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読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 有川浩

別冊図書館戦争)ローマ数字2)  図書館戦争シリーズ(6) (角川文庫)別冊図書館戦争2 図書館戦争シリーズ(6) (角川文庫)
有川 浩 徒花 スクモ

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-08-25
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郁が結婚し、寮にひとりきりになった柴崎。そこに寮監の頼みで同期の水島が入ることになったのだが、階級が違うせいか、どうも卑屈な態度をとる彼女に内心苛立ちを隠せない。さらに業務の方では柴崎を目標としたある利用者のストーカー行為がエスカレート。図書特殊部隊に頼らず、なんとか対応しようとしていた柴崎だったが、手塚にそれを知られてしまう。手塚を彼氏ということにしてストーカー行為を諦めさせる作戦に切り替えた柴崎だったが、相手は借りた本を返さないという手段に出てきて……。(「背中合わせの二人(1)」)

「図書館戦争」シリーズ番外編2巻。今回は郁と堂上の出番は少なめ。堂上が小牧と出会い、今のような関係になるまでを郁に語る「昔の話を聞かせて」や、緒方副隊長のせつない過去を描く「もしもタイムマシンがあったら」、そして緒方副隊長の話に呼応するような、玄田隊長と折口さんのその後を描く「ウェイティング・ハピネス」もいいが、なんといっても今回の中心となっているのが、これまでずっと気になっていた柴崎と手塚の関係を描く連作「背中合わせの二人」。

頭脳明晰で眉目秀麗、けれどそれゆえに30歳手前にして彼氏不在の完璧女子・柴崎に次々と襲いかかる災難。利用者のストーカー行為から始まったそれは、柴崎の精神を追い詰めてゆく。親友とは言えど所属も違うし、結婚して寮から出てしまっている郁は柴崎の窮状に気付けないし、柴崎もまた郁には知らせまいと必死になって隠す。それは柴崎の虚勢であり、けれど親友に対する精一杯の気遣いでもあった。
となると、強そうに見えて意外ともろいところのある、そんな柴崎を支えてやれるのは、手塚しかいないわけで……災難ではあるけれど、これをきっかけに手塚との距離がぐっと縮まってかなりほっとしたりもして。いろいろあったけど、最後はとにかくよかったね、ということで。


◇前巻→「別冊図書館戦争1」

別冊図書館戦争 1―図書館戦争シリーズ(5) (角川文庫 あ)別冊図書館戦争 1―図書館戦争シリーズ(5) (角川文庫 あ)
有川 浩

角川書店 2011-07-23
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先の「当麻事件」を経て、晴れて両想いとなった郁と堂上。郁の看護(?)のおかげもあってか、堂上の怪我も治り、いよいよ職場に復帰することに。周囲に冷やかされつつもじりじりと距離を詰めていったりそうでもなかったりするふたりだが、図書館では相変わらず様々な事件が起こっていて……。

「図書館戦争」シリーズ番外編第1弾。帯にもあらすじにも後書きにも書かれているけど、とにもかくにもベタ甘注意。開始20ページくらいでもう「ああああまー!」と悶絶してしまったのは言うまでもないのだが、読んでいるとまあそれがクセになるというか……まあ、嫌いではない(笑)。

日々図書館で起きる様々な事件は、やはり本作が番外編ということもあってか、本編のような大規模かつ派手なものではないけれど、確かに「ああ、あるかも」と思ってしまうような、身近な問題もちらほら。問題を起こす人だって図書館の利用者。相手がいくら悪くても、その相手の立場で考え、問題を解決していく郁の姿がまぶしい。

でもまあ、そんな郁のやり方・考え方を誇らしく思う一方、やっぱり危険な目には遭わせたくないし、変な奴からは守ってやりたいし、とじりじりするのが堂上。そしてそんな堂上の不器用だけどさりげない優しさだとか、時に見せる強引さにひっぱられて腰砕けになってしまうのが郁。特に郁の場合、恋愛経験が乏しい上、母親の教育がよろしかったために「純粋培養純情乙女・茨城県産26歳」(柴崎・談)になってしまっているから、堂上に対して無意識に無防備な面をさらしたかと思えば、先に進み過ぎて尻込みしてしまう場面も。そんな郁に対する堂上の焦燥感も分からないではないが、まあそんなところも見ているこちらとしては可愛くて可愛くて……ああもうとりあえず強い酒をください。

まあそんな感じで郁と堂上のうれしはずかし恋愛エピソードがメインではあるが、その横でさりげなく進行してるっぽいのが手塚と柴崎の関係。まあこちらはどちらかと言えば一進一退というか膠着状態に見えなくもないが……続く2巻でこちらのふたりがどうなるのか気になるところ。


◇前巻→「図書館革命」

図書館革命 図書館戦争シリーズ4 (角川文庫)図書館革命 図書館戦争シリーズ4 (角川文庫)
有川 浩

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-06-23
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敦賀で原発テロが発生した。犯行グループは全員死亡したものの、その手口が人気作家・当麻の著作の内容に酷似していることから、良化委員は当麻を捕らえようとする。郁たち図書隊は良化隊に先んじて当麻の身柄の確保に成功。当麻の執筆制限を狙う良化隊から彼を守ろうと、様々な策を講じるが……。

シリーズ本編、4巻にて完結。
ひとりの作家を守るため、郁たちは世論への働き掛けを強めるように。そもそもメディア良化法の成立そのものが、世間の無知と当事者意識の薄さを逆手に取ったもの。それをひっくり返そうと、郁たちは手塚の兄がトップを務める「未来計画」とも共闘体制をとることになる。まあそのあたりで柴崎が大活躍するわけなのだが、そこで手塚との関係がなんかあんな感じになってにやにやが止まらないのはさておき(笑)。

当麻の作家としての権利を守るため、図書隊は大博打とも言える計画を実行に移すわけなのだが、そのさなか、良化隊の襲撃を受けて堂上が重傷を負うことに。堂上に後を託された郁は、その言葉に励まされながら任務を遂行するのだが、もうなんというかその底力というのがつまり愛なわけで。

幾重にも張り巡らされた陰謀と伏兵をかわし、任務遂行に至る終盤のエピソードは読み応えがあるし、解決後の爽快感と言ったらないのだが、それを支えている、郁と堂上の互いへの想いには胸が詰まる。思えば冒頭での初デートの時もじりじりしたものだが、ここにきてふたりの想いが一気にあふれるというか雪崩れる(としか言いようがない)展開には、もうただただ「ごちそうさま!」のひとこと。ああ、すっきり。


◇前巻→「図書館危機」

図書館危機 図書館戦争シリーズ3 (角川文庫)図書館危機 図書館戦争シリーズ3 (角川文庫)
有川 浩

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-05-25
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憧れの「王子様」が上官の堂上であることを知ってしまった郁は、「王子様」への想いと、堂上への想いとの間で揺れるように。そんな中でももちろん、図書館では次々と問題が起こる。館内での痴漢事件、郁たちの昇任試験、とある有名俳優のインタビューから発生した大問題。さらに郁の故郷・茨城で行われる美術展を巡り、大規模な作戦行動が行われることに。仕事をめぐっての両親との確執、茨城の図書館界で起こっている問題、そしてこのたびの良化委員との攻防――様々な問題が郁とその周辺の状況を大きく変えていくことに……。

シリーズ3巻は、最終巻直前ということもあり、ターニングポイント的な内容。
とにかく一番(?)の問題はやはり、郁が「王子様」の正体を知ってしまったこと。手塚の兄からの手紙、そして小牧の話からそれが真実だと知った郁は動揺しまくり。知らなかったとはいえ、本人の前でも「王子様」の話をさんざんしているし、その「王子様」と堂上を引き比べて、いろいろとひどいことを言ったりもしているし。さらに「王子様」の話をした時の堂上の渋い表情を思い出した郁は、自分は嫌われているのでは、と落ち込むことに。小牧の言葉から誤解は解けるものの、その後も郁はいろいろと意識しまくり、堂上のふとした気遣いやらなんやらに乙女スイッチ入りまくりでもう可愛いったら……!
ちなみに、自分の正体を知られたという事実を知らない堂上も、依然として郁に対していろいろと悩んだり意識したりで、これまた可愛いすぎる(笑)。

あとなぜか、ここにきて手塚と柴崎の関係にもなんとなく変化が? あれ、いつの間に(笑)?

とか言いつつ、図書隊と良化委員会、さらに手塚の兄の動向や世論の流れなど、状況はめまぐるしく変わりつつあるわけで。
世間が興味を持たないから「検閲」などという行為がスルーされ、良化委員がのさばることになった――はからずも郁が手塚兄との会話で気付かされた事実が、今回は図書隊にとっての追い風となる。けれどその一方、表現の自由を巡って武力抗争を続ける図書隊と良化委員会に対して、それを快く思わない一般人がいるのも確か。郁もまたこの茨城での作戦行動の中で大規模戦闘を体験し、その恐ろしさを――人を撃つことの恐怖を体感することになる。武力をもってやってくる相手に対抗するには、こちらも武力をもってするしかない。けれどそれは血で血を洗う状況、と呼ぶしかないわけで。争いは何も生まない、とは偽善的な言葉かもしれないが、それでも何かが解決しているかと言えばそうでもない。戦闘の結果としてはその場しのぎの結論が出るだけであって、根本的な状況はなにも変わらない。だからこそ手塚の兄はそこにつけこもうとするのだろう。

良化委員会、そして図書隊の双方が様々なダメージを被る中、手塚兄はどう動くのか。泣いても笑っても、次で最終巻。いったいどんな結末が待っているのだろうか。そしてもちろん、郁と堂上の関係も。


◇前巻→「図書館内乱」

図書館内乱  図書館戦争シリーズ(2) (角川文庫)図書館内乱 図書館戦争シリーズ(2) (角川文庫)
有川 浩

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-04-23
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図書館の防衛隊である「図書特殊部隊」の一員となった郁は、両親には自分が戦闘職種に就いたことを言えないでいた。そんな折、両親が職場訪問に現れるが、堂上たちの協力を得て、なんとかその追求をかわすことに成功する。ほっと胸をなでおろしたのも束の間、今度は堂上の友人であり片腕でもある小牧が、いわれのない罪で良化委員会に連行されてしまうことに。郁たちは小牧奪還のために策を練るが……。

シリーズ2巻。
次々と郁とその周囲に降りかかる問題だが、その内容は様々。
郁の両親来訪、小牧の連行、郁の友人・柴崎に付きまとう謎の男、そして手塚の家庭の事情……。「表現の自由を守る」というテーマひとつで、ここまで様々な問題を次々と展開させていくところが、とにかく「すごい」の一言。

今作の中で一番気になったのは、郁のルームメイトで、美人だけど毒舌家、そして驚くほどの情報収集能力を持つ図書館員・柴崎のエピソード。その美貌ゆえにこれまで人間関係がうまくいかないことが多かった柴崎は、自分を守るために面倒のないキャラを演じ続けていた。だが郁と接するうちに、そのスタンスが少しずつ崩れていくことに気付き始める。天然で裏表がない郁とは友達になりたいのだと、そう思うようになりつつあった柴崎。手塚の時もそうだったが、どんな相手にも態度を変えることなく、自分の思うがまま突き進む郁が、かたくなに「自分」を持っている人間にとっては眩しくて、だからこそ一緒にいたいと思わせるのかもしれない。そしてそれは堂上も同じなのかも。

図書館の自立のため、図書隊組織を公的なものにしようと企む手塚の兄が登場し、いろいろとキナ臭くなりつつある中、郁は口うるさくも自分のことを支えてくれる堂上のことが気になり始める。だがその矢先、ついに「王子様」の正体を知ってしまう。手塚兄の陰謀、そして郁の恋の行方はいったい?


◇前巻→「図書館戦争」

図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)
有川 浩

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-04-23
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公序良俗を乱すあらゆる表現を取り締まる「メディア良化法」が成立して30年――メディア良化委員会の行きすぎた検閲から図書を守るべく設立された組織「図書隊」に笠原郁は入隊した。高校時代に出会い、彼女を助けてくれた図書隊員を探すために。そして大好きな本を守るために。その身体能力と姿勢が認められた郁は、女性としては初めて、図書隊のエリート部隊である「図書特殊部隊」に配属されることになるが……。

本と恋を巡る人気シリーズの文庫化、第1弾。
身体能力は高いものの頭の出来は微妙、けれど本に対する情熱は人一倍で、かつて自分と、自分が好きな本を守ってくれた図書隊員を「王子様」と呼ぶ乙女な面も持ち合わせているのが主人公の郁。そんな彼女に目をかけながらも、上官の堂上は郁に厳しく接していく。堂上に反発しながらも成長する郁は、しょっちゅう突っ走ってはトラブルを起こしたり起こさなかったり。そんな郁のまっすぐさは、やがて周囲に様々な変化をもたらすことになる。

図書館と良化委員会がそれぞれ武装していて、本を巡って文字通りの抗争が起きるという突飛な設定と、郁を中心とした人間関係の変化がこの作品の軸となっている。そのどちらもが先が読めなくて面白い。
郁と共に特殊部隊に入ったエリート新入生・手塚が、当初は郁を見下して反発し合っていたのに、次第に彼女を認めるようになったりだとか、いつも郁に厳しい堂上の隠された本心だとか、物語が進むうちにいろいろと楽しい展開になっていくのがなんとも。アニメ化された際のDVDに収録されていた短編「ジュエル・ボックス」がこれまた素晴らしい展開すぎて、頬が緩みまくってしまうのは言うまでもなかったりする。続きが楽しみ。

シアター!〈2〉 (メディアワークス文庫)シアター!〈2〉 (メディアワークス文庫)
有川 浩

アスキーメディアワークス 2011-01-25
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2年間で劇団の収益から300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ――「鉄血宰相」春川司から提示された厳しい条件をクリアすべく、小劇団「シアターフラッグ」の面々は新しい興行を打ち、なんとか借金の残額を減らし続けていた。そうやって一致団結している中、劇団員たちそれぞれに次々と問題が起こり始めて……。

シリーズ2巻では、劇団経営が軌道に乗り始めた中、今度は劇団員たちに問題がぼろぼろ出てきてさあ大変、の巻。
物販での収益アップを図ろうと話し合う中、黒川が屈折した思いをもてあましたり。
千歳加入の際に劇団を辞めていった旧メンバーからの嫌がらせを受けたり。
オーディションに落ちまくっていたゆかりがはからずも大役を射止めたものの、そのせいで劇団での仕事ができなくなって慌てたり。
「うっかりスズべえ」の異名を持つドジっ娘・スズが千歳と大喧嘩したり。
そして最後の最後で、いきなり巧が姿を消してしまったり。

小劇団の団員ではあるが、同時に俳優であり、女優である面々。牧子は他劇団で客演したり、ゆかりや秦泉寺はドラマのオーディションを受けてテレビに出たりもしているが、一方で茅原はウェブデザイナーをしていたりするし、小宮山は自分の器用貧乏さに気付き、シアターフラッグ以外での俳優業には見切りをつけようしている。声優である千歳も含め、そうやって「シアターフラッグのメンバー」であること以外の立場も持っていて、そのあたりとの折り合いがついたりつかなかったり、ということが原因のよう。さらに旧メンバーとの確執だとか、借金返済の大きなめどが立たないといった状況も、それぞれのトラブルに拍車をかける。

けれどそんなトラブルを乗り切るのは友情パワー!……というよりかは、劇団を守りたいという一心。そしてそれは、口では「潰れればいい」と言いながらも、シアターフラッグの置かれている状況に正しく気付き、なんとかしようと奔走する司も同じ。大きな会場を借りられないなら、自分たちで作ればいいじゃない!というまさかの発想に至った司だったが、これが吉と出るか凶と出るか……続きも楽しみ。


◇前巻→「シアター!」

シアター! (メディアワークス文庫)シアター! (メディアワークス文庫)
有川 浩

アスキー・メディアワークス 2009-12-16
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それなりに人気のある小劇団「シアターフラッグ」。だがその実態は、なんと300万円もの借金を抱えており、解散の危機に瀕していた。主宰・春川巧は悩んだ末、会社員である兄・司に助けを求める。そんな司が提示したのは現金300万円と返済条件。いわく、2年間で劇団の興行収入から300万を返済、できない場合は劇団を潰すこと、と。ベテランの人気声優・羽田千歳を迎えることになったシアターフラッグの面々は、プライドを賭けて司の条件をのむことにするが……。

メディアワークス文庫での新作は、小劇団の再起をかけた奮闘記でもあり、劇団員たちの姿を描く群像劇でもあり。
とにかく切れ者の兄・司と、天然っぽいが人の心をつかむのが上手い弟・巧の春川兄弟をはじめとして、個性的な面々の掛け合いがとても楽しい。

売れない劇団員だった父親を見ている司は、弟が同じ轍を踏むことを恐れていたが、同時に弟が劇団を大事に思っていることも理解していた。だからこそ厳しい条件を提示するが、代わりに自身も劇団の運営に参加し、巧たちがどんな活動をしているのかを目の当たりにすることに。そこで見えてきたのは、巧たちのような小劇団の組織性のゆるさ、考えの甘さ――ひいては演劇界の矛盾や無駄。「鉄血宰相」と影で呼ばれつつも改革を断行していく司だが、決して冷酷なだけではない。劇団員たちの関係や性格までも見極めたうえで、飴とムチを使い分け、時には温情をかけながら動き回る司の姿は、なんともすがすがしく、かっこいい。

そんな司に実は惹かれているっぽい千歳、その千歳のために劇団を変える決意をする巧、さらにその巧に片想い中の看板女優・牧子……などなど、劇団員の中でほのかに恋愛模様も進行中。借金返済の行方もさることながら、こちらの進展具合も気になるところ。

ストーリー・セラーストーリー・セラー
有川 浩

新潮社 2010-08-20
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読書家の彼は、ひょんなことから同僚の彼女が書いた小説を読んでしまう。その物語の素晴らしさに感動した彼は彼女を好きになるが、小説を他人に読まれることがコンプレックスになっていた彼女は彼を拒否する。だが彼の熱意のおかげもあり、誤解が解けたふたりは付き合うように。やがて彼の勧めで投稿した小説が賞をとり、プロ作家になった彼女。彼はそんな彼女を支えようと決意するが、彼女の作品が売れ、有名になればなるほど、次々と難題が発生し始めて……。(「Side:A」)

新潮社のアンソロジー「Story Seller」のために書かれた中編「Side:A」、そしてそれに対応するように作られた書き下ろし「Side:B」の2作を収録した本作は、物語を書く側と読む側の間に生じた幸せな関係を描いた、けれどもどこかやるせない作品集。

フィクションであってもノンフィクションであっても、物語を書くということは自分のを中の何かを削り取っていく作業。削り取ったいくばくかのものを「書く側」から与えられた「読む側」は、感想というかたちでなにがしかを「書く側」に与えていく――まさにギブアンドテイクの関係。
この物語では、作家は最高の読者と出会い、いつしか彼と彼女は公私ともに最高のパートナーとなる。だがそんな幸せな時間は長く続かず――書く者と読む者、どちらかが失われんとする過酷な運命が2組の夫婦を襲う。

作家である妻が書くことを辞めざるを得なくなる「Side:A」の過酷さもさることながら、その「Side:A」をも巻き込んで、入れ子構造のごとく展開していく「Side:B」のトリッキーな展開は見もの。読者に判断が委ねられるラストには鳥肌が立った。「書く」ということの持つ不思議な魔力が込められた物語になっている。

フリーター、家を買う。フリーター、家を買う。

幻冬舎 2009-08
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会社の空気になじめず、就職早々3カ月で辞めてしまった誠治は、そのまま再就職活動もほとんどせず、実家暮らしでフリーターとして適当に働く日々。だがある日、母親の様子がおかしいことにようやく気付く。嫁ぎ先から駆け付けた姉の亜矢子によると、母親は長年続いた近所の人々からのいやがらせのせいで、重度の精神病状態に陥ってしまっていたのだという。ここ数年の父親と息子の険悪な雰囲気がそれに拍車をかけていたことを知った誠治は、姉と共に母を病院に連れていくと共に、父親にも状況を説明。しかし父親は精神病自体に理解がなく、頼れそうにない。誠治は引っ越し資金を稼ぐために夜間のバイトを始めつつ、就職活動を再開させるが……。

「日経ネット丸の内office」にて2007年に連載されていたフリーター就活小説の書籍版。親のすねをかじり気ままに暮らしていたフリーター青年が、家族崩壊を眼の前に一念発起、就職して家を買うための頭金を稼げるようになるというサクセス(?)ストーリー。

誠治の言い分もわかるし、父の言い分もわかる。精神病に対する理解が浅いのもわかる。そういった様々な齟齬がリアルに表現されていて、なんとなく身につまされるものがある。
そして、序盤での誠治のダメっぷりがこれでもかと描写されているから、その後の成長ぶりが見違えるようで、「うまくいきすぎ」と思いつつも素直に応援できるのは作者の力量なのかも、と思う。

ちなみに本編はそうでもないが、書き下ろし短編は近頃の作者の代名詞ともいえる「ベタ甘」テイストが混じった、本編の後日談。不足していた糖分はここで補充できる(笑)。

レインツリーの国レインツリーの国

新潮社 2006-09-28
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向坂伸行は、昔好きだったあるライトノベルの感想をネットで検索する中で、「ひとみ」なる人物の感想サイトを見つける。そこで書かれている感想に共感した伸行は直接ひとみにメールを送るのだが、その翌日にひとみからの返信が届く。メールのやり取りをするうちに、ひとみに惹かれていた伸行は、直接会うことを提案。かくして出会ったふたりはデートめいたことをすることになるが、ひょんなことから、彼女が聴覚に障害を持っていることが分かり……。

恋愛小説……ではあるが、いつものあまーい!展開ばかりではないのは、ひとみの障害がふたりの関係にささくれのようにひっかかってくるから。ひとみのことが好きな伸行は、彼女の持つ障害への理解を深めようと努力するが、それだけではうまくいくはずもなく。そしてひとみの方も、今までの経験から、伸行に対して素直になれず自己嫌悪。

メールではうまく話せるのに、実際に会って一緒に行動をすると、齟齬は顕著になってしまう。けれどそれを繰り返すうちに、そしてメールでのやり取りを通じて、少しずつ変わっていくふたりの関係がとても心地よい。

障害のことを抜きにしても、メールやチャットで繋がり合い、関係を深めていくそのスタンスはとても現代的で、帯の「青春恋愛小説の新しいスタンダード」という惹句にもうなずけた。

植物図鑑植物図鑑
有川 浩

角川書店(角川グループパブリッシング) 2009-07-01
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ある夜、ひとり暮らしのOL・さやかの住むアパート前に、男が行き倒れていた。俺を拾ってくれませんか、という一言に、酔っぱらっていたさやかはいたくウケてしまい、自分の部屋に連れ込んでしまう。イツキと名乗っただけでそれ以外の素性はさっぱりわからない彼だったが、長身で見目もよく、なにより家事万能で料理上手。彼の提案に乗って、ついついハウスキーパー代わりに居候させることになってしまい……。

携帯サイトで連載されていた有川浩の新作は、奇妙な同居生活から始まる、作者お得意のベタ甘ラブストーリー。

礼儀正しく優しくてまじめ。家事万能で料理もうまい。なんという優良物件!というイツキだが、さやかに「拾われる」までどうしていたか、そもそもフルネームすら彼女に教えようとはしない。過去に触れるようなことになると言いよどむのだが、その嘘のつけない不器用さも可愛らしい――そんなイツキにいつしか惹かれるさやかだったが、彼の素性がわからないというその一点が、ふたりの関係に影を落とす。
両想いになるまでも、なってからも、そしてラストまでの展開も、これまたベタ甘い感じなのだが、それがもうたまらない。

そんなベタ甘話に加え、面白いのがイツキの植物知識。野生の植物に詳しく、休日にさやかを誘っては野草狩りをし、その収穫物でおいしいご飯を作る。その過程も読んでいてとても楽しい。1冊で2度おいしい、そんな雰囲気の1冊。

空の中 (角川文庫 あ 48-1)空の中 (角川文庫 あ 48-1)
有川 浩

角川グループパブリッシング 2008-06-25
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200X年、四国沖上空にて2件の航空機事故が相次いだ。ひとつは超音速ジェット機の試験機体、そしてもうひとつは実験飛行中の自衛隊機。ジェット機の製造元の社員・春名高巳は事故調査委員として、事故に遭遇した上官・斉木と共に実験飛行に参加していた女性自衛官・武田光稀のもとを訪れる。最初はかたくなな態度を崩さなかった光稀だったが、次第に高巳の真摯な態度に触れた彼女は、ついに彼を事件空域に連れて行く。そこでふたりは、斉木の機体がぶつかった、超高度空域に存在する「なにか」と遭遇する。
一方、高知に住む高校生の斉木瞬は、実験飛行中の事故で自衛隊員の父を亡くした直後、海辺で奇妙な生物を拾う。クラゲのようなその風貌の生物に「フェイク」と名づけてしばらく観察していた瞬だったが、ある日、携帯電話の電波を利用して、「フェイク」が彼に語りかけてきて……。

デビュー作「塩の街」、そして第3作「海の底」と並んで《自衛隊3部作》と称されることになる、作者の第2作目。陸海空の「空」編。
子供パートと大人パートの同時進行でつづられる未知との遭遇、葛藤、そして恋! あらすじに書かれている「スペクタクルエンタテインメント」は伊達ではない。けっこうな厚みがある本作だがすらすらと読ませる勢いはじゅうぶん。

文庫版には書き下ろしの「仁淀の神様」を併録。これは子供パートの主人公・瞬のその後を描く短編で、泣ける話。スペクタクルのあとでこれを持ってくるのだから余計に胸にくる。

ちなみに大人パートの主人公、高巳と光稀については《制服ラブコメ》第1弾「クジラの彼」にその後の話が載っているので、アフターサービス(笑)は完璧。こちらはラブコメなのでニヤニヤできるし、読者からの要望が多かったというのも頷ける。本作を読んだら、ぜひそちらも。

阪急電車阪急電車
有川 浩

幻冬舎 2008-01
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宝塚駅を起点とした、阪急今津線を走る電車の中で起こるささやかなエピソードを各駅停車で描く連作短編集。

図書館で見かけた、自分と読書傾向の似た女性に電車内で遭遇した青年。彼氏を友人に寝取られた女。なかなかシビアなおばあちゃんと犬好きの孫娘。顔がいいだけの男と別れるかどうかを悩む女。たまたま同じ電車に乗り合わせた、同じ大学の同級生の男女。……などなど、様々な人々が登場して、電車という狭い空間の中でその瞬間を生きている。

いろいろな境遇・立場の人々がすれ違い、影響し合う。さっきまでは他人だった人の何気ない一言が人生を変える、そんな一期一会じゃない物語。ささやかなことの積み重ねが日々をつくっていく――そんな当たり前のことを、改めて感じさせてくれる作品だった。

クジラの彼クジラの彼
有川 浩

角川書店 2007-02
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「ラブコメ今昔」に先んじる≪制服ラブコメ≫短編集第1弾。

聡子が合コンで出会った彼氏・冬原は潜水艦乗り。おかげで半端ない遠距離恋愛状態になってしまって……という表題作「クジラの彼」。
空自の輸送機のトイレをめぐる攻防を描いた「ロールアウト」。
生意気で居丈高な同期の女性自衛官・三池と、そんな彼女に振り回されつつも、一途に想い続ける伸下との関係を描く「国防レンアイ」。
「クジラの彼」の同僚・夏木が年下の彼女・望にプロポーズするまでの道のり「有能な彼女」。
色恋沙汰で脱柵(つまり脱走)する新人たちを指導するふたり――このふたりにもいろいろあったのよ、な「脱柵エレジー」。
有能なファイターパイロットを妻に持つ高巳の悩みと決意を描く「ファイターパイロットの君」。

……以上の6本を収録。
こちらもベタでラブでコメな展開。こういうのが好物な方はぜひ。

作者の他の作品の登場人物が出ているということもあり、その元作品も読んでみたいところ。

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