phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 内藤了


春菜の勤め先であるアーキテクツで、少し前から怪奇現象が起こるようになっていた。なんでも長い黒髪が社内に落ちていたり――社内に該当する髪型の人物がいないにも関わらず――、白い女性のような人影が不意に現れたりするのだという。それは少し前に、手島という他社の元常務が相談役としてアーキテクツにやってきた直後から始まり、随所で見つかるという黒髪も、手島の部屋やその周辺に集中しているのだとも。手島が前の勤め先で不倫相手の女性・佐藤伽耶を手酷く振り、伽耶が本人の目の前で自殺未遂をしたらしいという話を聞いた春菜は、彼女の行方を調べてみることに。一方、仙龍と想いを通わせた春菜は、彼に絡みつく因縁を断ち切るための手掛かりを求めて出雲大社と吉備津神社へと向かおうとする。しかしそのさなか、手島の妻と新たな愛人が次々と急死したうえ、伽耶も故郷に戻ったのちに自殺していたことがわかり……。

因縁渦巻くオカルトミステリシリーズ8巻。隠温羅流に絡みつく呪縛のルーツに迫ろうとする春菜に、新たな事件が降りかかるという展開に。

「温羅」を「隠す」という流派の名前、現社名「鐘鋳建設」が表すもの、代々の導師の号に「龍」という水にまつわる文字が入っていること、そして春菜の前に現れ、隠温羅流の因にも似た痣を彼女に残した〈鬼〉……今まで誰も触れず近付こうとしなかった隠温羅流のルーツに迫ろうとする春菜だったが、そのさなかで起きたのは、奇しくも春菜が向かおうとしていた吉備津神社にまつわる伝説によく似た、新たな因縁の事件だった。まるで「呼ばれた」かのように起きたこの事件は、雨月物語に描かれた「吉備津の釜」とうりふたつとしか言いようがなく、しかも標的となった手島があまりにもひどい人物であるがために、伽耶の置かれた状況や無念さがこれでもかというほどに伝わってくる。だからこそ、彼女の「存在」はこれほどまでに大きくなってしまったのだろうが。

表と裏、光と影、そして鬼もまた元はただの人――出雲大社へ行ったこと、そして今回の事件で、あらゆるものが表裏一体であることに気付いた春菜。次はいよいよ吉備津神社へと向かうことになりそうだが、彼女がそこへ向かったとして、果たしてただで済むものだろうか。


◇前巻→「怨毒草紙 よろず建物因縁帳」


大学院生となり、ひとり暮らしのための物件を探しているさなかに、凄惨な少女の遺体を目にしてしまった中島保。事件のフラッシュバックに悩まされるようになった保は、カウンセリングを受けるかたわら、他者に暴力をふるい、あるいは殺してしまう人々の心理状況について研究するようになる。やがて彼は身を寄せているメンタルクリニックの院長・早坂と共に、犯罪者の脳に働きかけて犯行を抑制するための「スイッチ」の開発を進めていた。同年代の少年たちを暗渠で殺してしまったという少年、DVがエスカレートして恋人を焼き殺そうとした男、複数の女性を撲殺した死刑囚……カウンセラーとして彼らと接触する保だったが、かつての患者である早苗が自殺したことをきっかけに、「スイッチ」の実証実験に踏み切ることを決める。しかしその効果は保が想像していた以上の「結果」をもたらして……。

「猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズ」スピンオフ第3弾は、比奈子の恋人でもあるカウンセラー・中島保が主人公。保がいかにして「スイッチ」の研究を始めたかが、本編1巻の裏側をなぞるかたちで語られる。

殺人によって得られる快楽を苦痛に変えることで、その犯行を抑制する――それが実現すれば、倫理的な点はさておくとして、保の理想通りの「結果」が得られるはずだった。しかし現実はその「理想」をはるかに超え、さらには早坂の自己顕示欲による暴走も加わり、事態は予想もしない方向へと転がっていくことになる。かつて猟奇殺人事件の被害者に出くわしたことでトラウマを抱えたままだった保だけに、彼の「理想」がどこまで「正気」に基づくものだったのかはわからない――彼自身は「正気」だったはずではあるが。しかし比奈子と出会ったことで、彼はようやく救いを見ることになる。比奈子がいなければ彼はどうなっていたか、考えるだに恐ろしい。この先にふたりに待っているのは茨の道だったかもしれないが、それでもここでふたりが出会えたことには意味があったのだと、そう思いたい。


◇本編1巻→「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」


新米警察官・恵平の次なる研修先は「生活安全課」。地域密着型ともいえるその職務内容に、自分が警察官を志したきっかけを思い出していた恵平。そんなある日、パトロール中に具合の悪そうなかなえという少女を発見する。生理がきたという少女に新しい服などを与えつつ、心配そうにしているかなえの友人・優子に恵平は連絡先を渡す。するとその直後、優子からかなえが死んだとの連絡が入る。しかもあの時かなえが出血していたのは生理のせいではなく、非合法な方法で手に入れた堕胎薬による副作用である、とも。ショックを受けながらも上司に報告した恵平だったが、裏が取れていない以上、恵平をからかうための嘘の可能性が高いとしてつっぱねられてしまう。あの時もっときちんと対応していればかなえを救えたはずと後悔を募らせた恵平は、先輩刑事の平野や、鑑識の桃田に相談し、裏をとろうと秘密裏に捜査を始め……。

なぜか猟奇犯罪に遭遇してしまう新米警官の活躍を描くシリーズ4巻。

望まぬ妊娠をしてしまった少女に「妊娠をなかったことにできる薬」を売りさばき、あるいは生まれてしまった胎児を買い取るという「システム」の存在が見え隠れする今巻。一方、過去には人間の生き肝を売るために殺人を犯すという事件が存在したという。その事実に慄然としつつも、恵平は周囲の反対を押し切って調査を進める。それはすべて、少女たちを――人々を助けたいというただその一心で。やがてその事件は、別の殺人事件にも結び付いていくことになる。ちなみに今回は「藤堂日奈子」シリーズに登場した「死神女史」こと石上妙子も登場し、捜査に向き合おうとする恵平に大きな影響を与えることに。

一方、恵平が時折迷い込む「うら交番」についてもわずかではあるが進展(?)が。うら交番を訪れたものは1年以内に死ぬという噂について調べていた平野は、それをついに恵平にも伝えることに。しかし今回ふたりは意図的に、そして素面の状態でうら交番へたどり着くことに成功。恵平は例の噂がうら交番や柏村による呪いのようなものではないと一蹴し、なにか意味があるはずだと考えるように。それはおそらく正解だと思うが(正確には「そうであってほしい」が)、その真相が何にどのように作用することになるのか気になるところ。


◇前巻→「PUZZLE 東京駅おもてうら交番・堀北恵平」


隠温羅流、ひいては仙龍に絡みつく因縁の原因を探ろうとする春菜は、参考になればと一般の曳き屋業者が行う東按寺の持仏堂の移設を見学することに。しかし移設直後から、寺の周辺では怪奇現象が起こるようになっていた。棟梁から話を聞かされた春菜は、深夜を待って仙龍たちと共に向かった寺で恐ろしい幻覚を目の当たりにする――吊るされた半裸の女性が生きながら狼に食われる光景、それを見つめる春菜の足元には、血に濡れた絵筆が転がっていた。春菜はその絵筆をとり、目の前で繰り広げられる地獄のようなその光景を描きたいという欲求に襲われ……。

いわくつきの建物を「曳く」ことで、その因縁から解き放つ「曳き屋」仙龍と、その因縁を見出す「サニワ」のOL・春菜が活躍するオカルトミステリシリーズ7巻。仙龍に対する自身の想いに向き合うことを決めた春菜がその決意を示して行動に移そうとする、シリーズのターニングポイント的な展開に。

これまでは春菜が仕事で手掛けることになった建物に怪異が起きるという流れだったが、今回は珍しく、春菜がたまたま見学した建物で怪異が起きるという展開に。しかしこれは偶然ではなく、春菜が「サニワ」であるからこそ、必然的に起きたというか、呼び寄せたということなのかも、と思ったりして。

それはさておき、仙龍に絡みつく因縁の鎖を解くことを決意した春菜。仙龍の姉である珠青や、これまで親族である歴代の導師を何人も見送らざるを得なかった棟梁から話を聞くことになるのだが、そこで隠温羅流が山陰地方に関係があるとのことが判明。春菜と珠青の会話では、「隠温羅流」という流派の名前の中にある「温羅」に着目されているが、こちらは吉備地方(岡山)において「桃太郎」のモデルになったとされる伝説に登場する存在。作中でも触れられていたが、「雨月物語」に登場する、吉備津神社の鳴釜神事のエピソードにも繋がっている。次巻では春菜が出雲へ向かうようだが、これが「温羅」とどう関わっていくのか、岡山在住の私としては気になるところ。


◇前巻→「堕天使堂 よろず建物因縁帳」


ある出版社の装丁部に勤めていたものの、部署の解体によりフリーの装丁デザイナーになった蒲田は、先輩編集者・真壁に誘われてゴミ屋敷の取材を進める中で、かつての同期であった元編集者・飯野の家へ向かうことに。しかしふたりが家にたどり着くと、ゴミだらけの部屋の中で飯野が首を吊っているのを発見する。幸い一命はとりとめたものの、飯野が寿退社後に夫を亡くし、その影響で流産してうつ状態に陥っていたことを初めて知り、蒲田はショックを受けていた。そんなある日、真壁の紹介で蒲田が引き合わされたのは、人気覆面作家の雨宮縁。かつて編集者としての飯野に世話になったという雨宮は、彼女の夫の死に不審感を抱いていたのだという。実はふたりに会う少し前、蒲田は写真投稿サイトで、妊娠が発覚して喜びの笑顔を見せる飯野と亡き夫の写真が掲載されているのを発見。しかし撮影・投稿者である「U」という人物は雨宮の知人ではなく、当時たまたま病院で出会った見知らぬ患者なのだという。さらに雨宮が投稿サイトを調べたところ、「U」が投稿した家族写真のいくつかで、写っている人物が不審な死を遂げていることがわかり……。

執筆中の作品の主人公になりきる覆面「憑依」作家・雨宮縁が登場する新シリーズ第1弾。幸せそうな家族の写真を撮り、のちに一家を不幸に陥れる「U」を追い詰めていく長編クライム・ミステリとなっている。

ある時は和装の老人姿、またある時は真っ赤なスーツの40代女性、さらには20歳前後の白皙の美青年――という具合に、その時書いている作品の主人公の姿で現れる「憑依作家」の雨宮縁。しかしその洞察力の鋭さは、雨宮が書く作品の主人公たち――すなわち雨宮が扮しているそれぞれのキャラクターたちと全く同じで(まあ雨宮が作り上げたキャラクターなのだから当たり前と言えば当たり前なのだが)、どこか非現実的な雰囲気も漂わせつつ、事態の真相を明らかにしていく手腕はさすがのひとこと。個人的には雨宮本人もだが、雨宮の部下?(または秘書?)の庵堂氏の存在も気になるところ。


年の瀬が押し迫る中、恵平はペイさんから置き引き犯の老人を引き渡される。押収したスーツケースの中に入っていたのは、切断された男性の胸部だった。その翌日から、都内で同じ男性と思しき遺体の一部、そして白骨化した女性の手首が発見される。しかも女性の手首だけは血の染み込んだリュックに入っていたのだが、その血はいずれの遺体のものとも一致せず、また時期も約30年は前のものだという。捜査が行き詰まる中、恵平は平野と共に「うら交番」へと迷い込む。そこでふたりは柏村から、日本で初めて「バラバラ殺人事件」と呼ばれることになった殺人事件について聞くことになり……。

東京駅を舞台に、新人警官が猟奇的な事件に巻き込まれるシリーズ第3弾。ちなみに今巻でも、恵平は鑑識見習いのままである模様。

柏村から聞かされたかつてのバラバラ殺人事件の真相に、恵平は悩むことになる。最初は被害者に感情移入していた恵平だが、被害者が加害者一家に入り込んで金を盗み、暴力をふるっていたという話を聞くと加害者側に同情を示す。しかし加害者たちが隠していた真相を聞き、戸惑う恵平。もちろん警察であるからには被害者を守り、加害者を捕らえるのが「正しい」判断であるのだろうが、ひとにはそれぞれの事情があり、一概に善悪を判断することは難しいのだということを改めて突き付けられる。そしてそれは、今回の事件にも重なる部分があったから、なおさら。

そんな中、ますます気になるのが「うら交番」の存在。今回、うら交番に迷い込んで話を聞いていたふたりだが、そこに事件の一報が入り、柏村は交番を出て行ってしまう。気になってついていきかけたものの、思い留まって「おもて」へと戻ってくるのだが、そこでようやくふたりは、自分たちが「過去にいる」ということを実感して震えることとなる。あのまま付いて行っていたらどうなっていたのだろう、と。さらに本編のラストで、平野は別の人物から「うら交番」に関する逸話を聞かされる――いわく、「うら交番」に行った者は1年以内に死ぬのだ、と。それが本当なら、ふたりはどうなってしまうのだろうか……。


◇前巻→「COVER 東京おもてうら交番・堀北恵平」


定年後、特任教授として引き続き大学での研究を続けられることになった微生物学者の坂口信。亡き恩師の妻に呼び出され、厳重に保管されていたという謎の研究資料を読み進めていくうち、坂口は恩師が大学の保管庫にこっそりと何かを隠していたことを知る。「KSウイルス」と名付けられたそのサンプルをラットに投与してみたところ、ラットはいったん仮死状態になったかと思うと、突如狂暴化し、互いに互いを食いちぎりながら死んでいったのだった。それが狂犬病ウイルスをベースに加工された新型であることを知って愕然とする坂口だったが、そこに妻が急死したという知らせが。同席していた後輩の黒岩と二階堂に処分を任せて帰宅し、妻を見送った坂口。しかしその後、黒岩が謎の急死を遂げたうえ、海谷と名乗る女性刑事や、同じく警察官だという黒服の男たちが坂口の前に現れ、黒岩の周辺について聞き出そうとしてくる。さらに時同じくして、処分したはずのウイルスを手に入れたとするテロ組織が現れ、首相官邸に向けての犯行予告を送ってきて……。

致死率100%でワクチンもないという新型ウイルスの行方を老教授と女刑事が追うサスペンス長編。なお、サブタイトルにもある通り、主人公は「特任教授」の坂口信。個人的すぎる感想ではあるが、こういう場合は大抵「若き天才イケメン教授」的なキャラだと思っていたのだが、予想に反して65歳というキャリアも実績もある教授ということで驚いてしまった(笑)。

さておき、坂口が発見してしまったのが、亡き恩師が作り出していた恐怖の「ゾンビ・ウイルス」。処分を任せていたはずの黒岩がサンプルを何者かに横流しし、おそらく口封じとして殺され、さらにはそのウイルスが都内にばらまかれるかもしれない――そんな危機的状況に陥ってしまった坂口は、しかし研究者のプライドと責任にかけて、中央区内のどこかに仕掛けられたというウイルスの在処を探すべく奔走することに。一方、プライベートでは妻を亡くしたばかりで、日々の生活すらままならないという状態。それらの落差の激しさにはなんとも驚かされる。

そんな彼に――というより「研究者」という存在そのものに――反発も覚えつつ、サポートしてくれるのが、後方支援系の部署に所属しながらも、上司の制止も振り切って独自の嗅覚で事件を追う女性刑事・海谷優輝。父親の形見だという年代物のフェアレディZを駆って単独行動をも辞さない、まさに一匹狼な彼女の姿はなんともかっこよく、彼女が主役の刑事ものを読んでみたくなった。


春菜の天敵である設計士の長坂が建築事務所を構えることになり、その工事をアーキテクツが手掛けることに。今回は担当ではないということで安心していた春菜だったが、長坂が購入したという建物がいわくつきの古い教会であると聞かされる――約50年前にある大学のリンチ事件の生き残りが教会に助けを求め、さらにその数か月後、牧師の妻と娘の首なし死体が発見されたのだという。しかもふたりの首と、牧師本人は行方知れずのまま。うすら寒いものを感じていた春菜のもとに届いたのは、現地調査に向かった担当者が指を落とす大怪我を負ったという知らせだった。しかも単なる事故ではなく、手にしていた工具が勝手に動きだしたのだ、とも。長坂からの苦情を懸念した春菜は、掃除のために同僚と共に教会に向かうことに。しかし明らかに不穏な気配に当てられたうえ、大量の蠅の死骸に襲われてしまう。ようやく建物から逃げ出した春菜の前に現れたのは、別方面からの依頼でたまたまやってきた仙龍で……。

「サニワ」である広告代理店の営業・春菜と、いわくつきの建物専門の曳き屋・仙龍が、様々な因縁に取りつかれ建物を浄化するシリーズ6巻。今回の対象はなんと悪魔憑きの教会ということで、今まで以上に一筋縄ではいかない展開に。

今回の火種となったのは、春菜が「パグ男」と呼んで憚らないほどの厚顔無恥な悪徳設計士・長坂。今回彼が目を付けた物件は「オバケ屋敷」と名高い教会で、しかし本人はそういった噂を知っていて敢えて購入し、なおかつ仙龍とかかわりの深い春菜を使ってお祓いの費用までチョロまかそうと考えていたふしもあり、ここまで悪どいのかと春菜でなくても苛立ちがとまらない。しかもその「オバケ屋敷」は「本物」、しかもかなり質の悪いものだったから洒落にならない。図らずも仙龍が関わってきたことで、結局春菜もがっつり関わらざるを得なくなってしまうという展開に。

今回はいつもと違い、人間ではなく悪魔の仕業であるということで、仙龍の「曳き屋」としての仕事も少し違っているのがなんとも興味深い。これまで春菜や仙龍が関わってきた過去の事件で起きたことが一助になっていたり、他の同僚に指摘されていたように春菜がいい意味で「変わって」きたということもあったりと、救いになる場面もあった。しかし少し前から見えるようになっていた仙龍に絡みつく「鎖」は、その存在感をいや増している。次巻では隠温羅流の抱える「因縁」が明かされるというのだが、そこに解決の糸口は果たして見つかるのだろうか。


◇前巻→「魍魎桜 よろず建物因縁帳」


新人警官の堀北恵平は刑事課鑑識係での研修中、東京駅近くのラブホテルで起きた事件に駆り出されることになる。殺されたのはAV女優で、撮影現場だった部屋に残されていた遺体からは一部が切り取られて持ち去られていた。凄惨な現場に衝撃を受けながらも、恵平は鑑識係の一員として事件に当たることになるが、たった3人の撮影スタッフは容疑から外れ、ほとんど手掛かりがない状態。しかもそんな中、同じ手口の事件が新たに発生し……。

新人警官・堀北恵平(という名前だが女性)が、都内で起きた猟奇殺人事件に挑む警察小説シリーズ第2弾。

新米、しかも研修中の身ということで、すべてが勉強という状態の恵平。しかし実際に起きる事件はそんな彼女を待ってくれるわけもなく、様々な遺体と向き合う中で、恵平は少しずつ、しかし確実に、警察官としての決意と覚悟を固めていくことになる。そんな彼女が今回挑むのは、ふたりの女性が殺害後に身体の一部を切り取られているという事件。性を売り物にしていたというひとりめの被害女性へつい偏見を持ってしまうことに悩みながらも、周囲の男性警官たちが気付かないことやおざなりにしていることにも、同じ女性としてひとつずつ向き合っていく姿がなんとも心強い。

どうしても前シリーズの比奈子と似てしまう部分はあるが、大きく違うのは彼女がまだ新米であり、本人もそのことを強く自覚しているということ。自分の誤った考え方をひとつずつ見直し、できることとできないことを見極めようとする恵平は、きっといい警官になることだろう。

しかし今回もわからなかったのは例の「うら交番」のこと。東京駅に住み着いているホームレスのメリーさんが実際にうら交番を利用していたことや、他の先輩警官たちも幻の「うら交番」の存在を知っているなど、ますます謎が深まるばかり。


◇前巻→「MASK 東京おもてうら交番・堀北恵平」


東京駅のコインロッカーで少年の遺体が発見された。被害者は全裸で、不気味な面をかぶせられた状態で白木の箱に詰められていた。しかも現場となったロッカー周辺は工事中で、一般人の立ち入りは不可能だった。東京駅おもて交番にて研修中の新米警察官・堀北恵平もまた、捜査に駆り出されることとなる。先輩刑事に付いて、面の正体と出所を探すことになった恵平。そんな中、見覚えのない地下通路に迷い込んだ恵平は、落とし物を発見。近くにあった古びた交番に届けがてら、恵平は応対してくれた老警官・柏村と話し込んでしまう。恵平が先日の事件のことを話すと、柏村は以前にも似たような猟奇事件――少年の遺体が水槽に押し込められ、床下に隠されていた事件――について語り始め……。

先日本編が完結した「猟奇犯罪捜査官・藤堂比奈子」シリーズ作者の新作はまたしても警察小説。堀北恵平(ほりきた・けっぺい)という男のような名前の新米女性警官が、奇妙な殺人事件を追っていくというストーリーとなっている。

……というと前シリーズと同じような気がするが、本シリーズで鍵となるのは、タイトルにもある「東京駅おもてうら交番」。恵平が勤務しているのは「おもて交番」だが、時折、彼女は「うら交番」という古びた交番に迷い込んでしまう。そこで老警官・柏村と会話をする中で、捜査のヒントを得ることも。しかしいつでも簡単に行けるわけではないようで、どんなタイミングで辿りつけるのかは今のところ謎。ラストで一緒に迷い込んだ先輩刑事の平野が示した「資料」は一体何を意味するのか――なぜ恵平は「うら交番」に行くことができるのかという部分がこの先明かされるのか、気になるところ。

ちなみに、なぜ彼女の名前が「恵平」というのかは、その名前を付けた祖父が他界しているため、本人も知らないとのこと。そのあたりが、いずれ「うら交番」の存在に絡めて判明したりということはないだろうか……とちょっと期待したりもして。


決算期を迎え、売上不足に悩む春菜のもとに仙龍からの連絡が入る。彼女のサニワとしての能力を頼った個人的な依頼ということだったが、そのさなかで春菜は、仙龍の足元に絡みつく鎖のような影を目にしてしまう。さらにそんなふたりにもたらされたのは、怪我で入院してしまった小林教授からの依頼。ある土地でミイラ化した人柱が発見されたのだが、その直後から周辺に老婆の霊が現れるという怪奇現象が発生しているのだという。調査に赴いたふたりも現場で老婆の霊に遭遇し……。

人ならざるモノの声を聴く「サニワ」となってしまったキャリアウーマンの春菜と、因縁物件専門の「曳き屋」である仙龍がさまざまな心霊現象に挑むシリーズ5巻。今回は仙龍――隠温羅流の当主にかけられた呪いについての新展開も。

人柱になった僧侶と、土地の人々に取り憑き殺す老婆の幽霊、そして「魂呼び桜」とも呼ばれる枝垂桜の大木――これらにどのような関係があるのか調べる春菜と仙龍だが、一方で春菜の方にはもうひとつ、仙龍に関わる悩みがあった――それは彼女が視た、仙龍に絡みつく黒い鎖のことだった。これが「隠温羅流の導師は厄年で死ぬ」という呪いの可視化ではないかと考えた春菜は、ようやく彼にかけられた呪いがすぐそばまで迫っているということを肌身をもって実感することとなる。しかし、それが見えたからといって、どうにかすることができるのか、と苦悩することにもなるのだ。

はからずも今回の事件の中で、死してもなお相手に強い想いを残す姫と同調することになった春菜。これまでも仙龍にほのかな想いをよせつつも、どこかで見て見ないふりをしようとしていた春菜だったが、ここでようやく自分の本当の気持ちにきちんと向き合えたのかもしれない。そしてもうひとつ、なし崩し的に受け入れていた「サニワ」という性質のこととも。歴代の導師やサニワがなしえなかったことを、本人も言っていたように、彼女ならできるのかもしれない。彼女の決意からそんな希望が見えてきた。


◇前巻→「犬神の杜 よろず建物因縁帳」




数々の猟奇犯罪を起こし、今もなお人体改造やテロをもくろんでいる秘密組織「スヴェート」。そのリーダーであるミシェルは「スイッチを押す者」である保を狙っているが、まだ彼の居場所を掴めていないことが判明。比奈子たちは保だけでなく、ミシェルのクローン体である永久を匿い、さらにセンターで保存されている佐藤都夜の脳を破壊するという困難なミッションに立ち向かうことに。一方その頃、センターの研究者・スサナのもとにミシェルが現れる。彼の目論見に恐怖と嫌悪を抱いたスサナは、彼の正体の手掛かりとなる物品を秘密裏に死神女史に預けるが……。

猟奇犯罪に立ち向かう特殊チームの活躍を描く警察小説シリーズ、本編10巻にして最終巻。

次から次へと暴かれる「スヴェート」――ミシェルの犯行とその残忍すぎるやり口。読んでいて恐ろしさと同時に怒りすら覚えてくるが、そんな読者の想いを比奈子は代弁し、果敢に捜査に踏み込んでいく。手加減や遠慮というものを知らないミシェルの手管に、理性のある人間として立ち向かうのは困難ではあるが、そこは仲間たちの支えと協力で、何度もピンチに遭いながらもミシェルを追い詰めることになる。

しかしそんな中で比奈子を襲ったのは、あまりにもやりきれない結末だった。彼女の行為は仕方ないことだったし、やるべきことではあった。けれどそれを簡単に受け止めることは、比奈子にはどうしてもできなかったのだ――どれだけ残忍な犯罪者だとしても、相手は同じ「人間」であるはずなのだから。善悪の狭間で叫ぶ比奈子に、永久がかけた無邪気な言葉はいっそうよく刺さる。しかし逆に、その痛みこそが彼女をこちら側に引き留めたのかもしれない。と同時に、その言葉はいつか、永久自身にも刺さってゆくことであり、それは保が懸念し続けていることでもある。事件は解決したけれど、問題が解決したわけではない――現実はまだ続く。その中でもがきながらも、自分の生きていく道を見出していく比奈子の姿がとても眩しく映った。


◇前巻→ 「COPY 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」


友人のカスミに頼まれ、秋葉原でロリィタパブのティッシュ配りのバイトをしたあかね。しかしその直後、本来ならカスミと一緒にそのバイトをするはずだった河野という女性が他殺死体で発見される。ベビードールを身に付け、神田川に沈められていた河野の遺体からは、なぜか髪の毛が剃り取られていたのだった。一方、フロイト教授の「夢科学研究所」では、寝具メーカーの依頼で「吉夢を見る枕」を使った実験が始まることに。スポンサーがいるということで張り切る3人だったが、被験者のひとり・塚田翠が悪夢にうなされ、その影響なのか他の被験者までもが悪夢を見たという結果が出てしまう。スポンサーとなっている会社の社長令嬢である翠は睡眠障害を患っており、その解決も今回の依頼の中に含まれているということで、3人は翠が見ている悪夢についての調査を並行して始める。時を同じくして、河野の事件によく似た未解決の殺人事件が、過去にもいくつか起きていることが判明。カスミのことが心配なあかねは、フロイトやヲタ森の力を借りながら、こちらについても調査を進めるが……。

「人を殺す悪夢」の存在を追うフロイトこと風路亥人教授と、その助手たちが、「夢」にまつわる事件を解決してゆくミステリシリーズ第2弾。

今回は「てるてる坊主殺人事件」と呼ばれる、女性を殺しその髪や衣服を奪う未解決事件の真相と、睡眠障害に陥ってしまった女性が見ている悪夢の原因を同時に探ることになったあかねたち。まったく関係なさそうなふたつの謎がいつの間にか繋がり、真相が見えてくるという展開にははらはらさせられる。と同時に、犯人の狙いにも。

そんな不穏すぎる展開とは裏腹に、あかねたちの日常は相変わらずのゆるさ(笑)。特にヲタ森とあかねのかけあいはますます面白い関係になっているが、なんだかんだいってヲタ森もあかねをかわいがっている様子が見て取れるのがいい。とはいえその一方で、フロイトが追っている「人を殺す悪夢」については相変わらずよくわからないまま。特に今回、翠が見ていた悪夢も、それとはまったく関係のなさそうな感じ。しかしヲタ森が言っていた、「フロイトの両親が悪夢によって殺されたらしい」というのはいったいどういうことなのだろうか。そのあたりもますます気になるところ。


◇前巻→「夢探偵フロイト−マッド・モラン連続死事件−」


ある事件がきっかけとなり結婚することになった駆け出し刑事の厚田巌夫と検死官助手の石上妙子。殺人犯となったジョージの子供を妊娠している妙子を気遣いつつも、自身がその子の「父親」になるということに対して距離感を抱かずにはいられない巌夫だったが、その矢先に警察官一家が惨殺されるという事件が起きる。犯人は一家4人の心臓をくりぬいて遺体と一緒に並べ、さらには遺体から抜いた血液で魔法円のようなものを描いたうえで現場を立ち去っていた。その凄惨な現場を目の当たりにした巌夫は犯人逮捕に全力を注ぐが、そのさなか、臨月の妙子が倒れたという知らせが入り……。

「猟奇犯罪捜査班 藤堂比奈子」シリーズのスピンオフ第2弾は、第1弾「パンドラ」のその後のエピソード。加えて、本編最新作「COPY」でも取り沙汰された「魔法円殺人事件」のあらましと、ガンさんと死神女史の結婚生活で何が起きていたのかも描かれてゆく。

殺人事件の方は本編でも言及されていた通り、この時点では解決していないのだが、この事件を通してガンさんと女史の関係の変化が描かれてゆくことになる。ふたりの間にあったのは最初から最後まで事件のことであって、それ以上でもそれ以下でもなかったように思う。事件があったからこそふたりは出会い、結婚することになったのだし、同時に新米である彼らがそれぞれの仕事と真摯に向き合い、そしてそのために離婚するに至ったということがよくわかるのだ。とはいえ、ふたりは嫌い合っているわけではないし、愛情より仕事を取ったというわけではない。むしろ、相手を大切に思っているからこそ、別れるしかなかったのだろう。そしてそれは、現在のふたりの関係からもよくわかる。男女としてだけではなく、ふたりが本当のパートナー、あるいは相棒といった存在に変化してゆくふたり。女史が最後の夜に抱いた想いはどこまでも真実で、おそらく彼女は今でもその想いを抱えているのだろう。


◇前巻→「パンドラ 猟奇犯罪検死官・石上妙子」


これまで手掛けた現場で起きた奇妙な事件を解決したという実績(?)を買われ、春菜は橘高組という土木工事専門の会社から調査依頼を申し込まれてしまう。なんでも嘉見帰来山という場所でトンネル工事を行っていたところ、現場事務所に勤める女性事務員が立て続けに不審な死を遂げたのだという。最初は断ろうとした春菜だったが、トンネル付近にポケットパークを作る計画があると聞き、1週間のみという条件でしぶしぶ依頼を受けるのだった。そんな折、コーイチが電話をかけてくる。なんでも仙龍の姉・珠青が春菜にも関係する不吉な夢を見たのだという。さらに現場で春菜が耳にしたのは現場近くの小村が焼失したという過去の事件と、その陰に見え隠れする「犬神」なる存在の祟りのことで……。

霊的存在を引き寄せてしまうOL・春菜と、いわくつきの物件に関係の深い「曳き屋」仙龍が、因縁深い事件に今回も巻き込まれてしまうシリーズ第4弾。今回の標的はタイトルの通り「犬神」。

咬み痕の残る遺体、黒い犬、机やロッカーの裏にひっそりと貼られたお守り、やけに豪華な社食と「ごはんに味噌汁をかけて食べてはいけない」という妙なルール、お祓いの直前に腐った供物、そして村長の一族のみが焼け死んだという謎の火事……これらはすべて「犬神」の存在へと集約していく。そして春菜は現場に足を踏み入れてしまったがために「犬神」のターゲットとなってしまう。これまでの事件は人間の怨念によるものであったが、今回はその怨念によって生み出された、人間とは異なるモノ。ゆえに人間の常識が通じる相手ではないし、がために成仏させるという方法も通用しない。小林先生や仙龍たちが導き出した「犬神」の正体、そしてそのメカニズムであるとか、今回の現場となった山に秘められた意味などは、知れば知るほど凄惨のひとことに尽きる。

そんな中、春菜のツンデレ片想い(?)は相変わらず。珠青の夢の話を聞いて真っ先に電話してきたのが仙龍ではなくコーイチだったことに落胆&憤慨したり、かと思えば出向中の野暮ったい事務服で仙龍の前に出ることを気にしてみたり。今回もまったくといっていいほどふたりの関係は進展していないのだが、ここまでくると逆に仙龍の塩対応(笑)がクセになってきたような気がする。


◇前巻→「憑き御寮 よろず建物因縁帳」

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