Ｅテレ「３ヶ月でマスターする世界史」の第三回であったと思いますが、ゾロアスター教について語る中で「善と悪」、「天国と地獄」、「救世主」という思想はいずれもゾロアスター教が起源であろうという解説が為されていた。アフラマズダ神が善神と悪神から成っている事、それと天国と地獄についてもゾロアスター教が起源であるという意識はあったのですが、救世主もゾロアスター教？ 今一つ確信がなかったのですが、まぁ、そんな風に理解されているのだなとは感じた。同番組ではゾロアスター教の教義がユダヤ教に大きな影響を与えているとのコメントもしていた。となると、それがキリスト教に継承されているのだから――という話にもなる。
「３ヶ月でマスターする世界史」では、キリスト教を日本人の多くは西洋文明と結び付けて語りがちであるが実際にはヨーロッパというよりも、もっと東方の沙漠地帯と密接に関係しているという具合に開設していた。これなどは和辻哲郎の『風土』にも通じる話になってくる。同番組内では水路の確保が死活問題になるので、自ずと神が必要になり、神が王を任命する。そういう仕組みは、あの過酷な環境が生み出したのではないかという話もしていた。
番組を視ていて気が付いたのですが、「ジャムシード」を「イマ」として、これが「エンマ」の語源になったと呼ばれているという説を解説していた。「ジャムシード」という王の名前が「イマ」に訛ったのではないかという仮説があるらしい。となると、とんとん拍子で、エンマ⇒ヤマ⇒イマ⇒ジャムシードという事になる。とはいえ、ジャムシードとイマとを同一視していいのかどうかは個人的には躊躇もあるかな。「３ヶ月でマスターする世界史」では「ヤマ」が省略されていましたが、イマがヤマに訛って更に漢訳仏教になってエンマという説明の方が徹底されている気がする。
ブリタニカ国際大百科で【イマ】（Yima）を引くと、次のように記されている。
古代ペルシャの神話に現れる人類の始祖。双子の妹イメーと対をなし、インド神話のヤマと妹ヤミーに対応する。ビババントがハオマの木をしぼる仕事の報酬として得た息子。老いや死のない黄金時代の支配者。⇒アフラ・マズダから金のむちと突き棒を与えられ、それを用いて人類の不老不死を保ち、寒暑をなくし、豊かな水と食物を与えて飢えをなくし、また大地を３倍に広げた。悪神により冬に大洪水が起こされたときは、生物を一対ずつ城に集め、絶滅を防いだ。その後、生物の生殖をはかり肉食を教えたが、これは神の掟に反するため人間の原罪思想に結びついた。『アベスタ』の「ビデブダート」第２巻は彼の伝説とみなされる。
この話が「ソロモン王」と同一視されているという「ジャムシード」と同じなのかどうかは微妙と言えば微妙な気がしないでもない。むしろ、「大洪水の際に生物を一対ずつ集め」のクダリは「ノアの箱舟」だし、同時に「現在の人類の始祖」という冠されている事あたりも、キリスト教でいう「ノア」であり、インド神話の「マヌ」に似ている。
拙ブログ：マヌの洪水神話について
実は「イマ」王の話は、『未来の記憶』を表わしたエーリッヒ・フォン・デニケンの書籍に記されていましたが、現在ともなるとＥテレの番組で、この問題が語られている事に驚いた。
因みに岩波仏教辞典で【閻魔】を引くと、我々日本人に御馴染みでもあるエンマの意味になっている。「地獄の主神」であり、「冥界の総司」であり、死者の生前の罪を裁くとされている。【閻魔】とはサンスクリット【Yama】の音写。少しだけ摘まみ食い的に引用します。
もともとインドの古い神であり、インド最古の文献『リグ・ヴェーダ』に現れる。そこではヤマは虚空のはるか奥にある住所に住むとされ、彼はときに死と同一視されることもあったが、死者の楽園の王、死んで天界にある祖先を支配する神と考えられていた。〜略〜下界を支配する死の神で、その名は征服者または処罰者の意味とも考えられるようになった。
このように死者の審判を行う神としての〈閻魔〉は、地蔵信仰などと混じって中国に伝わったが、インド古来の地獄という考えを基礎にし、さらに道教に於ける冥界の主太山府君とも習合して、裁判官である十王の一つとして信仰されるようになった。〜略〜日本でも地蔵との習合は古く、すでに『日本霊異記』下９に「我は閻魔王，汝が国に地蔵菩薩といふ是なり」と見える。
なお密教の修法の一つに、閻魔や眷属の后・妃・太山府君などの冥界の神々に供物をささげ、除病・息災・延寿・出産などを祈願する〈閻魔天供〉がある。
「３ヶ月でマスターする世界史」は飽くまで世界史の番組なので、淡々と番組は進行しましたが、結局のところ、ゾロアスター教が多くの普遍宗教の元になっていたという解説をしていた。善や悪のはじまりが、ゾロアスターであり、そのゾロアスターに王の証の輪を手渡しているのがアフラ・マズダ神である。ゾロアスター教の登場は紀元前７世紀で、これは各地に広まっていたが、紀元前６世紀にユダヤ人はバビロン捕囚、新バビロニア帝国に捉えられてバビロンに強制移住させられ、その後にアケメネス朝ペルシャのキュロス王によって紀元前538年に帰還を許されている。この事からユダヤ人には既にゾロアスター教の教義が伝わっていたという解説であった。
何故、ゾロアスター教に「善と悪」、「天国と地獄」という概念が登場したのかについては先述した通り、水の確保などにも苦労する土地柄だったので「王」を成立させる必要性があり、その王を成立させる為に最高神アフラマズダという神概念が生まれたのではないかとしていた。水を確保するには或る種の公共工事が必要であり、それを成し遂げるには「統べる王」が必要であった。
そして、ここが重要ですが、この善と悪からなるアフラマズダ神は実はエチカ（倫理）の神である。その事を指摘していたのは好感を持てましたかね。その地方の地方神であれば異なる地方の人たち、異民族を統べる事はできない。異民族にも通用する普遍的な神が必要だったので、普遍性を持たせる必要性があり、だから「エチカの神」としてアフラマズダが登場したのである――と。
善と悪からなり、アフラ・マズダに連なる王の中にはエンマ大王があり、生前の行ないを裁き、天国行きか地獄行きかの審判を下す。善業と悪業。これらの解説にマニ教や弥勒信仰を参考材料として加えれば、ほぼほぼ、ゾロアスター教こそが、伝統宗教と呼ばれるもの、ユダヤ教、キリスト教、そして漢訳仏教の基礎になっているという仮説が如何に有力であるかも確かめられる。
番組中では「仏教が…」という言葉で語られていたのだと思いますが、正確を期せば「大乗仏教が…」か「漢訳仏教が…」になるのでしょう。漢訳仏教とは大乗仏教であり、シルクロードを通過して北方騎馬民族を経由して日本列島に入って来ているんですよ、と。
拙ブログ：「杜子春」にみる日中比較
追記：救世主がゾロアスター教起源なのかどうかという問題があると思う。私は松本清張などにも目を通してみましたが、「救世主」とは「マイトレーヤー」であり、この「マイトレーヤー」は「ミトラ」もしくは「ミトラス」の転訛なのではないかという考え方を知ってしまっている。松本清張は歴史雑誌を読み漁っており、日本人でそれを指摘した人がいるという事だったと思う。単に音が訛ったという話ではなく、ミトラ教の千の目を持つ神とか千の腕を持つ神とか、そういった何かがゾロアスター教に取り入れられ、それが更に仏教に取り入れられたとする。毘沙門天はミトラ神であろうと松本清張は展開させていた。
拙ブログ：松本清張の説くミトラ信仰
「３ヶ月でマスターする世界史」では、キリスト教を日本人の多くは西洋文明と結び付けて語りがちであるが実際にはヨーロッパというよりも、もっと東方の沙漠地帯と密接に関係しているという具合に開設していた。これなどは和辻哲郎の『風土』にも通じる話になってくる。同番組内では水路の確保が死活問題になるので、自ずと神が必要になり、神が王を任命する。そういう仕組みは、あの過酷な環境が生み出したのではないかという話もしていた。
番組を視ていて気が付いたのですが、「ジャムシード」を「イマ」として、これが「エンマ」の語源になったと呼ばれているという説を解説していた。「ジャムシード」という王の名前が「イマ」に訛ったのではないかという仮説があるらしい。となると、とんとん拍子で、エンマ⇒ヤマ⇒イマ⇒ジャムシードという事になる。とはいえ、ジャムシードとイマとを同一視していいのかどうかは個人的には躊躇もあるかな。「３ヶ月でマスターする世界史」では「ヤマ」が省略されていましたが、イマがヤマに訛って更に漢訳仏教になってエンマという説明の方が徹底されている気がする。
ブリタニカ国際大百科で【イマ】（Yima）を引くと、次のように記されている。
古代ペルシャの神話に現れる人類の始祖。双子の妹イメーと対をなし、インド神話のヤマと妹ヤミーに対応する。ビババントがハオマの木をしぼる仕事の報酬として得た息子。老いや死のない黄金時代の支配者。⇒アフラ・マズダから金のむちと突き棒を与えられ、それを用いて人類の不老不死を保ち、寒暑をなくし、豊かな水と食物を与えて飢えをなくし、また大地を３倍に広げた。悪神により冬に大洪水が起こされたときは、生物を一対ずつ城に集め、絶滅を防いだ。その後、生物の生殖をはかり肉食を教えたが、これは神の掟に反するため人間の原罪思想に結びついた。『アベスタ』の「ビデブダート」第２巻は彼の伝説とみなされる。
この話が「ソロモン王」と同一視されているという「ジャムシード」と同じなのかどうかは微妙と言えば微妙な気がしないでもない。むしろ、「大洪水の際に生物を一対ずつ集め」のクダリは「ノアの箱舟」だし、同時に「現在の人類の始祖」という冠されている事あたりも、キリスト教でいう「ノア」であり、インド神話の「マヌ」に似ている。
拙ブログ：マヌの洪水神話について
実は「イマ」王の話は、『未来の記憶』を表わしたエーリッヒ・フォン・デニケンの書籍に記されていましたが、現在ともなるとＥテレの番組で、この問題が語られている事に驚いた。
因みに岩波仏教辞典で【閻魔】を引くと、我々日本人に御馴染みでもあるエンマの意味になっている。「地獄の主神」であり、「冥界の総司」であり、死者の生前の罪を裁くとされている。【閻魔】とはサンスクリット【Yama】の音写。少しだけ摘まみ食い的に引用します。
もともとインドの古い神であり、インド最古の文献『リグ・ヴェーダ』に現れる。そこではヤマは虚空のはるか奥にある住所に住むとされ、彼はときに死と同一視されることもあったが、死者の楽園の王、死んで天界にある祖先を支配する神と考えられていた。〜略〜下界を支配する死の神で、その名は征服者または処罰者の意味とも考えられるようになった。
このように死者の審判を行う神としての〈閻魔〉は、地蔵信仰などと混じって中国に伝わったが、インド古来の地獄という考えを基礎にし、さらに道教に於ける冥界の主太山府君とも習合して、裁判官である十王の一つとして信仰されるようになった。〜略〜日本でも地蔵との習合は古く、すでに『日本霊異記』下９に「我は閻魔王，汝が国に地蔵菩薩といふ是なり」と見える。
なお密教の修法の一つに、閻魔や眷属の后・妃・太山府君などの冥界の神々に供物をささげ、除病・息災・延寿・出産などを祈願する〈閻魔天供〉がある。
「３ヶ月でマスターする世界史」は飽くまで世界史の番組なので、淡々と番組は進行しましたが、結局のところ、ゾロアスター教が多くの普遍宗教の元になっていたという解説をしていた。善や悪のはじまりが、ゾロアスターであり、そのゾロアスターに王の証の輪を手渡しているのがアフラ・マズダ神である。ゾロアスター教の登場は紀元前７世紀で、これは各地に広まっていたが、紀元前６世紀にユダヤ人はバビロン捕囚、新バビロニア帝国に捉えられてバビロンに強制移住させられ、その後にアケメネス朝ペルシャのキュロス王によって紀元前538年に帰還を許されている。この事からユダヤ人には既にゾロアスター教の教義が伝わっていたという解説であった。
何故、ゾロアスター教に「善と悪」、「天国と地獄」という概念が登場したのかについては先述した通り、水の確保などにも苦労する土地柄だったので「王」を成立させる必要性があり、その王を成立させる為に最高神アフラマズダという神概念が生まれたのではないかとしていた。水を確保するには或る種の公共工事が必要であり、それを成し遂げるには「統べる王」が必要であった。
そして、ここが重要ですが、この善と悪からなるアフラマズダ神は実はエチカ（倫理）の神である。その事を指摘していたのは好感を持てましたかね。その地方の地方神であれば異なる地方の人たち、異民族を統べる事はできない。異民族にも通用する普遍的な神が必要だったので、普遍性を持たせる必要性があり、だから「エチカの神」としてアフラマズダが登場したのである――と。
善と悪からなり、アフラ・マズダに連なる王の中にはエンマ大王があり、生前の行ないを裁き、天国行きか地獄行きかの審判を下す。善業と悪業。これらの解説にマニ教や弥勒信仰を参考材料として加えれば、ほぼほぼ、ゾロアスター教こそが、伝統宗教と呼ばれるもの、ユダヤ教、キリスト教、そして漢訳仏教の基礎になっているという仮説が如何に有力であるかも確かめられる。
番組中では「仏教が…」という言葉で語られていたのだと思いますが、正確を期せば「大乗仏教が…」か「漢訳仏教が…」になるのでしょう。漢訳仏教とは大乗仏教であり、シルクロードを通過して北方騎馬民族を経由して日本列島に入って来ているんですよ、と。
拙ブログ：「杜子春」にみる日中比較
追記：救世主がゾロアスター教起源なのかどうかという問題があると思う。私は松本清張などにも目を通してみましたが、「救世主」とは「マイトレーヤー」であり、この「マイトレーヤー」は「ミトラ」もしくは「ミトラス」の転訛なのではないかという考え方を知ってしまっている。松本清張は歴史雑誌を読み漁っており、日本人でそれを指摘した人がいるという事だったと思う。単に音が訛ったという話ではなく、ミトラ教の千の目を持つ神とか千の腕を持つ神とか、そういった何かがゾロアスター教に取り入れられ、それが更に仏教に取り入れられたとする。毘沙門天はミトラ神であろうと松本清張は展開させていた。
拙ブログ：松本清張の説くミトラ信仰
