諸々、行き詰まりを感じているので新基軸として提案型の世迷い言を――。どこもかしこも絶望的なのですが、それでも新しい息吹を見つけねばならない訳ですよね。既に、概ね現行体制の世界が破滅するにしても、それでも生き残る人たちがあるのでしょうから、その先駆け的な見識となるような、もしくは次なる希望について――。
以前から薄々は感づいていたとは思うのですが、神を信じている者と、神を信じていない者とでは、実は前者の方が強いように感じる事がありました。神を信じているというよりも、実際には信仰心を持っている者と、持っていない者との差異と表現した方が正確であろうと思う。一見すると、無神論で全てにおいて科学主義で貫徹している人の方が強いのではないかと思ってしまう。しかし、やはり、違いますね。信念とか矜持といった要素のものは侮れない。単純に知識が豊富であったり、知能指数が高く、科学主義であれば、それが優れているというものでもない。きっと、そちらの系統は、近い将来、壮絶な殺戮戦争を展開させてしまうのでしょう。何故って、その人たちは信念・哲学もないままに目先の勝つか負けるかの競争をしているだけなのであり、「暴力的対決で雌雄を決する」というのが、その系譜の人たちが行き着くであろう最終的解答になると考えられるから。
人は弱いものであり、自信が無ければ自分を肯定できなくなってしまったり、また、その自信の源泉になるのは社会的評価なのだから、既存の能力至上主義の中では、そのパラドックスに巻き込まれることになってしまう訳です。だから、ある程度までは下界を遮断して、絶対的に自己の存在を肯定する必要性がある。ホントは、こんなに回りくどい事をしないでも本能的に自己保存本能が備わっている筈なのですが、現在は諸々の事情によって人為的な淘汰圧がかけられている社会に現代人は生きているので、ともすれば自分として現に生きていながら自分を肯定できなくなってしまったりする訳です。であれば、自己の存在を絶対的に肯定してくれる神を持っていた方がよい。
こう述べても、中々、そんな言説を信じようとは思わないでしょう。心の中では「神もホトケも居やしないさ」と思っている。私もそう思っている。しかし、それらの神ではなく、やはり、自然や宇宙原理を神と崇める感覚で充分であろうと思う。神即自然を説いたスピノザは、俗に「スピノザは神の実在を否定して、哲学の中に否定しきれない神の存在を発見してしまったのさ」のように言われているが、その形而上学的な感覚です。神聖なる《偶然》を差配してくれる神があると思えばいい。神聖にして不可侵な《運命》を差配する気まぐれな神があると思えばいい。
寺島実郎著『ダビデの星を見つめて』（ＮＨＫ出版／2022年12月発刊）に目を通していて、アレコレと確信に到ってしまった事があった。少し引用します。
人類史に大きな影響を与えた五人の偉人が天国で議論に及んだという。テーマは「人間の行動を本質的に規定するものは何か」であった。
最初に口を開いたのはモーゼである。エジプトの奴隷だったイスラエルの民を導き、出エジプトを果たしたのち、神から「十戒」（律法）を授かった。モーゼは「人間が人間であるための要素、それは理性である」と言った。
するとイエス・キリストがハートを示しながらやさしく反論した。「いや、それは愛です」。二人の議論を聞いていたマルクスは真剣な面持ちで口をはさむ。「とんでもない。すべては胃袋、つまり経済が決定するのです」と。そこに、「もっと本音で議論すべきだ」と言って、フロイトが割って入った。「結局、人間の行動の本質は性、セックスなのだ」。四人が侃々諤々の議論をしているところに、アインシュタインがやってきた。そして、舌をぺろりと出して、こう言った。「いやいや皆さん、すべては相対的なのです」。
つまり、彼らは皆ユダヤ人である。そのことに気づいたときは愕然とした。人間存在の本質に関わる視界を拓き、世界を大きく動かしたこの五人はすべてユダヤ人なのである。（『ダビデの星を見つめて』40頁）
上記の引用部分は、いわゆる小噺であるが、ユダヤ人の間では有名なジョークなのだという。次いで言えば、先に挙げた哲学者のスピノザもケースもバリバリのユダヤ人であり、だからユダヤの神を否定して哲学の神を見つけたという事になる。更に当ブログが頻繁に引用したノーム・チョムスキーもユダヤ人であり、両親はヘブライ語の教師にしてチョムスキー本人も高校まではユダヤ人学校に通っており、現在ではシオニズムに批判的であるが、シオニズム運動の行事に参加した事もあるという。きっと、他にも沢山、列挙する事が出来てしまうでしょう。
遺伝子的に彼等が優れているという事も有り得るのかも知れませんが、それだけでは片付けられそうもない。寺島実郎氏はユダヤ的思考については昔から取り組んでいたらしく、ユダヤ的思考法というものはロジックが強いのだと感じたという。「ロジックの強さ」はユダヤ人が特別に強く、それに次ぐのがインド人だという。ユダヤ的思考とインド的思考は正反対のものであるが、どちらも強い。対して、日本人などは如何にもロジックが薄弱な人たちである――となる。
また、寺島氏は氏のキャリアの中で多くのユダヤ人の人々と接し、1980年代にエルサレムに入って聖墳墓教会にまで足を運んだという。その際、極度に緊張してしまった為か、目の前を光がよぎる体験までもを味わった事を打ち明けている。（そうした体験も実際には精神現象であるとして片付けざるを得ない訳ですが…）
その上で、ユダヤ的思考法を語る訳ですが、ユダヤ人は会話の合間に当たり前のように約2500年も昔の「バビロン捕囚」といった言葉を持ち出したりするという。我々の感覚からすると奇異にも感じてしまう訳ですが、その実、ユダヤ人とは「歴史の民」であり、そうであるから時流を超越して捉えている人々であり、おそらく旧約聖書の物語をきちんと自己の宿命として胸に刻み込んでいる人たちであるという。
日本マクドナルドの創業者でもある藤田田（ふじた・でん）の『ユダヤの商法』は、著者の藤田田が偶々目撃したユダヤの商人から得たものを書籍化して大ヒットしたものであるが、それは偶然に彼が出会ったユダヤ人一人から学んだ何かであるという。イザヤ・ベンダサン（山本七平）著『日本人とユダヤ人』もベストセラーになったが文献を漁って論考とした文献学的な何かであり、寺島氏からすると、それもユダヤ人を文献学的に考察したものであり、生身のユダヤ人の印象とは少し異なるという。確かに謎めいているのだ。
遺伝子的な何かの要因によってユダヤ人が優秀なのであれば、その遺伝子を有している我々には打つ手はない訳です。しかし、そうではないとすれば、これはどういうことなのか。おそらくは《教育》であろうとなる。有名な話ですが、ユダヤ人は、その民族の歴史（旧約聖書に描かれている歴史）をも宿命として我が身に引き受けているからこそ、勤勉であるという。彼等は、それを民族的な宿命として引き受けているが故に、医師や弁護士といったハイエンドな職業を目指したり、金融界、法曹界、最先端技術などの分野で、自分たちの存在価値を存分に発揮する。そして実際に世界をリードしている。
苦難のユダヤ人の歴史を、そのまま、自分の人生にも反映させる思考回路を持っているという。寺島氏に拠れば、それは「歴史の民」であると同時に「記憶の民」であるとなる。引用します。
ユダヤ人の教育の基礎が宗教を通じた歴史意識の共有にあると言わざるを得ない。ユダヤ人がユダヤである理由はいかなる地域に「離散」しても、毎週金曜日の安息日にシナゴーグに集まり、自分たちの民族としての歴史をラビ（ユダヤ教の宗教者）の話によって吸収し、民族の運命、課題を共有する。この積み上げが、独自のアイデンティティを確立させたと言えるのである。記憶の民と言われるユダヤ人を形成したものは、そうした持続する教育のプロセスだったのであろう。（同著76頁）
となる。思いの外、民族の歴史を背負い、それら我が身、我が存在に課された運命であると捉えているらしのだ。転じて、その思考方法がユダヤ的思考法のロジックの強さとも関係している。確かに我々日本人の思考の徹底度合いとは次元を異にするような、圧倒的な徹底度合いをユダヤ的思考法には感じる。
また、その引用箇所の少し前には、ソビエトに住んでいたユダヤ人の父子の逸話が紹介されている。息子が国から奨学金をもらって進学できる事になったと父親に報告すると、その父親は「国の奨学金なんてもらって進学すんじゃない」と言って、一度は決まった奨学金の話を断わらせた。しかし、その数日後に父親が一張羅の外套（コート）を質屋に売り払って、「このカネで大学へ行け」と札束を渡したという逸話が紹介されている。酷寒のソビエトでは毛皮のコートは生活必需品であるが、父親はそのようにカネをつくったという逸話だという。「親の背中を見て子は育つ」という言葉があるが、そうした姿を見せられたら、まず怠けようという気持ちが起こるはずがない。教育の本質を語るような話であった。（76頁）と、その逸話に対しての感想が添えられている。翻って現在の日本では「《社会で子育てをする》というのが世界の常識なのです！」と主張する人たちによって国会論戦もマスメディアもジャックされている。意外と、古典正統的なコードを、意図的に瓦解させてしまっているような気がしないでもない。
ホントは目に見えぬところで、人の芯となる土台をきっちりと形成する必要性があるという事なのでしょう。ところが日本の場合は「叱らない子育て」を官民共に推進し、躾（しつけ）を完全放棄する事が正しい教育であると言わんばかり、「父から子へ」の回路は完全に寸断され、「年長者から年少者へ」の回路も完全に寸断してしまっている。我が子かわいさ、その血縁由来であるが故の鬼子母神的な愛情を、世の評論家や政治家らが利用している。自公政権と厚労省と文科省とが、ずーっと教育とマスメディアとをヒステリックな論陣を用いて牛耳ってしまっている訳ですが、ホントに大丈夫なのかと気を揉んでいる者は潜在的には少なくないと思う。「最低限度、生き抜けるだけの強い人に育って欲しい」という根本的な部分、そうした思い、人格形成に於いて欠かす事のできないその骨格部分をポイって捨ててきてしまった事に問題があるように思える。これこそが自己肯定感の問題でしょう。
つまらぬ我慢は強いる必要性はありませんが、場合によって我慢や忍耐力も必要になるのが実社会の現実でしょう。「誰かに守ってもらえばいい」という考え方だけでは済まないというのがシビアな現実だ。それら世間の荒波に耐え抜けるだけの骨格を世の大人たちは自分たちの態度で以って教えるべきだったのかも知れない。「社会で子育て」なんていう綺麗事を真顔で述べる以前に、自分自身が見本となるべく、立ち振る舞いで教える、背中で教えるぐらいの、強い強い矜持が必要だったのではないだろうか。
さて、柄谷行人（からたに・こうじん）氏は哲学界のノーベル賞と呼ばれるバーグルエン哲学・文化賞なる賞（賞金は１億３千万円）を受賞したという。日本人初どころかアジア圏で初の快挙であるが何故かマスメディアは完全にスルーしている。そして、その柄谷行人（敬称略）は「戦争になるであろう」という事と、何故、そうなるのかについては新しい価値観が生まれてくると考えているからだと明かしている。では、その新しい価値観とは何かといえば、交換様式に係るものであるという。新しい価値観は、交換様式の内の、互酬制（贈与＆返礼）の回路から生じ、その新しい価値観は、既存の肥大化し過ぎて頭が回らなくなった既存の資本主義陣営と対峙していくことになるという。おそらくは戦争になるの意だ。
既に、若年世代を中心にミニマリストと呼ばれる人たちが登場していたり、都市部を脱出して里山での自然との共生を是とする生活をする人たちが登場している事を、新しい価値観が生まれている兆しであろうと匂わせている。そして、確かに兆しについても論じる事ができるようになってきている。例えば――。
以前から薄々は感づいていたとは思うのですが、神を信じている者と、神を信じていない者とでは、実は前者の方が強いように感じる事がありました。神を信じているというよりも、実際には信仰心を持っている者と、持っていない者との差異と表現した方が正確であろうと思う。一見すると、無神論で全てにおいて科学主義で貫徹している人の方が強いのではないかと思ってしまう。しかし、やはり、違いますね。信念とか矜持といった要素のものは侮れない。単純に知識が豊富であったり、知能指数が高く、科学主義であれば、それが優れているというものでもない。きっと、そちらの系統は、近い将来、壮絶な殺戮戦争を展開させてしまうのでしょう。何故って、その人たちは信念・哲学もないままに目先の勝つか負けるかの競争をしているだけなのであり、「暴力的対決で雌雄を決する」というのが、その系譜の人たちが行き着くであろう最終的解答になると考えられるから。
人は弱いものであり、自信が無ければ自分を肯定できなくなってしまったり、また、その自信の源泉になるのは社会的評価なのだから、既存の能力至上主義の中では、そのパラドックスに巻き込まれることになってしまう訳です。だから、ある程度までは下界を遮断して、絶対的に自己の存在を肯定する必要性がある。ホントは、こんなに回りくどい事をしないでも本能的に自己保存本能が備わっている筈なのですが、現在は諸々の事情によって人為的な淘汰圧がかけられている社会に現代人は生きているので、ともすれば自分として現に生きていながら自分を肯定できなくなってしまったりする訳です。であれば、自己の存在を絶対的に肯定してくれる神を持っていた方がよい。
こう述べても、中々、そんな言説を信じようとは思わないでしょう。心の中では「神もホトケも居やしないさ」と思っている。私もそう思っている。しかし、それらの神ではなく、やはり、自然や宇宙原理を神と崇める感覚で充分であろうと思う。神即自然を説いたスピノザは、俗に「スピノザは神の実在を否定して、哲学の中に否定しきれない神の存在を発見してしまったのさ」のように言われているが、その形而上学的な感覚です。神聖なる《偶然》を差配してくれる神があると思えばいい。神聖にして不可侵な《運命》を差配する気まぐれな神があると思えばいい。
寺島実郎著『ダビデの星を見つめて』（ＮＨＫ出版／2022年12月発刊）に目を通していて、アレコレと確信に到ってしまった事があった。少し引用します。
人類史に大きな影響を与えた五人の偉人が天国で議論に及んだという。テーマは「人間の行動を本質的に規定するものは何か」であった。
最初に口を開いたのはモーゼである。エジプトの奴隷だったイスラエルの民を導き、出エジプトを果たしたのち、神から「十戒」（律法）を授かった。モーゼは「人間が人間であるための要素、それは理性である」と言った。
するとイエス・キリストがハートを示しながらやさしく反論した。「いや、それは愛です」。二人の議論を聞いていたマルクスは真剣な面持ちで口をはさむ。「とんでもない。すべては胃袋、つまり経済が決定するのです」と。そこに、「もっと本音で議論すべきだ」と言って、フロイトが割って入った。「結局、人間の行動の本質は性、セックスなのだ」。四人が侃々諤々の議論をしているところに、アインシュタインがやってきた。そして、舌をぺろりと出して、こう言った。「いやいや皆さん、すべては相対的なのです」。
つまり、彼らは皆ユダヤ人である。そのことに気づいたときは愕然とした。人間存在の本質に関わる視界を拓き、世界を大きく動かしたこの五人はすべてユダヤ人なのである。（『ダビデの星を見つめて』40頁）
上記の引用部分は、いわゆる小噺であるが、ユダヤ人の間では有名なジョークなのだという。次いで言えば、先に挙げた哲学者のスピノザもケースもバリバリのユダヤ人であり、だからユダヤの神を否定して哲学の神を見つけたという事になる。更に当ブログが頻繁に引用したノーム・チョムスキーもユダヤ人であり、両親はヘブライ語の教師にしてチョムスキー本人も高校まではユダヤ人学校に通っており、現在ではシオニズムに批判的であるが、シオニズム運動の行事に参加した事もあるという。きっと、他にも沢山、列挙する事が出来てしまうでしょう。
遺伝子的に彼等が優れているという事も有り得るのかも知れませんが、それだけでは片付けられそうもない。寺島実郎氏はユダヤ的思考については昔から取り組んでいたらしく、ユダヤ的思考法というものはロジックが強いのだと感じたという。「ロジックの強さ」はユダヤ人が特別に強く、それに次ぐのがインド人だという。ユダヤ的思考とインド的思考は正反対のものであるが、どちらも強い。対して、日本人などは如何にもロジックが薄弱な人たちである――となる。
また、寺島氏は氏のキャリアの中で多くのユダヤ人の人々と接し、1980年代にエルサレムに入って聖墳墓教会にまで足を運んだという。その際、極度に緊張してしまった為か、目の前を光がよぎる体験までもを味わった事を打ち明けている。（そうした体験も実際には精神現象であるとして片付けざるを得ない訳ですが…）
その上で、ユダヤ的思考法を語る訳ですが、ユダヤ人は会話の合間に当たり前のように約2500年も昔の「バビロン捕囚」といった言葉を持ち出したりするという。我々の感覚からすると奇異にも感じてしまう訳ですが、その実、ユダヤ人とは「歴史の民」であり、そうであるから時流を超越して捉えている人々であり、おそらく旧約聖書の物語をきちんと自己の宿命として胸に刻み込んでいる人たちであるという。
日本マクドナルドの創業者でもある藤田田（ふじた・でん）の『ユダヤの商法』は、著者の藤田田が偶々目撃したユダヤの商人から得たものを書籍化して大ヒットしたものであるが、それは偶然に彼が出会ったユダヤ人一人から学んだ何かであるという。イザヤ・ベンダサン（山本七平）著『日本人とユダヤ人』もベストセラーになったが文献を漁って論考とした文献学的な何かであり、寺島氏からすると、それもユダヤ人を文献学的に考察したものであり、生身のユダヤ人の印象とは少し異なるという。確かに謎めいているのだ。
遺伝子的な何かの要因によってユダヤ人が優秀なのであれば、その遺伝子を有している我々には打つ手はない訳です。しかし、そうではないとすれば、これはどういうことなのか。おそらくは《教育》であろうとなる。有名な話ですが、ユダヤ人は、その民族の歴史（旧約聖書に描かれている歴史）をも宿命として我が身に引き受けているからこそ、勤勉であるという。彼等は、それを民族的な宿命として引き受けているが故に、医師や弁護士といったハイエンドな職業を目指したり、金融界、法曹界、最先端技術などの分野で、自分たちの存在価値を存分に発揮する。そして実際に世界をリードしている。
苦難のユダヤ人の歴史を、そのまま、自分の人生にも反映させる思考回路を持っているという。寺島氏に拠れば、それは「歴史の民」であると同時に「記憶の民」であるとなる。引用します。
ユダヤ人の教育の基礎が宗教を通じた歴史意識の共有にあると言わざるを得ない。ユダヤ人がユダヤである理由はいかなる地域に「離散」しても、毎週金曜日の安息日にシナゴーグに集まり、自分たちの民族としての歴史をラビ（ユダヤ教の宗教者）の話によって吸収し、民族の運命、課題を共有する。この積み上げが、独自のアイデンティティを確立させたと言えるのである。記憶の民と言われるユダヤ人を形成したものは、そうした持続する教育のプロセスだったのであろう。（同著76頁）
となる。思いの外、民族の歴史を背負い、それら我が身、我が存在に課された運命であると捉えているらしのだ。転じて、その思考方法がユダヤ的思考法のロジックの強さとも関係している。確かに我々日本人の思考の徹底度合いとは次元を異にするような、圧倒的な徹底度合いをユダヤ的思考法には感じる。
また、その引用箇所の少し前には、ソビエトに住んでいたユダヤ人の父子の逸話が紹介されている。息子が国から奨学金をもらって進学できる事になったと父親に報告すると、その父親は「国の奨学金なんてもらって進学すんじゃない」と言って、一度は決まった奨学金の話を断わらせた。しかし、その数日後に父親が一張羅の外套（コート）を質屋に売り払って、「このカネで大学へ行け」と札束を渡したという逸話が紹介されている。酷寒のソビエトでは毛皮のコートは生活必需品であるが、父親はそのようにカネをつくったという逸話だという。「親の背中を見て子は育つ」という言葉があるが、そうした姿を見せられたら、まず怠けようという気持ちが起こるはずがない。教育の本質を語るような話であった。（76頁）と、その逸話に対しての感想が添えられている。翻って現在の日本では「《社会で子育てをする》というのが世界の常識なのです！」と主張する人たちによって国会論戦もマスメディアもジャックされている。意外と、古典正統的なコードを、意図的に瓦解させてしまっているような気がしないでもない。
ホントは目に見えぬところで、人の芯となる土台をきっちりと形成する必要性があるという事なのでしょう。ところが日本の場合は「叱らない子育て」を官民共に推進し、躾（しつけ）を完全放棄する事が正しい教育であると言わんばかり、「父から子へ」の回路は完全に寸断され、「年長者から年少者へ」の回路も完全に寸断してしまっている。我が子かわいさ、その血縁由来であるが故の鬼子母神的な愛情を、世の評論家や政治家らが利用している。自公政権と厚労省と文科省とが、ずーっと教育とマスメディアとをヒステリックな論陣を用いて牛耳ってしまっている訳ですが、ホントに大丈夫なのかと気を揉んでいる者は潜在的には少なくないと思う。「最低限度、生き抜けるだけの強い人に育って欲しい」という根本的な部分、そうした思い、人格形成に於いて欠かす事のできないその骨格部分をポイって捨ててきてしまった事に問題があるように思える。これこそが自己肯定感の問題でしょう。
つまらぬ我慢は強いる必要性はありませんが、場合によって我慢や忍耐力も必要になるのが実社会の現実でしょう。「誰かに守ってもらえばいい」という考え方だけでは済まないというのがシビアな現実だ。それら世間の荒波に耐え抜けるだけの骨格を世の大人たちは自分たちの態度で以って教えるべきだったのかも知れない。「社会で子育て」なんていう綺麗事を真顔で述べる以前に、自分自身が見本となるべく、立ち振る舞いで教える、背中で教えるぐらいの、強い強い矜持が必要だったのではないだろうか。
さて、柄谷行人（からたに・こうじん）氏は哲学界のノーベル賞と呼ばれるバーグルエン哲学・文化賞なる賞（賞金は１億３千万円）を受賞したという。日本人初どころかアジア圏で初の快挙であるが何故かマスメディアは完全にスルーしている。そして、その柄谷行人（敬称略）は「戦争になるであろう」という事と、何故、そうなるのかについては新しい価値観が生まれてくると考えているからだと明かしている。では、その新しい価値観とは何かといえば、交換様式に係るものであるという。新しい価値観は、交換様式の内の、互酬制（贈与＆返礼）の回路から生じ、その新しい価値観は、既存の肥大化し過ぎて頭が回らなくなった既存の資本主義陣営と対峙していくことになるという。おそらくは戦争になるの意だ。
既に、若年世代を中心にミニマリストと呼ばれる人たちが登場していたり、都市部を脱出して里山での自然との共生を是とする生活をする人たちが登場している事を、新しい価値観が生まれている兆しであろうと匂わせている。そして、確かに兆しについても論じる事ができるようになってきている。例えば――。
