虚弱体質を抱える青年・沖世嘉月は、療養のため亡き祖母の家でしばらく暮らすことに。しかし引っ越し当日、同級生で友人だという大咲かれんと再会するも、なぜか嘉月には彼女に関する記憶が全くないのだった。そんな嘉月の前に現れたのは、三尾の狐のあやかしである冬青。彼は祖母である喜代の式神であり、祖母の家と、彼女が残した「思い出帖」――冬青が喰らう「悪い記憶」の記録を守っているのだという。かれんのことを覚えていないのは冬青に記憶を奪われたからではと考えた嘉月だったが、冬青が喰らうのは辛い記憶のみであり、ゆえにそれを嘉月に返すつもりはないと言われてしまい……。
虚弱体質の主人公が、失われた記憶の謎を求めて(文字通り)身体を張って奮闘する物語。
記憶の一部が欠落しているのは嘉月だけでなく、再会した「親友」のかれんは両親からその存在を忘れられているし、隣の家の岳中さんは夫がいたはずなのに独身だと言い張っている状態。嘉月は自分の記憶を取り戻す前に、まずはこの2件を解決せざるを得なくなってしまう。いくら優しく、また祖母の式神であったとはいえ、相手は狐のあやかしという人ならざるモノ。ゆえにそのメンタリティが人間と同じはずもないのでは?……と物語は一時不穏な方向に。
「悪い記憶を喰らう存在」と言われると、その悪い記憶というのは人を傷つけた、あるいは傷付けられたといった類のものかと思っていたのだが、冬青が喰らったかれんの両親や岳中さんの記憶はそういうものではなかったというのがなんとも意外。一方で、嘉月の喰われた記憶はそのふたつとはまた異なり、こちらには物語の軸となる謎も含まれていて、最後までどうなるかわからずはらはらさせられた。あるべきものがあるべきところに収まったラストはとても良かったが、機会があればふたりのその後も見てみたい。















