phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 白川紺子


祖母が残した蔵の着物も残り1枚となっていた。「桜の園」と名付けられていたその着物の持ち主「野々宮英子」は、書置きを残して失踪した野々宮家の女性――鹿乃たちの曽祖父の妹。祖母・芙二子が生まれる前に英子は失踪していたはずだが、なぜか芙二子は彼女と会ったことがあるような口ぶりで、「山で神隠しに遭った」と知人に話したことがあったという。英子が残したとされる和歌の書付――吉野山の桜が題材のものばかり――、そして野々宮家が吉野の山に土地を持っていることを知った鹿乃は、管理人のもとへ話を聞きに行くが……。(「散りて咲くもの」)

人の縁を繋ぐアンティークミステリ連作、シリーズ7巻にして完結編。

蔵に残っていた最後の2点――祖母の友人から預かった帯、そして失踪したという野々宮家の女性の着物の謎を解いた鹿乃。特に後者については、なぜ鹿乃や祖母が不思議な着物の謎を解くことができたのかというシリーズ最大の核心へと迫ってゆく。そしてラストエピソードとなる表題作「白鳥と紫式部」には、蔵のものではない、新たな「不思議な着物」が登場することで、本編と、鹿乃の兄・良鷹がメインの短編群を繋ぎ、未来へと向かう鹿乃たちの姿が描かれていく。

前巻で鹿乃と慧は想いを通じ合わせ、晴れて恋人同士に。しかしその一方で、なにやらモヤモヤしているのが鹿乃の兄にして慧の友人である良鷹。なまけ癖はあるものの、基本しっかり者の兄というスタンスだった良鷹が密かに抱えていた屈託をも、やさしくほどいてゆく結末がとても印象的だった。そして着物を未来へと受け継ぎ、守っていこうとする鹿乃の決意もまた。


◇前巻→「下鴨アンティーク 暁の恋」


偽装結婚ではあるものの、この上なく穏やかに日々を過ごす椿屋敷の若夫婦、柊一と香澄。そんなふたりの前に現れたのは、近所に住む中学生の桃子だった。父親と喧嘩して飛び出してきた桃子をとりあえず引き取ることにした柊一たち。聞くところによると、喧嘩の理由は椿の花にあった――桃子が幼い頃に亡くなった母親は、庭に植えていた椿の木を大切にしていたが、その死後に椿は枯れてしまったのだという。桃子の父親は世話ができないから枯らしてしまったというが、柊一が確認したところ、同じ頃にできた隣の家に使われている建築材のせいで地質が変化したためであり、場所を変えれば問題ないという。母親の記憶が全くない桃子は、そのよすがにと再び椿を植えることを望むが、父親は柊一の言葉を聞いてもかたくなにそれを拒み……。(「花の子」)

利害の一致から偽装結婚した若夫婦が、近所で起きる事件を解決してゆくライトミステリ連作、第2弾。

今回も柊一と香澄の仲は相変わらず良好で、時々お互いへの想いのようなものがふと滲み出て相手を赤面させてしまう……という見ているこっちまでお腹一杯になってしまう雰囲気は健在。とはいえ姑に偽装結婚のことがバレてしまっていたり、柊一の元カノが現れてしかもそれを本人ではなく周りから聞かされて香澄がショックを受けたりと、なかなか波乱含みのエピソードも。とりわけ一番気になったのは、香澄の元許嫁・晶紀と柊一によるまさかの宣戦布告(!?)シーン。今でも香澄に想いを残している晶紀に対し、柊一が「渡しません」と告げた瞬間にはぞくぞくさせられる。しかもそのあとで、自分がなぜそんなことを口走ったのがよくわかっていないということがわかるので余計に。まだ柊一も香澄も、相手のことを好ましくは思っていても、それがなんなのかはかりかねている様子(特に柊一の方が重症)。どちらがどんなタイミングで自覚し、先に口にするのかが気になって仕方ない。


◇前巻→「契約結婚はじめました。〜椿屋敷の偽夫婦〜」


年が明けた頃、鹿乃は知人からある男性を紹介される。佐伯稜一と名乗るその青年の祖母が、かつて野々宮家に着物を預けていたのだという。果たして蔵に残されていたのは椿が描かれた振袖。しかし鹿乃たちの目の前で、咲き誇っていた椿の花はすべて落ちてしまう。後日、稜一の祖母・瀧子と対面した鹿乃が聞かされたのは、その振袖の持ち主が瀧子の姉であり、その姉は養子だった義兄との恋を両親に咎められ、心中したのだという悲しい過去だった。瀧子から彼女の遺品を託された鹿乃は、収められていた書付や目録から、椿の花が落ちてしまう理由を探ることに。一方、年末に慧に告白した鹿乃だったが、明確な返答を得られたわけでもなく、しばらくぎくしゃくした関係が続いていた。しかし今回の調査のさなか、慧は鹿乃に「妹みたいに大事に思っている」と告げ……。

鹿乃と慧、ふたりの恋心が揺れ動くアンティークミステリ連作、第6弾。

今巻、鹿乃のもとに持ち込まれた依頼には共通点がある。それはいずれも、立場や年齢など様々な理由で、周囲からその関係をよく思われない恋人たちの持ち物ばかり。彼女たちは愛する相手のため、身を引くか、それとも愛を貫くかの選択を強いられ、その想いが野々宮家に預けられた着物にも宿っている。そんないくつもの恋路を見つめる中で、鹿乃と慧もまた、自分たちの想いに向き合うことになるのだ。

とにかく思い切りが悪いというか後ろ向きなのが慧。結局のところ出発点が「兄と妹」的な関係だったせいで、そのことにとらわれ過ぎて、大事なものが見えなくなっているという状況に。特に似た境遇の恋人たちが今回登場するだけに、どんどん慎重に――あるいは臆病に――なりすぎているというのがなんともつらい。そしてそんな慧の気持ちを察して、自分の気持ちを押し殺そうとする鹿乃の行動にも。だからこそ周囲の説得もあってようやく迎えたラストには心の底から安堵させられる。ふたりの関係はこれまでとはがらっと変わってしまうけれど、それは必要な変化なわけだし、だからこそ見えてくるものもあるだろうな、と。

一方、今回の良鷹編「羊は二度駆ける」は今まで以上にホラー&オカルト風味。しかし一方で、良鷹の心境にもいろいろと変化があった様子。真帆との関係も含め、彼も前向きに変わってくれればいいのだが。


◇前巻→「下鴨アンティーク 雪花の約束」


庭に様々な椿の植わった築60年の一軒家――通常「椿屋敷」に住んでいるのは、その老成ぶりから「若隠居」と呼ばれる27歳の小説家・柊一と、その妻である19歳の香澄。ある年の大晦日に出会ったふたりは、互いの利害が一致したために結婚し、表向きには仲睦まじい若夫婦として暮らしているのだった。そんなふたりのもとには、なぜか一風変わった、かつ椿が関わるトラブルが持ち込まれることもしばしば。例えばある時、柊一に相談を持ち掛けてきたのは、近所に住む小学生の茉優。なにやら彼女の通学途中に、水色のコートを着た女性――子供たちの間では、人気アニメのキャラクターになぞらえて「水曜日の魔女」と呼ばれているらしい――がしばしば目撃されているのだという。実はその正体は、数年前から行方知れずになっていた茉優の叔母・真紀だった。しかしなぜ彼女が茉優の通学路に現れるようになったのか、そして茉優はなぜ真紀を気にかけているのか、茉優の母親、かつ真紀の姉である知春はその理由がわからず悩んでいるようで……。

それぞれが抱えた問題から逃げるために契約結婚した男女が、椿にまつわる謎を解き明かしてゆくライトミステリ連作集。

主人公は柊一と香澄の(仮)夫婦だが、そんなふたりを優しく見つめながら、彼らの日々を語ってゆくのは、ふたりが住む「椿屋敷」――つまり「家」そのものというのがなんとも面白い本作。しかしふたりがなぜ結婚に至ったのかは、この「家」が眠っている最中のことだったため(夜になると「家」も寝るそうだ)、読者にもその理由は明かされぬまま物語は進む。突如姿を現した叔母の真意、亡くなった祖父が、孫を通じてとある老女に椿の鉢植えを贈りたいと願った理由、親友の結婚祝いにと椿の鉢植えを求めた女性の真意。その合間に時折現れるのは、兄が実家に戻ってくることを願う柊一の弟・檀。そしてついに香澄の「過去」も、彼女を追って姿を現すのだ。

柊一と香澄がそれぞれ抱える問題は簡単に片付くものではないし、まして自分ひとりでどうこうできることでもなく、だから逃げた。しかし逃げたところで問題が消えるわけでもない。そしてふたりの契約結婚も単なる逃げの一手であり、解決策にはならないのだ。しかしふたりが知らず知らずのうちに育んでいた絆がその解決策の一端となる結末には、心の底からほっとさせられた。契約、あるいは偽装といえど、互いに向けられたやさしさや好意は嘘ではなかったのだ、と。ようやく本当の夫婦らしくなってきたふたりのその後をぜひ見てみたい。


お年頃の伯爵令嬢でありながら社交界に出ず、専ら魔法石の研究に没頭しているマリー・ブライディ。そんなマリーの前に、酔っぱらった父親が連れてきたのは、花婿候補だという青年・デューイだった。父親に説教の後、デューイを追い払おうとするマリーだったが、その姿を見ているうちにあることに気付いてしまう――なんとデューイはこのオムニア王国の王子だったのだ。驚きながらも引き続き拒絶するマリーだったが、デューイはまったく意に介さず、「異論は認めません」としてブライディ家に居座ってしまう。かくしてこの日から、デューイはあの手この手でマリーへのアプローチを始め……。

「若奥様、ときどき魔法使い。」と世界観を同じくする恋愛ファンタジー。クールで男性不信気味の令嬢・マリーと、そんな彼女に一目惚れしたという王子・デューイとの攻防が描かれてゆく。

「若奥様〜」は主人公・ローズが王国を支える「春荒れの魔女」として見出される物語だったが、本作はその「春荒れの魔女」に憧れ、しかしなれなかった少女・マリーが主人公。さらには昔、とある出来事が原因で恋心を砕かれてしまったという経験から、恋愛や結婚にまったく価値を見出せなくなってしまい、結果として魔法石の研究にのめりこんでしまっているという状態。しかしそんな彼女のかたくなな心を溶かしてゆくのが「押しかけ花婿」であるデューイ王子だった。

実は以前からマリーのことを知っているというデューイは、押し過ぎず引き過ぎずの絶妙なタイミングでマリーに接近し、ある時は小動物に変身して警戒心を緩め、ある時は友人にまでヤキモチを焼いてみせ……と、様々な表情を見せてゆく。その手際はあまりにも鮮やかすぎて、ともすれば「ストーカー……?」と言いたくなるようなアプローチもなくはないのだが、そこはイケメン王子という立場、そしてあまりにもさらっと行動してしまうので、これはマリーが惹かれてしまうのも無理からぬこと。これまで頑なになりすぎたせいでなかなか自分の恋心に素直になれないマリーが、葛藤も重ねながらも少しずつ自分の想いに向き合ってゆく流れ、そして認めたのちにふたりの関係が逆転してしまうという結末がなんとも微笑ましかった。


赤ん坊の時、闇の魔物である〈夜葬師〉の女ラヴィルタに拾われ、育てられたオフェリア。やがてラヴィルタが何者かに消されてしまってからは、オフェリアは森の奥でひとり暮らすように。しかしある時、侯爵であるルドヴィークによって、彼女は連れ去られてしまう。そこでルドヴィークが告げたのは、オフェリアには思いもよらないことばかりだった――ラヴィルタがかつてルドヴィークの一族に呪いをかけたこと。それを告げたラヴィルタをルドヴィークの銀灯師が消したこと。そしてラヴィルタいわく、オフェリアが呪いを解く手がかりを知っているということ。まったく心当たりがないオフェリアだったが、ルドヴィークは彼女を妻だと使用人たちに偽ってまで、彼女を城に留め置こうとして……。

「侯爵夫人は銀灯師」「雪侯爵の銀灯師」と同じ世界観となる本作は、これまでの作品では主人公たちの敵として登場してきた〈夜葬師〉の少女(ただし人間)と、〈夜葬師〉に呪われ苦しむ青年侯爵との、ねじれた夫婦関係から始まる恋愛ファンタジー。

オフェリアにとってルドヴィークは育ての親の仇。そしてルドヴィークにとってオフェリアは、自身を苛む呪いをかけた張本人の娘。互いに憎み合い、恨み合うことしかできないはずのふたりなのに、触れ合えば触れ合うほどその気持ちは薄れてゆく。惹かれ合うはずのないふたりが惹かれ合い、それがなぜなのかわからないまま――あるいはわかったとしても認められないまま、事態は意外な方向へと転がってゆくことに。そんな中でもオフェリアは常にルドヴィークのことを心配し続けるし、ルドヴィークも何かにつけオフェリアを気遣い、また他の男性とオフェリアが接しているのを見ると苛立ったりと、もう見ているこっちが恥ずかしくなるくらいふたりは両想いでもうどうしたらいいか。

そんなふたりを見えないところで導き続けていたのは、今は亡き〈夜葬師〉ラヴィルタの想い。オフェリアが幼い頃から――そして消されるその時まで、ずっとオフェリアのために生きてきたラヴィルタ。闇の魔物に心はない、と彼女たちはうそぶくが、ラヴィルタにも、そして彼女の昔なじみであるズィールにも、きっと心はあった――あるいは生まれたに違いない。そんな彼女たちの温かなまなざしがとても印象に残った。


野々宮家に名古屋から新村竣太と名乗る青年がやってくる。彼の幼馴染である中里志織という女性が、亡くなった祖母の遺言でここに着物を見に来るはずなのだという。鹿乃が目録を調べると、確かに中里依子という人物から「糸」という着物を預かっていた。しかし志織はやってきていないし、その着物に描かれた長く伸びる赤い糸の図柄は、鹿乃の目の前ですっと途切れてしまったのだ。竣太から志織の抱える事情を聞いた鹿乃は、依子がかつて住んでいた場所へと向かうが……。(「星の糸」)

秋から初冬へ季節が移り変わる京都で、鹿乃たちの関係も変化し始めるシリーズ5巻。

途切れた赤い糸の意匠、一部を残しすべてを真っ赤に染め上げる紅葉柄、そして雪を降らせる着物。作中の季節に呼応するように現れる不思議な着物は、ひとびとの誤解や後悔を瞬く間に解きほぐしてくれる。そしてそんな様子を間近で見ている鹿乃と慧にも、変化をもたらしつつあった。ふたりとも口にはしていないけれど、相手への想いがどんどん募っているのはこれまでの巻でもわかっていたこと。そしてふたりとも、それぞれその想いに――意味だけではなく、それを抱くに至った経緯も含めて――戸惑いながらも、大事に温めてきたことも。しかし慧の煮え切らなさ(まあこれまでの関係を考えると、慎重派の慧としては致し方ないのかもしれないが)にやきもきしていたら、まさか鹿乃の方が先制攻撃を加えるとは……しかも今回はそこで本編が終わっているとは……!と、いい意味で消化不良な結末に。早く次巻が出てほしい。

ちなみに今巻も一番最後には良鷹視点の過去のエピソード「子犬と魔女のワルツ」を併録。良鷹メインだとやはり苦い結末になるというのも相変わらず。これはこれで切ない読後感。


◇前巻→ 「下鴨アンティーク 神無月のマイ・フェア・レディ」


国王を異母兄に持つ侯爵でありながら、辺境で雪の研究に没頭していることもあり、周囲からは変人扱いされている青年貴族のヴィクトル。そんな彼が求婚したのは、自身に仕える銀灯師・エミリアだった。兄からせっつかれるのが嫌で偽装結婚をしたいというヴィクトルの――つまりは主人の言葉を拒むことはできず、エミリアはヴィクトルの妻となるのだった。しかしその結婚の報告のために訪れた王宮に魔物が出現。そのきっかけを作ったのがヴィクトルだったということで、ふたりは事態収拾のため調査を命じられてしまい……。

「公爵夫人は銀灯師」と舞台を同じくする恋愛ファンタジー連作。今回はおそらく「公爵〜」よりも後の時期の話(とはいえ国王は同じ)で、互いに秘密を抱えたまま偽装結婚するはめになったふたりが、ひとつの事件を契機にその誤解を解いてゆくという展開に。

表向きは主従、やがて夫婦となるヴィクトルとエミリアだが、実はお互いに片想い中。けれどエミリアはヴィクトルに仕えることになった時からある秘密を抱えているし、ヴィクトルはヴィクトルで実はその秘密を知っていて、しかしそれに気付かれればエミリアに去られてしまう可能性があるため黙っているという状態。でもってヴィクトルがエミリアに求婚した理由はどうしようもなく建前でしかないのだが、秘密を知られていることに気付かないエミリアは、身分の違い、さらに自責の念に塗り潰されているため、ヴィクトルの気持ちにもわかりやすすぎるアプローチにも気付けない。そうやって逃げ続けるヒロインとそれを追い続けるヒーローという、個人的に大好きなシチュエーションがたまらない。

ちなみに、ふたりの息子エリアーシュの初恋を描く「銀灯師と雪狐」、表題作に登場した王宮の「番人」アロイスの恋を描く「おやすみ、わたしの魔術師」も併録。特に後者は、ある理由から永い時を生き続ける魔術師アロイスが、ようやくその生に区切りをつけるという短編なのだが、彼にそのきっかけを与えることになった王女との関係がなんとも切ない。どれもじわじわとあたたかい気持ちになれるような物語だった。


オムニア王国を統べる女王は「夏燃えの魔女」、そして貴族はすべからく魔法使いである。しかしバイオレット伯爵夫人であるローズは、優秀な魔法使いである夫のレンとは対照的に、たまにしか魔法が使えない落ちこぼれ魔法使いとして有名だった。そんな矢先、ローズに女王からの呼び出しがかかる。実はオムニア王国に存在する四季の魔女――そのうちの「春荒れの魔女」が亡くなって久しく、ゆえに冬の精霊が暴走しているという状況。女王はローズこそが次代の「春荒れの魔女」であることに気付き、彼女の眠れる能力を呼び覚ますため、ローズを王宮にて拘束しようとしていたのだ。間一髪で王宮から脱出したローズは、彼女を取り戻すためにやってきたレンと合流。そこに現れた「冬枯れの魔女」に匿われたローズたちは、先ごろから起きている魔法使いの氷漬け事件が「春荒れの魔女」不在に関わっているという事実を聞かされ……。

たまにしか魔法を使えない「ときどき魔法使い」のヒロインが、実は強大な力を持つ魔女だった!?という恋愛ファンタジー連作。

作者の他のコバルト作品に登場する夫婦はいずれもベタ甘ラブラブカップルなのだが、今回登場するローズとレンもやっぱりラブラブ。この世界の魔法使いは、普通の魔法とは別に、生まれつきその人だけが仕える固有の魔法があるという設定なのだが、レンのそれは「嬉しいことがあるとその周囲で花が咲く」というファンシーなもの。比較的無口で真面目そうなレンが、ローズにキスされたり好意を口に出されるたりすると、途端に周囲にプリムローズやら矢車菊やらすずらんやらを発生させ、しかもそれを拾い集め、ポケットに常備しているリボンで束ねてローズに渡すまでが一連の流れとなっている姿にはもうなんというかカワイイ!としか言えなくなってしまう。

表題作はローズが「春荒れの魔女」になり、事態を収束させるまでが描かれているのだが、併録されているのがレンとの馴れ初め話と、ローズのツンデレ友人・リナの恋模様を描いたエピソード。前者は初々しすぎるふたりの関係がたまらないし、後者は絵に描いたようなツンデレ令嬢と、これまたツンデレなレンの部下とのじれじれ話が可愛らしい。この2組が同じ手口(笑)で結婚に持ち込むという流れも微笑ましいやらおかしいやら。今時珍しいくらいにふんわりとした、夢のある少女小説だなと思った。


帰宅するなり現れた白露に導かれ、鹿乃が蔵から取り出したのは、桔梗柄の着物。しかしその表面からは桔梗の花が次々とこぼれ出してしまう。《星の花》と名付けられたその着物の持ち主の家を訪ねることにした鹿乃だったが、なぜかなりゆきで、慧と春野も同行することになってしまう。持ち主である雨森絢子はすでに亡くなっていたが、彼女の介添人の連絡先を教えてもらった鹿乃は、日を改めてその介添人・児玉キミを訪ねることに。そこで聞かされたのは、絢子の結婚前、何者かが毎日彼女の部屋に桔梗の花を投げ込んでいたというエピソードで……。(「星の花をあなたに」)

持ち主の悩みを秘めた不思議な着物の謎を解いてゆく連作シリーズ4巻。今巻ではこれまで語られることのなかった鹿乃の亡き両親、そして慧の過去に起きたことが明かされてゆく。

鹿乃が幼い頃に両親共に亡くなったということで、両親という存在にあまり実感を抱いていない鹿乃。しかし今回、両親のなれそめを知ったことでその存在と喪失を同時に強く感じてしまうという展開になるのだが、そんな彼女にそっと寄り添ってくれたのは慧だった。一方で、慧の両親に関わりのある女性の着物の存在が明らかになり、慧は単独でその由来を調べるように。結局鹿乃も同時に調べを進め、その中で慧とその父親・田村との間に何があったかを知ることになるのだが、鹿乃が打ちひしがれる慧に寄り添うと、慧は思いもかけない反応を見せることになるのだ。

そもそも、「星の花をあなたに」では、なぜか鹿乃・慧・春野の3人でお寺デートをする流れになるのだが、その直前、春野から鹿乃に好きな人がいるようだと聞かされ動揺する慧。一方、春野を警戒しつつ、慧に対しては自分が一人前であることを示したいのか、鹿乃はなるべく慧の手を借りないようにと振る舞い始める。しかし一方では、蔵の着物について調べることで慧の過去に触れることになり、躊躇いながらも知りたい気持ちが止められない。かと思っていたら春野の爆弾発言もあったりで、ここまでのふたりの距離のことも含め、これは吉と出るのか、凶と出るのか……両想いということは分かっていても、互いにそれを通い合わせているわけではない状態だけに、この微妙な対応が今後どう影響してくるのか、そこはかとなく心配になってくる。


◇前巻→「下鴨アンティーク 祖母の恋文」


政争に敗れて父親が失意のまま死に、財産も土地も奪われてしまった伯爵令嬢のジゼル。後見人となってくれる貴族は誰もおらず、好色な老商人に引き取られようとしていたまさにその時、ひとりの青年貴族が現れる。バートラムと名乗るその男性は、かつてジゼルの父に賭け事で負け、その際に娘を――ジゼルを娶るという約束をしていたのだという。老商人の使いを退け、ジゼルを自邸に迎えようとするバートラムは、一方でジゼルに「近付くな」「話しかけるな」「視界に入るな」という3つの条件を突きつける。その場は要求をのんだジゼルだったが、伯爵家再興のため、その条件を無視してたびたび簡単な「賭け」を持ちかけ、それに勝つことでバートラムに付きまとうように。そうやって最初は完璧な淑女としてバートラムに接していたジゼルだったが、不意に触れられたり、優しい言葉をかけられたりするたびに、不思議な気持ちになっていって……。

無愛想で人嫌いな青年と、目的のためめげずに奮闘する頑張り屋な令嬢による新婚ラブストーリー(陰謀もあるよ!)。

先日読んだ「公爵夫人は銀灯師」の主人公カップルはすでに結婚済でラブラブ具合もすでに完成された状態だったが、本作は初対面からスタート。とはいってもわりと早い段階でお互いを少しずつ気にするようになり、気が付いたらどんどん惹かれていて、あっと言う間に溺愛夫婦になっていたという……本当に御馳走様です。

無表情で無愛想、最初はジゼルのことをうっとうしいとしか思っていなかったバートラムが、気付いたらいないと寂しいと思うようになり、友人(と本人は思ってないようだが)の王太子レオナルドがジゼルを構うようになると面白くないと考え始めたりと、その気持ちが面白いくらいいちどきに変わっていく様がなんとも微笑ましいやら可愛らしいやら。特に、伯爵家再興の手助けをバートラムが約束した途端、ジゼルが逆に気を使って距離を置くようになる展開が個人的にはとても好きで、そういう健気ヒロインとやきもきするヒーローという構図がもうたまらないとしか言いようがないので、とりあえずありがとうございましたー!ということで(笑)。


前国王の娘でありながら、その身に秘めた魔力の強大さが災いをもたらすと言われ、王家から追放されたミレナ。育ての親である公爵夫妻と、師である銀灯師・ヤンの愛情を受けて育ったミレナは、公爵夫妻の息子のヴィートと結婚し、幸せな日々を送っていた。そんな矢先、王宮からの使いがやってくる。なんでも前王を死に至らしめた闇の宝物〈夜の王冠〉が何者かに盗まれたまま見つからず、時同じくして王宮内で倒れる者が続出しているため、稀代の銀灯師であるミレナにその発見と破壊を依頼したいというのだ。当初は断るつもりのミレナたちだったが、以前〈夜の王冠〉を封印したためにヤン師が死んだということを知ったミレナは、亡き師のためにその依頼を受けることに。かくして王都に向かったミレナたちは、〈夜の王冠〉の気配が最後に残っていた離宮で、王妃候補として女官勤めをしている令嬢たちから話を聞くことになるが……。

お互いのことが好きすぎてたまらない夫婦が、王宮で起きた異変に力を合わせて立ち向かうファンタジー長編。

もうとにかくラブラブである。
……としか言いようがないのが主人公のミレナと、その夫であるヴィート。周囲に人がいようといまいと関係なく、どんな時でもいつの間にか甘い雰囲気になるふたりには、もうとにかく御馳走様でしたー!と叫ばずにはいられない。時折ミレナが、ヴィートが自分と結婚したのは義理や同情ではないかと不安になったり、あるいは公爵として王宮に出仕した際に女性たちに囲まれていたという噂を聞いてショックを受けたりということも起こるには起こるが、それをさわやかに全否定してくれるのがヴィート。ミレナの陰口を叩く輩(もちろん貴族)を逆さ吊りにしたうえ、徹底的に追い詰めたというエピソードにはもう拍手するしか(笑)。そのくらいの溺愛っぷりがたまらない。

なお、本作のタイトルにもなっている「銀灯師」というミレナの肩書は、一般的なファンタジーもので言うところの「魔術師」の類。力の源によって呼び名が変わるという設定もさることながら、そのイメージがとてもきれい。読み切り作品なのか、これらの設定についてあまり深く語られてはいなかったので、もし続編があればそのあたりの違いについても知りたいところ。それにやっぱり、この溺愛夫婦のラブラブっぷりをもっと見ていたいと思った。


お盆に入った頃、鹿乃の祖母・芙二子が懇意にしていた骨董店・北窓堂の店主がやってくる。そこで鹿乃が手渡されたのは、生前に祖母が祖父の健次郎に向けて書いた恋文だった。ある時、健次郎の浮気を疑った芙二子だったが、後からそれが誤解であったことが判明。健次郎は謝罪の代わりに、自分のための最初で最後の恋文が欲しいと願い、しぶしぶ書いたものだという。その経緯の中で芙二子は、なぜかうなり声が聞こえてくる「十六」なる帯を預かったのだという。目録をたよりに鹿乃が蔵から探し出してきた帯からは、確かに犬のようなうなり声が。しかしうなり声と「十六」という名称に繋がりが見えず、首をかしげる鹿乃だったが、慧はあっさりとその意味に気付いたようで……。(「祖母の恋文」)

不思議な現象を引き起こすアンティーク着物をめぐる現代ファンタジー連作、第3弾。今回も鹿乃メインの3編に加え、兄・良鷹メインの1編が収録されている。

今回の着物事件簿(仮)は、色が変わってしまった金魚柄の着物、うなり声がする帯、春と秋の情景を描いていたはずが冬山に変わってしまった羽織の3件。そしてそれぞれにはやはり、持ち主の深い想いが込められていた。また、表題作「祖母の恋文」では、鹿乃のツンデレおばあちゃん・芙二子さんのエピソードも。どこまでも素直になれない芙二子さんと、そんな彼女をうまくあしらって恋文をゲットした健次郎さんの夫婦があまりにも可愛らしいので、過去編としてふたりの生前のエピソードをもっと見てみたい気も。

そんないつもの流れもさることながら、今回気になったのは鹿乃と慧、そして1巻から登場している「植物っぽい」(by鹿乃)大学生・春野の関係。鹿乃は慧への想いを自覚しつつあり、そして慧は鹿乃の成長に戸惑いながらも無意識のうちに惹かれている……というのがここまでの流れだったが、そこに飛び込んできたのが春野。春野自身は(少なくとも現時点では)鹿乃を狙っているというような感じでもなさそうなのだが、そんな春野の行動が鹿乃の心に変化をもたらし、そしてそれに慧も気付くという展開に。さらにそんな矢先、慧が嫌っているという父親らしき人物も現れてきて、なにやら嵐の予感。

そして嵐というほどでもないが、今回の良鷹の骨董品事件簿(仮)は前回以上にやるせない話。夏の一定期間のみ、野々宮邸の別荘で過ごしているという良鷹。ただの避暑というか別荘の手入れのためかと思っていたが、このエピソードでその理由が明かされる。そして、その「理由」に隠されていた、残酷すぎる真実も。彼がこの後、ちゃんと立ち直ってくれるかどうかも心配。


◇前巻→「下鴨アンティーク 回転木馬とレモンパイ」


野々宮邸に、鹿乃の兄・良鷹を訪ねて金髪碧眼の美少女が現れた。プリシラ・バンクスと名乗るその少女は、かつて日本に滞在していた亡き祖父・バンクス博士から聞いた話をたよりに良鷹に連絡を取ったのだという。目的は野々宮邸にあるという、バンクス博士の娘の形見の〈秘密の花園〉。それが生前の祖母が預かり、蔵にしまっていた着物のひとつであることに気付いた鹿乃と慧だったが、その着物には「花園」と呼ばれるわりには花の模様がいっさいなかった。本来はここに花の図柄が描かれていたはず、と考えたふたりは、祖母が遺した目録をたよりに、当時のことを調べようとするが……。(「ペルセフォネと秘密の花園」)

不思議な着物に秘められた過去を解き明かす現代ファンタジー連作、第2弾。今回は祖母から管理を引き継いだ鹿乃が着物の謎を追う3編の他に、古美術商を営む兄・良鷹が遭遇した、骨董品にまつわる事件を描く1編も収録されている。

「秘密の花園」と呼ばれた着物から花模様が失われた理由、男児用の着物がヒトのかたちをとって逃げ回る理由、そして楽譜柄の帯からたどたどしいピアノの音が聞こえてくる理由……鹿乃はそれらの品に秘められた持ち主の過去と想いを解きほぐし、元の姿に戻してゆく。そして表題作「回転木馬とレモンパイ」では、頭と顔はいいのに普段はぐうたらでやる気なしな鹿乃の兄・良鷹が、古美術商の仕事で出向いた屋敷で、音が鳴らなくなったオルゴールの謎を追ってゆく。兄メインのエピソードが1編入っているのにはちょっと驚いたが、こういった勘が働くというか、あるいはこんな不可思議な現象に驚いたり偏見を持ったりすることなくすんなり受け入れ、なおかつそれらの品にも受け入れられるという親和性を持っているあたり、やはりこのふたりは兄妹なんだな、と再確認(当たり前だけど)。

しかし今回のエピソードは、前巻にも増して切ないものが多かったような気がする。大切にしていたものを手放すということ、あるいはその大切なものにこういった不可思議な現象が起こるということは、つまりそこにはなんらかの未練が含まれているということになる。しかし未練があるのは決してそこに悪い感情があるわけではなく、むしろ幸せな時があったからこそ、いっそう強く想いが残るのかもしれないとも思う。そしてそんな誰かの想いに触れる中で、鹿乃も、そして慧も、それぞれの心の裡にある想いを強めてゆく。そうして少しずつ近付きつつあるふたりの心の距離がとても愛おしいというか、ずっと見守りたくなるような、そんな気持ちになってくる。もはやこのふたりの関係そのものが、美しすぎるファンタジーそのものなのかも、とも。


◇前巻→「下鴨アンティーク アリスと紫式部」


祖母が遺した着物をこよなく愛する女子高生・野々宮鹿乃は、両親を早くに亡くし、現在は古美術商をしている兄・良鷹、そしてその兄の友人で近世文学専攻の准教授である下宿人・八島慧と共に暮らしていた。そんなある日、鹿乃は虫干しのために蔵を開けて着物を取り出す。祖母が生前「蔵を開けてはならない」とは言っていたが、それは鹿乃たちが中のものを壊す可能性があるからだろう、と考えたのだ。しかしいくつかの着物を広間に干した直後、誰もいないはずの広間から大きな物音が。驚いて広間に戻った鹿乃が見たのは、干す前とは図柄がすっかり変わってしまった1枚の着物だった。なんとふたつ描かれていた源氏車のうち、ひとつがぼろぼろに壊れた図柄になっていて……。

京都を舞台に、祖母が遺したアンティーク着物が起こす不思議な現象を解いてゆく、ささやかなファンタジー第1弾。

鹿乃の家の蔵にしまわれていたのは、図柄が特徴的な着物ばかり。しかもどうやら、集めていたのは祖母のようだが、祖母が誂えたものではない様子。さらにその着物の図柄が勝手に変わったり、またはすすり泣いたりするものだからさあ大変!ということで、主人公の鹿乃は、慧や兄の力を借りながら着物の持ち主を突き止め、さらにその着物にまつわる過去を解き明かし、着物を元に戻してゆくことに。今回は源氏車が壊れた図柄になった理由、「牡丹灯籠」をモチーフに描かれた女性がすすり泣く理由、そしてたくさんの蔵の着物の中に1枚だけあるという「祖母の着物」を探し出すという3本立てになっている。

どのエピソードも持ち主の過去だけでなく、源氏物語、牡丹灯籠とシェイクスピア、そして建礼門院の和歌と正岡子規の俳句というように、文学的な要素と結びついているのも面白い。そしてやはり面白いと言えば、主人公・鹿乃と下宿人・慧との微妙な関係。鹿乃がもうちょっと小さい頃からの付き合いということもあって、妹と兄のような関係だったそれが、次第に変化しつつあるという現状がとても微笑ましく、可愛らしい。今後のふたりの関係にも期待大。

このページのトップヘ