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読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 近江泉美


軽井沢での事件を解決した直後、悠貴は美久に対し、一方的に「エメラルドの探偵」としての解雇を告げ、そのまま姿を消す。喫茶エメラルドにももちろん現れないし、真紘も何か知ってはいるようだが、時ヶ瀬家に戻ったということ以外、美久に対しては何も語ろうとはしなかった。理由を知りたい美久は慧星学園に乗り込んで問いただそうとするが、悠貴はすげなく美久を追い返そうとする。そんなタイミングで現れた百々花は、「エメラルドの探偵」への依頼を持ち出してくる。無視を決め込む悠貴に憤慨し、美久は自分が依頼を受けると宣言。さらに、この依頼を解決出来たら、真実を語るよう悠貴に約束させるが……。

悠貴の突然の変節に衝撃を隠せないシリーズ11巻。クライマックス直前ということで、今巻では悠貴にまつわるいくつかの謎が解けつつも、ここにきて最大の謎が現れるという展開に。

前半は百々花が持ち込んできた、他校で起きたタイムカプセル紛失事件の謎を、美久が単独で解くという展開に。悠貴の心変わりに動揺しつつも、なんとかこの事件の解決を糸口にその真意に迫ろうとする美久。しかし事件は解決したものの、その終盤で現れた悠貴の態度は冷酷極まりないもの。美久のことを徹底的に拒絶し、どんな言葉も届かない状態となってしまった悠貴に、美久は絶望を隠せない。しかしそのタイミングで現れたのは聖。彼のおかげで、美久は「悠貴」という最大の謎に挑むことになるのだ。

これまで悠貴の助手として活躍してきた美久だったが、今度は聖を助手に従え、最大の謎に立ち向かう様はなんとも頼もしい。聖だけでなく、過去の依頼人も言っていたのが、「エメラルドの探偵」は悠貴と美久のふたりを指すのだということ。自分を見失っているとしか思えない今の悠貴が、以前の「エメラルドの探偵」に戻るには、美久の存在が不可欠。以前、悠貴に電話をかけてきた「稀早」の正体も判明し、不安要素はどんどん増えていくが、けれど美久ならきっとなんとかしてくれると、そう信じたい。


◇前巻→「オーダーは探偵に 謎解きいざなう舶来の招待状」


喫茶店「エメラルド」に再びダニエルがやってきた。私用で悠貴の実父・時ヶ瀬に相談をしたところ、悠貴を家に連れ戻すことを交換条件として出されたというダニエルは、悠貴に謎解き勝負を仕掛けに来たのだ。はらはらする美久を尻目に、悠貴はあっさり承諾。かくして美久は悠貴と共に、謎解きの舞台である軽井沢へと向かうことに。今回の「謎」はダニエルの知人である雨宮からの依頼で、雨宮の祖父が戦時中に助けた米兵からもらったという「宝物」とはなにか――そもそもそんなものは存在するのか否か、というもので……。

シリーズ10巻は初の旅行編。6巻に登場した「ダニエル」ことウィリアム・ダニエル・グッドフェロー君が再登場し、まさかの勝負を吹っ掛けてくるという展開に。

同行していた真紘を助手として調査に乗り出しつつも、時同じくして軽井沢で開催されていたイベントに参加するなど、どこか余裕を見せるダニエル。そんな彼を横目に、悠貴は美久と共に雨宮の祖父の遺品から推測を積み重ねていく。さらにはそのイベントで窃盗事件が連発していたのだが、最終的には「宝物」の謎解きだけでなく、その事件の犯人まであっさり当ててしまうのだから、いつものことながらその推理の鮮やかさには脱帽するしかない。美久でなくとも「すごい―――!」としか言えなくなってしまう。

そんな中で気になるのはやはり悠貴と美久の距離感。前回の事件の影響で火が怖くなってしまった美久はそれを隠そうとするが、そんな彼女の態度にもあっさり気付く悠貴(まあ美久の場合、こういうのを隠すのが下手だからというのもあるだろうが……)。それ以外にも美久の大切さに気付くモノローグがいつもより多めで、ふたりの距離が確実に縮まっているということがよくわかる。だからそれゆえに、ラストでの悠貴の選択の理由がわからない。大切なものを守りたいと思ったからこその決断なのかもしれないが、だとしたらいったい、今の彼に何が起きているのだろうか。そういえば例の「稀早」の電話の件もまだわからずじまいのようだし……。


◇前巻→「オーダーは探偵に セピア色の謎解きはビスケットと忘れじの記憶」


かつて雛田稀早を死に追いやるきっかけをつくり、今でも学生たちに「コハクのお守り」を流していると目される人物「わかば」。悠貴と聖がそれぞれその正体を追う中、美久は悠貴の代わりに「エメラルドの探偵」として人探しの依頼を受け、その調査を始める。探す相手はかつての事件で知り合った女子高生・堂前カナだが、彼女はおそらく「コハクのお守り」の売人か、そのふりをしていた聖を探しているはずだった。しかしそのさなか、悠貴が戻ってこず、連絡も取れない状態であることが発覚する。一方その頃、調査中に何者かに殴り倒され、拉致監禁されていた悠貴。犯人たちの発言から、自分を拉致した4人組は「わかば」に雇われただけであり、「わかば」の指示で何らかの後始末をしているところに悠貴が居合わせてしまっただけということが判明する。「わかば」に近づくチャンスということで脱出の機会をうかがう悠貴だったが、4人組と「わかば」のやりとりの中に、なぜか美久の名前が挙がっていることに気付き……。

悠貴と聖の過去にも関わる事件を追うシリーズ9巻、解決編。

悠貴が捕まった!と思ってたら今度は美久も捕まった!ということで、単独行動の結果、交互にピンチに陥るふたり。「わかば」なる存在は巧妙かつ狡猾に立ち回り、関わる人々を罠にかけてゆく。その中で描かれるのは、稀早の死以来、悠貴と聖が抱え続けてきたどうしようもない後悔。こどもだから力が足りないなんて、そんなのはふたりにとって慰めでもなければ言い訳にすらならない事実。だからこそ、ふたりがそれぞれ考えた結果、これまでの道を歩んできたということがよくわかる。そして悠貴にとって、今や美久はかつての稀早と同じくらい大切な存在になっているということも。

事件が解決してようやくエメラルドに帰り着いた悠貴が美久に対してこぼした言葉は、きっとまぎれもない真実。しかしそれを茶化すことなくストレートに伝えてくれたという事実が、悠貴の肩の荷がひとつ下りた証拠、あるいは美久への想いを認めた証拠と言えるのかもしれない。そんなふたりが今後どうなってゆくのか非常に楽しみ……ではあるのだが、最後の最後で事件が終わっていない可能性が示唆される。悠貴に電話をかけてきた「稀早」はいったい何者なのだろうか。


◇前巻→「オーダーは探偵に コーヒーに溶けるセピア色の謎解き」


悠貴のことをもっと知りたいと告げる美久に対して語られるのは、悠貴が持ち続けている契約切れの携帯電話にまつわる、彼の過去のことだった。とある寮に入れられた小学生の悠貴が出会ったふたりの友人――花見堂聖と雛田稀早との楽しかった日々と、3人の運命を大きく分けたある事件のこと。一方、悠貴は先日出くわした「頭の良くなる薬」が、今は「コハクのお守り」と名前を変えて出回り始めていることを知り、独自に調査を始める。実はこの薬は、かつては「天使の繭」と呼ばれており、その薬がもとで稀早は死んだのだという。心配した美久は調査に同行するが、同じ頃、聖もこの情報を掴んでいたようで……。

シリーズ8巻、ついに悠貴の過去に迫る展開に。

美久がちょっとおバカすぎる(褒め言葉……たぶん)のを差し引いても、舌を巻くしかないほどに頭脳明晰すぎる高校生・悠貴。いまは「エメラルドの探偵」として活躍している彼にも、しかし唯一解決できていない事件があるという。それがかつては「天使の繭」、いまは「コハクのお守り」として中高生たちの間に出回っている危険ドラッグの黒幕を暴くことだった。「コハクのお守り」の流通経路を探っていく現在パートと交互に語られるのは、複雑な家庭環境ゆえに孤独をかこっていた悠貴が、実父に入れられた寮で聖と稀早に出会い成長してゆく姿、そしてそんな無二の親友ふたりを失ってしまうまでの過去のできごと。

過去パートでの3人の関係(同い年の悠貴と聖がすぐ張り合って喧嘩し、それを2歳年上の稀早が姉よろしく仲裁するという流れ)だけが救いだが、それ以外はなんともやりきれない展開が続く。特に稀早を襲ったできごとは、今のところなぜそうなったのかまったくわからない状況。なぜ彼女が罠にハメられたのか、そして殺されることになってしまったのか――現在パートでは悠貴の執念により有力な人物の手掛かりが得られたが、当人はすでに亡くなっており、ますますなぜなのかわからぬまま。しかもたまたま美久と別行動をしていたばっかりに、悠貴まで大変な目に遭ったところで……つ、続く!? ということで、もうすでに次巻が待ち遠しい。


◇前巻→「オーダーは探偵に 謎解きだらけのテーマパーク」

オーダーは探偵に 謎解きだらけのテーマパーク (メディアワークス文庫)
近江泉美
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
2016-04-23

イギリス人留学生ダニエルことウィリアム・グッドフェローが起こした騒動の余韻冷めやらぬ喫茶エメラルド。そこにやってきたのは、かつてエメラルドに空き巣を目論んだ女性・大原翠子だった。しかし今回の彼女の来訪理由は探偵である悠貴への依頼のためだという。なんでも国内有数の人気テーマパーク「ドリームキングダム」で最近オバケ騒動が持ち上がっているうえ、一時は公式サイトがジャックされ、ハロウィンの日になにか事件を起こそうとしているような文面が表示されていたというのだ。ドリームキングダムをこよなく愛する翠子は、悠貴にこれらの解決を依頼するが、悠貴はあっさりと却下。しかし翠子を放っておけない美久は、かつて慧星学園の学祭でもらった悠貴との1日デート券の行使を宣言。ハロウィン当日に悠貴を連れ、ドリームキングダムへと向かうことになり……。

シリーズ7巻は喫茶店を飛び出しての遊園地編。ついに「悠貴と1日デート券」が使われる時が……!

翠子からの依頼は直接突っぱねたものの、テーマパークでは運営会社の副会長(悠貴の知り合いらしい……交友関係がますます謎である)から正式にこのたびの騒動、そしてふたりが居合わせた謎解きイベントでのトラブル解決を依頼され、悠貴は結局、間接的に翠子の依頼を受けるという結果に。美久を連れて調査を進めてゆくうちに、このテーマパークでかつて起きた盗難事件をも暴いていくという流れは、突然スケールが大きくなりすぎてはいるが面白い。で、その合間合間で嫌味を言いつつも美久のことを気遣ったり、文句を言いつつも付き合ったりというツンデレ対応はいつも通り。特にデート券にまつわる終盤でのやり取りはもう何と言っていいか。しかしその一方で、美久はある決断をすることになる。

とある目的のためにわざわざテーマパークにやってきたのは、なんとあの聖。巧みに悠貴を遠ざけ美久とふたりきりになった聖は、その中で自分の過去について少し話すのだが、そこで聖と悠貴の関係も明らかになるのだ。まあこれだけでもこちらはびっくりしたのだが、美久はこれからも悠貴との関係を続けていく中で、彼の過去に向き合うことを決める――つまり誰かから断片的に聞くのではなく、自分の意志で、悠貴に尋ねようとするのだ。きっとここからふたりの関係は変わっていくことになるのだろう。次巻で美久の問いに悠貴がどんな反応を示すのか、今から気になって仕方ない。


◇前巻→「オーダーは探偵に 謎解きは舶来のスイーツと」

オーダーは探偵に 謎解きは舶来のスイーツと (メディアワークス文庫)
近江泉美
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
2015-09-24

買い物に出かけたその帰り道、美久は喫茶エメラルドを探しているという外国人の青年に出会う。実はこの青年、悠貴の通う高校にやってきた交換留学生のダニエル。ホームステイ先から無断で逃げ出し、朝から教師たちと共に悠貴が探しまわっていた相手なのだという。ステイ先とうまくいかずに困っているというダニエルを美久と真紘が説得した結果、なぜかダニエルは悠貴たちの家に居候しながら、エメラルドでもウエイターとして働くことになったのだった。そんな折、「エメラルドの探偵」を訪ねて、麻由と名乗る女子中学生がやってくる。麻由は病気で倒れた大伯母のために、彼女が若かりし頃に書いたものの、出せずに持ち続けていた手紙の相手を探してほしいと依頼してきて……。

シリーズ6巻は新キャラ登場。ひょんなことからエメラルドにやってきた外国人留学生・ダニエルを交えて事件を解決したり、かと思えば彼が幼い頃から抱えていた謎を解いてあげたりといった展開に。

今回の依頼らしい依頼は、女子中学生・麻由の大伯母の想い人をめぐるエピソードのみ。あとは美久が詐欺に引っ掛かりそうになる話だとか、寝込んだ悠貴を美久が介抱する話だとか。この2編はとにかくこのふたりの微妙な関係がこれでもかというくらい前面に押し出されてて、ということはつまり悠貴のツンデレっぷりが十二分に発揮される話でもあるわけで、読んでいるとなんというか頬が緩みっぱなしになってしまう(笑)。

しかしそんなハートフルすぎるエピソード(笑)の裏側で進行していたのが、今回登場したダニエルのこと。最初は誰にでも気さくで明るい対応を見せていたダニエルだが、なぜか美久の振る舞いや言葉にだんだん苛立ち始める様子が見えてくる。そんなダニエルの態度に隠されていたのは、かつてダニエルが母親に捨てられたという過去の傷だった。しかしここで活躍するのはやはり「エメラルドの探偵」悠貴。ダニエルの誤解を解き、美久とも仲直りさせることができてめでたしめでたし……で済めば良かったのだが、そうはいかないのが今巻。最後の最後で不穏な情報が明かされることになる。正直「あれっ、聖のことは……」という疑問が頭をよぎったりもしたが、まあそれはそれとして。悠貴の過去にはまだまだなにかしらあるようなので(今回のは真紘にも関わってきそうではあるが)、これはかなり次巻が待ち遠しい。


◇前巻→「オーダーは探偵に 季節限定、秘密ほのめくビターな謎解き」

オーダーは探偵に 季節限定、秘密ほのめくビターな謎解き (メディアワークス文庫)オーダーは探偵に 季節限定、秘密ほのめくビターな謎解き (メディアワークス文庫)
近江泉美

KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 2015-03-25
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文化祭も終わり、喫茶店「エメラルド」へと帰って来た美久と悠貴の前に現れたのは聖だった。ふたりが不在だったその日、なぜか聖は喫茶店で真紘の手伝いをしていたという。互いに相手への憎悪をあらわにしつつ、聖はそのまま店を後にする。しかしその翌日、エメラルドへと向かう美久の前に再び聖が現れる。手伝いを頼みたいという聖に警戒する美久だったが、悠貴のため、今後エメラルドに近寄らないことを条件にその依頼をのむことに。すると聖はなぜか美久にアクセサリーを買い与えたり、一緒にポップコーンを食べたりと、まるでデートのような行動に出る。そんな聖に振り回されていた美久だったが、そのさなかに引き会わされたのは「エメラルドの探偵」に依頼したいという青年・陽太。美久はなぜか「エメラルドの探偵」として陽太の依頼を受けさせられてしまい……。

シリーズ5巻は2パートに分かれての展開。
前半は慧星学園文化祭の当日、文化祭に向かおうとした真紘が、「エメラルドの探偵」を
尋ねてやってきたふたりの相手をするはめになる「ハニートースト」、そして後半はその翌日、悠貴となにかしら因縁のある相手・聖が持ち込んだ事件を悠貴と美久が解決してゆく「ラスティネイル」の2本立てということで。

どちらのエピソードにも、悠貴と過去に何らかの因縁を抱えている青年・花見堂聖が登場。以前登場した際(3巻)には美久を誘拐するわ、悠貴と顔を合わせれば一触即発・険悪ムードになるわで、チャラい外見とは裏腹に、何かしら問題のある人物。そんな聖が今回、美久を連れまわしたあげく「エメラルドの探偵」に助けを求める青年を連れてきたということで、やっぱりなにかと裏がありそうな展開に。しかし悠貴と美久が事件の核心に迫るにつれ、聖が美久を引っ張り出した理由と、その目的が見えてくる――それは彼がドラッグを扱う者を憎んでおり、その悪事を暴こうとしているということ。結局今回も悠貴との因縁は明らかにされなかったが、このあたりになにかヒントがあるのかもしれない。


◇前巻→「オーダーは探偵に 謎解き満ちるティーパーティー」

雨ときどき、編集者 (メディアワークス文庫)雨ときどき、編集者 (メディアワークス文庫)
近江泉美

KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 2015-01-24
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仙葉書房で文芸編集者をしている真壁のもとに、ある日1通の手紙が舞い込んだ。それは1年前、28歳の若さで急逝した担当作家・樫木からの手紙だった。ドイツ人のハーフであった樫木が遺した半自伝的小説「君を包む雨」を、生き別れの父に届けてほしい――そんな樫木の遺言を叶えるべく、真壁は権利関係の窓口となっているライツ部の女性社員・菊沢に事情を説明し、樫木作品のドイツでの出版を持ちかける。しかしデータ重視・売上重視という姿勢で有名な菊沢は真壁の提案をばっさり拒否するのだった。諦められない真壁は個人的に海外出版の方策を考え始めるが、出版ルートだけでなく、そもそもドイツ語に翻訳するための翻訳家の確保という問題もあり、あっさりと行き詰ってしまう。相談に乗ってくれた友人の涼は、翻訳者を育てるしかないのでは、と提案してくるが……。

「オーダーは探偵に」シリーズの作者の新作は、熱血漢な編集者が担当作の海外出版に向け東奔西走するという物語。

人気作家である樫木の、映像化もされヒットした作品「君を包む雨」。その知名度があれば海外出版もそうむずかしいことではないだろう、と考えていたふしのある真壁だが、菊沢の正論のみならず、自身で調べた日本の文芸作品の海外での出版状況、そして日本語の作品を、内容をきちんと汲み取ってもらうこと前提で翻訳することの難しさを痛感することになる。確かに日本でも海外小説の翻訳版はそれなりに出版されているが、それだって限られた作家・作品のみだということは分かるから、逆となるとこれまた厳しい状況なんだろうというのは想像に難くなかったが、まさかここまでとは……と真壁同様こちらも驚かされる。いわんや翻訳をや。というわけで、海外出版以前の問題として、作品を訳してくれる人物探しがこれまた大変。しかもドイツ語。ようやく翻訳が出来そうな留学生・クラウスを見つけたものの、どうしても日本語独特の表現や意味を理解させるのは難しく、真壁は文字通り二人三脚で奮闘することに。そんな紆余曲折を経ながらの展開にははらはらとさせられる。
ちなみに最終的にきっちりとしたオチはついていないが、真壁と樫木との関係、そして真壁とクラウスの関係が丁寧に描かれていて、これはこれでいい結末だったと思う。

オーダーは探偵に 謎解き満ちるティーパーティー (メディアワークス文庫)オーダーは探偵に 謎解き満ちるティーパーティー (メディアワークス文庫)
近江泉美

KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 2014-06-25
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悠貴から突然の呼び出しを受けた美久。しかも待ち合わせ場所は悠貴の通う高校・慧星学園の校門前で、またしてもそこの制服を着てくるよう命じられてしまう。果たして向かった慧星学園では、ただいま文化祭の準備期間。そして悠貴の所属する生徒会では、ふたつの脅迫状に悩まされているのだという。ひとつは文化祭を中止しろというもの、そしてもうひとつは文化祭を必ず開催しろというもの。さらにこの脅迫状の発覚と前後して、展示物が壊されていたり、生徒会が校内に設置している石鹸が盗まれたあげく傷だらけになって放置されていたり……というような妙な事件が頻発しているという。生徒たちのためにも文化祭を中止にさせたくないという生徒会長・百々花の依頼により、美久はまたしても、正体をばらしたくない悠貴によって「エメラルドの探偵」の身代わりをさせられるハメになってしまい……。

シリーズ4巻となる今巻は、2巻の時のように、またしても美久は女子高生(のコスプレ)探偵として、悠貴の代わりに謎解きをするという展開に。

ふたつの相反する脅迫状と、前後して起こったいくつかの不可解な事件――内部から破壊されていた美術部の展示物、ステージでピアノ演奏を披露する生徒に名指しで届けられた脅迫状、盗まれズタズタにされた石鹸。さらに学園の周辺ではカラスが何者かに腹を裂かれて殺されるという事件や、近くの美術館で強盗事件が発生し、犯人は捕まったものの盗まれたはずの宝石が消えてしまったという事件なども起こり、なにやら慌ただしい雰囲気。

どの事件にも手掛かりが少なく、解決は困難と思われたが、悠貴は美久を伴い、いくつかの聞き込みや現場検証を行った結果、校内で起きた事件をするすると解いていってしまう。そして、その謎の周りにあったのは、いくつものすれ違いと誤解だった。事件の謎そのものを解明したのは悠貴だが、その中で犯人たちの絡まり合った気持ちを解きほぐしていったのは美久。ますますいいコンビっぷりを披露していて、見ているこちらとしては嬉しい限り。

ということで今回のふたりの関係の進み具合について。
まあ劇的に進むということはなかったのだが、悠貴のファンクラブの女子に脅された美久が悠貴を遠ざけようとして怒らせたり、最後の大事件で美久が示した前向きさに悠貴が人知れず微笑んでみたりと、地味にポイントを稼ぎつつある今日この頃(笑)。美久に対して悠貴が「貸し」をひとつ作ったことといい、今回の事件解決に伴い、美久が百々花から「悠貴との1日デート券」(にどのくらい拘束力があるのかは不明だが……)を貰ったりと、今後の展開にも繋がりそうな小ネタもあるし、さらに最後の最後で悠貴の過去に深く関わっているであろう「彼」も再登場してきたので、今後も楽しみということで。


◇前巻→「オーダーは探偵に グラスにたゆたう琥珀色の謎解き」

オーダーは探偵に グラスにたゆたう琥珀色の謎解き (メディアワークス文庫)オーダーは探偵に グラスにたゆたう琥珀色の謎解き (メディアワークス文庫)
近江泉美

アスキー・メディアワークス 2013-11-22
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喫茶エメラルドに角田理花という女性が現れた。依頼に現れたという彼女は、探偵だと名乗った悠貴の若さに眉をひそめるも、悠貴がその洞察力でもって彼女の職業を言い当てると、観念したように依頼内容を話し始める。いわく、現在付き合っている彼と結婚すべきかどうか迷っているのだと。その理由は、死別したかつての彼氏・笹塚から、暗号めいた遺言を残されていたためだった。美久と悠貴は、笹塚が残し、今は理花が管理している家を訪れるが……。

シリーズ3巻。美久の就職問題が前巻でとりあえずひと段落ついたということで、今巻は美久と悠貴の微妙な関係、そして悠貴の過去に触れるという展開に。

まずふたりの微妙な関係があらわになった(ような気がする)のが「ビスケット1/2」。
真紘の留守中、ひょんなことから倉庫に閉じ込められてしまってさあ大変、なふたり。だがそのおかげで、美久は悠貴のことをいつか、もっと知りたいと思うようになる。それは断片的とはいえ、悠貴がひた隠しにしている過去のなにがしかを話してくれそうになったというのが大きな理由かもしれない。それと同時に、悠貴も美久にあれだけ隠そうとしていた何かを話そうとしてしまっていたあたり、以前よりはずいぶんと美久に対して心を開いているのかも。

でもってその次の「ウイスキー・ボンボン」と「アイリッシュ・コーヒー」では、悠貴のせいで美久が何者かにさらわれてしまうという展開に。まあ美久のうかつっぷりというか軽率さも一因ではあるが、そのさなかに美久が出会った謎の青年・セイは確実に悠貴の過去と関係がある模様。さらわれた美久を探す悠貴の心境は、彼の「過去」にまつわる後悔によるものか、それとも彼の中で美久の存在が大きくなっている証拠か。どちらにしても、いつもは冷静な悠貴が血相を変えて美久を探したり、事件が解決して緊張の糸が緩んでしまった美久に優しい対応をしてみたりと、なんだかいい雰囲気になりつつあって、こちらも思わず頬が緩んでしまう。いいぞもっとやれ(笑)。


◇前巻→「オーダーは探偵に 砂糖とミルクとスプーン一杯の謎解きを」

オーダーは探偵に 砂糖とミルクとスプーン一杯の謎解きを (メディアワークス文庫)オーダーは探偵に 砂糖とミルクとスプーン一杯の謎解きを (メディアワークス文庫)
近江泉美

アスキー・メディアワークス 2013-05-25
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就職活動にいそしみつつも喫茶店「エメラルド」でアルバイト中の女子大生・美久。最近では料理がからきしダメな店長の真紘に代わってフレンチトーストなどを作るようになり、しかもそれが好評とあって、就職活動で失いつつあった自信を取り戻し始めていた。そんなある日、開店準備中の美久は、閉まっているはずの店内で女性客に遭遇。翠子と名乗るその女性の態度から、美久は彼女が「探偵」の噂を聞いてやってきた依頼人だと思い、悠貴を呼ぶが……。

日常の謎系ライトミステリ連作、シリーズ2巻。
悠貴のドS毒舌ぶりは相変わらずだが、なんとなく美久が前作以上に空回りというか、知能低下気味(……って、悠貴の毒舌がうつってしまった・笑)な気がするのはまあご愛嬌ということで。

今回は冒頭の女性客のエピソード「レモンティー」に始まり、エメラルドのカウンターに置かれていた謎の封筒の差出人を美久が突き止めようと奮闘する「フレンチトースト」、そして悠貴のクラスメイトが持ち込んだ依頼を、探偵稼業を知られたくない悠貴の差し金で美久が探偵役になって解くはめになる中編「炭酸水」を収録。
美久がボケて悠貴がツッコむ的な謎解きの流れは毎度のことながら、今回のエピソードでは謎めいた悠貴の姿が少しずつ明らかにされてゆく。「フレンチトースト」では悠貴と「エメラルド」との関係が、そして「炭酸水」では悠貴の学生生活の一面と、彼が抱える「過去」の一片が。

クラスメイトたちには年相応の態度で接する反面、生徒会副会長として他の生徒たちや教師たちから得られた絶大なる信頼を盾にわりとやりたい放題な黒い面(これはいつも通りか?)を見せたかと思えば、携帯電話とそれにつけられたストラップについて美久が触れた途端に厳しい怒りをあらわにしたり。美久に対してはいつもひどすぎる対応としか言いようがないが、時に彼女を励まし、優しく見守るような対応も見せる。あまりにも捉えどころのない悠貴の本当の顔というのは、いったいどんなものなのだろうか。美久と同様に気になってくる。


◇前巻→「オーダーは探偵に 謎解き薫る喫茶店」

オーダーは探偵に―謎解き薫る喫茶店 (メディアワークス文庫)オーダーは探偵に―謎解き薫る喫茶店 (メディアワークス文庫)
近江 泉美

アスキーメディアワークス 2012-11-22
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就職活動中の女子大生・美久は、バスに乗ろうと走っている途中で転倒。すんでのところで顔立ちの整った少年に抱きとめられたのも束の間、その少年の手によってゴミ収集所に放り込まれ、そのまま意識を失ってしまう。目を覚ました美久がいたのは「エメラルド」という名前の喫茶店。雇われ店長だという優しげな青年・真紘にコーヒーをごちそうになった美久は、お礼代わりに来客の応対をすることに。だがその客は探偵に会いに来たのだという。首をかしげる美久の前に現れたのは、彼女が意識を失う前に見た美少年だった。その美少年は真紘の弟の悠貴で、客の言う「探偵」とは彼のことなのだという。しかも驚く美久に対し、悠貴はバカ女だなんだのと、耳を疑うような暴言を美久に吐いてきて……。

コーヒーの美味しい喫茶店に舞い込むささやかで奇妙な謎を、毒舌ドS高校生が普通の女子大生をお供に鮮やかに解決していく日常の謎系ミステリ短編集。

というわけで、就職活動がうまくいかず落ち込み気味の女子大生・美久が出会ったのは王子様……ではなく、顔はいいが口が悪すぎる男子高生・悠貴。悠貴の美久に対する毒舌ぶりとドSぶりに憤慨する美久ではあったが、彼の明晰な頭脳、そして次々と謎を解き明かしてゆく姿を目の当たりにするにつれ、少しずつ元気と希望を取り戻してゆくように。設定だけ見るとありふれた感じではあるが、でこぼこなふたりの関係と、謎解きの過程がなかなか楽しいので次巻にも期待ということで。ついでに言うと、いつもにこにこ優しげで、けれど料理だけはからきしダメな悠貴の兄・真紘の活躍にも期待(笑)。

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