phantasmagoria

読んだ本のこと、それ以上に買った本のこと、ときどきライブのことを書き散らかしてみたりする。

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皇帝選のお披露目を目前に控える中、アリルらしき少年が遺体となって発見された。戸惑いながらもミレディアはアリルの生存を信じ、残された仮面を手に帝都をさまよい続ける。一方、白の妃ネネの罠からからくも逃げ切っていたアリルは、身体から精神を切り離した状態で過去を渡り歩いていた。そんな中、ラムザは皇帝になるという決意を改めて固め、ミレディアを白妃宮へと呼び寄せ、以前のように王朝語の講義をさせた後、アリルの居場所だという紙片を渡す。そしてミレディアの退室後、現れたロジェを――「法皇の代理人」たる枢機卿を自身の後見人とするのだった……。

様々な思惑が交錯する大河ファンタジー、約2年半ぶりとなるシリーズ3巻は前後編。本編に加え、4年前のグランゼリア城包囲戦を描く中編「碧落」を収録。

前篇では行方不明になったアリルを、ミレディアがその命を賭して追う姿が、そして後篇では12月の冬至の日、皇帝選に先駆けた候補者――ラムザとアリル――のお披露目の顛末が描かれる。特に前者では時間軸が現在と過去入り乱れ、アリルがかつての恐怖帝と遭遇したり、ミレディアの過去を垣間見たり、そのさなかで以降の展開に関わってくる小ネタが混じっていたりと、なかなか息つく暇もない描写が続く。そしてその合間で語られるのは、ふたりの周囲の人々の思惑やその過去。白の妃ネネとアキの関係、ラムザの決意とその正体、王弟カイの忠誠心……それらはミレディアとアリルにとって時に助けとなり、時に障害となる。彼らの想いはどこまでも真摯で、私欲すらはらむ余地はない。それは自身の信じるものの、あるいは誰かのための行為であり、そのためだったら狂っても構わないとすら考える、どこまでもひたすらに純粋な願いであり目的である。その中をミレディアとアリルは繋いだ互いの手だけを頼りに駆け抜けようとする。その先にあるのは絶望と破滅、あるいは別離だけだとしても。

「碧落」で描かれた4年前のグランゼリア城包囲戦の凄惨な顛末は、これからミレディアに訪れるであろう未来の写し絵なのかもしれない。エセルバートの願いを叶えるため――ただそれだけのために、アキはこの惨状を招いた。夥しい死の中でたくさんの仲間を、そして友人となれるはずだった少年を失い、さらにはアキの裏切りを知ったミレディアの中はもうからっぽ。あの時も、そして今でもなおアキは微笑みを浮かべ、自身の「願い」のために奈落の底を歩き続け、ミレディアもいずれはそこに向かうしかなくなっている。アキは「今」のミレディアがアリルのために存在していることを知ってもなお、最後は自分のもとに来ると信じて疑わない。そしてミレディアもそうなるだろうと考えているようだが、その一方でお披露目の夜のアキとの対峙の様子を見ていると、以前とはわずかであるがアキへの接し方が変わっているような気がしなくもない。アリルの手はそんな彼女を引き留めるよすがとなれるのか。そして「運命の石」が鳴らした音は最後の希望か、あるいは単なる絶望を上乗せするだけとなってしまうのか。ネネが好んで歌い、あるいは「碧落」の中で語られる「太陽王」と「月の妃」の物語はいったい誰のことを暗示しているのだろうか。かつての鳥かご、あるいはこの神話になぞらえられ、絡めとられてしまうのは一体。


◇前巻→「レアリア2 仮面の王子」


帝国は王朝との休戦協定延長をしない、と皇帝自らが断言。そしてその期限の1か月前に皇帝選を行うことを決める。魔女家が擁立したアリル皇子との婚姻を結んだミレディアは、宰相会議に出るために力を尽くしてくれたアリルのため、自分が何をすべきかを考えていた。そしてアリルもまた、家族となったミレディアのため、もうひとりの皇子・ラムザと共にデュアメル学院に通い、皇帝候補としての覚悟を決めようとしていた。そんな中、ミルゼリスから帝都を出るよう勧められるも固辞し、アリルのために帝都で働きながら彼を支えようとするミレディア。そんなミレディアにアリルは、あなたの話を聞かせてほしいと告げる。ミレディアは王朝皇子アイゼンとの邂逅とその逃亡を幇助したこと、そして4年前のグランゼリア戦で初めてひとを――アイゼンの兄であるレキセイをその目の前で殺したことを、少しずつ語り始め……。

嵐の前の静けさを語る本格大河ファンタジー第2巻。
今回はミレディアとふたりの皇子、さらには過去に決別した王朝皇子との関係が語られてゆく。

晴れて(?)夫婦となったミレディアとアリル。宰相会議前の邂逅を経て、互いに信頼に足る人物だと認め合いはしたもの、これまでなにも持たなかったふたりゆえに、これ以上距離を縮める方法が分からない。そんなふたりが不器用ながらも少しずつ寄り添い合い、互いを支えたい、互いを知りたいと願う姿がなんとも微笑ましい。そして、買い物という行為を知らなかったアリルが、ミレディアから初めて貰った銀貨で購おうとしたのが、「ミレディアのこと」――つまり彼女のことを知りたいというただそれだけの願いだったというくだりには、もう微笑ましいを通り越して涙が出そうになる。ああ、この少年は、これまで何も知らず、何も与えられず、そして何も欲しがらずに生きてきたんだなと。そしてそんな彼がようやく欲しいものを見つけられたのだな、と。過去も未来もなにも持たないよく似たふたりは、ようやくささやかな未来へのよすがを見つけられたのだな、とも。

しかしそんなふたりのささやかで穏やかな日々は、あくまでも周囲の大人がお膳立てしてくれた束の間のものに過ぎず、その代償としてこの先に絶望だけが待っているのだということが、同時に語られてゆく。ふたりがいま殺されず見逃されているのは、すべて来るべき開戦の日のため。美しき枢機卿ロジェ――アキは、他者の願いを叶える存在だと嘯きながら、ミレディアのすべてを――幸福も絶望も、そのすべてをただ望み、今も昔も暗躍を続ける。もうひとりの皇子であるラムザは、アリルやミレディアの存在を受け入れながらも、最終的に皇帝に選ばれるのは自分であり、その後のふたりに破滅しかないことを、ただ自明のこととして受け入れることしかできない。そして、かつて帝国に秘密裏に捕らわれていた王朝の皇子アイゼンは、自分を救ってくれたミレディアをそうとは知らず兄の敵として憎み続け、開戦後は自分の手に掛けることを夢見ている。それらをすべて受け入れてもなお、ミレディアはただ、小魔女として自分のなすべきことをなそうとする。そうして自分が貫くことのできなかった、人を殺さないという信条を、アリルに託すことにする。それが最後の希望だとでも言うかのように。

小さき魔女とふたりの皇帝候補、そして帝国を滅ぼし魔女の命を奪うことを希う王朝の皇子――オレンディアとユーディアス、そしてアリュージャが辿った過去を再びなぞるかのように駒が揃いつつある。かつての鳥かごを再現するのは一体誰なのか、そして魔女をその手に入れるのはいったいどの皇子なのか。相変わらず絶望の底でもがくことしかできないようなこの物語が、この先どう転がっていくのかが気になって仕方ない。


◇前巻→「レアリア1」

レアリアI (新潮文庫)レアリアI (新潮文庫)
雪乃 紗衣

新潮社 2014-08-28
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帝国と王朝が長い間争い続けている世界。かつて帝国の「鳥かご」にはふたりの少年とひとりの少女が囚われており、3人は「鳥かご」からの解放を望んでいた。それから数十年経ち、ふたりの少年は帝国と王朝それぞれの王に、少女は帝国の軍事を担う魔女将軍になっていた。魔女――オレンディアは国防に努める傍ら、養女のミレディアを帝都へと送りこむことを決める。それはミレディアを次期皇帝候補に嫁がせてその候補を後見するためであり、さらには来るべき王朝との休戦協定終了後について、皇帝ユーディアスに最後通牒を突きつけるためであった。当初は結婚話を拒んだミレディアだったが、最終的にはオレンディアの意を汲み帝都へと向かうことに。ミレディアを慕う「ツギハギ部隊」最後の生き残りであるレナート、そしてオレンディアの部下でもある「死神」ギィと共に帝都へと向かったミレディアだったが、道中、そして帝都でもその命を狙われており……。

その出自が不明な「小魔女」ミレディアが過酷な運命に身を投じることになる、本格大河ファンタジー1巻。

時系列が交錯する物語の中で語られるのは、オレンディアたちの過去とミレディアの過去、そして現在の出来事。とりわけミレディアはその出自からして謎だらけだが、唯一の心のよりどころとなっていたのがアキなる青年の存在だった。ミレディアがオレンディアの義弟ミルゼリスに拾われるよりさらに前、この世のものとは思えぬほどの美貌の青年が現れ、幼いミレディアを救っていた。少女にミレディアという名を付けたのはその青年であり、青年にアキと名付けたのはその少女だった。だがある時姿を消してしまったアキは、思いがけない姿で成長したミレディアの前に現れ、そして彼女にあらゆる絶望を突き付けて帝都へと舞い戻っていく。

物心ついたその瞬間から何も持っていなかった少女は、青年と出会うことで「ミレディア」となった。その後オレンディアに育てられ、ツギハギ部隊の面々に慕われ、ミレディアは自分を愛してくれる人々を心から愛してきた。そしてなによりも、アキのことをただひたすらに愛してきた。だからこそ、その裏切りに――アキの理由は、真意は分からないけれど――、ミレディアのアキへの愛は憎しみへと変わってゆく。否、純粋な想いは結局、愛だと憎しみだとか、ひとつの名前は付けられないのだろう。今でもミレディアはアキを愛しているし、同時に自分の手で殺したいとも願っているのだ――そしてきっと、アキも。そんなミレディアが出会ったのが、次期皇帝候補として擁立された謎の少年の存在だった。

オレンディアの――ミレディアの存在がなければその立場は途端に危うくなってしまう少年。そして帝位継承争いに負けてしまってもやはり死ぬしかなくなってしまう少年。そんな少年に幾度となく助けられたミレディアは、戸惑いながらもその手を取ることになる。しかし同時に、彼を巻き込まないように、いつか手を放す決意も固めていた。休戦以前の状況や休戦中の国内の権力闘争によって疲弊している帝国が、王朝に勝てる見込みはほとんどないとオレンディアは告げる。しかしそれを覆すための策を皇帝は退けた。もはや勝ち目のない戦争を前にして、ミレディアは抱えきれない程の絶望のただなかにいた。からっぽだったミレディアの中に降り積もった絶望は、彼女を絡め取る。しかしミレディアが歩みを止めることはできない。その先にあるのがアキのうつくしい微笑と奈落の底だとしても、それでも。

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