こんばんは、大橋春人です。
ありがトーレス!!

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今日は短歌同人誌、『遠泳』を読んでいきましょう。
年始に葉ね文庫さんから取り寄せたけど、最近やっと読めました。


つよいまけないピンクがほしい息つめてリップグロスで塗る角砂糖


海沿いの村へと流れ着いたのちかわいいゾンビとなるオフィーリア


笠木拓さん、「pink」より。
一首目。「ピンク」のイメージはかわいい、やさしい、女の子っぽいものだろう。「つよいまけないピンク」というのは矛盾しているようで、全く矛盾していない。かわいらしいまま「つよいまけないピンク」になりたいという願望がある。
「リップグロスで塗る角砂糖」甘いもの、光るもののイメージだが、それもまた強さにつながる。現代的な歌ではないだろうか。

二首目。「オフィーリア」は『ハムレット』の登場人物。有名な絵があるので、それで知っている人も多いだろう。また、「オフィーリア」をテーマにした歌は時々見かける。
この歌の斬新なところは、「かわいいゾンビ」となるところ。不気味な印象ではなく、かわいいままゾンビとなって生きていく。


トーキョーの若者言葉の語尾たまにこっちの言葉に似ててかわいい


正しさで殴らないよう気をつけて書いた手紙に封をするとき


北村早紀さん、「白の跳躍」。
一首目、東京に対する地方の人のコンプレックスをこのように弾き返すとは。「かわいい」というのは「こっちの言葉」が一番かわいいから言えること。東京と地方が相対化されている。
ただ、「トーキョー」とカタカナで書くあたり、まだ完全に相対化できていないのかなぁ、コンプレックスがあるのかなぁ、と思ってしまう。

二首目。上の句の内容は手紙の文面だろう。その言葉は送る相手だけでなく自分自身にも向けられているように思う。「正しさで殴らないよう」にという時に、自分も正しさで殴っていないか、という問いがある。
最近正しいと思ったら暴力的になる人が多いからねぇ。私も気をつけないといけない。正しいと思った時人はしばしば思考停止してしまうから。


強風がページをめくる 犯人がわかってしまう そこからを読む


葉脈がかぼそい骨であることはわかる大葉をちぎる手応え

佐伯紺さん、「育った場所の冬しか知らない」。
一首目は一字空けの有効活用例。一度目も二度目も思考をする時間として使われているようだ。歌の内容として分かりにくいところはないけれど、空いている部分が一番面白い。犯人がわかってしまった主体がどこから読むか悩んでいることを想像するのがこの歌のキモ。

二首目。「葉脈」。普段ちぎる時そこまで意識しないほどの強さしかない。けれどこの主体の手はそのかすかな「手応え」を捉えている。「かぼそい骨」という比喩が効いていて、まさに魚の細い骨のような感覚があった。



洞穴をあなたが作るそのなかでたったひとつの火がゆれている


煮魚のめだま吐き出すその舌が濡れおり夜の定食屋にて


坂井ユリさん、「眼を閉じて」。
一首目。正直初読時、再読時しっくりこなかった歌。何度か読んでいるうち分からないけどいいなぁ、と思った。
下の句のひらがなを多用した文体は遠い過去、遠い場所を幻視しているように見える。「洞穴」はまさに原始時代の人類の住処。「たったひとつの火」はなんだろう。「あなた」が燃やすひとつだけの火なのか。それとも「あなた」自身か。それはわからないけど、あえて答えを出さない方が良い。

二首目。誰の動作か悩んだけど、舌を実際出すと見るのはかなり困難だ。従って一緒に食事している相手であることがわかる。「めだま吐き出す」「舌が濡れおり」。飲食の場面であることもそうだが、どこかエロティシズムを感じてしまう。


機嫌なら自分でとれる 地下鉄のさらに地下へと乗り換えをする


ホールデンみたいにきみは黙ってる余生にやわい風吹けばいい


榊原紘さん、「名画座」。
一首目。三句目以降の主体の行動がまさに自分の心の奥底に潜っていくように見える。「機嫌なら自分でとれる」というのは自分の中に潜っていくことだ。「地下鉄のさらに地下」というのはうまく想像できないが、地下深く、すなわち自分の深いところへ、ということだろうな。

二首目。「ホールデン」は『ライ麦畑でつかまえて』の主人公。こいつめっちゃ喋るやん、と思ったがあれは回想で読者に話しかけているだけ。実際はそこまで多くを話していない。
ホールデンの余生と「きみ」に心を寄せる。ホールデンは心を病んでしまったようだが、「やわい風」が吹けば良い、と祈っている。


ただのいいヤツじゃ食ってけないのって普通に困るタイプのバグだ


焼肉も食べたし流れ星も見たし朝が来なけりゃいい夜だった

中澤詩風さん、「群青色の夜明け前」。
好き嫌いはあるかもしれないが、口語がとても面白い。
一首目。「普通に困るタイプのバグ」。これは人の中のバグなのか、社会のバグなのか。「普通に困る」はあまり短歌では使わない、話し言葉的な口語だが、より若者の歌らしく感じる。

二首目。「朝が来なけりゃ」が見どころか。朝になればまた嫌な時間が始まる。夜のうちは良かった。焼肉、流れ星、楽しい時間だった。
歌の時間は夜明け前だろう。もうすぐ夜明け。夜が終わろうとする時間に「夜だった」と振り返る。


指を切らないように手紙の封を切る鋏の先にゆれる葉漏れ日


水辺にはなんにもなくて誰にでも川は明るく開かれている


松尾唯花さん、「リバーサイド・アパートメント」。
川沿いで不器用に生きる人の姿を描いた一連。
一首目。視点が次第に奥に伸びていく。まずは指。手紙の封。鋏。葉へ。「指を切らないように」集中していた時間から少し余裕ができてきて視点を奥にずらせるようになった。視線のずらし方が好き。

二首目。「なんにもなくて」「開かれている」。解放感、開放感に溢れた一首。言い換えれば何かある場所や閉じている場所では不安や閉塞感を感じるのだろう。

面白い同人誌が増えるとより楽しくなる。私もいつかやってみたいものです。はい。