初めまして(実は、ブログを書くのは2回目です。ファーストブログは新人戦「天寵」の振り返りでした。未読の方はぜひご覧ください)。前期課程教養学部文科一類一年で、舵手の河口達郎です。ラストブログでもないのに長文となっていますが、ご容赦ください。

 私とボートとの出会いは、中学2年生の時。地元の湖で月に一度催されていたボート教室で、ツーリングボートに漕手として楽しく乗艇していました。その後、浜松北高校に進学し、漕艇部に所属、今度は舵手として活動しました。ローイングに取り憑かれてからは6年目、舵手というポジションに魅了されてからは4年目になります。トップレベルの選手を除いては、中学・高校から大学まで継続する人の方が少ない、ローイングという競技に、なぜここまで夢中になれているのか、この機会に内観してみたいと思います。

 身体を動かすことに関して絶望的に菲才な私ですが、スポーツ自体、見るのも、するのも、昔から好きでした。好奇心も旺盛だった私は、地元でボート教室があると聞いた時、新しい競技であり、かつ、自然と触れ合える競技であるということから、これなら楽しんでできるかもしれないと思い、父親と一緒に毎月教室に足を運んだのでした。エルゴ以外はとても楽しく、日頃観賞の対象である湖の、その上で動いていることの非日常感がたまらなかったのを覚えています。これが第一の魅力。

 高校進学時、全国大会に出場するくらい、部活動に打ち込みたいと思っていた私は、一応の経験者でもあることから、漕艇部の門を叩いたのでした。これをきっかけに、それまでの「お楽しみローイング」とは次元の異なるフィールドで、ローイングの奥深さを知り、沼へと足を踏み込んでいくことになります。この時出会ったのが「舵手」というポジション。オールの代わりに舵を握り、ラダーとコールでクルーを一つにまとめ上げ、艇速を上げていける。すごく不思議で、突き詰めればどこまでもいけるのが舵手だと直感し、舵手として、第二のオアズマン人生を開始させました。クルーに引き上げてもらったことで、最初に出場した新人戦では県大会優勝、早くも夢だった全国大会進出を叶え、全国8位の成績を収めました。

 さて、本ブログのタイトルは「苦杯」ですが、ここまで順調に進んできたように思えます。ローイングに魅了されていると言いながら、何がそんなに辛い経験だったのか。それは、「自分には才能がないと思わされる日々の乗艇」です。逆説的ですが、これが第二の魅力です。日々の乗艇でニガイ思いをすることは多い。コールに集中する余り、針路が定まらず、障害物に当たりそうになった時(幸い、大事故を起こしたことはないですが)は絶望的な気持ちです。舵手の一番の責任事は安全に乗艇練習を終えること。徐々にヒヤリハットは減ってきているとはいえ、4年経ってもしばしばこの一番重要なところでミスをします。逆もまた然り。水域が混雑していて、周りに注意しなくてはならない時は、コールが疎かになりがちです。

 舵手が処理しなくてはならない情報は膨大で、まずは針路、それから、スピードコーチの情報、船の動きについての感覚、スタンCOX艇ならブレードワーク、エトセトラエトセトラ。いつ、どの情報について処理すれば艇速につながるかを、(ここが重要なのですが)「瞬時に」判断する必要があります。しかも、ある情報に集中するときに、他の情報に対して注ぐ集中力が0であってはならない。実はかなり複雑なことが舵手の脳の中では起こっているのです。私は、何かに集中している時、そこへの集中力の高さには自負があるのですが、他のことにもその集中力の一部を割くということが苦手です。COXに求められる技能と、自分の能力の乖離を日々実感させられ、ミスをした時や、艇速が上がらない時には尋常ではない責任がのしかかり、苦杯を嘗めています。もう舵手4年目なのに、こんな当たり前のことができないのか、と。正直、自分にローイングの才能はない。

 それでも、少しずつ少しずつ、自分の能力は上がってきていると思います。京大戦対校エイトの舵手という重責を担っている今も、苦悩ばかりです。3歩進んで2歩下がる毎日ですが、ふと、「あ、俺、今艇速に貢献した」と思うことがあります。これが楽しいから、ローイングに引き込まれているのかもしれない。膨大なリソースを割いて、ローイングというすごくシンプルな動きの密度をちょっと上げ、少しずつ艇速が上がっていく。この繰り返し自体が楽しくて、勝利の喜びは、その結晶なのかなと思っています。

 私は、「大器晩成」という言葉を信じます。そして、自分の成長で、「大器晩成」という言葉を信じさせます。河口達郎、じわじわ成長の真っ最中。日々嘗めている苦杯を、インカレ優勝杯の味に変えるために。


 5年間漕いだ、地元の佐鳴湖。景色は綺麗だが、内実はかつての日本一汚い湖。チャボするとブレードは見えない。魚が船に入ってくると、それはもう、形容し難い絶望。

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