phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 宇奈月香

いとしい君に愛を乞う(オパール文庫)
宇奈月 香
プランタン出版
2018-02-05

ホテル王の娘として生まれた美緒だったが、両親の仲が冷え切ったまま父は死に、母はそんな父に似た美緒を憎んでいた。愛情に飢えていた美緒が初めて好きになったのは、お目付け役である板垣の友人・伊織。ふたりはたちまち恋に落ちるが、娘を自分の駒としたい母親によって、伊織がバイトをクビになったうえ奨学金を打ち切られそうになっているという事実を知った美緒は、一方的に伊織に別れを告げ、逃げるようにアメリカへと留学するのだった。しかし帰国し就職してから2年が経った頃、実業家として成功した伊織が美緒の前に現れ、美緒のことを金で買ったと宣言。母の会社の経営はこの数年ですっかり傾いており、伊織はその援助と引き換えに美緒との結婚を認めさせたのだという。しかし結婚後、償いの気持ちも込めて美緒がどんなに尽くしても、伊織は冷たい態度で彼女を詰るばかりで、ついには一方的に離婚を切り出すのだった。心のどこかでほっとしつつも伊織への愛情が冷め切らないことに苦悩する美緒だったが、その直後に事故に遭って大怪我を負ってしまう。しかも驚いて見舞いに来た伊織に対してだけ、なぜかまともにしゃべれなくなってしまったのだ。やがて従兄の征の援助もあり、伊織から逃げひっそりと新生活を始めた美緒だったが、なぜか伊織は彼女の居場所を突き止め、「お前が欲しい」と懇願してきて……。

お互いに好き合っているにも関わらず、不幸な勘違いが重なってすれ違い続ける夫婦の行方を描くラブロマンス。

この手のすれ違いは「ちゃんと言いたいことを言っておけばこんな問題は起きなかったのでは……?」のひとことに尽きるのだが、もちろんそう簡単に行くはずもなく。特に母親に抑圧され続けていたため身を引くしかなく、また生来の優しい性格のために伊織にどんな仕打ちをされても逆らうことができなかった美緒が、自分の感情をすべて胸の内に秘めてしまうのは仕方ないことで、だからこそ伊織相手にだけ失語症になってしまうというまさかの展開に。これだけでも可哀想なのに、伊織は伊織でこれまた美緒のことが好きすぎるけど口より先に手が出るタイプになってしまったからさあ大変。冒頭の再会シーンが強烈すぎただけに、次第に伊織がかつての心優しい青年に戻っていくというそのギャップに多少戸惑いつつも、結果としてはふたりがようやくわかりあえたのでよかったねということで。

しかし個人的に気になるのは美緒の従兄である征の存在。その美貌や肩書(元華族で超エリート)もあってモテモテなはずなのに特定の相手は作らず(告白されたら付き合いはするが続かないし自分から告白することは皆無)、昔から常に美緒のことを気にかける「博愛主義者」なのだが、実は美緒の見えないところであれこれ手をまわしているということも判明。しかしそれが美緒のためになっていることもあれば、彼女を結果的に傷つけていたということもあるので、ただの溺愛ではなさそうな雰囲気。彼女が幸せになってくれればそれでいい、ということだろうが、どこか歪みすら見えるその愛情表現が気になって仕方ないので、難しいだろうが彼にも美緒以外の相手と幸せになってほしいなと思ったり。まあそうなるとその相手が大変なことになりそうだけど……(笑)。

お見合い相手に愛されすぎてます (ヴァニラ文庫)お見合い相手に愛されすぎてます (ヴァニラ文庫)
宇奈月 香

ハーパーコリンズ・ジャパン 2017-07-13
売り上げランキング : 6637

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

平凡なOL・七宮あゆみのもとに持ち込まれたのは、大手企業会長の次男で、イベント企画会社の社長も務めているという大國道哉とのお見合いだった。あまりにも身分がつりあわなさすぎる相手ではあるが、断り切れなかったあゆみは指定された料亭へと向かうことに。しかしお見合い相手である道哉は、ふたりきりになるなりあゆみに告白し、結婚してほしいと言い出すからさあ大変。あまりの猛攻ぶりに恐れをなしたあゆみはひとまず断ったものの、連絡を入れたその日のうちに道哉が現れ、デートと称して遊園地へと連れていかれる羽目に。遊園地での真摯な態度、そして1か月だけ猶予がほしいという懇願につい負けてしまったあゆみは、以後まめに連絡をくれる道哉のことが次第に気になるように。しかし一方で、あゆみを溺愛するカリスマ美容師の兄・尚人から、道哉に他に女がいるらしいということや、これまで何人もの彼女を作っていたというような噂を聞かされ……。

普通のOL(苦手なもの:イケメン)が、エリートイケメン社長になぜか愛されすぎちゃってさあ大変!?な現代ラブロマンス。

初対面から好きだの結婚だのと言い出す道哉に面食らうのはヒロインだけではないのだが、わりと早い段階で、ふたりが過去に2度会っていることが明らかに。2度目の再会の時に道哉はあゆみに惹かれてしまっており、一方であゆみも1度目のことは記憶にないものの、2度目に会った「ミチ」という青年のことがずっと気になっていたということなのだが、ではなぜミチ=道哉はそのことを黙ってあゆみにアタックし続けるのか?というのが最大の謎だったり。ラストでその理由が明かされると「なるほど」と納得させられるので、とりあえず言えることはあゆみ母GJということでひとつ。

そんな感じですれ違いはあったものの両想いになり、あゆみも道哉のおかげで自分が本当にやりたかったことに目を向け始め、しかしうまくいっているところに別の女の影が……という展開はよくあることではあるが、本作ではここにさらにシスコンすぎるあゆみの兄・尚人(イケメン)が絡んでくる。あゆみのイケメン嫌いの理由となっているのがこの兄の存在なのだが(その妹ということだけで、周囲からあらぬ恨みを買うことが多かったため)、まさかのラスボスが兄というのはなんとも面白い。とはいえ最終的には道哉によってひどい場面を見せつけられるので、とりあえず兄にも幸あれ……と同情心が芽生えてしまった(笑)。

誘拐結婚 (ソーニャ文庫)
宇奈月香
イースト・プレス
2017-07-02

伯爵令嬢のシンシアは美しい幼馴染・ノランをずっと想い続けており、年頃となった今でも、ノランに付きまとう女性たちを厳しく牽制し続けていた。しかし社交界デビューを控えたある夜、突然ノランから「気持ち悪い」などと酷い言葉を投げつけられてしまう。それまでの食生活のせいでひどく太ってしまっていた自分の姿にも愕然としたシンシアは、以後部屋から出ることもままならず、社交界デビューもできぬまま5年の歳月が流れていた。親友のカレンのおかげですっかり痩せ、母譲りの容色に磨きをかけたシンシアだったが、ノランの言葉のせいで陥った人間不信は治らぬまま。カレンによって外に連れ出されても、軍人として有名になったノランとあちこちで出くわし、そのたびに逃げ出してしまうのだった。そんなある夜、カレンの誕生日パーティーに向かったシンシアは、カレンの兄・アイザックに媚薬を盛られ、襲われそうになってしまう。しかし間一髪で助けに入ったのはノラン。やがて目覚めたシンシアがいたのはノランの屋敷だった。ノランはシンシアを何度も組み敷いたあげく、彼女に結婚を迫る。巷間では恋仲であると噂されていたアイザックではなく、ノランと共にパーティー会場から出て行ったことが悪評となっていること、それがひいては父親の立場に悪影響を及ぼすことを示唆されたシンシアは、その求婚を受け入れざるを得なくなり……。

美貌の青年軍人と伯爵令嬢のすれ違い執着ラブロマンス。

ロマンス小説らしからぬ序盤のヒロインの状況(完全にモブ悪役令嬢状態)には面食らったものの、そこからのヒロインのトラウマっぷりが半端ない本作。そもそも彼女が太っていたのは、食が細いノランを励ますために自分の食べる量を増やしていた結果。しかもあれだけ手酷い扱いをされたにも関わらず、ノランを憎み切れていないのだからもはや健気としか言いようがない。しかし一方でノランには嫌われていると思い込んでいるので、何を言われてもすべてを悪い方に取ってしまい、自分で自分を追い詰めていく姿には涙が出てしまう。

それにしてもひどいのは、そんなヒロインをひたすら追い込んでいくノランの態度。すべてが彼女を手に入れるためだったとはいえ、やっていいことと悪いことがあるのでは?と言いたくなるくらい用意周到かつ完全なる計算ずくの対応を、10年単位でやってのけるこの胆力がすごい。子供の頃に出会ったシンシアに一目惚れして、人を愛するということを初めて知ったという出会いのシーンだけ見るとさぞかしピュアな物語になるのだろうと思っていたのに、なぜこんなにもヤンデレとしか言いようのない展開になるのだろうか……と1周まわって感心してしまうほど。とはいえ最終的にはちゃんとヒロインにすべて白状してくれるので(たまにこの手の作品だと黙ったままのひともいるので……)、それがあってのハッピーエンドに落ち着いたので良かった。

いつか恋になる (メリッサ)
宇奈月 香
一迅社
2017-05-01

走り高跳びの特待生として私学へ通っていた木下栞。しかし憧れの先輩である古賀豊が、自分のことを「迷惑だ」と友人に話しているのを聞いてしまった栞は、ショックで人間不信となり、部活を辞めて転校してしまう。やがて大学を卒業し、生まれ育った町を離れて就職した栞だったが、先日副社長に就任したという社長令息が豊であることを知った直後、彼が視察と称して会社にやってきたのを目撃し、ショックで倒れてしまう。やがて医務室で目覚めた時、隣にいたのは豊。再びショックで過呼吸を起こした栞を介抱し、水を飲ませてくれた豊だったが、なぜか栞は再び昏倒してしまう。再度目覚めると、そこは医務室ではなく見知らぬ部屋で、なぜか栞は鎖でベッドに繋がれた状態。そして現れた豊は、ここは「栞の部屋」だと告げ……。

WEB小説投稿サイト「ムーンライトノベルス」で発表されていた長編ラブロマンスの書籍化。人間不信に陥っていたヒロインと、彼女に偏執的な愛情を捧げる青年の恋模様が描かれてゆく。

ただでさえ女性としての自信を持っていなかった栞を、たったひとことで全否定したのが豊。純粋すぎる栞にとって、その言葉を発したのが信頼していた先輩、なおかつ初恋の相手だっただけにショックも倍増。さらに再会した豊によっていきなり監禁されることになるという展開には、栞でなくともありえなさすぎてもうどうしたらいいかわからなくなってくる。豊の発言は本心ではなかったとか、実はずっと好きだったとか言われても、まっとうに考えたら不信感しか持てなくなってくるのだが、そこですべて受け入れてしまえるのが栞という女性。監禁当初こそ強く反発していた栞だったが(当たり前か……)、豊の孤独と深すぎる愛情を知ってからは態度が軟化。やがて互いになくてはならない存在になってゆく。

まあ当人たちがいいのであればそれはそれでいいのだが、気になるのはこの「変化」はどちらのせいなのかということ。豊の狂気が栞を蝕んだ結果なのか、あるいは栞の心の広さが豊の狂気を上回るものだったのか――個人的には後者である方が好みな展開ではあるのだが、ある意味「卵が先か鶏が先か」のようなもので、もはやどちらでもいいのかもしれない。結婚後に起きた事件――事故により、豊が栞のことだけを忘れてしまう!――を描くエピソードで、ふたりの強すぎる結びつきを知ればなおさらに。

ここへ、おかえり (ソーニャ文庫)
宇奈月香
イースト・プレス
2016-09-03

オルガと名乗る男によってシレイニ島は焼き払われ、唯一生き残った島民ローザを人質に取られてしまったアリーナは、彼に命じられるがまま、「ブラド」という薬の原料となるトウビ草を栽培しなければならなくなってしまう。彼を島に引き入れた原因を作ったことを悔やみ続けるアリーナは、殺された島民たちの幻影に苦しみながら、ひとりで暮らし続けていた。そんなある日、オルガが手配した食料品に紛れて、ひとりの青年が現れる。クライヴと名乗るその青年は船が難破してたまたまここに流れ着いたというのだが、それにしても陽気で明るい態度を崩さないその姿にアリーナは警戒心を隠せない。しかし彼のペースに巻き込まれ、次第にふたりの距離は縮まってゆく。やがて結ばれたふたりだったが、ついにクライヴが本国へ戻る日がやってきた。クライヴは見送りにきたアリーナを無理矢理本国へと連れ帰るが、島を離れたことで罪の意識により強く苛まれるようになったアリーナは、夜な夜な邸内を彷徨うように。さらにクライヴにも、彼女に対する隠し事があって……。

王都に出回る麻薬「ブラド」を巡り、これを追いかける青年クライヴと、過去の罪の意識に苛まれ続ける少女アリーナが、愛し合いながらもすれ違い続けるラブロマンス。

アリーナにもクライヴにも後ろ暗い隠し事がありすぎて、せっかく結ばれたのにいいことなしというかなんというか。幸せだったのは束の間で、なにせアリーナはあまりにも壮絶な過去を抱えているし、クライヴは実は王子様で、しかし父親である国王との間には深い溝があるし、今追いかけている事件はアリーナに(悪い意味で)関係のありすぎることだらけだしで、ふたりの前には次々と障害が立ちはだかる。さらに追い打ちをかけるのが、クライヴの側近であるグレイスの存在。どうしても読んでいるこちらとしてはヒロインに感情移入してしまうだけに、グレイスの策略にも、それにあっさりひっかかるクライヴにもつい腹が立ってしまったり。

レーベル全体のテーマである「歪んだ愛」的な度合いは今回わりと低かったが(せいぜいクライヴがヒロインのこと好きすぎて短気すぎるくらい?)、とりあえずハッピーエンドでひと安心。アリーナには今度こそ幸せになってほしいなということで。

溺愛の誤算 (ヴァニラ文庫)
宇奈月 香
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2016-04-15

病で双子の弟ニコラを亡くし、絶望に打ちひしがれる子爵令嬢のエミリー。そこに届いたのは、生前のニコラの絵の才能を評価し、文通していた青年伯爵・ルイからの手紙だった。彼にニコラの死を伝えられず苦しむエミリーは、ニコラのふりをして文通を断る手紙を返す。しかし納得がいかないというルイは会って話がしたいと、首都テネト行きの切符を返事に同封してきた。エミリーはニコラのふりをしてテネトへ向かい、ルイと顔を合わせることを決める。果たして出会ったルイは見目麗しく紳士的な青年で、ニコラに変装したエミリーを疑うことなくエスコート。その夜はお酒も進み、楽しく過ごしたふたり。しかしエミリーが目覚めると、なぜかルイとふたり、半裸の状態で抱き合っている状態。驚きながらも服を整えたエミリーだったが、目覚めたルイはエミリーの正体を看破したという素振りも見せず、相変わらず彼女をニコラとして扱い、接してくる。戸惑いながらも故郷へ帰ろうとしたエミリーを押し留めたルイは、エミリーを祭でにぎわう街へと連れ出すことに。すると街中でエミリーは、生前にニコラが描いた絵を発見。この絵を画商に売ったのが、ずいぶん前に蒸発した母親であることに気付いたエミリーは怒りにうち震える。そんなエミリーに、ルイは彼女の正体に最初から気付いていたこと、そしてエミリーの存在そのものを代償として、絵を取り戻し母親に復讐する力を与えよう、と告げ……。

相思相愛のはずなのに、いろいろなしがらみとすれ違いでかみ合わないふたりの切ないラブロマンス。

とにかくヒロインが不幸としかいいようがなくて、というのはこの手の作品に付きものだが、今作のヒロイン・エミリーも相当なもの。金目当てで結婚した母親はなけなしの財産を食いつぶして蒸発し、今やあちこちで貴族をたぶらかし贅沢暮らしを続けている上、実家から盗み出した亡き息子の絵画を売り払おうとする、文字通りの毒母。さらに父親はそんな母親に腹を立てるでもなく、どころか彼女が帰ってくるのを待ち続け、また彼女にニコラの絵のことを教えたりもしていたどうしようもないダメ父。唯一の拠り所であった双子の弟は病死し、エミリーに残されたのはダメ父と借金……だけならまだしも、弟の治療費を肩代わりしてくれた爵位目当ての男(もちろんかなりゲスい)との結婚が待っているというのだから、彼女にとっては詰んだとしか言いようのないスタート。そんなヒロインの不幸っぷりにはもうお腹いっぱい……と言いたいのだが、ほんの出来心でルイと出会ったことで、さらに不幸な目に遭ってしまうという展開に。

復讐のためにルイに抱かれることを承知したエミリーだったが、ルイの「好きな人はニコラに良く似た人」という言葉から、なぜか「つまり私にも似ている別の人のことなのね」「だから私は身代わり……」と盛大に勘違い。そこからはもうある意味泥沼というか、ルイはエミリーが好きなのに本人にはその想いが全く届いていないというどうしようもない関係に。さらにルイの友人・ダミアンが状況を余計ややこしいものにしていくので、こちらとしてはふたりとも早急に話し合いをして!とやきもきすることもしばしば。そんな中、ふたりの間を取り持つため、あるいは年長者として、ルイに助言してくれる執事にはいい仕事をしたと褒めてあげたいし、そんな執事の助言を素直に聞き入れてせっせと料理に励み始めるルイがなんともかわいらしかった(笑)。

花の誘惑 (ハニー文庫)
宇奈月 香
二見書房
2015-11-11

吉原一の遊女として名高かった牡丹の娘である花月は、火事で両親を亡くし、親戚のもとをたらいまわしにされた挙句、吉原に売られることとなった。そんな彼女に禿の頃から目をかけ、援助してきた赤丸によっていよいよ水揚げされることになった夜、花月は思わず妓楼を飛び出してしまう。逃げる花月がそのさなかにぶつかった異国の青年に助けを求めると、彼は花月を匿い、屋敷へと連れ帰ってしまう。仕事でこの国に滞在しているというその青年――オリヴァー・ランドールは、花月を匿う代わりに自分専属の遊女として囲うことを決め、行くあてのない花月もその提案を受け入れることに。当たりはキツいが花月をそれとなく気遣う素振りを見せるオリヴァーに少しずつ惹かれてゆく花月だったが、一方で自身の過去――周囲の人々を不幸にしてしまうといういわくを気にする花月は、心の底からその好意を受け取ることができず……。

過去のトラウマで他人に心を許せなくなっていたふたりの男女が、いつしか惹かれあうようになる切ないラブロマンス。

遊女とはいうものの、まだ新造で客をとったことがなかった花月。しかも男性恐怖症というオマケつきにも関わらず、なぜか初対面のオリヴァーには何をされてもわりと平気というのだから、これはもう一目惚れというよりほかない状況。しかし両親の死以後、自分を引き取った親戚に家でことごとく不幸な事件が重なったことから、自分は周囲に不幸を振りまく存在と思いこんでおり、それがゆえに心優しい花月はオリヴァーやランドール家の使用人たちの好意を素直に受け取ることが出来ないでいる。一方、地位も名誉も美貌もとりそろえた異国の富豪・オリヴァーもかつての婚約者にこっぴどくフラれたせいで、自分に自信が持てず女性を真剣に愛することができないという可哀相な青年。ゆえにふたりとも最初から相手のことが気になって仕方ないのに、口を開けばツンケンとした言葉しか出せない。心の中でどんなに相手に好意を持っていても、それを表に出せず、逆に相手を遠ざけてしまおうとするふたりの姿には、見ていてなかなかつらいものがある。

騙されているとわかっていても自分を犠牲にし、また自分の好意を押し殺してでもオリヴァーを拒もうとするなど、とにかく今回もヒロインの健気さが半端ない。さらにオリヴァーもなかなかデレないものだから(内心は完全に落ちているくせになかなか態度に出せない)、ふたりの距離は平行線すぎてもうどうしたらいいか、としか言えなくなってくるのだが、だからこそ終盤で互いの想いを確かめ合うシーンには感動もひとしお。ついでに言うと両想いになったのに最後の最後までツンデレーション炸裂のオリヴァーに付ける薬はないなあと思いつつ、末永くお幸せに、ということで(笑)。

狂鬼の愛し子 (ソーニャ文庫)
宇奈月香
イースト・プレス
2015-08-02

和国の大王と「時視の巫女」との間に生まれた少女・白菊は、母から「都の守り人」と預言されて以来、矢科山のふもとで精進のためひっそりと暮らしていた。しかし降り続く長雨のせいで都が荒れ、水神の祟りだと噂されるようになったことで、白菊は都を救うための生贄として捧げられることに。だが母親のためにと白菊が運命を受け入れようとしたその矢先、屋敷に山賊が現れる。矢科の山賊を率いているという「鬼」に見つかった白菊は意識を失い、そのままさらわれてしまう。やがて意識を取り戻した白菊が目にしたのは、自分を抱きすくめて眠る男の姿。恐慌状態に陥った白菊をそのまま組み敷いた男こそ、山賊の首領であり「鬼」とも呼ばれる青年・莉汪だった。初対面のはずなのに、なぜか莉汪は白菊のことを以前から知っているような態度を取り、なおかつ白菊に異様なまでの執着を見せてきて……。

自分の意志を持たない娘と、そんな彼女に焦がれ執着する男との数奇な運命を描くラブロマンス。

出会い(というか誘拐)以後、常に一方的に白菊を求める莉汪。愛しているというその言葉の真意は白菊には見えず、けれど鬼と恐れられる存在のわりには白菊に危害を加えるでもなし。とにかく白菊至上主義な莉汪の行動原理には、中盤まで秘められていたふたりの過去にあった。極端と言ってしまえばそれまでだが、そうなるしかない莉汪の境遇には同情の余地はある。とはいえそれでもちょっと振り切れ過ぎな気も(苦笑)。「狂鬼」というタイトルにふさわしい莉汪の想いは、ここまでくるといっそ清々しいような。白菊を守り抜くことを決めた莉汪の最後の独白には「白菊さん逃げてー!」と言いたくなるくらい黒いし重いのだが、まあふたりが幸せそうなのでよかったと思う。

臆病な支配者 (ソーニャ文庫)臆病な支配者 (ソーニャ文庫)
宇奈月香

イースト・プレス 2014-07-03
売り上げランキング : 1005

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
子爵令嬢のリディアは、庭師のセルジュと恋に落ちた。身分違いの恋に悩んだふたりは駆け落ちをするが、そのさなかで船舶事故に遭遇し、離ればなれになってしまう。事故のさなかで助けた少女の父親・ベナール伯爵の申し出で、怪我が癒えるまで彼の屋敷で過ごしていたリディアのもとに、セルジュが生きているという報せが届く。喜び勇んで彼が滞在しているブノア伯爵邸へと向かったリディアだったが、彼は記憶を失っているばかりか、伯爵の娘であるシャルロットと恋仲になっており、どうすることもできないリディアは泣きながらその場を去るのだった。それから数年、ベナール伯爵の元を離れたリディアは、職場のオーナー夫人から豪華列車の乗車切符を貰う。久々の旅行に心浮き立つリディアだったが、そんな彼女の前に現れたのは、鉄道会社の社長となったアベル・オータン――セルジュだった。セルジュの言葉から、彼が自分のことを覚えているのではないかと歓喜したリディアは、そのまま彼と列車内で結ばれる。しかし実際、セルジュは彼女のことをまったく覚えていなかった。それどころか、道中で自分の愛人になれと命じてくる。愕然とするリディアに対し、セルジュは彼女をただ苦しめたい、復讐したいのだと言い放ち……。

というわけで、今回もやはりすれ違いラブロマンス。
ヒロインのリディアはそれはもう健気で、いつも他人のために生きてきたような娘。それは元々の性格かもしれないし、または自分の通した「駆け落ち」というわがままのせいで、セルジュの人生を狂わしてしまった負い目のせいもあるのだろう。一方、記憶を失ったセルジュは、なぜかリディアがかつて自分を捨てた女だと思い込んでおり、彼女の誤解を逆手にとって関係を持ち、彼女に復讐を試みる――愛人としてモノのように扱うことで。だからこそリディアは、彼への償いの気持ちを込めて、愛人になれという要求をのむ――彼が思い込んでいる「リディア」像を忠実になぞりながら。けれどそれでリディアの愛情が消えてしまうわけではないし、セルジュの方もまた、憎むべき存在であるはずのリディアを哀れに思う気持ちがどこかにあることに苛立っていた。

リディアもセルジュも相手に対する想いが純粋過ぎたあまり、ボタンの掛け違いのような些細なすれ違いによって生じた亀裂をどんどん深く、大きなものにしていってしまう。けれどふたりがすべてを知った時、生まれていたはずの亀裂はあっという間に消えてしまう――それもまた、お互いの愛ゆえ。最後の最後でまたしても離ればなれになってしまったり、かと思えば(ややご都合主義的ではあるが)素敵なサプライズもありで、最終的にはハッピーエンドで良かったなあということで。

僕の可愛いセレーナ (ソーニャ文庫)僕の可愛いセレーナ (ソーニャ文庫)
宇奈月香

イースト・プレス 2013-11-03
売り上げランキング : 14827

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
町娘のセレーナは、花祭の日に貴族の青年・ライアンと出会った。初対面のはずのライアンは、なぜかセレーナにいきなり口づけてくる。驚き怒るセレーナだったが、ライアンはその翌日、家にまで押しかけて来たばかりか、突然プロポーズ。最初は受け入れる気のなかったセレーナだったが、彼の優しさや、犬のようにまとわりついてくる健気さにいつの間にか惹かれ、求婚を受けることに。するとライアンは、セレーナとその場で結婚式を挙げ、彼女を自宅へと連れ帰る。だがそこにいたのは、ライアンの元婚約者だという令嬢・フィオナ。彼女とは結婚する気が元よりなかったというライアンに安堵したセレーナは、その日から彼に溺愛される日々を送る。だがそんなある日、フィオナの父親であるパトリック侯爵がセレーナの前に現れ、フィオナがライアンの子を身ごもっていることを告げ、ふたりを話し合わせるために、1日でいいから屋敷を離れてほしいと懇願してくる。ショックを受けつつも、フィオナを慮って侯爵の申し出を受けたセレーナだったが、それは侯爵の罠だった。好色な侯爵に襲われかけたセレーナは走る馬車から飛び降りて森をさまようことに。なんとかライアンに見つけ出されたセレーナだったが、その夜以後、セレーナはライアンによって屋敷に軟禁されるようになり……。

タイトルからすでに、「僕」――ライアンの狂気が滲み出てくるような、執着心剥き出しすぎるラブロマンス。

とにかくセレーナを溺愛するライアン。けれどその理由を――本心をまったく見せないライアンに、セレーナは不安を抱くように。さらに、フィオナがライアンの子を身ごもっていると聞かされてショックを受けるセレーナだったが、ライアンはライアンで、そんな侯爵の言葉を信じたセレーナに対して怒りをあらわにし、これまで秘めていた狂気を剥き出しにする。セレーナを屋敷に軟禁して昼夜を問わず抱き続け、かと思えば夜会にはセレーナではなくフィオナを伴って出かけてゆく。そんなことをされればセレーナの不信感をあおるだけなのに、ライアンはそれに気付かず、自身の愛をただひたすら押しつけてゆくというような状況に。そんなライアンのことは理解できないし、自分の想いも理解してもらえないセレーナの心の傷の深さ、そして絶望にはこちらも涙が出そうになってしまう。

ライアンはライアンでいろいろと――特に侯爵とフィオナのことで――あったのかもしれないが、セレーナを溺愛するあまり、彼女をきちんと見なかったことが強烈なしっぺ返しとして降りかかってくるという展開に。自業自得だな、と溜飲が下がらないでもないが、セレーナに対する純粋な愛がその狂気をますます深めてゆくという展開はかなり恐ろしいものがあった。ハッピーエンドには見えるけれど、実際はどうなのか……と考えると、うすら寒い結末ではある。

なお余談だが、個人的に気になったのがライアンの執事・セバス。彼がなかなかイイ仕事をしていて、まさに執事の鑑といった感じ。ライアンを公私ともに支え続けただけでなく、一時は離婚の危機に陥ったセレーナとの関係を修復するなど、彼がいなくてはこの結末はなかっただろうな、ということで。

わがまま男爵の愛寵 (ハニー文庫)わがまま男爵の愛寵 (ハニー文庫)
宇奈月 香

二見書房 2014-05-12
売り上げランキング : 1709

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
侯爵令嬢だったアンジェラは、突然父親のレイン侯爵が逮捕され、屋敷も取られ無一文の状態になってしまう。アンジェラはメイド行などしつつ、乳母のエマと共に細々と暮らしていたが、あるとき元婚約者の男爵令息ギルバードから、レイン侯爵が逮捕以前にギルバードの家に借金をしており、その返済期限が迫っていることを告げられる。しかも借金を返すあてのないアンジェラに対し、ギルバードは自分の愛人になれば借金をチャラにすると言い出した。最初は拒絶していたアンジェラだったが、同じ頃にエマが病に倒れ、入院費や治療費が必要になってしまったため、とうとうギルバードの申し出を受けることに。婚約者だった頃はアンジェラのことを嫌っていたはずのギルバードだったが、再会してみるとなぜか優しげな素振りを見せるようになり、戸惑うアンジェラ。いつしかアンジェラはギルバードに惹かれていることを自覚するが、そこにきてギルバードが、アンジェラのことをなぜか目の敵にしていた某令嬢と婚約することを知らされて……。

素直になれないふたりが惹かれ合ったのも束の間、空気読めないギルバードのせいでひたすら苦労の続くヒロイン・アンジェラが可哀相で仕方ないラブロマンス。

とにかくやることなすことすべてが裏目に出るギルバード。父の冤罪を信じ、元貴族でありながらもメイドとして働き、さらには父が作ったとされる借金のために元婚約者の愛人にならざるをえなくなったアンジェラの身の上は悲惨としか言いようがないのだが、実は以前からアンジェラに惹かれていて、良かれと思って手を差し伸べたギルバードの行動は、さらに彼女を追いつめ、苦しめてゆくことに。アンジェラが健気な良い娘だけに、なぜ彼女がここまで理不尽な目に遭い続けなければならないのか、と読んでいてつらくなってくる。ギルバードにも悪気はないとは分かってはいるが、それにしたって軽率すぎるというかなんというかKYすぎてもうどうしたらいいか。だからこそ、結末がハッピーエンドで本当に良かったと心から思った。

断罪の微笑 (ソーニャ文庫)断罪の微笑 (ソーニャ文庫)
宇奈月香

イースト・プレス 2013-07-03
売り上げランキング : 21817

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
マスウード国で反乱が起こり、王女であるライラは、双子の妹・マレイカを逃がすため、彼女の身代わりとなって焼け落ちる城にひとり残る。反乱軍の首謀者であり、かつてマスウード国が滅ぼしたミズク国の元王子・カリーファにそのまま殺される覚悟をしていたライラ。しかしカリーファは、かつて彼を虐待していたマレイカに深い恨みを抱いていたため、ライラのことをマレイカと疑わず捕らえ、「断罪の微笑」と呼ばれる呪詛をライラにかけたうえ、凌辱の限りを尽くす。だがある時、逃げたはずのマレイカが奴隷市場で発見され、カリーファの前に引き出される。これまでカリーファが「マレイカ」と思っていた相手がその姉のライラ――マレイカに虐げられていた頃、心の支えとしていた初恋の相手であったことを、さらには彼女にかけた呪詛が、最終的には命を奪うものであることを、カリーファはマレイカの口から聞かされ……。

実の姉に歪んだ執着心を抱く娘・マレイカによって、ことごとく運命を歪まされてゆくふたりの姿を描くラブロマンス。

ライラにとってはカリーファが、そしてカリーファにとってはライラが初恋の相手。しかしライラが「マレイカ」として再会したことで、ふたりの運命は狂い始める。ライラはその身に施された呪詛とカリーファの行為に苦しみながらも、彼への愛情を捨てられずにいた。しかもマレイカとしてライラを抱くカリーファに対し、彼がマレイカを好きなのだと思い込んだライラは、それならばせめて身体だけでも繋がっていたいと考え、彼の行為を受け入れてゆく。もうこの時点ですでに悲惨のひとことなのだが、ライラの正体が明らかになった後も、状況はひどくなるばかり。

ふたりにとってはこれでもかという惨い展開が続くのだが、その裏に必ずと言っていいほど存在していたのがマレイカ。ここまでくるともう「よくぞここまで……」とむしろ感心するほどの執着ぶりで、実は彼女が真のヒロインではないのかとすら思ってしまうほど。この手の作品では男性がヒロインに対して執着するさまが描かれてゆくが、本作に関しては、カリーファよりもマレイカの方がヒロイン・ライラに執着しており、しかもその歪みっぷりが半端ない。ライラとカリーファの関係以上に、マレイカが次に何をやらかすかの方が気になってくるという、一風変わった作品だった。

このページのトップヘ