phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 月村了衛

黒涙
月村了衛
朝日新聞出版
2016-10-07

組織犯罪対策課に所属しながら、中国黒社会の組織「義水盟」の幹部である沈と兄弟の契りを交わした「黒色分子」である沢渡。そんな彼がこのたび大抜擢されたのは、警視総監の命令で極秘裏に組織された、中国への機密情報漏洩ルートの捜査チームへの出向だった。中国語の能力を買われてのことだと考えていた沢渡だったが、その辣腕ぶりから「一人Gメン75」とあだ名される指揮官・滝口は、最近の沢渡の情報収集能力――実際は沈から流れてくる情報――に目を付けており、沢渡に期待を寄せているのだという。とはいえ、相棒となった公安の広川と共に捜査に当たったものの、沢渡たちの標的はあまりにもクリーンすぎて突破口が見当たらない。そこで沈は恩人の息子だというインドネシア人の青年実業家・ラウタンを呼び寄せる。インドネシアでの開発事業の関係者としてラウタンを送り込み、日本の政財界と中国黒社会との繋がりを洗い出そうというのだ。果たしてラウタンは瞬く間にその交友関係を広げていく。そんな中、彼の前にシンシアと名乗る美女が現れた。彼女が中国お得意のハニートラップ要員であることに気付きながらも、ラウタンは彼女との駆け引きに進んで乗ってゆき……。

中国黒社会との繋がりを持つ警官が、再び国家の闇に潜む陰謀事件を追うことになるシリーズ第2弾。

前巻では沢渡・波多野・沈の警察・ヤクザ・中国黒社会トリオによる活躍(ただし波多野は早々に退場させられたが……)だったが、今回はインドネシア人のイケメン青年実業家・ラウタンが登場。ラウタンが表舞台で情報を集め、それを沈が精査しつつ沢渡に流すという華麗なる連携プレイで、情報漏洩ルートを探りつつ贈賄事件まで摘発!……といけばいいのだが、そんなにも簡単に事が進むはずもなく、最終的には苦々しい結末を迎えることに。

ラウタンとシンシアによる「男女の駆け引き」や、沢渡たち特別チームの面々が所属の垣根を超えて協力し合うさまなど、今巻でも重たい話の中にもハラハラさせられたりすっとしたりするような展開が含まれていたのが唯一の救いか。ただ今回の顛末を経て、沢渡と沈の関係は微妙なものになってしまったのがなんとも残念。沈がまた日本に戻ってきたとして、ふたりの関係が修復されるということはありえるのだろうか。このまま終わってほしくないなあ、というのが正直なところ。


◇前巻→「黒警」

土漠の花 (幻冬舎文庫)
月村 了衛
幻冬舎
2016-08-05

ソマリアの海賊対処行動のためジブチを拠点としていた自衛隊に、墜落したヘリの捜索任務が舞い込んでくる。友永芳彦曹長は11名の隊員と共に現地へと向かうが、乗員はすでに死んでおり、翌日の回収作業のため野営準備に入っていた。そこに現れたのがビヨマール・カダン小氏族の長の娘だという女性・アスキラと、その縁者の女性ふたりだった。敵対していたワーズデーン小氏族に襲われたというアスキラは保護を求めるが、友永たちが逡巡している間に追手まで現れ、攻撃を受けてしまう。アスキラの縁者ふたり、そして隊員5人の犠牲を出しながら、なんとか追手から遠ざかることに成功した友永たち。多数決によりそのままアスキラを保護することを決めた友永たちは、追手から逃げながら、自衛隊の拠点と連絡が取れる場所まで移動しようと試みるが……。

第68回日本推理作家協会賞を受賞した本作は、ソマリアの現地人たちの抗争に巻き込まれた自衛隊員たちによる決死の脱出行を描く長編となっている。

ある日突然銃器を向けられ、いつ死ぬかわからないという極限の状況に置かれるというのは誰も想像できないに違いない――特に私たち日本人にとっては。しかし友永たち自衛隊員の前に現れたアスキラや、彼女を追うワーズデーン小氏族の人々にとってはおそらく日常茶飯事で、そこにためらいというものは存在しない。なぜなら彼らも常に死の危険にさらされているから。そうやって彼らの生きている「世界」の違いが無造作に目の前に置かれているような、そんなイメージ。しかしこれが現実に起きないとは決して言いきれない。そんな息苦しささえ感じられる展開。だからその結末にはやりきれなさも残るけれど、彼らが守ったものは確かに存在していて、誰かの心の中に残り続けていく。そんな救いも残されているラストが印象的だった。

黒警 (朝日文庫)
月村了衛
朝日新聞出版
2016-06-07

組織犯罪対策部に所属している沢渡がこのたび参加することになったのは、生活安全課との共同体制で行われる、偽ブランド商品の摘発捜査だった。しかも沢渡の班が担当することになったのは、人気アニメ「らくがきペンちゃん」の偽グッズ。それだけでもやる気がそがれる中、沢渡は知り合いのヤクザ・波多野に出くわしてしまう。かつて出来心で飲酒運転をした上、何者かに追われている女性を無視して逃げた沢渡。その後女性が殺されたうえ、逃げる姿を波多野に見られていたため、沢渡は波多野に対して強く出られないのだった。そんな波多野に誘われ、尋ねられたのは「ペンママ」という何かについて。「ペンちゃん」の偽グッズに義水盟という中国人組織が関わっているという話を聞いていた沢渡だったが、波多野曰く、その義水盟が隠し持っている「ペンママ」なるものを、波多野の組の上位組織や、中国人の裏組織「天老会」が追っているのだという。心当たりがないながらも「ペンママ」――「ペンちゃん」のママ?――について調べ始める沢渡。そんな折、沢渡は義水盟のメンバーと思われる男・沈の情報を掴むことに成功。波多野のネットワークを頼りに沈の行方を追おうとした沢渡だったが、そんなふたりの前に沈が「ペンママ」と共に現れて……。

やる気のない普通の警察官・沢渡が、ひょんなことから裏社会の人間とバディを組むことになる、掟破りの警察小説第1弾。

警官とヤクザが協力し合って中国人が売りさばく偽グッズを追うことに!?……とか思っていたら中盤から予想もしない方向へ転がり出す本作。中国人裏社会の抗争、その中でも一線を画する集団「義水盟」の存在、そして「ペンママ」とは――という謎が提示されたかと思えば思いのほか簡単に解決する(しかもわりと勧善懲悪的な展開)ので、タイトルほどにはあまり重苦しくなくさらっと読めるし、読後感もすっきりめ。沢渡にしても波多野にしても、そして最初は超人然として登場した沈までも、実はわりと普通の人で、自分の決断や行動に悩みながらもあがいているというそのスタンスにも親しみがわきやすいのかもしれない。どうやら同じコンビが登場する作品がもうひとつあるようなのでまた読んでみたい。


経済産業省が中国黒社会とも強い関係があるフォン・コーポレーションと手を組み進めている、新世代量子情報通信ネットワーク開発事業「クイアコン」。これに関わる人物が立て続けに殺されていることに気付いた警察は、殺人を担当する捜査一課、知能型犯罪を担当する捜査二課、そして特捜部の合同体制で捜査に当たるが、現時点で判明している被害者たちの立場や肩書には共通点がなく、犯人がどのような目的で対象を選別しているのかがわからない。しかも調査を進めるにつれ、公的機関を含めて様々な組織がこの事業に関わっているためにその全貌を解明することすら容易ではなく、なおかつ「上」の方から次第に圧力がかかるようになっていた。そんな中、これまでの被害者に、バチカンで土産物として売られている歴代教皇のカードが送り付けられていることが判明。さらに殺害時の手口から、犯人が「狼眼殺手」と呼ばれる元IRFの処刑人、〈銀狼〉エンダ・オフィーニーであることがわかる。しかし彼女は、技術主任の鈴石がかつて遭遇し家族を失った大規模テロの実行犯であり、その際に巻き添えで死んだはずで……。

SF警察小説シリーズ第6弾。今回は機甲兵装や龍騎兵は登場しないのだが、日本という国そのものを揺るがしかねない大規模な疑獄事件を特捜部の面々が追うという、これまで以上に緊迫した展開に。

今回の敵は公的事業を隠れ蓑にしながら私腹を肥やし、しかしこれまで手を出せなかったフィクサーや政治家たち――ということもあり、これまでの対立を(表向きは)水に流して協力しあう面々。けれど相手が相手ということもあり、捜査すればするほど袋小路に迷い込んでしまって出口だけでなく入口すら見当たらなくなってしまった……という事態に陥ることに。さらに目的も何もわからない凄腕の殺し屋も相手ということで、まさに手探りとしか言いようのない状況。警察内外からのプレッシャーは半端ではなく、なおかつ特捜部にはエンダと因縁のあるライザを抱えてるわ、城木理事官はスパイになるよう誘われていて逡巡してるわで、まさに地雷原の真っただ中といった具合。帯に「追いつめられた沖津特捜部長は〜」という文言があって、読む前は「沖津さんが窮地?そんなことあるわけないでしょ……」と半信半疑だったのだが、実際は追い詰められるどころかこのままでは特捜部の存続自体が危うくなるのではという展開には、胃が痛くなるような気さえしてきた。

しかし今回の案件で、特捜部の面々の意識も前より確実に変わりつつあった。その中でも最たるものが夏川・由起谷の捜査主任コンビと、鈴石、そしてライザ。夏川と由起谷は、これまでは仲間とはいえ「部外者」とみなしていた3人の部付警部たちを認めつつある。鈴石は窮地をライザに救われ、かつ自分もライザの窮地を救ったこと、さらにライザが亡き父の著作を読んでいたこともあり、彼女に対する気持ちが大きく揺らぎ始めていた。そしてライザは鈴石の父親の著作を読んだことで、キリアンやエンダとの違いと自分の変化――あれだけ嫌悪していた「警察官」に自分がなりつつあること――に気付き始めていた。前巻の「化生」でも示唆された、龍騎兵の根幹を成す「龍骨−龍髭システム」の研究が予想以上に進んでいるという暗澹たる事実、そして「クイアコン」を止められないという現実の中で、わずかではあるが救いとなるエピソードだと思った。


◇前巻→「機龍警察 火宅」


高輪署に所属していた頃の上司・高木の家を訪れた由起谷。かつては万年巡査部長と呼ばれていた高木だったが、由起谷が彼の下に就いたその半年後から、異例とも言えるほどの出世を遂げていた。しかし刑事部捜査一課の管理官に着任した矢先に病に倒れたのだという。特捜部に入ったにも関わらず、以前のように分け隔てない態度で接してくれる高木に尊敬の念を抱いていた由起谷だったが、そこに同じく高木の部下である山倉と浅井が見舞いにやって来る。山倉は高木がかつて関わった未解決事件――当時の管理官が重要な物証を無くしたという噂があった――について話し始める。やがて高木の家を辞した由起谷だったが、不意にあることに気付いて引き返し……。(「火宅」)

SF警察小説シリーズ第5弾は、シリーズ初の短編集。2010〜2014年に様々な媒体に発表された短編8本が収録されている。とはいえ作者によればこれらは番外編ではなく、本編エピソードとして位置づけられるとのこと。

表題作の「火宅」は、捜査主任である由起谷がある事件の真相にたどり着くミステリ仕立ての短編。他にも特捜部の活躍を描く「焼相」「輪廻」、ライザと沖津の出会いを描く「済度」、ユーリが民警時代の未解決事件をヒントに現在の事件を解決する「雪娘」、由起谷の下関時代(地元でも有名な不良だったらしい)を描く「沙弥」、宮近理事官の忙しすぎる日々を描く「勤行」、そして珍しく沖津が強引な捜査に踏み切るという緊迫した展開を見せる「化生」――というように、バラエティに富んだ内容となっている。

いつも通りの話が続いたところで、仕事に追われすぎるせいで妻子にそっぽを向かれそうになる父親・宮近の描写がなんだかコミカルな「勤行」でほっと一息……と思ったのも束の間、ラストの「化生」でまたしても持っていかれる感がある。特捜部が追っていた人物が進めていた研究は、龍騎兵のシステムに限りなく近付いているシロモノだった――つまり実用化・量産化すればさらなる世情の悪化を招くであろう技術が、5年どころかもう目の前まで迫ってきている可能性があるという事実。沖津の焦燥は当然だろうが、やはりここで気になるのはその龍騎兵の出どころ。おそらく沖津は知っているのだろうし、それが彼の正体だとか特捜部設立の目的だとかにも繋がってくるのだろう。〈敵〉の正体や狙いと同じくらい、特捜部の存在そのものが謎めいているという状況には改めて慄然とさせられた。


◇前巻→「機龍警察 未亡旅団」


神奈川県相模原市で不法入国者による自爆テロが発生した。工業製品の闇取引を検挙しようと警察が踏み込み10人の女性たちを逮捕したところ、4人が次々と自爆し、残る6人は混乱に乗じて逃げおおせたのだという。チェチェン共和国で活動する、女性のみで構成された過激派武装組織「黒い未亡人」が本件の首謀者であるとし、特捜部は外事三課との共同で彼女たちの行方を追うことに。しかしはかばかしい調査結果が得られない中、上層部は「黒い未亡人」が拠点にしている可能性の高い工場への突入を命令。龍騎兵を含めた機甲兵装が多数投入されるも、自爆をも厭わない彼女たちのゲリラ戦法になすすべもなく、またしてもリーダー格の3人含むメンバーたちを逃してしまうのだった。そんな中、由起谷は現場で見覚えのある少女を目撃。それは最初の自爆テロの直後、由起谷が不良に絡まれていたところを助けた白人の少女のようで……。

SF警察小説シリーズ第4弾。今回の敵はいわゆる「女子供」、しかも自爆テロを用いるほどに手段を選ばない相手ということで、一筋縄ではいかない展開に。

日本の警察官である面々は言うまでもなく、ライザは実妹を殺してしまったという過去から、そしてユーリもまた元警官ということで、敵の中に年端の行かない子供もいるという事実に衝撃を隠せない。もちろん姿もまた、傭兵時代に少年兵と戦った経験があるとはいえど、それに対してなんとも思わないということはない。会議で「黒い未亡人」のスタンスを知り、実戦でそれを目の当たりにする中で、彼らが動揺し、内心では葛藤しているということがありありと描かれていく。

そんなどうしようもない状況の中で語られていくのは、特捜部の捜査主任である由起谷志郎と、「黒い未亡人」で連絡役を務めていた少女・カティアの出会い、そしてそれぞれの過去。いかに由起谷の過去が荒れ果てたものだったとはいえど、彼の半生とカティアのそれとがまったく同じ重みをもつはずはない。しかしその底に流れているものは同じだったからこそ、カティアは由起谷の言葉に心動かされたのだろう。由起谷との出会いを経て、彼女が最後に選んだ道は、茨の道というような生易しいものではなく、死と隣り合わせの道に他ならない。しかしたとえそれが自己満足にすぎないとしても、彼女がその道を選んだことは、唯一と言っていい救いになると思った。

一方、そんな大事件の裏側で相変わらず暗躍する〈敵〉。城木理事官が実父および政治家である実兄が〈敵〉ではないかと勘づく一方、上層部は城木を特捜部のスパイに仕立てようと接近してくる。これまでは沖津の考え方に賛同していた城木だったが、自分の置かれる立場が変化することでそのあたりはどうなっていくのか。心配事がまた増えた……。


◇前巻→「機龍警察 暗黒市場」


IRFによるテロ未遂事件の後、ユーリ・オズノフは警視庁との契約を解除し、日本国内で武器の密売を行っている旧友・ゾロトフに接触する。機甲兵装の性能を格段に上げる電子部品ICUを携えてゾロトフの信頼を勝ち取り、彼の傘下に入り密売に手を染めるユーリ。そんな中、ロシアン・マフィアが主催するブラックマーケット「ルイナク」に、新型の機甲兵装が出品されるという情報を得る。バイヤーとして招かれたゾロトフに随伴することになったユーリは、その「新型」とやらが「龍騎兵」の同型機ではないかと考えていた。一方、特捜部もまた「ルイナク」における「新型」の情報を入手。潜入捜査を行っていた組織犯罪対策部との共同捜査に踏み切ることになり……。

SF警察小説シリーズ第3弾。今回はロシア人の元民警ユーリの過去と、日本を舞台に繰り広げられる巨大ブラックマーケットの摘発とが描かれていく。

姿、ライザときて、今回は元モスクワ民警ユーリのターン。同じ民警だった父親の背を追うように自身も警察官となり、幸運にも賄賂が横行する警察の在り方とは無縁の部署に所属することになったユーリは、「イワンの誇り高き痩せ犬」として7つの掟を先輩たちから学んでいく。しかし最後のひとつを知る前に、彼は信じていた班長によって人殺しの汚名を着せられ、婚約者にも裏切られ、ロシアにおける犯罪者たちのリーダー的存在「ヴォル」となっていた幼馴染のゾロトフに助けを求めるしかなかった――というこれまた悲惨としか言いようのない過去を抱えるユーリ。最初は「解雇!?」と驚いていたが実はそうではなく、実際は沖津の命により潜入捜査を行っていたということがわかってひと安心したものの、次々と襲い掛かる危機にはらはらさせられっぱなし。姿やライザに比べればユーリは精神的にややもろいところがあるようで、彼の揺れる心情がますます拍車をかける。

それにしても今回の事件は沖津の言う通り、金融・政治・犯罪という複数の観点がないと正体がつかめないものだった。合法性の有無や、購入したものが最終的に何を引き起こすかというのを差し引けば、彼らが行っているのはいわば「買い物」であり「経済活動」に他ならないのだから。そしてそれはゾロトフのような密売人ではなく、やりようによっては単なる民間人でも参入することが可能なもの。複雑化する世界の状況というものを目の当たりにすると、暗澹たる気持ちになってくる。そして〈敵〉の手が警察だけでなく、少なくとも外務省まで及んでいるということも。機甲兵装同士が戦えば、負けた方は高い確率で死に至る。つまり姿たちの出番となった時点で敵を生きて捕らえるというのは難しいし、前巻のように逮捕できたとしても〈敵〉のせいでみすみす失ってしまうこともある。犯人から証言を得られないという点によって進展が見込めない〈敵〉の正体解明。その影響力の大きさだけがどんどん明らかになるばかりという事態を、どうにか止めることはできないのだろうか。


◇前巻→「機龍警察 自爆条項 [完全版](上)(下)」




横浜港にて武器密輸の疑いありとの連絡を受け警察が駆けつけるが、そこに居合わせた少年が警察官ならびに作業員・船員たちを次々と射殺し、最終的には自殺するという事件が起きる。運び込まれたコンテナの中には完成状態の機甲兵装が入っていたという。横浜以外の各地の港でも同様の密輸が発覚したため、沖津は大規模なテロの可能性を考慮し独自調査を命じるが、間もなく「上」から捜査中止命令が下されてしまう。なおも沖津は「哨戒任務」と称して姿たち3人の部付警部に捜査を引き継がせるが、そんな折に外務省から沖津に秘密裏にもたらされたのは、まもなくイギリスの高官サザートンが極秘来日すること、そしてアイルランドのテロ組織IRFの有力メンバー、〈詩人〉キリアン・クインがサザートン暗殺を目論んでいるとの情報だった。時同じくして、自宅に戻ったライザの前に、3人の部下を従えたキリアンが現れる。ライザはかつて〈死神〉と呼ばれていたIRFメンバーにして、キリアン直属の部下だったのだ。キリアンは来日の目的をサザートン暗殺、そしてIRFを出奔したライザの処刑だと告げ……。

近未来SF警察小説シリーズ第2弾。今回は元テロリストである特捜部員ライザ・ラードナーの過去に迫りつつ、新たなテロ事件を未然に防ごうとする特捜部の攻防が描かれていく。

本作のほぼ半分を占めるのが、前述の通りライザの過去のエピソード。ライザ・マクブレイドという本名を持つ彼女が、その血筋のせいでどれだけいわれのない差別を受け、家族を失い、いかにしてIRFに所属した後に出奔したかが克明に描かれていく。ライザの性格や思想が特殊だったわけではない。生い立ちに多少の問題はあったものの、彼女はどこにでもいるごく普通の少女だった。しかし歴史の流れが、周囲の思惑が、彼女を〈死神〉に仕立て上げていく。その結果、彼女はどうしようもない後悔を抱え、それを虚無に変えて自分の精神をすり減らしながら生きていたのだ。

一方で、そんな彼女と対比されるように描かれるのが、技術班の主任である鈴石緑の存在。彼女はかつてIRFが引き起こしたテロ事件で家族を失っており、ゆえに元IRFであるライザを嫌悪している。しかしライザの過去が見えていくにつれ、ふたりはよく似た状況に置かれていることがわかる。キリアンが周到かつ緻密に描いた「詩」に取り込まれながらも、ライザが生還できたのは緑のおかげに他ならない。完全に和解するということはもちろん無理だろうが、わずかでもふたりの距離が縮まればいいのにと祈らざるを得ない。

それにしても今回の事件では、あの沖津部長ですら予測しきれなかった事態が起こり、彼が焦りを見せるという場面も。そしてもたらされた事件の結末はあまりにも苦々しいもので、〈敵〉の巨大さ、底知れなさを裏打ちする結果に。いったい〈敵〉は何者なのだろうか。


◇前巻→「機龍警察 [完全版]」

機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
月村 了衛
早川書房
2017-05-09

深川署管内に突如現れた所属不明の二足歩行型軍用有人兵器「機甲兵装」3機は、急行した警官や周辺の民間人に甚大な被害をもたらしながら逃亡し、地下鉄工事用の縦穴から地下へ侵入、地下鉄に乗っていた多数の乗客を人質にとり立てこもった。事態に当たろうとしていたSATの前に現れたのは警視庁特捜部の部長である沖津旬一郎とその部下たち。しかし警察組織そのものと特捜部とは折り合いが極めて悪く、特捜部の面々はSATの後方支援という任務を押し付けられてしまう。唯一残された侵入ルートから制圧を試みるSATだったが、それこそが立てこもり犯の罠にほかならず、突入した警官たちはあっという間に全滅。直前に罠を見破った元傭兵の特捜部員・姿俊之は、さらなる逃亡を図った犯人のうちのひとりを仕留めることに成功する。姿が殺した相手は、かつて同じ戦場で戦ったことのある中国人傭兵・王富徳だった。事態を重く見た沖津は犯行グループの追跡捜査を命じるが……。

警視庁内に設立されながらも身内であるはずの警官たちから「裏切者」と忌避される特捜課の面々が、正体不明のテロリストに立ち向かってゆくSF警察小説シリーズ第1弾。

警察の内部抗争の隙をついて設立された「特捜部」という部署は、まずトップが警察官ではなく元外務省官僚の沖津だという点から興味を惹かれるのだが、さらに気になるのは「外注」とも揶揄される、多額の報酬と引き換えに契約を結んだ外部の人間3人――元傭兵の姿俊之、元モスクワ民警のユーリ・オズノフ、そして元テロリストのライザ・ラードナーと、彼らが駆る出自不明の最新鋭機甲兵装「龍騎兵」。そんなジョーカーだらけという状況だけでもかなり面白いのだが、今巻では姿の過去を軸に物語が展開され、〈敵〉の狙いが次第に明らかになっていくという流れに。警察より一枚も二枚も上手すぎる〈敵〉の影響は国内に留まるものではなく、なおかつその目的は不明。あらゆる真相が闇の中というような状況下において、他の部署からの妨害や偏見に耐えながらも〈敵〉に敢然と立ち向かう――それは純粋な「正義」のためだけではなかったりもするが――特捜部の面々がとにかくかっこいい。また、通常の機甲兵装に比べるとオーバースペックすぎる「龍騎兵」の出自そのものや、これを駆る3人、さらに彼らを指揮する切れ者過ぎる上司・沖津の存在も気になるので、続きの展開にも期待。

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