phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 夕鷺かのう


槐帝国の公主であるにも関わらず、とある事情でおんぼろ離宮に暮らし続ける雛花。そんな彼女の夢は、皇帝に宿る神と対になる女神「女媧」をその身に降ろす「天后」となり、長年想いを寄せている幼馴染・志紅の助けとなることだった。しかしある時、それまで彼女を応援してくれていたはずの志紅が、急にその夢を全否定。怒って飛び出した雛花は魔物に襲われてしまうが、そこで「天后」としての力を発動してしまうのだった。後日、その祝いと称して志紅、そして現皇帝である異母兄・黒煉との宴席に参加した雛花。しかしそこで志紅は黒煉を殺して帝位を簒奪したうえ、雛花を後宮に閉じ込めて自身の妻にすると宣言し……。

「(仮)花嫁」シリーズ作者の新作は中華風ファンタジー。創世神の力を振るうことのできる「皇帝」と「天后」をめぐり、簒奪帝となった幼馴染とそれに抗おうとするヒロインの攻防を描くラブコメ(?)ということで。

ヒロインが片想い相手に兄を殺された挙句自分も軟禁され……と、出だしも展開もなかなかハードな本作。しかし帯には「後宮脱出ラブコメ」「安心してください。ラブコメです!!!」などと書かれているのでいったいどういうこと?……と思いつつ読んだところ、ラブコメとシリアスの配分は前シリーズと同じくらい(つまり半々といったところ)なのでひと安心。自虐癖が半端ないものの向上心も人一倍な雛花と、ヤンデレと優しいお兄さんを行ったり来たりする志紅との掛け合いが楽しかったり、あるいはドキリとさせられたり。

最後の最後で志紅の思惑と簒奪の真相が描かれるのだが、このことについて雛花はまだすべてを知らぬまま。人ならざる超常の存在にひとりで抗おうとする志紅の決意は悲壮そのものだが、雛花が彼のためになげうってきたものを考えれば、志紅が彼女を犠牲にすることを厭うのも仕方のないこと。けれどここはやはり、ふたりで手に手を取って立ち向かってほしいと思う。例えば雛花が女媧を召喚したときに得た違和感が何かの鍵になってくれればいいのだが。


クロウとの結婚式が近付く中、フェルディアにはある悩みがあった。それは「初夜」というものが具体的になにをすることなのかわからないということ。こっそり入手した参考資料はベッドの下に隠しているうちに侍女に見つかって処分されてしまい、代わりを買ってきてもらおうとラナに頼むも当然のごとく断られてしまうフェルディア。そこで周囲の男性陣に初夜の作法について尋ね始めるのだが……。(「すべては恋のから騒ぎ」)

これにて本当にシリーズ完結となる、本編の後日談を収めた短編集。

まあのっけから「初夜とはなんぞや」という、当たり前ではあるが(そして当人には死活問題だろうが)読んでいるこちらとしては脱力感半端ないエピソードからスタート。しかしそれでこそフェルディア、それでこそ「(仮)花嫁」シリーズ。まあ最終的にはどうしようもなく甘すぎる展開になるのでひと安心。ついでにいうと、これ以後のクロウのデレっぷりが半端なく、本編を知る身としては「お前誰だ!」と言いたくなるくらいの勢いなのだがまあ置いといて(笑)。

他にも、パールを再び喪ったユアンに思いがけない再会が訪れる「南の洋に陽は沈み」、クロウの昔話と呼応するようにフェルの打ち明け話が綴られる「花の庭」、ジルフォードの急死から1年後、クロウがイルを訪れ昔話に花を咲かせる「春の祈り」、そして「春の祈り」から少し時をさかのぼり、ふたりの間に3人目のこどもができた時のエピソード「冬の証」を収録。どれも心温まる話ばかりで、ふたりのこれまでを思うと「本当に良かった……!」のひとこと、これに尽きる。これからふたりが進む道にはまだ困難が尽きないのだろうが、それでもふたり一緒なら絶対に大丈夫――そんな絆が感じられるラストがとてもよかった。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜結婚できたら大団円!〜」


当初の予定通り、無事(?)にクロウと離婚したフェルは、孤児院に戻って忙しい日々を送っていた。しかし以前と違うのは、クロウがユナイアに持ちかけた大商路建設において、ユナイア側の財務官に就いたこと。シレイネとうりふたつな容貌を隠すためにカツラ&眼鏡の某メイドスタイルで業務に携わるフェルだったが、そんな折セタンタから出張の依頼を受けることに。商路建設に対して南方の都市国家アルトゥンが反対を表明しており、その折衝のためユナイア側の高官たちが呼ばれているのだという。しかし向かった先に現れたのは、エルラント側の代表としてやって来ていたクロウ。変装しているのでバレないはずとタカをくくっていたフェルだったが、夜の酒宴の際にあっさり正体がバレてしまう。しかしその矢先、ユナイアの高官たちがアルトゥンの首領たちに毒を盛ったとして拘留され、死刑を言い渡されてしまうのだった。難を逃れたフェルは、クロウたちと共に仲間を助けるための算段を付けることに。しかもそんなフェルにクロウが告げたのは、元第2皇子イグレックが脱獄し、呪毒を持ったままこのアルトゥンに潜伏しているという情報で……。

ついに本編完結となる離婚ラブコメシリーズ12巻。「(仮)花嫁」から「元花嫁」になったフェルが、「元夫」とまさかの再会でさあ大変!?の巻ということで。

元の生活に戻ってはや1年。身分差を理由にクロウとの離婚を無理矢理納得しようとするフェルだが、心はやはりクロウの影を追い求める日々。離婚直前、クロウと香水を交換するエピソードや、どこまでも諦めないクロウの「貯蓄」エピソードなど、どれもこれもあまあああ!としか言いようのない光景が繰り広げられていたようなのだが、フェルはどれだけ求められても首を縦に振ろうとはしなかった。しかしここでクロウが諦めるはずもなく、何度拒まれてもへこたれず、とにかく外堀を埋めたり言質をとったりと小細工に腐心する日々。最後の最後でフェルを迎えに来るシーンはその集大成とも言えるもので、もはやこれは粘り勝ちとしか言えないのではないだろうか。まがりなりにも一国の皇子(ただしバツイチ)なのに(笑)。

でも、だからこそ、最後の最後でようやくフェルがクロウの手を取るシーンには感無量。後世の人々が語り継いだというクロウとフェルの伝説(しかも正解)――最初に結婚した「シレイネ」も、本当は「フェル」だったのだというもの――にも。このあともう1冊短編集が出るということなので、結婚後のふたりのエピソードをぜひ見てみたい。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜最終決戦はついに離婚!?〜」


ひとまず妖精王を退け、クロウとの再会を果たしたフェル。フェルがシレイネの身代わりであることがとうの昔にバレていたと知って青くなったりしながらも、フェルはクロウとの再会を喜ぶのだった。しかしそんな矢先、フェルと妖精王との距離が限りなく縮まっていることが判明し、その瞳の能力を使わないよう厳命されてしまう。時同じくして、幽閉されていたはずのリグレインが行方をくらましたことが判明。さらに妖精王は皇帝をたきつけ、皇帝はクロウに反逆の意ありとみなして直属軍をクルヴァッハへと派兵。クロウは道中で足止めをかけるが、妖精王の作り出した未知の呪毒により、兵士たちが異形へと変えられてゆき……。

クライマックス直前の本編11巻。妖精王の悲願が叶う「ワルプルギスの夜」を目前に、ついにクルヴァッハへと侵攻してきた皇帝軍を迎え撃つという展開に。

クロウとは再会できたし、ジルフォードも元に戻ったし、カイズやガウェインも助っ人に現れ、なんとなく気分が上向きになってきたかと思いきや、やはり状況はまったくもって芳しくないというのが現実。妖精王の力は増してゆくばかりだし、パールの魂がまだ残っていることがはっきりしても、それを救う手だてがない(厳密には方法はあるが、そのためにはフェルの力が必要なので実行しようがない)という状況。けれどクロウとフェルは諦めることなく立ち向かってゆくことに。パールの死をめぐってヨミと口論し、クロウが落ち込む場面もあったりはしたが、それでもようやく(まさかのジルフォードのおかげで)立ち直ったり、また皇帝の思惑を兄弟全員でくじいたりと、ここにきてようやく彼らの絆が見えてきたという展開もいい。

そして絆と言えばやっぱりフェルとクロウ。正体もはっきりしたことで、改めて互いへの愛を自覚するふたりだったが、やはりどうしようもないのがフェルの素性というか立場。「シレイネ」としてであればこの婚姻は問題のないものだが、フェルには本物のシレイネへの恩がある以上、そしてこの婚姻が仕事である以上、このまま「シレイネ」としてクロウの側に居続けることはできないという覚悟を、改めて固めることに。今巻のラストには、わかっていたけど涙が止まらなくなってしまう。本シリーズもあと1冊ということだが、この恋人たちはいったいどうなってしまうのだろう。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚しちゃうと絶体絶命!?〜」


ジルフォードだけでなく家令のサリタにまで裏切られた上、パールからはクロウの遺髪を見せられたフェルディア。しかも皇宮内にクロウのことを知っている者は誰もおらず、「シレイネ」の夫は藍龍公であるパールとされていた。これらの事態がパール、すなわち妖精王によるものと分かっていても、クロウの安否が不明であるのは変わらない。一時は絶望しかけていたフェルだったが、不意に目の前にクロウの幻が現れ、彼女を励ます言葉をかけるのだった。それから気合を入れ直したフェルは、ひとまず領地であるクルヴァッハへ戻る算段をつけるが……。

シリーズ10巻、まさにサブタイトル通り、離婚しちゃうと死んでしまう!?(ただし離婚相手は本当の旦那様ではなくニセ旦那様)という展開に。

前巻のラスト、そして今回の冒頭においては、クロウが死んだ!?という信じられない展開で、フェルと同じく読んでいるこちらもショックで目の前が真っ暗になってしまったのだが、まあ結論から言うと生きてたので良かった、ということで。ただし生きてたからといって状況が好転するはずもなく、たったひとりでパールに立ち向かうフェルは、妖精王の圧倒的な力とそのおぞましい計画の一端を知ることになる。花嫁であるフェルを手に入れるのももちろん大きな目的ではあったようだが、それだけに留まらない妖精王の目論みには、そしてそれがもはや達成されつつあるという状況は、ただもうこわいとしか言いようがない。

しかしそんな中で際立つのが、フェルとクロウの絆。今回は最後まで離ればなれのふたりではあったが、離れていても――いや、離れていたからこそ、互いの大切さに気付き、そして自分の想いにも改めて気付かされてゆくことに。特にフェルがパールに襲われそうになった時、かつてのクロウの神誓がフェルを救うという展開には、もう言葉が出ないほど嬉しくなってくる。ふたりそろってどんな逆境にもへこたれず、互いのために動き続けるというのもまたたまらない。

それにしても今回頑張ったのは第4皇子のユアン。実は正気を取り戻していたユアンは、同じく正気のミゼルカと共に、フェルに助力することに。さらに別の場所ではガウェインとシレイネ(本物)がまさかの共闘。内でも外でもそれぞれが知略を絞った結果、とりあえず今巻ではピンチを乗り越えたものの、一方でフェルが「向こう側」の過去を取り戻しつつあるという現状はけっして楽観視できるものではない。クライマックス直前ということで、ますます目が離せない。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚のはずが大波乱!?〜」


春分節の舞台の後、クロウがフェルに紹介してきたのは、彼の同腹弟という皇子・パーシヴァルだった。すでに亡くなっているはずのパールが目の前におり、クロウはおろか、他の皇子や周辺の人々までがパールの存在を受け入れていることに愕然とするフェル。だがその日の夜にふらりとやってきたクロウの様子から、クロウの昼間の態度が演技であることを察したフェルは、ひとまず単独で探りを入れることに。やがてこの事態が呪毒によること、さらにクロウだけでなくジルフォードとミゼルカ、そしてケイもその影響下にないことに気付いたフェルに、クロウは妖精にまつわるいくつかの秘密をフェルに告げるのだった。しかしその直後からフェルの目に妖精が視えるという異変が発生。さらにエルラントの上層部では、パールの策略でユナイア王国への開戦が決定されようとしていて……。

シリーズ9巻、死んだはずの皇子が登場したうえ、いきなり離婚&戦争の危機!?の巻。サブタイトル通り、まさに大波乱。

死んだはずのパールの身体を乗っ取っているのは、フェルを取り返すために現れた「妖精王」。エルラントと妖精の結びつき、そして「花嫁」たるフェルをクロウが奪ったという現状はまさに妖精王の怒りを買うには十分すぎるもので、今巻ではこれでもかというくらい、フェルとクロウに災難が降りかかるという救いのなさすぎる展開に。

黒幕がパール――「妖精王」だとはわかっていても、それに与している人物が操られているのかそれとも自分の意志なのかがまずわからない。誰が敵で誰が味方なのかわからず、後手に回らざるを得ない中で、互いを信じ合って事態に当たるフェルとクロウの絆の深さが見て取れる。特にこの巻と同時に1巻のコミカライズが発売されていて、それを読んだ後だからなおさらに。しかしそんなふたりをあざ笑うかのように、パールはふたりの希望を次々と打ち砕いてゆく。まさかの人物の裏切りによって窮地に陥ったふたりはどうなってしまうのか。あとがきで作者は「基本ラブコメ」と書いていたが、そんな内容に戻る日はくるのだろうか……。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚祭りは盛大に!?〜」

(仮)花嫁のやんごとなき事情 -離婚祭りは盛大に!?- (ビーズログ文庫)(仮)花嫁のやんごとなき事情 -離婚祭りは盛大に!?- (ビーズログ文庫)
夕鷺 かのう

KADOKAWA/エンターブレイン 2015-02-14
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妻が「シレイネの偽者」であることを知ってなお、態度を変えようとしないクロウに戸惑うフェルディア。それどころかふたりの関係を「共犯者」と称し、以前より距離を縮めてくるクロウにフェルはパニック寸前となっていた。そんな折、クロウの父であるウーベル帝から春分節の祭典のため、全ての皇子に召集がかかる。しかし謁見のさなか、クロウに反逆者の疑いがかけられてしまう。いわく、エルラント皇帝の証である、初代皇帝モルドレッドの剣がクロウの命で盗まれたのだ、と。クロウの抗議に対し、皇帝は春分節の祭典までに犯人と剣を探し出せば疑いを解くと宣言。皇子たちはみな、クロウや皇帝を憎むリグレイン妃の仕業だと口をそろえるも、証拠は全くない状態。しかし手掛かりを求めるフェルディアの前に、クロウたち兄弟の末弟であるヨミが現れる。彼の手引きで向かわされたのはリグレインの住まう離宮。そこでリグレインと対面したフェルディアは、彼女の出す難題を解ければ離宮内を捜してもいいという、賭けに乗ることになり……。

シリーズ8巻。これまで名前だけは出てきていた、クロウの母親にしてその弟・パールを殺した張本人でもある妃・リグレインが登場。まさかの嫁姑戦争勃発ということで。

とはいえ単なる嫁いびりにしては相当手の込んだ難題を突き付けてくるのがリグレイン。弓矢を使わずに雁を捕らえて風切り羽を抜けだの、触れれば崩れる灰の縄をなえだのというように、どれもこれも不可能そうな内容。しかしフェルは工夫を凝らして難問をひとつずつ解いてゆく。一方でクロウはガウェインやセタンタ、カイズを動かしながら、妖精についての調査を続けていた。そこで浮かび上がってきたのはフェルディアの正体と、妖精とエルラントの間に隠されたある関係。さらに現在、フェルが乗った賭けに秘められたリグレインの真意。さらに時折妙な素振りを見せる長兄・ジルフォードも相変わらずの不安要素だし、妖精王の正体も明らかになったしで、少しずつ明らかになる真実はどれもこれもが絶望感を煽るような内容で、今後の展開に不安しかもたらさないものばかり。

そんな中でやはり救いになるのがフェルディアの前向きさ。リグレインがクロウを中傷する場面では双方の頬を張り飛ばして抗議したり、心労が重なるクロウをさりげなく励ましたり。リグレインの罠にかかって正気を失いかけた時、クロウのかけたある言葉で元に戻るくだりは笑ってしまったが、そうやって深刻な空気をあっさり吹き飛ばしてしまうフェルだからこそ、クロウも彼女を手放せないのかもしれない。なんとかお互いへの気持ちを再確認したことだし、今後のふたりの関係がどう展開してゆくかが唯一の希望というかなんというか。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚の誓いは教会で!?〜」

(仮)花嫁のやんごとなき事情 -すべての道は離婚に通ず?- (ビーズログ文庫)(仮)花嫁のやんごとなき事情 -すべての道は離婚に通ず?- (ビーズログ文庫)
夕鷺 かのう 山下 ナナオ

KADOKAWA/エンターブレイン 2014-10-14
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クルヴァッハで起きた呪毒事件の真相を探るべく、「新婚旅行」と称して辺境へ向かうことになったフェルとクロウ。その道中でふたりは「着だおれの街」と名高いカヴィバエリに逗留することに。折しもカヴィバエリでは、衣装の美しさを競う大イベント「華争い」が開かれている最中だという。それを知ったクロウは、互いに衣装を選び、宿の女中たちに投票させようという勝負を持ちかけてきて……。(「カヴィバエリの華争い」)

今回は本編ではなく「スペシャルブック」ということで、登場人物たちのプロフィールやショートコミック、ラフスケッチ、そして短編6本+掌編1本を収録という豪華仕様。

短編はイルへの「新婚旅行」中にふたりが勝負するはめになる「カヴィバエリの華争い」、フェルが身代わり結婚する前の夏至祭で、シレイネとセタンタの触れ合いを描く「氷砂糖と銀の鈴」、フェルがいかにして守銭奴になったかがよくわかる(?)「夕暮れの泣き虫」、ユアンと生前のパールの交流が垣間見える「極北の夜は明ける」、雨模様からクロウが過去を回想する「追想の雨」、そしてユアンがクロウの城にいる侍女(フェル)に片想い!?ということでひと波乱な「(仮)花婿ののっぴきならない事情」の6本。

ラブコメからシリアスまでいろいろと取り揃えられた短編群だが、やはり一番良かったのは、うれしはずかし夫婦愛ぶりが滲み出まくっている「カヴィバエリの華争い」。クロウの服選びに隠された真意にはなんというかもう。
それともうひとつ。「追想の雨」、そしてミゼルカの視点で語られる掌編「幕間」で、ジルフォードが以前とは性格が変わってしまった――正確には、性格そのものは同じだが、奇矯な振る舞いや発言は以前にはなかったものだったという事実。ミゼルカはそれが「リグレイン妃の離宮に行った後からか」ということに気付く。ジルフォードのその「変化」は、おそらくリグレイン妃に対するためのものなのだろうが、一体彼は何を見たのだろうか。今後の展開にも関わってきそうで、なんとも薄ら寒い気分になってくる。


◇前巻(本編)→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚の誓いは教会で!?〜」

(仮)花嫁のやんごとなき事情 ~離婚の誓いは教会で!?~ (ビーズログ文庫)(仮)花嫁のやんごとなき事情 ~離婚の誓いは教会で!?~ (ビーズログ文庫)
夕鷺かのう

KADOKAWA/エンターブレイン 2014-05-15
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フェルが偽者の「シレイネ」であることに、クロウはすでに気付いていた――そんな事実を突き付けられて焦るフェル。考えた末、ひとまず真実を告げようとクロウに会いに行くフェルだったが、なにかと理由をつけて避けられるように。ようやく捕まえたと思ったのも束の間、クロウは出会った時のような冷たい態度に逆戻り。さらにクロウは理由が分からず戸惑うフェルを連れて、エルラント中央教会へ向かう。訪問の理由を問う高位聖職者のひとり・カイズに対し、クロウは「シレイネ」との結婚の神誓を解除したい――つまり、離婚したいのだと言い出して……。

シリーズ7巻、自分から突きつけねばならなかった離婚話をなぜかここで旦那さまの方から持ち出されてしまいましたー!の巻。

クロウへの恋心は十分に自覚しており、だからこそ自分の正体がばれていたとしても、それでも可能な限り彼を守る覚悟を固めたフェル。しかしそんなフェルの想いも知らず、クロウはクロウでフェルを守るために、彼女を遠ざけようと離婚を持ち出すことに。なんというすれ違い!

なのでクロウの真意がまったくわからず、あさっての方向で悩んだりするフェル。けれどそんな中でも――クロウに嫌われたのだとしても、彼のためにと不審な教会内を探るフェルの健気さに胸を突かれる。そして、自分の前では泣かなくなった――自分以外の「泣ける場所」をフェルが見つけたことに気付いてしまったガウェインの心中にも。

修道女のフリをしているフェルに、知らぬふりで問答をふっかけたことで、フェルがどんな気持ちでいるかを知ったクロウ。守りたいなら遠ざけるべきではない――それが諸刃の剣だとしても、それでも。
そう決意を新たにして、絆が深まったふたりには拍手!の一言ではあるが、ふたりを取り巻く状況はひたすらに悪化してゆく。パールが死に、5人になったはずの皇子たちに対し、「皇子6人全員がそろう」として春分節の祭典の招待状を送りつけてきた皇帝の真意は。そして、フェルを執拗に狙う「妖精」たちと、クロウを憎む王妃リグレインとの関係は。この先の展開がただひたすら恐ろしいものになる、そんな気がしてくる。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜円満離婚に新たな試練!?〜」

(仮)花嫁のやんごとなき事情 ~円満離婚に新たな試練!?~ (ビーズログ文庫)(仮)花嫁のやんごとなき事情 ~円満離婚に新たな試練!?~ (ビーズログ文庫)
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エンターブレイン 2014-01-14
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先だっての「本物のシレイネ」騒動の後、フェルはセタンタ王から新たな指示を受ける。いわく、クロウを自分にベタ惚れさせて振り回した挙句に離婚しろ、と。これまでとは真逆な指示に頭を抱えるフェルは、それでもなんとかクロウに接近しようとするが、逆に何か企んでいるのではとクロウに警戒される始末。そんなある日、クロウの兄である第1皇子ジルフォードが突如黒龍城に現れる。ジルフォードはクロウに、かつて「シレイネ」の命を狙っていた第2皇子イグレックが発狂したこと、そしてクロウの実母であるリグレインが帰城してきたことを伝える。さらにそのクロウの目を盗み、ジルフォードはフェルに接近。自分はフェルが偽者だと気付いていること、そしておそらく、クロウもそれには気付いているのだと告げて……。

シリーズ6巻。路線変更を余儀なくされておおわらわなフェルに対し、さらに自身の進退問題が密かにふりかかってきてさあ大変、の巻。

クロウに色目的なものを使おうとしてもうまくいかなかったり、そのせいで逆に不審がられたりと、すべて裏目に出てしまうフェル。しかしそんな愉快な状況とは裏腹に、彼女の心中はまったくもって穏やかではなかった。結局のところフェルがシレイネの身代わりであることに変わりはなく――本当はシレイネこそがフェルの身代わりだったのだが、本人は知る由もなく――、だからいくらクロウの気を引いたところで、彼と結ばれるということはあり得ない。その事実が重石となってフェルの胸中に深く沈んでゆく。しかもそんな矢先に、ジルフォードから自分の正体がバレている可能性を告げられ、ますますフェルはパニック状態に。
けれどそんな折、黒龍城にクロウたちの弟である第4皇子・ユアンが現れた(というかジルフォードに拉致られた)こと、そしてジルフォードの護衛役である女性・ミゼルカとジルフォードの「関係」を目の当たりにしたことで、フェルは新たに決意を固めることに。ただし、その決意が吉と出るか凶と出るか、今のところは分からないのだけれど。

で、最後の最後まで結局分からなかったというか、気になるのはジルフォードの行動。クロウに妙な手紙を送ってきたはずなのにしらばっくれたり、リグレイン妃の側に侍る、死んだはずの弟皇子「パール」を見たはずなのに、それを一切口にしないことなど、不審な点が目立つ。わざと隠しているのか、それとも何らかの方法で忘れさせられたのか――通常が奇矯すぎていまいち読み切れないジルフォードだが、その行動には注目ということで。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚の裏に隠れた秘密!?〜」

(仮)花嫁のやんごとなき事情 ~離婚の裏に隠れた秘密!?~ (ビーズログ文庫)(仮)花嫁のやんごとなき事情 ~離婚の裏に隠れた秘密!?~ (ビーズログ文庫)
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エンターブレイン 2013-09-14
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本物のシレイネ登場により、故郷に戻ることになったフェル。しかしクロウの策略により、「侍女のフェル」としてしばらく城で働くはめになってしまう。しかもクロウはフェルに対し、最近のシレイネの様子がおかしいと言い始める。身代わりを疑われていると考えたフェルは、警告のためにこっそりとシレイネに会いに行くが、そこでシレイネのクロウに対する根深い憎悪を知らされることになる。一方その頃、城内では突然眠り始めて昏倒する人々が増えていた。苦しむでもなく死ぬわけでもなく、ただ眠るだけという謎の症状にクロウも手をこまねいていたが……。

お役御免と思ったはずがいつまでたっても逃げられない……のは良かったのか悪かったのか、なシリーズ5巻。
クロウに対する自身の想いに気付いたフェルだったが、クロウがこれまでのシレイネが偽者だと(正体込みで)知っていることにはまだ気付いていない。そのため、本物のシレイネが現れた今となっては、自身の想いに蓋をして、侍女としてクロウに接するのみ。ゆえにシレイネのクロウに対する、そしてクロウのシレイネに対する憎悪の双方を突き付けられて戸惑うことに。本物のシレイネは守りたい、かと言って彼女がクロウを殺そうとするのは見過ごせない――と迷うフェルだったが、事態は急展開。シレイネとクロウがほぼ同時に動き始めたことで、フェルは否応なしに再び「シレイネ」としてクロウの前に姿を現すはめになってしまう。けれど読んでいるこちら側からは、それこそがクロウの策略だというのが見えてきて、なんとも楽しい流れになっていく。その後、本物のシレイネの処遇を巡ってふたりが仲違いしつつ、でも結局は同じことを考えているというのもなんともいじましい。

そんな感じで本物のシレイネがここにきてエルラントにやってきた目的や、フェルに執着する理由もわかってはきたものの、実は彼女がラスボスではなく、黒幕は別にいる模様。しかもその黒幕こそが、フェルとシレイネの出自と将来に関わってくるとかいうものだからさあ大変。フェルのことを守りたいが、そのために彼女に話すことのできない秘密ができてしまったクロウはどう出るのか。そしてその頃、クロウの兄であるジルフォードが見た「彼」は一体何者なのか……とにかく続巻に期待。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚の前に身代わり解消!?〜」

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エンターブレイン 2013-07-13
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旅先でついにクロウへの恋心を自覚してしまったフェルディア。「円満離婚」という任務遂行のため、城に帰るまでにそれをなんとか忘れようとするが、どうしてもうまくいかない。そんな中、フェルたちの乗る馬車が狼の群れに襲われる。応戦したクロウが大怪我を負ったと聞かされたフェルはとっさに馬車を飛び出すが、向かった先で待ちかまえていたのはなんとシレイネ姫本人で……。

シリーズ4巻、ご本人登場でついに身代わり生活も強制終了?の巻。
突然現れたシレイネはフェルを国に送り返し、クロウの前に姿を現すことに。クロウは彼女が今までの「シレイネ」――フェルではないことにすぐ気付くが、フェルの行方もシレイネの思惑も分からず、困惑を隠せない様子。シレイネにはうまく言いくるめられ、家令のケイには決断――本物と偽者、どちらの「シレイネ」を選ぶのか――を迫られ、シレイネを案じて城にこっそり戻ったフェルを見つけ出したものの、差し出した手を拒まれ、なんというかクロウにしては珍しく八方塞がり。けれどフェルの言葉から彼女の本心を悟ってやる気が出たのか、シレイネを逆にやりこめてみたりするあたり、なんというかわかりやすい(笑)。

シレイネは自身の寿命を縮めてまで、一体何のためにエルラントまでやってきたのか。なぜフェルのことを大切に扱うのか。そもそもフェルの出自とはいったい何なのか。クロウが気付いたユナイアとエルラントの関係も含め、いろいろと謎は深まるばかり――なところで続く。フェルも「シレイネ姫」としてではなく「侍女のフェル」として城にとどまる口実を作られてしまったところで、ふたりの関係やらシレイネ本人の今後の出方やら、ついでにシレイネの兄・セタンタがガウェインに問い詰められている件も含め、次巻が楽しみ。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚できずに新婚旅行!?〜」

(仮)花嫁のやんごとなき事情 -離婚できずに新婚旅行!?- (ビーズログ文庫)(仮)花嫁のやんごとなき事情 -離婚できずに新婚旅行!?- (ビーズログ文庫)
夕鷺かのう

エンターブレイン 2013-02-15
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今日も今日とて、円満離婚に向けて旦那様に嫌われるべく努力中の「シレイネ姫」ことフェルディアに対し、旦那様であるところのクロウは「新婚旅行に行かないか」と言い出してきた。なんでもクロウの領地の南東に位置するティカルは異民族の土地であり、先の事件で扱われた夕輝晶の産地でもあるという。そこに行けば先の事件の黒幕の手掛かりがつかめる可能性がある、と言われたフェルはその提案に乗ることに。しかし家令のケイはフェルに、ティカルはかつて、クロウに関わるある事件が起きた土地であることをほのめかし……。

姫君の身代わりに隣国に嫁いだヒロイン(正体は貧乏な一般庶民)が、離婚に向けて奮闘するもなかなかうまくいかないラブコメシリーズ第3弾。ますます逃げ場を失いつつあるフェルだったが、今回のミッションはなんと新婚旅行。旅行先では当然夫婦として振る舞わなければならないわけで、常にくっついていないとならなかったり、用意された居室が一緒だったりで、自分の気持ちにまだはっきり気付けていないフェルにとっては気の休まらないことばかり。そのうえまたしても命を狙われるわ、クロウの兄であるエルラントの第1皇子・ジルフォード(わりと変人寄り )がやってきたりでさあ大変。

そんな感じで混乱しまくりのフェルではあったが、気になるのはやはり、出発前のケイの言葉。ティカルでかつてクロウの身に起きたこと――それはクロウの弟にまつわる陰惨な事件だった。その過去を知り、そして今回の事件をくぐり抜けたフェルは、ようやくクロウへの気持ちの正体に気付く。そんなフェルはこれからも離婚に向けて邁進することができるのだろうか。そして暗躍する本物のシレイネ姫の真意とはいったい。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚できなきゃ大戦争!?〜」

(仮)花嫁のやんごとなき事情 -離婚できなきゃ大戦争!?- (ビーズログ文庫)(仮)花嫁のやんごとなき事情 -離婚できなきゃ大戦争!?- (ビーズログ文庫)
夕鷺かのう

エンターブレイン 2012-10-15
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祖国の姫君・シレイネの身代わりとして、隣国エルラントの「毒龍公」クロウの元に嫁いだフェルディア。シレイネのため、なんとしても立夏までに離婚しなければならないのだが、先の事件以降、やたらとクロウは「シレイネ」を構ってくるように。とにかく逃げ続けるフェルに対し、クロウはとある賭けを持ちかけ、勝てば離婚してやると告げる。そんな折、祖国からクロウを訪ねてやってきたのは、フェルがいた孤児院の院長でもある吟遊詩人・ガウェイン。彼はセタンタ王の命で、クロウが「シレイネ」の夫にふさわしいかどうかを見極めに来たのだという。これから冬至の祭が終わるまで――1週間以内に軍の力を使わずしてクロウがガウェインに勝てればよし、負ければなんとしても「シレイネ」を連れ帰ると言うガウェインに対し、クロウはその挑戦をつっぱねると言い出して……。

というわけで離婚前提の結婚生活、ここにきて戦争の引き金にすらなりかねない展開でさあ大変!なシリーズ2巻。
クロウは嫁いできた「シレイネ」が偽者であること、その正体が下女の「フェル」であること、そしてクロウがかつて一目惚れした娘こそ、シレイネではなくフェルディア本人であることをすべて知っていて、だからこそ「シレイネ」を――フェルを手放すつもりはさらさらないわけで。けれどまだ「シレイネ」=「フェル」だと気付かれていないと思い込んでいるフェル本人には、その理由が分からず動揺しっぱなし。さらにはガウェインの登場で、事態は余計面倒臭いことに。ガウェインのフェルに対する想い、そしてすれ違うクロウとフェルの想いには見ていてはらはらさせられる。でもだからこそ、このたび起きた事件を経て、フェルがクロウに対して告げた「離婚したい理由」が胸を突く。クロウのことをきらいだという、それが恋心だということにフェルは気付いているのかいないのか……。


◇前巻→「(仮)花嫁のやんごとなき事情〜離婚できたら一攫千金!〜」

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下町の貧乏孤児院を支えるためバイトを掛け持ちしまくる勤労少女・フェルディアは、実はユナイア国第1王女のシレイネとうりふたつ。病弱なシレイネのため、彼女の替え玉というバイトを時折こなしていたフェルだったが、このたび持ちかけられたのは、「毒龍公」と揶揄される敵国の第3皇子・クロウとの結婚話だった。しかも最終目的はクロウとの円満離婚。大金を約束されたフェルはシレイネとしてクロウの元に嫁ぐことになるが、初夜で突然クロウから刃物を突き付けられた上、部屋に軟禁されることに。敵国の姫君ということで侍女たちからも無視されたフェルは、嫁入り道具の中に隠されていた侍女服で変装し、部屋からの脱出に成功するが、そこでクロウに出くわし……。

新シリーズは離婚前提の結婚(しかも替え玉)!?というなんとも複雑な展開の政略結婚ラブコメということで。
結婚初日にクロウから痛烈な一撃をくらってしまったフェルだったが、報酬のために持ち前の前向きさを発揮し、なんとか円満離婚に持っていくべく潜入捜査を開始。しかしクロウにあっさり見つかったからさあ大変。とはいえ、「シレイネ」にはあれほど冷たかったクロウは、なぜか「侍女のフェル」に対しては優しい顔を見せるものだから、フェルは大混乱。なぜクロウは病弱な「シレイネ」をひとまず丁重に扱いながらも、彼女のことを悪し様に罵り、嫌う素振りを見せるのか――「シレイネ」として、そして「侍女のフェル」としてクロウと接するうちに、彼のことが気になり始めるフェルの心の動きに胸をつかれることもしばしば。

……という展開からの、ラストでのクロウの独白にはもうなんというかごちそうさまでした!というか(笑)。ふたりの今後がとても楽しみ。

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