2023年12月12日

【アルディ】、レジで店員が座って働けるスーパーの真実!理由は計測による生産性向上?

231212レジ係り@アルディ
■Yahooニュースで「スーパーのレジ、店員が座ったらダメですか? イス設置求め、学生が運営会社と交渉」の記事がバズっている。掲載から半日で3,500件以上のコメントが入るほど話題になっている。

記事の内容は、スーパーのレジにイスの設置を求めていることについてだ。記事の中に「海外のスーパーに行くと、座ってレジを打つ人を目にすることがある」とある。

このスーパーとはドイツ資本のディスカウントスーパーのアルディのことだ。

米国38州に2,240店以上を展開するアルディはインフレ下で節約したい富裕層客も引きつけていることで絶好調を維持している。

ディスカウントスーパーだけあってアルディはローコスト運営を徹底している。

1,500アイテムと絞られた商品の9割はプライベートブランド(PB)となっており、同等のNB商品と比べて最大60%も安い。低価格を実現するためPBの品質を落とすようなトレードオフは行っていない。

アルディの100%満足度保証では「保証は2倍(Twice as Nice Guarantee)」と謳っており、返金だけでなく代替品も進呈としているのだ。

品質面は青果物にも現れており品揃えを20%も増やしながらも、その新鮮さから5年間で果物や野菜の売上は70%も増加したという。

 絶対的な低価格を実現できるのは、400坪前後となる売り場に施すローコスト・オペレーションにある。代表的なのが25セントのレンタル式(デポジットで返却時に返金)ショッピングカートだ。

レンタル式にすることでショッピングカートはいつも指定された場所に戻されることで盗難コストが減少する。駐車場に無造作に放置されて、ダメージを受けることもないのでメンテナンスも不要だ。スタッフがカートをあつめる手間も省けて人件費の圧縮にもなっている。

店内のインテリアが実質本位で余分な装飾は一切しないノーフリル(no-frills)もローコスト運営の工夫の一つとなる。店内ではライセンシングフィーのあるBGMを流していないのもアルディ流だ。

商品陳列も段ボール箱を開けて積むだけのオープン・カートン・ディスプレイ(open carton display)を採用し、スタッフが商品を一つ一つ棚に並べる必要がない。

対面のデリ・精肉コーナーもなく、袋詰めのスタッフもいない。

こういった工夫で人件費を最小に抑えているのだ。つまり価格を低く抑えるカギは、スタッフの効率を高く保つことにある。

ではキャッシャーが座ってレジ作業をすることは効率にどのような影響があるのだろうか?

これまでの計測からアルディではレジ係りが立ったままより座ったままのほうがより速くスキャンできることを理解しているのだ。

そしてアルディは現在もレジ係りのチェックアウトスピードを常に計測している。一方、レジ係りにはノルマが課されており、1分間あたりのスキャン点数スピードがKPIとしてモニタリングされているのだ。

元従業員によるとレジ係りを研修で学んだ後、1分間あたり平均50点未満となる83%スピードならレイオフの対象となる。

ノルマとなるスキャニングスピードは95%の速度となる、1分間あたり平均57点のスキャニングとなる。つまり100%のスピードとは1分間に60点のスキャニングになっている。

1時間あたりにすると(支払い等の時間が必要なため)約1,200点をスキャンすることを期待されており、シフトの終わりには速度を示す業績評価レポートもスタッフに渡されている。

元レジ係りには猛者もいて、1時間あたり1,600点をスキャンしたこともあると自慢していたりする。

ただレジ係りのスピード・スキャニングにも例外もあり、高齢者などから「せかせないでください」「遅くしてください」との要望があれば、効率性よりカスタマーサービスを優先し速度を落とすことを許されている。

レジで追い立てられるような印象がついてしまうと年配者を遠ざけてしまうからだ。

なお決済完了後、次のお客のスキャニング開始までは3秒以下が努力目標とされていることも付け加えておきたい。

なぜならレジ係りの中には高いスキャンスピードを維持するため、お客がベルトコンベアに商品をすべて載せるまで待つ人もいるからだ。

 さらに指摘するなら、PB商品のパッケージにはパーコードが4面〜6面とマルチサイドにつけられているのも作業効率を上げるアルディの工夫だ。

スキャニングミスがなくなり、レジ係りのオペレーション効率を上昇させるのだ。

 アルディでは午前9時〜午後9時の12時間営業となっているのもローコストオペレーションのポイントになる。

24時間営業のウォルマート・スーパーセンターや、最大18時間営業(早朝6時〜深夜0時)となる競合スーパーよりアルディの営業時間は短いのだ。時短営業でも人件費を抑えていることになる。

 意外にも思えるかもしれないがレジ係りが座って作業できるのは米国ではアルディのみだ。なぜかといえばいまさら大手スーパーがレジに椅子を導入すると高くつくからだ。

椅子を導入してスタッフの作業効率を向上させるよりセルフレジを導入しお客が自らスキャンしたほうがもっと安上がりになる。

実はアルディも労働力不足を理由に2021年頃から一部の店舗でセルフレジの導入を始めている。なおアルディのセルフレジはキャッシュの利用が不可となっており、セルフレジ会計はクレジットカードやデビットカード、アップルペイにグーグルペイでの支払いのみだ。

 ただ効率化も行き過ぎるとお客からの反発もある。スタッフが行うスキャニング作業をお客に肩代わりさせているという反感を買っているのだ。

何事もバランスや塩梅をみながら考える必要性を忘れてはいけない。

トップ画像:アルディのレジではスタッフが座ってレジ作業を行えるようになっている。これまでの実験からアルディではレジ係りが立ったままより座ったままのほうがより速くスキャンできることを理解しているのだ。そしてアルディは現在もレジ係りのチェックアウトスピードを常に計測している。
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。人は基本、変化が嫌です。変わることが大嫌いの現状維持バイアスです。アメリカ流通視察で「変化」の必要性を説いていたコンサルタントも大手チェーンストアがストアアプリを使った流通DXには無口になっています。普段からスマートフォンを使い慣れていないことに加えて、買い物に便利な最先端アプリ機能について事情が全くわからないのです。変わることとは慣れ親しんだコンフォートゾーンをでて自分にとって未知の領域に入って、知らないことを学習することです。コンサルタントも高齢になってくると、新しいことを学ぶのが億劫になります。だから米国流通視察を行っても以前ほど変化の重要性を説くことがなくなってきているのです。コンサルタントだけではありません。大手チェーンストアの役員にも、新しいことを忌避したがる人もいます。エントリー記事ではイスの試験導入で(アンケートからの)反対意見が3割あったなどを理由に導入に消極的といいます。これが本当に妥当なのかはさらに突っ込んで計測しなければなりません。
 今後、Z世代がどんどん職場に入ってきてSNSで培った情報発信力により職場環境に大きな影響を与えてきます。企業側はそれに対応できるよう曖昧さのない、きっぱりとしたデータを提示する必要があるのです。