そもそも目的や目標がなく、唯一の友人との関係も煩わしく感じるようになった千春は、高校を中退し、ある病院に併設された喫茶店で働いていた。ある日、最近よく見かける女性客が文庫本を忘れていることに気付いた千春。いつもは閉店前に帰っていくその女性が、その日は珍しく声をかけるまで閉店に気付いていなかったこともあり、千春はその文庫本――「サキ」という男性が書いた短編集が気になり始める。やがて文庫本を返したり、そのお礼にとブンタンをもらったりしたことがきっかけで、彼女と少しずつ言葉を交わすようになった千春。さらには彼女が先日忘れていったサキの短編集を読み始め……。(「サキの忘れ物」)
2015〜2020年頃に発表された9作品を収録した短編集。
表題作は、ある女性との出会いがきっかけで、苦手だった小説を読むようになり、少しずつ生き方が変化していく少女が主人公。それまで流されるがままに、周囲にもあまり関心を抱かず生きてきた千春が、少しずつ自分のしたいこと、できることを見出していく――というとなかなかエモーショナルな展開になりそうなのに、とにかく淡々と、けれどその変化がしっかりと描かれているのがとてもいい。
表題作以外で気になったのは「ペチュニアフォールを知る二十の名所」という作品。タイトル通り20の項目に分かれて、《ペンシルベニア州ペチュニアフォール》という都市の歴史を語っていくという内容。最初はその土地がパワースポットだという話だったのだが、読み進むにつれてなにやら不穏な雰囲気に。語り手(案内人?)があからさまに不審な内容を口にしながらも誤魔化そうとする流れが逆に面白くなってくる。
また、個人的に面食らったのは「真夜中をさまようゲームブック」。これはゲームブックと呼ばれる形式(各パラグラフの最初に番号が振られていて、最後に示されたいくつかの選択肢に沿って、別のパラグラフへと移動を続けることで、物語が展開していく)で作られており、どんなエンディングにたどり着けるかは読者次第、というもの。主人公は夜遅く帰宅したものの、家の鍵をどこかに落としてしまい、手持ちのお金もほとんどなく、深夜過ぎて友人を頼ることもできず、さあどうしようというところからスタート。タイトルの通り「真夜中をさまよう」ことになるのだが、私は2回連続で死んでしまってゲームオーバーというまさかの展開に(笑)。その後、なんとかラストまでたどり着けたので一安心なのだが(ちなみにラストは何パターンかある)、物語としてはなかなか奇妙な展開だったように思う。
















