元々、「一番」になりたいという気持ちは強かった。
何事もそこそこ。七十点。そんな幼少期だったと思う。
別に勉強が取り立ててできるわけでもなく、運動神経が抜群に良いわけでもない。「一番」の中学に憧れ、受験して失敗し、市の野球大会では常に二位。
だからこそ、「一番になりたい」という気持ちは、知らず知らずのうちに膨らんでいったのだろうと思う。
高校時代になって「努力」というものを少し覚えた。
高校時代の野球部のコーチは、学年関係なく実力で試合に起用をしてくれる方だった。今まで漫然と敗北を受け入れるままだった自分は、実力を示そうと躍起になって努力した。その結果、部内では二年生からレギュラーのポジションを獲ることができた。専ら、対外的には強いチームではなかったが。
大学受験は、努力をした自分がどこまで勉強の世界で「一番」に通用するのか。一度失敗しているからこそ、その一心で志望校を決めた。高三の夏に部活を引退してからは、言わずもがな死ぬ気で勉強した。その結果、ギリギリで合格することができた。
大学入学後は、努力とは無縁な、普通の大学生活を送ろうと思っていた。
しかし、偶々、参加した漕艇部での新歓で、「ここなら本気で日本一を目指せる」という言葉をかけられ、一気に惹かれていった。
今まで負け続きだったスポーツの世界で、自分の努力を武器に、どこまで「一番」に迫れるか。そんな挑戦をしたいと思った。それが漕艇部への入部理由であった。
しかし、漕艇部での四年間は、「努力」という言葉で形容できるほど、生温いものではなかった。
周囲の強豪私大は、僕らよりも体格や運動神経の優れたボート経験者を、推薦で集めている。大きなビハインドを背負っている我々が、そんな彼らに勝つためには、ボートという競技に対して、自分の持てるリソースを、彼らよりも多く注ぐしかない。練習は勿論、その他休養、栄養、環境、心の状態にも手を回し、「拘る」他ない。
そんな、東大漕艇部で、本気で日本一を目指すための「努力」とは、いわば溺れかけながら「足掻く」ようなものだった。
一年生。練習が終わるとキツくて、すぐに寝る毎日。退部してゆく同期と腰の怪我との葛藤。
二年生。試験期間。一生続くとまで思ったエルゴUT。膝がボロボロになってできなかったオンオフ。
三年生。東商戦の敗北、耕大との走らないペア。伸びないエルゴ値。
四年生。反発が大きかった春合宿三部練。上がらないチームの調子。全日本欠場。
思い返しても、苦しかった思い出ばかりがまじまじと蘇る。気合いと根性だけでどうにか乗り切ってきたそれまでとは違い、何度も打ち砕かれそうになった。
しかし、そんな中、続けて来られたのは、環境に恵まれたからであろう。
全員が「日本一」を信じて、「足掻い」ている。
どうしたら速くなれるか。どうしたら強くなれるか。どうしたらチームは良くなるか。
側から見たら不可能だと思われるようなことを、信じて必死に議論し、活動している同期、先輩後輩、コーチ、また、それを包むこの東大漕艇部という大きな組織。
そんな環境が、ただ好きだった。怯むことなく足掻いている皆が、そしてそんな皆と活動している自分が好きだった。
僕と一緒に活動してくれて有難う。
特に、最後の一年間は、日本一を目指すことに本当に没頭させてもらった。
主将として、練習量を増やしたり、サポートを強化してもらったり、時には、心苦しい決断もしたりしながら、日本一への道筋を頭の中に描き、醜くも、苦しみ続けながらも足掻き続けた。これだけは誰よりも自信がある。
一年間僕についてきてくれて有難う。
努力をしてきたから、その努力が報われてほしい。などと傲慢なことは思わない。
結果が出なかったなら、どんな努力でも意味を為さない。そう思っている。
しかし、だからこそ、最後の最後まで、決勝で漕ぎ切る最後の一ストロークまで、僕たちは足掻き続ける。一着を信じて、漕ぎ続ける。
日曜日、午後14時10分
是非、戸田に足を運び、目に焼き付けてもらいたい。
四年間の僕の、僕ら東大漕艇部の、「日本一への足掻き」を。
最高の舞台で、淡青色のブレードが躍動する姿を。
これまでに支えてくれた全ての人に、感謝を込めて。
令和六年度対校 男子部主将 加藤聡太
何事もそこそこ。七十点。そんな幼少期だったと思う。
別に勉強が取り立ててできるわけでもなく、運動神経が抜群に良いわけでもない。「一番」の中学に憧れ、受験して失敗し、市の野球大会では常に二位。
だからこそ、「一番になりたい」という気持ちは、知らず知らずのうちに膨らんでいったのだろうと思う。
高校時代になって「努力」というものを少し覚えた。
高校時代の野球部のコーチは、学年関係なく実力で試合に起用をしてくれる方だった。今まで漫然と敗北を受け入れるままだった自分は、実力を示そうと躍起になって努力した。その結果、部内では二年生からレギュラーのポジションを獲ることができた。専ら、対外的には強いチームではなかったが。
大学受験は、努力をした自分がどこまで勉強の世界で「一番」に通用するのか。一度失敗しているからこそ、その一心で志望校を決めた。高三の夏に部活を引退してからは、言わずもがな死ぬ気で勉強した。その結果、ギリギリで合格することができた。
大学入学後は、努力とは無縁な、普通の大学生活を送ろうと思っていた。
しかし、偶々、参加した漕艇部での新歓で、「ここなら本気で日本一を目指せる」という言葉をかけられ、一気に惹かれていった。
今まで負け続きだったスポーツの世界で、自分の努力を武器に、どこまで「一番」に迫れるか。そんな挑戦をしたいと思った。それが漕艇部への入部理由であった。
しかし、漕艇部での四年間は、「努力」という言葉で形容できるほど、生温いものではなかった。
周囲の強豪私大は、僕らよりも体格や運動神経の優れたボート経験者を、推薦で集めている。大きなビハインドを背負っている我々が、そんな彼らに勝つためには、ボートという競技に対して、自分の持てるリソースを、彼らよりも多く注ぐしかない。練習は勿論、その他休養、栄養、環境、心の状態にも手を回し、「拘る」他ない。
そんな、東大漕艇部で、本気で日本一を目指すための「努力」とは、いわば溺れかけながら「足掻く」ようなものだった。
一年生。練習が終わるとキツくて、すぐに寝る毎日。退部してゆく同期と腰の怪我との葛藤。
二年生。試験期間。一生続くとまで思ったエルゴUT。膝がボロボロになってできなかったオンオフ。
三年生。東商戦の敗北、耕大との走らないペア。伸びないエルゴ値。
四年生。反発が大きかった春合宿三部練。上がらないチームの調子。全日本欠場。
思い返しても、苦しかった思い出ばかりがまじまじと蘇る。気合いと根性だけでどうにか乗り切ってきたそれまでとは違い、何度も打ち砕かれそうになった。
しかし、そんな中、続けて来られたのは、環境に恵まれたからであろう。
全員が「日本一」を信じて、「足掻い」ている。
どうしたら速くなれるか。どうしたら強くなれるか。どうしたらチームは良くなるか。
側から見たら不可能だと思われるようなことを、信じて必死に議論し、活動している同期、先輩後輩、コーチ、また、それを包むこの東大漕艇部という大きな組織。
そんな環境が、ただ好きだった。怯むことなく足掻いている皆が、そしてそんな皆と活動している自分が好きだった。
僕と一緒に活動してくれて有難う。
特に、最後の一年間は、日本一を目指すことに本当に没頭させてもらった。
主将として、練習量を増やしたり、サポートを強化してもらったり、時には、心苦しい決断もしたりしながら、日本一への道筋を頭の中に描き、醜くも、苦しみ続けながらも足掻き続けた。これだけは誰よりも自信がある。
一年間僕についてきてくれて有難う。
努力をしてきたから、その努力が報われてほしい。などと傲慢なことは思わない。
結果が出なかったなら、どんな努力でも意味を為さない。そう思っている。
しかし、だからこそ、最後の最後まで、決勝で漕ぎ切る最後の一ストロークまで、僕たちは足掻き続ける。一着を信じて、漕ぎ続ける。
日曜日、午後14時10分
是非、戸田に足を運び、目に焼き付けてもらいたい。
四年間の僕の、僕ら東大漕艇部の、「日本一への足掻き」を。
最高の舞台で、淡青色のブレードが躍動する姿を。
これまでに支えてくれた全ての人に、感謝を込めて。
令和六年度対校 男子部主将 加藤聡太
