こんばんは、大橋春人です。
仙台に勝てるとは…!

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ファブリさんの歌集、『リモーネ、リモーネ』を読みましょう。
ファブリさんは未来短歌会所属、『リモーネ、リモーネ』は第一歌集です。
出身はジョジョの奇妙な冒険第5部黄金の風で有名なサルデーニャ島。リモーネは日本語で言うところのレモン。地中海の風が吹いてくるようだ(行ったことないけど。)


あさやけのすっぱい光に目覚めれば水平線はリモーネの色


頭から食べ始めればたい焼きの笑顔が消えてさびしい昼は


まぼろしのバナナケーキは妹の仕業で早く消えてしまった


冒頭の連作、「あさやけ」から食べ物の歌を。結構食べ物の歌が多くて気になってしまう。
一首目の「リモーネ」はレモンのこと。「あさやけ」を「すっぱい光」と捉えているのが面白い。一瞬イタリアにいるのかと思ったが、二首目からするとそうではなさそうだ。
「たい焼き」は流石に日本でないとなかなか食べることはできないだろう。「頭から食べ始めれば」「笑顔が消えて」というのが発見。たい焼きをそれなりに見てきたはずなのに、笑顔とは思ったことがなかった。
三首目は不可思議な一首。「まぼろしのバナナケーキ」とは何か。「妹」はたぶん実際の妹なのだろうけど、空想にひたっていたのだろうか。


食べ物の歌をもう少し。


恋がダメだったとしてもマシュマロのようなほっぺた心に染みる


納豆のねばねば魔法にかけられて美食の夜のペペロンチーノ


できるならチョッコラータの惑星に転職したい朝のコンビニ


元カノとふたりで撮った榛名山いつ見ても赤いポモドーロの色


いろんな食べ物が出てきて寝る前に読む歌集じゃねえなと感じる。腹が減る。しかも美味そうなんだ。
一首目の「マシュマロ」は村木道彦の「ぼくをすてたるものがたり」の歌を連想するが、この歌では相手の「ほっぺた」の愛おしさを歌っていて、素朴だ。
二首目、少しわかりにくいのだけど「納豆のべたべた」を「ペペロンチーノ」に混ぜたのだろうか。それならまさに魔法だ。私は納豆苦手なのだけど、これなら食べられそうだ。美食である。
三首目、「チョッコラータ」はチョコレートのこと。ジョジョ読んでるとヤバいイメージしかないけどそのイメージは捨ててください。就職後の一首。転職するならチョコレートの星に、というのがユーモラス。またイタリア語を使っているのも面白い。
四首目、「榛名山」に行ったのは秋だろうか。「ポモドーロ」のことはよくわからないが、トマトのことらしい。紅葉をトマトソースのように例えているのは特徴だろう。


さて、イタリア料理をたっぷり楽しんだ後で、少しキツい歌を読みましょう。


東京入国管理局へゆくバスのさびしい窓によりかかる朝


どれだけ日本で暮らしても異国人であることに変わりはない。下の句が極めて優れている。特に結句の「よりかかる朝」から状況に対するしんどさが伝わってくる。
「入国管理局」というと嫌なニュースをよく聞く。なかなか日本人として国内に住んでいるとこの嫌な感覚はわからない。EUの国同士だったらどうなのだろう。
いずれにしても「管理局」という権力の前では1人の力は無力に近い。とはいえこの歌のおかげで在留外国人の気持ちに少し近寄ることができる、かもしれない。


くちづけをすればよかった広瀬すず溶けて二度寝は午前4時から


広瀬すずの素顔なようなキャラメルのポップコーンは黄昏の色


広瀬すずさん好きなのか、二度読まれています。
一度目は夢の中に出てきた広瀬すずに「くちづけをすればよかった」。いい関係、ムーディな雰囲気だったんだろうな。
残念ながら早朝覚醒。
二首目「広瀬すずの素顔」を見たことはないけど、「ポップコーン」の色は「黄昏の色」。どれだけはっきり見ているのだろう。

それに対して。


広瀬アリスが殺害された夕方にみかんを選ぶ相棒として


姉の広瀬アリスの扱いが悪すぎる。多分ドラマ、再放送を見たあとなのだろうか。みかんを相棒にするのも面白い。愛媛のみかんにしておいてください。


そしてあまり見ないサッカーの歌。


堂安律のミドルシュートで勝負の火が青に変わって長夜の行方


レモンサワーのグラスは夜に満たされてベスト8を追うキックオフ


キーパーは右に動くと考えた三笘薫はボールの前で


多分カタールワールドカップ決勝トーナメントの三首。クロアチア戦やったかな。イタリアは残念ながらこの大会に出られなかったけど、(ヨーロッパ予選は厳しすぎる。イタリアかポルトガルのどちらかしか出られないトーナメントとかね…)日本の応援をしてくれたようです。
「堂安律」や「三笘薫」という選手名を詠み込むのもさすが。総合誌でもそこまで出てこなかった。三笘選手はたまに見たけどなー。
一首目の「勝負の火が青に変わって」は日本代表のユニフォームのイメージもあるだろう。
二首目の「ベスト8を追う」という表現は好きです。どこかで使ってみよう。
負け方を詠むのはよくあるけれど、勝ち負けを歌わず選手の技術を捉えているのはやはりカルチョの国の出身と言わざるを得ない。
サッカー連作ってあんまり見ないからねえ。26年大会ではイタリア対日本を見てみたい。


趣味でサッカーの歌の話を長々としてしまったが、仕事の歌、恋の歌、家族の歌と良いものが揃っています。小さいけれど、良い歌集でした。日本語で短歌をすることについて考える一冊です。


それでは、また。