国連の女性差別撤廃委員会（ＣＥＤＡＷ）が、10月29日、女性差別撤廃の観点から日本の皇室典範の改正にまで介入し、日本政府に対して勧告している事に強い憤りを感じている。既に日本政府も抗議をしている訳ですが、つい先ほどＴＢＳ「サンデーモーニング」で流れた映像では、スペイン人の女性が「私たちの国、スペインでも王位継承では男性優位になっているので…」と言っていた。日本の天皇制をスペインの王制と同じ種類のものだと思い込んでいるのだ。インカやアステカで残虐の限りを尽くして植民地化し、その文明そのものを滅ぼしてしまったスペインの王制の歴史と一緒にされてしまっては、もうどうしようもない。

しかも日本人にとっての天皇制の問題は、将来的な日本の�犧澆衒�そのもの�瓩鮑険Δ靴�ねない問題だ。何故、外部からガタガタ言われて、そんなところから発せられた勧告に怯え、挙げ句の果てには「勧告に対して誠実に向き合うべき」という論調にされてしまうのか驚きを通り越して憤りを感じて、即座にテレビのスイッチを切ってしまった。

あれもこれも、なんでもかんでも外圧に屈するような卑屈な論調になっている限り、日本は日本文化を喪失し、実質的な無国籍文化になっていくだけでしょう。そんなに海外諸国は御手本にすべき優れた文化を構築できているのだろうか？　もしかしたら日本人から尊敬もされていない文化水準であるにもかかわらず、自分たちが掲げる一面的な正義を、全方位的な正義と勘違いし、日本のような異文化の国々に対して、その一面的な正義を押しつける事に気付かない感覚は何なのだろう？　少しでも他者に対しての深慮があれば疚しさを感じてもいい筈だが、全く疚しさを感じていない事に驚かされる。ホントは、未だに自民族優越主義を継続していて、相手に対しては一ミリほどのリスペクトも持っていないという事ではないのか。知らぬが仏とばかりの自民族優越主義だ。

間違っても、こうした外圧、諸外国からの勧告に迫られて天皇制を考えるべきではない。日本人にとっては天皇制の問題は自分たちの問題そのものであり、この問題を論じるに当たって外部の声を政治的圧力として持ち出すのは、絶対にあってはならない事なのになと思う。

一昨日、文科省の調査で「不登校」や「いじめ」の数が増えている事が判明した。ホントに、マスメディアが「こども」や「教育問題」に真摯に向き合っているのであれば、そうしたニュースにもっと力点を注いでもいい筈なのに、テレビニュースが報道したがるのは、いつでも決まって当代グローバリズムに則った西洋型フェミニズムに則った一面的な正義論で「不当な差別が行なわれている」というものばかりだ。それらは「正しさの押しつけ」になってしまっているのが現状だ。こうした価値観の中で、分断が加速し、暴発や爆発の素が貯えられ続けているのが実際だ。

例えば、10月３日付の朝日新聞オピニオン面（11面）では、「異言　天皇制論」という紙面が形成されていた。そこではジャーナリストにして歴史家だというヴィーラント・ワーグナー氏という人物の見解が掲載されていた。決して粗末な内容であった訳ではない。しかし、それでも少し見解のズレがある。

そのヴィーラント・ワーグナー氏の弁は次のようなものがあった。

「もし敗戦後に天皇制が廃止されていたら……。一つ確かなことは、日本国民は責任ある市民、主権者としての責任をもっと早く自覚せざるをえなかっただろうということです」

その可能性も否定できないと思う。しかし、この話についでも「一つ確かなことは」と冠するほどの確度で、そう思う訳ではない。そもそも歴史を遡って物事を思考するのは、そんなに有効ではない。タラレバ論。「きっと、これこれこのように転んだであろう」という議論は、どのようにやっても曖昧な根拠に基づくものになってしまい、それについては〈確かなこと〉と言えるような確度の見識は見い出しにくいのというのが現実というものだ。

決して、そうした見識が著しく間違っていると述べているのではない。そこまでの説得力はないと考えているの意だ。また、気づいてしまったので触れておくと、日本に民主主義を根付かせたのがＧＨＱであり、そのＧＨＱが「朝鮮戦争時に民主制を根付かせる熱意を失った」という主旨の説明をしている。これも酷い逸脱だとは思わない。しかし、重箱の隅をつつけば、ポツダム宣言受諾時でも米軍の司令部では継続的に世界戦略を考えていたのであり、その間に日本に民主主義と平和主義を根付かせるという思惑が本当にＧＨＱにあったのかどうかだって微妙だ。また、昭和天皇の見解にも触れておくと、日本に民主主義をもたらせたのは進駐軍ではなく、大正時代にも大正デモクラシーという形で民主政の波が到来していた事を念頭にして、「日本人が民主主義を獲得したのは敗戦後ではない。その事については、はっきりしておきたい」とわざわざ念を押すかのように言葉を残しているのが事実だ。

そもそも人間たちのつくった法律によって国家の象徴を人々が規程していくという考え方、その次元からして日本の天皇観とは相容れないものがある。その可能性だって小さくない。日本人の天皇観というのは、単なる支配者階級の歴史ではなく、神話とも繋げられるようにして成立してしまったシステムであり、他の文化圏の王制とは単純に比較できない。かつては、天皇論として、天皇というのは国王というよりも宗教的権威の王であり、各国の国王に比定するよりも、カトリック教会に於けるローマ法王（教皇）に近いという議論も実際にあった。天皇制を人の知恵で弄ろうとすることは、日本人の根本的な価値観を歪めしまう可能性があり、且つ、皇位継承権を巡る問題ともなれば、尚更に外圧が作用するなどというのは躊躇われるべき話だ。深く深く、日本人自身が考え抜いて決断すべき問題なのだ。それを国連から勧告されているので、その勧告については誠実に取り組むべきなのであると論じてしまっては、実質的に日本人の「主体性そのもの」、「主導権」、「意思決定権」を外部からの勧告に委ねるようなものだ。ガザ地区については見殺しにするように勧告されたら見殺しにする事に大手を振って賛同し、ウクライナについては支援するように促されたら「はい。仰せの通りに支援します。いえいえ、どうせ財源は税金ですので被統治民どもが忘れた頃には債権放棄いたしますので、ご安心ください」のように、ただただ、時代に迎合し、西洋文明に付き従うだけのロボット奴隷のようなものに成り下がってしまうのだ。

日本人が国民主権に目覚めて、主権を主権として獲得していくには、外部からの勧告に誘導されて修正したり、廃止する等というのは最悪で、仮に廃止にするという決定であったとしても、その決定は日本人自身が自らの判断で行なう事が望ましい。そうする事で、本当の責任感に目覚めるのだ。おかしな夕刊紙や、おかしな週刊誌が、現時点でも皇位継承権を巡る意図が隠れていそうな政治的な意図のある皇室報道をしていますが、あのように権力を巡っての綱引きが起こってしまう性質を孕んでいるのが日本の場合は天皇制の問題になってくる。

同じ朝日新聞の「異言　天皇制論」では、社会学者の橋爪大三郎氏の話も掲載されていた。なんだかんだいって、こちらの方が実際の天皇制の問題の核心に迫れている意見だと感じた。例えば、「天皇制に於ける皇位継承問題を、政府が決める事に危険性はないのか？」という問題がある。裏返すと、天皇制という制度は、特に誰かが誰かを選出するというものではなく、ただただひらすらに世襲制であるからこそ、そこを弄る事が禁じられているかこそ、天皇や皇室といったものへの尊崇が維持できているのではないのかという問題になってくる。

「行政府が意見を持つことはありえますが、それは最終判断にはならないということです。国民が判断しなければ、この問題は解決できない。『政府は何をしているのだ』と考える人もいるでしょうが、当事者意識の欠如であり、主権者にふさわしくない姿勢です」

まさしく前半で私が述べた主権とか主導権の問題だ。政府が政治的手続きによって「次の天皇は✕✕宮と決定いたします」のように決定すべき問題ではなく、むしろ、そのように皇位継承問題を政治問題化する事は危険なのだ。むしろ、定められた皇室典範に則って粛々と引き継がれる事で威厳を維持してきたのが天皇制だ。

橋爪氏は、実際に「次世代の皇位継承資格者は悠仁さましかいません」と述べている。私も同意見だ。これに異を唱えている人たちは、おかしい人たちだ。規定路線を弄らないこと、不可侵なものは不可侵なものであるという文脈が見えていない人たちなのだ。結局のところ、自らの意向に沿うようなものへと天皇制を改変すべきだという思考の人たちであり、そういう人たちの意見こそが問題なのだ。実際に二・二六事件の折には、昭和天皇の実弟であった秩父宮をクーデターを画策した勢力は担ぎ出す動きがあったという。そういう行為と同種のものだ。天皇や皇族を権力闘争に利用しようとする危険思想だ。一部のおかしな皇室報道は既に奸賊的なものになってしまっているのが現状だ。なので、本当に次世代も皇室が維持できるのかどうか瀬戸際に立っている。

橋爪氏は、天皇制を具体的にどうしていくのかについて、次のように述べていた。先ず、一つ目は、西洋のように外国の王室から新たな王を連れて来るという方法。ドイツやイギリスでは…のように続いている。しかし、先ず、これは検討するまでもなく、却下でしょう。二つ目は「天皇の後継者がいないので諦めます」と決断し、日本は完全に共和制に移行することだという。これは、つまり、天皇制を存続させないという決断である訳ですが、この選択肢は意外と重要だ。維持していく事ができないものは、自然の流れの中で昇華させてゆくしかないという考える事もできる。また、再三、掲げて来た日本人自身の責任感であるとか主導権のようなもの、国民主権である事に覚醒する契機としては大きな契機になるかも知れない。三つめは、奇抜なアイデアだと前置きした上で「皇族という概念の範囲をめちゃくちゃに拡大させてしまい、天皇家を解体し、フツウの人々の中からでも天皇を選べるようにする」という。まぁ、これは私は賛成できないかなぁ。


天皇制のメリットというのは思うに政治家は腐敗するのが当然であるのに対して、天皇制の場合は「天子たるもの、聖（ひじり）でなければならない」という幻想が作用するので、その骨格として聖帝思想の伝統が維持される事になり、腐敗を免れる事が可能になるからだと想像する。質素である事を美徳とし、謹厳実直にして道徳的である事を重んじられる。軽佻浮薄や付和雷同に陥りがちな現実世界の中で、そのような歴史的バックボーンを持っている事は、本来であれば日本人の精神性とか日本的価値観とも合致していたものだと思う。

あれこれと天皇論を目にしてきましたが、興味深いのは天皇制が、天道思想とでも呼ぶべきものに繋がっている事だ。天網恢恢疎にして漏らさず。世界は、現在のような地球儀として理解されていたのではなく、世界は天と地によって形成されているという思想の中で生まれたものであり、「天命」とか「天運」といった言葉があるように、天は具体的な働きかけをする装置ではない。ただただ、天は見守ってくれているだけだ。しかし、天はすべてを知っている。人を欺くことはできても、天を欺くことはできない。「天地神明に誓って」と言うように欺こうにも欺く事が成立しないのだ。それでいてユング心理学の研究者であった河合隼雄が指摘していたように〈中空〉の構造があり、それは具体的には天を照らす神であり、つまり、アマテラスの事だと思われますが、直接的に働きかけることができないような構造に最初からなっている。

立憲主義とか法治主義という西洋的な概念で物事を語る場合が多いものの、そうした部分からして日本文化の場合は少し異なっている。立憲主義にしても法治主義にしても、いわばルールであり、それでいて、そのルールというのは破ることも出来てしまうのが現実だ。ガザ情勢を見よ。ウクライナ情勢を見よ。過去の戦争に於ける国際法違反の数々を直視せよ。ルールを守る者には制約がかけることができるが、その実、ルールを破る側の者が主導権を握れてしまうのだ。何故ならルールというものはルールに過ぎないから。しかも、そのルールは人がつくったルールに過ぎない。だから約束を違えることも簡単だ。ところが天道思想のようなものになってくると、相手は天というつかみどころのない神聖な何かであり、不可侵の何かであり、（自然）神と繋がっている。なので自分で自分に嘘をつくことだって、自分で自分を欺くことだって可能だが、そんな場合でさえも天は御見通しだ。

一つの基準になる支柱がある。その柱に沿って物事を考えていれば、何事も相対的なものなのであるという混乱状態でも、大きな目安になる。勿論、ここで述べている〈柱〉とは神の事であり、大黒柱であり、心棒の事だ。伊勢神宮の式年遷宮の際には、そこに小さな棒を立てるところから儀式が始まるという。これは【たいいつ】と言って、漢字では「太一」、「泰一」、「太乙」のように表記されている。それは古代中国の〈天皇大帝〉に係る思想との関係が疑われ、道教では天を主宰する神の名である。その天皇を、実際に日本は千何百年も制度として温存してきているのだ。

中沢新一の『精霊の王』の中で、「何故、万物の始まりが小さな棒切れなのか？」という説明もありましたが、ひょっとしたら、その話は宇宙卵の話まで遡れるような、凄まじいレベルの叡智である事に気付かされた。宇宙の始まりを図像学的に示すと、先ず大きな正円があり、その大きな円の円周の一点に小さな棒線が描かれる。その短い棒線がすべての始まりだ。円の中で、どのように伸びてゆくのか、或いはどのような運動をさせるのかは自由なのだ。円の中に絵を描いていいし、ただただ分割するような線を引いてもいいし、模様を描いてもいい。物事の始原を図で表わすならば、始まりは円の中に描く小さな棒になるという事だ。（別に円ではなくてもいい気がしますが、円が妥当だ。しかも宇宙卵に描かれている模様の解釈にも通じる可能性があるというのがポイントだ。）ホントは凄まじいレベルの叡智で、或る意味ではヒストリーチャンネルの「古代の宇宙人」や、グラハム・ハンコックの『人類前史』のような半オカルトとも繋げてしまったとしても、おかしくないようなレベルの非常に高い叡智が隠されている。一体全体、どこの誰が？　

しかしながら、昨今の皇室報道などを見るに、そうした幻想を幻想として既に維持できなくなりつつある。西洋の王室との混同が進行して単なるセレブ扱いになってしまっているのだ。それらを考えると、現実的に実のある天皇制を存続させていくのは難しいだろうと思う。なので天皇制や天皇論については、次世代の人たちが考えるべきで、もう私が考えることはないと思っていましたが、国連から勧告を受けて皇位継承権にまで口出しをされる等という事態にあっては、ホントに情けなく、実際には屈辱だよなと思う。

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