持ち。しかし物語が進むにつれ、少しずつではあるが考えを改め、こつこつとお金を稼ぎ、つましい暮らしを送るあすみの姿には、だんだんと応援したい気持ちの方が勝ってくる。

友人に誘われた合コンで出会った八城との関係や、日雇いバイトで出会ったミルキーや深谷の存在には救われたし、かと思えば終盤でラスボスのように現れた理空也の行動、さらにそんな理空也の言葉にまたしても流されそうになるあすみにはハラハラさせられたが、そんな数々の出会いを経て、あるいは誘惑をはねのけ、地に足の着いた生活を送るようになったあすみには拍手のひとこと。もちろんそれだけが幸せのかたちではないし、「生きること」と「お金を稼ぐこと」の目的と手段がすり替わるようなことは避けるべきだとは思うが、とにもかくにもまずは「普通」に生きていくことの大切さ、そしてそれが当たり前なようでいて実は難しいという事実を、あらためて教えられたように思う。


広報課の千晶から、制服の代金についての相談を受けた沙名子。沙名子も制服代は会社持ちだと認識していたのだが、千晶が人事課に尋ねると、個人負担だと言われたのだという。しかし沙名子が再度調べたところ、やはり規則が変更になった形跡はない。沙名子は千晶に間違った情報を告げた人事課員・玉村志保に制服代の話を聞きに行くが、志保からはまともな答えが返ってこず、なぜか制服に対する文句を述べられてしまう。志保の態度について問題があると周囲からも聞かされていた沙名子は、彼女がなぜそんなにも攻撃的なのかを調べ始める。一方、秘書課の有本マリナの担当になっていた美華は、彼女がキャバクラでバイトしているという噂を確かめるために調査を続けていた。するとマリナが勤めるキャバクラで、天天コーポレーションの部長たちが企業買収専門のコンサルタントと会っていたことがわかり……。

日々提出される様々な領収書から社内の人間模様を描き出すシリーズ6巻。今回は天天コーポレーションに買収話!?というまさかの急展開に。

秘書課の有本マリナは、かつて沙名子が証拠不十分により横領を見逃してしまった相手。彼女のようにわかりやすくしたたかで、しかも役員たちの権力をバックにつけているような女性は、沙名子でなくとも苦手な相手だと言える。そんな彼女の不正に敢然と立ち向かうのは、経理課の新人(中途採用ではあるが)・美華。しかし彼女が見つけたのは、マリナが仲介し、大手メーカー「サンライフプロダクト」が天天コーポレーションを買収するかもしれないという可能性だった。そこで沙名子は、営業部の山崎のアドバイスも受けつつ、対応策を練っていく。

何事もイーブンと平穏が大事で、事を荒立てるのをよしとしない沙名子が、会社の存亡を賭けた事態に乗り込んでいくというのはどこかちぐはぐなことのようにも思える。しかし会社の存亡はすなわち、彼女を含めた一般社員の待遇そのものに関わってくる。さらに同期にして親友である美月が、専務である円城格馬と結婚するという話を聞かされたからにはなおさら。自分のため、そして親友のために、一芝居打ってまでマリナを追い詰めようとする沙名子の姿はなかなかのカッコよさで、その行動力や洞察力は、同じ経理担当者として驚くばかりでもある(笑)。

とはいえ、今回の事件の幕引きは、沙名子に苦い経験をもたらしたこともまた確か。このことが、彼女の今後の仕事ぶりに影響しなければいいのだが……。


◇前巻→「これは経費で落ちません!5〜落としてください森若さん〜」


経理部に異動してから1か月半が経過したものの、何度かミスを起こしたこともあり(ただし森若さんのおかげで事なきを得たが)、数字が怖くなってしまった真夕。そんな彼女の生きがいは、ヴィジュアル系バンド「CAROLINE」のライブに行くこと。そんな折、仲間からとあるライブの打ち上げに「CAROLINE」のボーカルであるアレッサンドロが来るという情報があり、真夕もその仲間のつてで打ち上げに参加することに。しかし当日の定時直前、真夕は勇太郎が作成していた重要なデータを誤って消してしまい……。(「佐々木真夕 初恋アレッサンドロ」)

石鹸・入浴剤のメーカー「天天コーポレーション」の経理部のベテラン社員・森若沙名子が、お金に絡む社内の問題や人間模様を解決したりしなかったりするシリーズ第5弾。今回はスピンオフ形式で、沙名子の周囲にいる人々を主人公に据えた短編集となっている。

沙名子の後輩である経理部員・真夕を主人公に据えた第1話のみは、シリーズ1巻よりも前のエピソードであるが、それ以外は1〜4巻に起きた事件とその前後を、それぞれの当事者側の視点で語り直していくという内容。と同時に、彼女たちから見た「森若沙名子」という人物評も含んでいるのだが、中には微妙に「ヘンな人なのでは?」という疑念(笑)を抱いていなくもない感じがなんとも面白い。

とりわけ気になったのは、営業部のエース・山崎の視点で描かれた「カラークリスタル」。彼こそは沙名子が最も関わりたくない「小さなズル」をしている人物であり、珍しく、彼女の指摘を受けてもなおそれを止めない人物でもある。今回のエピソードでは、そんな彼の奇妙なアンバランスさが如実に表れている。「要領がいい」とか「洞察力が鋭い」とか、そういう一般的な評価を超越したところにいそうなこの男性は、また問題を起こしそうな気もするし、逆に何も起こさないような気もする。だからこそ沙名子も、彼が「ズル」を止めないのをスルーし続けているのかもしれない。


◇前巻→「これは経費で落ちません!4〜経理部の森若さん〜」


経理部に新入社員の麻吹美華が入ってきた。しかし入社初日からすぐに、教えられる業務についての問題点をひとつひとつ指摘し、「正しい」やり方にするよう提言してくる。しかもその指摘は部内だけでなく部外の人間にも及び、その都度トラブルに。そんな美華の態度に頭を抱える沙名子には、もうひとつ大きな悩みがあった。それはまもなくやってくるバレンタインデー。太陽から手作りチョコを希望されたため、沙名子はしぶしぶチョコの作り方を調べるはめに。さらにそんな折、太陽に学生時代の後輩・樹菜が接近してきて……。

シリーズ4巻では口うるさい新人・美華の加入で沙名子の周囲は波風立ちまくり!?な展開に。

これまで沙名子がクギを刺しただけでそっと胸に秘めていたり、あるいは面倒なやりとりを避けるために便宜をはかっていたり……というようなことのひとつひとつに意見する美華。確かに彼女の指摘は正しく、沙名子たちの対応が間違っているということはわかる。しかし「悪しき慣習」と言われてしまえばそれまでだが、その場その場におけるルールと言うか暗黙の了解というようなものは確かに存在していて、それにいちいち噛みついていては仕事にならないというのもまた確か。個人的には私も波風を立てたくないので沙名子の考え方に賛成ではあるが、しかしそれでもメゲずに声を上げ続ける美華の態度も嫌いではないな、と思ったり。現にいつの間にか経理部にもなじんでいるし――まあこれは沙名子たちが良くも悪くも「大人」であり、美華の扱い方を覚えただけということなのかもしれないが。

一方、今巻ではいくつもの問題が発生し、そしてそれが解決しないまま終わっている。沙名子が尊敬している経理部の同僚・勇太郎と、広報の織子の関係はどうなっているのか。秘書課のマリナの「副業」とそれに絡む経費使用についてはどうするのか。そして樹菜から太陽にあてたメッセージカードを握りつぶしてしまった沙名子はこの後どうするのか。波風を立てたくない、イーブンでありたいというのが沙名子の信条だが、それは必ずしも世間一般的な「正しさ」と合致するとは限らない。そのあたりの齟齬を彼女はどう収めるつもりなのか――否、そのつもりはあるのか。今後の彼女の動向が気になるところ。


◇前巻→「これは経費で落ちません!3〜経理部の森若さん〜」


沙名子のもとに新製品のサンプルを持ってきたのは、広報課の派遣社員・室田千晶だった。ショールームの受付担当としての彼女の仕事ぶりは評判がよく、正社員登用の噂もささやかれているという。そんなある日、千晶が「お客さまからのお土産」としてロッカールームに置いていた菓子箱のメモに、誰かが「必死だな(笑)」と書き足しているのを目撃した沙名子。さらにその後、サンプルの感想を伝えるために千晶を訪ねた沙名子は、綺麗に飾り付けられたショールームを見て、これらにかかったと思われる経費精算申請が出ていないことに気付く。トラブルの気配を感じ取った沙名子は、密かに情報収集を始めるが……。

経理一筋6年目のOL・森若沙名子が、社内のトラブルに図らずも巻き込まれつつも解決してゆくお仕事小説シリーズ第3弾。

正社員登用を目指すあまり自腹を切って仕事をする契約社員の千晶、仕事でトラブルを起こしては被害者ぶって逃げたりごまかしたりする企画課の馬垣、友人と思しき取引先への発注を繰り返す総務部の由香利……今回も沙名子の勘は絶好調で、提出された経費精算の書類から、彼女たちの抱える問題をさらりと暴き出してしまう。その結果の暴露に対して消極的なのは相変わらずではあるが、それでも沙名子に「悪事」を暴かれたことでいい方向に向かっているようなのでひと安心。ちなみに今回、個人的に一番ひやっとしたのは、馬垣が引き起こした支払いミスにつながる案件。経理をやっている身は他人事ではなさすぎて、必要以上に「沙名子頑張って……!」と思ってしまった(苦笑)。

さておき、そんな中で沙名子と太陽の仲はそれなりに順風満帆。だんだん沙名子の中で太陽の存在が大きくなっていて、今まで以上に生活パターンを崩してもいいと考え始めながらも、そんな自分の変化に戸惑いを隠せない沙名子がなんとも可愛い。今巻では描かれていないが、クリスマスも一緒に過ごすということで、そろそろ素直になっちゃいなよ〜(ニヤニヤ)となってしまうのは仕方ないと思う(笑)。

◇前巻→「これは経費で落ちません!2〜経理部の森若さん〜」


経費の精算確認をしていた森若沙名子の目に留まったのは、広報課のベテラン社員・皆瀬織子が提出してきた領収書の束だった。その内容は取引先との打ち合わせでの飲食代や土産代、さらに織子自身がテレビ出演の際に着るための衣装代となっている。広報という業務上、必要経費であることはわかるし、織子の事務処理そのものには問題なく、営業部長の承認も得られているため、経理としてはこれを通さないわけにはいかない。しかし以前に比べると1件あたりの金額が高額になっており、その回数も多くなっていることから、沙名子は広報の業務について密かに調査を進めることに。しかし調査の途中で、沙名子は自分のしていることに疑問を抱き始める。例えば織子がテレビ出演した映像を確認し、その時に着ている服のブランドや値段を調べ、提出された領収書と照合する――というようなことを自分はするべきなのだろうか、と……。

経理部が舞台のお仕事小説シリーズ第2弾。すべてにおいて安定したイーブンな状態をこよなく愛する沙名子。しかしその希望とは裏腹に、今巻では仕事でもプライベートでも波風が立ちっぱなしという展開に。

仕事面ではやはり、社員たちの経費の使い方について沙名子が疑問を呈するという流れ。しかし今回の相手はベテラン女性広報や営業部のエース的存在など、これまでに十分な成果を出しており、がために必要な経費も多く使うことを周囲から容認されている人物ばかりなので、追及しても正論で封じられるばかり。加えて総務部での女性社員たちの対立に巻き込まれたり、信頼していた経理部の同僚に疑惑が生じるようなことが起こったりで、次第に沙名子の「イーブンたれ」という価値観そのものが揺らぎつつあるという結果に。私も沙名子と同じく経理業務、しかも経費精算に携わっているので、出された書類をどこまで信用していいかどうか、という線引きの難しさはよくわかるし、女性特有の人間関係の複雑さ――特に若い女性社員が雑用を押し付けられがちという現状に対する打開策の妥当さだとか――というのも「あるある」と何度も深くうなずかされた。どれをとっても難しい話で、最終的には信頼関係、あるいはその逆でビジネスライクな関係のどちらかに徹するよりほかないという世知辛い結果にしか落とし込めないと思う。沙名子という女性が、基本的にはイーブンを標榜しつつも、根は正義感あふれている、あるいは「経理」という職務に忠実である人物であることがよくわかる展開ではあるが、だからこそ彼女が立ち直ることができるのか気になって仕方ない。

そして気になるといえばやはりプライベートの方――すなわち、例の営業部員・太陽との関係。イレギュラーを好まない沙名子は、太陽と会うにもあれこれとルールを設けて規則正しい日常を維持しようとするが、相手が意志ある人間(しかも自分に好意を寄せていて、なおかつ自分も憎からず想っている相手!)となればいつもいつも計画通りに行くはずもなく、また自分でもわかっていてそのルールを崩す時もあるものだから、ますます彼女の生活は「安定」から遠ざかってゆく。しかしそれこそが、沙名子がこれまで作り上げてきた「自分だけの完璧な世界」を崩してゆくに違いない。そして、それこそが落ち込む彼女を救ってくれるのだろう、とも。


◇前巻→「これは経費では落ちません!〜経理部の森若さん〜」


大のお風呂好きである派遣社員・砂川ゆいみの勤め先は、入浴剤メーカー「天天コーポレーション」の研究所。そこで受付嬢として働くゆいみが出会ったのは、所内唯一の女性研究員・鏡美月だった。営業部に所属するこの会社の社長令息・円城格馬から、受付嬢のようなかわいい女の子が好む商品を作れ、と言われたため、ゆいみの意見を聞きたいのだと言う。お風呂好きということで美月と意気投合したゆいみは、入浴剤のモニターとして美月に協力することになるが……。

先日読んだ「これは経費で落ちません!」の姉妹作(刊行はこちらの方が先)。入浴剤開発に燃える研究員・美月とモニターのゆいみ、そして御曹司の格馬が恋に仕事に奮闘するお仕事小説。

……とこう書くと三角関係のようだが、実際はそうではなく、ゆいみはお風呂嫌いの彼氏と別れたばかりだがまだ少し未練がある状態。そして美月と格馬は両想いなのだが、当人たちはよく分かっていないという状況。しかも厄介なのが、美月と格馬はどうしようもなく似た者同士であり、そして残念なことにどこかズレているという点。ゆいみが軌道修正させてなんとかなりそうな時もあれば、似た者同士な性格ゆえか、妙なすれ違いが発生する時も。しかし読んでいるこちらとしてはそんな微妙な関係がたまらない。そしてそんなふたりに挟まれながら、ゆいみが元カレとの関係について見つめ直すというのもまたいい。さらに言えば温泉――でなくてもいいので、とりあえず入浴剤入りのお風呂に浸かりたくなってきた。


天天コーポレーションの経理部に所属している森若沙名子は、入社以来経理一筋の27歳(彼氏なし)。こつこつ真面目に職務を全うし、現在の生活は過不足ないイーブンな状況だと自負している。そんな彼女のもとにしばしばやってくるのは、営業部のエースと呼ばれる後輩の山田太陽。他社を交えた大規模な合同プロジェクトに参加している太陽は、外部のデザイナーとしばしば視察や打ち合わせを行い、その際に発生した領収書を持ちこんでくる。しかしその内容が「たこ焼き屋」だったり、はたまた有名なテーマパークの入場料だったりで、沙名子も首をかしげざるを得ない。念のため調べた社用車の使用履歴や、太陽本人の話を聞く限り、公用なのか私用なのかはグレーゾーンと言わざるを得ない。そんなある時、企画課の女性社員・希梨香から相談を受けた沙名子。いわく、太陽はデザイナーの曽根崎とデキているのでは、とのこと。希梨香は暗に、彼の領収書の使い道が曽根崎とのデートによるものではないかと示唆したいようで……。

波風立てずに現在の生活を維持したいだけの経理部OL・沙名子が、なぜか社内のお金が絡む事件に次々と巻き込まれていくことに。

将来有望な営業マン・太陽が持ち込む領収書の疑惑に始まり、研究所の受付嬢が管理している現金過剰事件、そして高慢な美人秘書が直接持ち込んだ現金の謎。それらすべてに関わることになった沙名子は、知りたくないのにそれらの真相を知ることになってしまう。この手の小説では主人公がその旺盛な好奇心でもって事件を解決し、犯人たちをびしっとやっつけていくのが常なのだが、本作の主人公・沙名子はできればそんな事件には関わりたくないし、真相だって本当は知りたくなかったというスタンス。しかし経理内ではベテラン社員であり、なおかつその真面目な仕事ぶりから良くも悪くも信頼されている沙名子はある意味「狙いやすい」人物でもあるために、否応なくごたごたに巻き込まれしまうのだ。

お金が絡む事件となれば会社としては厳しい処分が下されることもままあるが、沙名子は真相を知りながらも、時にそれを隠すこともある。それはすべて、自身の平穏な生活を守りたいから。そして自分が「いい人」でないことを自嘲しつつ、どこかで息苦しさを感じているような素振りも見せるのだ。だからこそ活きてくるのが、中盤に置かれた太陽視点のエピソード、そしてその太陽が沙名子に対して向ける想い。これまで平坦な道をまっすぐ歩いてきた沙名子が、太陽という「(いい意味での)障害物」にぶつかった時何が起こるのか。はっきりとは描かれていないが、彼女がこれから変化していくことを思わせる結末がとてもよかった。

上海恋茶館 待ちぼうけのダージリン (コバルト文庫 あ 16-41)上海恋茶館 待ちぼうけのダージリン (コバルト文庫 あ 16-41)
青木 祐子

集英社 2012-04-28
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20世紀初頭の上海租界。英国人の少女・リリアはミルドレッド商会を興した貿易商ロバート・ミルドレッドのひとり娘。しかし父ロバートは、半年前に母と共に行方不明に。以来、リリアは保護者のフェイと共に、両親の帰りを待ちながら暮らしていた。そんな彼女の元にやって来たのは従兄弟のライオネル。彼は自分がリリアの婚約者であると告げ、母国イギリスに戻って自分と結婚するよう迫ってくる。上海から離れたくないリリアはフェイに依頼し、東洋人の「婚約者」を立ててライオネルを追い払おうとするが……。

ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズの作者の新作。今回の舞台は上海、そして紅茶。紅茶好きなご令嬢・リリアが、突然現れた財産目当ての婚約者から身を守るべく策を講じるのだが、その方法がかなり強気というか強引というか……箱入り娘、あるいは深窓のお嬢様のように見えて、意外としっかりちゃっかり、したたかな面も持っているというお話。

リリアの保護者である凛々しい美女・フェイも気になるが、それ以上に気になるのが、彼女が偽婚約者として連れてきた日本人の青年・楠木龍之介。なんらかの――おそらく女がらみの理由で上海に渡ってきたようだが、その理由やら正体やらは今のところ明かされないまま。リリアの依頼を受けて婚約者を演じたり、その後も彼女がピンチに陥った時に手際よく追いかけて助け出してくれたりするのだが、彼が最終的にリリアをどう思っているのかははっきりしないまま。そしてリリアが彼をどう思っているのかも同じくはっきりしないまま。そんな微妙なふたりの関係がとても気になる。

恋のドレスと白のカーテン ヴィクトリアン・ローズ・テーラー恋のドレスと白のカーテン ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ)
青木 祐子

集英社 2012-03-01
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アメリカに渡ったシャーロックは、ボストンでラリーと共に自動車開発に明け暮れていた。忙しい中でもクリスのことを想って手紙を出してはいたが、距離の関係もあって手紙の返事はなかなか届かず、もどかしい日々を送っていた。一方クリスもまた、シャーロックのことを想いながらも、パメラ不在の「薔薇色」でなんとか自立しようとしていた。そんな矢先、クリスを訪ねてハクニール公爵夫妻がやってきて……。

シリーズ本編22巻、ついに完結。
クリスと結婚するためにアメリカへ渡ったシャーロック。その隙に……というわけでもないが、シャーロックの父はふたりの結婚を認めるための条件を提示する。ひとつはクリスとシャーロックとの階級問題を解決するため、フリルの父・ウォリンフォード伯爵の養女になるということ。そしてもうひとつ、ハクニール家の跡継ぎ問題を解決するため、将来クリスが生んだ男の子をハクニール家に差し出せということ。アルフレイドの言いたいことはわかるし、感情的な問題を抜きにすればいい話と言えるかもしれない。けれど相手はクリス。養女の件については、実の母親であるリンダを切り捨てることになると考えてしまう。さらに子供の件については、リンダとのこれまでの関係から、おそらく自分が母親になることに対しての恐怖心があるのだろうし。そういうわけで彼女がこれを容易に受け入れられるはずもなく、そして頼りになるシャーロックもパメラもここにはいない。そんなクリスがとった行動が思いがけなくて、でも昔のクリスだったらここで考えるのをやめて身を引いたんだろうな……とも思ったりで、彼女の成長ぶりには思わずじーんとしてしまった。

なんだかんだとあったけれど、とにかく最後はふたりの結婚で幕が下ろされる。この結婚のせいでこじれてしまったアルフレイドとシャーロックの親子関係についてはソフィアが解決してくれたし(まさにGJ!な手際で、ソフィアさますてきー!という気分になること請け合いだった)、アディルやコーネリアは相変わらずだし、パメラも相変わらずだけど前よりぐっと大人の女になった気がするし、エドはやっぱりクリスを狙ってたんだなーとか、精悍なイアン先生が想像できないなーとか、ジャレッドは損な役回りだったからいつかいあわせになってほしいなーとかいろいろありましたが、最終的にはシャーリーがクリスのドレス姿に抱いた感想が一番すばらしかったりする(笑)。

クリスの作るドレスは恋のドレス。着る人の立場に立ち、その人の想いをこめて作るからこそ、着る人にぴったりの、そしてその美しさを引き立てるものが仕上がる。今までは「自分」がないからこそ、他者の想いを察知してドレスを作っていたというクリスだったけれど、ついに彼女は自分のためのドレスを作れるようになった。それはシャーロックに恋したから。恋は人を変える――まさにその通りな結末がとてもすばらしかった。


◇前巻(長編)→「恋のドレスと花ひらく淑女」
◇前巻(短編)→「聖者は薔薇を抱きしめて」

聖者は薔薇を抱きしめて ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 聖者は薔薇を抱きしめて ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ)
青木 祐子

集英社 2011-11-01
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クリスがシャーロックと婚約した。ずっと見守って来たクリスがようやく幸せになれるということに安堵しつつ、パメラは自分の今後のことを考えていた。イアンとアントニーは自分に対して好意を抱いてくれている。だが自分の過去を知って、それでもふたりはそのままでいてくれるのだろうか、と。そんな折、ガイアスタイン城での舞踏会で妙に自分のことを見ていた貴婦人のことが気になっていたパメラ。それを知ったアントニーは、パメラのためにその貴婦人について調べを進めるが……。

クライマックス直前のシリーズ、その短編集第5弾は番外編3本を収録。
クリスがドレスを作ることで、自分に好意を寄せる謎の男性と婚約者との間で揺れる依頼人の力になろうとする「十二夜の手紙」、イアン先生モテ期到来、その時パメラは?という「私の美しい人だから」の雑誌掲載分2本も面白いが、なんといっても一番読み応えがあったのは書き下ろしとなる表題作。ここでパメラの恋の行方に、ついに決着がつくことに。

イアンに惹かれていることを自覚したパメラだったが、そんな彼女の想いに影を落とすのは、彼女自身の過去。例え客を取っていなかったとしても、娼館にいたということを知った男が自分のことをどう考えるか――いかに好きな相手であろうとも、彼女は男と言うものを簡単に信用することができないでいた。そこにきて浮上してきたのが、パメラの両親の問題。孤児院に彼女を捨てた両親の存在が明らかになることで、パメラの動揺はさらに深くなってゆく。普段は気丈で怖いもの知らずな部分を前面に出しているパメラだけに、その不安定な心の動きが浮き彫りにされてゆく展開。恋は人を変えると言うが、まさにその通り。でもだからこそ、パメラが選び取った未来はとても彼女らしいもので、とりあえずひと安心。

これまでクリスはパメラを、そしてパメラはクリスを頼り、ふたりきりで寄り添って生きてきたけれど、ふたりとも新たなパートナーを見つけて、新たな一歩を踏み出すことに。これであとはクリスとシャーロックがうまくいってくれることを祈るのみ。


◇前巻(長編)→「恋のドレスと花ひらく淑女」
◇前巻(短編)→「キスよりも遠く、触れるには近すぎて」

恋のドレスと花ひらく淑女 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー  (コバルト文庫)恋のドレスと花ひらく淑女 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)
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ジャレッドに手のひらを打ち抜かれたリンダはイアンの元に身を寄せることに。彼女を修道院に入れようというシャーロックの提案を受け入れたクリスだったが、シャーロックの提案に従うリンダの姿に苛立ちを隠せない。一方その頃、シャーロックはクリスとの結婚を周囲に認めさせるために奔走するも、両親はおろか親族の支援もままならない。ついには廃嫡の可能性も出てきて……。

クライマックス直前!なシリーズ本編21巻。
今回はクリスとリンダ、そしてシャーロックとアルフレイド、それぞれの親子関係に焦点が当たっていく展開に。

まずはクリスとリンダ。これまでの経緯、そして現在の無気力で主体性のないリンダの態度にわだかまりを募らせる一方のクリス。彼女の周囲はリンダが闇のドレスを作り続けてきたことに対して許すか許さないか、その二択で彼女を見るのだろうが、クリスにとってはそうではなく、ただ彼女に自分の意志で生きてほしいという、その願いが根底にあるのだと思う。だからこその態度なのだし、別れの直前に喧嘩してしまったりするのだろう。まあでもそうやって、ため込まずに直接リンダに自分の想いを伝えることができるようになったのも、クリスの成長の証なのかもしれない。そしてそれはシャーロックとの恋のおかげなのかも。

一方シャーロック。廃嫡の可能性を示唆されたシャーロックがしたことと言えば、せめて自分の代わりとなる後継者がきちんとした人物であるように根回しをすること。親類を説得したり、後継候補と目されるレナード(かなり心配な人物……)の身辺に気を配ってみたり。彼の責任感の強さがうかがえていいエピソードだなあ、と思っていたら、ピンチと背中合わせのようなチャンスが。クリスのことも認めてくれているようだし、父親からのせいいっぱいの応援ということだろうか。

完全とは言えないが、両親の問題も片付きかけているので、あとふたりの結婚を阻んでいるのはやはり英国という国の有する「制度」あるいは「慣習」。再会したふたりがしあわせになれるのか、次の最終巻が待ち遠しい。


◇前巻→「ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと翡翠の森」

キスよりも遠く、触れるには近すぎて ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)キスよりも遠く、触れるには近すぎて ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (コバルト文庫)
青木 祐子

集英社 2011-09-01
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ロンドンとリーフスタウンヒルは遠く、そしてそれぞれの仕事が忙しいこともあり、なかなかクリスとシャーロックは自由に会うことができない。そんなある日、ふたりの前にロビーという青年が現れる。クリスの知人だというが、明らかに彼女に好意を持っているらしいロビーのことが気に喰わないシャーロック。ロビーに必要以上に近付くな、と手紙でクリスに忠告するシャーロックだが、クリスは彼がなぜそんなことを言うのか分かっていないようで……。(「キスよりも遠く、触れるには近すぎて」)

短編集第4弾は、シャーロックとクリスの微妙な距離感を描く表題作を含めた4編を収録。
とりあえずシャーリーは嫉妬しすぎ(笑)。たまに見せる居丈高な態度にかちんとくるが――まあそれは貴族だから仕方ないのかもしれないが――、でもまあ、結局はクリスが好きだからそういう態度に出てしまうというわけで、とりあえずは「ごちそうさま」の一言に尽きる気がする(笑)。

その他には、ジャレッド初登場の中編「七日目の憂欝」、クリスがガイアスタイン城に滞在していた頃のアントニーの奮闘を描く「彼の懐中時計」、そしてシャーロックの両親のなれそめを描く「石の王子と花姫の結婚」の3つのエピソードがあるのだが、なんといっても興味深かったのが「石の王子と花姫の結婚」。
あの厳格なアルフレイドと、天然系淑女のソフィアの出会いはなんとも意外な感じ。最初のうちはわりと反発しあっていたというのが、今のふたりからは想像もつかない。でもまあ、絵師さんの巻末おまけマンガにもあるように、アルフレイドとシャーロックはやっぱり似ているんだなあ、と思わされたりもして(笑)。


◇前巻(長編)→「恋のドレスと翡翠の森」
◇前巻(短編)→「聖者は薔薇にささやいて」

恋のドレスと翡翠の森 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫 あ 16-36 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー)恋のドレスと翡翠の森 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (コバルト文庫 あ 16-36)
青木 祐子

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シャーロックの実家であるガイアスタイン城に滞在を続けることになったクリスとパメラ。周囲の好奇の視線に耐えながら、クリスはただシャーロックを信じ続けていた。そんな折、シャーロックの父・アルフレイドとの面談が叶うことに。以前の約束を取り下げたいというクリスに対し、アルフレイドはそれを認めず、ある提案をする。一方、クリスに別れを告げられたリンダは、リコと共にマーシャル夫人のもとに身を寄せたまま。それに気付いたジャレッドはクレアに近付き、リンダを森の中におびき寄せるが……。

シリーズ本編20巻。シャーロック(実家含む)との関係、そしてリンダとの関係、それぞれに急展開が。
まずはシャーロック。アルフレイドが出してきた提案は、現状の先延ばしということ。貴族と労働者が結婚するなんてありえないと誰もが考える、この国の構造が変わるまでは待ってほしい、これまでだって待てたのだからこれからも待てるはずだとアルフレイドは言う。けれどそれは持てる者の理屈であり、外側の理屈であり、「上」の理屈であり。待てる待てないとかそういう問題じゃないだろう!とか思ってたらちゃんとクリスもつっぱねてくれてめでたしめでたし、と思うと同時に、クリスのその強さに改めて胸が詰まる。

アルフレイドの言葉、そしてシャーロックの親戚だというレナードやローレンスの言葉――クリスと結婚すれば、シャーロックだけでなく、ハクニール家もすべてを失うのだということを知ってもなお、クリスが下した決断。愛に生きることを決めたクリスの強さがまぶしい。けれど同時に、ふと不安にもなる。それは破滅の道にもなりはしないか、と。母リンダであったり、他の貴婦人たちの報われぬ恋も語られてきた物語だからこそ、クリスだって例外ではないと思ってしまうわけで。とりわけクリスにはその腕が――「闇のドレス」すら作ってしまう才能がある。ひとたびシャーロックとの間に何かあった時、クリスがリンダのようにならないとは言い切れず、それがどこか不安な影を落としてくる気も。

そしてもうひとつ、大事なのがリンダとリコのこと。リンダがジャレッドに追われて姿を消す中、暗躍を始めたのがリコ。自分が世界の中心であるかのように育てられたリコはクリスを憎み、とかく自己中心的な考えでもって周囲を操る。その矛先の向き方はなんとも予測不可能だが、まあこれに関しては経験不足がものを言ったということで……とりあえずオチがついた、と言ってもいいのだろうか?

でまあ、晩餐会もなんとか終え、ついにふたりが……!と思ったのも束の間、またしても現れるリンダと、それを追ってきたジャレッド。現在のジャレッドが誰の、何のために行動しているのかは分からないが、それでも彼の信念に沿った行動で会ったことは確か。いったいこの後、どうなってしまうのか……。


◇前巻→「ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと陽のあたる階段」

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青木 祐子

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クリスとの結婚を決意したシャーロックは、彼女を連れてランベスの城へと向かう。両親にクリスを紹介しようとするシャーロックだったが、待っていたのは無言の拒絶――ハクニール公爵はクリスに城の客室ではなくゲストハウスをあてがったうえ、まるでシャーロックに新しい花嫁候補を見つけろとばかりに多数の客人を招いていた。さらにクリス本人にも、その客人たちから好奇と侮蔑のまなざしが向けられて……。

シリーズ本編19巻、結婚に向けて動き出したふたりにとっての最大の難関――「身分違い」という問題が現実味を帯びて襲いかかる。

シャーロックはクリスと離れがたいと思いながらも、対応に寄っては彼女が周囲から愛人扱いされてしまう、とジャレッドから指摘を受け、ままならなさに苛立つばかり。ていうかジャレッドはどこにでもいるなあ……とか思いつつ、でもシャーロックはクリスのこととなると周りが見えなくなってしまうから、ストッパーとしての彼の存在はかなりありがたかったり。でもまさか、父親だけならともかく他の家族にまで拒まれるとは思わずシャーリー大ショック。読んでるこちらもちょっとびっくり。

一方クリスはと言えば、シャーロックを心の支えにして気丈に日々を過ごしていた。貴族夫人たちの好奇の目にさらされながらも、それでも落ち込まず逃げ出さず、ありのままでいようとするクリスの成長ぶりに驚かされる。前だったら倒れたりしてそうだったのに。パメラやリルだけでなく、コーネリアやアディルも陰ながらクリスを支えてくれているというのも心強い。なのでそうやって強くなったクリスを見るにつけ、シャーリーもっとしっかりしろ!と思ってしまうのは私だけ(笑)?

そんな事件の影で、クリスはついにリンダと決別しようとする。けれどそのリンダの背後にあるのはクライン卿の娘・リコの存在。シャーロックとの結婚問題と合わせ、こちらもまだまだ根が深そう……。


◇前巻→「ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと湖の恋人」

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