phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 永瀬さらさ




エルメイア皇国の建国祭を控えて慌ただしくなる王城。そんな中、ふたりの前に突如現れたのは、この世界の最初の魔王にして魔を司る神・ルシェル。彼はクロードの父であると称し、アイリーンとの結婚を認めないと宣言。かくして翌日からルシェルによる壮絶(?)な嫁イビリが始まるのだった。さらに時同じくして、ハウゼル女王国から多数の女性たちがエルメイア目指してやって来る。彼女たちはハウゼルの次期女王候補であり、今回の試験の内容が「魔王と愛を育むこと」であるため、クロードと子を成すつもりであるというのだ。アイリーンは試験のルールを逆手にとり、多数の候補たちを規則違反として本国に送り返すことに成功するが、唯一残ったグレイスという少女のことが気にかかり……。

シリーズ5〜6巻は前後編形式。web版第5部の書籍化となる今回は、クロードの本性である「魔王」という存在を巡り、国家の存亡をかけた大事件へと拡大していくという展開に。

「運命」などと嘯きつつ、表裏双方で暗躍を続けるグレイスの手口はあまりにも巧妙で、アイリーンたちはシリーズ最大のピンチに陥ってしまう。エルメイアという国の存亡や、自身たちの生死にも関わる騒動のさなか、しかしアイリーンはどこまでも自分と、そしてクロードのために戦い続ける。

アイリーンやリリアが「前世」でプレイしていたゲーム「聖と魔と乙女のレガリア」そのものであるこの世界は、その中で生きる彼女たちにとってはまごうことなき「現実」ではあるけれど、しかし同時に「ゲーム」であることの制約からは逃れられない。魔物が存在し、魔法が飛び交う世界ではあっても、そこには乙女ゲームとしての枠組みやルール、前提条件が存在している以上、それを知っておりなおかつ最大限に利用していくことで――つまりアイリーンが捻じ曲げた流れを正そうとするグレイスの行動により危機が訪れ、しかしそれを逆手に取った行動で、再度物語が収束していくという流れがなんとも面白い。最後の最後まではらはらとさせられたが、これまたゲームのようにハッピーエンドルートを迎えることができて本当に良かった。


◇前巻→「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました4」


いつの間にか、つぐみの祖父・吾妻正義の事務所に新たなバイト事務員が加わっていた。正義の友人である墨田弁護士の孫だという大学生・大介はしかし、墨田氏の希望とは裏腹に弁護士になるつもりはないのだという。どうも訳ありそうなうえ、金次第で客を選ぶ正義のやり方にも刺々しい態度を示してはいるが、弁護士事務所の事務仕事には慣れているらしく、つぐみも様子を見つつ一緒に働くことに。そんな折やってきた依頼人は、夜須という弁護士のもとで事務員をしている女性・柴平。彼女は夜須からパワハラを繰り返されたうえ、依頼人に返すべき金を着服する片棒を担がされたのだというが……。

敏腕だが金に汚いことで有名な弁護士・吾妻正義のもとに持ち込まれる様々な依頼を、嘘をついている人の顔がゆがんで見えるという特殊な能力を持つ孫娘・吾妻つぐみの視点から描く法廷ドラマシリーズ第2弾。

パワハラ&横領、親子間での交通事故慰謝料請求、痴漢冤罪……と、今回の依頼人たちも曲者だらけ。さらに今回から加わった、弁護士になりたくない事務員・墨田大輔による守秘義務違反&SNS炎上も加わり、つぐみの周囲はなんというか本当に厄介ごとがよく起きる……といった感じ。まあこれはつぐみのせいではなく、祖父・正義のせいなのだろうが。ちなみに、個人的には2つ目の「親子間での交通事故慰謝料請求」が一番印象的というか、現実に起きそうなトンデモ事件すぎて目が離せなかった。

そんな中、ますます謎が深まるのが、つぐみの幼馴染兼許嫁?である草司の父親にまつわる件。草司本人が周囲からも言われていたが、証拠捏造の疑惑をかけられ失踪した検察官の息子を、あえて採用し同じ職に就けるというのはどこか奇妙な気も。父親と本人は関係ないというのはもちろん当たり前のことではあるが、公的機関というある種旧弊な組織であればこそ、そういうバイアスはなおさらかけられそうなものなので、そう考えると確かにおかしさが増してくる。そのあたりをはっきりさせるためにも続刊に期待したい。


◇前巻→「法律は嘘とお金の味方です。京都御所南、吾妻法律事務所の法廷日記」


エルメイア皇国とよく 似た建国神話を持っているがために、その昔ひと悶着起こり、長らく国交が断絶している隣国・アシュメイル王国。かの国が「魔王であるクロードがアシュメイルを侵略しようと魔竜を送り込んできている」と主張したため、アイリーンはレイチェルやセレナ、そしてリリアも伴い、査問のため中立国であるハウゼル女王国へ向かうことに。しかしその途上で、アシュメイルの聖王バアルにさらわれてしまう。バアルの後宮に押し込まれたアイリーンは、現状が「聖と魔と乙女のレガリア」第3弾のシナリオをなぞっていると判断。しかし正ヒロインであるはずの「神の娘」サーラは、聖王の側近であるアレスと結ばれるルートに入っているはずなのに、起きるべきイベントがなぜか起きていないうえ、ラスボスを倒すために必要な聖剣も修復されていないようで……。

乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が、ゲームの記憶をもとに魔王を落としてストーリーを改変し生き延びていくファンタジーシリーズ第4弾。今回は魔力の封じられる隣国にて、アイリーンが蹴落としたはずの正ヒロイン・リリアと共闘するまさかの展開に。

今回ももちろんゲームの記憶を駆使して現状を打破していく……はずだったが、本来の流れとは異なる展開になっているということでさあ大変。魔力は使えないし、手駒となるのはレイチェル以下たったの3人――しかもそのうちのひとりはリリアだということで、先行き不透明なことこの上ない。信頼はしていないけど信用はしている、というアイリーンのリリア評には頷かされもしたが、やはり野放しにしておきたくない存在であることを改めて気付かされてしまった。セドリックがうまく手綱を握ってくれればいいのだが、やはり元ネタであるゲームを熟知しているがために、アドバンテージは彼女の方にある――セドリックだけでなく、アイリーンにとっても――というのがなんとも不安。

アイリーンとクロードのバカップルぶりはまあ相変わらずというか、すれ違いつつもお互いに考えていることは同じというのが楽しいやら微笑ましいやら。お互いに相手の行動に憤慨していたが、もうこれはどう見ても似た者カップルでしかないので末永くお幸せに(砂糖を吐きながら)と言うしかなかったりして(笑)。しかし気になるのは「アンコール」と題された断章。作者があとがきで「爆弾」と呼ぶそのエピソードは、この先への不安を煽るばかり。アイリーンはゲームの展開を知ってはいるが、それはあくまでも「ゲームのプレイヤー」が知りえる情報に過ぎず、だからゲームに描かれていないことは知ることができない。少なくともクロードにはそういう(いわば)「裏設定」があるようで、それが今後のふたりの関係に影を落としそうな雰囲気。いったい「魔王」の過去には何があったのだろうか……。


◇前巻→「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました3」


魔物や魔香が取引されている闇オークションに潜入していたアイリーンは、エリファス・レヴィと名乗る魔道士と出会う。彼が「聖と魔と乙女のレガリア」FDのラスボスになるキャラであることに気付きつつも、エリファスの申し出により、アイリーンはクロードに彼を引き合わせることに。しかしその直後、そのFDでクロードが記憶を失い人間に戻ってしまうルートがあることを思い出す。クロードの元に戻ろうとしたまさにその時、彼が何者かに襲われ、記憶と魔王としての能力を失ってしまったとの知らせがアイリーンにもたらされるのだった。アイリーンのことも忘れ去ってしまったのをこれ幸いと、現国王はクロードとアイリーンの婚約を解消させ、新たな婚約者を選ばせようとする。婚約者選定の舞踏会までクロードとの接触を禁じられたアイリーンだったが、クロードに接触しようとするリリアの目論見をよく思わないセドリックの手引きで王宮への潜入に成功。クロードの配下になったエリファスを伴い、なんとかクロードを取り戻そうと策を練るが……。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった主人公が、ゲームの記憶を頼りに破滅フラグを回避しつつ、ラスボスである魔王クロードとの恋に突き進むシリーズ第3弾。今回はFDの内容がスタートということで、人間に戻ってしまったクロードをめぐり、正ヒロインであるリリアと全面対決することに。

前巻でリリアもまた転生者であることが判明。とはいえゲームをやり込み全ルートの内容を把握しているリリアに対し、アイリーンは続編やFDにはあまり興味が持てず記憶がおぼろげなため、先の展開を読み切れないのがまたしてもネックに。もちろんゲームそのものが正ヒロインであるリリアに有利になるよう作られているため、今までにもましてアイリーンはピンチ続き。アイリーンはクロード奪還だけでなく、ともすれば暴走の恐れがある魔物たちの手綱も握り、さらにFDのラスボス候補である新キャラ・エリファスの動向にも気を配らなければならないという大変な状況に。しかしそんな中で救いになるのは、アイリーンが信頼のおける有能な仲間たちが何人もいるということ。そしてクロードが記憶を失ってもクロードだったということ(笑)。

次々と立ちはだかる困難をものともせず、囚われのクロードを救ってのけたアイリーンの手腕にはとにかく拍手!のひとこと。そして表紙イラストでアイリーンが純白のドレスを着ている通り、ついにふたりは結婚。これでめでたしめでたし……と思いきや、どうやらwebではまもなく第4部がスタート予定とのこと。まさか次は国外に喧嘩を売っていく所存なのでは……と慄きつつ(笑)、続編を待ちたいと思う。


◇前巻→「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました2」


女子高生の吾妻つぐみは、相手が嘘をついているかどうかを判別する特殊能力の持ち主で、敏腕だが金に汚い弁護士の祖父・正義に振り回される日々を送っていた。そんな正義のもとにこのたび舞い込んだのは、10億もの遺産相続をめぐる案件。資産家の老人が亡くなり、29歳の後妻が財産を相続することになったのだが、前妻とその子供が相続を放棄するよう主張しているのだという。酔っぱらって帰ってきた正義は、たまたまつぐみが呼び寄せていた幼馴染の青年検事・汐見草司に調査を丸投げして居眠りを決めこんでしまったため、ふたりはしぶしぶ後妻である西園寺綾香の話を聞くことに。前妻の主張している使い込みや財産目当てという点は否定しつつ、負けても損はしないし勝たなくてもいい、と言い放つ綾香。つぐみが見る限りでは、その台詞に嘘はないようで……。

依頼人たちの嘘に秘められた「真実」を見抜くことで、事件を本当の意味で「解決」していく連作集。

「嘘を見抜く能力を持つ主人公」というだけでもインパクトは強いのだが、それを軽く凌駕(?)していくのが、主人公の祖父である正義の存在感。祖母が亡くなって以来法廷から遠ざかっていたというしおらしい一面があるかと思いきや、弁護士として活動再開したはずが、なぜか依頼を検事である草司に丸投げ。もちろん法律違反ではあるが、まったくもって意に介さないその強心臓&傍若無人ぶりが一周回って頼もしく見えてくるから不思議(笑)。なので、ある事情から親元を離れ、正義に育てられたという恩義があるために(そして正義の強引さを知っているがゆえに)、草司はしぶしぶその命令に従い、つぐみはその能力を使いつつフォローする、というのが本作の基本的な展開となっている。

そんな軽めのノリに反し、ふたりが目の当たりにする依頼は一筋縄ではいかないものばかり。やがてそれらの依頼をめぐり、はからずもつぐみや草司の過去までもが少しずつ明かされていくことに。実はふたりとも、それぞれが抱える事情のために、実の親ではなく正義に育てられているという経緯がある。それをうまく隠して――あるいは見ないようにして――生きてきたふたりだったが、依頼人たちの吐く「嘘」に接するにつれ、ふたりの「事情」にまつわる傷が、わずかなりとも癒されたであろうことは確かな救いだと思う。


悪役令嬢アイリーンの尽力もあり、魔王クロードが皇太子に返り咲くこととなったエルメイア皇国。しかしそんなある日、ミルチェッタ公国にアシュタルトと名乗る魔物が現れ、魔王に対して反旗を翻すとともに人間へ攻撃を加えたという知らせが舞い込む。クロードは魔王、そして皇太子として事態収拾のため自らミルチェッタへと向かうことに。一方、アイリーンはこの流れが、この世界の元ネタである乙女ゲーム「聖と魔と乙女のレガリア」の続編シナリオに当たることに気付き、クロードに隠れて秘密裏にミルチェッタへと向かう。続編の舞台はミルチェッタにあるミーシャ学園で、ゲームの展開によっては生徒会長である半魔の青年・ゼームスの手によってミルチェッタが滅ぼされてしまうのだ。アイリーンは男子生徒に変装して学園に編入し、前世の記憶を頼りに物語の進行状況を探り始めるが……。

乙女ゲームの悪役令嬢アイリーンに転生してしまった主人公が、ゲームの記憶を頼りにフラグ折り&ラスボス攻略に奮闘するシリーズ第2弾。

前巻で魔王を陥落させたうえ、メインヒロインである「聖剣の乙女」リリアから聖剣を奪い取り、見事自身の破滅フラグをへし折ったアイリーン。しかし元ネタのゲームには続編や外伝、FDまであるということで、今回はゲーム第2弾の内容が展開されていくという流れに。もちろん今回もそのままストーリーが進めばクロードに不利な状況になってしまうため、アイリーンはクロードの目をかいくぐって事態に介入し、展開をどんどん捻じ曲げていく。今回も正ヒロインキャラ・セレナがなかなかどうしようもないキャラということもあり、アイリーンの行動にはどれもこれもスカッとさせられる。そして向かうところ敵なし!なアイリーンが、クロードにだけは勝てないというところもいい(笑)。潜入がバレたことで怯えるアイリーンと、クロードが考えた「お仕置き(仮)」にはなんというか笑わせていただいた。

とはいえアイリーンがすでに第1弾のストーリーを変えてしまっているせいか、第2弾にあたる今回の展開も彼女の記憶とは異なるものになっていることが判明。しかしそれは彼女のせいだけではなく、彼女のライバルである元「聖剣の乙女」リリアの存在にあることも明らかになる。冒頭ですでに明かされているのだが、実はリリアもアイリーン同様、ゲームプレイヤーの転生者だったのだ(な、なんだってー!)。かくして物語はこの先の「展開」を知っているふたりによる対決へと変わっていきそうな感じ。アイリーンは今回のストーリーで将来有望な仲間を増やしたが、リリアの方も王都にて第1弾の登場人物たちを「攻略済」ということなので、王都で今後どのような権力闘争が繰り広げられるのかが気になるところ。


◇前巻→「悪役令嬢なのでラスボスを飼ってみました」


エルメイア皇国の皇太子セドリックから婚約破棄を言い渡されたのは、ドートリシュ公爵令嬢アイリーン。その瞬間にアイリーンは気付いてしまった――自分の前世は、病床にあって乙女ゲームをこよなく愛していた普通の女子であり、なぜか今は、当時プレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことを。そしてゲーム内のラスボスである「魔王」クロードの存在がきっかけで自分が死ぬという結末までも思い出したアイリーンは、クロードと結婚すれば回避できるのではないかと考え、単身魔王の城へと向かうが……。

Web連載小説の書籍化となる本作は、悪役令嬢が一発逆転を狙うまさかの恋愛ファンタジー。

主人公のアイリーンは最初でこそ「悪役令嬢」とか呼ばれてしまうものの、それはゲームのヒロイン側から見て貼られたレッテルというだけ。しかも現在のアイリーンは自分の未来というかゲームの流れを知ってしまっているがゆえに、それを逆手に取りつつも生き残りをかけて前向きかつ懸命に突き進んでいく強かさを持っていて、見ていてとても清々しくなってくる。

とはいえ、いかんせんアイリーンの「記憶」はところどころ失われているので、今後の展開の肝心な部分がどうなっているのかギリギリまでわからなかったり、彼女の「変化」のせいもあってか、ゲーム内の正ヒロイン・リリアと正ヒーロー・セドリックの性格がどんどん歪んでいったり(と言いつつ実はそっちが本性だったりして?)で、いろいろとピンチに陥ったりもするのだが、そのあたりは魔王さまがフォローしてくれるのでひと安心。アイリーンの「変化」の影響が魔王クロードにもしっかり及んでいて、あっという間に彼女に惹かれていく様子、そしてアイリーンが全然それに気付いてないという流れには「ごちそうさまでしたー!」としか言いようがない、ということでひとつ(笑)。


アルベルトとの婚約が解消されたものの、今でも片想い中であることが新聞に載ってしまいパニック中のミレア。しかし確実に記事を読んでいるはずなのに、その件に対して何の反応も示さないアルベルトの態度に、ミレアは不安を募らせていた。そんな折、第3楽団のメンバー選抜が開始。指揮者候補として名が挙がったのはアルベルト、そしてアルベルトの師・ガーナーの再来とも言われる天才指揮者・リアムのふたり。ガーナーはふたりに、楽団員立候補者の中からメンバーを選んでそれぞれ楽団を作り、同じ曲を演奏会で披露、その観客の投票によって決定すると宣言。アルベルトは自分の第1楽団でもコンマスとなっているフェリクスを選ぶが、リアムはミレアを指名。驚くミレアだったが、これを機にとアルベルトに宣言するのだった――この選抜で自分が勝ったら付き合ってほしい、と……。

両片想いとすれ違いがとまらないふたりを音楽が繋ぐラブストーリー、待ってましたの2巻が登場。

音楽も恋もどちらも選べない――というよりはどちらも手に入れる気満々(ただしそれができているかどうかは別)のミレアと、相変わらず慎重派でミレアの成長をひたすら願い見守るアルベルト。恋愛面では確実に両想いなはずなのに、ふたりを繋ぐ「音楽」そのものがそれを邪魔する一面も。リアムの言葉に動揺させられる一面もあったりはしたが、しかし最終的にミレアを動かすのは「天使」、そしてアルベルトへの想い。アルベルトもアルベルトで、ミレアを狙うリアムを牽制したり、ミレア自身にもあれこれ釘を刺しつつ甘やかしたり(飴と鞭……?)、建前的に距離を置こうとしつつも、ミレアに構いたくてしょうがないのがまるわかりなのが微笑ましすぎる。演奏面でも、アルベルトによって表現がどんどん引き出されていくミレア、そして最終的に天井知らずなミレアの才能をきっちり制御してみせるアルベルトを見ていると、やっぱりお似合いすぎるとしか言えないのでとりあえずさっさと付き合いなさい君たち。

などと思ってたらアルベルトがようやく動き、外堀も埋まりつつあって逆に逃げようとするミレアが可愛いラストシーン。これからコンクールに出場しようとするミレアが、どこまで成長していくのか――次巻(出るよね?)にもおおいに期待したい。


◇前巻→「ドイツェン宮廷楽団譜 嘘つき婚約コンチェルト」


伯爵令嬢のミレアは、幼い頃に「羽根の生えた男の子」からバイオリンを貰うことに。そのおかげで救われたミレアは彼を「聖夜の天使」と呼び、そのバイオリンを弾き続けることで彼との再会を夢見ていた。そんな彼女も成長し、やがて第2宮廷楽団に所属することなるのだが、その出自に目を付けた上層部から「バイオリンの妖精」という肩書きをつけられ、必要以上に持ち上げられることに。そんな矢先に出会ったのが、第1楽団の若き天才指揮者にして公爵令息でもあるアルベルト。顔を合わせるたびにミレアの腕前をさんざんこきおろすアルベルトだったが、やがてある提案を持ちかけてくる。それはふたりが恋仲であると偽り、嘘の婚約をしてしまおうというもので……。

新作は宮廷楽団を舞台にした、指揮者とバイオリニストの嘘から始まる婚約ストーリー。

初対面からミレアに対する毒舌具合が半端ないアルベルトだが、悔しいかなその実力は本物だし、言うことは的確だしで反論できないミレア。しかしそれが彼女の実力への信頼に裏打ちされたものだというのがわりと序盤から見え隠れしてきて、読んでいるこちらとしては「おや?おやおや?(ニヤニヤ)」とならざるをえない。そこにきて嘘の婚約――指揮者になることを親に反対されているため――をミレアに持ちかけ、フリではあるが溺愛系の台詞をばんばん吐く一方で、ミレアには弁当を差し入れ、しかもアドバイス付きのメッセージカードを添えたりするのだからたまらない。

しかし良くも悪くも周囲の耳目を集め過ぎたことで、やがてミレアの出生の秘密が明かされ、バッシングを受けるという展開に。けれど打ちのめされながらも、再び立ち上がり前を向くミレアの姿がとても眩しい。特に曲に自分の想いを乗せて弾き、それをアルベルトに委ね伝えようとする演奏シーンがとても印象深い。そうしていつしか、最初はアルベルトに振り回されていたはずが、無意識ではあるがいつの間にか振り回す側にまわっていた(とはいえその後でやっぱり反撃されてたりもするが)という関係の変化も。あまりにも可愛らしいふたりの関係をもっと見てみたいと思った。


ようやく「黒の針騎士」を迎えたジゼラティアは、預言布に記された父王の死とも取れる内容を覆すべく、当代針姫かつ針王代理としての名乗りを挙げ、「夏の舞踏会」の準備を始めることに。自身の針騎士、そして先代針騎士の4人をなんとか使いながら、疎遠な異母妹・ヒルデとの関係修復や、暗躍する預言推進派貴族への対応に追われるジゼラ。そんな折、オルスはソールから、ジゼラがすでに「針王」を選んでいる――つまり、誰かに片想いしているということをほのめかされる。オルスはソールの言葉から、その相手が先代針騎士のランティスではないかと考え始め……。

女神の預言によって定められた運命を覆そうとする王女の戦いを描くシリーズ第2巻。今回も与えられた預言の意味とそれを巡る人々の攻防を軸に、前巻からの謎であった「先代針騎士たちが力を失っていない理由」や、「ジゼラの父王が針王としての資格を失った理由」についても明かされてゆくという展開に。

今回の焦点は「黒の針騎士」ふたりの知略を尽くした攻防。「赤の針騎士」のふたり、ガルフォードとソールもジゼラ至上主義であることに変わりはないが、基本的には荒事専門であり、思い立ったら手が出る足が出るという行動原理なので、その好意にさしたる裏表はない(まあソールはそのあたり微妙なフシもあるが)。しかしランティスとオルスについては知将というだけあって、裏の裏のそのまた裏まで読んで行動するものだから、どうも結論が明後日の方向に行ってしまう状態。だからオルスはジゼラがランティスに片想いしてると思い込むし、ランティスもジゼラが大切なあまりなにやらヤンデレ方面へ向かっていくのだから目も当てられない(苦笑)。

預言の解釈、ジゼラの恋の行方、そしてろくでなしとしか思えなかったジゼラの父親に隠された過去など、いろいろと二転三転する展開で今巻も非常に面白い。また、舞踏会でジゼラがオルスに告白するシーンはとてもドラマチックで、まさに今巻の、いや本シリーズ最大の見せ場と言っても過言ではない。けれど後書きを読むとなにやら不穏な雰囲気が……。せっかくジゼラとオルスが両想いになったのだし、ここからジゼラ本人にまつわる預言の謎解きや、ふたりの運命がどうなるかという流れになるはずなので、ぜひあと1冊くらいは続けてほしい。


◇前巻→「赤と黒の針騎士 茨に誓う彼の名は」

赤と黒の針騎士 茨に誓う彼の名は (角川ビーンズ文庫)赤と黒の針騎士 茨に誓う彼の名は (角川ビーンズ文庫)
永瀬 さらさ

KADOKAWA/角川書店 2015-04-28
売り上げランキング : 9817

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
外れることのない預言に支えられる大国・ノルン王国。この国に生まれた姫は「針姫」と呼ばれ、一騎当千の力を持つ忠実なる赤と黒の「針騎士」、そして「針王」と呼ばれる伴侶を任じ、王国の繁栄を支えていた。しかし当代の針姫であるジゼラティアは、生まれながらにして「最後の針姫」、そして「針王と結ばれない」という預言を与えられていた。しかしある年の「預言夜」――預言を紡ぐ「預言布」が新たに告げたのは、現針王の失脚と針騎士の台頭ともとれる内容だった。ジゼラの亡き母である先代針姫の騎士たちは予言に則って針王を幽閉し、さらにはジゼラまで捕らえようとする。唯一の味方である「赤の針騎士」ソールと共に逃げたジゼラだったが、それを手助けしたのが武器商人であるオルス・レーヴァン伯爵だった。オルスはジゼラを助ける代わりに自分を「黒の針騎士」に任じるよう要求。ジゼラはその要求をのむが、なぜか叙任の儀式は中途半端な状態で終わってしまい……。

新作はすべてが「預言」によって定められた世界で、宿命に抗おうとする王女の姿を描くファンタジー作。

預言、そして「針姫」周辺の設定の説明&導入がメインな展開ではあったけれど、この設定だけで個人的には大満足。しかもこれだけなにかと説明がありながら、ジゼラに与えられた預言の意味をはじめとして、死んだはずの先代針姫の騎士ふたりが未だに力を振るえる理由や、ジゼラの父である当代針王が不完全である理由――など、肝心な部分に謎が多いのも逆に楽しい。

一方、ジゼラをめぐる面々もなにかと曲者揃い。先代針姫の騎士であるランティスとガルフォードの過保護めいた素振りも気になるが、当代針騎士のふたりも面白い。武を司る「赤の針騎士」ソールはジゼラを溺愛してると言えばしてるがそれが親愛の情なのか騎士としてなのか男としてなのか微妙なラインなのがいい。さらに今巻で紆余曲折を経て、知を司る「黒の針騎士」となったオルスについては、現時点ではジゼラに対してぞんざいな態度・扱いをとっているものの、これからどう転ぶかわからない感じがまたいい。そしてそんなふたりに翻弄されながら、これからジゼラがどう成長し、預言された運命を切り開いていけるのかとても気になるので、ぜひ続編希望。

精霊歌士と夢見る野菜 金色の約束 (角川ビーンズ文庫)精霊歌士と夢見る野菜 金色の約束 (角川ビーンズ文庫)
永瀬 さらさ

KADOKAWA/角川書店 2014-07-31
売り上げランキング : 2965

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
経営している野菜・惣菜店の売上も良く、精霊歌士になるための勉強も順調に進みつつあるメロウ。そんな彼女の前に現れたのは、かつて幼いメロウを捨てた母親――女王ジーレ・ジーンだった。メロウに歩み寄り、母親らしい振る舞いを見せる女王にメロウは戸惑いを隠せないでいた。さらにそんな折、メロウが受けるはずの精霊歌士予備試験の内容が変更になったという報せが届く。しかもその審査員は女王本人で……。

落ちこぼれ少女の恋と未来を描くファンタジーシリーズ、3巻にして完結巻。
エイディという想い人兼目標も出来たし、リーリやシャーディーといった仲間も出来た。カーチスやエルダ、ヴェルクといった良き教師も得ることが出来た。これであとは精霊歌士になるだけ!と思っていたのも束の間、メロウにこれでもかというくらいの困難が襲いかかる展開に。

試験のこと、店のこと、そして母親のこと。メロウがこれまで築き上げてきたものがどんどん壊されてゆく。頑張れば、努力すればいつかは報われてもいいはずなのに、周囲の大人たちの思惑がメロウの行く末を阻む。けれどメロウは諦めない。一度はくじけかけた彼女を救ってくれたのは仲間たちであり、精霊たちであり、そしてエイディ。これまで築いてきたものは失われそうにもなったけれど、でもすべてがなくなったわけではない――そうして何度も立ち上がるメロウの姿があまりにも純粋で、そして眩しくて、美しくて。

とまれ、これにて物語はおしまい。メロウの成長譚という点ではとてもすっきりまとまったいい話だったと思う。ただ、あっと言う間に完結してしまったので、やっと両想いになったエイディとの関係だとか、リーリやシャーディーのことだとか、メロウに「お兄様」と呼ばれたくてそわそわするかもしれないヴェルク(笑)のことなど、彼らのその後をもうちょっと見てみたい気も。


◇前巻→「精霊歌士と夢見る野菜 紅色の祝祭」

精霊歌士と夢見る野菜 紅色の祝祭 (角川ビーンズ文庫)精霊歌士と夢見る野菜 紅色の祝祭 (角川ビーンズ文庫)
永瀬 さらさ

KADOKAWA/角川書店 2014-02-28
売り上げランキング : 35253

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
精霊歌士を目指すため、予備学生として勉学に商売にと勤しむメロウ。しかしまだ野菜しかうまく作れないという欠点のせいか、夏休みにも関わらず補講を受ける羽目になってしまう。だが講師としてやってきたヴェルクは、有名な作曲家ではあるものの性格が非常に悪く、あからさまにメロウたちを見下している様子。さらに課題として歌うことになったヴェルクの作った歌はあまりにも難しい内容なうえ、同じ補講仲間のリーリとシャーディーとの協力関係もうまく築けない。さらにエイディに無意識に惹かれつつあるメロウは、エイディの行動やら自身の補講のことで情緒不安定気味になり、エイディとも衝突してしまい……。

2巻は一気に仲間が増えたよ!の巻。
なんといっても大きいのは、補講を通して距離を縮めることになった同級生のリーリとシャーディーの存在。リーリは予備学生になって最初に会話をしたものの、メロウが女王の実の娘であることを知って遠ざかっていった女子学生。そしてシャーディーは砂漠の国サブルムの王子で、精霊歌士候補としてミュズラム王国にやってきてはいるが、実は精霊歌士にはなりたくないという、反抗心たっぷりな男子学生。そしてメロウはその出自から友達もほとんどおらず、ゆえに同情されるくらいなら全部ひとりでやってやる!的なスタンスなものだから、そんな3人が揃ったってうまくいくはずもなく。けれど副担任のエルダから、人の話に耳を傾けるべきと諭されたメロウは、ふたりの言葉をきちんと聞こうと努力し始める。そうやって他人の助言を素直に聞き入れて実行に移すあたりが、なんというかいい娘だなあとしみじみさせられる。

とまあ、そうやってリーリやシャーディーとの仲を深め、当初は困難としか言いようのなかった課題を成功させるに至ったのだが、その一方でこじらせてしまったのがエイディとの関係。エイディと衝突したことで初めて知ったのは、エイディの抱える孤独――落ちこぼれゆえに孤独をかこっていたメロウと同様、エイディもまた天才すぎるがゆえに孤独をかこっていた。なんでもできるから、と周りから思われ、実際になんでもできてしまうから、結局ひとりになってしまう。そのことに気付けていなかったメロウはしかし、ようやくエイディの孤独に気付き、彼に絶対追いついて、そして追い越してやるのだと決意する。

……とまあここまではいい話なのだが、どうやらそのメロウの意気込みがエイディに本格的に火をつけてしまった模様。これまでは天然発言が目立っていたエイディだったが、実は計算ずくなのか?腹黒なのか?と思わされてしまうような態度をメロウに対して見せ始めるのがなんとも楽しくなってきた。


◇前巻→「精霊歌士と夢見る野菜」

精霊歌士と夢見る野菜 (角川ビーンズ文庫)精霊歌士と夢見る野菜 (角川ビーンズ文庫)
永瀬 さらさ

角川書店 2013-10-31
売り上げランキング : 35378

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
草も生えない不毛の地となってしまった世界――しかし精霊母ムーサによって精霊がもたらされ、それらと契約を結んだ人々は「精霊歌士」と呼ばれ、精霊歌なる力ある歌によって緑をもたらすことが出来るようになった。中でもミュズラム王国は精霊歌士の地位が高く、現女王も元は市井の花売り娘だったが、その能力を見出されて現在の地位についたのだという。精霊歌士を夢見る少女・メロウは、精霊歌士の養成機関であるムーサ音楽院を受験したものの、なぜか野菜しか作れないという能力の偏りが原因で不合格に。代わりに「予備学生」としてムーサ学園都市で働きながら歌士を目指すことになってしまう。音楽院から店舗として与えられた家屋に向かったメロウだったが、空家のはずのそこには先客が。しかもその人物――エイディは今年のムーサ音楽院首席合格者で、この空家の持ち主なのだと言う。とにかく眠りたいから学校生活は無理と言い放ち、音楽院を辞めたと話すエイディにショックを受けるメロウだったが、なりゆきで彼と同居することになってしまい……。

第11回角川ビーンズ小説大賞奨励賞と同読者賞のW受賞作。落ちこぼれの少女・メロウが、天才学生エイディに振り回されながらも成長してゆくファンタジー作。

なぜか精霊歌で野菜しか作れないメロウは、実は現女王の実の娘。しかし母親である女王はメロウを自ら育てることはなく、女王として他の才能ある子供たちを歌士として育てており、そのことで彼女自身が偏見を持たれたり、つらい目にあうこともしばしば。前向きで努力家ではあるが、その生い立ちのせいでちょっといじけがちというか強がりというか、いろいろと未熟な面も目立つ主人公だったりする。

で、そんな彼女を変えてゆくのが、このたびの音楽院首席合格者である天才青年エイディ。その歌声はとにかく素晴らしく、次の国王も狙えるのではというほどの実力を持つ、まさに完璧としか言いようがない青年――ただし「精霊歌士候補として」は。しかしてその実地井葉、どこまでもユルくて3度の飯より眠りたい!的な性格。努力することは嫌いではないし、勉強だって真面目にやれるタイプのようだが、早起きが嫌だから学校に行きたくないとか言い出すどうしようもなく天然かつボンクラな青年。このエイディに振り回されながらも、メロウは次第に自分の未来を前向きに考えられるようになる――エイディに追い付きたいのだと。

メロウにしてもエイディにしても色々と発展途上な面がたくさんあって、でもそこをきちんと見つめ直して、前に進もうとするその行動力がとにかくまぶしい物語。でもって、そんなメロウにエイディはどうやら惹かれつつあるらしいので、今後の展開がとにかく楽しみだったりして(笑)。

このページのトップヘ