オリバー・ストーン監督の「JFK」は何か非常に腑に落ちなかった印象がある。実際に、オリバー・ストーン監督自身も、同作品で描いた真相には満足していないという。とはいえ、確かにピューリッツァー賞受賞者でもあるティム・ワイナーの著書『FBI秘録』と『CIA秘録』では、おおよそJFK暗殺事件の真相は、キューバのフィデル・カストロに対して暗殺作戦を実行したところ、カストロ側に逆に暗殺されてしまったというシナリオになっている。これを仮にティム・ワイナー説と名付けて改めて考えてみると――。


1959年1月1日、キューバではバチスタ政権をカストロが打倒してキューバ革命が起こった。それから約1年後から、この話は始まる。

エドガー・フーヴァーFBI長官は1960年11月、ジョン・F・ケネディがリチャード・ニクソンに僅差で大統領選で勝利する直前であったという。自ずと、それはアイゼンハワー政権下の事となりますが、アイゼンハワー政権は共産主義の拡大を怖れ、キューバのフィデル・カストロとドミニカのラファエル・トルヒーヨの暗殺を画策していた。勿論、それを請け負っていたのはCIA(中央情報局)であった。つまり、フーヴァーが気付いた時には、既にカストロ暗殺計画とトルヒーヨ暗殺計画とが存在していた事になる。

この当時のCIAとFBI及び米議会の実態は酷いものであったという。トルヒーヨは将軍上がりの独裁者であり、トルヒーヨは共産主義の蔓延を防ぐ、防波堤として裏では米上院議員やCIA、そして一部のFBI元捜査官なども繋がっており、しかもトルヒーヨからの賄賂や、「愛の巣」と呼ばれるサントドミンゴ郊外の屋敷でドミニカ秘密警察下で性接待などを受けていた人物も多かったのだという。

具体的には以下の4名の上院議員の名前が挙げられている。

.潺轡轡奪圈悉A出のジェームズ・イーストランド上院議員
▲襯ぅ献▲塀A出のアレン・エレンダー上院議員
ノースカロライナ州選出のハロルド・クーリー上院議員
ぅぅ鵐妊ア州選出のホーマー・E・ケイプハート上院議員

フーヴァーが捜査を始めてみると、不都合な事実が判明した。上記の内のホーマー・ケイプハート上院議員は、フーヴァーの強力な支援者であったが、ドミニカのトルヒーヨから2万ドルもの賄賂を受け取っている事が判明した。CIA関係者、米国会議員は反共、防共の砦として世界各国で独裁政権を裏で支援するという戦略を取って来たが、最悪な形で、米国側の人間が当の独裁者からの賄賂を受け取り、また、秘密の隠れ家で行なわれていた性接待を受けていた。つまり、彼等はバッチリとトルヒーヨに弱味を握られていた。

この頃のFBIでは国会議員の不倫などは掌握していても、そうした不倫に係る醜聞を基本的には利用する事はなかったというが、一方で同性愛や小児性愛の醜聞を掴んだ場合はホワイトハウスへ連絡をしていたという。つまり、多くの国会議員は叩けば誇りが出てしまうものであり、不倫なんぞは取るに足らないものと考えられていたらしい。

そしてJFKことジョン・F・ケネディ大統領(当時)も例外ではなかく、実に5人の愛人を有していたという。そして、その中にはサム・ジアンカナというマフィアのボス、そのジアンカナの情婦であったジュティス・キャンベルとJFKは愛人関係にあった。急に登場人物が増えましたが、サム・ジアンカナは、カリブ海のマフィア・ファミリー10人の内の1人である。併せて、キューバ革命以前のキューバの状態をおさらいすれば分かりますが、バティスタ政権時代のキューバは、トルヒーヨ政権時代のドミニカのようなもので、つまり、裏では米国が支援し、傀儡的なキューバ政府であった。キューバの首都ハバナには富裕層を愉しませる為のカジノがあったが、フィデル・カストロによるキューバ革命後、カジノは禁止となり、キューバ革命で追い出されたマフィアが「カリブ海マフィア」となり、CIA関係者や米国会議員に接近していたのだ。

ケイプハート上院議員がエドガー・フーヴァーの支持者であった事でフーヴァーにとっても都合が悪く、一方でフーヴァーは、事態の深刻さも感じたという。とても表沙汰にできるような話ではなかったらしい。

そして、フーヴァーの後ろ盾になる人物にも腐敗が及んでいたように、実はケネディ兄弟も例外ではなかった。JFK自身がカリブ海マフィアの情婦と愛人関係になっており、且つ、JFK政権で司法長官になっていた弟のロバート・ケネディ(ボビー・ケネディ)に到っては、CIAとカリブ海マフィアとを利用してフィデル・カストロの暗殺に躍起になっていたという。

ここが伝わりにくい部分でもありますが、実は最終的に凶弾に倒れた事でケネディ兄弟に対してはどこか「清廉潔白な政治家であった」というイメージ、その認識が世界的に浸透しているが、当時では禁断であった「暗殺」を何度も何度も画策していたという黒事情がある。そしてケネディ兄弟はカストロ暗殺に、再びカジノをハバナで展開したいカリブ海マフィアと密接な関係となり、先に名前を挙げたサム・ジアンカナにフィデル・カストロを暗殺させようとしていた。何度も何度もカストロは暗殺未遂事件にあっていますが、ここで言っているジアンカナを通じての暗殺計画は毒殺を予定していたという。しかし、その暗殺劇は成就することはなかった。カストロに見破られ、逆にJFKが暗殺された――というのが、ティム・ワイナー説の要旨である。


このJFK時代は、1961年4月にピッグス湾事件の大失態があり、1962年10月にはキューバ危機があった。そして1963年8月、米ソ間で部分的核兵器実験禁止条約が成立した。つまり、喫緊の核戦争リスクは遠ざかり、平和共存体制へと舵を切ったようにも見えた。

1963年11月22日、JFKはテキサス州ダラスで凶弾に倒れた。余りにも有名な映像なので多くの者は知っている、アノ映像ですね。キューバ及びソ連、つまり、当時の米国では東西冷戦は深刻な問題だと考えられていたのは確かである。

犯人とされ、逮捕されたのはリー・ハーヴィー・オズワルド(以下、オズワルド)であった。教科書倉庫に陣取っていたオズワルドがJFKを狙撃し、暗殺した。


オズワルドが逮捕された後、オズワルドに関して、不都合な事実が判明した。CIAに拠れば、リー・オズワルドはFBIへの情報提供者であった。他方、CIAの方はもっと酷い状態で、オズワルドについてのファイルを作成していながらロクに吟味してさえいなかった。

JFKが暗殺されたという一報を受けて、実弟であり司法長官であったボビー・ケネディは共産主義者による暗殺を最初に思い浮かべた。また、JFK暗殺によって第36代米国大統領になったリンドン・ジョンソンも第一報を聞いたとき、同様に共産主義者による仕業だと思ったという。

リー・オズワルドは、元々は米国海兵隊員であったが、1959年10月にアメリカ人としての市民権を捨ててソ連に亡命した人物であった。ロシア人を妻とし、太平洋上の米国の施設の秘密情報をソ連側に提供した人物であるが、1962年に米国に帰国して潜伏生活をしていた。そこまでCIAは盗聴によって把握し、ファイルを作成していた。しかし、そのオズワルドを実際に追尾していなかったのだ。メキシコシティではメキシコ秘密警察の協力を得て、大規模な電話盗聴を行なうなどしていたが、あまりにも情報が膨大過ぎて管理し切れていなかったのが実相だという。メキシコシティが当時、ソ連とキューバとを繫ぐ諜報戦の主戦場になっていた。そして、オズワルドはメキシコシティにあるソ連大使館とキューバ大使館に再三、足を運んでいた事もCIAは把握していた。

オズワルドは1963年9月28日、つまり、JFK暗殺の約2ヶ月前にソ連のKGBの暗殺担当と言われる「第13部」のワレリ・コスティコフなる人物と一対一で面会し、ビザ発給手続きをしていた事もCIAは把握していた。が、CIAによれば「オズワルドがモスクワ、或いはハバナの工作員である確証はない」と判断していた。

CIAもFBIも、この大統領暗殺事件については公表するには間抜けすぎる事実を有していた。しかし、それはCIAとFBIだけではなく、ケネディ兄弟やホワイトハウスそのものも似ていた。当時、フィデル・カストロ暗殺計画については何ら公表されておらず、ホワイトハウス内でも事実を知っていたのは、アレン・ダラスCIA長官、その部下のリチャード・ヘルムズ、ボビー・ケネディの3名だけであり、仮に4人目を加えるとすれば刺客を放たれ続けていたフィデル・カストロという事になる。

JFKを殺ったのはフルシチョフである、もしくはカストロであるという風聞が流れたが、それらは未確認情報なので関係者の口は重くなったのが当時であったという。CIAもFBIも、そしてボビー・ケネディも事情を知る者は誰も積極的には語りたがらなかった――と。

実際にFBIはエドガー・フーヴァーが完全掌握していたが捜査には本腰を入れておらず、ウォーレン委員会の名前にもなった最高裁判官アール・ウォーレンも渋々、ウォーレン委員会を引き受けたとする。このウォーレン委員会を誇大に取り扱うものの、メンバーのアレン・ダラスは事件当時のCIA長官であり、他のメンバーにはジェラルド・フォードがあり、このフォードは後に大統領になっているが、フォードがホワイトハウスに連絡係をしていた。


さて、確かにティム・ワイナーは、そのようなJFK暗殺事件説を採っている。細かな証言なども引用されているので、おおよそは真相に迫ったものと考えられるのかも知れない。FBI秘録、CIA秘録と読んでみると、ティム・ワイナーが暴いたのは以下の点か。

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■藤贈匹錬達稗舛鉾罎戮譴个泙箸發柄反イ任△辰燭フーヴァーは極端な反共主義者であった。

フーヴァーはケネディ兄弟と敵対的関係にあり、特にボビー・ケネディがCIAを通じてカリブ海マフィアにカストロ暗殺を画策していた事に非常に腹を立てており、捜査そのものに協力する気が希薄であった。

――が読み取れる。また、CIA内部では捜査官らによる足の引っ張り合いが起こっていたともいい、CIAが頼もしいスパイであるというのは小説や映画の影響であるとも述べている。諜報員とか秘密任務というと聞こえはいいのかも知れませんが、要は、賄賂や性接待の世界でもある。肥満を理由に出勤停止を申し渡された極秘情報にタッチしていた人物が、その出勤停止期間中、あっさりとソビエトの美人スパイのハニートラップに引っ掛かって、たった一回の性交渉の為に国家の機密情報を渡してしまっていたなんて話も『秘録』には収録されており、確かに表沙汰にはしにくい内容になっている。表沙汰にすれば「お粗末すぎるだろ!」とバッシングされるに決まっている、そーゆー次元のお粗末さやデタラメを抱えている組織なのだ。二重スパイだらけだし、映画スターが演じるハリウッド映画とは全然違うらしい。高級住宅地に住んではいるが、ロクに現場主義ではなく、潜入捜査などはしない連中が沢山、混じっているのだ。

反面、幾つかの疑問を浮かぶ。フルシチョフにはJFKを殺害して何かメリットがあったとは考えにくく、考えられるとすればカストロ黒幕説となる。既にフィデル・カストロも故人となっている訳ですが、そうした話はあんまり出て来ませんね。カストロの場合はケネディ兄弟から命を狙われていたので、恨み骨髄、報復する動機は確かにあったが、JFK暗殺に成功していたのであれば、何か匂わせる発言などが見つかっても良さそうな気がするが、それが無い。既にソビエト連邦も崩壊しており、何か機密文書が開封されても良さそうだが、それも無い。そして、どういう訳か未だに米国ではJFK暗殺に係る機密文書が存在したままの状態になっている。

鍵を握る人物であった筈の、リー・オズワルドは、連行されるダラス警察署前で射殺されてしまった事で、ケネディ大統領暗殺事件はフタをされてしまった訳です。

が、ヒントになるかも知れない逸話にも触れられている。当時のFBI及びホワイトハウスは、狂信的なレベルで反共主義に傾斜しており、キング牧師についての盗聴なども行なっており、最終的にはキング牧師も暗殺されている。FBIではキング牧師が共産主義者と繋がっているという名目で盗聴などをしており、キング牧師の性交中の声を録音した音声テープなども持っていたという。ワシントンへの行進に対しても反対、盗聴から得た「変態だから」が理由でキング牧師を危険人物視していたのが分かるる。エドガー・フーヴァーは、かなり狂信的な反共主義者であり、同時に公民権運動に対しても冷やかな白人優越主義であったことが読み取れる。

おっと、忘れてはいけない。ロバート・ケネディ(ボビー)も凶弾で倒れた。ああ、やっぱり、ケネディ兄弟の話というのは結構な闇があるんじゃ…。ブラックセプテンバー事件や日本赤軍なども検証してきましたが、左翼系テロリストや革命兵士らの暗殺技術や狙撃技術が優れているという話も、或る種の幻想であり、ホントは杜撰で仲間割れが激しかったというのが実相だったようで「共産主義勢力が…」のような陰謀論の組み立ては、共産主義勢力を怖れる心理が見せている虚妄と考えるのが妥当なんじゃないのかなと推定しますかねぇ…。