phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 岩城裕明


リサーチ会社を経営している穂柄は、不動産会社に勤めている友人からある依頼を受ける。それはとあるマンションの事故物件を1週間住み込みで調査するというものだった。なんでも対象となる909号室では7年前に妊婦が自殺し、以後はその部屋だけでなく、同じフロアの部屋すべてに人が居着かなくなってしまったのだというのだ。穂柄はバイトの大学生・優馬に事故物件であること以外の詳細を伏せた状態で909号室に住まわせ、自分は管理人室で定点カメラを通してその様子を監視することに。すると1日目からすぐに、穂柄の想像を超えるような出来事が少しずつ起こり始めて……。

「事故物件の住み込み調査」というただそれだけの仕事が、思いもよらない結末を呼び寄せる超常ホラー作品。

タイトルにある通り、主人公の穂柄は7日間にわたって事故物件を調査することに。それにしても不思議なのは、事故物件だけでなく、その周囲の部屋からも住人がいなくなっているという点。確かに同じフロアにそういう部屋があれば不吉がるのは仕方ないとは思うが、それだけにしては奇妙な気もする。やがて穂柄のもとには、その奇妙さを裏付けるような情報も集まり始めるのだが、それらの点が線で繋がっていく気配があまりないままに日々は過ぎていくというのが、なんとも不気味に感じられる。いつの間にかこの案件そのものに巻き込まれてしまっていた穂柄や優馬がこの先どうなってしまうのか、またこの事故物件で起きている事態は何を目的としているのか、なにもかもわからないのがまた余計に怖く感じられた。

呪いに首はありますか
岩城 裕明
実業之日本社
2018-08-07

久那納家の長子には30歳で必ず死ぬという呪いがかけられている。それがいつからなのか、そして理由も定かではない。しかしある時、呪いを解くための研究を始めた女当主がいた。彼女は道半ばにしてその年齢を迎え亡くなってしまうが、その研究は子孫へと受け継がれ、そして今へと至る。現当主である久那納恵介は、呪いの「治療」のため、「心霊科医」を名乗り、相棒の墓麿と共に「干渉型思念体」、つまり悪霊化した幽霊を探し続けていた……。

表紙だけ見るとグロテスク系ホラーに見えなくもないが(そしてそういう面も実際なくはないが)、最後まで読むとその印象ががらっと変わってしまう、不思議な読後感のホラー連作。

春日というかつてのオーナーが自殺し血痕が残ったままというまさかの事故物件病院をそのまま使い(だから病院名を「元春日クリニック」としているのにはつい笑ってしまった)、幽霊に関する相談を受け付けている久那納恵介。そんな彼の元に持ち込まれる相談はなかなか風変わりなものが多い。例えばキッチンに転がる幽霊の死体だったり、誘拐された幽霊探しだったりと、そもそも幽霊とは……と言いたくなるような、こちらの「幽霊観」を吹っ飛ばしてくるようなものばかり。とはいえ幽霊を「残留思念体」と位置付ける恵介にとって、幽霊のいわば原材料となるのは人間であるからして、これらを解決することはさして難しい事ではないのかもしれない。本作の問題はそこではなく、あくまでも恵介の身に降りかかっている「呪い」なのだから。

恵介にはいわゆる霊感というものはなく、だから幽霊を見ることはできない。その部分を肩代わりしてくれるのが「相棒」の墓麿なのだが、彼の正体もまた、恵介のもとに持ち込まれる案件同様、想像しえないものだった。恵介の祖母にあたる久那納寿子が研究の末にたどり着いた「呪い」の解き方は、言われてみればこの上なくわかりやすい方法だったのだ。ただそれを、当事者たちが受け入れられるかどうかは別として。

自分を死に至らしめる「呪い」などろくなものではないに決まっている。だからこそ恵介だって、これまで「呪い」を解くために幽霊を探し続けてきた。けれど寿子の考案した「方法」は、「呪い」との関係を変えてしまったのかもしれない。元々恵介は、自分が死ぬということだけでなく、妹に産まれた子にやがて呪いが引き継がれることをも恐れていたはず。だからこそ、彼を取り巻くこの状況そのものが枷となってしまう。「呪いに首はありますか」というタイトルがこれほどまでに重要な意味になるとは思ってもみなかった。そしてその意味が分かった瞬間の絶望感をどうしたらいいのか。これまで、ヒトと呪いは相容れることができないはずだった。呪いはヒトを蝕み食い散らかして次の宿主へと移る。けれど恵介が迎えた結末はその理を軽く飛び越えていく。30歳の誕生日を無事に過ぎることができた恵介がこの先どうなるのかはわからない。だからこそ、彼のその後を少しでいいから見てみたいと思った。

三丁目の地獄工場 (角川ホラー文庫)
岩城 裕明
KADOKAWA/角川書店
2016-04-23

大学卒業後にデザイン事務所に就職し、やがて独立して仕事が軌道に乗ったのも束の間、部下が顧客をごっそり連れて独立してゆき、おかげで自分の事務所はどんどん傾いていく。そんなとき、彼は居酒屋で謎の男と出会う。男と職場の愚痴を言い合っていると、男は彼にこう言うのだった――代わりましょうか?と。軽い気持ちでその提案を受け入れた彼は、本当にその男と入れ替わることになってしまった。すなわち「地獄の獄卒」に。以後、毎朝総武線で千葉方面へと向かい、職場である「ヘルズファクトリー」へ向かう。2交代制の職場で彼は早番の獄卒として、地獄へ堕ちたタマシイを拷問にかけてゆく、そんな日々の繰り返し。しかしある時、遅番の獄卒たちがストライキを促すビラをばらまき始め……。(「地獄工場」)

角川ホラー文庫では2冊目となる短編集。

表題ともなっている「地獄工場」で描かれる「地獄」の様子は、これまで私たちが想像してきたものとはまったく異なっている。「タマシイ」を複数まとめてひとつの「ヒトガタ」に入れ、それを拷問にかけることで効率化を図る。拷問も「血の池地獄」とか「灼熱地獄」とかそういうのではなく、専用の機械にかけて焼いたり茹でたり。そんな「工場の流れ作業」化された、システマチックな情景が逆に恐ろしい。さらにその効率化の波が最後に行きつく先というのも。

他にも、想像だにしなかった村おこし風景が描かれる「怪人村」、「牛家」に収録されていた「瓶人」の前日譚となる「女瓶」、現実と妄想が散文的に入り乱れる「ぼくズ」、そして演劇とある観客の記憶が重なり絡まり解けてゆく「キグルミ」の4作を収録。特に「女瓶」ではどうすることもできない恋の行方が、凄惨な解体シーンと共に描かれてゆく。とにかくえぐい、なのにどこかうつくしい、奇妙な読後感が残る短編集だった。


女子高生の小野恵理は気付いたら病院の廊下にいた。確かにここにいるはずなのに、恵理は何にも触れることはできず、そして誰も恵理に気付かない。そうこうしているうちにたどり着いたのは自分の葬式会場。自分が死んだということを自覚した恵理だが、そこで彼女は自分の存在に気付いているふたり――革靴を履いた美青年と、くまのリュックを持つ、女の子と見まがうような少年のふたり組に遭遇する。キリンとアオバと名乗ったふたりは、普段はとあるコンビニに常駐していて、未練を抱えて成仏できない幽霊の手助けをしているのだという。事故死した恵理の未練は、その直前に親友とケンカしていたことだった。それを聞いたキリンは、その未練を解消しよう、と言い出して……。(「黒い指」)

電子雑誌「BOX-AIR」に連載された小説の書籍化。
この世とあの世の狭間であるという「煉獄」――そこをさまよう幽霊たちと、彼らの未練を解消することである目的を果たそうとする青年幽霊・キリンとその助手・アオバによる、そこはかとなく不気味で、けれどどこか優しく切ない幽霊譚。

親友とケンカ別れしたまま事故死した少女、死してなお最愛の妹を見守り続けてきた兄、廃墟で怪奇現象を演じる幽霊グループ……前半はそういった未練を持つ幽霊たちをキリンとアオバが成仏させてゆくというパターンの展開だったのだが、中盤からその内容は少しずつ変容してゆく。なぜキリンは相手を騙すような真似をしてでも、幽霊たちが抱える「現世の欠片」――死ぬ間際にかすめ取った肉体の一部――を集めているのか。生まれつき幽霊が視えるというライター・イツキには、なぜアオバの存在だけが視えないのか。そしてそもそもキリンとアオバの抱える未練は、ふたりの関係はなんなのか……様々な謎が浮かんでは消え、また浮かんでそうして判明してゆく。

自分の体重と同じ重さの「欠片」を集めれば、幽霊から蘇ることが出来るとキリンはいう。ではそうやって蘇った幽霊は、また一方で成仏した幽霊はどうなるのか。ひととひとが深く関われば関わるほどそこには執着が生じ、失うことで未練が生じる。それはきっとぐるぐると回り続けていて、終わりがないような気さえしてくる。そして常にふたりでいたキリンとアオバの間にもそれがあったはず。しかしふたりの関わりは、未練は、この結末できれいに閉じることができたように見える。終わるということは寂しいことかもしれないが、けれどそれでこのふたりがしあわせになれるのであれば、それでいいのだとも思う。

牛家 (角川ホラー文庫)牛家 (角川ホラー文庫)
岩城 裕明

KADOKAWA/角川書店 2014-11-22
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特殊清掃員の「俺」が向かった今回の仕事場はゴミ屋敷。2年前にそのゴミ屋敷の側を通りかかった時、彼はそこで牛のようなモノが何かを咀嚼しているのを見たことがあった。しかし現在、このゴミ屋敷の主は遺体となって発見され、すでに運び出された後だという。先輩のジンさん、新入りのツネ君と共に片付けを始めた「俺」は、途中でツネ君が不法投棄されたとおぼしきワニに噛まれるというハプニングに遭遇しつつ、とりあえず初日を終える。しかし翌日、再び現場にやってきた3人が見たのは、昨日片付けたはずのゴミがすべて元に戻ってしまっているという光景で……。

第21回日本ホラー小説大賞・佳作受賞作。
「俺」が見た牛のようなモノがいったいなんだったのかわからないまま、「俺」含む3人の男はそのゴミ屋敷で奇妙な状況に陥ってゆく。片付けたはずなのに元に戻る部屋、無人のはずなのに2階から響く騒音……やがて扉を開けるたびに部屋の様子が変化し、ゴミ屋敷にいたはずなのにいつの間にか自分のアパートに戻ってしまったりする。同僚とも離ればなれになり、一体どこをさまよっているのか分からないような、けれどどこかで理解できているような、そんな奇妙な思考に侵されながらも、「俺」は扉を開き続ける。

そんなゴミ屋敷の状態も恐ろしいのだが、「俺」や同僚ふたりが抱える事情が絡まり合い、まるで悪夢のような様相を呈してゆく。「俺」の妻であるマリの状況、女の霊が見えるというツネ君、ジンさんの娘の死の真相……まるでそれぞれの悪夢を、ゴミ屋敷が――そして「牛」が飲み込んでゆくかのよう。咀嚼された悪夢は混ざり合い、もはや何が何やらわからない。そんな酩酊感。

表題作の不気味さもいいが、併録された書き下ろしの「瓶人」もふるっている。父親が「瓶人」と呼ばれるゾンビとなってしまった少年・テルは、父親のことを嫌っていた。しかしテルが家出をした時、片腕を失いながらも彼を探し続けていたことを知り、それ以来ふたりの距離は近付きつつあった。しかしそこに、テルと父を置いて実家で暮らしていた母親が、新しい彼氏を連れてきたところから物語は急展開を見せる。テルと父の絆、そしてなんともいえないオチがおかしいやらこわいやら。

ようこそ、ロバの目の世界へ。 (講談社BOX)ようこそ、ロバの目の世界へ。 (講談社BOX)
岩城 裕明

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「僕の目はロバの目なんだ!」――小学4年生の「僕」ことスバルの目には、他人には見えない「奴ら」が見えていた。マンションのインターホンを押そうとする髪の長い女だとか、洗濯機の中で三角座りをしている猿だとか、公園の桜の木の前で憤慨するオカマだとか。そんなものを視界に入れつつも、友人たちとそれなりに楽しい学校生活を過ごしていたスバルだったが、家庭内では両親の離婚問題が進行中。そんな折、夏休みに入ったスバルは、ひょんなことから担任教師の家を訪れることに。だが一歩足を踏み入れたその室内は「食材」だらけだった。他の友人たちには見えていないそれを「奴ら」の一種だろうと考えていたスバルだったが、実は担任本人には見えているようで……。

講談社BOX新人賞「第6回流水大賞」優秀賞受賞作。
他人には見えない「奴ら」が見える少年・スバルが、その目をもって体験したある夏の出来事を描く青春小説。

友人たちのこと、好きな女子のこと、「奴ら」のこと、そして両親のこと――小4という年齢の割には達観というか老成というか諦念混じりというか、なスタンスのスバルの身に起こるのは、ままならないことばかり。片想いしている乙女さんは友人のタイヨウのことが好きみたいだし、「奴ら」はいつだってどこにだっているし、両親は離婚するからどっちに付いて行くか選べとか言い出すし。そんな中で、担任の安田はスバルに「見えてるんだろ?」と囁く。妻に逃げられたという安田の部屋中にあふれる「食材」。自分だけでなく安田にも見えるそれは一体何の象徴なのか。「目に見えているものは真実か否か」――安田の言葉がスバルを追い詰めてゆく。

納得がいかなくて、けれどどうしようもなくてぐるぐると思考はまわるけれど、でもたった一言で救われることもある。あるいはほんの少し見方を変えるだけでもいいし、秘密を打ち明けることでもいい。そうあれと、すとんと腑に落ちたのなら、それでいい。そうやって自分の世界をささやかに変えてゆく、そんな結末にすっきりさせられた。


その花束は少年で出来ている (講談社BOX)その花束は少年で出来ている (講談社BOX)
岩城 裕明

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世界で最も美しい少年が、そのもっとも美しい時期に、すべてを統治する――それが「少年皇」と呼ばれる存在。世界樹なる巨大な樹を擁する世界の中心「皇都」、そこには少年皇候補である美しい少年たちを集め管理する全寮制の学校、通称「バラ学」がある。田舎町で暮らしていた貧しい少年・ナルナは、ゼノと名乗る巡礼者の推薦でバラ学へ入学することに。そこで出会ったのは美しく、そして個性的なルームメイトたちだった。彼らと楽しく穏やかな学園生活を送るナルナだったが、そのうち少年皇やその候補にまつわる様々な謎に直面することになり……。

電子雑誌「BOX-AiR」に連載されていた、神さまと対峙し世界を塗り替えてゆく、眩くもせつない青春小説。

「少年皇」というシステムに支配される世界。腐植痕と呼ばれる謎の痣を持つ子供。1年前に殺された少年皇候補・ノイ。ルームメイトのひとり・ニエルの語る、誰も知らないおとぎ話――息子を食べてしまった神さまの話、美しい林檎をほしがった醜いこどもの話、美しい子供が食べると溶けてしまった林檎の話。いくつもの事柄が「世界樹」に、「少年皇」というシステムに集約されていく。その中心でナルナは、ルームメイトたちと過ごした美しい日々だけを手に、前へと進んでゆく。

個性的なルームメイトたちとの触れ合い――喧嘩しては仲直りしたり、目標に向かって一緒に努力したり、友達のために泣いたり怒ったり。ナルナたちの素直でまっすぐな日々の情景は牧歌的で、あまりにも美しすぎて、とても現実味がなくて、けれど気付けばどんどん引き込まれてゆく。だからこそ、そのきらめく日々を浸食してゆく影がとてつもなく恐ろしい。そしてその影はいつしか途方もないものに姿を変えてゆく。真実を知るおとなたちは、神さまのシステムを逆手に取って世界を討つつもりでいたけれど、結局のところその矢となったのは――ナルナにこの運命を選ばせたのは、大切なものを守りたいという、その純粋な気持ち。美しさとは何か――繰り返されるその問いに対する答えはつまり、ささやかではあるけれど世界を変えてしまった、この結末そのものなのかもしれない。

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