phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 雪乃紗衣


謹慎が解け、冗官として復帰を果たした秀麗。しかしその直後に言い渡されたのは、冗官に対する解雇通知だった。ただし1か月以内に所属部署が決まればクビを回避できるということで張り切る秀麗だったが、同じ立場でありながらまるでやる気のない、家柄だけで管理になった同僚たちを放っておけなくなり、先の事件で知り合った「タンタン」こと蘇芳と共に彼らの面倒を見ることに。一方その頃、自邸で使っている塩が少しずつ値上がりしていることに気付いた秀麗。これまでの伝手を辿ってどこかの部署に拾ってもらおうと一時は考えていたものの、それがこれまでの「特別扱い」によるものだからと躊躇していた秀麗は、潮の不審な値上がりに隠された陰謀を暴き、その結果をもってどこかの部署に採用してもらおうと考えるが……。

大人気の中華風ファンタジーシリーズ10巻。冗官(=無位無官のヒラ官吏)となった秀麗に突然リストラの危機!?となる本編に加え、茶州の事件が解決した直後、めでたく両想いとなった茶克洵と春姫とのその後を描く番外編「初恋成就大奔走!」が併録されている。

自身もリストラの危機だというのに、大勢のボンボン冗官たちは放っておけないし、町で起きている塩の値上がりも気になるしで、また自分ではなく他人のために奔走しまくる秀麗。彼女が官吏を目指した理由が理由だけに仕方ないことではあるが、そんな彼女を「面白い」「興味深い」と感じ、周囲の人々は手を差し伸べてきた。しかしここにきて、それだけではない人物たちが現れ、秀麗の前に立ちふさがることになる。

これまでは前述の通り、彼女の周囲にはその頑張りや熱意に動かされてきた人々がたくさんいた。しかもその人々はだいたいが高位の人物であり、自分の生き方や職務に対して誠実かつ忠実な人々ばかり。しかし今回は、生まれながらにたくさんのものを手にしている高位貴族たちではなく、自分の努力と才覚で這い上がってきた人々ばかり。なんとか新たな所属先を見つけた秀麗だったが、「甘い」と言われる今までの彼女のやり方が果たして通用するのかどうか気になるところ。


◇前巻→「彩雲国物語 九、紅梅は夜に香る」

永遠の夏をあとに
雪乃 紗衣
東京創元社
2020-04-21

1999年の夏。ある田舎町に住む小学6年生の羽矢拓人は、弓月小夜子と名乗る女性と「再会」する。かつて拓人は母・花蓮と共に、小夜子――サヤと一緒に暮らしていたことがあるらしいのだが、拓人にはその記憶がまったくなかった。それはかつて、拓人が「神隠し」に遭い、その時の記憶を失っているからかもしれなかった。母が入院しているため、サヤと一緒に夏休みを過ごすことになった拓人は、サヤのことを思い出そうとするが、なかなかうまくいかず……。

ある少年と少女の不思議な出会いと、その結末を描くファンタジー長編作。

神隠しに会って記憶を失ったことがあるという経験のせいか、あるいはなぜか町の住人から母ともどもつまはじきにされているせいか――この理由はのちほど明かされるのだが――、どこか大人びた雰囲気の持ち主である主人公の拓人。そんな彼が、かつて一緒に過ごしていた「らしい」年上の少女・サヤと再会したところから、物語も、彼の運命も、音を立てて動き出す。1999年の夏――世界が滅びるという「ノストラダムスの大予言」を拓人がどこまで信じていたのかはわからないが、そんなふうにどこかで「終わり」あるいは「滅び」を感じさせる刹那的な夏の熱と光の中で、拓人とサヤ、失われた記憶、けして入ってはいけない扇谷の山の奥……様々な情景が現実と非現実のあわいで揺らめいては消えてゆく。

断片的に拓人が思い出す「記憶」は、すなわちサヤの出自にも関わることである。サヤはなぜ羽矢家で暮らしていたことがあったのか。彼女が持つバイオリンの意味は。拓人が視た、降りしきる花びらの中で眠るサヤのビジョンは、美しくもあり、どこか恐ろしくもある。そんな中で拓人が選び取った未来を、母・花蓮の友人である鷹一郎はどこか危ぶむような眼で見つめていた。果たして彼がその手を取ったことが正解だったのかどうか――それは誰にも分からないけれど、それでも、何年経ったとしても、夏はまたやってきて、拓人とサヤの世界は融け重なり合っていく。そんなラストがどうしようもなく印象に残った。


茶州での采配の責任を問われ、官位を剥奪され謹慎処分を言い渡された秀麗。それでも官吏としてできることを、と街の人々の悩み相談などを受け付けているうちに、幼馴染である慶張の父親が贋作をつかまされたことを知った秀麗は、調査のために街へと出向くことに。そんな彼女の前に現れたのは、見知らぬ青年貴族・蘇芳。彼はいきなり秀麗に求婚してくるのだが、その言い方も内容もとんちんかんで……。

高官への大抜擢から一転、無位無官となった主人公が新たな騒動に巻き込まれる、中華風シリーズ第9弾。今回は本編に加え、秀麗や影月を「心の友」と呼んではばからない藍龍蓮の実態が垣間見える短編「王都上陸!龍蓮台風」が併録されている。

本人は割り切って、あるいは納得ずくで振舞っているようではあるが、周囲――特に彼女の頑張りを知っていた近所の子供だとか、あるいは父親の命令で秀麗に告白し、図らずも街で起きていた贋作騒動に巻き込まれてしまった貴族の青年・蘇芳からしてみれば、彼女が朝廷によって都合良く使われ、そしてすべての責任を押し付けられ使い捨てられたようにしか見えず、そしてその見方は秀麗本人にも突き付けられることとなる。それでも彼女は、何の権限がなくとも、困っている人々のために奔走する。それは茶州での事件のこともあるだろうし、彼女が葉医師から宣告されたという「あること」――結婚だけでなく、あらゆる未来を断念せざるを得ないような「事情」――のせいもあるだろう。だとしても、すべてを受け入れ、あくまでも「官吏」であること全うしようとする秀麗の姿が何とも眩しい。

しかし一方、朝廷内でも改めてきな臭い動きが見え隠れ。特に気になるのは門下省長官である旺季なる人物。王家と七家の特権を疑問視し、しかし自身も七家の傍流とはいえど貴族であり優遇される存在であることを当然視し、どころか平民との身分差の存在を(あまりよくない意味で)肯定するような発言も見える上、今巻ラストでは無位無官である「冗官」(もちろん秀麗も含まれる)の処分を進言するなど、今後の台風の目となりそうな予感。秀麗も、そして劉輝たちも、今度は朝廷内の勢力争いに大いに巻き込まれていきそうでなんとも心配になってくる。


◇前巻→「彩雲国物語 八、光降る碧の大地」


女が州牧になったせいで奇病が流行している――そんな噂が駆け巡る中、秀麗は医師と物資を携えて茶州へと戻る。そのさなかに秀麗たちに知らされたのは、病が流行っている山村に向かっていた影月と、それを追っていった香鈴がふたりとも行方知れずになっているという事実だった。「邪仙教」なる謎の集団、そしてそのトップである「千夜」が秀麗と影月を狙っていることに気付いた秀麗と燕青は、邪仙教の本拠地があるとされる場所へと向かうが……。

中華風ファンタジーシリーズ8巻、影月編はこれにて完結。今回も番外編として、秀麗が熱を出したことで周囲が大騒ぎする「お見舞い戦線異状あり?」と、劉輝視点の後日談となる「薔薇姫」(いずれもビーンズ版短編集「朱にまじわれば紅」所収)が収録されている。

死んだはずの「千夜」を名乗る謎の人物の狙いがわからぬまま、それでも事態を収束させるため、秀麗と影月はそれぞれ奔走する。そんな中で迫る、影月の命のタイムリミット。敵の背後に見え隠れし始めたのは、彩八家とは異なる異質な一族・縹家。秀麗の父とも因縁があるらしい当主の璃桜、そして彼を溺愛しているらしい姉が、何かを狙って暗躍していることが次第に明らかになってゆくだが、今のところその「何か」はわからずじまい。しかもそれには秀麗の亡き母も関わっていることが示唆されている。巻末に置かれた番外編2作のうち、「薔薇姫」と題された短編は、ありふれたおとぎ話のようでいて、けれど実際は秀麗の父母に起きた出来事なのではないかと思われる。ただのしっかり者だと思っていた秀麗が、これから官吏であることとは別に、何かの渦中に巻き込まれるのではないかと思うと気が気ではない。

しかも秀麗と影月は今回の事件の責任を取らされてしまうことに。事態を収束させたのに降格とは理不尽にもほどがある!と思ってしまうのだが、これが政治の世界ということなのだろうか。だとしても、秀麗と影月の待遇が全然違うのは、やはり秀麗が女であるがゆえなのだろうか。しかし一方で、今回の事件をきっかけに、秀麗に憧れて官吏を目指そうとする少女も現れる。秀麗の行動は人々を助けただけでなく、子供に希望をも与えたのだ――その事実だけでも救われると、そう思える結末が良かった。


◇前巻→「彩雲国物語 七、心は藍よりも深く」


茶州に専門的な研究機関を設立するため、州牧として朝廷内を奔走する秀麗。そんな折に届けられたのは、茶州内で奇病が発生しているという知らせだった。しかも「邪仙教」と名乗る宗教団体が現れ、この奇病の原因は女である秀麗が政治に携わっているせいだと触れ回っているという。それでも秀麗は、病に苦しむ人々を救うため、自らが茶州に戻ることを決めるのだった。一方、その病がかつて自分の住んでいた村を全滅させたものと同じであることを悟った影月は、最低限の指示や根回しを済ませると、単身で現地へと向かい治療を始める。実は彼の身体は普通の人間のそれとは違い、もはやさしたる時間が残されていなかったのだった……。

秀麗不在の茶州に再び暗雲が立ち込める、中華風ファンタジーシリーズ7巻。今回もビーンズ文庫版の短編集から、秀麗と影月の出会いを描く番外編「会試直前大騒動!」が併録されている。

前巻あたりから少しずつ語られていた影月の過去。酒を飲むと現れる人格「陽月」によって生かされているという彼には、もう時間がないということがここで明らかになる。かつて、謎の奇病に養い親でもあった「堂主」と立ち向かい、しかし歯が立たなかったこと。さらには堂主までも失いそうになったその刹那に、影月が望み、叶えられてしまったのは、おそらく自分の命を堂主に分け与えるということ。そんなことを可能にしてしまう「陽月」の存在は一体何なのかはっきりとはしないが、しかしそのせいで影月の命は縮まり、今や風前の灯火という状況になっているのだという。そんな彼の覚悟や決意を秀麗は正しく察知し、自分のできることをなそうと再び奔走し始めるのだ。

しかし、奇病流行の影で、彼女に伸びるのは怪しげな手。ひとつは異能の一族として歴史の影で暗躍してきたとされる「縹家」の存在。王城内に突如現れた「当主」に、秀麗の父は殺気を向け、恐ろしいまでの警戒を見せる。「薔薇姫」と呼ばれる存在――おそらく亡き秀麗の母――が関係しているのであろうが、そんな得体の知れない相手が現れたことで、秀麗の行く先がますます不安なものとなってくる。そしてもうひとつは、秀麗を名指しで狙う「邪仙教」の存在。教祖の名前が「千夜」――かつて茶朔洵が名乗っていた偽名を名乗るその人物は、もしかしたら本当に朔洵なのか。こちらの狙いもまた今のところ不明だが、朔洵がおそらく死んでいる(死体は見つかっていないが)以上、もしかしたらこちらにも縹家が関与しているのではないかと疑わざるを得ない。

そんな中でも、官吏としての責任と務めを今再び朝廷の官吏たちに問い、堂々と事態の収束に当たろうとする秀麗の姿がなんとも眩しい。まだ10代の少女だというのに、恐れを押し隠し、その肩に多くの命を乗せ、覚悟を決めていく秀麗だからこそ、どうかうまくいってほしいと願うばかり。


◇前巻→「彩雲国物語 六、欠けゆく白銀の砂時計」


茶家の暴走を食い止め、無事に州牧としての仕事を始めた秀麗と影月。先輩官吏たちから厳しく指導されながらも、ふたりは激務の合間を縫い、茶州を立て直すための策を練り始める。しかし間もなくこの「策」が燕青や悠舜の目に留まり、あっという間に体裁を整えられ、実際に動き始めることに。おりしも新年の朝賀に赴くことになった秀麗は、同行する悠舜たちと共に、中央の各部署に根回しを行おうとする。しかしこれまでに深く関わったことのある戸部と礼部はともかく、最後まで女性官吏登用に反対していた工部からはひたすら門前払いを食らわされてしまい……。

官吏の道は険しいにも程がある……そんな悲哀が滲み出る?中華風ファンタジーシリーズ6巻。今巻は本編の他に、ビーンズ文庫版の番外編「朱にまじわれば紅」に収録されていた、シリーズ前夜に書庫で起きていた攻防?を描く短編「幽霊退治大作戦!」も併録されている。

秀麗と影月が考えたのは、現代でいう専門学校的なものを作ろうとする試み。特産物も何もない茶州だからこそ、人材を作り出そうという考えはなるほど!のひとことではあるが、作中の世界ではそういった施設の概念がなく、さらに金はかかるが利益が出るのはだいぶ先……ということで、なかなか実現そのものが難しいといった状況。そこで秀麗は単身、頑固な工部尚書に(物理的な意味での)対決を挑むというまさかの展開に。けれど、そういうことを相手が受け入れてくれるのは、秀麗を「女子供」とみなしていることの表れであるのかもしれないが、同時に「女子供であろうと容赦せず、対等に扱ってやる」という意識の表れであるともとれる。幸い、今回の相手は後者だったのでよかったが、それにしても秀麗のなりふり構わないやり方はなんともすごい。やる気があるとか、運があるとか、そういうことだけでは片付かないものを彼女は持っているのかもしれない。

そんな中、水面下で進行しているのは秀麗の結婚話。紅家直系の娘である彼女は、まさに出世を望む男たちにしてみれば格好の獲物。紅家当主兄弟が策を講じ、全力でそれらをふるいにかけながらも、絳攸には秀麗と結婚し紅家当主を継ぐよう告げるという一幕も。けれどその一方で、秀麗が簡単に結婚することができない理由もまた浮き彫りにされる――初の女性官吏となった秀麗が、ヒラのままで終わることは断じて許されない。その後に続く女子たちのために秀麗は出世を続ける必要がある。けれど劉輝の存在もある――彼に望まれ、もし妃になってしまったら、それこそ官吏を続けることはできない。そんな苛烈な場所に置かれてしまった秀麗の本心は、いったいどこにあるのだろう。そしてすでに「王」という逃げ場のない場所に留まらざるを得なくなってしまった劉輝は、秀麗をどんな気持ちで見つめているのか。考えれば考えるほど、「公」の部分にのみ注力せざるを得なくなるふたりは、いったいこの先どうなってしまうのだろう。


◇前巻→「彩雲国物語 五、漆黒の月の宴」


茶州の州牧に命じられた秀麗と影月だったが、指定された期間内に州都・琥漣に到着し、正式に着任できなければ、その官位は剥奪されることになっていた。茶家の妨害に抗いながら琥漣を目指す秀麗たちだったが、期日まであと20日ほどというそのタイミングで、州牧代理によって琥漣の全面封鎖の知らせ――しかも「次期州牧のふたりはすでに到着済み」という偽情報つき――がもたらされるのだった。動揺する秀麗たちを横目に、燕青は旅程を順調にこなし、いよいよ琥漣の目前までたどり着く。そこに届いたのは、州牧着任式の前日に行われるという、茶家の当主選定及び就任の儀に新州牧を招きたいという書状だった。秀麗は自ら迎えにやってきた朔洵の手を取り、単身で茶一族の屋敷へと向かうが……。

中華風ファンタジーシリーズ5巻、州牧着任編がひと段落ということで。

茶家の妨害が激しく、なりふりかまわなくなり、焦る秀麗。しかし思いのほか前州牧である燕青はどこ吹く風。現在の州牧代理となっている補佐・鄭悠瞬と共に10年かけて策を練り、対策を積み重ねてきたという燕青だが、それが終盤に向けてぴたりとはまっていく流れにはさすがのひとこと。とはいえそこには秀麗の存在や、茶家前当主の妻・英姫の働きも大きかったのだろう。男は馬鹿だから、女が助けに行かねばならぬ――その言葉は孫娘である春姫だけでなく、はからずも秀麗をも動かしていたことになる。強い意志と行動力でもって未来を切り開いていくふたりの姿がなんとも眩しい。

一方、朔洵と秀麗の関係にもひとまずの終止符が。静蘭の懸念も含めていろいろと心配になる一幕もあったが、秀麗が劉輝と朔洵のどちらを取るかという問題にきちんと向き合い、選んだ答えにはとりあえず安心……なのだが、それは劉輝の抱いている感情とはまだ少し距離があるようなそうでもないような……という微妙な感じがまたいい。とはいえ朔洵の存在が、秀麗の心に大きな爪痕を残した事もまた確か。今後、このことが何かに影響してこなければいいのだが……。


◇前巻→「彩雲国物語 四、想いは遥かなる茶都へ」


名門貴族のひとつ・茶一族の支配力が強く、中央も手を焼いているという茶州の州牧に任命された秀麗と影月。燕青と静蘭を部下として従え、茶州へと向かったふたりだったが、茶家は様々な手段でふたりの赴任を妨害。しかも道中で、燕青と静蘭が「殺刃賊」なる犯罪集団の一員であるとして捕縛され、影月も一緒に連行されてしまう。とっさに隠れた秀麗だけは無事だったものの、かつて秀麗の命を狙い、しかし今は改心し彼女に再度仕えることを望んだ元宮女・香鈴もまた、秀麗と勘違いされて連れ去られてしまうのだった。ひとり残された秀麗は、商人たちの組織である「全商連」を頼り、州都へ向かう商人・琳千夜に同行させてもらうことにするが……。

女性官吏としての道を歩み始めたものの、やっぱり前途多難にもほどがある中華風ファンタジーシリーズ4巻。

秀麗に下された辞令は、その土地を牛耳る豪族の影響で、長きにわたり荒れ続けている茶州の州牧になること。新人ということもあり、影月と二人三脚、しかも(実は)前州牧であった燕青を補佐に、さらには武官として静蘭も伴うということで、これだけ見れば破格の待遇のよう。しかし仮にも中央から送られてくる官吏を亡きものにしよう、あるいは傀儡としようと企む茶家の振る舞いを目の当たりにすると、こんなんじゃ足りないのでは?と言いたくなってくる。実際、燕青と静蘭、影月と香鈴は捕らえられるし、関所では秀麗や影月と同年代の男女は意味もなく足止めを喰らい、先に進ませてもらえないという状況。卑劣な手をこれでもかと使ってくる茶家のやり方には腹が立つ以外の感情が浮かんでこない。

とはいえ今回の騒動は序の口で、目下のところ、真に敵と言えるのは茶朔洵なる青年。「琳千夜」と名乗り秀麗に近付いたその男は、すべてを退屈しのぎと嘯き、まるでゲームのように人の命を弄ぶ。そんな彼がおそらく生まれて初めて執着心を芽生えさせたのが秀麗の存在。そして秀麗もまた、彼の存在に心惑わされつつある。彼の振る舞いが妙に劉輝のそれと重なって見えるのはいったいなぜなのか。そしてそんな振る舞いにどこか気を惹かれてしまう秀麗の、その想いの向けられる先は一体どちらなのだろうか……。


◇前巻→「彩雲国物語 三、花は紫宮に咲く」


劉輝の尽力により、厳しい条件付きではあるものの、ついに女性の国試受験が認められた。秀麗は見事に第3位となる「探花」の位を得て合格したものの、同期たちや他の官吏たちの視線は想像以上に冷ややかなものだった。そしてその視線は、史上最年少となる13歳で第1位「状元」として合格した杜影月にも向けられていた。有能そうな若手にイビリともとれるような厳しい態度を取ることで知られる魯官吏は、秀麗に厠掃除、影月には沓磨きを命じ、さらに午後からはあからさまに大量の書類仕事を回すように。しかも新人官吏であるためか、ふたりはなぜか破落戸たちにも狙われるようになり……。

史上初の女性官吏を目指す主人公の奮闘を描く、中華風ファンタジーシリーズ3巻。ついに長年の夢であった官吏になれた秀麗だったが、さっそく壮絶なイビリ&蔑視を受けるというなんともつらい展開に。

男尊女卑というのはまさにこのことで、女性が政治に携わること自体が「ありえないこと」と考えられている彩雲国。ゆえに女だてらに官吏、しかも試験の結果が並み居る男子たちを抜いて3位ということもあって、周囲からはやっかみの嵐。さらにブラック企業も真っ青な仕事内容で、これまでに知り合いになった官吏たち――楸瑛や絳攸は助けてもくれない。とはいえ後者についてはそれをやると贔屓ととられかねないし、「女性官吏」という前例のないことに対する反発はこれからも絶えることがないだろうから、ひとりで耐えられなければ今後もやっていけるはずはない、という考え方もまあわかる。しかし、あまりにも理不尽な仕打ちが続くものだから、もうちょっとどうにかしてあげてよ!と何度も呻いてしまった。

けれど、そんな彼女に味方が皆無というわけではもちろんない。これまで彼女と知り合ってきた人々は、陰ながら彼女を支え、なにかしらのヒントをくれていたし、なぜか劉輝が下っぱ兵士のフリをして護衛してくれたし、紅家の人々も(それぞれの思惑はあるにせよ)彼女の助けになってくれていた。それがわかったときにはひと安心するとともに、彼女の頑張りを認めてくれる人もいるのだとあたたかな気持ちになる。

ということでいろいろと騒動はあったものの、なんとか官吏としての一歩を踏み出した秀麗。しかしそれは、劉輝との距離が広がってしまうということを意味する。けれど劉輝としては、ひとりの女性としての秀麗を好きでいるのと同時に、ひとりの人間としての秀麗の望み――官吏となってよりよい国を作ること――も尊重してくれている。その狭間で悩みに悩んだことは想像に難くないが、それでもちゃんと彼女の意志を理解してくれている、その器の広さがとにかくすごい!のひとこと。今はまだ彼の求婚を突っぱね続けている秀麗だが、劉輝の想いもまたきちんと理解してくれたようなので、今後の彼女の動向が気になるところ。


◇前巻→「彩雲国物語 二、黄金の約束」


例年にない酷暑の中、家の前で行き倒れていた男を助けた秀麗。燕青と名乗るその青年は静蘭の古い知り合いということで、しばらく居候させることに。そんな折、暑さで官吏たちが倒れ、朝廷が人手不足ということで、秀麗に外朝でしばらく手伝いをしてほしいという依頼が舞い込んでくる。もちろん外朝は女人禁制、しかもうっかり劉輝に遭遇してしまう危険性もあるため、秀麗は男装し「秀」と名乗り、同様に軍の仕事に駆り出された静蘭の代わりとして燕青を伴い、働くことになったのだった……。

中華風ファンタジーシリーズ2巻。官吏になりたいという夢を諦めきれない秀麗が、なぜか官吏の仕事に(男装して)就くというまさかの展開に。

官吏になりたいのに、性別が女性というだけでその道を閉ざされてしまっている秀麗。そんな彼女が先の出来事で高官たちと知り合ったり、政務に携わったりする中で、手が届きそうで届かないという現実を目の当たりにさせられる場面も。また、夏という季節は彼女にとってトラウマのある苦手な季節ということで、今巻の秀麗は落ち込んだり悩んだりと気持ちが沈みがち。そんな彼女を支えてくれたのは、謎の行き倒れ青年・燕青と、トンチンカンなプレゼントや手紙を送り続ける国王・劉輝の存在だった。燕青に関しては知り合ったばかりの他人ではあるが、逆に他人だからこそ見えてくるものもあるし、父親や静蘭には決して言えないようなアドバイスをくれることもしばしば。燕青の性格のせいもあろうが、狭い世界だけでは何事もうまくまわらないものだな、と思い知らされる。なお劉輝は……まあ、ドンマイ、ということで(笑)。

類稀なる美貌を仮面で隠す能吏・黄奇人や、その友人で秀麗にとっては叔父にあたる(しかし面識はなさげ)紅黎深らも登場し、また劉輝が女子の官吏登用を目指して動き出したことで、秀麗の運命は再び大きく動き始めることに。秀麗にしても劉輝にしても、周囲の人々に恵まれているなあと思うが、しかしふたりがそれを活かせる力を持っているからこそ、彼らのような有能な人々が集まってくるのだろう。困難しかないであろう道を自ら選び取ろうとする秀麗のまっすぐさや、やろうと思えば力ずくで手に入れることができるのに、彼女の意志を尊重してやまない劉輝の素直さがとても眩しく映る巻だった。


◇前巻→「彩雲国物語 一、はじまりの風は紅く」


仙人の加護を得て建国されたという彩雲国。名門貴族・紅家の令嬢でありながら、なぜか貧乏暮らしに喘いでいる秀麗にもたらされたのは、先だって即位したばかりの国王・紫劉輝の教育係として後宮に入る(ただし期間限定)という賃仕事。破格の報酬に飛びついた秀麗だったが、貴妃として入った後宮には彼女以外の妃嬪はおらず、待てど暮らせど劉輝がやってくる気配もない。それどころか彼には男色家との噂まで流れていた。ある日、暇を持て余した秀麗は、饅頭を作って王宮内で働く父親を訪ねることに。そこに現れたのは「藍楸瑛」と名乗る青年だったが、秀麗はつい先日、同じ名前の官僚と顔を合わせたばかり。翌日からも秀麗の手作り菓子につられてやって来る「藍楸瑛」を餌付けしつつ、秀麗は思い切ってある昔話を彼に語り……。

2003年にビーンズ文庫から刊行された中華風ファンタジーシリーズが、加筆修正されて角川文庫から再刊行。1巻では、後に彩雲国で女性初の官吏となる主人公・紅秀麗が、国王である紫劉輝との出会いが描かれてゆく。

名門貴族のご令嬢だというのに、世渡り下手な父親のせいで、庶民生活が板につきまくっている主人公・秀麗。書物好きな父親、13年前に拾って以来居候している青年武官・静蘭とつつましく暮らす秀麗は、数年前に起きたある出来事がきっかけで官吏になることを目指すも、彩雲国では女性が政治に関わることができないため、その夢を諦めていた。そんな彼女がこのたび関わることになったのは、なんとこの国の王様。政治に興味を持たない彼をサポートし、どうにかまっとうな王様になるよう軌道修正すべく秀麗が奮闘する……と思っていたら、そのへんはわりとあっさり成功。しかし国王の座を狙う陰謀に巻き込まれてしまうことに。

陰謀あり、ロマンス(?)あり、解けずじまいな謎もあり……と、スピーディーながらも丁寧な展開が小気味よく、また秀麗と劉輝の微妙な関係がなんとも微笑ましい。昏君と見せかけて実は文武両道、しかしある理由で「能ある鷹は爪を隠す」がごとく振舞っていた劉輝や、そんな彼を信頼して集い始めた若い官僚たちが、これから国をどう動かしていくのか、そして秀麗の夢はどのように実現するのか……長いシリーズなので波乱万丈が待っていそうで、いろんな意味で今後の展開が楽しみ。


23世紀の香港――世界有数の学術都市となったその島において、最高位の遺伝子学博士であるヒナコ・神崎は、学会出席後にSPの監視をかいくぐって逃走し、対岸にあるネオ九龍をさまよっていた。そんな彼女が廃墟で出会ったのは、巷で「幽霊少年」と噂される謎の人物。ゲノム研究が進み、今や出生前の遺伝子編集や、遺伝子コード登録による情報管理が導入されている香港や九龍にあって、なぜかその監視網にひっかからないという少年の存在が、ヒナコはなぜか気になって仕方がない。だから後日、政府が少年を捕えたというニュースを聞くやいなや、ヒナコは自身の研究を盾に、その身柄の保護を申し出るのだった。ヒナコが研究を続けているのは、原因不明にして致死率100%、しかしAIによる検査では死してもなお異常なしと診断される「霧の病」への対処方法。ヒナコが便宜上ハルと名付けたその少年――なぜか彼は喋れないので――が、自分たち遺伝子編集した人々とは異なる遺伝子を持っている可能性に気付いたヒナコだったが、かといって彼を実験材料として扱うこともできず……。

遺伝子工学が飛躍的に発達した未来が舞台のささやかなボーイ・ミーツ・ガールSF。

AIによる検査では「正常」とされながらも、どこかアンバランスな精神の持ち主である――本人はしもかく、周囲からは不安定さを指摘される主人公のヒナコ。同じく遺伝子学者だった母を奇病「霧の病」で亡くして失意に沈む彼女だったが、周囲はそれこそが不安定の証左だとするのだ。この時点ですでに、この世界の人々の感覚が現在の私たちのそれとは大きく異なっていることがわかる。「正常」と判断されているにも関わらずどこかおかしい、そんな(読者にとっては)不穏な世界で、ヒナコは「幽霊少年」と呼ばれる謎の存在と出会い、あっと言う間に惹かれていく。本人にその自覚はなくても、きっとそれは恋だったのだろう。そして彼――「ハル」にとっても。

言葉が通じないにも関わらず、なんとなくではあるが互いの意思の疎通がとれるふたり。会えないときは何をしているかわからないハルと、確実に会えるようになったのは週にたった1度だけ。時に(文字通りに)すれ違いながらも、お互いに少しでも長く一緒にいようと彷徨うふたりが微笑ましくもあり、そしてやがて来るだろう別離の時を思わせて、苦しくなることもある。

やがて物語は香港で爆発的に増加していく奇病「霧の病」の正体へと移ってゆくことに。ヒナコが突き止めたその正体は、香港政府にとって到底認めがたいものであり、ふたりは大きな力によって引き離されてしまうことになる。ヒナコが懸命にハルを助けようとし、そしてハルもまたヒナコを救おうとする、その姿が胸を衝く。ふたりが迎えた結末は完全無欠のハッピーエンドとは言えないものかもしれないけれど、それでもふたりが寄り添う姿を見られただけでとても嬉しいと、素直に思った。




皇帝選のお披露目を目前に控える中、アリルらしき少年が遺体となって発見された。戸惑いながらもミレディアはアリルの生存を信じ、残された仮面を手に帝都をさまよい続ける。一方、白の妃ネネの罠からからくも逃げ切っていたアリルは、身体から精神を切り離した状態で過去を渡り歩いていた。そんな中、ラムザは皇帝になるという決意を改めて固め、ミレディアを白妃宮へと呼び寄せ、以前のように王朝語の講義をさせた後、アリルの居場所だという紙片を渡す。そしてミレディアの退室後、現れたロジェを――「法皇の代理人」たる枢機卿を自身の後見人とするのだった……。

様々な思惑が交錯する大河ファンタジー、約2年半ぶりとなるシリーズ3巻は前後編。本編に加え、4年前のグランゼリア城包囲戦を描く中編「碧落」を収録。

前篇では行方不明になったアリルを、ミレディアがその命を賭して追う姿が、そして後篇では12月の冬至の日、皇帝選に先駆けた候補者――ラムザとアリル――のお披露目の顛末が描かれる。特に前者では時間軸が現在と過去入り乱れ、アリルがかつての恐怖帝と遭遇したり、ミレディアの過去を垣間見たり、そのさなかで以降の展開に関わってくる小ネタが混じっていたりと、なかなか息つく暇もない描写が続く。そしてその合間で語られるのは、ふたりの周囲の人々の思惑やその過去。白の妃ネネとアキの関係、ラムザの決意とその正体、王弟カイの忠誠心……それらはミレディアとアリルにとって時に助けとなり、時に障害となる。彼らの想いはどこまでも真摯で、私欲すらはらむ余地はない。それは自身の信じるものの、あるいは誰かのための行為であり、そのためだったら狂っても構わないとすら考える、どこまでもひたすらに純粋な願いであり目的である。その中をミレディアとアリルは繋いだ互いの手だけを頼りに駆け抜けようとする。その先にあるのは絶望と破滅、あるいは別離だけだとしても。

「碧落」で描かれた4年前のグランゼリア城包囲戦の凄惨な顛末は、これからミレディアに訪れるであろう未来の写し絵なのかもしれない。エセルバートの願いを叶えるため――ただそれだけのために、アキはこの惨状を招いた。夥しい死の中でたくさんの仲間を、そして友人となれるはずだった少年を失い、さらにはアキの裏切りを知ったミレディアの中はもうからっぽ。あの時も、そして今でもなおアキは微笑みを浮かべ、自身の「願い」のために奈落の底を歩き続け、ミレディアもいずれはそこに向かうしかなくなっている。アキは「今」のミレディアがアリルのために存在していることを知ってもなお、最後は自分のもとに来ると信じて疑わない。そしてミレディアもそうなるだろうと考えているようだが、その一方でお披露目の夜のアキとの対峙の様子を見ていると、以前とはわずかであるがアキへの接し方が変わっているような気がしなくもない。アリルの手はそんな彼女を引き留めるよすがとなれるのか。そして「運命の石」が鳴らした音は最後の希望か、あるいは単なる絶望を上乗せするだけとなってしまうのか。ネネが好んで歌い、あるいは「碧落」の中で語られる「太陽王」と「月の妃」の物語はいったい誰のことを暗示しているのだろうか。かつての鳥かご、あるいはこの神話になぞらえられ、絡めとられてしまうのは一体。


◇前巻→「レアリア2 仮面の王子」


帝国は王朝との休戦協定延長をしない、と皇帝自らが断言。そしてその期限の1か月前に皇帝選を行うことを決める。魔女家が擁立したアリル皇子との婚姻を結んだミレディアは、宰相会議に出るために力を尽くしてくれたアリルのため、自分が何をすべきかを考えていた。そしてアリルもまた、家族となったミレディアのため、もうひとりの皇子・ラムザと共にデュアメル学院に通い、皇帝候補としての覚悟を決めようとしていた。そんな中、ミルゼリスから帝都を出るよう勧められるも固辞し、アリルのために帝都で働きながら彼を支えようとするミレディア。そんなミレディアにアリルは、あなたの話を聞かせてほしいと告げる。ミレディアは王朝皇子アイゼンとの邂逅とその逃亡を幇助したこと、そして4年前のグランゼリア戦で初めてひとを――アイゼンの兄であるレキセイをその目の前で殺したことを、少しずつ語り始め……。

嵐の前の静けさを語る本格大河ファンタジー第2巻。
今回はミレディアとふたりの皇子、さらには過去に決別した王朝皇子との関係が語られてゆく。

晴れて(?)夫婦となったミレディアとアリル。宰相会議前の邂逅を経て、互いに信頼に足る人物だと認め合いはしたもの、これまでなにも持たなかったふたりゆえに、これ以上距離を縮める方法が分からない。そんなふたりが不器用ながらも少しずつ寄り添い合い、互いを支えたい、互いを知りたいと願う姿がなんとも微笑ましい。そして、買い物という行為を知らなかったアリルが、ミレディアから初めて貰った銀貨で購おうとしたのが、「ミレディアのこと」――つまり彼女のことを知りたいというただそれだけの願いだったというくだりには、もう微笑ましいを通り越して涙が出そうになる。ああ、この少年は、これまで何も知らず、何も与えられず、そして何も欲しがらずに生きてきたんだなと。そしてそんな彼がようやく欲しいものを見つけられたのだな、と。過去も未来もなにも持たないよく似たふたりは、ようやくささやかな未来へのよすがを見つけられたのだな、とも。

しかしそんなふたりのささやかで穏やかな日々は、あくまでも周囲の大人がお膳立てしてくれた束の間のものに過ぎず、その代償としてこの先に絶望だけが待っているのだということが、同時に語られてゆく。ふたりがいま殺されず見逃されているのは、すべて来るべき開戦の日のため。美しき枢機卿ロジェ――アキは、他者の願いを叶える存在だと嘯きながら、ミレディアのすべてを――幸福も絶望も、そのすべてをただ望み、今も昔も暗躍を続ける。もうひとりの皇子であるラムザは、アリルやミレディアの存在を受け入れながらも、最終的に皇帝に選ばれるのは自分であり、その後のふたりに破滅しかないことを、ただ自明のこととして受け入れることしかできない。そして、かつて帝国に秘密裏に捕らわれていた王朝の皇子アイゼンは、自分を救ってくれたミレディアをそうとは知らず兄の敵として憎み続け、開戦後は自分の手に掛けることを夢見ている。それらをすべて受け入れてもなお、ミレディアはただ、小魔女として自分のなすべきことをなそうとする。そうして自分が貫くことのできなかった、人を殺さないという信条を、アリルに託すことにする。それが最後の希望だとでも言うかのように。

小さき魔女とふたりの皇帝候補、そして帝国を滅ぼし魔女の命を奪うことを希う王朝の皇子――オレンディアとユーディアス、そしてアリュージャが辿った過去を再びなぞるかのように駒が揃いつつある。かつての鳥かごを再現するのは一体誰なのか、そして魔女をその手に入れるのはいったいどの皇子なのか。相変わらず絶望の底でもがくことしかできないようなこの物語が、この先どう転がっていくのかが気になって仕方ない。


◇前巻→「レアリア1」

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帝国と王朝が長い間争い続けている世界。かつて帝国の「鳥かご」にはふたりの少年とひとりの少女が囚われており、3人は「鳥かご」からの解放を望んでいた。それから数十年経ち、ふたりの少年は帝国と王朝それぞれの王に、少女は帝国の軍事を担う魔女将軍になっていた。魔女――オレンディアは国防に努める傍ら、養女のミレディアを帝都へと送りこむことを決める。それはミレディアを次期皇帝候補に嫁がせてその候補を後見するためであり、さらには来るべき王朝との休戦協定終了後について、皇帝ユーディアスに最後通牒を突きつけるためであった。当初は結婚話を拒んだミレディアだったが、最終的にはオレンディアの意を汲み帝都へと向かうことに。ミレディアを慕う「ツギハギ部隊」最後の生き残りであるレナート、そしてオレンディアの部下でもある「死神」ギィと共に帝都へと向かったミレディアだったが、道中、そして帝都でもその命を狙われており……。

その出自が不明な「小魔女」ミレディアが過酷な運命に身を投じることになる、本格大河ファンタジー1巻。

時系列が交錯する物語の中で語られるのは、オレンディアたちの過去とミレディアの過去、そして現在の出来事。とりわけミレディアはその出自からして謎だらけだが、唯一の心のよりどころとなっていたのがアキなる青年の存在だった。ミレディアがオレンディアの義弟ミルゼリスに拾われるよりさらに前、この世のものとは思えぬほどの美貌の青年が現れ、幼いミレディアを救っていた。少女にミレディアという名を付けたのはその青年であり、青年にアキと名付けたのはその少女だった。だがある時姿を消してしまったアキは、思いがけない姿で成長したミレディアの前に現れ、そして彼女にあらゆる絶望を突き付けて帝都へと舞い戻っていく。

物心ついたその瞬間から何も持っていなかった少女は、青年と出会うことで「ミレディア」となった。その後オレンディアに育てられ、ツギハギ部隊の面々に慕われ、ミレディアは自分を愛してくれる人々を心から愛してきた。そしてなによりも、アキのことをただひたすらに愛してきた。だからこそ、その裏切りに――アキの理由は、真意は分からないけれど――、ミレディアのアキへの愛は憎しみへと変わってゆく。否、純粋な想いは結局、愛だと憎しみだとか、ひとつの名前は付けられないのだろう。今でもミレディアはアキを愛しているし、同時に自分の手で殺したいとも願っているのだ――そしてきっと、アキも。そんなミレディアが出会ったのが、次期皇帝候補として擁立された謎の少年の存在だった。

オレンディアの――ミレディアの存在がなければその立場は途端に危うくなってしまう少年。そして帝位継承争いに負けてしまってもやはり死ぬしかなくなってしまう少年。そんな少年に幾度となく助けられたミレディアは、戸惑いながらもその手を取ることになる。しかし同時に、彼を巻き込まないように、いつか手を放す決意も固めていた。休戦以前の状況や休戦中の国内の権力闘争によって疲弊している帝国が、王朝に勝てる見込みはほとんどないとオレンディアは告げる。しかしそれを覆すための策を皇帝は退けた。もはや勝ち目のない戦争を前にして、ミレディアは抱えきれない程の絶望のただなかにいた。からっぽだったミレディアの中に降り積もった絶望は、彼女を絡め取る。しかしミレディアが歩みを止めることはできない。その先にあるのがアキのうつくしい微笑と奈落の底だとしても、それでも。

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