人手不足の飲食店で多忙を極め、心身ともに疲れきっていた綾瀬葵は、帰宅途中に「紅葉坂萬年堂」という万年筆の専門店にふらりと入ってしまう。店主の宗方志貴から丁寧な説明を受け、万年筆の世界に魅せられた葵は、スタッフ急募の貼り紙を目にし、とっさに「雇ってください」と口にするのだった。しかし万年筆の世界は奥深く、覚えなければならないことが山ほどあるため、初めての接客もなかなかうまくいかず……。
万年筆に魅せられたふたりの関係を描く、万年筆&インク愛溢れる長編小説。
丁寧なセールストークで葵を一気に万年筆沼に沈めた「紅葉坂萬年堂」の若き店主・宗方だが、万年筆トークを取り上げてしまうと会話が続かなくなる、まさに万年筆だけを見つめて生きているといっても過言ではない人物。店主としては文句のつけどころがないものの、対人コミュニケーション能力が低すぎるために、特に序盤で仕事の役に立てないことに悩む葵との相性はあまりよくない状態。しかし少しずつではあるが葵の接客がうまくいったり、宗方の親友(あるいは腐れ縁)・二階堂が登場したりするうちに、葵も宗方の不器用さに気付き、少しずつ距離を縮めていくという展開に。その関係には思わずニヤニヤさせられる。なんという微笑ましいふたり!
一方で、宗方の万年筆(およびインク)トークは、作者自身が文房具に対して並々ならぬ愛着を持っているだけあって、時にマニアックではあるが、どれも興味深いものばかり。葵だけでなく、読んでいるこちらもつい、今度文具店に行ったら万年筆やインクを見てみたいと思った。










