
■流通企業や団体などはアメリカでの視察研修を再開している。一方でチェーンストア最大手ウォルマート傘下でメンバーシップ・ホールセール・クラブ(MWC)のサムズクラブは、視察先から外されることが多い。
米国小売業を学びに渡米する日本の流通ビジネスマンにとってコストコと同業であるウォルマート系列のMWCは必見となっている。
なぜならコストコ会員の中にはDXで比較されて「サムズクラブは(コストコより)はるか先をいく」とコメントされることもあるからだ。
その一番の理由はサムズクラブの強さであるスキャン&ゴーにある。商品バーコードをモバイルアプリでスキャンしていくスキャン&ゴーは、コストコ会員にとっては垂涎の的となっている。
スキャン&ゴーで買い物することで買い物袋に入れながら買い物ができ、買い物途中で消費税込みの合計金額の確認も簡単にできる。このため予算内の買い物にも便利なのだ。
何よりも便利なのは有人レジとセルフチェックアウトレジを素通りできることだろう。レジ行列に並ぶ必要はなく、レジ台に商品を置く手間もない。
人との接触が最小となることで、店内での感染リスクが下がる。パンデミック下でスキャン&ゴーはお客にとっても店内のスタッフにとっても大きなメリットがあったのだ。
最近では人手不足でレジ係りを大幅に削減していることもあり、スキャン&ゴー押しが一層進んでいるのだ。
2016年から全店で行えるようになったスキャン&ゴーはさらに使いやすいようにアップデートされている点も見逃せない。
例えば決済完了となるチェックアウトでは会員にボタンをタップさせるのではなく、押し間違い等を減少させるためスライドさせることで決済完了となっている。ボタン操作で間違いがないようにスライドを取り入れているのは画期的なのだ。
またチェックアウト直前の画面では、不注意のないように商品点数を確認するポップアップも加わっている。小さなことだが買い物にフリクションをなくす工夫は日本の流通現場でも参考になりそうだ。
視察を行う際にはサムズクラブのフードコートで1.38ドルのホットドッグセットを購入してみよう。
サムズクラブのウェブサイトには「控えめに言っても安すぎ(Frankly, it can't be beat)」のホットドッグとフリードリンクとなる飲み物は会員でなくても購入できる。
参加者の中にはコストコ会員もいるため、100%ビーフを使用しているサムズクラブとコストコでホットドッグの味比べをしてもよい。
ホットドッグ以外でも例えばピザセットはコストコで2.68ドル(1.99ドル+0.69ドル)に対してサムズクラブは2.50ドルと安価だったりする。
16インチ(40センチメートル)のピザはコストコが9.95ドルに対してサムズは8.98ドルと安い。チュロスもコストコの1.49ドルにサムズは1ドルとかなり安いので試食してみるべきだろう。
しかもどれも量が多いので参加者同士でシェアも可能だ。特にフローズン・ヨーグルト・アイスクリーム(バニラ、チョコレート)のカップは1ドルと激安な上に日本人女性なら4人分にもなりそうな量となっている。
このサムズクラブ・カフェではモバイルオーダーのスキャン&ゴー・カフェを使って注文するのだ。
サムズクラブに入った直後、GPSもしくはWi-Fi接続によりアプリが起動画面のウェルカムスクリーンとなる。会員を示すバーコードの下に「スキャン&ゴー(Scan & Go)」にガソリン給油のスキャン&ゴーとなる「フュール(Fuel)」「カフェ(Cafe)」「レシート(Receipts)」の項目が表示されるのだ。
カフェをタップしメニュー・カテゴリが表示される。カテゴリは「ピザ(Pizza)」「ホットドッグ(Hot Dogs)」「デザート(Desserts)」「スナック(Snacks)」「飲み物(Beverages)」の5つから選択する。
試しにデザートをタップすると、フローズン・ヨーグルトにあるバニラやチョコレート等の種類を選択して「カートに入れる(Add)」をタップする。
右上にあるカゴ(ショッピングカート)に注文が入るため、そこから支払い方法や注文品を確認後に下部にある「支払いバー(Slide to pay)」を右にスライドして決済を終える。
決済後の画面には注文番号と名前、注文品に「注文を承りました。カフェ・ピックアップに行って注文番号をスタッフに見せてください」との文言が表示。
サムズクラブ・カフェにはモバイルオーダー用のピックアップ専用のラインが設けられている。
ピックアップカウンターでスタッフにそれを見せると透明のカップにサーバーからフローズン・ヨーグルトを巻くように注ぎ込んでくれる。
サムズクラブは最近、新たなDXとしてレシート検証AIツールを取り入れ始めた。買い物客が店舗を出る際、スタッフが手作業でレシートのスキャンや確認を行う手間を無くすのだ。
10店舗でテストしているレシート検証は人工知能(AI)とコンピュータービジョンを使った技術。空港のセキュリティゲートのような通路を買い物客が通ることでチェッカーの代わりにカートの中をチェックする。
利用手順などの詳細は明かされていないが画像を見る限り、ゲートにあるコンピュータービジョンがカートの商品を認識しているようだ。
上から見下ろすような垂直式カメラに加えて、左右横からの水平カメラを使ってカート内の商品を判別する。コンピュータービジョンが得た3D画像からAIが解析しカートの中身とレシートが一致しているかを検証するのだ。
サムズクラブによるとペインポイントを解消する実証実験では、半数以上の会員から好評価を得ている。テスト結果をみながら2024年末までにはAIチェッカーを600店近い全店に導入するとしている。
スキャン&ゴーにスキャン&ゴー・カフェ、さらにレシート検証AIツールとサムズクラブのDXは拡大している。
トップ画像:サムズクラブのモバイルオーダーであるスキャン&ゴー・カフェでメニューを選択するワークショップ研修参加者。莫大な投資をかけ、洗練されたアプリUIに興味津々だ。