phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

カテゴリ: 雪村花菜


母親の喪に服すため実家に戻った小玉。初対面となる甥とも仲良くなり、なぜか追いかけてきた清喜も含めて穏やかな日々を過ごす小玉だったが、かつて彼女を振った元許嫁が、妻を亡くしたからと再び小玉に求婚してくる。そんな元許嫁、そして今も昔も小玉の気持ちをないがしろにする近所の人々の態度に腹を立てていた幼馴染にして義姉の三娘は、村を捨てることを決意。小玉は文林に依頼して都に義姉と甥の住まいを準備し、その後もなにかと世話を焼いてくれるのだが、三娘はそんな文林の存在に不信感を抱くように。というのも幼い頃、三娘は見知らぬ老婆からある予言を受けていた。ひとつは自分についてのことで、もうひとつは小玉についてのことだった――すなわち、小玉はやがて高き御位へとのぼるが、彼女を愛する4人の男によって不運になる、と。自分についての予言がことごとく当たっていることで、小玉についての予言についても不安を抱く三娘。小玉から聞いた話を総合すると、元許嫁を含めて「彼女を愛する男」はすでに4人現れているはず。となると、三娘の目から見れば小玉に気があると思われる「5人目」文林は、いったい何なのだろう、と……。

軍人皇后・小玉の活躍を描く中華風ファンタジーシリーズの前日譚、第4巻。今回は主に義姉(つまり兄嫁)である三娘の視点から、小玉の将来を見通していくという展開に。

三娘だけが聞き、本人に隠し続けている「予言」が語る未来は、小玉にとっての「幸せ」を意味するのかどうか――高い位に就くことが幸せとは言い切れないし、そもそもあからさまに「不運へ進む」と言われていることもあり、三娘の危惧ももっとものように感じられる。本編では明らかに、彼女に次々と「運の悪い」出来事が起こっているからなおのこと。特に今でもある程度の位には就いているにせよ、まだひとりの軍人に過ぎない彼女を狙っているであろう動きが見え隠れしてくるラストには不安が募るばかり。またこのあたりも文林が関わっていそうな感じで、本当にこの男は……!と言いたくなってくるのだがまだどうだかわからないので保留にしておくことにする(笑)。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第零幕 三、二人の過誤」


先の戦の影響もあり、皇族でもある尚書が引退することになった。皇族と官僚の橋渡し役として皇族官吏が必要であることから、10数年前に引退した茄王が復帰することになり、その権威付けのために彼の長女が後宮入りすることに。しかしその直前に長女が病死し、代わりに庶子である妹姫の仙蛾が後宮入りすることが決まるのだった。後宮にやってきた仙蛾は、悪女顔ではあるがとても美しい娘で、かつては病弱だった姉姫を献身的に看病していたという逸話や、化粧が上手であることから他の妃嬪や女官たちからの人気も集め、当初は後宮内の雰囲気も穏やかなままだった。しかしある時、小玉が皇帝に他の妃嬪への渡りを勧めていないことを知った仙蛾は、表立って彼女を非難し、以後は反皇后派や中立派の妃嬪たちと積極的に接触するように。しかし彼女の非難はあまりにも正論であるため、小玉には反論することができないでいた……。

司馬淑妃がいなくなったことでパワーバランスが崩れかかる中、新たに現れた野心的な妃嬪のために後宮内が本格的に荒れ始める、シリーズ本編10巻。

文林を独占したいという想いを自覚し、いつしか意識的、あるいは無意識的にそのように振舞っていた小玉。そんな彼女を正論でもって弾劾したのは、庶出の皇族である新たな妃嬪・仙蛾だった。しかも彼女は某司馬淑妃と違って隙がなく、いくら手を尽くしても小玉たちにその尻尾を掴ませない。小玉に肩入れして読んでいるこちらとしては「なんと小憎たらしい……!」と言いたくなってくる展開なのだが、とはいえ前述の通り、仙蛾の指摘は「後宮」という場所の存在意義からすれば至極当たり前のことであり、皇后であるにも関わらずそれをしない小玉に非があるというのは、本人も認めざるを得ないのだからたちが悪い。

しかもそんな中で、小玉の周辺の女官たち、そしてついには小玉本人にも迫る謎の病の影。今まで静観を決め込んでいた麗丹が、小玉のため――正確には彼女に仕える女官たちのため――に動き始めてくれたことはなんとも頼もしいが、一方でほんとなにやってくれてんの文林、としか言えない出来事も発覚し、さらには周辺国の動きも(戦ではなく王族内の問題で)きな臭くなっているしで、なんというかこの先どう転ぶのかますます予測できない展開に。まあ文林のしたことも皇帝としては間違いということではなく、そもそも皇帝と皇后の関係を普通の男女のそれと同列に扱うことはできないとわかってはいるのだが、それはそれとしてなんというか……とぼやきつつ、続刊を待ちたいところ。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第九幕」


司馬氏の追放、梅花の死、さらに養い子である鴻が立太子したことで、後宮は少しずつ綻び、荒れ始めていた。妃嬪たちの中には表立って小玉に敵対する者も現れ始め、さらには死んだはずの鳳がまだ生きている、と語る者まで出る始末。文林のため、そして自身の覚悟のために、あらゆる事態に立ち向かうことを小玉は決め――そして紅燕と真桂もまた、懸命に彼女を支えようと力を尽くしていた……。

第2部スタートとなる中華風ファンタジーシリーズ、本編9巻。文林の傍にいることを選んだ小玉の新たな戦いの火ぶたが切って落とされる、まさにイントロダクション的な展開となっている。

今巻でもっともクローズアップされたのは真桂と紅燕。特に真桂は小玉に心酔する妃嬪の筆頭的存在として、その聡明さを活かして小玉を支えようと試みる。しかし一方で、日々消耗してゆく小玉に対して自分がなにをできるか自問し続けることになる。他の妃嬪による妨害や造反程度のことであれば、小玉は皇后であるし、王太妃の娘である紅燕の存在があるので、ギリギリではあってもなんとかなるといえばなる。しかし小玉自身――皇后という存在に与えられる数々の圧力を、どうすれば解消してあげられるのだろうか、と。

なんといっても問題は鴻の立太子。文林の実子であるが、小玉の実子ではない彼の存在は、下手をすると小玉の立ち位置を大きく動かしてしまう可能性がある。文林が懸念している「未来」はあまりにもわかりやすすぎる末路であり、だからこそ絶対に選んではいけない道。しかし市井の人々は、そんな小玉を憐れむのだ――実の子がいないのがかわいそう、などと。そして小玉はその評価に苦しめられることとなる――ただでさえ独り歩きしている自分という存在が、さらに自分の実態とはかけ離れたものになっていくことに。かわいそうなどと思われることに対して苛立ちが募ることに。そしてそれでも、文林を独占しようとしてしまう自分自身に。

だからこそ、そんな彼女に真桂が決死の覚悟で懸けた言葉は強く響いたのだろう。王太妃や紅燕ではない、いち妃嬪である彼女の言葉だからこそ。後宮という場所を確かに信じられるよすがを得られた小玉が、今後どのようにその辣腕を振るうことになるのかが楽しみ。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第八幕」


帝姫に仕えるために異動と出世が同時にやってきた小玉。とはいえ自分の部隊はそのまま留め置かれるため、有事の際は両方の職務に追われることとなり、日に日に多忙を極めていくのだった。さらにそんな中、皇帝が崩御。新たな皇帝は異母妹である帝姫を他の王家に嫁がせたため、小玉も御役御免になったはず……だったが、同時に僻地の駐屯地へと異動を命じられてしまう。あからさまな左遷に腹を立てる文林をなだめつつ一緒に酒を飲んでいた小玉だったが、翌朝目を醒ますとなぜか文林と同じ寝台にいて……。

Webサイト「カクヨム」にて連載中の過去編シリーズ第3弾。今回はついに本編でもたまに触れられていた、小玉と文林の「一夜の過ち」前後のエピソードとなっている。

異動と出世、出征、また異動で今度は降格&左遷……ととにかく目まぐるしく変化していく小玉の立場。行く先々で問題は山積ではあるが、それでも持ち前の機転とバイタリティでその場を切り抜けてゆく小玉の姿はなんとも頼もしい。一方、そんな彼女のそばにいる文林はというと、まあ頭の回転は今と劣らないキレの良さであるが、いまいち小玉をひとりの女性として見ていないというか、まだ彼女の本質を見抜けていないフシがあるので、どうしても対応が後手後手に回ってしまうのだが、まあそれは致し方ないことだとも思う。

小玉に守られていた――そしてそれが彼女の左遷の一因となっていた――という事実を後で知らされたこと。兄の死を知らされていなかったこと。沈将軍との信頼関係が想像以上に深いこと。そして例の「過ち」を経て、(妊娠はしてなかったという意味で)「大丈夫、なにもなかった」と一言で済まされてしまったこと。小玉との関係性も絶好調だっただけに、こうしたいくつかのつまづき――とは小玉は考えていないだろうが――が今の文林の人格形成に多少なりとも影響していたことは想像に難くない。これらがなければ、きっとあんなにもややこしい(または厄介な)男にはなってなかったんだろうな、と思うにつけ、「二人の過誤」というサブタイトルが重みを増してくる気がする。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第零幕 二、運命の胎動」


負傷し倒れた小玉に代わり、沈太監が軍を率いてこのたびの戦闘はひとまず終結した。しかし小玉の容体は思わしくなく、戦場から動かすことすらできないでいた。同じ頃、宮城にも戦況と小玉の容体、そして樹華戦死の報がもたらされ、関係者たちは動揺を隠せない。そんな中、文林は床に伏していた梅花を呼び寄せる。理由はただひとつ――今回の結果を招いた原因のひとつが彼女の企みにあったからだった。小玉のために司馬氏を失脚させようと暗躍していた梅花だったが、彼女の知らぬところで生じたほんのわずかな綻びが、巡り巡ってこのたびの小玉の負傷に繋がっていたのだ。梅花は身命を賭してその理由を探ろうとするが……。

激動の中華風ファンタジー、第1部完結となるシリーズ8巻。

小玉の闘病と回復、沈太監の作戦によって帝国が負わざるを得なくなった「負債」、そして梅花の目論見とその顛末。特に司馬氏失脚の原因を作り上げたのが梅花であること、そしてその策を利用して「綻び」を作った張本人の正体については前巻でもはっきりしていたが、今巻では具体的に彼女たちかどのように暗躍していたかが描かれてゆく。そしてその中で小玉と文林は、改めて自らの伴侶に対する想いを自覚することになる。

思えば遠くまできたものだ、と皇后になったころからすでに小玉は思っていることだろう。しかしそこからさらに今巻までの間に多くのことがあった。そして歴史は繰り返す――後宮の主として、またしても妃嬪を断罪することになってしまうのだ。しかし文林の予想とは裏腹に、小玉はある決断を下す。それはきっと変節というわけではない。成長というのもやや違うような気がするが、近いといえば近いだろう。彼女が弓引いた相手が皇帝であるという、その事実の重みが小玉の中で変わっているのかもしれない。裏を返せばそれは「皇后」としての自覚が深まっていることに他ならない。いい意味でも、悪い意味でも。こうして小玉と文林との距離は、近くもなり遠くもなってゆく。牢獄で司馬氏が文林に突き付けた言葉を小玉が聞いたら、いったい何と答えていただろうか。しかしどう答えたとしても、それでも小玉の「忠誠」の持つ意味は変わらないのだろう。そして直接その言葉を投げかけられた文林は、今後なにか変わっていくのだろうか。第2部がどのように始まり、どのように閉じてゆくのか、今から気になって仕方ない。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第七幕」


寛と康という2国と同時に戦うことになってしまった小玉。川を挟んでにらみ合いを続ける中、女性優位で有名な康から密使がやって来る。文林を倒し女帝として立つよう勧めてくる密使に小玉は激怒し、その首を刎ね戦端を開く理由としたのだった。一方その頃、後宮で司馬淑妃の不穏な動きを察知した薄充儀は、病床にある梅花の元を訪れ、詳細を報告。ほどなくして淑妃が犯した罪は後宮だけでなく皇帝の前にもさらされることとなるが、後宮の主である小玉が不在である以上、彼女を断罪することは未だできないでいた。そんな揺れる王宮にもたらされたのは、戦闘中に小玉が負傷したという知らせで……。

激動の中華風ファンタジーシリーズ、第7巻。ついに軍人皇后・小玉が他国との戦に赴くという展開に。

男性優位の寛と女性優位の康という対照的なふたつの国が手を組んで宸に攻め入るという状況。その背景にあるものはなかなか興味深いとはいえ、攻め込まれる側にとってはなんの理由にもならないのは当然。おそらく数も兵の練度もほぼ互角という状況の中、それでも小玉ならなんとかしてくれるに違いないし、実際そうなるんだろうな、と思っていた。簒奪を促す康の密使に対して怒りを見せる姿――文林を国の父、自分を母、そして臣民をその子になぞらえて軍勢を鼓舞あるいは煽動するというエピソードはまこと小玉らしい。皇帝に従いその手足になるとはいえ、それは思考を停止させただ臣従するのではなく、あくまでも自分の意志で彼に従うのだという決意。それはきっと彼女が皇后になった時から変わらないのだろう。文林と小玉、ふたりが互いに抱いている感情は一枚岩ではもちろんないし、一方通行な部分も確かにありはするものの、それでもその信頼は揺るがないという関係が素晴らしい。立后した時から彼女はいくつかのものを得はしたけれど、同時にたくさんのものを失ってきた。それはこの戦いでも同じ。それでも彼女は文林の剣となることを止めないのだろう。文林もそれを理解し受け入れてはいるものの、同時に彼女が彼女自身のために不利益を被ることだけは避けたいと考えていることが分かったので、この夫婦はきっと大丈夫だと思う。そう信じたい。

しかしそんなふたりに次々と立ちはだかる問題。小玉の怪我も気になるが、それ以上に恐ろしいのは司馬淑妃の行く末。彼女がしでかしたことはもちろん断罪されるべきというか死罪レベルのことなのだが、それを暴露し、実際は陰でそそのかしさえもしたのが、彼女の実の息子である鳳だった。けれど彼が小玉や、父親である文林を利するために動いたとも思えない。彼の思惑はいったいどこにあるのだろうか。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第六幕」


軍人として生きる――しかも後方支援ではなく、武人として前線に出ていく覚悟を決めた小玉は、異例とも言えるスピードで出世を遂げてゆく。生涯の親友となる明慧と共に戦場を駆ける小玉だったが、そんな彼女のもとに配属されたのが、眉目秀麗にして武科挙でも高得点を叩き出したという将来有望な青年・周文林だった。自分より3歳年下のその青年を見るなり、小玉は「絶対にそりが合わない」と直感。現実にもその通りとなるが、そんな矢先、小玉の隊に前線への出征が決まり……。

のちに神格化すらされる伝説の皇后・関小玉の過去を描く中華ファンタジーシリーズ、第2弾。今回は夫となる文林との出会いが描かれてゆく。

何人か彼氏ができては(意外にも!)振ったり振られたりということを繰り返しつつ、基本的には明慧をはじめとする仲間に恵まれ、上官の覚えもめでたく、それなりに順風満帆な小玉の軍人ライフ。しかしそんな小玉の前に、彼女の運命を大きく変えることになる人物・文林がついに登場。面白いくらいそりが合わず、大小さまざまな(というか「小」の方はゆで卵の割り方とかそういう感じで実にくだらない・笑)衝突を繰り返すふたりの姿には笑いが止まらないというか、どちらかといえば文林お気の毒というか……。

初めての出征を経て、小玉への見方ががらっと変わることになった文林。もうこの時点では小玉のことが好きだったのではないかと思ったりもするのだが、そこはやっぱり相手が悪い。以前の彼氏とのエピソードでも垣間見えたが、この頃の小玉はわりと切り替えが早いというか、「どうでもいい」と思ったらその瞬間にぱっと切り捨ててしまえる性格の持ち主。けれど懐に入れてしまえばできうる限り大切にしようという情の深さもある。このあたり、文林の片想い(仮)には吉と出るか凶と出るか……といったところ。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第零幕 一、伝説のはじまり」


康国との戦を決めた文林。配下に康の出身者がいることもあり、小玉が行軍元帥に選ばれることがなかったが、そのことに対して文林はふたつの相反する気持ちを抱えていた――小玉に手柄を立てさせたいと考える一方で、彼女を失いたくないという気持ちが芽生えていたのだ。一方、小玉はいまだに文林へのわだかまりが消えないでいたが、その理由に――すなわち自身の心に目を向けることを無意識のうちに恐れていた。そんな矢先、朝廷では皇太子の問題が議題に上る。司馬淑妃の息子である長男の鳳か、皇后である小玉が養育している三男の鴻か。当初は小玉も、そして文林自身も鳳を推すつもりだったが、やがて後宮にてふたりの皇子に関わる事件が起こり……。

シリーズ6巻はまたしても転機の巻。前巻に引き続き、深い溝ができてしまった皇帝夫妻のその後と、そして帝国を揺るがすふたつの事件について綴られてゆく。

ひとつめの事件は隣国・康との戦のこと。開戦の時点で小玉の出番は見送られたが、ここで文林の心境に変化が。元々軍人としての出世をさせたいというのが、小玉を皇后に据えた理由のひとつ。であれば今回の戦は好機であるはずなのに、文林はそれを躊躇してしまう。つまり、小玉を死なせたくないと考え始めたがゆえに。

そしてもうひとつの事件は皇位継承問題。戦ともなれば、ことによっては文林が死ぬことも考えられる。となれば後継者を決めることは必須ではあるが、長男である鳳をそのまま立太子させることにも、文林は躊躇する。それは後宮で起きた、小玉を巡って皇子たちが起こした「事件」のせいもあろうが、それ以上にここでも文林は小玉の立場を慮ることになる。自分が死に、司馬淑妃の子である鳳が次期皇帝となれば、小玉の立場が悪くなることは必至だからだ。

そんな感じで、文林の中で小玉の存在がこれほどまでに大きくなっていたということが思い知らされた今巻。ではそこで小玉がどう出るかというところだが、彼女は彼女でやはり変化があった。もしかしたら流産していたかもしれないという事実。そしてそれを文林が「残念だ」のひとことで片付けたこと。さらに謝賢妃のことも含め、自分たちを道具として使おうとする文林の態度。それらが「皇帝」の態度として当たり前だとは頭で理解していても、気持ちが付いていっていないのだ――それは小玉にとっても、文林の存在が大きくなっていたからに他ならない。けれどふたりはすれ違ってしまった。だからこれからいくら言葉を重ねても、再び歩み寄ったとしても、もう同じ場所には戻れない。そしてそれをきっと小玉は肌身をもって理解したに違いない。そんな想いを胸に戦地に赴くことになった小玉を、文林はどんな気持ちで見送るのか。そして彼女を帰還したならば、その時はどのように迎えるつもりなのか――物語はここからが本番。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第五幕」


湖西の騒動の後始末に追われる文林をなだめつつ、新設された軍の整備にいそしむ小玉。そんな折にもたらされたのは、小玉の貞節に問題ありというまさかの疑惑だった。根拠は薄弱で具体的な証拠もないものの、ひとまず小玉は根拠のひとつとされる軍との関わりを断ち、後宮に引きこもらざるを得なくなってしまう。そんな小玉の憂さ晴らしも兼ねて文林は狩猟の会を開催。しかし小玉の愛騎・白夫人の餌に毒草が混入されており、誤ってそれを食べた司馬淑妃の馬が死んでしまう。後宮をめぐる問題がますます膠着化する中、打開策として新たな妃――しかも皇后たる小玉に次ぐ「貴妃」が新たに招き入れられることとなり……。

シリーズ5巻となり、小玉と文林の関係も新たな局面を迎えることに――ただし、残念ながら悪い意味での。

小玉を追い落とそうとしているのは言わずもがな司馬淑妃の父である司馬氏。そんな司馬氏が胡乱すぎる疑惑を掲げてきたのは文林たちが予想する通り単なる準備不足で、その原因は娘である淑妃の考えなしの暴走によるもの……という展開はまあ笑える話ではある。ついでにいうと後宮に新たにやってきた貴妃・紅燕はあの王太妃の娘だからして、お目当ては文林ではなく小玉。まあそれもいい(もちろん面白すぎることになっている)。問題はそれら一連の流れの中で、小玉が自身の立ち位置に疑問を持ち始めたこと。子を産むわけでもなく、かといって新しい貴妃含め、他の妃嬪たちを勧めることもできていない。疑惑のせいで軍にも関われない。そしてそんな中、ついにふたりが文字通りの「初夜」を迎えてしまったことが、大きな問題となって小玉と文林の間に横たわってしまう。

こんな時でなければうまくいったのではないかと思う。けれどこんな時だったからこそ、小玉はただひたすら傷ついてしまったのかもしれない。あるいは疲れてしまったのかも。文林との気持ちが決定的にすれ違ってしまっていて、しかも小玉はそれに気付いているのに、文林ははっきりとは気付いていない。その齟齬もまた致命的である。隣国との戦が近づく中で、このどうしようもない溝が埋まることはあるのだろうか。


◇前巻→ 「紅霞後宮物語 第四幕」


一兵卒から出世を重ね、希代の天才として将官にまで上り詰め、さらには30代にして皇后となった伝説の存在、関小玉。のちに神格化され慕われ続けることとなる彼女も、15歳の頃は田舎の百姓暮らしで、しかも結婚を目前に控えた身というごく平凡な生活を送っていた。しかしその縁談は相手から一方的に破棄され、しかも相手の都合だというのに小玉は傷もの扱いされ、以後嫁の貰い手がないという状態。さらに時同じくして、実の兄が徴兵されるという事態に陥ってしまう。事故で足が不自由になってはいるが関家唯一の男手であり、つい最近、小玉の親友と結婚したばかりの兄を軍に取られては困ると考えた小玉は、近所の老人から「女でも軍人になれる」という話を聞き、兄の代わりに兵役に就くことを志願するのだった。反対する家族をなんとか説得し、晴れて軍に入った小玉は、後宮の警備を専門とする部隊に配属される。しかしある夜、後宮に入っている女が男と逢引しているところに遭遇。逆上した男に襲われた小玉は、女もろとも返り討ちにしてしまい……。

KADOKAWAの投稿webサイト「カクヨム」に連載されている本作は、これまで富士見L文庫で発表されていた同作の前日譚。主人公・小玉が後宮入りする前、軍に入るところからが語られてゆく。

というわけで本編では肝の据わった30代女性である小玉も、本作ではまだその半分である15歳。しかし物語のスタートから彼女の日々は波乱万丈で、婚約破棄からの徴兵からの後宮警護からのまさかの前線配備、さらに初恋と失恋まで。初恋相手は本編にも時々登場している軍人宦官・沈中郎将なのだが、その恋の顛末はなんとも物悲しいもの。結ばれるはずがないとわかってはいたが、小玉の想いに気付いた上での彼の反応もいいような悪いような……どちらにしても傷付くししこりは残りそうなので、やはり恋路というものは難しいなあということで。

しかし沈中郎将のことはさておき、他の仲間との間になんとなく恋愛フラグが立ちそうな気がする場面もあったりするのだが、今のところ立たず仕舞いなのがなんとも面白いというか不憫というか。まあそのあたり、原因は小玉の態度に起因するものが大きいような気もするが。今もそうだが、昔は昔で今と違った掴みどころのなさをあらわにする小玉。今でこそある程度わかってやっているのだろうが、昔はまだ自分の性格・性質に無頓着というか、はっきり自覚できていない面が大きいため、無自覚に男を遠ざけているような状態に。今巻ではまだ文林は登場していないが、こんな状態の小玉には確かにアプローチしづらい気がするので、今からもう彼のことも不憫でならない(笑)。


◇本編→「紅霞後宮物語」

紅霞後宮物語 第四幕 (富士見L文庫)
雪村花菜
KADOKAWA/富士見書房
2016-06-11

明慧の葬儀が終わり、季節は冬から春へと移り変わる中、小玉は文林から公式な呼び出しを受ける。そこで手渡されたのは、鄒王の屋敷から押収された帳簿。その中に不自然なほど頻出する「維山」という地名に疑念を抱いた文林は、皇后行啓の名目で小玉を現地に派遣することに。現地に到着した小玉は影武者を立て、自身は「陳校尉」という軍人を装って調査を開始。一見すると平和にしか見えない街だが、しばらく観察していた小玉は、街ゆく女性たちの様子に妙なものを感じ取り……。

シリーズ4巻は前巻からの続き。鄒王が起こした騒動の顛末、そして小玉が「喪失」と改めて向き合う物語。

相変わらず飄々とした態度で文林と接し、あるいは潜入捜査を行う小玉。しかしその心の傷はいまだ癒えておらず、心中は静かに荒れっぱなしという状態。特に最初から最後までとらわれるのはやはり「母と子」の関係にまつわるもの。母を亡くした子の悲しみ、そして子を奪われる母の苦しみ――皇后の責任であるとか、その母親の死に関わっているから、などといった割り切りだけではなく、実感として鴻の「母親」となりつつある小玉にとっては、先の事件はその関係性を見直すに足る出来事だった。しかし今回の事件の顛末を経て、小玉はひとつの結論に至ることになる。それはきっと彼女の成長なのだろうけど、相変わらずその考えの基礎には自分を犠牲にするという点が含まれているようで――これはまあ彼女が皇后であり、軍人であるがゆえなのだろうが――、なんとなく不安を感じてしまうのは私だけだろうか。

そして不安と言えばやっぱり気になるのが文林の歪みっぷり。これはまあわかっていたことではあるが、終盤で今回の事件の顛末、そして今後の彼の思惑が語られる部分についてはぞっとさせられた。……というと言いすぎかもしれないが、やはり彼は皇帝であり、しかしそれ以上にひとりの男として小玉のことを愛しているのだろうというのがよくわかるエピソード。不器用な愛情表現といえば聞こえはいいが、だからってそうくるか……と呻かずにはいられない。こういう割り切りは小玉にはないベクトルのものだからして、余計に彼の行動が際立って見えてくるのだろう。綺麗事だけでは前へ進めないのだ、と。小玉が文林のことを見捨てないのは、今ふたりが「夫婦」という肩書を有しているからだ、と文林は考える。それはきっと正しい。そして最後までその考えは通用するのだろう。しかし最後までふたりは「今まで通り」でいられるのだろうか。そんなことをふと考えてしまう。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第三幕」

紅霞後宮物語 第三幕 (富士見L文庫)
雪村花菜
KADOKAWA/富士見書房
2016-02-10

表向きは経費削減、しかしてその実態は「文林に新たな出会いをあげよう計画」(発案者はもちろん小玉)として、後宮で大規模な人員削減が行われることに。すると小玉の思惑通り、文林は謝月枝という娘に目を止め、彼女に異例とも言えるほどの高位を与えたのだった。しかしその後、月枝の元へばかり通い、小玉をないがしろにするようになった文林、そして小玉をはじめとする妃嬪たちを無視するかのような態度をとる月枝に対し、小玉の取り巻きたちは激怒。後宮の勢力図が書き変わってゆくのを肌で感じ取った小玉は、自らふたりの元へと出向き、皇后位を返還しようとするが……。

元女軍人が皇后として日々奮闘(その方向性が合っているかどうかはたまに不明)する中華風ファンタジー、第3巻。

小玉が皇后になってからというもの、彼女のところばかりに通い、他の妃嬪たちには目もくれなかった文林。しかし小玉が多くの妃嬪たちを手玉に取っている(笑)という状態なので、文林の寵愛が皇后に集中していても、(約1名を除き)たいして荒れてこなかった後宮。しかし新たな寵姫の登場で、後宮は荒れに荒れまくる。結局この寵姫騒動には裏があり、それがのちに大変な火種となって小玉に襲いかかることになったのだが、前半のこのくだりは前巻までのコメディ寄りのノリと、小玉の真面目さを表すエピソードとして、はらはらしつつも楽しく読めた。とりあえず小玉は無意識にあざといので、文林はなんかもういろいろと大変だと思う(笑)。

しかし問題は後半。今回、作者があとがきで言及する通り、次第に暗い展開に。今巻を通して小玉が悩み続けているのが、自身の子育て問題――ただしそれはしつけ云々の話ではなく、「母」と「子」の間にある関係のこと。義理の息子は小玉にすこぶる懐いてはいるが、そのせいで小玉は、彼がその存在をまったく覚えていない「産みの母」の存在について思いを巡らすことになる。親友の明慧にも子供がいるが、彼女もその夫も軍人であるからして、有事があれば子を遺して死ぬということもありうる。一方で、小玉の前で息子を自ら殺した女もいた。どちらが先に死んだっていいことはない。とはいえ、遺された者はどうするべきか。そんな答えの出そうにない問題にとらわれるうちに、小玉は大きな過ちを犯してしまっていたことに気付かされるのだ――そしてそれは、彼女からとても大きなものを奪い去ってしまう。未来は予想できない。起きてしまった事実は消えることはない。けれどどうしてあの時こうしなかったのか、という後悔は死ぬまで付きまとう。皇后として、そしてひとりの人間として、埋めがたい喪失感を味わってしまった小玉。やっとの思いで、というくらい長い時間をかけて、ようやくその「喪失」そのものを静かに受け止められるようになった小玉の、そのあまりにも純粋すぎる性格にこれから何がもたらされるのか――それを知るのは、ある意味とても怖いことかもしれない。


◇前巻→「紅霞後宮物語 第二幕」

紅霞後宮物語 第二幕 (富士見L文庫)
雪村花菜
KADOKAWA/富士見書房
2015-10-15

女将軍だったはずの関小玉が、気付けばかつての部下にして相棒、現在は当代の皇帝である文林と結婚し、皇后になってしまってからはや1年。義理の息子・鴻の成長に目を細めつつ、皇后としてそれなりにうまく日々を過ごしていた。そこに突如浮上したのが、先帝の遺児の存在。他の皇族および朝廷は紛糾するも、文林は泰然と裏を探り続け、小玉はいざとなったら文林と息子を連れて逃げるべく、逃走経路と隠れ家の確保に勤しむように。そんなさなか、当の「先帝の遺児」当人が小玉を訪ねてやってくるが、何を訴えるでもなく辞去し、そのまま行方知れずとなってしまい……。

軍人皇后の破天荒な後宮生活を描く中華ファンタジー第2弾。今回は文林の帝位が脅かされるという事件を通して、文林と小玉の関係――ひいては文林という男の人となりが描かれてゆく。

主人公ということで小玉の行動に目が行くのは当たり前なのだが、そんな彼女の行動の基盤となっているのはもちろん文林。小玉にとってはかつての副官であり相棒、そしてうっかり一夜を共にしたこともある相手(しかしお互いはっきり覚えていないらしい)。しかも最初はそりが合わなかったらしい。今は皇帝という役割を押しつけられてまあ多少は同情しないでもない……的な感じもあるようだが、いろいろ含むところはあれど、それでも小玉は文林を大切には思っているようだし、今は彼のために生きているといっても過言ではないのだろう。では文林にとって小玉はどんな存在なのか、というのが今回の焦点。

まあなんというか、重い。単なる男女間の思慕であればまだよかったのでは、とすら思えるくらい重い。それは彼の生い立ちのせいもあるだろうし、軍人となって最初に出会ったのが小玉だったからなのかもしれない――というとなにやら出会頭の事故のような気もしてくるが、多分間違ってはいないのだろう。そのくらい小玉という人物はあまりにも眩しすぎるのだ。無意識のうちに手を伸ばさずにはいられない存在。明慧や清喜といった周囲の文林に対する評はきっと正しくて、逆に小玉には近すぎて見えていない――あるいは無自覚に見ないようにしている――部分が文林にはある。それが今後、吉と出るか凶と出るかは分からない。とにかくこじれまくっているな、としか思えないのだが、そんなふたりの関係がかえって愛おしくてたまらない。


◇前巻→ 「紅霞後宮物語」

紅霞後宮物語 (富士見L文庫)
雪村花菜
KADOKAWA/富士見書房
2015-05-15

軍人としての類稀なる能力を認められ、女だてらに将軍にまで上りつめた関小玉だったが、性別とその出自のせいで、この先の出世は望めないでいた。本人はそれで納得していたのだが、彼女の元副官にして現在この国の皇帝である文林はその能力を惜しみ、悩んだ末に彼女に後宮に入るよう懇願したのだった。高位の妃になれば非常時には軍を率いることも可能だから、という理由に押し切られ、しぶしぶ承諾した小玉。しかし後宮に入った彼女に与えられたのは、後宮内でも最高位となる「皇后」の位だった……。

第2回富士見ラノベ文芸大賞・金賞受賞作。実力でのし上がった女将軍・小玉(33歳独身)がある日まさかの後宮入り、しかも皇后になってしまったことで起きる波乱の日々が描かれてゆく。

生まれてこのかた軍人一本で生きてきた小玉だけに、後宮という場所はこれまでの真逆の世界。しかも結婚相手はかつての部下で長年の相棒。これで実は秘められたロマンスが……ということもあまりなく、なんとなく結婚するかもなーでもやっぱりしなかったけどまあいいか、的なゆるい感情しかなかったりする。少なくとも表向きは。

実際のところ、文林はそれなりに小玉のことを気にかけている素振りを見せることもあるが、小玉はそこにまったく気付かない――もしかしたらわざと気付いていないように見せかけているのかもしれないが――せいで、夫婦になって同じ寝台に入っても何も起こらない。その微妙すぎる感じがたまらない。

とにかく淑やかさであるとか皇后らしさであるとかを微塵も持ち合せておらず、またその方面の知識に乏しい小玉だが、軍人ならではの勘は働くのか、彼女に嫉妬し追い落とそうとする他の貴妃たちの妨害を難なくかわし、そのさばさばした性格と行動で次第に後宮内の憧れの的(お姉さま的な意味で)になっていくという展開も楽しい。そしてそんな閉ざされた女の園にありながら快活さを失わない小玉ではあるが、その実内心では自分の立場についてぐるぐると悩んでいたりするというギャップもまたいい。女として皇帝に庇護されるのではなく、皇帝に並び立ち、支え、時には盾になることも厭わず、最後まで側にいることを誓う。身分の問題ではなく、人として、自分のなすべきことを見出し、なそうとする小玉。そうして少しずつ名実ともに「皇后」となってゆく、そんな彼女の生き様にどうしようもなく惹かれてしまった。10月には続編の刊行も決まっているようなので、彼女の活躍がますます楽しみ。

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