2019年02月11日

山口百恵版「霧の旗」の感想

BS放送やCS放送では松本清張の原作ドラマや映画が放送される機会が多く、視聴しているうちに思い立って、山口百恵・三浦友和コンビの「霧の旗」をレンタルで視聴したのですが、これが、中々、見所があったなという印象。

改めて、こうして視聴してみると松本清張の原作作品に「山口百恵」というだけでも、「おっ!」と引き付ける何かがあり、序盤から、この映画は、はまり役だったような感慨でした。

以下、容赦なく、徹底的にネタバレします。この「霧の旗」、多分、何度も映画化やドラマ化されてますね。基本的な粗筋は知っていた気がする。

山口百恵の演じる主人公は「柳田霧子」という名の19歳の女である。その身の上としては7歳のときに両親を亡くした関係で、関口宏が演じる兄に生活費やら学費など何かと頼って育ったという人物である。

その関口宏演じる兄は小学校の教諭をしており、これまた評判のいい教師であったが、経済的に苦しかった事から借金があり、借金の返済をしながら生活している。その兄が、妙な事から殺人事件の犯人として逮捕されてしまう。借金の返済が滞っており、高利貸しの家に訪れたところ、高利貸しの主は殺害されている。動じることなく警察に通報すればよかったのだが、ここで、関口演じる兄には魔が差し、その殺害現場でもある高利貸しの屋敷で、「どこかに借用書はないか? 借用書があれば、この機会に持ち帰って借金をなかったものにしてしまいたい」と考え、室内を物色してしまう。それが祟って、後に殺人容疑で逮捕されてしまうのだ。

山口百恵演じる霧子は兄の無罪を確信しているが裁判に不安を持ち、九州小倉から、わざわざ東京へやってきて、三國連太郎演じる有名弁護士の「大塚」を訪ねてくる。

三國連太郎は、はるばる九州小倉から仕事の依頼にやってきた依頼人に気を留めてみるが、金銭面で折り合えないとして依頼をやんわりと断る。手付金として必要になる一時金も用意できないし、交通費と弁護士料とで総額は4百万以上になると提示すると、山口演じる霧子は

「お金がありません。なんとか3分の1ぐらいにしてもらえませんか。兄は死刑を求刑されていますが、絶対に無実です。どうしても先生にお願いしたいのです」

と言い張って粘る、なにやら芯の強そうな娘である。

三國連太郎演じる大物弁護士は、その一件を気に掛けながらも、断らざるを得ないと判断した。仕事も忙しかったし、愛人との逢瀬も忙しかったし、そもそも金額的に折り合わない事に周囲がイライラとしている。なので、気に留めながらも、やんわりと断る。

「お嬢さん、それは私を買いかぶり過ぎですよ。九州にもいい弁護士はきっといる筈だよ」

「いいえ、どうしても先生にお願いしたいのです。兄には死刑が求刑されているので、妥協したくないのです。お金がないからって裁判でも負けるなんて絶対に嫌なんです」

と退かない困ったお嬢さんなのだ。

しかし、金額的に折り合わないのではどうすることもできない。赤字を出して九州まで出張する義理は立てられないのだ。

これ、物凄く分かる展開なんですね、三國連太郎演じる弁護士先生の心情が…。わざわざ遠いところから上京して、頼って来てくれている。そりゃ助けてやりたいのは山々だが、自分だってボランティアで弁護士をやっている訳ではないのだから、断らざるを得ない。しかし、山口百恵が演じる「柳田霧子」は、なにやら、思いつめるタイプのようにも見え、引っ掛かる人物でもある。

一年半後、週刊誌の記者である三浦友和は、一年半前の九州小倉の殺人事件の、その後を洗い出す。裁判では死刑判決が下り、その後、控訴もかなわず、霧子の兄が獄死してしまっている事を知る。間もなく、東京でホステスに転身している霧子を発見する。この三浦友和が、その顛末を三國連太郎にも教える。

三國連太郎が、あくまで私用として知り合いのツテで裁判資料を取り寄せて検証すると、確かに、酷い裁判であった事に気付く。国選弁護人で裁判をしているが、それは主張通りの無実を争った裁判ではなく、情状酌量を勝ち取りに行く弁護しかしておらず、死刑が確定。控訴も棄却されて、獄中で自殺してしまっていたのだ。

三國連太郎の中にモヤモヤとした「良心の呵責」が広がってゆく。現在、視聴すると謎ときは陳腐に感じますが、要は犯行時の状況からすれば犯人は左利きであり、右利きの霧子の兄(関口宏)が犯人ではないと簡単に主張できるような裁判であったが、国選弁護士は、それさえもやっていない。

一年半前、本当は、小山明子演じるレストラン経営者の愛人とのデートに忙しくて、依頼を断ってしまったが、そんな事にも後ろめたさを感じ始める。若い頃は正義感に燃えて走り回っていたが、いつしか法曹ビルの中に事務所を構えて、大きな案件しか受け付けなくなっている、有名弁護士になってしまっている自分に背徳感を覚える。「私は若い頃の方が、いい仕事が出来ていたような気がする…」等と、我が身を振り返る。

思わぬ形で復讐劇が始まる。三國連太郎の愛人役である小山明子が殺人容疑で逮捕される。小山明子が殺害現場に足を踏み入れたとき、それをホステスになっていた山口百恵が目撃している。死体が転がっている現場、そこで小山明子と山口百恵とが二人で立って

「あとで裁判になるかも知れないわ。あなた、連絡先と名前を教えてちょうだい」

「……」

「後で私が疑われるかも知れないのだから証人になって。だからお名前を教えて」

「柳田霧子」

と、だけ答える。

以降、愛人の無実を証明する為に、今度は三國連太郎が山口百恵の元に直参し、「どうか証人になってくれ」とか「ホントは殺害現場に浮世絵の絵が描いてあるライターが落ちていた筈なんだ。君が持ち去ったんだろう? どうか返してくれ!」と懇願する立場に逆転する。

しかし、霧子は頑なに「知らぬ存ぜぬ」を通し、証人になる事も持ち去ったライターについても、知らないと言い通す。そうする事で、復讐を遂げようとするのだ。

この頃までに霧子は、児島美ゆき演じる同僚ホステスのいる「のあのあ」のホステスに成り下がっている。当初は、高級クラブのクラブホステスであったが、そうなっている。一連を知っている週刊誌記者の三浦友和が、「君は復讐をするだろうが、そんな君をみていられない! そんな復讐は辞めろ!」と熱く訴えかけ、また、恋愛感情らしきものを滲ませるが、霧子は、まったく表情を変えない。「私はホントに知らないんです。その日は映画を観に行ってました」と嘘を吐き通す。復讐を貫徹する怖い女に徹しているのだ。

三國連太郎は霧子を探し出し、雨の降る路上で土下座して懇願する。その場で「君のお兄さんを無罪に出来たかも知れない」という一連を説明する。その上で名誉回復の為の弁護を引き受けるから、証人になってくれ、証拠品のライターを出してくれと半泣きになって懇願する。

視聴していると、もう、この辺りで勘弁してやって欲しいという感慨になりますかねぇ。経緯からすれば仕方のない事であり、三國演じる有名弁護士の大塚が憐れで仕方がない。しかし、山口演じる霧子は許さない。中々、承服しないのだ。口先で「証人になります」と言っては反故にされる可能性があるので「約束してくれ」と三國が懇願すれば「分かりました。では、私の家に来てください」と自室に誘い込み、お酒を飲ませた上で、誘惑し、肉体関係まで迫る。

三浦友和とのキスシーンは記憶に薄く、あったのかなかったのか微妙なんですが、三國連太郎とのキスシーンがありました。山口百恵の方から三國連太郎に覆いかぶさってゆく――。

後日、内容証明の便箋で「大塚弁護士にしつこく付き纏われ、仕方なく家に上げたところ、無理やり性的暴行を受けました」という告発文を送付してくる。その内容証明郵便は、さすがに信憑性なしとして検察庁の知人が握りつぶす事を約束するが、最後の最後まで、この霧子は弁護士の大塚を許さないで物語は終わる。

ここまでやられてしまうと、序盤のやりとりが効いてくるんですね。三國連太郎がボロボロになっていくのと同じで、「お金がないからって裁判に負けるのは嫌なんです。どうか引き受けてください」と粘っていた序盤の霧子の態度や言葉が生きてくる。理屈としては非はなく、「わかってくれ」と考えるのが正論であっても、そちらで構えられてしまうと、絶望的なまでに恨みを買ってしまっている事も見えてくる。霧子からすると「懇願しても断られ、辛酸を舐める羽目になった」という経験を、相手に対して「懇願されても断ってやって、辛酸を舐めさせてやる」で応じているのだ。

三浦友和演じる週刊誌記者にライターを書留郵便で送りつけた後、霧子は忽然と姿を消す。霧に煙る白樺の林の中を歩いている山口百恵のカットで、終幕。


1977年作品との事でしたが、現在以上に人情が生きていた時代だから、当時だと、また違う温度であったかも知れない。現在、小児科の医院って減りましたよね。しかし、子供を診るのを苦にしない医院などがあると、「あれ、いつの間にか小児科になったのかな?」と思う程、年少の患者さんが多かったりする。入院施設を持たない医院なんですが、事務長さんやナースさんが言うには、やはり、親御さんは心配しているから、そのニーズに応えて診るというのは苦労があるようで、「先生方の方が先にダウンしちゃうかも」なんて言っている。確かに、21時とか22時ぐらいの時間まで電灯が着いてるときがありますかねぇ。

日本映画専門チャンネルが「女優・山口百恵特集」を放送したとき、何作が視聴して、それなりの感想しかなかったんですが、この「霧の旗」は原作と相俟って、山口百恵の演じる霧子の「冷たさ」というのが印象的でした。化粧とかメイクを感じない顔で、スーツを着て東京に出て来る姿は悦に入っていて30歳ぐらいに見える。陰のある感じ、寡黙なまま思いつめている感じ、そういう役をやらせると抜群だったのかも。



ussyassya at 23:56│Comments(5)DVD鑑賞記 

この記事へのコメント

1. Posted by スナフキンの名の名無し   2019年02月12日 01:37
うーん……明日から泊まり込みで横須賀中央の事業所のクローズと残務処理に行くのですが。
いや…リアルに響く話ですねぇ。
まぁ人生とはそんなものよ。とかしか言えない。首を切る人達の中でも失業給付期間に再就職できそうな方もおれば、それは無理だろう……そもそも技能職なのに技能がなく高齢とかの人もいる。
私は実働部隊でリストラする担当ではないけれども「恨み」は買うかもなぁと。
山口氏の演じるホステスは「逆恨み」です。
しかし、それなら俺でもやるかもなと!
ならば彼らの職場を整理しに乗り込むのだから、恨みは買おう。
いや笑えませんな。いやいや……。
2. Posted by スナフキンの名の名無し   2019年02月12日 01:51
私は職種柄、上層部とも連絡があり、いま会社が事業所が店がどうなのか?
そういう情報も入るのですよ。
しかし、そうではないスタッフは不安だらけなのですね。でも中間におるので知っている事を
整理が進むまで仲間に明かせない!
これでいきなりバーンアウトしたら、私を恨むかも知れない。
俺だって被害者なんだけどねぇ(笑)
まぁ…贅沢を言わねば落武者ならぬ落ち処はあるし、どうにかする事はできそうなのですが。
幸いに再婚相手が「やり手」なので(笑)
会社は倒産せずとも、部門閉鎖は避けられないでしょうね。つまり……リストラする側の我々の中にも、近い将来は…がいる。
嫁は喰わしてやるから、アンタは特技も免許もあるのだから、とっとと逃げよ。などと言う。
つまらない恨みを買うなと。
この先に再就職は出きるが、その間に嫁の世話になるかと思うと…反論も出来ず。
しかしなぁ…三国氏にはなりたくはないが。
いや…すみません。ついつい愚痴になりました。
3. Posted by ねこあたま   2019年02月12日 07:50
私が高校ぐらいのときに結婚された記憶があるのですが、結婚した年って21歳なんですね。結婚するまでものすごく大人っぽかったですが、今の歌手でそういう方っているんだろうかと言われると「うーん」となります。
その最たるものが、ジャーニーズでしょう。世間でいうと中学生のお父さんと言われてもおかしくない年まで、アイドルとして引っ張ってきているんですから。
「ネオテニー化する社会」なんでしょうね。
4. Posted by メロンぱんち   2019年02月12日 11:04
スナフキンの名の名無しさん>
「必死に懇願したのに断われた」という認識だと、その仕返し、復讐を貫徹したいと考える可能性は確かに有りそうなんですよね。逆恨みと認識しても、怨嗟が上回ってしまう。「復讐に人生を捧げる気なのか」と説得されても意に介さない。三國連太郎が土下座して許しを請うているシーンは、視聴しながら「これで許してあげないと後味が悪いかも」と思ったのですが、この「霧の旗」、最後まで三國演じる弁護士を許してくれないんですね。。。
5. Posted by メロンぱんち   2019年02月12日 11:08
ねこあたまさん>
ホント、「山口百恵」って人は年齢が分からなくなりますね。持っている雰囲気というのが既に幼くないんですよねぇ。初期シングルは、どこか「ひと夏の経験」のような「性」を売り物にしていた曲が多いんですが、19歳頃なのか、或る時期から大人っぽい楽曲ばかりになっていってますね。

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