phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: *海外の作家


ライルたち「シャルルマーニュの騎士」に勝利してから約半年。夏休みを迎えたウィルたちは、自分たちの特殊能力にまつわる「パラディンの予言」について、そしてホッブズや騎士たちの目的を知るため、ロッカールームの用具係・ネップステッドを訪ねる。ネップステッドの指示で彼の拘束を解くための「鍵」を探すことになったウィルたちは、先の事件の際に迷い込んだ地下トンネルへ再び潜入することに。各々の能力を生かしつつ潜入に成功したウィルたちだったが、そこで目にしたのは廃墟となった地下都市で……。

映画化進行中のSF学園ミステリ3部作、第2弾。今回は潜入捜査からの人外な敵との戦いが前巻をしのぐ勢いで描かれてゆく。

いつの間にかウィルとブルックとエリースが三角関係になっていたりするのが気になるのだが(笑)、そこはまあさておき。前巻で唯一特殊能力を発揮していなかったブルックも、今回の冒険のさなかでついに「目覚める」ことに成功。ウィルをはじめとするアライアンスの5人が、それぞれの能力を活かしながら地下を探検したり、謎の敵と戦ったりで、なんというか映像化したらさぞかし映えるだろうなあという展開が連発。襲い来る敵の強大さにはらはらしつつも、5人の連携プレイがなんとも楽しい。

終盤には前巻で行方知れずとなったウィルの「守護天使」ことデイヴの行方がはっきりしたものの楽観視できる状態ではなかったり、敵のボスとおぼしき人物が姿を現したり、かと思えばアライアンスにまさかの内通者が!?というところで「続く」となっていたりで、今巻は最後の最後まで災難続き。とりあえずニックは除外するとして(笑)、ウィルの言う通り、あの人が本当に内通者なのだろうか……いろいろ気になるので最終巻もやっぱり待ち遠しい。


◇前巻→「秘密同盟アライアンス パラディンの予言篇(上)(下)」

人間以前 (ディック短篇傑作選)人間以前 (ディック短篇傑作選)
フィリップ・K・ディック 大森望

早川書房 2014-11-07
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高等数学を解せるようになる12歳になれば魂が宿ると定義付け、人間として認められるという法律が制定された。よってそれより年若い子供は、親の申請があれば「中絶」――処分することが合法的に可能になった。12歳を過ぎた少年・ウォルターはしかし、いまだに処分される子供を連れ去る「中絶トラック」の存在に怯え続けていた。母親は「中絶」が決まった子供はトラックによって郡施設に連れて行かれ、そこで里親に引き取られるだけだとウォルターを諭すが、ウォルターはそれが名目上だけのことであり、実際は子供たちが殺処分されていることを知っていて……。(「人間以前」)

大森望によるディック短編集第6弾。編者いわく、幻想系SFと子供をモチーフにした作品が中心とのこと。ちなみに私はこれが初ディックだったりする。

表題作の「人間以前」は、12歳より幼い子供を《人間以前》と定義して合法的に処分できるという法律がまかり通るディストピアSF。食料や燃料の枯渇が目前となっているがために、文字通りの口減らしが目的で制定されたという背景が現実とも重なるようで薄ら寒い気分になってくる。

これ以外で特に面白かったの以下の4編。

・「地図にない町」……駅員のペインが遭遇したのは、「メイコン・ハイツ」行きの定期券を買おうとする男。しかし地図にも路線図にもそんな町の名前は載っていない。しかもそのことを指摘した瞬間、男は文字通り姿を消してしまう。しかし男の証言を元にペインが向かった場所には、果たしてその町があって……という、とにかく狐につままれたような話。

・「妖精の王」……さびれたガソリンスタンドで働くシャドラックは、ある雨の日に妖精の集団と出会う。トロールに追われて逃げているという一団を自宅にかくまったシャドラックだったが、そのうちに負傷していた妖精の王が死に、後継者としてシャドラックを指名する。妖精の王になってしまったシャドラックはどうなってしまうのか……本人は妖精の存在を認め王となるが、周囲から見れば発狂したようにしか見えない。その齟齬が恐ろしい。

・「父さんもどき」……チャールズはある日、ガレージの中で父親がふたりいるのを見てしまう。しかしその直後、部屋に戻ってきた父親はひとりだけ。目の前の「父親」が別のなにものかにとって代わられたことを悟ったチャールズがガレージで見たものは。まさにホラー。

・「ナニー」……フィールズ家のふたりの子供のために購入された子守ロボット・ナニー。その存在に大変助かったと喜ぶ母親だったが、彼女にはひとつ気がかりなことがあった。子供たちが寝静まった夜中に、なぜかナニーが外に出ているのだ……。ナニーの外出理由、そしてこの子守ロボット全般に仕込まれているプログラムとは。企業に踊らされるとはまさにこのことか。

秘密同盟アライアンス(上): パラディンの予言篇 (ハヤカワ文庫SF)秘密同盟アライアンス(上): パラディンの予言篇 (ハヤカワ文庫SF)
マーク フロスト Mark Frost

早川書房 2015-02-10
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秘密同盟アライアンス(下): パラディンの予言篇 (ハヤカワ文庫SF)秘密同盟アライアンス(下): パラディンの予言篇 (ハヤカワ文庫SF)
マーク フロスト Mark Frost

早川書房 2015-02-10
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幼い頃から何度も引っ越しを繰り返してきた15歳の少年、ウィル・ウェスト。彼には優れた身体能力と謎の特殊能力――自身の脳内イメージを他者に伝えることが出来る――があったが、両親はなるべく目立たないように生きることと、父が定めた「人生のルール」を守ることを繰り返しウィルに言い含め、彼はそれを守って生きてきた。しかしある朝、登校前のジョギングに出たウィルは、謎の黒ずくめの男たちに追われることに。父親からのメールと、突如発揮された洞察力でもって追手を撒いて登校したウィルだったが、今度は教師から呼び出しを受ける。なんでも先日の全国学力テストでウィルが1位を取ったからだという。両親の教えに反して目立つことをしてしまい冷や汗をかくウィルだったが、同じく教師に呼び出された母親は怒るどころか普通に喜んでいた。帰宅してもウィルの手柄を喜ぶ母親に違和感を覚えたウィルは、母親が別人にすりかわっているのではと考え、家をこっそりと抜け出すことに。その道中でも自分が確実に追われていることを察知したウィルは、テストの結果を受けてやってきた「統合学習センター」なる学校からの招待を受け、単身センターへと向かい……。

ドラマ「ツイン・ピークス」の制作総指揮やハリウッド映画の脚本執筆等を務めたマーク・フロストによる、全3部作となるジュブナイルSFシリーズ、第1弾。

主人公は、ごく普通――を装って生きてきた少年・ウィル。隠していた能力をうっかり発現させてしまったことで、謎の組織に追われることになるのだが、その組織の背後には人類の歴史に隠された陰謀があるというのだからなんともスケールが大きすぎる。逃亡中の飛行機に現れたこの世にいるはずのない謎の怪物たち、そして「デイヴ」と名乗るウィルにしか視えない男の存在がまさにそれ。ウィルは本来デイヴの所属する勢力の一員になりうる存在であるため、デイヴはウィルを守っており、反対に彼が敵対する勢力「ネヴァー・ワズ」は邪魔ものであるウィルの命を狙っているのだという。ウィルはいつしか世界の存亡そのものに関わるふたつの勢力の争いのキーパーソンとして巻き込まれることになってしまう。

そんなエンタテイメント大作めいた設定と同時に進行してゆくのが「統合学習センター」での学園生活。これまで引っ越し続きだったうえ、目立たず友人も作るなという両親の教えに従ってきたウィル。しかしこのたび、しっかり者の美少女・ブルックやミステリアスで皮肉屋な美少女・エリース、口が達者で博学な少年・アジェイ、身体能力に優れているがちょっとおバカなお調子者・ニックといったルームメイトたちと出会うことになる。ウィルには次々と災難が降りかかるのだが、いつしかウィルはルームメイトたちにすべてを打ち明け、協力を得ながら難題を解決していくことになる。初めてできた友人たちとの日々に、戸惑いながらも喜びを感じるウィルの姿がとても生き生きと描かれていて、青春ものとしても楽しめる作品。今回のセンター内での事件はひとまず解決したものの、ウィルたちの能力の秘密、姿を消したデイヴの行方、明かされた父親の正体、そしてまだ終わっていないネヴァー・ワズとの戦いなど、まだまだ問題も謎も山積。続く第2部、第3部が早くも待ち遠しくなってくる。

vN (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)vN (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
マデリン・アシュビー

早川書房 2014-12-19
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フォン・ノイマン型自己複製ヒューマノイド――通称「vN」であるエイミーは5歳の少女。本来であれば、ほとんどのvNは生まれてすぐに大人の姿に成長するのだが、彼女は両親――人間の父親とvNの母親・シャーロット――の意向で、普通の子供と同じ成育スピードで育てられていた。しかし幼稚園の卒園式の日、式の最中に現れたのはシャーロットにうりふたつな彼女の「母親」、ポーシャだった。ポーシャはエイミーに近付こうとしたところを邪魔した少年を簡単に投げ飛ばして殺し、掴みかかってきたシャーロットと組み合っていたが、そこに乱入したのはエイミー。エイミーはポーシャに噛みついてこれを倒すが、同時に大人の姿へと一瞬で成長してしまい……。

「新☆ハヤカワ・SF・シリーズ」第2期として刊行された、作者の第1長編。

「vN」というのは自身の破損を自己修復および再構成したり、あるいは「複成」を作って同じ系統(クレード)のvNを増やすこともできるというヒューマノイド。彼らに組み込まれている「フェイルセイフ」は、訳者があとがきでも書いている通り、いわゆる「ロボット三原則」のさらにキツいバージョンのようなもので、無条件で人間を愛し、服従し、人間が傷付く様を見ると途端に機能不全に陥るという性質を持たされている。しかし主人公のエイミーのフェイルセイフが故障している――あるいは最初から備わっていなかった――ことが判明したことで、彼女は追われる身となってしまう。しかも祖母であるポーシャを手にかけて以来、彼女の中にはポーシャの意識が同居することになり、事あるごとに彼女の身体の主導権を奪おうとするのだからさらにたちが悪い。物語はまだ幼かったエイミーが、逃亡生活の中で精神的にも成長し、自分の存在意義を問い続けるというような内容となっている。

わりとあっさりと描写されてはいるが、エイミーは実にひどい目に遭い続ける。しかしその自己修復能力で、芯が見えるくらい腕が焼け焦げたり、または全身をバラバラにされかけても元に戻ってしまう。さらにそれらの状況に摩耗しないだけの精神力も持ち合わせているのだから、あまり深刻な状況には見えなかったりもする。加えてエイミーの良くも悪くも幼い部分がそれらを助長してゆく。しかし彼女は明らかに迫害されているし、経たすれば世界中が彼女の敵にまわっているかのような状況。彼女の裡で囁き続けるポーシャの言葉はあまりにも身勝手だが、エイミーの立場を思うと、彼女を守ろうとするまっとうなものにも聞こえてきて、誰の言い分も正しいようなそうでもないような、という揺らぎに襲われる。しかしそんな中、ある意味では一番まともなのが、同じvNであるハビエルの存在。エイミーを助けたせいで大変な目に遭いながら、そして一時は見捨てようとしながらも、最終的にはエイミーの側にいるという選択を下す。彼がいたからこそのこの結末なのだとすれば、ハビエルこそがエイミーの居場所であり、エイミーもまたハビエルの居場所になれたのかもしれない。そう考えると、この話は実は壮大なラブストーリーだったのかも、などと思ったりして。

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
スティーヴ・ハミルトン 越前敏弥

早川書房 2012-12-09
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8歳の時に遭遇したとある事件から生還したことで、周囲から「奇跡の少年」と呼ばれるようになった少年・マイクル。しかしそれと同時に両親を失い、さらに口がきけなくなってしまう。伯父のリートに引き取られたマイクルは、成長と共にふたつの才能を開花させることとなる――すなわち、絵を描くことと、様々な鍵を解錠すること。それは彼の運命の恋の始まり、そして「解錠師」としての人生の始まりであった……。

世界の様々な小説賞を受賞したという、長編青春ミステリ作。
服役中のマイクルが自身の過去を振り返るという体裁で、このたび彼が逮捕されるに至った事件までの足跡と、伯父に引き取られてから「解錠師」となるまでのふたつのエピソードが交互に描かれてゆく。

伯父のもとで暮らすさなか、壊れた鍵に興味を持ったマイクルは、独力で鍵の構造を学び取り、そのうち金属片を使って簡単な鍵なら解錠できるようになっていく。だが高校生の時、それを知った友人たちに唆されてマーシュという男の家に不法侵入し、それが判明したせいでマーシュに「保護観察」の名目でこき使われることとなるのだが、そのことがきっかけで、マイクルの人生を変えるふたりの人物と出会うことになる。ひとりはマーシュの娘にしてマイクルの最大の理解者、そして最愛の女性であるアメリア。そしてもうひとりは、マイクルを自分の後継者とするために高度な解錠技術を叩きこんだプロの金庫破り「ゴースト」だった。

身なりをきちんとしていればかなり見られる容姿であるマイクルは、その技術、後ろ盾の存在、そして口の堅さで「依頼人」――つまり金庫破りを必要とする犯罪者たち――からは信頼されていた。口がきけないことでアメリアとも心を通わせることができたし、解錠師としての「仕事」もそれなりにスムーズにはいっているが、そもそも彼が解錠師になってしまった原因のひとつも、やはり「口がきけないこと」これに尽きる。とはいえ、物語はマイクルの一人称で進んでゆくので、彼が決して無感情な人物ではないことが分かる。様々なことに対する懸命さ、ひたむきさ、そして誠実さ――彼のその性格は美徳であり、それゆえに彼自身を追いつめてゆくことになるのだが、それでも彼の心の中には常にアメリアがいて、彼女と出会って以来、彼女のために生きてきたというのがこれらのエピソードでありありと語られてゆく。だからどれだけ周囲がふたりを引き離そうとしても、そしてマイクルが犯罪者として服役していたとしても、アメリアもまた彼のことを想い続けていることがわかる結末にはほっとさせられた。マイクルという人物にまつわるミステリ小説、そしてクライムサスペンスであると同時に、青春小説・恋愛小説としての側面もある、なかなか読みごたえのある作品だった。

白金の王冠 (創元推理文庫)白金の王冠 (創元推理文庫)
レイ・カーソン 杉田 七重

東京創元社 2014-05-22
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インビエルノをなんとか退けたものの、アレハンドロは死に、その遺言によってエリサはホヤ・ド・アレナの女王として即位することになった。民衆は新女王の即位を支持するものが多数ではあるが、一方で戦争による復興がままならず、不満の声が高まっているのも確か。また、最高評議会である「五人会」のメンバーたちも、近衛師団の司令官であるヘクトールを除き、彼女の存在を快く思っていないことは明白だった。そんな中、アレハンドロの納骨所でエリサは何者かの襲撃を受け、重傷を負う。幸いゴッド・ストーンのおかげで回復したものの、その隙を狙ったコンデや将軍たちによっていくつかの政策を動かされたあげく、次の伴侶候補を押し付けられそうになってしまい……。

激動のファンタジー3部作、第2巻。
インビエルノとの戦いで初恋の相手と夫の双方を亡くしてしまったエリサは、まだ17歳であるにも関わらず、まったく後ろ盾のない状態で女王として大国を統治することになってしまう。懸命に女王として行動するエリサだが、今回は国内での足の引っ張り合いに苦労させられるはめに。しかももちろん、まだインビエルノの脅威は去っておらず、ばかりか彼女に――ゴッド・ストーンの持ち主への試練がまだ終わっていないことも分かり、エリサの前には問題が山積み。しかもそのどれもに、国家の命運と自分の命の両方がかかっていると言っても過言ではない状況。恐れるなという方が無理な場面の連続だが、それでも果敢に、神を信じて立ち向かってゆくエリサの姿がとてもまぶしく、応援したくなってくる。

しかもそんな中、エリサは新たな恋心の芽生えを自覚する。その相手は彼女を支え続けてくれた近衛のヘクトール。相手もその気があるようだし、ここでひとつくらいエリサもいい目を見てくれれば……と思ったのだが、なかなかそうはいかず。立場、影響、どれをとっても看過できない問題が付きまとううえ、乳母のヒメナはなぜか猛反対。ヘクトールも公人として自分の想いを抑えるのに必死だし、なんというかエリサが報われなさすぎて可哀相になってくる。そこにきて今回のラストで引き離されるふたり。次の最終巻で、ふたりが結ばれることを願ってやまない。


◇前巻→「炎と茨の女王」

炎と茨の王女 (創元推理文庫)炎と茨の王女 (創元推理文庫)
レイ・カーソン 杉田 七重

東京創元社 2013-12-21
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オロバジェ国の第2王女エリサは、4世代にひとりのみ現れるという、神に選ばれた証「ゴッド・ストーン」をその身に帯びる16歳の娘。彼女には神に与えられた何らかの使命があるということだが、それが何なのかまったく分からぬまま、婚礼の日を迎えようとしていた。結婚相手は自国の2倍もの国土を持つ砂漠の国ホヤ・ド・アレナの国王アレハンドロ。美しく聡明な姉と違って容色も悪く、常に劣等感を抱き続けていたエリサだったが、初めて出会ったアレハンドロは美しい男性で、エリサにも優しく微笑みかけてくれたのだった。期待と不安を胸に、乳母のヒメナ、侍女のアネアクシを伴いホヤ・ド・アレナへ向かったエリサ。しかし道中で襲撃を受けてアネアクシを失い、ようやく王宮に着いたかと思えば勝手口から秘密裏に入城。王妃としての部屋を与えられたものの、対外的には王妃ではなく「オロバジェ国王の名代」として扱われることに。何かがおかしいと思いながらも、アレハンドロの言う通りに過ごしていたエリサだったが……。

初翻訳となる異世界ファンタジー3部作、第1部。

主人公のエリサは、その生まれのために――自身に課せられた「ゴッド・ストーン」のことを知りたかったがために――勉強熱心なところはあるけれど、基本的には食べることが好きで、出来の良すぎる姉がいるために劣等感を絶えず抱えていた少女。だから婚礼の前日にも、自分の容姿を見てがっかりされるだろうから、相手も自分のように見るに堪えない容姿ならいいのに、などとお祈りしてしまうくらい。けれどそんなエリサがホヤ・ド・アレナに向かったことから、運命の輪が廻り始めてしまう――神に選ばれたがゆえの、過酷な運命へと。

ことほどさように卑屈というか劣等感の塊なエリサだが、姉からかけられた最後の言葉を胸に、王族として精一杯振る舞っていく。たとえアレハンドロから妻扱いされていなくても、王宮で彼の愛人や前妻との間の子供に会っても、そして亡き前妻の美しい肖像画を見ても。心がくじかれることはたくさんあっても、エリサは涙を隠し、オロバジェの王女として、アレハンドロの妻として、そして「ゴッド・ストーン」の持ち主として、見事なまでに振る舞った。そうやっていくつもの困難を乗り越え、新しい恋に出会い、心強い仲間と出会い別れ、最後の最後ではホヤ・ド・アレナ転覆の危機を救ってみせる――箱入りの王女様から、救国の女傑となるまでの過程が、エリサの目覚ましい成長と共に鮮やかに描き出される。わりとボリュームのある内容にも関わらず、一気に読まされた。
しかも、そんなにも波乱万丈だったというのに、今作はまだ第1部。続く2部、3部には何が待ち受けているのだろうか。

ミストクローク―霧の羽衣〈3〉永遠(とわ)の大地 (ハヤカワ文庫FT)ミストクローク―霧の羽衣〈3〉永遠(とわ)の大地 (ハヤカワ文庫FT)
ブランドン サンダースン

早川書房 2011-01
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潜入したファドレクス・シティで、支配者・ヨーメンに捕らえられたヴィン。牢の中で彼女に語りかけてくるのは、亡くなった兄・リーンの姿を借りた〈破壊〉神だった。〈破壊〉神との会話の中で、ヴィンは〈破壊〉神の性質とその狙いに気付き始める。一方、ヴィンが捕らえられたことで絶望しかけているエレンドは、コロスの大群と自軍でファドレクス・シティを包囲しつつも、どうすべきか考えあぐねていた。ウルトーにいるセイズドはなおも自問を続け、カンドラの里から脱出したテン=スーンは、ヴィンの元へと走る。〈破壊〉神を封じ、押しとどめていた〈保存〉神の力が弱まる中、世界はどうなってしまうのか……。

シリーズついに完結。2巻まででさんざん絶望的な状況を見せつけられただけに、すべて解決できるのかどうか疑問に思っていたのだが、そこは「サンダースンの雪崩」。とにかく何を書いてもネタバレになってしまうので多くは語れないのだが、ぎりぎりまで絶望に満ちた状況を綴りつつ、最後の最後でいちどきにひっくり返されてしまうこの展開ときたら……! これまでの「ミストボーン」「ミストスピリット」で起こった出来事は、すべてこのラストに集約されると言っても過言ではなく、どこまでも計算しつくされた物語だったのだと改めて感じさせられた。

とにかく最後まで諦めないこと。絶望の淵を何度も覗きこみながら、それでもヴィンは戦ったし、そんな彼女を見て、エレンドも、セイズドも、テン=スーンも戦いをやめず、最後まで走り続けた。そんな結末は必ずしもハッピーエンドとは言い切れないのかもしれないけれど、それでも確かに希望の光は差した。とにかく読めばわかる。最後までまったく想像のつかない物語だった。


◇前巻→「ミストクローク−霧の羽衣−2 古からの声」

ミストクローク―霧の羽衣― 2古からの声 (ハヤカワ文庫FT)ミストクローク―霧の羽衣― 2古からの声 (ハヤカワ文庫FT)
ブランドン・サンダースン

早川書房 2010-11-24
売り上げランキング : 4410

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人を殺す「霧」の謎、蠢く〈破壊〉神の存在、悪化するばかりの状況――それらを打破する鍵は支配王の遺した貯蔵庫にある。ヴィンたちは二手に別れて、残された貯蔵庫がある都市を訪れる。セイズドとブリーズは「同志市民」が街を治めるウルトーへ向かい、スプークと再会する。だが以前とはまったく趣の変わってしまったスプークに戸惑いを感じ始めていた。一方、ヴィンとエレンドが訪れたファドレクス・シティは、ヨーメンという義務官が街を治めていた。ふたりはヨーメンが開催している舞踏会に飛び込み、ヴィンは女たちの間を渡り情報を集め、エレンドはヨーメンと対峙して貯蔵庫を明け渡すよう交渉することに。だがいずれの指導者も、エレンドによる統治をよしとせず、交渉は難航の一途をたどることに……。

シリーズ最終章2巻。
軍を動かす前にまずは話し合いを、ということでそれぞれの街に赴いたエレンドたちだったが、どちらにしてもなかなうまくいかない。そうこうするうちにヴィンが捕らえられたり、スプークが「炎の生き残り」としてケルシャーと同じくらいの尊崇を集め始めたり……と、いろいろな歯車が少しずつかみ合わなくなってきた印象。

相変わらずセイズドは絶望の淵から這い出せずにいるが、それでも「信仰」についての検討を続けることに躊躇し始めるそぶりも見せ始める。残りの「信仰」の中に、自分を救ってくれるものがなかったら、自分はどうすればいいのか――と。それほどに深い傷を抱えたまま、セイズドは目の前にあることをこなしていく日々を送る。
そしてスプークもまた「ケルシャー」の幻影(?)と共に行動を続けるように。ヴィンの前に死んだはずの兄・リーンが現れたことといい、すべてが〈破壊〉神の策略なのでは、と思うのだが、どこまでがそうなのか、まだはっきり分からない状態。

次巻で完結する――はずなのだが、どう収拾がつくのだろうか。いつものように気になってしまう。


◇前巻→「ミストクローク−霧の羽衣−1 新たな救い手」

クシエルの啓示 3―遙かなる道 (ハヤカワ文庫 FT ケ 2-9)クシエルの啓示 3―遙かなる道 (ハヤカワ文庫 FT ケ 2-9)
ジャクリーン・ケアリー

早川書房 2010-10-22
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ヒアシンスを救うための「唯一の神の御名」を求め、フェードルはジョスランやイムリールと共にサバへ向かう。だがその「御名」自体がサバでも禁忌の存在。「御名」を納めていると言われる聖櫃はカポレト島と呼ばれる場所に存在するらしいが、それを知るのはごくわずか。そして長老評議会はフェードルにその場所を明かすことを拒否する。だが伝承を守り続けてきた女たちはフェードルの境遇とこれまでの経緯を聞き、カポレト島への行き方を秘密裏に教える。フェードルたちはこっそり船を出し、カポレト島へと向かうが、上陸直後に評議会の追手に捕捉されてしまい……。

第3部、ついに完結。
ヒアシンスを救うための最後の旅は、これまでと同様、過酷なもの。数々の試練を乗り越えて「御名」を得たのも束の間、メリザンドとの最後の対峙や怒れるイサンドルとの対面、そして最後の――本当に最後の旅。「御名」を解き放ち、天使ラハブを祓うというとてつもないことをフェードルはやってのける。けれどそれは葛藤と悩みに満ちたもの。ヒアシンスと解放することができても、彼とは昔のようには戻れない。フェードルにはジョスランがいるし、ヒアシンスには別の相手がいる。わかっているけど抑えられない寂寥感にさいなまれながらも、フェードルはヒアシンスを送り出してやる。これまでに払った犠牲はあまりにも大きかったけれど、フェードルが得たものもまた大きい。長い長い旅路の果ての結末には思わず涙が出てしまった。

現時点では未定なのかもしれないが、続編の翻訳も期待して待ちたいところ。


◇前巻→「クシエルの啓示2 灼熱の聖地」

ミストクローク ―霧の羽衣― 1 新たな救い手 (ハヤカワ文庫 FT サ 1-9)ミストクローク ―霧の羽衣― 1 新たな救い手 (ハヤカワ文庫 FT サ 1-9)
ブランドン・サンダースン

早川書房 2010-09-30
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ヴィンが〈即位の泉〉で謎の悪しき力を解放してしまってから1年――日に日に降灰量は増しているうえ、霧が出る時間も長くなり、その霧にとり殺される人々は続出していた。先の事件で〈霧の落とし子〉となったエレンドは、ヴィンと共に各地を回り、獣人に襲われる集落を救い、自身の領土としながら、亡き支配王が密かに作り隠していた「貯蔵庫」を探していた。正確には、その中に隠された支配王からのメッセージを……。

シリーズ最終章1巻は、前巻の1年後の物語。
ヴィンとエレンドは、ヴィンが解き放ってしまった悪しき力――〈破壊〉神を再び封じ、世界を元の形に戻すための手掛かりを探していた。とはいっても、その「元の形」というビジョンが、ふたりの間では異なっているのも事実。エレンドは国を立て直すこと、そして霧をなんとかするというのが目的だが、ヴィンはそれ以上のことを目的としていた。すなわち、太陽が輝き、「花」や「緑色の植物」に覆われた、今では遠い昔のものとされる「世界」を取り戻すこと。エレンドも、そしてこれまでならそういう伝承だとか昔語り的なことに対しては肯定的だったセイズドでさえ、彼女の正気を疑うこともしばしばだったりするのがもどかしい。

エレンドはそれでもヴィンの考えを受け入れようとしているのでまあいいとして、問題はセイズド。ティンドウィルの死ですっかり参ってしまった彼は、「たもちびと」である自身の使命もそっちのけで、これまで収集し研究してきた「信仰」すら捨てようとしていた。
これまでにないような猜疑心でもって、多くの「宗教」が信仰に値するかどうかを吟味していくセイズドにはぞっとさせられる。ティンドウィルをそれほどにも大事に思っていたというのが、びっくりするほど伝わってくるような変貌ぶりだが、彼が立ち直ることはできるのだろうか?

そして、すっかり投げやりになっているのがもうひとり。先の戦いで叔父を亡くしたスプーク。なんかもう幻覚的なものが見えてきているあたり、かなりやばそうなのだが、彼の前に現れた「ケルシャー」は一体何なのだろうか?
さらにもうひとつ、ヴィンにカンドラの秘密を明かしてしまったことで、仲間たちに捕らえられ、断罪されようとしているテン=スーンのエピソードもある。

こうして今巻では、この4人のエピソードを交互に語りながら、この世界の真実の姿があらわにされていく。霧のこと、神のこと、そして4人の抱える絶望の行方――あと2冊でどうカタがつくのか気になるところ。

◇前巻→「ミストスピリット−霧のうつし身−3 秘められし言葉」

クシエルの啓示〈2〉灼熱の聖地 (ハヤカワ文庫FT)クシエルの啓示〈2〉灼熱の聖地 (ハヤカワ文庫FT)
ジャクリーン ケアリー Jacqueline Carey

早川書房 2010-08-30
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謀反人メリザンドの息子・イムリールの足跡を追ってメネケットの国王に謁見したフェードルだったが、そこでもたらされたのは絶望的な事実だった――イムリールは奴隷商人の手によってすでにドルージャンに送られていた。ドルージャンは現在、それまで崇められていた光の神ではなく、それと敵対する闇の神を奉じる、破壊と絶望に満ちた国になっているという。イムリールが闇の神への供物となることに気付いたフェードルは、すなわち自分がその身代わりになるべきだということまで察してしまう。かくしてフェードルは自ら奴隷となり、ドルージャンに潜入することになるが……。

第3部・2巻は、さらなる過酷な運命がフェードルに襲いかかる。
なんといっても筆舌に尽くしがたいのは、ドルージャンに奴隷として向かうことになった経緯。フェードルがイムリールの身代わりになろうとしたのは彼女自身の思い付きではなく、彼女の信仰するエルーア神の啓示であったということ。そのことに気付いたフェードルは啓示に抗う意思を見せるが、その瞬間に神々はフェードルから離れていこうとしてしまう。ジョスランもその瞬間、確かにフェードルの瞳から「クシエルの矢」が消えかかったように見えたのだと言う。その事実に絶望するフェードルだが、さらに恐ろしいのは、ドルージャン王から受ける仕打ちに対して、彼女自身がどこかで悦び、どころかいっそうそれを求めようとする意識が確かに存在していたこと。ここにきてまたしても、アングィセットという性質がもたらす、底知れない絶望を味わうことになってしまう。彼女の課せられた運命に、ドルージャンの後宮――「奥」に囚われていたドルシッラやカネカは唖然とするのだが、その思いは読者のそれと重なるもの。なぜここまで人の身に過酷な運命が課せられるのか。そしてそのために彼女が失っていくものがどれだけ大きいのかということ。

紆余曲折を経てイムリールを救い出すことはできたものの、今回の1件で、せっかくこれまでうまくいっていたはずのジョスランとの関係に、わずかではあるが影が差してしまったこと。そしてヒアシンスを救うという案件はいまだ進展のないまま。3巻はヒアシンス問題が一気に動くのかもしれないが、イムリールの件がきれいに片付いたわけではないし……まだまだフェードルの苦難は続きそう。すべて解決して、皆が幸せになれる結末なんて難しいのは分かっているけど、それでも願わずにはいられない。


◇前巻→「クシエルの啓示1 流浪の王子」

トゥルーブラッド2 歪んだ儀式 (ソフトバンク文庫NV)トゥルーブラッド2 歪んだ儀式 (ソフトバンク文庫NV)
シャーレイン・ハリス 多田 由美

ソフトバンククリエイティブ 2009-08-19
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スーキーの勤め先のコック・ラファイエットが何者かに殺された。その犯人の手掛かりを探そうしていたスーキーに、恋人であるヴァンパイアのビルは、彼の上司である古参ヴァンパイア・エリックがスーキーに仕事を依頼してきたことを告げる。気が進まないながらもエリックのいるバーに向かおうとした矢先、今度はスーキーが「酒神バッカスの巫女」といわれる超自然的な存在・メナードに襲われて瀕死の重傷を負う。ビルやエリックのおかげで一命を取り留めたスーキーは、癒え切らない身体を押してエリックの依頼を受けざるを得なくなる。かくしてスーキーはそのテレパス能力を駆使し、ダラスの長老ヴァンパイアの弟の失踪事件を究明しようと試みるが……。

シリーズ2巻。前巻のイントロダクション的な内容とは一変し、ヴァンパイアとそれを取り巻く情勢、そしてヴァンパイアと人間の意識の隔たりが見せつけられるように綴られていく。

ここで登場したのが、ヴァンパイアの撲滅を掲げるカルト集団「太陽教団」。ヴァンパイアの存在に異を唱えるだけでなく、彼らを太陽の元に引きずり出して「浄化」しようと言うその教義はあまりにも極端で乱暴なもの。その教団に探りを入れる過程で囚われたり、またしても重傷を負ったり、とにかく生傷というか大けがが絶えないのがスーキー。ビルがついていながら……とも思うが、いかんせん彼は昼間は動けないので、護衛としては全く役に立たなかったり(苦笑)。

そしてそんな中、じわじわとスーキーに接近しつつあるのがエリック。教団の襲撃から、エリックは身を挺して彼女を守った。彼女の安否を気遣わず、復讐心に駆られて真っ先に飛び出していったビルとは対照的なその姿にぐらっときかけたスーキーだったが、ビルに言わせればそれこそ計算だという。いわく、彼女に自分の血を飲ませたかったからだ、と。実際、エリックはスーキーをかばって銃弾を受け、スーキーは彼のためにその銃弾を吸い出してやったため、その時に数滴、彼の血を飲んでしまっている。

ヴァンパイアは自身の食事として人間の血を飲むが、逆に人間がヴァンパイアの血を飲むと一時的に身体能力が向上するうえ、その血の持ち主が、飲んだ人間の意識を読みとれるようになるのだという。そこまでするか、という気もするが、それだけ本気なのだと思うとただただ恐ろしい。

というわけでスーキーとビル、エリックの三角関係が微妙にスタート。今のところビルが優勢だが、以後どうなるのか……。


◇前巻→「トゥルーブラッド1 闇夜の訪問者」

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ラ・セレニッシマに潜伏していたメリザンドによる謀反事件の終結から10年――フェードルはモントレーヴ女伯爵として、ジョスランと共に平和に暮らしていた。だがある夜、少年の姿のヒアシンスが彼女に救いを求める夢を見る。おりしもその頃、ヒアシンスが囚われている島に謎の天変地異が起こる。様子を見に島に近付いたフェードルにの前に現れたヒアシンスは、「早瀬の主」が亡くなったことを告げたのだった。絶望と狂気に蝕まれつつあるヒアシンスを救う手立てを求めるフェードルの元に、さらに今度はラ・セレニッシマ幽閉中のメリザンドから救いを求める手紙が届き……。

シリーズ第3部がついにスタート。
先の事件を経て平和な日々を過ごしたのも束の間、30代を過ぎますます美しくなったフェードルの前に、かねてからの懸案事項がいきなり決断を迫ってくる展開に。

まずは第1部で、テールダンジュとアルバを結ぶ海峡を治め、両国の往来を阻んできた「早瀬の主」の正体を言い当て、その後継者として、フェードルの代わりに島に囚われてしまった「流浪の王子」ヒアシンス。「早瀬の主」に、そして彼にかけられた呪いを解くため、フェードルは様々な文献を当たり、その中で「唯一の神」の御名が、力ある言葉として呪いを解くことのできる鍵かもしれない、という回答を得る。しかしその「唯一の神」の御名自体が失われて久しいもの。その手掛かりがまたぞろ海の向こう、どこに存在するか見当もつかない、伝説上の未知の国だというからさあ大変。

そしてもうひとつ、シリーズ全体を通してフェードルと敵対することになったメリザンドからの依頼、という問題が発生。テールダンジュ国内に匿われていた彼女の実子・イムリールが失踪したため、その行方を調べてほしいという。しぶしぶながらも彼女の依頼を受けたフェードルだったが、イムリールの失踪事件――つまりこちらも、文字通り「流浪の王子」になってしまった――によって、これまたフェードルはその足跡をたどって旅をする羽目になってしまう。

なんにせよ今回の旅――方向的には、現実の地図をあてはめるならエジプト・アフリカ大陸方面――は長く、そして過酷な旅になりそうな展開。
なにをとってもいいことのない展開の中で、唯一の救いなのがフェードルとジョスランとの関係。第2部で互いの大切さが身にしみたふたりは、今では互いのことを理解し合い、とても仲良くなっているご様子。これからもフェードルを様々な苦難が襲うだろうから、その時にジョスランが横にしっかりいてくれれば、フェードルもみすみす命を取られるようなことはないはず。このふたつの問題が――少なくとも、ヒアシンスの方だけでも――なんとかならないものか、とじりじりしながら続きを待つ。


◇前巻→「クシエルの使徒3 罪人たちの迷宮」

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アメリカ南部の小さな町ボン・タンでウェイトレスとして働くスーキーには、ある秘密があった。それは、生まれながらにして人の心が読めること。このテレパス能力に彼女は幼い頃から苦しめられており、いつしか心の奥底では、自分と同じような、普通ではない境遇の「誰か」を求めるようになっていた。そんなある日、彼女の勤める店にビルという青年が現れる。スーキーは、ヴァンパイアだという彼の心を読めないことに驚き、同時に喜びの色を隠せない。そんなビルと急接近するスーキーだったが、おりしも町ではヴァンパイアとおぼしき咬み痕の残された遺体が見つかる。ビル、そして被害者の女性と関係を持っていた彼女の兄がそれぞれ疑われていることを知ったスーキーは、テレパス能力を使って事件に迫ろうとするが……。

アメリカにてドラマ化され人気を博したヴァンパイアストーリー第1巻。
自分の能力を「障害」だと考え、踏み込んだ人付き合いができぬまま25歳になったスーキー。そんな彼女が心を読めなかったビルは、まさに彼女にとってうってつけの人物で、あっという間に彼のことが気になり始める。ビルもまたスーキーに一目惚れしたようで、ふたりの恋はわりと順調。

……と言いたいところだが、なかなかそうもいかない理由がひとつ。それはまさに、スーキーは生きている人間であり、ビルはすでに死んでいるヴァンパイアだということ。ヴァンパイアという「生き物」の存在が認められて数年、人々の間では――特にこの物語の舞台であるボン・タンのような田舎では――まだヴァンパイアに対する嫌悪感や偏見は根強く、最初のうち、スーキーは周囲に止められ、ビルに近付くことすらままならない。そんな中で、ヴァンパイアが絡んでいそうな殺人事件がおこったものだからさらに大変。まさにロミオとジュリエット状態だが、そんな中スーキーは、今まで忌み嫌っていた自分の「障害」を「能力」として使い、事件解決に乗り出す。そのバイタリティあふれる行動はまさにアメリカンな感じもするが、一方で恋する女として、自分を危険にさらしてまで大切な人のために動くというのはやっぱり世界共通なんだなあ、とも思ったり。

ストーリーはわりとアメリカ製のドラマっぽい展開で、大人のラブあり・ミステリーあり・アクションありでてんこもり。スーキーとビルの関係に明日はあるのか?とか、ビルが逆らえない、ボン・タン周辺を統括する古参ヴァンパイア・エリックがスーキーのことを気にしていることとかも含め、続きも気になるところ。

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