『トランスジェンダーになりたい少女たち』と『抑圧された記憶の神話』の二冊に目を通していて、或る時期以降の迷走と密接に関係しているような印象を受けた。言い過ぎになってしまう可能性もありますが、そうとしか思えないのだ。
魔女狩りのバイブルが『魔女の槌』であったように、近親姦の性的虐待にも幾つかのバイブルと呼ばれていたものがあったという。例えば、簡単な心理テストをして、その者を誘導するような、そういう手法が用いられていた。これなどは現在でもネット上で多く目にしているような気もする。
例えば、以下のような心理テストを、その人に課して、その人を誘導していくという手法が、或る時期から定着している事に気付かされる。
➀感情が抑えられないと感じることがありますか？
�▲侫薀好肇譟璽轡腑鵑�あるとき、過剰な反応をしたり、怒りを誤った方向に発散させたりすることがありますか？ 怒るのが怖いですか？
��子どもの頃のことで思いだせない記憶がありますか？ 「何かあったのでは」という感覚がありますか、感情を伴わない虐待の記憶がありますか？
�ぅ▲襯魁璽襦∨稾堯⊃�物、背中の痛みなどの悩みはありますか？
上記は『抑圧された記憶の神話』の35頁に記されていた、いわゆるサバイバーたちのバイブルにあった質問だという。著者のエリザベス・ロスタフ博士は上記の４問を挙げた上で「質問は私の症状にぴったりだ」と皮肉を吐いている。
本当に、このテのチェックリストが溢れているが、これらの小テストに説得力や整合性があると言えるのだろうか？
再び『抑圧された記憶の神話』から小テスト部分の引用となります。
１ 自分のしたいことが何かわからないで困るということがありますか？
２ 新しい経験をするのが怖いですか？
３ 人から何から暗示されると、従わなければならないように感じますか？
４ 人から暗示されたことが命令のように感じられ、従いますか？
この短い症状リストはジョン・ブラッドショーの『リアーズ』一九九二年七月号のコラムから引用したものだが、もともとは彼の著書『帰郷』の長いチェックリスト「疑いの指標」の一部である。ブラッドショーは『リアーズ』のコラムで、これらの質問項目に対し以下のような簡単な分析を行っている。
これらの質問に一つでも「はい」と答えた人は、発達の初期において何らかのダメージを受けた可能性があります。（『抑圧された記憶の神話』226頁）
確かに、このようなチェックリストが出回っている事自体が色々と問題なのではないか？ そこに挙げられている問題にしても殆んどの者が引っ掛かるような問題だとは感じないだろうか？
更に、前掲著にとっては問題の核心でもあった「抑圧された記憶」に係るチェックリストでは、以下のようなものがあったという。
➀自分が人と違っていると感じますか？
��気力が湧かなくて困るということがありますか？
��自分は完璧でなければならないと感じますか？
�げ甬遒良毀�快な出来事の穴埋めをしようと、仕事や活動に打ち込むことがありますか？
心的外傷を意味する【トラウマ】というカタカナ語が、やたらと拡大解釈して使用されるようになったと感じた時期があった。それが丁度、1998年とか1999年であった。現在では日常会話でも、ちょっとした不愉快な記憶についても「あれはトラウマだった」とか「トラウマになった」のように用いられるようになっている。そして、やはり、その頃に「心理テスト」のようなものが情報バラエティ番組などでも用いられるようになった。言ってしまえば、物凄い「ライト感覚で語る心理学」が、21世紀になった頃から大量に流布したような記憶がある。
それらは、おそらく日本に於いては自己啓発本ブームと正比例していると思う。フロイトやユングを語ろうとする心理学というよりも、何かちょこまかとしたチェックリストのようなものを用いて、自己認識や正しい方向付けのようなものを展開させる新自由主義的な価値観との相性も良かったので、それらの洗脳的な自己啓発本や自己啓発セミナーが広まったような感覚があった。
ひょっとしたら――と、考えたくなりませんかね？ おそらく、そのまんまなんじゃないのかな。学術とプロパガンダの境界線が決壊して、政治的プロパガンダと企業的プロパガンダとによって理想的な労働者育成プログラムが出来上がり、それは自己啓発という名前で広く浸透した。いやいや、実際に書店の売場に割当に関する話で、或る時期から自己啓発本コーナーが出来たという話を何かで読んだ記憶がある。そのまんまの可能性が高い。心理学者でも精神科医でマスメディアに登場して名前を売ってしまえば、それでいいのであって知名度は名誉の証そのものになり、メディアへの露出は収入そのものにも直結するようになっていた。だから、分かり易い心理学が求められたというポピュリズム的な部分がある。
そのポピュリズム的なものとは別に、先述したような政府と企業が望む人材育成プログラムに沿った自己啓発ブームが仕掛けられていたような気がする。例えば、もしもドラッカーを読んだ女子マネージャーが野球部の監督をしたら？ 勝手にどうぞって話のような気がするけどねぇ。或いは「金持ち父さんビンボー父さん」とか「チーズは何処へ行った」とか。あの辺りは経営組織論みたいなもので、ホントに一般読者が読む内容なのかどうかは非常に怪しい気もする。しかし、ベストセラーになったりした。ベストセラーになったというから広く一般読者も買って読むようになったという事だ。
和田秀樹著『テレビの大罪』（新潮新書）には私の記憶では「最近、流行のアドラー心理学には注意が必要かも知れない」ぐらいの事が記してあったと思う。同じく和田秀樹著『世界一騙されやすい日本人』（ブックマン社）ではＳＴＡＰ騒動や平成のベートーベン問題についての辛辣な意見が記されている。確かに或る時期からサッカーやオリンピックに係る報道で「勇気をありがとう」などの情緒に訴えるフレーズが多用されている事を指摘しており、挙げ句、一億総白痴化という言葉にも言及している。そういえば「納豆にダイエット効果がある」なんて放送した番組があって騒動になったのは2007年だったらしい。もう、冷静に語れば、物凄くヘンテコな情報環境の中で25年間ぐらいを我々は送っているのだ。
そして、先述した精神医学界の問題がある。チェックリストつくりが難しいのも実際なのでしょうけど、性同一性障害と呼んでいたものがトランスジェンダーに名称が変わったり、躁うつ病が双極性障害になったり、最近までアスペルガー症候群と呼んでいたものが見直されて、ＤＳＭ−５基準のどこに当て嵌まるか等で判断するように修正されている。つまり、本当に名称・呼称を変えてきているという現実がある。どういう事が起こっているのかというと、チェックリストの見直しと名称変更であり、そのチェックリストをつくるという行為だ。それがどういう意味を持っているのかというと標準化に係る作業である事と密接に関係している。つまり、匙加減一つで、その症例を病気としたり、障害とすることも出来てしまう決定権を握っている。そこに各種の製薬ロビーや特定の思想を有する活動家も関係してしまう素地を持っている。殊にトランスジェンダー問題の方は『トランスジェンダーになりたい少女たち』という書籍に洗いざらい実情がブチ撒けられている。政治問題化してしまうのだ。
この問題は米国版であればジェイン・メイヤー著・伏見威蕃訳『ダーク・マネー 巧妙に洗脳される米国民』（東洋経済新報社）、日本版であれば佐々木実著『市場と権力』（講談社文庫）あたりに詳しく、全体像を掴みたければ、ノーム・チョムスキーあたりを読めば見えてくる問題でもある。つまり、先進国世界は丸ごと企業と政治と活動家らが結託した形でコーポレーション化してしまっており、事実も何も政治的な都合でシロクロをつけられてしまうようになってしまっているという事でもある。嘘だと思うならネタニヤフ政権や、それを擁護する役割をしているブリンケン米国務長官の動静を顧慮すれば、一目瞭然だ。為政者を動かしているのは、政権にカネを出すか出さないかだけの問題で、それが世界を動かしている。その構造がありありと露見しているのが現況でしょう。
拙ブログ：慈善団体を装う政治ロビー団体及び宣伝団体
戦後自由＆民主主義体制が整ってきた80年代頃には、次なる問題として「マスメディアを制する者が情報を制する」という話が浮上していた。有名なところではフランクフルト学派と呼ばれるユルゲン・ハーバーマスらであったと思う。しかし、実際にはそれらの言説が登場するよりも早く、70年代にもマスメディアを利用して「政治的な（道徳的な）正しさ」（≒ポリティカル・コレクトネス）みたいな宣伝活動をしていたという事が『ダーク・マネー』では語られている。あまり実感はない人が多いと思いますが、気がついたら「なんたらかんたら法人」であるとか「シンクタンク」等の団体は第三者的な研究機関に見せ掛けているが、実際には何かしら企業の別動隊であったり、単なる天下り先であったり、宗教団体を装った諜報機関であったり、ボランティア団体を名乗る政治ロビー団体だったりする。その笑えない現実を、2020年代の我々は知っている訳です。彼らが掲げている名称と、組織の実態とはかけ離れている事もしばしばで、オピニオン全般は、どこでどういう金づるを持っているのか、すっかり彼らに乗っ取られてしまっている。
これらの問題の〈手始め〉にして起こっていたのが、〈新たな病気をつくる〉という問題であったとされている。精神疾患の分野は格好の分野であった。確かに或る時期までの「アルコール中毒」と呼んでいた時代の扱いと、現在の「依存症」との扱いの違いに気が付くでしょう。また、それ以上に大きなものが【トラウマ】等の「自己認識に係る問題であった」という訳です。実際問題として、それを病気だと判断するか障害だと判断するかの基準、その基準は異常か正常かなどの問題を標準化する事を意味している。血圧の高低、腹囲がメタボリック・シンドロームに該当するかどうか等の話は、いつ頃から始まっただろうか？ 日本ではどういう根拠なのか腹囲85cm以上だとメタボと自動的に診断されるが、和田秀樹氏は疑義を掲げていたと思う。いや、それらは一応は数字が利用されているから、まだマシかも知れない。問題なのは心理学や精神分析などのメンタルヘルスの分野であり、数値化する事も難しい問題だから先に挙げたようなチェックリストのようなものが必要になってきたという訳です。しかも、その程度の質問設定で自己診断を問うものである。となると、その者の自己診断に過ぎず、自分に厳しい基準を持っている者であれば軒並み自己評価は低くなるだろうし、自己主張する文化であれば基本的には自己肯定感も強くなる等の問題を無視して導入されているのだ。「出過ぎた真似をしないこと」が美徳としてきた日本では、あれらのチェックリストであれば自己肯定感や幸福度は低くなるに決まっている。実際問題、それら「おかしい！」という疑義を掲げる声については、スポンサーへの配慮であるとか、政治的正しさとやらのゴリ押しによって、シャットアウトされてきてしまったというだけの事なのでしょう。
「自分探しブーム」というのがあった。本当の自分を探す為に旅に出たりする人たちが沢山あった。それで自分の居場所を見つけた者も居るのでしょうけど、そもそも、その者の居場所は、その者が生まれ育ったところではないのか？ 性自認の問題も似ていて「あなたは生物学的にはａですが、自認するところのホントのあなたの性別は何ですか？」と問うてしまっているものである。自分が何者であるかを認識する事なんて、そんなに容易い問題ではない筈なのだが、現に、そのような事をしてきてしまっているのだ。「子供の頃から性自認についての教育をする事こそが正しいのです」という人たちの声を押し付けられてきているところも小さくない。しかし、自らのアイデンティティーが定まらないというのは、その当事者には不幸になりかねず、それが年少者ともなれば混乱が起こるのは歴然ではないのか？ 何故、そんな事も理解できないような人たちの世論支配を許してしまっているのか？ この辺りの事情こそが現代が迷走に迷走を重ねている問題の根源であったように思う。
これはカルトの問題にも通じていると思う。「ホントのあなたは、これこれこうなのではないですか？」のように問い掛けて自意識を混乱させ、或る種、既成の自己を洗浄して真っ白にしてしまった後に、誘導したい方向へ誘導して洗脳して自己犠牲を強いていくというのが典型的な手口だしね。記憶を植え付けることが出来てしまう臨床実験結果もあるみたいだし。
拙ブログ：経歴偽装は終わっちゃいない
魔女狩りのバイブルが『魔女の槌』であったように、近親姦の性的虐待にも幾つかのバイブルと呼ばれていたものがあったという。例えば、簡単な心理テストをして、その者を誘導するような、そういう手法が用いられていた。これなどは現在でもネット上で多く目にしているような気もする。
例えば、以下のような心理テストを、その人に課して、その人を誘導していくという手法が、或る時期から定着している事に気付かされる。
➀感情が抑えられないと感じることがありますか？
�▲侫薀好肇譟璽轡腑鵑�あるとき、過剰な反応をしたり、怒りを誤った方向に発散させたりすることがありますか？ 怒るのが怖いですか？
��子どもの頃のことで思いだせない記憶がありますか？ 「何かあったのでは」という感覚がありますか、感情を伴わない虐待の記憶がありますか？
�ぅ▲襯魁璽襦∨稾堯⊃�物、背中の痛みなどの悩みはありますか？
上記は『抑圧された記憶の神話』の35頁に記されていた、いわゆるサバイバーたちのバイブルにあった質問だという。著者のエリザベス・ロスタフ博士は上記の４問を挙げた上で「質問は私の症状にぴったりだ」と皮肉を吐いている。
本当に、このテのチェックリストが溢れているが、これらの小テストに説得力や整合性があると言えるのだろうか？
再び『抑圧された記憶の神話』から小テスト部分の引用となります。
１ 自分のしたいことが何かわからないで困るということがありますか？
２ 新しい経験をするのが怖いですか？
３ 人から何から暗示されると、従わなければならないように感じますか？
４ 人から暗示されたことが命令のように感じられ、従いますか？
この短い症状リストはジョン・ブラッドショーの『リアーズ』一九九二年七月号のコラムから引用したものだが、もともとは彼の著書『帰郷』の長いチェックリスト「疑いの指標」の一部である。ブラッドショーは『リアーズ』のコラムで、これらの質問項目に対し以下のような簡単な分析を行っている。
これらの質問に一つでも「はい」と答えた人は、発達の初期において何らかのダメージを受けた可能性があります。（『抑圧された記憶の神話』226頁）
確かに、このようなチェックリストが出回っている事自体が色々と問題なのではないか？ そこに挙げられている問題にしても殆んどの者が引っ掛かるような問題だとは感じないだろうか？
更に、前掲著にとっては問題の核心でもあった「抑圧された記憶」に係るチェックリストでは、以下のようなものがあったという。
➀自分が人と違っていると感じますか？
��気力が湧かなくて困るということがありますか？
��自分は完璧でなければならないと感じますか？
�げ甬遒良毀�快な出来事の穴埋めをしようと、仕事や活動に打ち込むことがありますか？
心的外傷を意味する【トラウマ】というカタカナ語が、やたらと拡大解釈して使用されるようになったと感じた時期があった。それが丁度、1998年とか1999年であった。現在では日常会話でも、ちょっとした不愉快な記憶についても「あれはトラウマだった」とか「トラウマになった」のように用いられるようになっている。そして、やはり、その頃に「心理テスト」のようなものが情報バラエティ番組などでも用いられるようになった。言ってしまえば、物凄い「ライト感覚で語る心理学」が、21世紀になった頃から大量に流布したような記憶がある。
それらは、おそらく日本に於いては自己啓発本ブームと正比例していると思う。フロイトやユングを語ろうとする心理学というよりも、何かちょこまかとしたチェックリストのようなものを用いて、自己認識や正しい方向付けのようなものを展開させる新自由主義的な価値観との相性も良かったので、それらの洗脳的な自己啓発本や自己啓発セミナーが広まったような感覚があった。
ひょっとしたら――と、考えたくなりませんかね？ おそらく、そのまんまなんじゃないのかな。学術とプロパガンダの境界線が決壊して、政治的プロパガンダと企業的プロパガンダとによって理想的な労働者育成プログラムが出来上がり、それは自己啓発という名前で広く浸透した。いやいや、実際に書店の売場に割当に関する話で、或る時期から自己啓発本コーナーが出来たという話を何かで読んだ記憶がある。そのまんまの可能性が高い。心理学者でも精神科医でマスメディアに登場して名前を売ってしまえば、それでいいのであって知名度は名誉の証そのものになり、メディアへの露出は収入そのものにも直結するようになっていた。だから、分かり易い心理学が求められたというポピュリズム的な部分がある。
そのポピュリズム的なものとは別に、先述したような政府と企業が望む人材育成プログラムに沿った自己啓発ブームが仕掛けられていたような気がする。例えば、もしもドラッカーを読んだ女子マネージャーが野球部の監督をしたら？ 勝手にどうぞって話のような気がするけどねぇ。或いは「金持ち父さんビンボー父さん」とか「チーズは何処へ行った」とか。あの辺りは経営組織論みたいなもので、ホントに一般読者が読む内容なのかどうかは非常に怪しい気もする。しかし、ベストセラーになったりした。ベストセラーになったというから広く一般読者も買って読むようになったという事だ。
和田秀樹著『テレビの大罪』（新潮新書）には私の記憶では「最近、流行のアドラー心理学には注意が必要かも知れない」ぐらいの事が記してあったと思う。同じく和田秀樹著『世界一騙されやすい日本人』（ブックマン社）ではＳＴＡＰ騒動や平成のベートーベン問題についての辛辣な意見が記されている。確かに或る時期からサッカーやオリンピックに係る報道で「勇気をありがとう」などの情緒に訴えるフレーズが多用されている事を指摘しており、挙げ句、一億総白痴化という言葉にも言及している。そういえば「納豆にダイエット効果がある」なんて放送した番組があって騒動になったのは2007年だったらしい。もう、冷静に語れば、物凄くヘンテコな情報環境の中で25年間ぐらいを我々は送っているのだ。
そして、先述した精神医学界の問題がある。チェックリストつくりが難しいのも実際なのでしょうけど、性同一性障害と呼んでいたものがトランスジェンダーに名称が変わったり、躁うつ病が双極性障害になったり、最近までアスペルガー症候群と呼んでいたものが見直されて、ＤＳＭ−５基準のどこに当て嵌まるか等で判断するように修正されている。つまり、本当に名称・呼称を変えてきているという現実がある。どういう事が起こっているのかというと、チェックリストの見直しと名称変更であり、そのチェックリストをつくるという行為だ。それがどういう意味を持っているのかというと標準化に係る作業である事と密接に関係している。つまり、匙加減一つで、その症例を病気としたり、障害とすることも出来てしまう決定権を握っている。そこに各種の製薬ロビーや特定の思想を有する活動家も関係してしまう素地を持っている。殊にトランスジェンダー問題の方は『トランスジェンダーになりたい少女たち』という書籍に洗いざらい実情がブチ撒けられている。政治問題化してしまうのだ。
この問題は米国版であればジェイン・メイヤー著・伏見威蕃訳『ダーク・マネー 巧妙に洗脳される米国民』（東洋経済新報社）、日本版であれば佐々木実著『市場と権力』（講談社文庫）あたりに詳しく、全体像を掴みたければ、ノーム・チョムスキーあたりを読めば見えてくる問題でもある。つまり、先進国世界は丸ごと企業と政治と活動家らが結託した形でコーポレーション化してしまっており、事実も何も政治的な都合でシロクロをつけられてしまうようになってしまっているという事でもある。嘘だと思うならネタニヤフ政権や、それを擁護する役割をしているブリンケン米国務長官の動静を顧慮すれば、一目瞭然だ。為政者を動かしているのは、政権にカネを出すか出さないかだけの問題で、それが世界を動かしている。その構造がありありと露見しているのが現況でしょう。
拙ブログ：慈善団体を装う政治ロビー団体及び宣伝団体
戦後自由＆民主主義体制が整ってきた80年代頃には、次なる問題として「マスメディアを制する者が情報を制する」という話が浮上していた。有名なところではフランクフルト学派と呼ばれるユルゲン・ハーバーマスらであったと思う。しかし、実際にはそれらの言説が登場するよりも早く、70年代にもマスメディアを利用して「政治的な（道徳的な）正しさ」（≒ポリティカル・コレクトネス）みたいな宣伝活動をしていたという事が『ダーク・マネー』では語られている。あまり実感はない人が多いと思いますが、気がついたら「なんたらかんたら法人」であるとか「シンクタンク」等の団体は第三者的な研究機関に見せ掛けているが、実際には何かしら企業の別動隊であったり、単なる天下り先であったり、宗教団体を装った諜報機関であったり、ボランティア団体を名乗る政治ロビー団体だったりする。その笑えない現実を、2020年代の我々は知っている訳です。彼らが掲げている名称と、組織の実態とはかけ離れている事もしばしばで、オピニオン全般は、どこでどういう金づるを持っているのか、すっかり彼らに乗っ取られてしまっている。
これらの問題の〈手始め〉にして起こっていたのが、〈新たな病気をつくる〉という問題であったとされている。精神疾患の分野は格好の分野であった。確かに或る時期までの「アルコール中毒」と呼んでいた時代の扱いと、現在の「依存症」との扱いの違いに気が付くでしょう。また、それ以上に大きなものが【トラウマ】等の「自己認識に係る問題であった」という訳です。実際問題として、それを病気だと判断するか障害だと判断するかの基準、その基準は異常か正常かなどの問題を標準化する事を意味している。血圧の高低、腹囲がメタボリック・シンドロームに該当するかどうか等の話は、いつ頃から始まっただろうか？ 日本ではどういう根拠なのか腹囲85cm以上だとメタボと自動的に診断されるが、和田秀樹氏は疑義を掲げていたと思う。いや、それらは一応は数字が利用されているから、まだマシかも知れない。問題なのは心理学や精神分析などのメンタルヘルスの分野であり、数値化する事も難しい問題だから先に挙げたようなチェックリストのようなものが必要になってきたという訳です。しかも、その程度の質問設定で自己診断を問うものである。となると、その者の自己診断に過ぎず、自分に厳しい基準を持っている者であれば軒並み自己評価は低くなるだろうし、自己主張する文化であれば基本的には自己肯定感も強くなる等の問題を無視して導入されているのだ。「出過ぎた真似をしないこと」が美徳としてきた日本では、あれらのチェックリストであれば自己肯定感や幸福度は低くなるに決まっている。実際問題、それら「おかしい！」という疑義を掲げる声については、スポンサーへの配慮であるとか、政治的正しさとやらのゴリ押しによって、シャットアウトされてきてしまったというだけの事なのでしょう。
「自分探しブーム」というのがあった。本当の自分を探す為に旅に出たりする人たちが沢山あった。それで自分の居場所を見つけた者も居るのでしょうけど、そもそも、その者の居場所は、その者が生まれ育ったところではないのか？ 性自認の問題も似ていて「あなたは生物学的にはａですが、自認するところのホントのあなたの性別は何ですか？」と問うてしまっているものである。自分が何者であるかを認識する事なんて、そんなに容易い問題ではない筈なのだが、現に、そのような事をしてきてしまっているのだ。「子供の頃から性自認についての教育をする事こそが正しいのです」という人たちの声を押し付けられてきているところも小さくない。しかし、自らのアイデンティティーが定まらないというのは、その当事者には不幸になりかねず、それが年少者ともなれば混乱が起こるのは歴然ではないのか？ 何故、そんな事も理解できないような人たちの世論支配を許してしまっているのか？ この辺りの事情こそが現代が迷走に迷走を重ねている問題の根源であったように思う。
これはカルトの問題にも通じていると思う。「ホントのあなたは、これこれこうなのではないですか？」のように問い掛けて自意識を混乱させ、或る種、既成の自己を洗浄して真っ白にしてしまった後に、誘導したい方向へ誘導して洗脳して自己犠牲を強いていくというのが典型的な手口だしね。記憶を植え付けることが出来てしまう臨床実験結果もあるみたいだし。
拙ブログ：経歴偽装は終わっちゃいない
