先日の記事で5月21日の市長選挙に立候補している3陣営の動きを追ったが、その記事で「中森氏は大宮駅以北の旧大宮地域に踏み入れていない」とか、「清水氏は再開発計画を廃止しようとして問題になった北浦和と南浦和には未踏」とか書いたら、その後まもなく4月27日に中森氏が宮原駅へ、そして4月25、26、27日の日程で清水氏が北浦和、南浦和、浦和の各駅へ登場したらしい。もちろんこちらのブログの文章なぞ読まれてのことではないとは思うが。


さて、毎日新聞によると、4月24日に初めて3候補が集まる公開討論会が行われたとか。


清水氏が進めた大規模イベントに関しては中森・前島両氏が批判し、清水氏が「市の歳入を増やす成長戦略」と反論。

教育・福祉に関しては清水氏が「この4月に『待機児童ゼロ』を実現した。」と実績を強調し(*「待機児童ゼロ」に関しては統計データ上のカラクリがあり虚偽だという指摘もあるようだ)、"地域の医師や看護師などと一緒に"地域包括ケアシステムを充実させたい」と主張。

対する中森氏は大学生が借金を抱えないための無利息奨学金や、介護離職を防ぐための24時間介護体制を訴えたとか。

清水氏の発言には票田になる地域の医師会の存在に配慮を示した?と思われる節も。文字通りにとれば清水氏の政策の中心は子育て支援、中森氏は貧困、超高齢社会の中での社会進出支援、ということだろうが、中森氏は清水氏の宣伝する「待機児童ゼロ」を統計のまやかしだとして批判しているため、中森氏が子育て支援を訴えていないということでもない。


最も公約に違いが見られるのは街づくり
。清水氏は「東日本の中枢都市づくりを目指す。新幹線の始発化など交通の結節機能を強化したい」と述べ中森氏は「さいたま市を『防災モデル都市』にする。埼玉高速鉄道の延伸も進める」と訴えたとのことだ。

中森氏が「防災モデル都市」を公約の柱に据えるのは、第一には自身の政治活動の中で防災を中心に取り組んできたという実績があるからだろう。同氏のHPに公開されているマニフェストには次のようにある。

首都直下型地震に備え、死亡者ゼロを目指した防災都市づくりを目指します。
東日本大震災の時、埼玉県で走っていた電車が、埼玉高速鉄道だけでした。

  • 埼玉高速鉄道の延伸(防災電車として、埼玉都民の足に)
  • 大宮駅・東口駅前の大改造
  • 防災医療センターの創設(避難所・道路等の整備)

防災モデル都市かぁ…と思って見て行くと震災時に唯一走っていた埼玉高速鉄道を重要視するという文脈で埼玉高速鉄道の延伸促進が突然出てくる。

確かにそういう視点は私も持っていなかったが、かつて地下鉄南北線が開通した頃、地下鉄駅に備蓄基地などを備えた防災路線と聞いたことがある。その南北線と一体化して運転される埼玉高速鉄道線。地下鉄は地震に強いし、唯一荒川を橋梁ではなくトンネルで越えているというのも、大震災時に埼玉都民の帰還に資する可能性がある。

結果として岩槻に伸びる埼玉高速鉄道の延伸を支持し一方の鉄道計画である東西交通大宮ルートに全く触れていないのは浦和の政治家としては自然な流れなのだろうが、「防災」という観点から交通政策を考えた時に最も重要なのは冗長性の確保、つまり一極集中を排除し交通路をネットワークにしておくことだ。そしてこれはさいたま市においては当然大宮駅一極集中に対するアンチテーゼになる。「防災」というキーワードが巧みに"浦和の盟友"である岩槻へのテコ入れやアンチ大宮駅一極集中といった具体的政策につながるように見えなくもない。

大宮駅・東口駅前の大改造というのも味のある表現だが、拠点性の向上という観点なのか、防災広場としての駅前空間確保という意味なのか、そこは解釈を有権者に委ねるということだろう。


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埼玉高速鉄道浦和美園駅前。常に政治に振り回される埼玉高速の命運は如何に?



一方の清水氏の公約だが、清水氏が選挙に当たって「大宮駅始発の新幹線増発」を掲げるのは恐らく初めてではないだろうか。そして「大宮始発新幹線列車」がさいたま市の市長選挙において正式に有力候補者の公約に上るのは2001年選挙に出馬した新藤元大宮市長以来だろう。この半年ほど市議会でも浦和の議員から「浦和軽視」と追及されることが急に増えている清水氏であるが、今回の清水氏のマニフェストは概ね「さいたま市の成長のために大宮のさらなる拠点化が必要」という大宮派の主張に沿ったものである。


facebookで公開されている清水氏の文章が興味深い。


大宮駅での演説に寄せて、以下のように書いている。


大宮駅は、昨年3月末に、国土交通省の「国土形成計画 首都圏広域地方計画」が策定され、その際に、東日本の対流拠点と位置づけられました。

中でも首都圏で西日本の玄関口は、リニア中央新幹線の始発駅になる品川駅、一方で、北海道、東北、上越、信越、北陸と新幹線で繋がった大宮駅が東日本の玄関口と位置付けられました。
これまで、東日本の中枢都市づくりをしていこうと取り組んできたさいたま市にとっては、大変大きな追い風になっています。

さいたま市は、早速、昨年8月に大宮駅グランドセントラルステーション推進会議を立ち上げて、JR東日本、東武鉄道、埼玉県や地権やまちづくり団体などにも参加いただき、大宮駅の機能の高度化(東武線との乗り換えの改善、北口の開設、新幹線の一部の大宮駅始発の復活、等)、大宮駅へのアクセス(駅前広場や周辺からのアクセスの改善等)、周辺のまちづくりなど三位一体で取り組んで行くこととし、今年度中には基本方針をまとめて行く予定です。

交通の結節機能を高めて行くことと、この強みを生かして、都市機能(コンベンション等交流機能、宿泊機能、業務機能など)を高めることでさらに、持続可能な成長ができる都市にしていかなければなりません。


一方の浦和駅についてはこちらだ。


浦和駅は、今、駅ビルの建設とバスターミネルである中之島までの地下道の開通工事が行われております。
また、2都心(=大宮駅・さいたま新都心周辺と浦和駅周辺)の1つとして周辺の都市機能、都市環境の充実を測るために、浦和駅西口南高砂地区の再開発事業が進められています。
さいたま市は、持続可能な都市を作って行くために、東日本の中枢都市づくりを目指しています。そのためには、2都心4副都心の都市機能の拡充や交通インフラの整備、拡充は大変重要です。
運命の10年の中で、着実に進めていきます。



浦和駅周辺も「2都心の1つ」という文言を用いることで「浦和も軽視しているわけではありませんよ」と弁明したい意図がにじみ出ているが、大宮駅周辺に関しては敢えて「2都心の1つ」などというまどろっこしい表現は用いていないこと、さらには浦和駅周辺地区のさいたま市における位置づけ、街づくりの将来像について「2都心の1つである」という以上何も触れていないことから、かえって浦和に関してはノープランであるというのが読み取れる。大宮派の意見としては「大宮が栄えれば浦和にもメリットがある」ということだが、当の浦和の住民がそんなものを望んでいるかどうかは未知数だ。さいたま市長選における有力候補者の公約でここまであからさまに地域対立に呼応する公約が出てくるのも久々、相川旧浦和市長と新藤旧大宮市長が争った2001年市長選の再来のようでもある。


清水氏の浦和地域に対する扱いに関しては、自民党分裂直前の平成29年2月定例議会で浦和の島崎豊議員がかなりしつこくネバネバと追及している。浦和の議員が都市開発予算に関してここまで不満を述べるのも珍しいが、昨年秋には浦和区の帆足氏が南浦和・北浦和・与野駅周辺開発の突然の廃止を議会で強烈に批判して廃止撤回に追い込んでいるし、最近はこうした浦和の議員からの「浦和軽視批判」も以前よりは増えてきている。それは恐らく清水氏自身が急速に大宮シフトを行っているからだろう。

「さいたま市が『運命の10年間』を乗り切るために浦和よりも大宮への集中投資がどうしても必要なのだと考えているのであれば別に警戒せず市長の見解としてはっきりそうおっしゃれば結構です」などという島崎氏のかなり誘導尋問的な質問に、いつもながらの敢えて的を外した長い文章の答弁で応えているが、上のリンクにある答弁を聞く限り要は「国もお墨付きをくれているので大宮に重点投資する」ということである。


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清水氏が重点投資を訴えている大宮駅前、その東口。老舗の高島屋を温存しつつ対側の個人商店をなぎ倒して道路を拡幅する再開発案に地権者が反発、再開発が暗礁に乗り上げて久しい。


本ブログの記事ではこれまでにも今回の市長選が都市間戦争の再来になりそうだと予想しているが、清水、中森両陣営ともこれまで以上に地域間の対立を利用しているように思えるのは気のせいだろうか?清水氏は早々と浦和票を捨てる気なのか?いずれにしても大宮・与野派の自民真政から実質的な支持を受ける時点で浦和で多くの支持を得るのは難しいだろう。一方の中森氏は浦和、岩槻を中心に戦う姿勢を固めているようだ。