2009年12月26日

「世界はときどき美しい」

映画で詩の世界を表現しようと試みた5つのパートから編まれた70分作品でした。例によって解説文を一切、読まないで視始めたのですが、意外と退屈しませんでした。映像と音楽と語たれる詩だけ。凄い意欲作だなぁ…。

第1章が「世界はときどき美しい」。松田美由紀さんの演じる絵画のヌードモデルは38歳。その一人語り。自嘲気味にヌードモデルの命でもある身体的な老い、精神的な行き詰まりを表情に読み取らせるものの、それを超越しようとする人間の根源的な「美しさ」があります。映像は、のっけから電柱のヨコに咲いている雑草の大写しから。なんでもない風景、そこに潜んでいる美しさが次々に映し出されます。それは名も知らぬ雑草であり、無造作に置かれているペン立ての中のペンであったりする。

第2章は「バーフライ」。蝿男。大阪の繁華街で酔いつぶれているサンドイッチマンを柄本明さんが演じていました。仕事をして酒を飲んで眠るという生活を繰り返しているだけ。「目を閉じて/気を失えば/朝になる」という川柳のようなものを書き残し、地べたで眠る。ビリケンさんでしょうか、その傍らでシアワセそうに眠る。白い無精髭を生やしてヨロヨロと歩いているジイサマも、実は見ようによっては美しい。

第3章が「彼女の好きな孤独」で、新人女優の片山瞳さんがベッドの中の孤独を語る。これは凄いデキだったと感じました。不満のないであろう優しくて実直で甘いルックスの彼とのべッドの中での甘い会話。何の不満もないハズなのに、何故か感動できないという複雑な心情がある。ベッドシーンがメインなので官能的描写もあるのですが、それはコケティッシュではなく、素材美としての美で、エッチじゃありません。(きれない女優さんがヌードを披露しているし、耳たぶを舐めあうなどの描写があるのですが、コケティッシュに感じさせず、ああ、ベッドの中の戯れとはこうした美しさがあるのだなと痛感させてくれます。)唇と唇が絡み合うような甘いキスをしているのに彼女は「きっといつかは彼も死んで、私も死ぬのだろう」という場違いな事ばかりを考えてしまう。映像はシャレコウベとシャレコウベが重なる。いつものようにレンタルビデオ店へ行って棚を物色し、出勤前には習慣でついつい自販機で缶コーヒーを買ってしまう。性懲りもなく缶コーヒーを買ってしまう自分に対して「オ・ロ・カ・ナ・ワ・タ・シ」と独白するも何も変わらないし、何も変える必要はないのだという境地に到る。映像的には満点でしょうか、夜にフラフラと歩いている感じや、早朝の町をただただ歩いているのですが、それらの景色はどれも綺麗。日々、見落としがちな線路沿いの柵、その柵に絡み付いている蔦の緑が風に棚引いていたりするのですが、そういう埋もれてしまっている美を映し出している。

第4章は「スナフキンリバティー」。松田龍平が宇宙に夢を馳せている理科系青年を演じています。宇宙に夢中の彼。その朴訥として純真に宇宙の事ばかり考えている彼に対して、その彼女は「将来の事」と「現実」を要求したいと思っている。婉曲的には「子供が欲しい」と考えている。宇宙の事ばかりを考えている彼に「お釈迦さま好きでしょ?」と尋ねてみたり、「スナフキン、好きでしょ?」と尋ねてみたり…。将来を見据えて現実に目を向けたい彼女は「子供欲しいよね」と口に出してみるが、彼女もまた、純粋なスナフキンのような彼に惹かれている。映像としては冒頭でガラガラに空いている路面電車に松田龍平が一人だけ乗っていて、そこに強烈な西陽が差し込んでいる映像があります。カメラは車内の床あたりにあり、逆光の松田龍平を映しているのですが、その映像の美しさに驚かされます。正に、無感動になった現代人が忘れている美しい風景。

第5章は市川実日子主演の「私が生きているいくつかの理由」という家族、特に母親をテーマにした一篇。個人的には、あまりインパクトはなかったのですが、お墓参りであったり、家族の食卓であったり、そうした当たり前の日常的な家族の一コマの美しさを切り抜こうとしたかのよう。ふと気づけば、母親の事なんて何もしらないという娘が離れて暮らしている母に電話をかけるという描写は、使い古されているというか、電話会社のテレビCMのような感じがしてしまったのですが、これが終わると終幕となり、「天にまします、我らが神よ」の活字が登場、目で追わされる事になります。「ああ、そういう言葉だったのね」と教えられるワケですが、それが世界がときどき美しい理由だと帰結する。

そして鈴木慶江さんのオペラでエンドクレジットになるのですが、間違いなくエンドクレジットまでを視てしまう。

映像と音楽と詩。特に音楽に関しては、あまり上手に説明できませんでしたが、花の映像を映しながらバーンとオーケストラの演奏が挿入されたり、モノクロで仕上げた蝿男のパートではオーボエなのかクラリネットなのかわかりませんが、あのテの楽器から発せられる温かい音楽が挿入さていたり、音にも相当、凝ってつくられています。

ussyassya at 11:57│Comments(0)TrackBack(0)DVD鑑賞記 

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔