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読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。 (当ブログは全文無断転載禁止です)

カテゴリ: 近藤史恵


とある会社のオペレータールームに配属されることとなった、社会人1年目の梶本大介。女性ばかりの部署、しかも中には自分より年下の先輩もいるということで、イジられながらなんとなく肩身の狭い思いをしていたのだった。そんなある日、ランチに誘ってくれた女性陣が、その場にいない別の先輩の悪口を言い始めたため、その先輩の仕事ぶりを尊敬していた大介はとっさに反論してしまう。さらにその直後、大介はほかの女性社員がモメている案件を、新人ながら解決してしまう。するとその数日後から、大介のデスクから書類が消えるという事態が起こり始めるのだった。困惑しながらも書類を作り直していた大介だったが、後日、この会社の清掃全般を請け負っている少女・キリコからなくなったはずの書類を手渡される。外のごみ箱に捨てられているところを見つけたというキリコは、仕事が終わった後の大介を呼び出して事情を聞き出すと、その犯人を彼に示す行動に出て……。

ギャルっぽい派手な見た目に反し、掃除が大好きな少女・キリコが、社内で起きる様々な事件を解決してゆく〈清掃人探偵・キリコ〉シリーズ第1弾。

主人公の大介のみならず、誰もが想像している「清掃人」のイメージとはまったく真逆のイマドキの女子・キリコ。毎日派手で可愛いスカートなどを翻しながら、重い清掃用具を手に、夜のオフィスをきれいにするのがお仕事。しかも洞察力もピカイチで、入社間もない大介のデスクから重要書類が消えた事件を推理して見せたのを皮切りに、オフィスに出入りする保険会社の営業のおばさんを殺した犯人、大介の同僚がマルチ商法に自らハマりにいった理由、派遣社員の体調不良の理由……等々をどんどんと解き明かしていく、その鮮やかさがたまらない。

そんな風にいろいろな事件に関わるうち、大介とキリコの距離がなんとなく近付いているという展開も気になる本作。そんな中、今巻最後のエピソード「史上最悪のヒーロー」では、冒頭からキリコが仕事を辞めて音信不通になっているうえ、大介が新婚ほやほやにも関わらず、その妻に逃げられ離婚寸前!?というまさかの展開に。最後まで読むとこれらの謎が解けていろいろな意味でスッキリはするのだが、いきなりのヘビーな展開には驚かされること請け合い。このエピソードを経て、2巻からはどんなストーリーになっていくのかも気になるところ。

Shelter (祥伝社文庫)
近藤史恵
祥伝社
2020-10-15

大阪・梅田の雑居ビルの屋上にある「合田接骨院」。ここで働いている恵は、整体師である合田や、妹の歩に「海外旅行に行く」と嘘をつき、休みを取って東京へと向かっていた。そんな中、「いずみ」と名乗る少女に助けを求められた恵。詳しい事情は喋らないものの、ざんばらに切り刻まれたその髪型に不穏なものを感じた恵は、彼女と行動を共にすることに。しかしその後もいずみの周囲で不審な出来事が起こったり、いずみ自身が何者かに襲われて怪我をしたため、恵は彼女を密かに大阪の合田のもとへと送り出すが……。

整体師探偵・合田力シリーズ、新装版3巻。今回は合田のもとで働いているワケありの美女・恵にスポットを当てた内容となっている。

かつて母親を亡くし、義父から性的虐待を受けていたという恵。そのせいで妹の歩とぎくしゃくしていた時期もあり、いまだにそのことが傷となって残り続けていた。今回の東京行きも「すべてを捨てて消えてしまいたい」という自棄的な行動であり、序盤はそんな恵の危うい状況が綴られていくの田が、そこに輪をかけて危うく、かつ秘密を抱えている少女・いずみが現れたことで、状況は混迷を深めてゆくことになる。

もちろん大阪在住の面々も健在で、当初は仕事のために小松崎が東京と大阪を行ったり来たりし、そのかたわらで恵の行方を探したりもしていたが、最終的には合田や歩も上京してくることに。現地でも折り畳み自転車を入手(もしくは持参?)し、タクシーや地下鉄ではなく自転車での移動にこだわる合田の姿がなんとも楽しい。と同時に、合田の過去――なぜ雑居ビルの屋上のプレハブ小屋で「知る人ぞ知る」的な接骨院を営んでいるのか――もわかったりして、いろいろと読み応えのある展開になってくる。今のところこの3冊でシリーズは中断(または完結?)されているようだが、その後の彼らの様子も見てみたい。


◇前巻→「茨姫はたたかう」

ときどき旅に出るカフェ
近藤史恵
双葉社
2017-07-28

OLの奈良瑛子が近所でたまたま見つけたのは、「カフェ・ルーズ」という小さなカフェだった。店主である葛井円はかつての後輩で、たったひとりでこの店を切り盛りしているのだという。6年前、彼女がカフェをしたいので退職するという相談を受けた際、「成功するのは難しい」「やめた方がいい」と言ってしまったことを思いだして後悔していた瑛子だったが、円はわだかまりを抱えている風でもなく、親しげに語りかけてくるのだった。そんなある日、寿退社予定の後輩・あずさに頼まれ、再び「カフェ・ルーズ」を訪れることになった瑛子。あずさの婚約者である蘇我はルーズの近くでカレー専門店を開くらしく、その彼も同行していたのだが、円は蘇我の態度に不審なものを覚えたらしく……。(「苺のスープ」)

世界各国を旅した店主が、訪れた土地ならではの料理を提供している「カフェ・ルーズ」。常連客の瑛子と店主の円が、カフェに持ち込まれるささやかな謎を解き明かすコージーミステリ連作集。

瑛子たちが解き明かす謎もさることながら、やはり気になるのは円が提供する世界各地の料理。特にスイーツが多いのだが、表紙にもなっている「苺のスープ」をはじめとしてどれもこれも美味しそうで、読んでいるとおなかが空いてくるような気がしてくる。と同時に、トリビア的な小ネタもちょこちょこ出てくるのが面白い。

物語は客たちの持ち込む謎から、円自身にまつわる謎へとシフトしていく。6年前に退職したはずなのに、カフェを始めたのは2年前だと語る円。その空白にいったい何があったのか――「カフェ・ルーズ」の近くに、ルーズそっくりのメニューを出す「ヴォワヤージュ」というチェーン店が進出してきたころから、円についての謎はどんどん深まってゆくのだが、そこからたどり着くラストには驚きのひとこと。いろいろと納得すると同時に、まずはおめでとうの言葉を贈りたいと思う。

マカロンはマカロン ビストロ・パ・マル・シリーズ (創元推理文庫)
近藤 史恵
東京創元社
2020-07-30

ホワイトデーが近付いてきたある日の「パ・マル」にふたりの女性客が現れる。ふたりの年齢差や服装、漏れ聞こえる会話の内容から、智行は同業者ではないかと考える。すると年上の方の女性を見て驚く三舟シェフ。実は年上の方の女性――波田野と三舟シェフはフランスでの修行仲間。また、同行している若い女性・岸部は、波田野がこの度オープンさせる女性スタッフのみのビストロ「カミヨネット」で、パティシエとして働く予定なのだという。フレンチ業界の話に花を咲かせる中、波田野は岸部に、店の規則として仕事中はメイクや香水が禁止であることを告げる。それから1週間ほどたったころ、波田野が再び「パ・マル」を訪れる。なんでも岸部から突然、クッキーのような焼き菓子と「マカロンはマカロン」と書かれたカードが届き、以後連絡が取れなくなったらしく……。(「マカロンはマカロン」)

下町の小さなフレンチレストラン「ビストロ・パ・マル」を舞台に持ち込まれる様々な問題を描く、日常の謎系ライトミステリシリーズ第3弾。今回は2010〜2016年に「ミステリーズ!」に掲載された8編が収録されている。

今巻には過去編はなく、すべて現在の店での出来事ばかり。その中で特に今回気になったのは「青い果実のタルト」と「ヴィンテージワインと友情」の2編。前者は「パ・マル」で提供していないはずのブルーベリータルトがなぜか注文されるようになった理由について、そして後者はある若者たちのグループの食事会の裏事情について描かれていく。どちらもその真相はあまり気持ちのいいものでもなかったのだが、かといってシェフの料理に救われたというような安易な結末になるわけでもないという展開が個人的にはよかったと思う。


◇前巻→「ヴァン・ショーをあなたに」

ヴァン・ショーをあなたに 〈ビストロ・パ・マル〉 (創元推理文庫)
近藤 史恵
東京創元社
2015-02-27

フランスの田舎町ストラスブールに滞在していた「ぼく」こと貞晴は、体調を崩してユースホステルで寝込んでいた。そこに転がり込んできたのは、料理人としての修業中だという日本人の男、三舟忍。彼が作ってくれた味噌汁と卵粥ですっかり体調の良くなった貞晴は、宿のスタッフであるルウルウに誘われ、三舟も交えて「マルシェ・ド・ノエル」――クリスマスマルシェを見に行くことに。ここでミリアムというおばあさんが売っているヴァン・ショー(ホットワイン)が格別なのだという。しかしこの日、そのヴァン・ショーを飲んだルウルウはいつもの味とは違うと言い出す。ミリアムから事情を聞きだしたルウルウいわく、体調を崩した娘婿がミリアムのヴァン・ショーをこっそり捨てていたことにショックを受けたため、もう以前のようなヴァン・ショーは作らないのだ、と。その話を聞いた三舟は、ミリアムの娘婿がヴァン・ショーを捨てていた理由をあっさりと突き止めて……。(「ヴァン・ショーをあなたに」)

下町の小さなフレンチレストラン「ビストロ・パ・マル」を舞台にした日常の謎系ライトミステリ短編集第2弾。今回は2006〜2007年にかけて「ミステリーズ!」に掲載された5編に加え、本作の単行本版に書き下ろされた2編が収録されている。

冒頭から置かれた1〜4編目は前巻同様「パ・マル」のギャルソン・智行が語り手となり、店で起きた小さな事件あれこれを解決していくという展開なのだが、5編目からは趣が異なる内容に。「氷姫」も「パ・マル」が舞台ではあるが、ここでは恋人との関係に悩むある客が語り手となっている。そして単行本版書き下ろしの2編は三舟シェフの修業時代を描く過去編。とはいってもスパルタ料理修行編……というわけではもちろんなく、各エピソードの語り手が問題を抱えて途方に暮れているところで、たまたま修業中の三舟と出会い、彼がその問題を図らずも解決してくれるという展開に。巻き込まれ体質というほど派手なものではないが、三舟シェフのいるところで大小様々な問題が起こり、それをシェフが解決していくというのは今も昔も変わっていないのだなあ、となんだかしみじみしてしまった(笑)。


◇前巻→「タルト・タタンの夢」

タルト・タタンの夢 〈ビストロ・パ・マル〉 (創元推理文庫)
近藤 史恵
東京創元社
2014-05-16

下町の片隅にある小さなフレンチレストラン「ビストロ・パ・マル」。無精髭を生やし、長髪を束ねた無口なシェフ・三舟が作る料理は、高級さではなく家庭的な雰囲気に満ちており、本当にフランス料理を愛する人々の間で人気を博していた。そんなある日、常連客の西田が、有名な歌劇団の女優と一緒に現れる。婚約したというふたりはとても幸せそうな雰囲気だった。それから2週間ほどたったころ、仕事の関係者と共に現れた西田は、どこか体調が悪そうだった。あとで話を聞くと、婚約者が作ってくれたというフランス料理を食べて以来、おなかの調子が悪いのだという。そこで出されたタルト・タタンの話を聞いた三舟は、不意に姿を消す。と思ったら、外から見知らぬ女性を連れ帰ってきて……。(「タルト・タタンの夢」)

「パ・マル(悪くない)」と名付けられた小さなビストロを舞台に、客たちが抱える問題をシェフの三舟が解決していくライトミステリ短編集第1弾。2003〜2006年に「ミステリーズ!」に掲載された7編が収録されている。

語り手となるのは「パ・マル」のギャルソンを務める青年・高築智行。フランスの田舎の店を転々としながら修行してきたという料理長の三舟と、その三舟の腕に惚れ込んでやってきたという副料理長の志村、そしてワインの虜となりOLを辞めて転職したというソムリエの金子ゆきも合わせ、たった4人で切り盛りしているという小さなビストロが舞台となっている。決まったメニューはなく、日々の仕入れによってその日の料理が決まるというスタイルや、体調が悪い客や偏食の激しい客のため、特別メニューを作るというような気遣いなども、小さい店ならではといったところ。しかしだからこそ、客との距離が近いがために、彼らが抱える問題を解決してしまえるということにもなるのだろう。

ちょっと変わった店の面々(三舟が修業時代に「ミフネ」という苗字とその容貌のせいで「サムライ」と勘違いされていたとか、金子の趣味が俳句だとか)もさることながら、やはり気になるのは日々供される料理の数々。アランス料理にはまったく詳しくないのだが、出てくる料理はどれもおいしそうで、目の前にあたたかな鍋料理の湯気が見えてきそうな気さえする。そして悩めるお客様たちにシェフが勧める「ヴァン・ショー」(いわゆるホットワイン)もまた魅力的。次巻のタイトルにはその「ヴァン・ショー」が出てくるとあって、ますます気になってくる。

茨姫はたたかう (祥伝社文庫)
近藤史恵
祥伝社
2020-09-11

大学生の弟ができちゃった結婚をしてしまったため、実家を出てひとり暮らしをする羽目になった書店員の久住梨花子。女性専用マンションとはいうものの、管理人はオタクっぽい男性だし、両隣の住人とはあまり気が合いそうにない状態。職場では仲の悪い店長とブロック長の間で板挟みになり、突然告白してきた同僚とは気まずい関係が続いている。実家に帰れば、自分には厳しかった母親が、義理の妹とは仲睦まじく暮らしているのを目の当たりにさせられる。そんなある日、梨花子は自分あての郵便物に開封されているような形跡があることに気付く。鍵をつけてもすぐになくなってしまい、さらには不気味な手紙が入れられていることも。そんなストレスのせいもあってか、突然腰に激痛が走って動けなくなってしまい……。

身体の「声」を聴くことのできる整体師・合田が、患者の抱える問題を解決する「整体師探偵・合田力」シリーズの新装版第2弾。

今回は書店員・梨花子のストーカー事件が描かれていく。職場でも私生活でもストレスを抱える彼女に忍び寄るストーカーの影。正直に生きているだけなのに割を食わされる彼女の境遇に共感を覚えつつも、そんな彼女が殻を割って一歩を踏み出すことを決めるくだりはなんとも印象的。当初は苦手だと感じていた両隣の住人・早苗と礼子との関係も微笑ましい。

一方、前巻に引き続いて雑誌編集者の雄大も登場。合田先生と一緒になって梨花子の問題解決に協力するという流れは前巻同様だが、それとは別に、彼と合田接骨院の事務員・歩との恋の進展も見どころとなっている。今回、合田だけでなく歩の姉・恵からも明かされたのが、この姉妹の抱える複雑な生い立ち。そして雄大もまた、梨花子と同様に、歩に対して正直に接していたがために、ふたりの関係は一時こじれてしまう。しかしこちらもちゃんと報われるラストになっていて、ほっとひと安心。でもこうなると、恵は「大丈夫」なのかどうか、そのあたりが気になってくる。


◇前巻→「カナリヤは眠れない」

カナリヤは眠れない (祥伝社文庫)
近藤史恵
祥伝社
2020-09-11

ローカル週刊誌の編集者である小松崎雄大は、ある朝盛大に寝違えてしまう。首の痛みに耐えつつも取材に出ていた雄大だったが、たまたまぶつかった女性・歩に連れられ、彼女が働いているという接骨院を訪れる。雑居ビルの屋上に置かれたプレハブ小屋で接骨院を営む整体師・合田力のおかげですっかり体調がよくなった雄大は、受付の歩がタイプの女性だったということもあり、その後もちょくちょく通うように。そんな矢先、墨田茜という専業主婦を診ることになった合田。患者に触れただけでその人の境遇までも言い当ててしまう能力の持ち主である合田は、茜に何らかの悪意がまとわりついていることに気付くが……。

1999年に刊行された「整体師探偵・合田力」シリーズの新装版1巻。「身体の声が聞こえる」というちょっと変わり者の整体師・合田力が、患者の抱える闇を暴き救い出すミステリ長編となっている。

雑誌編集者の雄大と、専業主婦の茜のふたつの視点から進行する今巻。独身時代に買物依存症に陥って借金を作ってしまった茜は、仕事を辞め実家に戻ったのち、たまたま道案内をした男性・墨田に見初められて結婚。飲食店を経営しているという墨田はとてもやさしい夫で、時折やってくる姑の存在を除けば、幸せな専業主婦生活を送っているはずだった。しかし自分でもよくわかっていない空虚さを持て余し、再び夫から渡されたカードを使い、高価な買い物をするようになってしまう。そんな彼女の抱える問題を合田は見抜き、解決へと導こうとするのだ。

とはいっても彼女の問題に直接に切り込んでいくわけではなく、状況証拠をそろえて手助けをするという程度ではあるのだが、その手つきはとても鮮やか。いつしか巻き込まれてしまった雄大が驚くばかりなのも無理はない。一度は流されかけたものの、ようやく「自分」を取り戻した茜の決断も含めて、なんともすっきりした気持ちにさせられるラストだった。

あなたに贈るキス (ミステリーYA!)あなたに贈るキス (ミステリーYA!)
近藤 史恵

理論社 2010-07-28
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唾液に潜むウイルスによって引き起こされ、速やかに死に至る病「ソムノスフォビア」が発見されて以来、唇を合わせるキスはいやらしいものとして忌避され、その存在自体が消え去りつつあった。全寮制の私立高校に在籍する美詩は、先日急死した先輩・織恵がソムノスフォビアに感染していたことを知り、ショックを受ける。ソムノスフォビア研究者を父に持つ先輩・梢に引きずられるように、美詩は織恵を死に至らしめた犯人を探り始めるが……。

外出さえ自由にできない、山奥にある全寮制の私立高校「リセ・アルビュス」。ほぼ密室状態と言ってもいいこの学園で、織恵を殺したのはいったい誰なのか――あるいは、唇を合わせるキスが忌避されている風潮の中で、織恵がそれでもキスしたいと思った人物とは誰なのか。誰にでも好かれていた優しく美しい先輩は、なぜソムノスフォビアで死ななければならなかったのか――渦巻く謎に翻弄される美詩は、梢と行動を共にする中で、知りたくなかった織恵のプライベートを知ることになる。と同時に、今はもう絶えて久しい「キス」というものがどんなものなのかを知ることになる。

事件を通して美詩が知り合うことになった、ソムノスフォビアのキャリアが抱える想い――愛する人を自分が殺してしまうという絶望感。それでも人と繋がりたいという、人を愛したいという、その願い。人を好きになること、愛することとはなんなのか、それを考えながら、美詩は事件の真相に近付いていくことになるが、そこで彼女を待っていた結末は、読んでいるこちらもまったく想像していなかったものだった。
「絶望すると、世界はまったく違うように見える」と、織恵の部活仲間の砂川は言った。絶望感に苛まれていた織恵には、世界はどう見えていたのだろうか。そしてまた、真実を知ってしまった美詩の世界はどのように変わってしまったのだろうか。
とても残酷で、けれどどこかうつくしい、そんな物語だった。

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