phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 宮木あや子

ヴィオレッタの尖骨
宮木 あや子
河出書房新社
2017-09-14

声楽を学んでいる絵梨は、先生の勧めで音楽科のある高校へ進学。そこでバイオリンを学んでいるひづると出会う。互いの奏でる音楽に惹かれ合ったことで、ふたりは親しくなるのだった。そんなある夏の日、美術科が使っている棟に忍び込んだふたりは、そこで紫菫と名乗る美しい少年と出会う。彼を見ていると、声楽の先生が言っていた「人間の身体は楽器」という言葉を思い起こす絵梨。特に彼のくるぶしから突き出たまるく、尖った骨に目を奪われていた。そしてそれはひづるも同じで、彼女は手首の骨から目が離せないのだという。それ以来、3人は親しく付き合うようになるが……。(「ヴィオレッタの尖骨」)

書き下ろしを含む4本の短編を収めた作品集。

宮木あや子の書く少女たちはとにかく危うさを秘めていて、けれど決定的な破滅に至るということはあまりない。いや、普通に考えればこれは破滅といっても差し支えない状況なのかもしれないが、当の彼女たちはそんなことは微塵も考えてはいないのだ。もしかしたら諦念や達観はあるのかもしれないけれど、行き場がないことを彼女たちは恐れていない。だから絵梨とひづるは容易く彼らをその手にかけた。「針とトルソー」の茉莉は靴を湖に沈め、「星の王様」の弌花はその半身ともいうべき双葉を見送り、「紫陽花坂」の夕子は人知れず姿を消す。どうしようもない運命から逃げられないからそうしたのではなく、自身の意志でそうした。そこに「逃げる」という感覚はおそらく存在していない。そしてそれが不幸だという認識ももちろんない。そこにあるのはきっと少女たちの本能、ただそれだけなのだろう。

校閲ガール トルネード
宮木 あや子
KADOKAWA
2016-10-27

ゴールデンウィークを目前に控えたある日、悦子に是永からの連絡が入る。いわく、軽井沢の別荘に行きませんか、と。予約していた友人が行けなくなったため、代わりに行くよう頼まれたというのだ。ふたつ返事で快諾した悦子だったが、一方で自分と是永の関係が恋人同士なのかそうなのかまだはっきりしていないということもあり、この旅行でそのあたりを見極めようと決意。しかし向かった軽井沢でふたりが遭遇したのは貝塚で、なぜかふたりは貝塚が参加するランチパーティーに連れて行かれることに。そこで悦子は、現在校閲を担当している作家・森林を見つける。実は悦子は、彼の雑誌連載の原稿に、監禁を匂わせるようなメッセージが隠されていることに気付いていて……。

現在連続ドラマも放映中の、校閲・河野悦子の活躍(?)を描くシリーズ第3巻。

今回は3本立てで、まずは是永との仲が深まりそうな一方で謎のメッセージを送る作家の真意をはからずも推理する「校閲ガールと恋のバカンス」、次に悦子がついにファッション誌の編集者になる「辞令はある朝突然に」、そして1巻からこれまでのエピソードの総括となる「When the World is Gone〜快走するむしず」。特に「辞令は〜」と「When〜」は急転直下とも言える展開続きで、なんと「辞令は〜」の中で作中時間は一気に半年も進む。憧れのファッション雑誌編集者になった悦子がどうなったかというのは読んでからのお楽しみということで置いておいて、とりあえず悦子はこのエピソードを通して、そして他の面々――例えば森尾や是永――も2巻の各人のエピソードを通して、大きな転機を迎えることになる。

好きなことを仕事にすべきだという人もいれば、すべきではないという人もいる。前者は「好きだからこそ楽しい」あるいは「長続きする」という理由だろうし、後者は「逆に嫌いになってしまう」という理由があるのだろう。悦子はファッション誌が好きだからその編集者になることを願った。けれど彼女は何の因果か校閲者になり、はからずもその才能が花開いてしまう。そんな経験を経て、今巻で念願の職業に(臨時ではあるが)就くことができた悦子は、その結果をどう受け止め、飲み込んだのだろうか。いろいろと考えさせられるラストではあったが、意外や意外、そこで貝塚の言葉が救いになるとは夢にも思わず(笑)といったところ。これで完結っぽいのだが、できればその後の悦子の活躍も見てみたいと思った。


◇前巻→「校閲ガール アラモード」

校閲ガール ア・ラ・モード
宮木 あや子
KADOKAWA/角川書店
2015-12-18

ファッション雑誌の元読者モデルというコネもあり、現在は「C.C」の編集者として働く森尾は、元モデル仲間のキャサリンと再会。彼女がその後、絵に描いたような勝ち組人生を送っていることを知った森尾は、自分の境遇と比べてつい落ち込んでしまう。そんなある時、撮影を終えた森尾は、同じ建物内で撮影していた他者の編集者と出会う。業界でもモード誌として有名なファッション誌の副編集長だという八剣は、森尾の経歴を聞くと、なぜか自分の編集部にスカウトしたいと言い出して……。(「校閲ガールのまわりのガール・森尾」)

ファッション誌の編集者を夢見ているはずが、なぜか校閲部に採用されてしまったオシャレ女子・河野悦子の活躍を描くシリーズ第2弾……はしかし、「校閲ガール」悦子の出番はほとんどなし。今巻はスピンオフのような形式で、悦子の周囲の人々のエピソードを収録した短編集となっている。

というわけで今回の主人公は、悦子の同期で雑誌編集者の森尾からはじまり、悦子と同じく校閲部に所属する「ガールなんだかボーイなんだか」な米岡、同じく悦子の同期で文芸編集の藤岩、藤岩の先輩で悦子とは犬猿の仲な文芸編集の貝塚、悦子からは陰で「エリンギ」と呼ばれている校閲部の部長・茸原、そして「番外編」としてエロミス作家・本郷が登場。前巻の裏側で彼らがどんな事態に遭遇し、なにをしていたかが描かれていく。

あのおカタイ藤岩が彼氏(東大の院生!)と「くうたん」「りおんたん」と呼び合うバカップルテイストな仲だったとか(というか藤岩の下の名前が「りおん」だとは……)、いい加減な仕事しかしないと悦子から評されていた貝塚が、売れそうにないけれどいいものを書く作家の本を出すために奮闘していただとか、そんな意外な一面が垣間見えるのが楽しかったのだが、一番衝撃的だったのはエリンギ部長が主役の「校閲ガールのまわりのファンジャイ」(ちなみに「ファンジャイ」というのは「菌類」という意味らしい。ひどい・笑)。

エリンギに似ていると悦子に評されている部長だが、本名は「茸原渚音(たけはら・しょおん)」という耽美さすら漂うキラキラネーム。しかしそんな彼は、かつて文芸編集者として働いていた時期があったという。そして彼が編集を辞めることになったきっかけが、担当していた新人作家・桜川葵の存在。彼女との日々の光景はそれはもうすさまじく、この本に収録されているのが不思議なくらい温度差の激しいエピソード。しかしそんな日々を経て、再会したふたりの関係がどこか切ない甘さを持って迫ってくる。「セレモニー黒真珠」の木崎が本作にちらっと登場するのだが、そこで彼が発した台詞には思わず涙が出てしまった。


◇前巻→「校閲ガール」

校閲ガール (角川文庫)
宮木 あや子
KADOKAWA/角川書店
2016-08-25

ファッション雑誌の編集者に憧れて入社したはずの出版社で、校閲部に配属されてしまった河野悦子。名前が「校閲」に似ているせいでこんな配属になったのだと嘆きつつ、悦子は「職務を全うしていれば転属もありえる」という上司(エリンギそっくり)の言葉を胸に、普段読みつけない小説の校閲作業に日々勤しんでいた。そんなある日、悦子はエロミスで有名な大御所作家・本郷大作の新作で、明らかに移動時間の計算が合わない個所を発見してしまい……。

2016年秋にドラマ化も決定した、「校閲」と呼ばれる仕事に悪戦苦闘しつつ、周囲で起きるトラブルに次々と巻き込まれていくオシャレ大好き女子・河野悦子の日々を描くお仕事小説シリーズ第1巻。

とにかく衣食住のうちの「衣」にすべてを費やし、これまで読んだ愛読誌の内容はすべて覚えているというくらい、ファッションとそれを取り上げる雑誌に対する情熱は人一倍なのが主人公の河野悦子。早く編集部へ異動になりたいがために、所属する校閲部でも周囲から好かれないようにと毒舌を吐きまくるという図太い一面があったり、そんな涙ぐましい努力を受付嬢たちからは「オシャカワ(ただし「おしゃれで可愛い」ではなく「おしゃれしてても無駄で可哀相」)」と陰で呼ばれていたり、編集者の貝塚(社内での仕事ぶりがわりと適当)とは犬猿の仲だったりと、ある意味ハイスペック(?)な女主人公だったりする。しかしこれまた犬猿の仲だった同期のおカタイ文芸編集・藤岩といつの間にか仲良くなったり、例のエロミス作家・本郷のトラブルを解決したりと、その面倒見の良さとパワフルな行動力には最初から最後まで驚かされてしまった。

個人的なイメージとしては某森見氏や某円城氏を彷彿とさせる、奇妙な作風のイケメンアフロ作家・是永との関係も気になるところ。そして、いつか悦子は憧れの雑誌編集になれるのか、あるいは校閲業を極めるのか、そんな彼女の行く末をぜひとも見守りたい。

喉の奥なら傷ついてもばれない
宮木 あや子
講談社
2015-10-20

泣き叫ぶ娘を裸にして部屋の外に放置する明日香。かつて自分が母親にされたことと同じ事をしているという自覚はあれど、そこに罪悪感はなく、そして止めることもなかった。そんな明日香が4か月前に再会したのは、中学時代の同級生・明良だった。お互い結婚していることを知っていて、それでもふたりは時折外で会うようになる。「良かった、生きてて」と呟き合う明日香の脳裏によみがえるのは、17年前に明良と駆け落ちした時のことだった……。(「天国の鬼」)

《愛情と呼ばれる檻につながれている人へ》という、印象的な一文から始まる短編集。各種雑誌に2011〜2015年にかけて発表された6作品が収録されている。

あまりにもインパクトの強いこの作品集の題名は、「天国の鬼」という短編の中の1節。中学生の頃、母親から虐待されていた主人公・明日香は、望まぬ進路を押しつけられ苦悩する同級生・明良と駆け落ちする。そうして隣の県まで逃げのびたふたりだったが、お金が尽きればもはや逃げ場はない。死を選択したふたりは、最後に抱き合いながらも、互いの身体に誰にも気付かれない、けっして消えない傷を付けようとする。それが「喉の奥」。逃げ場を失った明日香はすべてをあの日々の中に置き去りにしてしまったのだろう。だから今、互いに伴侶のいる身で明良との逢瀬を重ねてはいるが、今の伴侶と別れるということにはならない。ふたりは欠くことのできない半身で、喉の奥に付けた傷ごと互いのものであり、そしてふたりはあの駆け落ちした日にもう「死んで」しまっているのだから。

この短編集に登場するのは、いずれも逃げ場を失い、袋小路でもがき続けるように生きている女性たちばかり。自然で「正しい」食生活を追い求める喜紗子。金目当てで資産家の老人と結婚した麻貴。自身が開いたピアノ教室の生徒であるサラリーマンが気になって仕方ない美鶴。夫に逃げられた後、勤め先で出会ったやくざの男の愛人になった紗枝。高校生の娘の生活に過剰なまでに干渉する美和子――夫や子供といった家族によって生き方を固定させられ、その中で静かに絶望し、それでもその関係の中にあったはずの「愛情」に縛られて、一歩も前に生み出せない女たち。けれどその愛情を捨てられず、歪むしかない女たち。《その檻、意外と脆いかもしれないよ》という一文で締めくくられてはいるけれど、彼女たちがその檻を壊すことは果たしてできるのだろうか。「愛情」という、一般的にはうつくしく尊いとされるものが、果てしなく病み崩れてゆくさまが、これでもかというくらいに表現された物語だった。

帝国の女
宮木 あや子
光文社
2015-07-17

帝国テレビジョンの宣伝担当をしている松国貞江は大量の仕事を抱えている。ある時はアイドルのハイタッチ会でハガシ役までやるし、またある時は番宣に向かう新人アイドルの送迎もする。きっちりした仕事ぶりで周囲からの評判はいいが、多忙につき彼氏はおらず、体調が悪すぎて顔色がねずみ色だの緑色だの言われ、「辞めたい」が口癖となっているが、それでもまだ日々兵隊のごとく働いていた。そんなある日、数年前に別れた元彼・狭山と偶然再会。狭山にまだいくばくかの未練があった松国は、彼からの食事の誘いを受けることに。しかし久しぶりに話しているうちに、彼に対する違和感がどんどん膨らんでゆき……。(「兵隊系女子 宣伝・松国貞江」)

「小説宝石」にて2014〜2015年にかけて掲載されていた、テレビ局「帝国テレビジョン」とその周辺で働く――もとい「戦う」女性たちを描く、「野良女」「婚外恋愛に似たもの」に連なる連作短編集。

宣伝担当の松国、若き女性プロデューサーの脇坂、有名脚本家の大島、有名女優のマネージャーの片倉、そしてテレビ情報誌の記者・山浦。彼女たちは日々の仕事に忙殺されながらも、自分たちがなんのために働いているかをふと考える。――憧れの芸能人を間近で見たい。ドラマを作りたい。自分が言いたいことを女優たちに言わせたい。恩人の力になりたい。様々な想いが原動力となって、彼女たちを孤立無援の戦場へと駆り立てる。他人から見たら取るに足らないことでも、それでも。そうしてやがて、意外と身近なところに、自分と同じように戦う仲間がいることに気付くのだ。時にあけすけに、時に繊細に、傷付きながらも前を向き、自分たちを「可愛くない」と断じる男たちを捨てて、ただまっすぐに生きてゆく彼女たちの姿がどうしようもなく眩しい、そんなお仕事小説だった。

砂子のなかより青き草砂子のなかより青き草
宮木 あや子

平凡社 2014-06-20
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清原元輔の娘・なき子は女だてらに学問に秀でているということを買われ、まだ18歳という若き中宮・定子に仕えることになる。最初は宮仕え、そして定子が自分の娘ほどの年齢だということに不安を抱いていたなき子だったが、定子その人を目の当たりにした瞬間、その不安はすべて吹き飛んでしまう。以来、定子に忠実に仕えるなき子だったが、そも宮中とは権謀術数が渦巻くのが世の習い。その魔の手はいつしか、一条天皇の寵を一心に受けているはずの定子の身辺にまで伸びようとしていた……。

雑誌「コバルト」で連載されていた本作は、なき子――清少納言の回顧という形で、天皇の寵愛を受けながらも、権力に翻弄され、最後は孤独な死を迎えた中宮定子と、彼女と共にあった少納言自信の半生を描く。

とにかくなき子の半生は定子と共にあった。美しく聡明で心優しく、どこまでも純粋な定子。宮中の毒に冒されることなく、ただ主上の愛だけを支えとして生きていた定子だったが、彼女の父が亡くなり、兄の伊周が藤原道長との政争に敗れてから、定子の立場は危ういものになる。元より幼くして帝位についた年若い一条天皇にはすべてを采配する権限がなく、よって定子を庇いきれなかったのがひとつの悲劇だった。どれだけ天皇が定子を愛していても、現在の政治を動かしているのが定子とは関係のない人物である以上、後ろ盾のない定子は権力者にとって邪魔ものでしかありえない。道長の台頭により定子は天皇から遠ざけられ、ばかりかようやく生まれた娘が誘拐されたり、また2人目を身籠った際には屋敷で不審火が起こるという始末(まあこれは、道長の妨害を察知したなき子たちの機転で、定子本人に被害は及ばなかったが)。

森谷明子の源氏物語メイキングシリーズでも描かれていたが、やはりこの時代、宮中の女たちの命運を握っているのは男たち――その父親や兄弟、夫たち。学問の知識をつけることは嫌われ、許可がなければ外出もできない。現に春宮妃となった定子の妹・原子は宮中に入ってから外出がままならなくなったせいで、まともに歩くことすらできなくなってしまっていた。そうして閉じ込められて、ただ夜の渡りだけを待ち、父親や兄弟の権力闘争においては子を生むための道具にされる女たち。そんな自分の運命をだれよりもわかっていたであろう定子の想いが胸に刺さる――自分とは違う、女が自分の意志で生きていける日がいつかきてほしいという、祈りにも似た想い。そして自分と同じ想いを抱くなき子に、ずっと一緒にいてほしいという願い。華やかな様子ばかりが描かれる「枕草子」の裏に隠されていたこれがきっと真実――なき子が書き記した日記は、定子という女性が幸せに生きていたのだという証として、そして不遇をかこって亡くなっていった主への鎮魂の意味もあったかもしれないと、そう思わされる物語だった。

あまいゆびさき (Yuri-Hime Novel)あまいゆびさき (Yuri-Hime Novel)
宮木 あや子

一迅社 2013-04-18
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幼い頃、団地の公園で出会った真淳と照乃。真淳の母は男癖の悪い母親を持つ照乃を忌み嫌うが、真淳は隠れて照乃と遊ぶように。だがそのうち、真淳は家庭の事情で引っ越すことに。やがて中学生になった真淳は友人たちと外出しているさなか、その中のひとりの男子に迫られてしまう。嫌がる真淳を通りすがりの少女が救ってくれるのだが、真淳は一目でその少女が照乃であると見抜く。喜びのあまりその少女に追いすがる真淳だったが、彼女はそれを否定して姿を消してしまった。それからさらに時は流れ、真淳は名門女子高に入学することに。そこで真淳はあの時の少女と再会。苗字は変わっていたが、彼女が照乃本人であることがわかり、喜ぶ真淳だったが……。

「コミック百合姫」に連載されていた、作者初の本格百合小説。
普通の会社員の家庭に生まれ、表面上はなにひとつ不自由ない生活を送ってきた真淳と、男好きで育児放棄甚だしい母親に育てられた照乃。生活からなにからまったく違うふたりだったが、幼い頃に出会ったその瞬間から、ふたりは強く惹かれ合っていた。それは真淳の母親に禁じられたがゆえだったのかもしれないし、ふたりとも母親の愛情に飢えていたせいなのかもしれない。あるいはそのこと自体を互いにどこかで見抜いていたからかもしれない――自分たちは似ているのだ、と。真淳は照乃を、そして照乃は真淳をただひたすらに求め続ける。会えなかった間も、そして再会後、互いの立場の格差に苦しむ間も。そうやってふたりがそれぞれ抱えていた欠落は、いつしか互いの存在で埋まってゆく。これを運命の恋と言わずして、何と呼べばいいのだろうか。

婚外恋愛に似たもの婚外恋愛に似たもの
宮木 あや子

光文社 2012-10-18
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容姿も頭脳もいつも三番手であることがコンプレックスのセレブ主婦・桜井の唯一の楽しみは、デビュー前のアイドルグループ「スノーホワイツ」のメンバー・神田みらいを応援すること。専門ショップで新作フォトを買いこんだり、彼らがバックダンサーを務めているコンサートに行ったりしつつ、日々の空虚を埋めていた桜井。しかしある日、アイドルグループKGB64のメンバーと浮気している夫から、部屋を出ていってほしいと告げられ……。(「アヒルは見た目が10割」)

生い立ち、容姿、職業、立場のなにもかもが違うが、共通するのは35歳であること、そしてデビュー前の5人組アイドルグループ「スノーホワイツ」のメンバーの熱狂的ファンであること――そんな5人の女たちを描いた短編連作集。

スノーホワイツは現実でいうところのジャニーズJr.的なもの。だからグッズも少ないし単独ライブがあるわけでもない。そんな彼らに目を付け、応援してきたのが桜井たち5人の女たち――常に3番手であることに絶望感を抱きつつ、夫との冷えた関係を続ける桜井。ダメ夫と不良息子と貧乏に悩まされる益子。美人で有能、まさにパーフェクトな人生を歩んでいるにも関わらず、スノーホワイツの高柳主税が好きすぎて結婚する気がなく、両親とは絶縁状態の隅谷。それなりに裕福な生活を送ってはいるものの、ちょっとおバカな夫やうるさい姑、そしてママ友との面倒な関係に疲れ果てている山田。デブスで売れない(というかリストラ中)BL作家・片岡。そんな5人は出会うべくして出会い、互いの境遇を羨んだりしつつ、スノーホワイツを応援し続ける。5人5様の境遇の違いもさることながら、同じファン仲間なのにわりとシビアな(というかお互いあまり気を使わずズケズケと物を言い合う)関係がなんとも楽しい。

彼女たちは足りないものを埋めるようにアイドルたちを愛し、そして愛されることを願う。けれどアイドルは現実に存在はしていても、彼女たちを愛し返してくれる存在ではない。「2.5次元」とは言いえて妙だと思うが、まさに手が届きそうで届かない、近くて遠い存在。それでも彼女たちは彼らに夢を託す。恋人であり、息子である、そんな彼らに。彼らがコンサート中に一瞬とはいえこちらを向いてくれたこと、手を振ってくれたこと、解散や脱退することなく活動を続けてくれること。すばらしいコンサートやパフォーマンスを見て、ここで死んでもいいという想いと、また見たいから明日から頑張ろうという想い。叶わなくても届かなくてもいい、とにかくそんなたくさんの想いが彼女たちを支えている。それは紛れもなくひとつの愛情なのだな、と感じさせられた。

官能と少女官能と少女
宮木 あや子

早川書房 2012-07-06
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コンクパールという特殊かつ高価な宝石がある。それをあしらった指輪をケース越しに眺めるのが、マユコの出勤前の日課だった。だがある日、ついにその指輪が売れてしまったという報せが入る。落胆するマユコの前に現れたのは、彼女が勤める店の得意客である美しい母娘の、母親の方だった。しかも彼女――黒川は、先日娘が取り寄せたワンピースをマユコに贈ると言い、夜にそれを着て自分と会うように命じる。事態が飲み込めないまま指定の場所に向かったマユコに、黒川は「娘」との関係を語り始め……。(「コンクパール」)

2007〜2011年にかけて「小説すばる」に掲載された作品6本を収録した短編集。
失った「娘」の身代わりだと分かっていても黒川の求めに応じるマユコの空虚を描く表題作をはじめとして、どれも主人公である「少女」たちの抱える虚ろな心と、それを満たしていた「だれか」との物語。

心に開いた穴は簡単にふさがらない。
その穴は何かが原因で開いたのかもしれないし、もしかしたら生まれつき持っていたものかもしれない。けれど彼女たちはどうにかしてそれを埋めようとする。なんでもいいからとにかく何かで埋める。けれど埋まったように見える穴はけしてふさがってなんかいなくて、いともたやすく剥がれ落ちてしまう。周囲はその「穴が埋まった」状態を正しい状態だと認識してくれなくて、だから無理矢理にそれを剥がしてしまうのだ。
けれど彼女たちは何かで埋めているその瞬間を幸福だと認識しているから、現実との間に齟齬が生じてしまう。そしてその齟齬をまた新しい別の何かで埋めてしまうか、あるいは現実の方を書き換えてしまう。
これは、そんな少女たちの物語。
それはひどくもどかしくて、やるせなくて、けれどどうすることもできない、そんな物語。

学園大奥 (実業之日本社文庫)学園大奥 (実業之日本社文庫)
宮木 あや子

実業之日本社 2012-04-05
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某少女小説の影響で女子校に強い憧れをもつ和実は、猛勉強のかいあって中の丸学園中等部に入学することに。しかしそこは現在、厳格な仏教系の共学になっていた。「お姉さま」なる存在を夢見ていた和実はショックを受けるも、入学式の日に声をかけてくれた美しい男子生徒に一目惚れ。なんでも中等部に存在するたったふたりの男子生徒は生徒会長(上様)と生徒会監査(家老様)であり、彼らをとりまく生徒会は「大奥」と呼ばれ、絶対的権力を誇っているということを知る和実。ゆえに例の男子生徒――「上様」とはお近づきになりたくともなれないでいた。さらに外部から入学してきた和実は、小等部からエスカレーター式に持ちあがってきた大多数のクラスメイトから「外部組」と呼ばれて冷遇されたるわ、下校途中には現在ヤンキー街道爆走中の大嫌いな幼なじみ「鼻くそギルバート」こと川島に付きまとわれるわで、始まったばかりの中学生生活は早くも問題だらけで……。

「月刊ジェイ・ノベル」連載作品の文庫化。
ヒロイン・和実の女子校志望動機がまさかのマリみてだったり、どうしようもない日々を母親が愛読していたおまじない雑誌で日々を乗り切ろうとしたりと、変なところで前向きなノリがなんとも楽しい作品。後半は割とシリアスなのだが、コメディチックな場面はかつてのティーンズハートやレモン文庫といった少女小説を彷彿とさせるテンションで、なんとなく懐かしい気分になってくる。

クラスメイトから無視され続けるという境遇にもメゲず、他のクラスの外部組の友人や、同じく外部組だがそれなりの地位を有している先輩たちと交流しながら、和実は華やかな「大奥」に隠された複雑な人間関係を垣間見ることになる。そして嫌っていた幼なじみの家庭の事情も。いやなだけの人間なんて決していないし、周囲も自分もどんどん変わっていくからこそ、嫌いにもなるし好きにもなる。こどもなりに少しずつ世界を知っていく、そんな和実の成長ぶりが微笑ましくもあり、そしてどこか懐かしい気分にさせられる。完全なるハッピーエンドとは言えない結末もまたよかった。

憧憬☆カトマンズ憧憬☆カトマンズ
宮木 あや子

日本経済新聞出版社 2011-06-25
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おバカで有名なユーラシア大を卒業し、派遣社員としてIT企業のコールセンターで働く後藤は29歳。親友の中尾といつまでもバカ話で盛り上がったり、職場では妻子持ちの男性と不倫したり、上司からは正社員にならないかと誘われたり。けれど友人と遊んでいても疲れるのが早いし、不倫相手とはそれなりに付き合っていても別れてほしいとまでは思えないし、正社員の話だって面倒臭いばかり。そんな後藤の前に現れたのは、自分の好きなバンドのレアなTシャツを着ている新人・山内。自分と同じ匂いを感じた後藤は、山内のことをだんだん気にし始めるが……。(「憧憬☆カトマンズ」)

2008〜2011年にかけて発表されていた、アラサー女子たちの恋模様(?)を描く連作シリーズ。あけすけなガールズトークが怒涛のごとく繰り出される本作は、後書きにもあるとおり、まさに「セレモニー黒真珠」「野良女」の系列作品(実はこの2作からゲストキャラが出ていたりもする)。
表題作のほかに、後藤の親友・中尾がメインの「脳膜☆サラマンダー」、後藤と中尾、そしてそれぞれの彼氏の4人で雪山へ向かう「豪雪☆オシャマンベ」、そして番外編(?)、後藤の後輩でパティシエ志望(でも本当はなりたくない)のパティこと松田リカ(26)が主人公の「両国☆ポリネシアン」を収録。どれもこれも突き抜けた話ばかりで、愉快痛快というか、ありえないとわかっていても楽しい。

後藤と山内のなれそめ話もたいがいのものだが、中尾の話もまたたいがいな感じ(褒め言葉)。中尾のお相手は彼女の部下である村内なのだが、こちらは常にブランドもののスーツを着こなす細身のイケメン。普通の女子なら食い付きがいいところを、中尾はと言えば、その外見から彼をゲイだと(心の中で)断じる。けれど彼と接するうちに、気付くとなんだかそういう関係に……。
後藤にしても中尾にしても特に努力しているわけではないけれど、そのゆるい(本人たちは真剣なのだろうが)生き方が、山内や村内を惹きつけたのかもしれない。あるいは周りに流されず、「これでいいのだ!」と言わんばかりに突き進むその一途さか。

好きな音楽がサブカル丸出しだったり、仏像彫りが趣味だったり、中学野球映画を見てフレッシュな中学生男子と付き合いたいと思ってみたり(これは未遂)、29歳という年齢に危機感を感じるのを通り越して「自称42歳」になってみたり……。とにかくめちゃくちゃ!としか思えないふたりだけど、それでもいいじゃない!と言いたくなってくる。それでもいいんだ、きっと。

ガラシャガラシャ
宮木 あや子

新潮社 2010-11
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明智光秀の娘・玉子は、父の友人でもある細川藤孝の息子・忠興のもとへ嫁ぐことになった。その婚儀の日、彼女の前に現れたのは織田信長の妹・市。彼女は玉子に、決して振り返らず前だけを見ておれ、という言葉を残していく。その言葉の意味もよくわからまま、玉子は忠興との間に子をもうけ、平穏な日々を送っていた。だがそんな中、父・光秀が主君である信長を討ったとの報せが入る。逆賊の娘となった玉子も殺される運命にあったが、藤孝と忠興の温情により、たったふたりの侍女を連れて味土野の地へやられることに。そのせいもあってか、その時身ごもっていた子供が死産となり、玉子は絶望の淵に追いやられてゆく。そんな彼女を救ったのは、村に住む美しい青年・秀治の存在、そして侍女の糸が信仰していたキリシタンの教えだった……。

「小説新潮」連載作に加筆訂正した歴史恋愛長編。
何も望むことなく、武家の娘として育ち、嫁いでからは子を成して「それなりの幸せ」の中で暮らしていた玉子。しかし打ちのめされた彼女を、夫は救ってくれなかった。絶望に塗りつぶされようとしていたその時、彼女の支えとなったのは秀治への淡い想い。それは彼女にとっての初めての恋だった。しかし身分の違い、そして彼女がいまだ忠興の妻であることが枷になって、想いを伝えることはできずじまい。けれど募る想いは止められず――侍女のひとり・オクが病に倒れた時、玉子はこれで彼に会える、と考えてしまう。愚かで、しかしどうしようもない恋心に灼かれた女心が、これでもかとつづられてゆく。けれど、それまでの彼女の境遇がわかっているだけに、玉子のことを責める気持ちが起こらなくなってくる。

秀治への叶わぬ恋心を封じて、忠興の元に呼び戻された玉子を待っていたのは、夫からのひどい仕打ちの数々。忠興の玉子に対する愛情は変わっていなかったが、恋を知ってしまった玉子は、忠興に対して関心を持てずにいた。それに気付いた忠興は、彼女をただモノのように扱う。そして玉子はますます心を閉ざしていく。
それを間近で見てきたのは玉子の侍女・糸。隠れキリシタンである糸は、玉子を救いたい一心で奔走し、彼女に洗礼を授けることに成功する。天主への信仰という心のよりどころを得た玉子はガラシャと名乗り、キリシタンの教えに傾倒していくことになる。その目はもはや、目の前にある現実を見てはいなかった。
玉子がガラシャとしてキリシタンの教えに没頭していく間にも、状況はどんどん変わっていく。そして精神の均衡をどこか欠いた玉子を心配する中で、糸も叶わぬ恋を知ることになる。

みんなそれぞれ想い人がいて、けれど相手と結ばれることは決してない。立場、状況、信仰……いろいろなしがらみにとらわれ、身動きが取れなくて、それでも人は恋をする。叶わなくても、それでも想いを止めることはできない。誰かを――時には相手を犠牲にしてさえも。単なる個人のエゴなのかもしれないけれど、それでも。
こういう時代背景があるからこそ、叶わぬ恋に身を焦がすことの悲劇性がより際立ってくる。作者が書き続ける物語のテーマがここにもあったように思った。

太陽の庭太陽の庭

集英社 2009-11-26
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おすすめ平均

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都内にありながら、地図上には載っていない広大な屋敷がある。永代院と呼ばれるその屋敷には、代々「永代由継」という名の当主がおり、知られざる存在でありながらも、政財界では強大な権力を有していた。女たちは当主の寵をめぐって対立し、その子供たちは由継の跡目争いを強いられていた。そんな中、妾腹の子ということで跡目争いにも関わらず日々暮らしていた少年・駒也の前に現れたのは、幼いころに亡くなった母にそっくりだという少女・鞠絵。父の新たな正妻としてやってきた鞠絵に、駒也は次第に惹かれ始めて……。(「野薔薇」)

「雨の塔」と同じ世界観で描かれる本作は、帯の「現代の宮中小説」「幻想少女小説」という惹句にまさにぴったりな物語。
一夫多妻制がまかりとおる永代院の中で、女たちは命を賭して競い合う。「永代院」が「世界」そのものであるかのような空間で、息子たちは跡目争いに駆り出され、娘たちは閨閥作りに「使われる」。駒也と親しくしていた正妻の娘・葵は、長じて例の学園へ「島流し」され、永代院との関係を結ぶための商品となった。そして跡目争いに敗れた者や、妾腹の子である駒也は、いつかは戸籍を与えられて――知られざる世界だから、ここにいる子供たちには戸籍がない――、外の世界へ放り出されてしまう。

どこまでもありえない別世界の物語は、いつしか神の世界と重なり合い、おぼろげに融けてゆく。そのままであれば幸せだったかもしれないその世界は、だが外界からあっけなく壊されてしまう。何が正しくて、何が間違っていたのか。内側の正義と外側の正義は違っていて、どちらが正しいとも言い切れない。けれどその齟齬が「世界」を壊す。ほろほろと崩れてゆく世界――その無惨なはずの光景に、なぜか惹かれて仕方ない。

雨の塔雨の塔

集英社 2007-11-26
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「島流し」――この学園にやってくることはそれと同じ。陸の孤島としか言いようのない学園に集められた少女たちは、外界から遮断された状態で日々を過ごす。少年のような外見の少女・矢咲は、ある事件を起こしたことがきっかけでこの学園にやってきた。彼女を迎えたのは、おかっぱ頭が良く似合う、オリエンタルな雰囲気のルームメイト・小津。そんな彼女と共に気ままに過ごす矢咲の前に現れたのは、矢咲の「想い人」・さくらによく似た黒髪の少女・三島だった……。

宮木あや子の第2作目は、世界の果てのような場所にある箱庭のような学園に「島流し」されてきた、埋めようのない欠落を抱える少女たちの物語。

携帯の電波も入らなければ、テレビもラジオも、ネットですら繋がらない。新聞の類は存在せず、雑誌もファッション誌やカルチャー誌ばかりで、社会が、世界がどうなっているかを知ることができない学園。現金も必要なく、すべて学園に付随している町で、学生証を提示すればなんでも手に入る。ただし、本当の意味での自由だけは手に入らない。電話は傍受され、差し入れの荷物や手紙は検閲される。自主的にこの学園から出ることは決して叶わない。
そんな閉鎖的な世界に捨てられ、無為に時間を過ごしていた4人の少女が出会った時、物語は動き始める――この学園にやって来たばかりの矢咲と、華僑の娘である小津。大財閥の妾腹の娘である三島と、彼女の付き添いであるハーフの少女・都岡。矢咲と三島が、そして小津と都岡が出会うことで、それぞれふたりきりだった世界がゆるやかに繋がり、壊れていく。

この学園に「捨てられた」理由こそ、すなわち彼女たちの抱える欠落そのもの。その欠落を互いで埋め合わせようとする4人だが、当然そんな関係がうまくいくはずはない。矢咲と三島、そして小津と都岡の距離は急激に近づくが、不意にそれはまた、以前以上に遠ざかってしまう。そして元の部屋に戻っても、新たにできてしまった傷が彼女たちの意識を変えてしまう。どうしようもない「世界の終わり」を迎えた少女たちを、ただ茫然と見つめることしかできなかった。

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