phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

タグ:谷瑞恵


千景たち「キューブ」の面々のもとに飛び込んできたのは、鈴蘭学園という美術科で有名な高校で起きたふたつの事件だった。ひとつは山際由美という女生徒が校舎から飛び降りたという自殺未遂事件。そしてもうひとつは、その女生徒が「虹展」という有名な絵画展に出そうとしていた絵が行方不明になったという事件。しかもまだ賞もとっていないその絵を、プラチナ・ミューズ画廊の矢神が買い取ろうとしていたという情報のオマケつきで。その絵に興味を持った面々はさっそく捜索を開始。その一環として、千景が編入生と称して鈴蘭学園に潜入することに。そこで千景はふたつの相反する証言を得るのだった――一方は由美が常にひとりで行動することを好む少女だったという証言。そしてもう一方は、いじめを受けて孤立していたという証言で……。

「図像術」が隠された呪いの絵画を追う美術ミステリシリーズ5巻。今回は千景が女子高生として学校に潜入!?という驚きの展開に。

もともと他人との感性の違いもあって他者と馴染めなかった千景だけに、透磨は千景のJK作戦に否定的。もちろんそれは彼女のことが心配で仕方ないからなのだが、当の本人は思いのほかけろっとしているし、男子生徒に言い寄られて興味半分で放課後デート的なことをするしで、透磨の機嫌は悪くなる一方。当たられる千景としては憤懣やるかたないとは思うが、傍から見ているとなんというか楽しすぎる流れに(笑)。

しかし山際由美の描いた「絵」の正体が明らかになるにつれ緊張が走る。図像術を持つ絵を模写できるものはいない――というのが千景の持論だったが、もしかしたら由美が数少ない「できる」人物だったのかもしれないということ、そして彼女がかつて、欠損があるものの「本物」を見たことがあるという事実が、事態を緊迫させてゆく。そして千景は彼女の存在に自分を重ねずにはいられなくなるのだ。それでも周囲の支えがあって――キューブの面々の存在、そして見ないふり気付かないふりをしているようだが透磨の存在のおかげで、だいぶ立ち直りつつある千景。しかしその一方で、彼女の失われた記憶が少しずつ戻りかけている気配も。これはこれでまたひと波乱ありそうな予感……。


◇前巻→「異人館画廊 当世風婚活のすすめ」


隠れキリシタンの末裔だという旧家の当主・成瀬美津が千景に依頼してきたのは、成瀬家から失われた「見てはならない絵」を探すことだった。美津から聞き出した情報からその絵に図像術が使われている可能性に気付いた千景だが、画廊に戻った千景が目にしたのは、件の絵が入っているとされる箱にそっくりな客の忘れ物だった。しかし中に入っていたのは「当世風結婚」と題された6枚の版画。美津の依頼とは関係ないと思っていた千景だったが、のちにその持ち主が美津の養女・雪江であり、しかも箱を画廊に置き忘れた直後に死んでいたことが判明する。千景と透磨は手掛かりを求め、絵と一緒に置かれていたパンフレットの婚活パーティーに参加することになり……。

見た者に危険な影響を及ぼす「図像術」の絵をめぐる事件に、またしても巻き込まれてしまうシリーズ4巻。

初っぱなから殺人事件が起きるというきなくさいスタートの本巻。千景は旧家に秘されていたという謎の絵――図像術が使われていない6枚の絵にまつわる陰謀に巻き込まれていくことになる。インモラルな秘密クラブ、過去の因縁に囚われ続ける旧家、それらに隠されているのは人の情であり、そして尽きせぬ欲望でもある。人の悪意にさらされながらも、千景は絵のためにそれらと向き合い、誰かを救おうとする。けれどそんな千景が、まだ自分の過去とは向き合えていないというのもまた事実なのだ。

けれど今回の事件を通じて、千景と透磨の距離は少しではあるが確実に近付いている気がする。ふたりの間には千景の失った記憶という深い溝が常に横たわっており、そのために互いに互いの存在を持て余している部分がずっとあった。しかし少なくとも千景の方は、過去に触れようと決心したかのように見えるし、透磨もまた、彼女を守るためには過去の事件の真相を知るべきだと考え始めた模様。最後に透馬が千景に対し「共犯者」という言葉を呟くシーンは、ふたりの関係の変化と決意を表す象徴的なシーンなのだと思った。


◇前巻→「異人館画廊 幻想庭園と罠のある風景」


恩師からの依頼で、図像術が使われていると言われるブリューゲルの絵を探すことになった千景。その持ち主である波田野靖史が透磨の経営する西之宮画廊の顧客だということで、千景は透磨と共に、波田野が住む離島へと向かうことに。そこで千景は、波田野邸の庭園を見せられる。ブリューゲルの作品群をモチーフに作られたというこの庭園は未完成であり、もし千景がこれを完成させるためのパーツを見出すことが出来れば、ブリューゲルの作品を見せてもいいと告げる波田野。果たして千景もその提案に乗り、庭園の謎を追うことになるのだった。一方、透磨は設計図から、空間プロデューサーであった千景の父・此花伸郎がこの庭園を作り上げたことを知る。と同時に、波田野が千景に庭を完成させるよう命じた目的にも気付いてしまい……。

絵画にまつわるミステリ長編シリーズ、3巻は千景の父・伸郎の影がちらつき、なかなか重たい雰囲気に。

幼い頃から絵画の本質をとらえるという稀有な才能を持ち、それゆえに両親から理解されていなかった千景。彼女が何者かに誘拐され、そのショックで当時の記憶を失ってしまった後、両親は離婚。どちらも千景を捨てて姿を消し、千景は芸術に理解のあった祖父母のおかげでイギリスへわたり、そして現在に至る。だから彼女という存在の根底には「両親に愛されなかった自分」というものが、記憶を失っているがために実感は伴わないが、確かに根付いている。だからこそ今回、波田野邸の未完成の庭園に仕掛けられた父親からの罠に、千景は苦しむことになる。

そういう時こそ透磨の出番でしょ!彼女を支えてあげなきゃ!と、ここまで読むと誰もが考えるとは思うのだが(もちろん私も考えた)、そこで逆に積極的になれないのが透磨。千景に対して抱いている感情が変容しつつあることに気付いてはいるが、それが彼女をひとりの女性として愛し始めているということにはまだ気付いていない様子。なのでどちらかというと、自分の行動で千景の封じられた記憶が戻る可能性の方ばかりに目が行き、彼女に触れることを躊躇した結果、恋敵(?)である千景の従兄・京一にそれとなく手助けを頼むのだから目も当てられない(苦笑)。

とはいえ、そんな透磨の態度の変化に、千景も少しずつ気付き始めている模様。透磨の発言に戸惑ったり赤面したりするなどの可愛らしい面も覗かせつつあるが、一方で千景もまた、透磨に無意識に惹かれながらも、どこかで自主的に歯止めをかけようとしているのは確か。どちらにせよ、ふたりの互いへの想いの障害となるのは、やはり千景と父親の不仲、そして誘拐事件の真相。千景の父親が名前だけとはいえその存在をアピールするようになったことで、これらの障害の解決が近付けばいいのだが。


◇前巻→「異人館画廊 贋作師とまぼろしの絵」


県立美術館で行われるブロンズィーノの展覧館に贋作が混ざっているらしい、という噂を聞いた千景と透磨。ほとんど世に出てこないブロンズィーノの作品に図像術が使われている可能性を危惧した千景に、祖母の鈴子は市内の高級画廊プラチナ・ミューズにもブロンズィーノの絵があるらしいと話す。そこで千景は透磨と共にプラチナ・ミューズで開かれたパーティーに潜入することに。目当てのものは見つからなかったものの、ふたりはパーティーの参加者たちから、市内に様々な贋作が出回っているという噂を多々聞くのだった。後日、異人館画廊にやってきた透磨は、千景にある人物のコレクションの写真を見せる。その中の1枚がプラチナ・ミューズのパーティーで見かけた絵と雰囲気が似ていることに気付いた千景。透磨の調査によると、市内に住む相原敬子という画家によるものだというが、彼女は先月自殺しており、また彼女の絵が保管されていた倉庫も同じ頃に火事で焼けており、彼女の作品はほとんど残っていないのだという。しかし、彼女が自殺した部屋にたった1枚だけ残っていた絵が、ブロンズィーノ風のものであるらしく……。

絵画にまつわるミステリ長編、シリーズ2巻。今回は「まぼろしの絵」とまで言われるブロンズィーノの絵と、市内に出回る贋作絵画にまつわるエピソードとなっている。

贋作の噂、自殺した画家の卵、ブロンズィーノ風の絵、オーナーが替わったばかりの高級画廊プラチナ・ミューズ、そして透磨の元カノ・志津香の登場……ということで、今回も千景は絵と透磨の双方に振り回されながらも、その観察力と直感で謎を解き明かしてゆく。

それにしても不器用にもほどがある、としか言いようがないのが千景と透磨。志津香の登場に動揺が隠せない千景はまだ可愛い方だが、手の施しようがないのが透磨。パーティー参加時、ドレス姿の千景に「不愉快」と言ったり、香水をつけていれば「似合わない」と言ったり。その裏には千景に対する独占欲がこれでもかというくらい詰まっているのに、それをまったく表に出さないし、言われる側の千景はその生い立ちのせいで他者からの好意に気付きにくい性格だから、透磨が自分を嫌っているとしか思えない。まさに悪循環。特に周囲から千景に対して冷たすぎると言われて驚く透磨には、もう付ける薬がないとしか言えないような。しかし自分の言葉に動揺する千景を見るにつけ、次第に千景への想いが昔とは変わっていることに戸惑いつつある様子も見られたので、これはこれで。


◇前巻→「異人館画廊 盗まれた絵と謎を読む少女」


図像学――それは西洋の絵画に見られる手法で、独自の意味を持つモチーフを背景や小物として描くというもの。幼い頃から絵を「読む」ことが好きだった千景は、イギリスの大学で図像学について学んでいたが、画家であった祖父の死をきっかけに帰国。祖母の営むギャラリー兼カフェ「異人館画廊」へと戻ってきた。そんな矢先、とある保険会社から連絡が入る。数年前にボルドーで盗まれた2枚の絵画が発見されたこと、そのうちいずれかがゴヤの未発見作品であること、さらにそのいずれかに危険な図像術が使用されているため、千景に鑑定を依頼したいというのだ。しかしそれを仲介したのは、千景が昔から苦手としている幼なじみの透磨だった。両親の経営していた画廊を継いだ透磨は、千景の祖父母を含むグループ「キューブ」を結成し、珍しい絵画を進んで収集しているのだという。その趣旨に反発しつつも、千景は盗難絵画に使われている図像術の危険性を鑑みて、しぶしぶ鑑定をすることになるが……。

人の意識に文字通り訴えかけることのできる「図像術」が使用された絵画をめぐるミステリ長編、第1弾。

絵画、それも人を狂わせる可能性を持つものということで、そのモチーフだけでもなかなか興味深いのだが、とりわけ気になるのはやはり千景が学んでいる「図像術」というもの。文字がない時代、絵画で人々を啓蒙する目的で始まったということだが、そこに描かれるのは正しい教えばかりではなく、異端とされるもの、あるいは今回のように危険な感情を想起させるものもあるということで、なんとも恐ろしい。だからこそ千景は、このたび見つかった絵画の危険性についてだれよりも知悉しているからこそ、自分の危険も顧みずにその捜索に乗り出すことになる。しかしそこで行動を共にすることになったのが、そりの合わない幼なじみだというのだから、これはもう波乱と恋の予感しかしない(?)。

千景にしても透磨にしても、顔を合わせれば皮肉ばかりで反発し合うことが多いのだが、芯から嫌い合っているわけではないことが次第に分かってくる。過去に負った傷がふたりの距離を遠ざけていたのだが、それをこのたび近付けたのもまた、その傷だったのかもしれない。まだまだ両想いというほど近付けたわけではないが、わりと似た者同士な今後のふたりの関係にも期待したい。

このページのトップヘ