phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 秋田禎信


アザリー、ついでキリランシェロが行方不明になってから4年後。コミクロンはひとり、とある酒場で相棒を待っていたはずだった。しかしそこで彼が目にしたのは、ありふれたごろつきたちの抗争――かと思いきや、掏摸をはたらいた女は「領主」の名を口にする。相棒から《最接近領》の一員になることを提案されていたコミクロンは、この諍いが《最接近領》による面接だと判断し、女を助けそのアジトへと向かうことになるが……。

久々の書き下ろし新エピソードは、作者いわく「隙間編」。これまで書かれた物語の隙間を埋めるような、そしてその中で何かひとつでも間違えれば物語が変わってしまうような、そんなエピソードとなっている、とのこと。今回は本編1巻でアザリー討伐隊に身を投じ、そのまま亡くなった、チャイルドマン教室の一員・コミクロンがメイン。本編1巻の1年前が舞台となっている。

アザリーの魔獣化、キリランシェロの出奔、チャイルドマンの不在――これらはチャイルドマン教室に大きな影を落とし、それはそのまま《牙の塔》の斜陽とも重なっていた。そんな中、コミクロンは「相棒」と信じてやまなかったコルゴンからその正体を聞かされ、さらには彼と共に《最接近領》での任務に従事しないかと誘われていた、そんなタイミングでの物語だという。まあつまるところ彼が巻き込まれたのは「面接」ではなくそのへんの武装盗賊の抗争に過ぎなかったわけだが、コミクロンが敵対することになった盗賊には「オーフェン」と名乗る凄腕のはぐれ魔術士がいて……となると「いやいやいやちょっと待って!」となってしまうのは無理からぬ話。いやそれはわかるでしょ……と思いながら読んでいたのだが、これが思いのほか、お互いに――少なくともコミクロンの方は――わかっていない。まあキリランシェロ→オーフェンについては外見がかなりすさんでいるし(主に目つき・笑)、コミクロンの方も成長してからは美女と見まごうほどの美貌の持ち主になってしまっていので、仕方ない……のかもしれない。

そんな勘違いのせいで死線を潜ったり潜らなかったりするコミクロンだが、そこで彼はあるひとつの決断を下すことになり、それが彼の「運命」を決定してしまうこととなった。彼は彼なりに教室の仲間たちのことを大切に思っていたからこそ、あの結末を迎えたのだと思うと仕方ないことだったのだと諦めざるを得ない。と同時に、そんなコミクロンだからこそ、コルゴンも「相棒」としてそばにいたのかもしれない。さすが隙間編、かゆいところに手が届いたというか、いろんな意味で納得させられるエピソードだった。


◇前巻→「魔術士オーフェンはぐれ旅 プレ編2」


講義を行うチャイルドマンの顔には、どう見ても髭のようなものが描かれていた。講義後にようやく気付いたチャイルドマンは、生徒たちに向かって「我々は伝説と戦わねばならなくなった」と宣言し、彼らを3つのチームに分けたのだった。すなわち「年長大味組」のアザリーとレティシャとフォルテ、「なに考えてるか本人たちにも分からないーズ」のコルゴンとコミクロン、そしてキリランシェロとハーティアにチャイルドマンも加えた「余り物子守チーム」に。そんな彼らが対峙することになったのは、かつてチャイルドマンが仕留め損なったというヴァンパイアの末裔、ブラディ・バース・リンなる人物。半信半疑で偵察に向かった「年長大味組」の3人は、さっそく3階の窓の外から逆さ吊りの状態で笑う女と遭遇し……。(「往時編 怪人、再び」)

同名シリーズの番外編として刊行されていた「無謀編」シリーズにおいて、書き下ろしエピソードとして収録されていた過去編をまとめた「プレ編」第2弾。今回もわりと本編の根幹というか、チャイルドマンの正体に迫る内容も多めに含まれていたりする。

まあチャイルドマン教室の面々は相変わらずにもほどがある感じだが、この2巻に収録されたエピソードの中には、キリランシェロとアザリー以外のメンバーがメインになるものも。自分が無愛想であることに気付いた(なぜ今更……)コルゴンが、ティッシの勧め(?)に従い街へ繰り出してみたり、フォルテとコルゴンがチャイルドマンたちと共に天人遺跡の調査に向かったり、迷子のマジクの前にコミクロンが現れてみたり。アザリーたちの日頃の行いがひどすぎてあまり目立たないが、フォルテやコルゴンもたいがいアレな性格の持ち主なので、メインに据えられればそれはそれで面白いことになるのがなんとも。これで今のところ発表されている《牙の塔》時代の短編はすべてなのだろうが、また機会があれば書いてほしいなと思う。


◇前巻→ 「魔術士オーフェンはぐれ旅 プレ編1」


任務のために町に出たキリランシェロとハーティアは、酒場で男たちに襲われかけていた少女・ジニアを助けることに。実はその男たちこそが、ふたりの任務――《牙の塔》から持ち出されたある物品を強奪した犯人であり、ジニアはその物品を持ち出した業者の娘だったのだ。しかし強奪犯たちは簡単に捕まえられたものの、肝心の「物品」はすでに姿を消していた。それは古代の異種族の魔術士が、人間の魔術士と戦うために作っていた特殊な兵器で、人間に擬態して襲ってくるというシロモノらしく……。(「青春編 思えば俺も若かった」)

シリーズスタートから25周年を迎えるファンタジーシリーズの番外編であった「無謀編」シリーズ、その文庫本に毎回書き下ろされていた、主人公の《牙の塔》時代を描く「プレオーフェン」シリーズのみをまとめて再文庫化。

本編はシリアス、無謀編はコメディというように基本的に分けられているが、このプレ編は両方あり。さらにはシリーズ内で一番古い時期の話――《牙の塔》時代の、主人公がまだ「キリランシェロ」だった頃のエピソードなので、若かりし頃のオーフェンの姿や、本編にも出てくるチャイルドマン教室の面々との関係がよくわかる。コメディ編ではおおむねキリランシェロ・ハーティア・コミクロンがアザリーとティッシに振り回され(そして物理的にも心理的にも大怪我する・笑)、フォルテは傍観し、コルゴンは基本的にいない。そしてたまに出てくるチャイルドマンは大真面目な顔をして意外と面白いことを言ってたりするのがなんとも(笑)。

一方でシリアスなエピソードになると、こちらはおおむねキリランシェロ、アザリー、チャイルドマンの立ち位置の話に。特にキリランシェロは「鋼の後継者」として成長途上――とはいえ周囲の見立て的には完成間近といったところ?――であり、その存在を特別視されていることがよくわかる。そしてそれは、裏返せばチャイルドマンがどれほど危険視されているかということを示す。マリア・フウォン教師が初登場する「憂愁編 超人たちの憂鬱」のオチはちょっと笑ってしまえるようなものだったが、それすらもやはりチャイルドマンという存在の特異性から来ている。そして白魔術をも行使する《天魔の魔女》アザリー。この3人の存在が、そもそも本シリーズを動かしている原点に他ならない。アザリーの理不尽極まりない行動に笑っていても、不意に彼女がこの先しでかすことを考えるとうすら寒くなってくる。面白いだけでは済まないこのプレ編は、単なるボーナストラックではなく、シリーズ全体の根幹に最も強く結びついているものだと改めて思わされた。


大学受験のための勉強に励むタカシは、日々の生活が――受験勉強も含め――ルーティンワークであるということに気付いていた。そしてその日々の中で、なんとなく父を避けていることも。なるべく顔を合わせないように気をつけて生活しつつも、通学はなぜか父が車で送ってくれる。そのちぐはぐさもまたルーティンとなっている。しかしいつの間にそうなったのか、タカシには思い出せないでいた。大学進学を機に親元を離れることになるまで――職場から帰ってくる父の車の音が聞こえなくなるまでは……。(「父の足音篇」)

自動車メーカー「スバル」のTVCMとして放送されているショートフィルム「Your story with」の公式ノベライズ。

まず最初に思ったのは「なぜ秋田禎信がこれを手掛けたのか」というところなのだが、まあそれはさておき……帯に「ネットで泣けると話題!」とあるように、どれも「いい話」ではある。父と息子の微妙な関係を描く「父の足音篇」、仕事で会社が傾くほどのミスをやらかした会社員が「誠意」について考える「以心伝心篇」、写真家になる夢を諦めた男が、その夢をかなえた友人と再会する「路篇」、遠方の支社への転勤が決まり、新しい職場に戸惑う父親の姿を描く「新天地篇」、そして遠距離恋愛をしていた彼女との結婚を決意する男性が、彼女に会いに行くまでを描く「助手席篇」。

私はこのCMを見たことはないのだが、おそらく内容は最後まできちんと決まっており、それに沿って書かれているはず。しかし著者が著者なだけに、突然誰かが死んだり、何かに失敗したり、突拍子もないことを言い出すキャラが出てくるのではないかとひやひやさせられた……が、まあそんなことはないので安心して読んでほしいと思う(笑)。どれもストレートにいい話なので。


堕落王フェムトは「普通」になりたがっていた――それは彼が唯一持ちえないもの。それからというもの、ヘルサレムズ・ロットには毎日のように「堕落王」が現れるようになっていた。フェムト本人ではなく、なぜかフェムトの意識に乗っ取られたような状態で声を上げる人々。ただし実害はない――はずだった。しかし、電算呪術戦に長けた犯罪組織「神のくしゃみ」のアジトに踏み込もうとしていたレオたちのもとにもたらされたのは、「堕落王」化した少女がこのアジトに入り込んでいるという情報で……。

内藤泰弘の同名漫画のオリジナルノベライズ第2弾。今回は表紙はもちろん、中身も堕落王フェムトだらけというまさかの展開に。

「普通」を求め、「凡人」になりたがるフェムト。彼の考える「普通」とは一体何なのか――レオとザップ、ツェッドはライブラの任務の中で彼の奇矯な実験(?)に否応なしに巻き込まれていくことに。例えば人助けをする。ただそれだけではなく、自分でトラブルを起こし、それを自ら解決して賞賛を得る――なんというか小物感漂うこんな行為をもして見せる「普通」のフェムト。しかし「普通」であるがゆえに付け込む隙もできてしまい……ということでひと騒動起きるという展開に。なぜか自分をライブラの一員と思い込んでレオたちに付きまとうというエピソードにはつい笑ってしまうが、しかしこれがヘルサレムズ・ロットにとっていいことになるとは決して言いきれず、逆に状況が悪化してしまうというのがこのお話のいいところ(?)。事態収拾のためにレオたちが奮闘するわけだが、実は遠回りだったというのもならではといったところで、オリジナルエピソードのはずなのに自然すぎるなあ、とまたしても思わされるノベライズだった。


◇前巻→「血界戦線−オンリー・ア・ペイパームーン−」

ハルコナ (新潮文庫nex)
秋田 禎信
新潮社
2016-06-28

「対抗花粉体質者」は数十キロにわたる周囲の花粉を無効化するが、当人にとって花粉は猛毒であるため、防護スーツを着なければ外出することはできない。そして高校生の遠夜の隣家に住むクラスメイト・ハルコはその「体質者」で、遠夜は自ら彼女の介助役を買って出ていた。しかしある日の帰宅中、歩道橋の階段を下りていたハルコが転倒する。本人にけがはなかったが、転倒の原因は、ハルコが故意に置かれていた石――わざわざ歩道橋と同じ色に塗られていた――を踏んだことだった。そしてその翌日から、ふたりの通う高校の前に「体質者」の存在を非難する集団が押し寄せ、抗議活動を始める。最初は無視していた遠夜たちだったが、集団の人数は日に日に増えてゆき……。

ひとりの少女の存在が少年の世界そのものを変えてゆく、まっすぐな純愛小説。

ハルコをはじめとする「体質者」の存在は、治療方法のない花粉症に対抗するためのまさに切り札で、ゆえに「公共改善機構」は彼女たちの存在を公的に利用することで市民の生活の安定を図り、そして人々はそれを受け入れてゆく。……というと「体質者」がヒトではなくモノのように扱われているようにも見えるが、それゆえに彼女たちはその生活を保障されているのだからプラマイゼロという考え方は、帳尻が合っているようにも見えるし、そうでないようにも見える。けれど本作の本質はそこではなく、それを踏まえたうえで主人公の遠夜がどうしたいと考えるか、ということ。皆がハルコのことを「体質者」として見る中、家族を除けばもっとも彼女に近い存在である遠夜は、だからこそたまに見失いそうになる「ハルコ」というひとりの少女の存在を決して見失わないよう、揺らぎながらもしっかりとその手を掴もうとするのだ。たとえそれが、世界を敵に回すことだとしても。そんな強靭な「まっすぐさ」がこのうえなく愛おしいと、そう思った。

魔術士オーフェンはぐれ旅 手下編
秋田禎信
TOブックス
2015-09-25

サルア市王からカーロッタ村へ向かうよう命じられたマジク。かつて魔王術で叔母を封じられた少女・アイオライトに付きまとわれながらも、マジクはカーロッタの屋敷へ向かう。するとそこにいたのはラッツベインとその部下ふたり、そしてレキ。村の代表者のひとりであるゲイトフがカーロッタの屋敷とその周辺をフィンランディ商会に売ろうとしており、ラッツベインはその内見に来たのだと言う。しかし元革命闘士だというふたりの部下・ザムとケールは、カーロッタの隠し財宝を狙う現役闘士たちと繋がりがあるようで……。

これにて本当に第4部完結となる番外編第2弾。「手下編」というサブタイトル通り、今巻はオーフェンたちの出番はなし(ラッツベインは出てくるが)。

今巻の大半を占めるのが、マジクが主人公の中編「遺されたもの」。カーロッタという大きすぎる柱を失い瓦解寸前の村で、マジクは過去と相対し、今後を見据えることになる。そのきっかけが、かつて深い関係があったという女性の面影を色濃く残す少女・アイオライトとの出会いだった。本編では詳しく語られていないが、未発表の第3部に登場する「サファイア」はマジクの恋人であり、そして彼が魔王術で封じたヴァンパイアでもあるらしい。魔王術の影響で、叔母にそっくりだというアイオライトの顔をうまく認識することが出来ないマジク。そんな彼女に関わることで、マジクは過去と向き合うことを余儀なくされる。

マジクはオーフェンの弟子ではあったものの、その関係は決して良好なものではないというのは、これまで読んできていればよくわかる事実。強力な魔術士として戦い、利用され、裏切られ続けてきたマジクは、絶望と怨嗟を抱えながらも、死なずにここまでやってきた。たくさんのものを失い、それでも目の前に遺されたものは、彼が歩いてきたこれまでの道のりを示すものに他ならない。今更自分探しだなんて、とうめきながらも結局そうなってしまったオチにはマジクでなくとも苦笑いしてしまうが、まあ生きていくというのはそういうことなのかもな、と思ったりして。

ちなみにこの他には、なぜかエバーラスティン家の裏側(?)を描く短編「わたしの愛したスーパイ」、そして子供たちを手放さざるを得なくなったレティシャとフォルテ夫妻の葛藤を描く「エピローグ」も収録。前者はまあよくあるアレなので置いといて(まさかここにきて《岬の楼閣》が出てくるとは……笑)、 後者は第4部を――というよりはこのシリーズすべてを総括するような短編。オーフェンやアザリーに振り回されてきたレティシャとフォルテは、しかしいつだって外野というか蚊帳の外。諦念にとらわれながらも、ふたりはここにきてようやく本音で向き合うことになる。このふたりが夫婦というのはしっくりくるようなそうでもないような、どうも違和感がぬぐえない状態だったのだが、この短編でようやく、なるべくしてなった夫婦なんだな、と思えたような気がした。

最後の最後でオーフェンが出てこないのは寂しいけれど、でもまあラッツベインの様子を見る限りでは相変わらずなのだろう。まさかラノベの主人公が中年になるまでの物語を継続して読めるとは思っていなかったが、このシリーズならそれもアリかな、という感じではある。前も書いたけれど、このシリーズが好きでたまらなかった私としては、とにかく続きが読めたというだけで嬉しいとしかいいようがないので、本当にありがとう、そしてお疲れ様でした、ということで。


◇前巻→「魔術士オーフェンはぐれ旅 魔王編


一夜にして消失し、「異世界」と繋がってしまった紐育――「ヘルサレムズ・ロット」と名前を変えたこの都市で、世界の均衡を保つために暗躍する組織が「秘密結社ライブラ」である。その構成員であるザップが、レオを伴って立ち寄ったのはとある墓地。葬儀を終えたばかりの墓――アシュリー・バーマという名前が刻まれている――を見届けたふたりの前に地味な服装の少女が現れる。バレリー・バーマと名乗るその10歳の少女は、先日亡くなったばかりのアシュリーとザップの間に生まれた娘で、10年後の未来からここにやってきたのだと言う。到底信じられないふたりだったが、直後の任務についてきたバレリーは、未来予知でもしたかのように、ふたりが狙う標的・ギッドロのこれからの行動を告げてみせる。その言葉通りに現れたギッドロを捕まえたふたりは、とりあえずクラウスを呼び、今後についての助言を求めるが……。

同名漫画の初ノベライズはオリジナルエピソード。未来からやってきたという自称「ザップの娘」バレリーが原因となる騒動に、ザップをはじめとしたライブラのメンバーたちが巻き込まれるという展開に。

物語の中心となるのはもちろん「ザップの未来の娘(自称)」バレリー。彼女の言動から、未来からやってきたというのが真実である可能性は高い。通常であれば一蹴されるはずのそんな可能性も、ここヘルサレムズ・ロットではありうるというのが恐ろしいのだが、仮に未来から彼女が本当にやってきたのだとして、その黒幕は何者で、目的が何なのかがそさっぱりわからないというのもぞっとしない話。特にその目的がザップ一個人なのか、ライブラそのものなのか、ヘルサレムズ・ロット全体、あるいは世界……と考えればきりがなく、またバレリーの「スポイラータイム」――未来予知(本人にとっては過去の出来事を語っているだけなのだろうが)は受動的なもので、だからレオたちもそれが起こるまでは対処しようもないというのだからもうどうしようもない。まさに五里霧中、先の見えない手探りの状態が続く展開には、こちらもは予測不能すぎてハラハラさせられる。

そんな中でも意外なのがザップの対応。普段は周囲からクズとしか言われないのも仕方ないようなろくでなし男だが、思いのほか面倒見のいい一面も。最初はバレリーの存在を認めず、邪魔とすら思っていたザップだったが、いつしか本当に自分の娘であるかのように面倒を見るようになる。そんなふたりの関係にはただただ微笑ましいとしか言いようがない。けれど最後でレオの言う「ザップさんですから」というのもまさにその通りとしか言いようがなくて、もうただそれだけが書きたかったんじゃないかとすら思えてくるのだから面白い。

巡ル結魂者5 (講談社ラノベ文庫)巡ル結魂者5 (講談社ラノベ文庫)
秋田 禎信

講談社 2015-05-01
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ライガを斃したと思ったのも束の間、そこに現れたのは――ライガの死をきっかけとして復活したのは「超聖女メイマスモゴリア」だった。トアコ班をはじめとする、その場にいたリンカたちが襲撃を試みるも、そのメイマスモゴリアは難なくいなし、魔法使いのとして圧倒的な力を見せつける。そしてメイはメイマスモゴリアの登場に慄き、動くことができないでいた。航斗は不意にメイマスモゴリアの狙いに気付き、校内に隠されていた魔導書・エムニビシヨンを盾に撤退を要求する。果たしてメイマスモゴリアは姿を消すが、これ以上の手立てはまったくといっていいほどなく……。

シリーズ5巻、完結編。
魔法使いが絶えたはずの世界に復活した、史上最後にして最大の魔法使い――超聖女メイマスモゴリア。航斗とリンクしているメイもまたメイマスモゴリア本人のはずだが、どうやらメイは20歳頃の、そしてこのたび復活したのはそれ以降のメイマスモゴリアであるらしい。そして、その狙いが、すべての魔導書を読み解いたメイにすら解読できていなかった最初の魔導書・エムニビシヨンだということも。かつての「メイマスモゴリア」に与えられていた役目、そしてそれを果たすために必要な魔導書――エムニビシヨンの1節、最初に戻れというその文章をそのまま表すような展開と、その「読めなさ」にははらはらさせられる。

リンクとは、すなわち自分以外の他者と繋がっているということ。メイとの繋がり、ひいては仲間たちとの繋がりを再確認した航斗は、メイと共にメイマスモゴリアに立ち向かい、ひとつの結論を見出す。かつてメイマスモゴリアに起きたことを。その怒りを。そして、願いを。巡り巡った環が断ち切られ、消滅してしまうその呆気なさだったり、最後の手段が実力勝負ではなく航斗の正論責め(テイカ談)というのがまた「らしい」なあ、と思う。


◇前巻→「巡ル結魂者4」

魔術士オーフェンはぐれ旅 魔王編魔術士オーフェンはぐれ旅 魔王編
秋田 禎信

TOブックス 2014-11-25
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魔術学校を辞した後、辺境で「フィンランディ商会」なるなんでも屋のような事業を始めた「魔王」オーフェン。名声も悪声もほぼ等しいような経営状態のこの商会内で、経理部長であるラッツベインが「会社のお金が盗まれた!」と騒ぎ始めた。ラッツベイン当人は言わずもがな、暴力対策部長のエッジ、企画戦略室長のラチェット――3人娘の誰もが犯人探しに向いていないと判断した「専務取締役」のオーフェンは、レキを保安部長に任命し、事態の解決にあたらせようとするが……。(「フィンランディ商会の、約三十名と一匹の日常」)

先だって完結した第4部、その番外編第1弾。今回は3人の「魔王」―――ハーティア、オーフェン、そしてプルートーを主人公に据えた3編を収録。

というわけでどこまでもユルいノリの話なのが、オーフェンが主人公(?)である「フィンランディ商会の、約三十名と一匹の日常」。厳密にはレキの視点から、フィンランディ商会の面々のと現状が語られてゆくのだが、まあ緊迫感がないというかなんというか(笑)。エッジはすぐ暴力沙汰にするし、ラッツベインは幼なじみであるヴィクトールに言い寄ってはフラれてるし、ラチェットは相変わらずヒヨとふたりでサイアンをおちょくっているし。かと思えばエドがたまたまやってきていたコギーと話をするという珍しい光景も見られたり、社内のラブコメ(?)をオーフェンが魔術でふっ飛ばしたり……という具合に、やや落ち着いたノリの「無謀編」という感じで商会の日常が綴られてゆく。まあとりあえず、オーフェンに関わるとロクなことがないということでひとつ(笑)。

ハーティアが主人公の話「もうひとりの魔王の周辺を日暮れまでに語る」もなかなかふるっているのだが、ハーティアがトトカンタで「魔王」と恐れられていたり、あのラシィがハーティアの「有能な秘書」だったりと、過去を知るこちらとしてはなかなか面食らう状況。まあ時間は流れ、キエサルヒマでもいろいろとあったんだなあというのがよくわかるエピソードではあるが、とりあえずハーティアがまだブラックタイガーやってるのにはなんとなくひと安心(笑)。


◇前巻(本編)→「魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(下)」

巡ル結魂者4 (講談社ラノベ文庫)巡ル結魂者4 (講談社ラノベ文庫)
秋田 禎信

講談社 2014-10-31
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トアコの師であり、かつてライガとも対峙したことがあるという最強のリンカ・大鍔ヤカガミが航斗を呼んでいるという。航斗とライガに共通するものを見出し、航斗の危険性を確かめたいということだったが、学園は先日のハンドレットスレイダースによる襲撃以来、厳戒態勢が敷かれており、学外へ出られる状態ではなかった。するとしびれを切らしたヤカガミ本人が、警備の目をかいくぐって学園内に現れる。やがてヤカガミは、ギレナの代わりとして管理局から派遣された校長代理・牛原を脅し、自ら校長になることを宣言。管理局は守備隊を派遣して学園を包囲するが、そこにライガも現れて……。

緊迫のシリーズ4巻。学園と管理局の対立が悪化し、さらにそこにライガが割って入るという最悪の状況。トアコですら恐れる最強のリンカ・ヤカガミをもってしても倒せないライガの、その目的と正体がついに明らかにされる。

学園を取り巻く環境やヤカガミの狙いははっきり言ってシャレで済むようなものではないのだが、それでも序盤がいつも通りゆるーい雰囲気なのはさておき(笑)。事態はどんどん悪い方向へと転がってゆくことに。トアコとヤカガミが共闘してもなお倒せない――そもそもメイとだって互角か、あるいはそれ以上の能力を見せたライガ。リンカになれないはずの男であるライガが、なぜここまで強力なのか――そして「何」とリンクしているのか。

ヤカガミが同じく男なのにリンカとなっている――厳密には他のリンカたちとはちょっと違っていて、魔法使いの精神体そのものと繋がっている状態なのだが――航斗とライガの共通点、そして脅威に気付くのはむべなるかな、といったところ。けれど航斗がライガとは違うこともまた、ヤカガミは気付く。そしてその通り、航斗はライガと敵対するのだが、それは同時に、ヤカガミの想像以上にライガとの違いを露呈することになる。1度目はトアコが斃れた時。そして2度目は、テイカを囮にしてライガを攻撃しようとした時。どちらもライガを倒す絶好のチャンスだったのに、1度目はトアコのために、そして2度目はテイカのためにそれをためらう航斗。そこが航斗の甘さであり、優しさでもあるのだろう。ここで迎えた最悪の結末は決して航斗のせいではないけれど、しかし今度はメイのために選択を迫られるであろうことは想像に難くない。なす術がないようにしか見えない展開を前に、航斗とメイはどうするつもりなのだろうか。


◇前巻→「巡ル結魂者3」

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先日のハンドレッドスレイダースの襲撃の際、守備隊や管理局を出し抜いたかたちとなった航斗とトアコは、その罰として守備隊の手伝いをすることに。そこでテイカの父・マサヤ隊長が航斗に命じたのは、校内に潜伏していると見られる、山賊の内通者を探るというものだった。お目付け役として航斗の任務に付き合っているテイカを巻き込みたくない航斗は、彼女に黙って単独行動に出るが……。

シリーズ3巻、航斗がテイカ、そしてトアコ班の仲間たちとの関係を見直すと言う展開に。

基本的に妙な調子ではあるが、「超聖女」「最後の魔法使い」というだけあって、強力な魔法を容易く使えるメイとリンクしていること、そして自分でもわずかではあるがメイの魔力を使えるようになったことで、航斗はテイカたちを巻き込まず、できるだけ自分ひとりで物事にあたろうとする。もしかしたらそれは、周囲にいるリンカたちが女性ばかりで、自分が唯一の男だということもあるのかもしれない。ともかく航斗はひとりで危険な作戦を立てては行動に移し、後でそれを知ったテイカはひどく怒るのだが、航斗はその怒りの本当の理由に気付けないでいた。

このあたり、ひとりよがりってやーね、とか、これだから男は、みたいな気分にもなってはくるが、航斗の方にもどこか焦りのようなものがあったのかもしれない。見知らぬ世界でたったひとり、奇異な目で見られることも多く、この事態の張本人であるメイにもすべてが把握できているわけではなく、元の世界に戻る目途も付かず、まったく「先」が見えてこない。そして航斗は、素っ気なく飄々とした態度ではあるが、基本的な性格はたぶん優しくて、だからテイカのこともメイのことも放っておけないのかもしれない。損な性格なのかもしれないが、ともすれば俺TUEEEEE的展開になってしまいがちな境遇でありながら、ちゃんと踏み止まって後ろを振り返ることが出来る主人公でよかったな、ということで。


◇前巻→「巡ル結魂者2」

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講談社 2013-12-27
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いまだ現実世界へ戻ることのできない航斗。ある日、航斗の所属するトアコ班は、テイカと仲が悪いらしい(?)ストームナーガリンカの少女・ユーハの班が請け負っていたとある依頼の手伝いをすることになる。それはハナの祖母・ズイゲンが持っている、《覚醒夢の箱》なるこの世にふたつしか現存していないアイテムを、ハンドレッドスレイダースから守るというものだった。そこで航斗たちは、ハナとズイゲンの確執を目の当たりにすることに。しかも航斗たちで警戒していたにも関わらず、ある朝ズイゲンの元からふたつの箱のうちのひとつが消えてしまい……。

シリーズ2巻。異世界から出られないままの航斗が、今後どうするつもりか、という覚悟を決めるの巻。

ハンドレッドスレイダースのリーダー格の青年・雪王ライガと再び接触した航斗は、彼という存在の特異性を身をもって知ることになる。そもそも女性しかなれないはずのリンカに、なぜライガはなれたのか。そして他のリンカたちと異なり、メイのような「魔法使い」に近いその特性はいったい何に由来するものなのか――というか、ライガは何とリンクしているのか。しかもライガは、航斗に揺さぶりをかけるように誘いをかけ、同時に覚悟を問う。己の価値を知っているのであれば、その有効な使い道を考えるべきだ、と。そして考えた航斗はひとつの結論を出す。自分が元の世界に戻れるはずの機会をふいにしても、それでも。明日を知れない状況でこの判断を下せる航斗は、ともすれば向う見ずなのかもしれないが、自分のことはさておき何が一番大事かというのを考えた上での決断ということで、どうしようもなくいい人なのだなあ、と思わされる。

そしてもうひとつ、ライガの存在と同じくらい解せないのは、やっぱりメイの存在。現在、「最後の魔法使い」メイマスモゴリアがなしたとされる所業について、航斗の背後にいるメイは知らないと言う。そもそも彼女は「超聖女」などと冠されながらも、現在に伝わるその人となりが「聖女」の名にふさわしくなさげ。過去の「メイマスモゴリア」と、今ここに霊体として存在する「メイ」は果たして同一人物なのかどうか。


◇前巻→「巡ル結魂者1」

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普通の高校生であるはずの高城航斗は、ある夜から自分の周囲に謎の白い手がひらひらしていることに気付く。こちらに触れようとする手をしばらくはかわし続けていた航斗だったが、無視しきれなくなって掴んでしまった途端、女の声が聞こえ、同時に見知らぬ場所へと転送されてしまう。航斗がたどり着いた先は、航斗のいた現実にほどよく似ている異世界――ただし、最大の違いは「リンカ」と呼ばれる異能力者たちがいること。そして、航斗の側には、彼をこの世界に引っ張り込んだ張本人がふわふわと浮いていることだった。彼女はかつてリンカを創り出した「最後の魔法使い」にして「超聖女」メイマスモゴリアであるらしいが……。

講談社ラノベ文庫での新シリーズ1巻。
普通の男子高校生・航斗が、今や絶えてしまった「魔法使い」メイマスモゴリアによって異世界に連れてこられたものの、特に使命があるわけでもないわ、かといって元の世界に帰る手段もないらしいわで、なし崩し的にこちらの世界の学校(のようなもの)に所属することになってしまうという、なんだかいまいち目的の見当たらない脱力系異世界召喚ファンタジー。

言葉は通じるし文化レベルもわりと現実世界に近いのが、航斗がやってきたこの異世界。ただしこの世界にはかつて魔法使いがいて、けれど今は滅び、代わりに別の生命体と契約してその能力を行使できる「リンカ」なる能力者がいるとのこと。航斗は特殊なリンカという態で、リンカたちが集う学校に所属することになるのだが、なぜかこのリンカなる存在は、通常は女性しかなれないものらしい。リンカの基礎を作ったメイも、現在のリンカの成り立ちや女性しかなれないという理由はまったくわからないという。これが謎のひとつ。

そしてもうひとつの謎はメイ本人のこと。歴史から不意に姿を消した「最後の魔法使い」であり、悪逆非道な人物という評判が残されているものの、彼女が消えた理由ははっきりとはわかっていないし、現在の目的もいまひとつ不明。一体、過去の彼女の身に何があったのか、このあたりがリンカの成立にも関わっていそうな雰囲気がしないでもなし。

とまれ、異世界にて始まった女子だらけのスクールライフではあるが、航斗はハーレム状態になったからといって鼻の下を伸ばすようなキャラではないので、個人的にはひと安心。メイとの変な主従関係(とはいえどっちが上かイマイチわからないが)やら、ドラゴンのリンカである少女・テイカとの関係も気になるところ。

魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(下)【ドラマCD付 初回限定版】魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(下)【ドラマCD付 初回限定版】
秋田禎信

ティー・オーエンタテインメント 2014-05-25
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カーロッタによってヴァンパイアライズが制御できると宣言されてしまったため、戦術騎士団を合法的に動かすことが出来なくなったオーフェンだったが、それでも秘密裏に彼らをカーロッタの元へ向かわせていた。戦闘中に倒れたエッジは、目覚めるとなぜかローグタウンの自室に寝転がっていた。自分を助け、今は台所で料理をしているのはまさかのカーロッタ。驚愕しつつも攻撃を加えようとしたエッジだったが、あっさりかわされ、あまつさえカーロッタ本人から現状について聞かされることになる。さらにその頃、ベイジットはクリーオウやラッツベインを「人質」としてカーロッタのもとへ乗り込もうとするが、カーロッタにあっさり見つかり、けれどなぜかすんなり受け入れられる。一方、マヨールたちはエドの足跡をたどるようにしてローグタウンへ向かっていたが、その中でもマヨールはマルカジットの目的を考え続けていた。すべてがローグタウンへと向かいつつある中、カーロッタはただ悠然と何かを待っているようで……。

第1作刊行からちょうど20年を経て、ついにシリーズ本編が完結。
西部でオーフェンが姉アザリーの足跡を追う第1部、再び姿を消した姉をなおも探して東部をさまよう中で、図らずも世界の危機と真実を知る第2部、そして描かれなかった第3部を経て、原大陸でこれまで以上の新たな脅威と戦うはめになった第4部。ことにこの4部ではオーフェンもすっかりいい年になり、それなりの身分やしがらみが増えてしまい、迂闊に身動きが取れないという状況に。なので表立って動くのはクリーオウとの間に生まれた3人の娘たち、そしてキエサルヒマからやってきた、レティシャとフォルテの子供たち。秩序を壊して世界を変えるのはいつだってはぐれ者のやることで、かつてそれは《牙の塔》を出奔してすべてのしがらみを捨てたオーフェンの役割だった。そして今回は、その役割がキエサルヒマから原大陸へとやってきたマヨールとベイジットの手に委ねられることになる。

魔王としていつでも憎まれ役を買っていたオーフェンは、様々なしがらみにとらわれながらも、自分の名誉や地位などを顧みることもなくあがき続ける。ただ世界を破滅させないようにするためだけに。そして、自分が主導権を握らなくてもいい世界になるように――たとえそのせいで、あらゆる者から裏切られることになったとしても。かつてキエサルヒマで結界を破壊したオーフェンだったが、心のどこかでは何らかの後悔をしていたのかもしれない――例えば、原大陸にたどり着くまでの道のりで、姉を救うために、もうひとりの姉をはじめとした多くの人々に背を向けてしまったことを。だからこそ、今度は同じ轍を踏まないようにと。そして、そんなオーフェンの背中を追いかけて、子供たちは新たな決断を下す。惑わされることなく、正しいかどうかはともかく、ただ最善と信じる決断を。

そんな感じで最終巻、ひとまずこれにて大団円。長かったような、短かったような……終わったと思っていた物語のその後を読めたというのは幸せというよりほかない。しかもこの後、番外編の刊行が決定したとのこと。あともう少し、このシリーズが続くということで、楽しみはまだまだ続きそう。


◇前巻→「魔術士オーフェンはぐれ旅 女神未来(上)」

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