◆櫻井よしこ〜週刊新潮『日本ルネッサンス』

6月23日、イギリスの命運を決定する国民投票が行われ、欧州連合(EU)からの離脱を望む人々が約4%の差で残留派をおさえた。

オバマ大統領をはじめとする米国首脳はイギリス国民の決定を、「アラブの春」の民主化運動勃発に対するのと同様の驚きで受け止めたと、「ニューヨーク・タイムズ」が28日の紙面で伝えたが、それ程予想外だったということだ。


〜略(日本の国益に立った視点からの言及)〜

国家の運命を変える転換点となった重要な国民投票だったが、恐ろしい程に大衆迎合的だった。残留派は、デイビット・キャメロン首相を筆頭にもたらす深刻な損失や、失業の増加といった負の影響を語り続けたのに対し、離脱派は移民を排斥し、EUの官僚機構の支配から抜け出しさえすれば問題は片づくという短絡的主張で、感情論に訴えた。彼らはEUを離れて如何にして経済をもり立てるのか、英国の輝きと豊かさを具体的にどう取り戻すか、世界戦略はどうするのかについて、明確な政策は一切提示していない。提示できなかったのは、彼らにも分かっていないからだ。

〜略(スコットランド独立気運についてと、イギリス金融街シティの打撃について言及)〜

同時進行で、先に猊櫃蹐靴つ瓩判颪い織櫂團絅螢坤爐瞭阿が拡大していくだろう。現にアメリカ共和党のドナルド・トランプ氏とフランスの極右政党、国民戦線党首のマリーヌ・ルペン氏はイギリスの決定を絶賛した。〜後略〜


◆池上彰〜週刊文春『池上彰のそこからですか!?』

(前段では、株価が離脱か残留かで揺れた経緯に細かく触れており、実際には数日前から女性国会議員襲撃事件の影響があって残留派が優勢と報じられてた事、更には当日も実際には分刻みの相場となり、事前の予測でも離脱か残留かは拮抗した状態にあった事に、正確に言及している。かなり、精度の高い説明をされているのですが勇み足か「ジョンソン氏が新しい首相に就任します。」と記述している。当時はその予定でしたからね。)

イギリスがEUから離脱する手続きは、これから2年ほどかかる見通しです。それまで混乱は続くことでしょう。

しかも、これで話は終わりではありません。「国民投票で勝てばEUを離脱できるんだ」ということを、ヨーロッパ中の人たちが知ったからです。東西冷戦は終わり、EUが東にウイングを広げ、東欧諸国までを包み込んだ結果、ポーランドやブルガリア、ルーマニアなどからの移民の労働者がやって来て、自国の雇用が奪われるという危機意識を持っている国は、ほかにもあるからです。


〜略(難民条約についての言及)〜

こうした国民投票を求める動きは、スウェーデンやデンマーク、オランダ、フランスでも拡大しています。この勢いに乗じて、6月17日、オーストリアの首都ウィーンに、反EUを訴える政党の代表が終結しました。オーストリアの極右政党の自由党が呼びかけたものです。

フランス国民戦線のマリーヌ・ルペン党首やドイツの「ドイツの選択肢」の幹部のほか、イギリスやベルギー、イタリアからも参加しました。会合で呼びかけ人の自由党のハインツ・シュトラーヒェ党首は、「欧州連合の愛国者よ、団結して前進しよう」と呼びかけました。不思議な呼びかけですね。欧州がバラバラになるように団結しよう、というのですから。さしずめ「欧州分裂のための統合」でしょうか。

そもそもEUは、ヨーロッパから戦争をなくそうという理想から始まりました。国境をなくし、ヨーロッパがひとつの国家になれば、国家対国家の戦争はなくなるだろうという発想です。そのために欧州統合を目指して、さまざまな取り組みが行われてきました。

発端は、西ドイツがフランスとの国境に近い炭田での石灰採掘を再開し、鉄鋼業を復活させようという計画にフランスが反対したこと。これではドイツが再び強大になってしまうと恐れるフランスを、周辺の国々がなだめて、「欧州石炭鉄鋼共同体」(ECSC)を発足させました。ここに参加したのは、西ドイツ、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、イタリアの六か国。


〜略〜

その後、原子力を共同研究する欧州原子力共同体(EURATOM)と欧州経済共同体(EEC)を結成。これらの組織を包含する形で、欧州共同体(EC)が発足しました。イギリスは、このECの段階で加盟し、ECは欧州連合(EU)へ。欧州統合の動きが加速し、通貨統合も果たしてユーロを導入します。さらに欧州の統合を急ごうと、EU憲法の制定や、EUの旗・歌を定めようという動きにまで進みました。いよいよ「欧州合衆国」への道が見えてきたのです。

ところが、さすがにこれは急ぎ過ぎ。各国の国民投票ではフランスやオランダで否決されるなどして、後戻りせざるを得ませんでした。

しかし、このように欧州統合の動きが進んできたからこそ、人やモノの移動が自由になり、人々の交流も進みました。各国に分かれている反EUの政党が一堂に会することができるのも、EUの存在があったからです。欧州統合の恩恵を受けた政治勢力が、欧州の解体を求める。これが皮肉でなくて何でしょう。



◆週刊文春『新聞不信』

英国のEU離脱は、つまるところ、爐錣譴錣譴旅餘廚録されている。自らの手でこれを守った方がいい瓩箸いβ濃擦根底にあるのだろう。さすがにここにきて勢いに陰りが見えるが、米国のドナルド・トランプ大統領候補の猖熟性瓩ここまで受け入れられたのも、背景は同じだ。「自分さえよければ」というエゴイズムが世界を席巻しつつある。

〜略(朝日新聞の天声人語が取り上げた女子高生らが傘を貸し出した運動に触れた後に、読売新聞の編集手帳のクマ出没に触れる。いずれもエゴイズムの問題として取り扱っている。)〜

歴史を降り返れば、ある種のエゴイズムが人類を突き動かしてきたのも確かだが、それにしても昨今は、度が過ぎている。通り一変の正義感で「エゴイズムはよろしくない」と言っておけば済む話ではないように思う。

かつてないレベルのエゴイズムの蔓延で社会常識が歪めば、それが時代のモラルになりかねない。昨日の非常識が今日の常識という社会になれば、どんな人物が育つのか。新聞は人間性の変質に目を向けるべきではないか。



◆宮家邦彦〜週刊新潮『新聞ネットじゃわからない国際問題』

先週、あの国の有権者がついにEU離脱を選択した。彼らの現状への怒りの「感情」が、現実を直視する「理性」に勝ったのだ。あの国とは勿論、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(UK)のこと。彼らがこれほど感情に流される人々とは思わなかった。

〜略〜

それにしても、UKのこの体たらくは何だ。かつて世界帝国として君臨した大国の黄昏が始まったのか。結果を受けて辞意を表明したキャメロン首相の責任は小さくない。彼が反EU勢力を抑え込むため実施した国民投票で国論が二分され、結果的に国政を混乱させた。今回の結果はEU自体の存在意義を根本から問うことになるだろう。EUは冷戦時代に米ソの狭間で欧州を埋没させないため、欧州の政治経済エリートが作った枠組み。今やUK発のダークサイド(大衆迎合的ナショナリズム)が欧州の努力を頓挫させかねない。

〜略〜

EUは欧州覇権の象徴であり、UKの主権と独立を脅かすと離脱派は主張した。「大陸の指示は受けない」という彼らの強烈な民族主義的主張は今後も増殖する。こうした大衆迎合的ナショナリズムの流れはまた、欧州大陸の似たような風潮を一層助長し、EUの政治統合という夢を風化させかねない。〜後略〜


◆藤原正彦〜週刊新潮『藤原正彦の管見妄語』

(前段では、過去記事でEU発足の翌年の思い出として、「経済的に豊かになる為だといいながらも、枕元に猟銃を置くようになったブリュッセルの友人の話」に言及している。)

ここ数十年間のグローバリズムの究極は、世界各地ですべての民族が仲良く一緒に暮らし、同一言語(つまり英語)で円滑に意思の疎通をし、やがては文化や価値観まで共有することのように見える。これは私にとって、似非ヒューマニズムに根ざしたおぞましい光景である。地球の隅々で見事に花開いた魅力ある文化、伝統、習慣、風俗、料理、言語、舞踊、音楽……はすべて地球の宝物である。国境を越えて人々が自由に移り合うようになったら、こういったローカルなものがいずれことごとく消えてしまう。いかに美しくとも地球上がチューリップ一色となっては世も末だ。一面の菜の花や、雨滴をこぼれんばかりにためた紫陽花や、岩陰にのぞく駒草があって欲しいのだ。

昨日6月23日、英国の国民投票でEU離脱派が勝利した。世界のGDPの22%を占めるEUとあって大きな衝撃となり、世界の株式市場は一日にして215兆円を失った。メディアというメディアはリーマンショック級などと言っている。短期的に波乱があるのは免れないにせよ大したことはないと私には思える。英国の最大輸出先はEUだが、逆にEUの最大輸出先もアメリカではなく英国だからだ。できるだけ関税を低くしたいと双方が一致するはずだし、それに向けて産業界も圧力をかけるに違いない。それに当事者となる英独仏蘭などは、国益のためなら何でもする狡猾さを備えている。ただ英国とEUに茨の道が待っていることは間違いないから、早まって英国が中国になびいたり、独仏がロシアになびいたりする方を警戒すべきだ。

今回の決定は、新自由主義やグローバリズムに対する、最初の大々的反乱として世界史に特記されることになるのではないか。離脱案を支持したのは、ここ3年間で150万を超す移民の流入により仕事を奪われた労働者たちや、EUの下で英国が英国でなくなっていることを憂える人々と伝えられている。グローバリズムによって大量生産される「弱者」と、グローバリズムの反作用として生じる「ナショナリズム」による反乱だった。繁栄したのは一握りの人々のみで大多数は幸せになっていなかったのだ。彼等だって、離脱により生活がさらに苦しくなることを知っているはずだ。経済至上主義にこり固まった英国およびEUの政治家の前に「金より大切なものがある」ということを叩きつけた快事であった。



◆塩野七生(しおのななみ)〜文藝春秋8月号『EU政治指導者たちの能力を問う』

現実的な考え方をする人がまちがうのは、相手も現実的に考えるだろうからバカなまねはしないにちがいない、と思ったときである、と言ったのは、ルネサンス時代の政治思想家のマキャヴェッリであった。

今日(六月二十四日)、前日に行われた英国での国民投票の結果を知って、ヨーロッパ中が、いや日本の株式市場も大暴落したから世界じゅうが、この一句をかみしめているのではないかと想像する。

イギリスは、国民投票の結果、ヨーロッパ連合から脱退すると決めた。脱退しようものならサッチャーが政権をにぎる以前にもどってしまうのだ、と考える人々に対して、不安、怒り、怒り、嫉妬、そしてこれらが合わさっての異分子排斥、の想いのほうが多数を占めたからである。

経済的には、当のイギリスを除けば、いずれは「ゆれ」はもどるだろう。だが、政治的な影響はとてつもなく大きい。


〜英国内的にはスコットランド、北アイルランドがグレート・ブリテンからの独立を画策する事態になるやもしれぬ。国外的にはEUでも次々と国民投票が起こってヨーロッパ共同体は解体してしまうやもしれぬ。という論旨の両論併記の後に〜

この現状を改善するには、強固で一貫した政治意志と、それをゆっくりではあっても着実に進めていく忍耐力が求められる。

これほどの難事を有権者に飲ませるには、各国の政治指導者の能力が問われる。今のEUには、そこまでの能力を持つ指導者はいるのであろうか。


〜キャメロン英首相批判、オランド仏大統領批判、メルケル独首相批判をして〜

脱退が決まった今、ヨーロッパ中が大波に振りまわされるであろうと想像するのも、たいしてむずかしいことではないのである。しかも、ゆれ動くヨーロッパに、舵にしがみついてでも自分が、と思う政治指導者はいず、自分たちで、と思う国もないだから哀しい。


◆浜矩子(はまのりこ)同志社大教授〜文藝春秋8月号『英EU離脱でジタバタするな』

(こちらは8頁にわたる長文なので要約しますが)

市場もメディアも過敏に反応し過ぎだ

が論旨。浜矩子教授の場合はEUの崩壊を予言していた著書を数年前に表わしており、そのままの主張です。おそらくイギリスの戦略を語らせた場合、最も鋭い論客かも。1992年にイギリスは欧州通貨制度の為替相場メカニズム、通称ERMからも離脱しており、それと似ているとしている。イギリスの場合、1990年から欧州内に於ける共同変動相場制と説明されるERMに参加した。これは為替変動の上限と下限とを許容範囲内に留めるように設計されたシステムで1979年から設置されていたが、イギリスは1990年にようやく参加した。しかし、イギリスがERM入りや否や、英国ポンドは投機の嵐にさらされた。かのジョージ・ソロスですね。ジョージ・ソロスはイギリスの通貨当局を打ち負かした。まさしく、これが金融資本主義に於ける有名な事件でした。その結果としてイギリスは1992年にはERMから離脱した。イギリスは大変な事になると思われ、「ブラック・ウェンズデー」とも呼ばれたが、事態は意外な方向へ転がった。

ERMという「拘束衣」から解放されたことで、すっかり楽になったのです。ポンド安爛ミカゼ瓩吹きまくり、低迷していた景気も上向きに転じ始めることになりました。そのため、あの日は実はブラックならぬ「ホワイト・ウェンズデー」だったという説も多いのです。

〜略〜

いわゆる「エスタブリッシュメント」(支配者層)の立場にあるエリートたちは、離脱で国内外を揺るがすことを嫌う。だから、残留派になる。一般人は、そんなことに頓着せず、我が思いを表明する。もっとも、私はエリート層の中にも「隠れ離脱派」が結構いたかもしれないと思います。立場上、それを表立って表明は出来ない。だが、いざ投票となると離脱を選んでしまった。存外に、そんな人たちが今回の結果を左右したかも知れません。

〜「脱英入欧」、つまり、外資系企業がイギリスから集団脱出するという懸念は一定範囲で起こるが脱英雪崩が起こるとは考え難いと指摘している。また、ドイツにしても内心ではEUは爐荷物瓩任△襪箸垢襦また、後半はアベノミクスへの懸念として犲詑岫瓩ら懸け離れ過ぎてしまっていることを挙げている。また、アベノミクスに批判的な立場として〜

アベノミクスのように、一握りの強き者、豊かなりし者たちだかで大きな経済を回そうとすればするほど、経済活動の多様性がもたらせてくれるはずの、新鮮な「活力」すら奪ってしまいます。

イギリスのEU離脱による混乱によって、図らずも日本経済の実体が見えた。このことが、まともな経済に戻るきっかけになればと、私は考えています。






この他にも週刊文春の「宮崎哲弥の時々砲弾」、週刊新潮のヤン・デンマン「東京情報」をチェックしたのですが前者「時々砲弾」はEU離脱に触れながらも、安倍政権を消費税延期で批判していた朝日新聞など大手メディア紙への批判で構成されており、宮崎さん自身の見解は記述なし。「東京情報」はアテが外れてしまい、田中角栄がテーマでした。宮崎哲弥さんは安倍政権の経済政策に近く、成長戦略しかないというリベラル色を長期キャンペーンされている感じですかね。