phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 糸森環


先日の「事件」の後、「望月晶」の遺体を探すために北海道にやってきた杏とヴィクトール。果たして目的は達成され、追ってやってくる峰雄を待つため、ふたりは予約してあった宿に向かった……はずだったが、雪路とヴィクトールが予約したはずの宿とは連絡が取れず、ホームページすら消え去ってしまっていたため、ふたりは急遽、別の宿を探す羽目に。キャンセルのために2部屋空いているという「ホテル三日月館」にたどりついたのだが、杏はそこで色違いでおそろいのゴスロリワンピースを着た少女たちに出くわす。アンナと里江子と名乗ったふたりは親友同時だが、近く里江子が引っ越してしまうのだという。離れ離れになることを恐れたふたりは心中を目論んでおり、そのために入手したという毒薬をしばらく杏に預かっていてほしいと言い出した。ふたりから託されたピンク色の粉を手に途方に暮れた杏は、とりあえずヴィクトールに相談しに行くが……。

霊感体質の女子高生・杏と、霊感ゼロ……と言いたいところだが最近はそれも微妙になってきた感のある椅子職人・ヴィクトールが、様々なオカルト現象に巻き込まれるシリーズ3巻。今回の舞台はヴィクトールの店を遠く離れた北海道の地ではあるが、いつも以上に怪異に襲われるという展開に。

予約していた宿が実在していないという背筋がざわざわしてきそうな事案から始まり、妙な電話、鍵穴から覗く目、心中を目論む美少女ふたり、過去に宿の近くで起きたという玉突き事故……等々、大小さまざまな怪異が杏たちを襲う。こんなこともあろうかと杏のバッグには塩が入っているが、旅の途中で使い果たしてしまうくらいの勢いに、読んでいるこちらも茫然とさせられる。このシリーズ、帯に「ふんわりオカルティック・ラブ」と書かれているが、そろそろ「ふんわり」を消した方がいいのでは……と思ってしまったのは私だけではないと思う(笑)。

ちなみに帯と言えば、今回は「二番目の男になるなんて嫌だ。俺が君に全部教える」とあるのだが、もちろんこのヴィクトールの台詞は見たままの色っぽい意味合いではなく(残念……)、椅子作りにまつわるもの。しかし部屋が別とはいえふたりで旅に出たり、(ひとりきりになるのが怖いという理由ではあるが)接近する場面も多いしで、ふたりの距離もほんの少しは縮まったようなそうでもないような……? その執着心の向かう先が今後どう変化していくのか、気になるところ。


◇前巻→「椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録2 カンパネルラの恋路の果てに」


期末テスト明けで久々にバイトにやってきた杏が見たのは、「SOLD」のカードが置かれた見覚えのないアンティークチェアだった。帳簿を調べたところ、店のルールに反し、取り置き期間が過ぎたままになっていることに気付いた杏は、確認のため工房へと向かうことに。そこで彼女が目にしたのは、古びた鉄道用の椅子と、それを眺めているヴィクトール以下職人たちの姿だった。なんでもこの椅子は、店にあった予約済のアンティークチェアと一緒に、職人仲間である星川から買い取った――というより押し付けられたのだという。そんな折、ヴィクトールたちを取材するため、望月という男性編集者が工房にやってくる。しかしその望月は、例の椅子、さらに店舗のアンティークチェアを目にした途端に血相を変え、逃げるように立ち去ってしまう。さらにその直後から、杏にはアンティークチェアに座る女の幽霊が見えるようになって……。

椅子が代か好きで人類が大の苦手な椅子職人・ヴィクトール(霊感ゼロ)と、彼の店で働く女子高生高田杏(霊感体質)が、店に持ち込まれたアンティークチェアにまつわるオカルトな事件を解き明かすシリーズ第2弾。今回は「小説Wings」102〜103号に掲載された表題作の他に、書き下ろし短編「彼と彼女のおいしい時間」が収録されている。

今回もヴィクトール以外にはばっちり見える幽霊騒動が発生。ふたつの椅子の出所と、取材に来た編集者・望月の豹変の理由といった「原因」がどのように展開されるのか、思いのほかもホラーすぎる怪奇現象も相まって、あっという間に読んでしまった。

そんな中でじわじわと進行しているのが杏とヴィクトールの関係性。今回、なにかと杏が怖い目に遭ってしまうのだが、それを(たまたまかもしれないが)毎回助けてくれるのはヴィクトール。しかしその時の態度が明らかに焦っている風にも見えるのは気のせいだろうか。そこに恋愛感情はなく、あくまでも彼女に降りかかる災難の、そのつらさを知っているからこそ、彼女を救おうとしているというような素振りを見せるヴィクトール。そして杏もまた、ほんの少し期待しつつも、ヴィクトールの反応から「そうではないのだろう」と思い込んでいる――または思い込もうとしている――のがなんとも。それは単に杏が自分にとってやさしく、話をちゃんと聞いてくれて、そばにいてもいいと思える関係だからなのか。それとも本人は否定しているけれど、その気持ちが「好き」に変わりつつあるのか。とはいえ、そのあたりの見極めがまだ難しい感じではあるので、今後のヴィクトールの行動には注目したいところ。


◇前巻→ 「椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録1 欺けるダンテスカの恋」


霊感体質の持ち主である女子高生・高田杏は、ひょんなことから椅子工房「柘倉」に迷い込んでしまう。オーナーのヴィクトールは霊感ゼロではあるものの、他の職人たちが霊感持ちばかりであるためか、心霊現象に悩まされているのだという。はからずもヴィクトールの目の前で霊を祓ってしまった杏は、彼らの要望により「柘倉」でバイトをすることになってしまう。しかもダンテスカと呼ばれるアンティークチェアに座って以来、彼女本人もポルターガイスト現象や謎の囁き声に悩まされるように。やがてその椅子は売れてしまうのだが、それでも心霊現象は収まるどころか悪化の一途を辿り……。

雑誌「小説Wings」に掲載された、椅子工房で起きるオカルト事件をめぐる長編の文庫化。霊感体質の女子高生と、人間嫌いで椅子を偏愛する霊感ゼロのオーナー兼職人が、霊的現象を起こす「ダンテスカ」なる椅子に隠された秘密を解き明かしていく。

幽霊が視えるというだけであればまだかわいい(?)ものだが、杏の霊感体質というのはわりと筋金入りで、物語が進むにつれ、なかなか深刻な影響を受けていることがわかる。そんな彼女をバイトとして雇うことにしたヴィクトールは、外国人かつ美形(ただし日本語しか喋れない)という特徴的な外見だけにとどまらず、「人類嫌い」を公言して憚らず、そのベクトルをすべて椅子への偏愛に向ける、確実に「変人」といっていいレベルの青年。しかも霊感は皆無ということもあって、見えないものが視えてしまう杏と、もちろん何も視えないヴィクトールとの会話はどうにもズレがち。さらにはその独特の感性でもって杏に接近してくるものだから(もちろん本人は「そういう」つもりはまったくない・笑)、ふたりの関係のちぐはぐさがどうにも楽しい。

しかし前述の通り、物語が進むにつれ、ふたりが追う「ダンテスカ」の謎はなかなか根深いものであることがわかる。霊的な現象を引き起こしているということももちろんあるが、そこはやはり骨董品――かつて誰かが強い思い入れを持って所有していたものだからこそ、誰にでも明かすことのできない想いもまた、秘められているからだ。ヴィクトールは人類嫌いを強く標榜してはいるが、そもそも椅子とは人類の生活に密接に結びついているものなのだから、裏を返せば人類好きにつながるのでは?と指摘する杏。ヴィクトールはあっさりと、かつ完膚なきまでに否定してくれたが、ダンテスカに込められた「想い」を紐解くヴィクトールの姿を見ていると、あながち杏の指摘は間違いではないのだろうな、とも思う。

今のところそういう意味で進展はなさそうな杏とヴィクトールの関係だけでなく、偶然にも工房で椅子職人見習いをしていた同級生・雪路との関係はなにかしらありそうな感じで、そちらの方面でも今後の展開が気になってくる。そして、杏に取りついているモノの正体も。


天の島と地の島を統べる「右記ノ國」には、禍神から国を守護する半人半竜の4柱の竜王が存在している。地上の里で海女として暮らしていた天涯孤独の少女・紗良は、その竜王の世話係――「神奴冶古」として召し上げられてしまう。簡単に命を落としてしまう過酷な任務と聞かされていた紗良だったが、竜王の世話と言っても他の式神たちがほとんどの雑事をこなしてしまい、紗良がすべき役目は龍王たちの身の回りの世話くらい。衣食住完備で他の使用人たちとは異なるその待遇に、紗良はただ首を傾げるばかり。しかも彼女を召し上げた由衣王を始めとする竜王たちはそろいもそろって人間嫌いだというが、冷酷な言動とは裏腹に、どことなく紗良の体調や心情を慮るような振る舞いを見せていて……。

新作はひょんなことから竜王の世話役となってしまった少女が波乱の運命をたどる中世和風ファンタジー。

文字通り雲の上の存在のお世話をすることになったヒロイン、ということで、これまでの作風から考えると、彼女にどんな過酷な試練が待ち受けているのか……と身構えていたのだが、少なくとも今回は紗良がそこまで痛い目に遭うことはないのでとりあえずひと安心。そんなことより(?)注目したいのは、彼女を取り巻く竜王たちの存在。言動は冷たいし思いやりのかけらもない感じなのに、内容を深読みすればするほど、彼らの発言は紗良への思いやり(ちょっと斜め上な部分もあるが)に満ちている。メンタリティの違いというのもあるだろうが、それにしても度を越した甘やかし&甘えっぷりにはついニヤニヤが止まらなくなってしまう。そんな彼らの振る舞いに、里から引き離され閉ざされていた紗良の心も次第に温かさを取り戻すという流れがとてもいい。

とはいえ、現時点で竜王たちの紗良に対する想いは「か弱いもの」に対するいわば庇護欲的な感情であり、まだ愛情ではなさそうだし、それは紗良の方でも同じなのだろう。終盤で紗良の立場が思いもよらぬ方向へと向かったことで、ここからは彼女の争奪戦が始まりそうな予感。なのでぜひとも続編希望!ということでひとつ。

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糸森 環 榊 空也

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人からも魔物からも逃げ、イリヤの故郷であるアルテミシアへと向かったレジナとアガル。そこにあったのは、カラシャが世界樹の種から育てた大樹で、その中は図書館となっていた。やがて合流したイリヤとカラシャと共に、レジナは大樹の中で暮らし始める。人と魔の膠着状態を保つために、不可侵の場所に潜伏する道を選んだレジナだったが、やがてイリヤの手引きでリストたちが現れ、再びレジナは外の世界へと出ていかざるを得なくなってしまう。イリヤはさる協力者たちと共にレジナを保護するつもりで、決して彼女を害したり眠らせたりするつもりはないのだというが……。

世界の命運を決するシリーズ9巻、これにて本編完結。

《最古の王女》としてどこまでも人と魔物、あるいは神々の思惑に翻弄され続けるレジナ。そんな彼女にアガルが問う「本当の願い」には思わず涙が出そうになる。ただ平穏に眠りたいという、ささやかな願い。しかし心優しい彼女は世界を見捨てることができなかったし、他者を救うことすら自分のエゴだとして、自己犠牲をも厭わない。とはいえ500年も眠らされていたこと、あるいは「過去」の記憶を取り戻したこと、さらには図らずも自分と同じ境遇に置かれていたイリヤの存在もあったかもしれない――レジナが自分の意志を主張し、前向きに運命に相対していくという成長ぶりが見えたのは本当に良かったと思う。すべては愛、ただそれだけで世界は変われるのだ、と。


◇前巻→「恋と悪魔と黙示録 身代わり聖爵と悪魔のための茨姫」


過疎化を食い止めるため、人とあやかしの共存計画が密かに進められている龍神町。七生はあやかしの代表たる「龍公」として町おこし案を考えるも却下され続ける日々。そんな中、夜になると軽微ではあるが怪異が発生しているため、白井たちが夜回りをすることになったという。あやかしたちが騒いでいるのは「龍公」たる七生が街に戻ってきたためだということを知った七生は、責任を取るという意味も込めて夜回りに参加することに。するとその夜、送り犬が現れ、見回り中に転んだ人を襲ってしまう。あやかしに対して理解を示していたはずの白井までもが否定的な意見を述べ始めるのを見て、七生は共存計画の難しさを改めて突き付けられるかたちとなり……。

ひょんなことからあやかしの代表として裏町長になってしまった青年の奮闘を描くシリーズ2巻。

町おこしというだけでも大変なのは目に見えているのに、そこに「人とあやかしの共存」というのも絡んでくるのだから、そう簡単にいくはずもなく……という展開の今巻。特に浮き彫りにされていたのはやはり、人があやかしを受け入れることはできるのか、ということ。もちろん、その逆も。

イケメン唐傘青年に運命の恋を感じて添い遂げる覚悟を表明した女子高生・芽衣のハートの強さはどう考えても例外で(しかしこのエピソードはテンション高すぎて好きだ……)、あやかしの生態は、そのつもりはなくとも人にとっては害になることがしばしば。どちらかのルールに完璧に合わせるというのはどだい無理な話で、どこかで折り合いをつけるしかないのだが、理屈としてわかってはいても、感情的に理解できるかどうかというのはまた別もの。さらに人とあやかしにはそれぞれがもつ時間の長さが極端に違いすぎるため、いろいろな点で齟齬が生じてしまう。それらを理解して受け入れることができる七生もやはり規格外で、だからこそあやかしたちに好かれるわけだが(今回もますますモテモテであった)、そんな彼だからこそ町を変えられるのではないかという期待はあやかしでなくとも膨らむ一方。今後の活躍にも期待したい。あとあやかしたちからのモテっぷりも(笑)。


◇前巻→「今日から、あやかし町長です。」


新たな婚約者候補を探す母親によって教会へと連れてこられたリズ。しかしその間に、馬車で待っていたはずのジョンが教会に拘束されてしまう。前の契約者でもある司教ペテロンをジョンが殺したと疑われているのだ。ペテロンの弟子でもあったグレコの一派は、かねてからリズが管理している叔父の画廊を狙って手紙を送り続けてきていた張本人でもあった。しかしジョンの拘束やリズへの手紙は、ペテロンを殺した悪魔をリズたちに探させるための策略。かくしてリズはジョンと共に、その悪魔とかかわりがあると言われる絵画を有する教会へと赴くことになるが……。

毒舌すぎる悪魔と変わり者の令嬢が、お互いに惹かれ合いながらも絵画に潜む悪魔を追うラブファンタジー2巻。

神に仕えるはずの高位の聖職者が、自らを守るため敢えて悪魔と契約している(ただしほとんどの人はそれを知らない)……といった設定が作者らしいなと思わせる今巻。しかし今回の事件というかジョンにかけられた容疑は、まさにその設定を逆手に取られたもの。かくしてリズはジョンと共に泊りがけで遠出して捜査に当たるのだが、病弱な身体を押してでもジョンの容疑を晴らそうと躍起になるリズと、そんなリズが心配でたまらずあの手この手で押しとどめようとするジョンの攻防がなんとも微笑ましいやらじれったいやら。特にふたりともすでに相手に完璧に惹かれているのに、その感情が何なのかわからない……というところからスタートしてるのだからたまらない。

病弱でしかも嫁入り前の娘を何日も外に連れ出すことになったジョンが、彼女の母親をどうやって説得したかわかるという終盤の展開、そして「ジョン・スミス」という名前の由来には驚かされたが、この上なくハッピーエンドになっていてひと安心。しかしもしかしてこれは、今巻で完結ということなのだろうか……だとしたらちょっと残念。このどうしようもないふたりが両想いになったその後も見てみたい。例えばジョンの態度がどのくらい変化するのだろう、とか。


◇前巻→「令嬢鑑定士と画廊の悪魔」


レジナが目覚めると、そこは花が敷き詰められた石棺の中だった。彼女を目覚めさせたのは教会の使徒であり、レジナが眠りについてから――悪魔の時代が始まってからもう50年が経ったのだという。リウによって眠らされ、その神魔によって隠されようとしていたところを魔王に見つかり、悪魔に掌握されたオズ地区に封じられていたのだとも。驚きながらも、使徒たちの言葉にどこか信じきれないものを感じたレジナは、隙をついて教会から脱出。するとそこにアガルが現れ、また祖先の影響で悪魔化したオズ伯爵とも再会。レジナはひとまず、カラシャの庇護下にあるイリヤの故郷を目指し、オズ地区を脱出しようと試みるが、悪魔側と教会側、双方の追手が次々と現れて……。

世界の命運の鍵となる《最古の王女》レジナが、永い眠りから目覚めるなり右往左往させられるシリーズ8巻。

いきなり50年!? ……とレジナ同様驚かされてしまう状況からスタートする今巻。再会したアガルは相変わらずの乙女ぶりで、芝居がかった反応は健在どころかパワーアップ(笑)。次々と現れる追手から逃げる合間にもなにかと繰り出してくるものだから、レジナでなくても息絶え絶えになってしまいそう。しかし逆にその態度が不信感をも煽る。アガルは魔王の影響を受けていないのか。あるいは、どこまでレジナのためを思って行動しているのだろうか、と。

そしてそれ以上に不安なのは、変わり果て、荒廃してしまった世界のこと。レジナの存在そのものが人という種族の命運を左右するということもあり、人間側の思惑は実にさまざま。捕らえて魔王に差し出したいという悪魔たちの目的の方がよほどシンプルではある。しかし悩み苦しみながらも、レジナは再び眠るのではなく、抗う道を選び取る。人間すら敵に回しかねないその宣言がどう功を奏するか、今後の展開が気になって仕方ない。


◇前巻→ 「恋と悪魔と黙示録 身代わり王子とラプンツェルの花の塔」


祖父が経営していた文房具店「ことのは屋」を継ぐため、故郷である龍神町へ単身戻ってきた赤城七生。しかしたどり着いた商店街で奇妙な幼女に遭遇し、その直後からでぶ狐に付きまとわれ、異形のものに追いかけられる七生。意味不明な問答に対し「なにも捨てないから」と叫んだとたん、怪奇現象は収束。そこに現れたのは「ことのは屋」の従業員だというふたりの青年、黒田と緑だった。そのふたりに問答無用で連れていかれたのは町の文化センター。過疎化が進む龍神町では秘密裏に人間とあやかしが共生するためのプロジェクトが進行中。実は赤城一族は龍神の末裔であるため、七生は祖父の代わりに新しい「龍公」として、あやかし側の代表者となりプロジェクトに参加することにされていたのだ。かくして文具店を営みつつ、七生はあやかし絡みのトラブルに介入せざるを得なくなって……。

富士見L文庫初登場となる作者の新作はいわゆる「あやかし」もの。人間とあやかしの共存を目指す町で、それぞれが居場所を探し求める物語。

人間側は過疎化を食い止めるため、そしてあやかし側は年々減りつつある自分たちの住まいを確保するため。文言としてはギブアンドテイクの関係に見えるが、どう考えても問題は山積み。そこで七生はあやかし側のリーダーにされてしまう。しかし龍神の末裔とはいえ、七生は普通の人間。そこでどちらか一方の側に立つのではなく、あくまでもバランスよく、事情を斟酌し、戸惑いながらも少しずつあやかしたちに寄り添おうとする。特に「金魚を食べる椀」のエピソードは、そんな彼のスタンスをよく表している。それは彼の生来の人の好さもあるのだろうし、それとは別に、自分なりにできることをしよう、あるいは自分がいていい場所を作ろうという、意思の表れなのかもしれない。

根底には恨みがあるからこそ、人間を純粋に好きにはなりきれないし、信じきれない。けれど信じたいとも思う。だから試す。何度も試してふるいにかけて、どこまでも実力行使することでしか相手を信じることができない。ある意味単純すぎるがゆえに、複雑な想いを処理しきれないあやかしたちに、新たな道を示してくれるのが七生の存在。トラブルはいろいろあったけれど、着実に彼らの心をつかみつつあるという展開にほっとした。七生にはそんなに過酷な目に遭わずにいてほしいなあと思う。いい人だから。


17歳の誕生日を迎えた伯爵令嬢リズ・ミルトンは、母親から果物を描いた5枚の絵を選ぶよう命じられる。そこでライムの絵を選んだ結果、騎士のエミル・カロティオンとの婚約が決まってしまう。納得できないまま顔合わせをするリズだったが、元より病弱で引きこもることが多く、また絵画が好きすぎて知識が偏っているリズは淑女らしい受け答えも出来ぬまま。しかし後日、なぜかカロティオン家からは婚約承諾の手紙が届くのだった。やっぱり納得できないリズは母親の目を盗み、画商である叔父・ハインのもとを訪ねる。そこでハインがリズを連れていったのは、彼が最近手に入れたという画廊。そこでハインが雇っているという管理人の青年ジョン・スミスに出会ったリズだったが、リズ以上に社交性も遠慮もないジョンの奇怪な言動に眉をひそめることに。さらに展示されている絵の中に、明らかに雰囲気のおかしなものが混ざっていることに気付く。ジョンはリズに、彼女が得た違和感について尋ねてきて……。

ビーンズ文庫での新作が早くも登場。今回は絵画好きな令嬢リズが、奇妙な青年鑑定士と出会い、絵画に潜む悪魔を見抜いてゆくというファンタジー作。

言動からなにからすべてにおいて奇妙なジョン・スミスだが、その正体は悪魔。そしてリズもまた、「至聖の目」と呼ばれる、絵画に隠れた悪魔を見抜く目を持っているのだという。かつての契約主を絵画に隠れていた他の悪魔に殺されたジョンは、その悪魔を探すためにリズの能力を望み、そしてリズはそのためにジョンと契約するはめに陥ってしまう。すると一応「契約」ということで、リズとジョンの間には主従関係が生まれるのだが、そこで妙にリズに対し甲斐甲斐しく世話を焼くようになるジョンがなんともおかしい(もちろんだからといって尊大な態度が目減りするわけではないが)。

今回は前半がジョンとの出会いと契約、そして後半が婚約者(仮)・エミルとの関係の顛末が描かれていくのだが、その中で無意識のうちにリズとジョンが惹かれ合っている――少なくともジョンはリズに対して契約以上の想いを抱き始めているという流れに。ただし悪魔という存在ゆえか、ジョンのリズに対する想いは純粋な愛情というよりは独占欲として現れているようだが。ともあれ、そんなふたりの関係をもっと見てみたいので続編希望(せめて前シリーズ同様3巻くらいまでは……!)。


秋になり、繁忙期を控えたLML工房。事業拡大として石鹸の販売を考えているというヴィクターの誘いで、ジュディは仲間たちと共にゴットニーという町を訪れる。先だってヴィクターから告白されたジュディは、旅の合間にも絶え間なく続くヴィクターからのアプローチに戸惑いつつも、その想いを受け入れようとしていた。しかしある時、ヴィクターが転びそうになった女性を助け起こす場面に遭遇。素手で女性に触れているヴィクターを見た瞬間、ジュディは自分の呪いの存在を強く自覚し、ショックを受けて……。

解く術のない呪いを抱えながらも惹かれ合うふたりのじれじれ恋模様を描く本シリーズも、この3巻にて完結。

両想いになったし、周囲ともうまくいっているし、と冒頭こそ平和そのものだったジュディの日常。しかし両親とのわだかまりは完全に解けていないし、かつての仲間にも再会するし、なによりヴィクターとの関係をこれ以上進めていいかどうか悩み始めるという展開に。それもすべて、根底にあるのはジュディの「眠らせ姫」の呪い。そしてこれが新たな事件、そしてヴィクターとのすれ違いを引き起こしてしまうことになる。前向きでいい娘なのに、またなんでここまでこの娘がつらい目に遭わなくてはならないのか、と今巻も最後の最後までじりじりとさせられた。特にヴィクターとのすれ違いエピソードときたらもう!

そしてやはり最後の最後までネックとなるのは、1巻でルイスが発した「永久誓約」のこと。現状これを解く方法はなく、しかし両想いになってしまったふたり(もちろん完結巻なのでジュディはヴィクターの正体などのあれこれをすべて知ることに)。もしまだシリーズが続くのであれば、ジュディとルイスのそれぞれの呪い、そしてこの誓約を解くという展開になったのではと思うのだが、結局すべて解けずじまい。しかしこれを踏まえたうえで、ジュディはヴィクターへと愛の言葉を贈る。その方法がとてもロマンチックだし、このシリーズそのものを象徴するかのようなもの。呪いが解けてなくとも(まあできれば解けてほしかったが)、ふたりはきっと幸せになれるし、いつかその日はやってくる。そう思わされるラストだった。


◇前巻→ 「階段坂の魔法使い やさしい魔法は火曜日に」


魔王の復活によりそこかしこに悪魔があふれる中、リウに保護されたレジナは他の朔使たちと共にリシュル地区の屋敷に隠れていた。ヴィネトの死にショックを隠せない一方で、ヴィネトを殺めてしまったバレクの状態の危険さからも目が離せないレジナ。亡き主を求め鳴き続けるバレクのせいで他の神魔たちも不安定になってしまうことから、リウはバレクの封印を決める。しかしヴィネトからバレクを託されていたレジナはそれに反対。軟禁されかかったところをアガルや月、そしてショックのあまりヴィネトに変身してしまったバレクと共に屋敷を抜け出したレジナは、リストを頼って悪魔被害が甚大なカイナールへと向かうが……。

波乱に次ぐ波乱、そして主人公の受難ここに極まれり、なシリーズ7巻、

魔王の復活とヴィネトの死がレジナと世界の運命を大きく、そして悪い方へと変えてゆく。周囲はレジナを「最古の王女」として扱い、彼女を守るために策を巡らせてゆくが、レジナは自分をただの人間の少女、あるいはひとりの朔使としてしか捉えていないため、その齟齬は広がる一方。レジナとしては王女扱いされても意味がない、と考えていたようだが、追い詰められる中でようやくその肩書の持つ価値に気付いてゆく。それは彼女の成長の一端なのかもしれないが、できることならそんな成長はさせたくなかった、というのが本音。ひとりの犠牲で皆を救うか、それともそのひとりを救うために皆で犠牲になるか。そんなどうしようもない岐路に立たされているレジナの行く末がとても心配。というか、見ていてとても辛い。

そしてもうひとつ、今巻で浮き彫りになったのが神魔たちの主に対する重すぎる愛情。これまでもそれはしばしば目にしていたけれど、今回は特にひどい。主を殺めてしまったバレクをはじめとして、彼らは主を守るためなら手段を選ばない。しかしそれを知っている主の側は、それを逆に利用しさえもする。彼らを傷つけてでも、そして自分を盾にしてでも、彼らに言うことを聞かせようとするのだ。アガルはしばしば人間の恐ろしさを口にするが、確かに強大な力を持つ神魔よりも、それすら利用しようとする人間の方が怖いのかもしれない。

とまあそんな深刻な状況続きではあるのだが、アガルは相変わらず乙女で、でも時に強引に、落ち込むレジナの顔を自分に向けさせるのだ。そんな彼にレジナが救われているのは確か。最後の最後までかわいいアガルに癒された……のだが、その後でまたしても大変な結末に。引き裂かれてしまったふたりはいったいどうなってしまうのだろう。


前巻→「恋と悪魔と黙示録 身代わり聖女と不思議なお茶会」


ルイスからの拒絶を安堵に変えて彼への「片想い」を続けながら、一方で口の悪い青年貴族・ヴィクターに惹かれつつあるジュディ。しかし毎日のようにヴィクターから送られる「手紙」に喜びながらも、ジュディはなかなか返事を出せずにいた。そんなある日、国営郵便局の新しい局長であるハリソンがLML郵便工房へやってくる。先日の事件の犯人であるトマスが脱獄したらしく、局長は魔法使いの――つまりはルイスの手引きがあったのでは、と疑っているのだ。さらにそんな折、LML郵便工房の扱っている鳥獣郵便がまた届いていないという報せがちらほらと入り始める。先の事件と同じ展開に不安を隠せない職員たちは調査を開始。ジュディもその場に居合わせたヴィクターと共に、聞き取り調査へと出かけるが……。

不器用すぎるふたりが織り成すやさしい恋愛ファンタジー、祝・シリーズ化!の2巻。

ジュディは「眠らせ姫」と異名をとるその特殊能力のために、そしてルイスはその異形のために、これまで異端として忌まれ、拒絶されてきた。そしてそれゆえに他者からの愛情というものに人一倍鈍感だし、自身が他者に愛情を寄せることにも怯えてきた。そんな似た者同士のふたりだからこそ、うまくいくのでは……というのは楽観的すぎる見方だというのが、今巻を通してもしみじみ分かってくる。優しすぎるからこそ、自分のせいで他人を傷つけたくないという、最後にたったひとつだけ残った切なる願い。だからルイスは殻に籠ろうとするジュディに苛立ちを隠せないのだ。自分のことは棚上げにして。

というわけで今回もトマス脱獄から始まり、鳥獣郵便紛失問題、女たらしのハリソン局長の息子問題、仮装舞踏会など様々な難題をクリアしつつ、近付いたかと思えばすれ違ったりケンカしたりを繰り返すジュディとルイス(ただし姿はヴィクター)。ルイス=ヴィクター=リンであることはジュディ以外全員知ってしまっているのだが、一番肝心なジュディがこれを知らないのだから、周囲で見ている面々はさぞかし面白いやら胃が痛いやら、といったところだろう。しかしそういったやりとりを繰り返せば繰り返すほど、ルイスは少しずつジュディへの想いを表せるようになってきたし、ジュディも自分の気持ちを見直すことができたのだからひと安心。とりあえず大変いい感じで今巻が終わったのだが、今後ヴィクターがどう出るか、そしてルイスとヴィクターとリンが同一人物という点がいつジュディにバレるか、そのあたりがとても気になっていたりして(笑)。


◇前巻→「階段坂の魔法使い 恋からはじまる月曜日」


他校との交流もある野外授業が行われることになり、「アオ」――アレクシアもレンズから参加を勧められる。しかしジーンと物理的に遠く離れることが出来ないアレクシアは、外出を嫌うジーンのために参加を諦めようとする。それに気付いたジーンはついに長年の外出嫌いを克服し、晴れてアレクシアは野外授業に参加できるように。しかしそんな矢先、ジーンの元婚約者という他校の少女・ナターシャが現れる。現在はロキアスの婚約者であるはずのナターシャだが、本人はジーンに未練がある様子。彼女は野外授業にも現れてジーンにたびたび付きまとい、アレクシアはそれを見るたびに複雑な思いにかられるようになるのだった。一方、元隷民ということでいまだに周囲から蔑まれるアレクシア。ロキアスはそんなアレクシアをさりげなく気にかけるようになり……。

今回ももちろん大騒動を巻き起こす、奇妙な入れ替わり学園ファンタジー第2弾。

ジーンとの不定期入れ替わりは相変わらずだが、それ以上に相変わらずなのがジーンの無自覚天然タラシっぷり。アレクシアとの入れ替わりにまつわるあれこれを「肉体関係」と公言してはばからず、またアレクシアへも無防備すぎるくらい接近するものだから、アレクシアは動揺させられっぱなし。それは元隷民として、花族にへりくだることなく接触せざるを得ない現状に対してなのだろうが、やがてその動揺には、対異性としての意味も込められてゆく。しかし本人はそれになかなか気付かないのだから、じれったいやら微笑ましいやら。

ジーンがアレクシアに対してがっつり接近していくのに対し、そこはかとなくじわじわ距離を縮めてくるのが、同じ六花爵でありジーンの幼なじみでもあるロキアス。俺様気質で上から目線なのはこちらも相変わらずだが、アレクシアの動向を気にし、周囲の迫害からもさりげなく守ってやるという気遣いぶりを見せるように。こちらも微笑ましいことこの上ないのだが、当のアレクシアはまだジーンとの仲を疑っているのだから始末が悪い(笑)。

今回の野外授業でも、アレクシアの身の上が遠因となって騒動が起きるが、それを解決に導くのもアレクシアとジーンのふたり。名実ともにいいコンビになってきているし、今回の件で他の六花爵だけでなく、周囲の生徒からも認められつつあるようで、状況としてはなかなかいい感じに。しかしそこで浮上した、特権階級に付きものの政略結婚的な縁談がアレクシアにも舞い込んできたらしいからさあ大変。さらにそれに対するジーンの発言がまた波乱を呼びそうなので、この続きがものすごく気になって仕方ない。


◇前巻→ 「六花爵と螺子の帝国」


触れたものを眠らせるという異能を持つ少女・ジュディのもとに舞い込んできたのは、「階段坂の魔法使い」として悪名を轟かせるルイス・M・ラトウィッジ子爵との縁談だった。育ての親である叔母からそんな話を聞かされた直後にルイスの弟子だという青年・ロブが現われ、ジュディはあっという間に子爵邸へと向かうことに。しかもその道中、待ちきれなくなったというルイス本人に攫われてしまう。強引さもさることながら、その異形としか言いようのない容貌にも驚くジュディだったが、当のルイスの目的は「眠らせ姫」と呼ばれるジュディの異能のみで、採血を済ませるとあっさりと彼女を放り出してしまうのだった。自分を疎む叔父や、ルイスに結婚してほしい(というか睡眠不足のようなのでジュディの力に頼ってでも寝てほしい)というロブの思惑から縁談話が成立したことを知ったものの、叔母夫婦宅にも戻れず行く当てのないジュディは、ロブに頼み込んで彼の助手としてそのまま居座ることに。ルイスが経営している郵便局で働くことになるが、最近この郵便局では、郵便に使っている獣が時折暴走するという事件が起きているらしく……。

ビーンズ文庫での新作は、産業革命が起こり、魔法が人々から遠ざけられつつあるイギリスを舞台に、それぞれが抱える事情から他人との関わりを避けざるを得ないふたりが出会ってしまう、不器用すぎるラブストーリー。

ジュディは「眠らせ姫」と呼ばれる異能のため、そしてルイスはその容貌や過去から、人と深く接することができないし、できるだけ避けようとする性格。しかしジュディはやはり人のぬくもりを心のどこかで求めているし、ルイスにしたって冷たい性格というわけではなく、他者との接し方がわからないという、ただそれだけ。そんなふたりがおそるおそる手を伸ばし、距離を縮めてゆくという展開がなんともたまらない。……とここまで書くと、ラブストーリーとしてはわりとありがちな展開に見えなくもないが、その縮め方がちょっと問題ありなのがまたいい。ジュディのほうはまだしも、ルイスのやっていることは回りくどいとかややこしいとかいうのを通り越して、もはや墓穴を掘りまくっているような気がしないでもないが、ジュディの方もそれには気づいていないので結果オーライということか(笑)。

ジュディの呪いについては今巻のラストまでに状況がほぼ明らかになったが、ルイスの過去周辺についてはまだまだ。ふたりの関係もまだまだこれからだし、そもそも出会った直後、結婚を厭うルイスがとんでもないことをしてしまったので(ジュディに告白することにでもなるならふたりして呪われ、それは決して解けない……というような誓約をしてしまった)、もう難題しかないというような状態なのだが、そのあたりをなんとしてでもクリアしてほしいので続編希望。

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