「ゴジラ〜キング・オブ・モンスターズ」と表記するよりも「GODZILLA〜KING OF MONSTARS」と表記すべき作品でしたが、これ、凄くないですか? 私の採点では「シン・ゴジラ」にダブルスコアぐらいの差をつけて、こちらに高評価をつけるけどなぁ。

CS放送のムービープラスで日本語吹替版が放送されていたのを視聴、最初の60分ぐらいは正直、退屈な映画でしたが、60分過ぎたあたりからの展開が凄すぎる。ゴジラの描き方を分かっていらっしゃる。いやいや、ゴジラも凄いのだけれども、それ以上にラドンとキングギドラがサイコーだった。

先ず、ラドンからですが、どうも東宝作品「ラドン」をよく研究しており、ラドンといえば阿蘇山なのですが、こちらではメキシコのどこかの火山の中、溶岩にまみれに怪鳥としてラドンが出現、度肝を抜かれますな。翼とか燃えてんの。で、これ、最新のアストロバイオロジーなる分野からすると、高熱のところでは生命は存在しないであろうという常識が引っくり返されており、まさか溶岩の熱に耐えられる生命体は存在しないと考えたいところですが、その常識破りをやってのけている。考えてみれば、未知の生物なんだし、溶岩でも焼けない怪獣が居ても構わないって訳だ。そして、よく研究しているなぁ…というのが、そのラドンが巻き起こす強風によって九州の街が強風でめちゃくちゃに破壊されたのが東宝版「ラドン」であった訳ですが、どこかオマージュ的なのだ。

キングギドラは、当初は「モンスター・ゼロ」と呼ばれている。正体不明だ。ようやく正体が判明すると、ギリシャ文明よりもエジプト文明よりも、もっと古い古代文明で、神と崇められていた宇宙からやってきた神だと判明する。ゾッとしますな。また、丁寧に、西洋人が「ドラゴン」とキングギドラを表現するとチャン・ツィー演じる東洋人が「西洋のドラゴンと東洋の竜とは異なるのです」と説明するシーンもあり、「おお、そうだ、そうだ! キングギドラこそ、神に相応しいじゃないか!」と引き込まれる事になる。キングギドラの一本一本の首が地を這うように動く感じとか、これは明らかに円谷プロが昭和に描いた表現の域を心地良いレベルで超えてくれている。

そしてラドンは日本人好みの、つまり富士山のようななだらかな稜線の山、その頂で、夕陽を背にして翼を広げるシルエットが一瞬だけありますが、トレーディングカードにして欲しいほどの見事の構図であった。それだけなら単なる偶然なのですが、更に更にキングギドラの方も青白い夜空にシルエットとして浮かび上がるシーンがあるのですが、キングギドラの右側には十字架らしきシルエットが配置されており、これも思わず息を飲んでしまうほどの美しくも背徳的な構図でした。考えてみたら、キングギドラになってしまうと、もう、神や悪魔に喩えるしかないような次元の最強最悪の破壊神であってホントの事を言えば、ゴジラなんて目じゃない訳で、そこら辺の事を、製作者はよく分かっているっぽい。ゴジラにも、そうしたシルエットで描くカットが用意されており、悪くはなかったのですが、ラドンとキングギドラが秀逸すぎだったという印象。

何故、この作品が凄いのかって、日本版のゴジラシリーズへのオマージュが見事なのだ。オキシジェン・デストロイヤーなるミサイルで一度は、キングギドラと格闘中のゴジラを殺してしまう。これは或る意味では地母神殺しである。愚かな人間が地母神を殺してしまったので、侵略神であるキングギドラによる蹂躙を止める術を失ってしまう。こうなったら何が何でもゴジラに蘇生してもらうのが筋だ。人類よ、悔い改めよ、懺悔しろ。地球を最も蝕んでいるのは、我々人類の方なのだ。実際に、そういうセリフ上のやりとりもなされる。

一見すると勝手に私がそのように言っているだけに聞こえるかも知れませんが、ゴジラという映画の語り口として「カタルシス」(魂の浄化)は昭和50年頃から存在していたと思う。怪獣映画では、しばしば文明の証たる都市が無惨にも破壊される。モスラは東京タワーで蚕となり、羽化し、ラドンは猛烈な暴風によってビル街の袖看板や家屋の屋根を吹き飛ばして粉々に破壊し、自衛隊の戦力は怪獣たちには通用しない。こうした映像を見てオモシロいと感じる感覚はカタルシスと関係しており、ホントは現行文明を空想上の怪獣に完膚なきまで破壊させる事で、或る種の破壊願望を満たしている。心象風景としては、こうだ。西洋的文脈で言えば「こんな物質を欲しているのではない。ホントは魂の救出を我々は願っているのだ。このような災厄が起こってしまったのは、我々に問題がある。神よ、怒りをお鎮め下さい、悔い改めます」になる。日本的文脈で言えば「ああ、やっぱり、神罰が下ってしまったか。思えば、これこそが自業自得というものだ。バカな事をしたもんだね」的な。

復活したゴジラは放射能をエネルギーにして、パンパンに身体を膨れ上がらせる。あのゴジラの皮膚はゴツゴツとしていて裂け目のようなものがありますが、皮膚の裂け目裂け目からは真っ赤な焔が透けて見えている。宇宙規模の災厄にして侵略神たるキングギドラ。そのキングギドラに挑むのは、過剰な放射性エネルギーでパンプアップした火焔の塊と化したゴジラである。