時代劇役者になるという夢をあきらめた伍郎は、故郷で祖父が遺した印章店を営んでいた。そんなある日、姪が持っていた雑誌に載っていた人気アイドルグループの中に、見覚えのある顔を見つけて驚きを隠せない伍郎。「染井わかば」というそのアイドルは、かつて同じ夢を志し、結婚まで約束していた「小桜しのぶ」こと染井よし子の娘・若葉だったのだ。「染井わかば」が所属するグループが握手会を開いていることを知った伍郎は、CDを買い、わかばに会うために会場へと向かうが……。(「垣見伍郎兵衛の握手会」)
「小説宝石」にて2017〜2020年にかけて掲載されていた連作小説の書籍化。元アイドルにして実力派俳優・堀尾葉介に大小さまざまな形で関わったことのある人々に訪れた転機、そしてその葉介自身の半生が綴られていく。
アイドルグループ「RIDE」のメンバーとして14歳でデビューし、あっという間にブレイク。しかし22歳で本格的に役者を志してグループを脱退し、やがてアクションから時代劇まであらゆるジャンルの作品をこなす実力派俳優として有名に。もちろん容姿にも恵まれ、誰もが彼に対して好意を抱かずにはいられない――それが「堀尾葉介」という男。本作には、いろんな時期に葉介と関わった人々が、思わぬ転機を迎えていく様子が描かれていく。
彼らの視点から見えてくるのは、才能と容姿に恵まれ、誰からも愛される実力派俳優であり、何不自由ない充実した人生を送っているであろう「大スター」としての堀尾葉介の姿ばかり。人々は葉介と接し、その輝きに圧倒されながら、その光にあやかるかのように――まるで神様にお願い事をして、それが叶えられたかのように――その時とらわれていたしがらみから解放されていく。しかし堀尾葉介はそんな神様めいた完璧な存在なのだろうか――それがラストに近付くにつれ、少しずつ明かされていく。葉介の視点で描かれた最終章のタイトルは「美しい人生」。ここで描かれるのは、人から見れば栄光に満ち溢れた美しい人生であっても、本人にとってはそうでなかったという事実。しかし彼にもようやく救いが訪れる――否、これまで差し伸べられていたかもしれないが、自らの意志で振り払い続けていたその手を、ようやく取ろうと決心できるようになる。まさに「雨の中の涙のように」、乗り越えることも、忘れることもきっとできるのだ。














