思考のカケラ

コンサルタントの備忘録

2016年12月

前回の投稿では、以下のリサーチ・デザインの要素から、「研究課題」について掘り下げました。
今回は研究課題を類型化するところからはじめて、具体的にどのような分析手法があるのかを説明したいと思います(理論~推論技法まで、ざっくり説明します)。

リサーチ・デザインの要素

・研究課題:どのような問題を何を目的にしてリサーチするのか

・理論   :リサーチの枠組みとしてどのような理論を使うのか

・データ  :実証するためにどのようなデータを使うのか

・推論技法:データから推論するためにどのような技法を使うのか 


■研究課題の類型化と分析手法

研究課題について、まずはじめに以下のマトリックスを用いて類型化を行います(以下図参照)。

縦軸に理論化水準(すでに理論が構築されているか)、横軸にデータの利用可能性をとります。

matrix1
*「リサーチ・デザイン―経営知識創造の基本技術ー」(白桃書房, 著:田村正紀)より


この2軸から、分析方法を大きく4つに分けられます。

1. データの利用可能性:低, 理論化水準:高, 例:ゲーム理論による戦略行動の数学モデル構築

2. データの利用可能性:高, 理論化水準:高, 例:金融工学、確率的消費者行動モデルの実証

3. データの利用可能性:低, 理論化水準:低, 例:ベンチャービジネスのフィールドワーク

4. データの利用可能性:高, 理論化水準:低, 例:POSデータベースのデータマイニング


図の左下の、理論化水準が低く、データの利用可能性が低いものに関しては、「ベンチャービジネスのフィールドワーク」等が挙げられます。ベンチャービジネスなどは、先進的で事例数が少ないことが多々あります。そのためこの領域では、データ数が少なく、これといった理論は存在しにくい状況です。


一方で、右上の「金融工学、確率的消費者行動モデルの実証」に関しては、データの量も充分にあり、すでに理論も構築されています。また、理論化水準はまだ低いですが、「POSデータ」を利用したデータマイニングも進んできています。


■技術進歩によるマトリックスへの影響

このようにデータの利用可能性が高い(マトリックスの右半分)研究課題に対しては、いわゆる「ビッグデータ解析」が用いられます。IoTの時代になり、モノがインターネットにつながることによって収集可能なデータも増えます。それにしたがって、より多くの種類と量と活用した分析が可能になるのです。


さらにAIの飛躍的な進歩によって、理論化水準も向上していきます。例えば、The Economistの記事によると、近年の経済学の論文では、「Machine Learning(機械学習)」を用いた論文の数が増えてきています。

経済学は合理性を追求する学問なので、「最適化」を追求する機械学習との相性が極めて良いのではないでしょうか。


20161126_FNC301_economist


以上の結果、今後もIoT等によってデータの取得量は増え、AIによって理論化水準も高くなってくることが予測されます。


matrix2


■具体的な分析手法の例

以上のような分析は、まずデータが量的か質的か(数字を使っているか、言葉をつかっているか等)、分析単位の観察数が多いか少ないかを判断していく必要があります。観察数が多い研究が定量分析になり、逆に少ないと定性分析になります。

分析方法の例を以下に示します。


 tool_for_analysis



分析は定量分析がいつもベストとは限りません。たとえ母数は少なくとも、個別のインタビューやグループインタビューの方が、深く問題をとらえることができたり、仮説を作る上で有効なケースがあります。定量的な数字の背景にある構造やメカニズムを洞察するには、定性的分析アプローチが不可欠なのです。

■終わりに
今回は分析手法をいくつか挙げました。様々な状況に応じてどのような分析手法を使うのか、ざっくりと把握していただけたらと思います。
ただ、今回も具体的にどうやってその手法を使うのかは、まだ説明していないので、次回以降はさらに具体的な話をしていきます。

このエントリーをはてなブックマークに追加

前回は分析の心構えを説明しましたが、今回の投稿では分析の進め方について考えていきたいと思います。
今回のテーマとなるのは、「リサーチ・デザイン」です。

■リサーチ・デザインとは

リサーチ・デザインとは、「リサーチ・デザイン―経営知識創造の基本技術ー」(著:田村正紀)によると、以下の要素の構想のことを言います。
・研究課題:どのような問題を何を目的にしてリサーチするのか
・理論 :リサーチの枠組みとしてどのような理論を使うのか
・データ  :実証するためにどのようなデータを使うのか
・推論技法:データから推論するためにどのような技法を使うのか 

分析をするにあたっては以上のように、
1.目的を明確にしたうえで
2.リサーチの枠組みを考え、
3.そこで必要となるデータを集めて、
4.データから何が言えるかを考える
という流れになります。
それではまず、「研究課題」について、具体的に考えていきたいと思います。

■研究課題の掘り下げ
前回の投稿でも書きましたが、分析は最終的に「良い結果」を出すために行います。
そのためにも、最初にあるべき姿を描き、現状とのギャップを把握します。そして、そのギャップを埋めるための方法を考えて実行します。
ここではまず、「問題発見力」が必要になります。この問題発見ができないケースが実はよくあります(自省の意味も込めて)。まずは問題を把握しないと何も進まないので、この最初のフェーズは非常に大事です。
問題発見ができないのは、以下の4つの理由があります(参考:問題解決プロフェッショナル)。
 
①問題を定義する前提となる「あるべき姿」を、的確に描けない
②「現状」の認識・分析力が低く、正確な把握ができていない
③「ギャップ」の構造を解明して、問題の本質を具体化・優先順位付けすることができていない
④実行可能な「解決策」から逆順で短絡的に問題をとらえるために、広がりを失う

asis_tobe


ここでは、特に①と③に着目します。

①について
「あるべき姿」を構想し、問題を発見するためには、以下の4つのPがあります。

(1) Purpose:何のために
(2) Position:誰にとって
(3) Perspective:どの範囲で
(4) Period:どの時点で

これらの観点から総合的に考えることで、「あるべき姿」をより明確にすることができます。
自分と異なる視点を複数持ち、また具体化して考えられるレベルまで視点を変えることで、より深い思考をすることができます。


③について
現実とあるべき姿のギャップを明確に把握できていなければ、実際のアクションに反映されません。そこで、問題の本質を考えるための3つの視点があります。

(1)拡がり:抜け漏れがないか
(2)深さ:Whyを追求し、本質的なところまでたどり着けているか
(3)重さ:何が重要か把握できているか

また、「重みづけ」が必要な背景には、以下の3つの理由があります。

  1. 企業の組織は、部門や階層など、どのポジションに立つのかにより、問題の見え方・問題の重要性が大きく異なる。そのため、フォーカスすべき問題を特定しない限り、同じテーマであっても問題点が異なり、解決策の方向性が分散してしまう場合がある。

  2. 企業の抱える問題が唯一無二ということは極めて稀であり、多くの場合は問題・課題が多岐にわたる。

  3. あらゆる問題を解決するために資源と時間を分散させてしまうと、ひとつひとつの解決策のレベルが低く、中途半端になってしまう場合がある。


④についても少しだけ触れておくと、よく言われる仮設思考は結論に導く背後の理由やメカニズムを把握しておかないと、ただの思い付き・偏見になってしまいます。

以上のような観点から問題を的確に把握することに注意して、まずは課題を掘り下げて考えていくことが大事になってきます。 

■終わりに
今回は課題を掘り下げについて考えてきました。
そろそろ、実際の分析はいつやるのかという声が挙がるかもしれませんが、しばしお待ちください。
この下準備をしっかりとしておかないと、後で無駄な作業をたくさんすることになります。

次は、また少し具体的な話になります。だんだんとやることが具体的になっていく様子を感じていただけたらと思います。
このエントリーをはてなブックマークに追加

最近、ビッグデータやAIというバズワードを聞かない日はないくらい、これらの言葉が流行っています。
このような言葉だけは流行していますが、根本的に大切なのはしっかりとした「分析」を行うことです。

これからの投稿では色々な「分析」について紹介していこうと思います。
今回の投稿では、分析を進めるにあたっての前提となる心構えを説明します。


■なぜ分析をするのか
それではなぜ分析をするのでしょうか。それは一言でいうと「良い結果」を出すためです。
データ分析を一躍有名にした「マネー・ボール」では、データを活用して野球チームを優勝に導くことが目的でした。そのチームであるオークランド・アスレチックスは、リーグ最低クラスの年俸総額でありながら、毎年のようにプレーオフ進出を続けました。2002年には年俸総額が1位のニューヨーク・ヤンキースの1/3程度だったにもかかわらず、全球団で最高の勝率を記録しました。アスレチックスは「分析」から、このような「良い結果」を出すことができたのです。


マネーボール [DVD]
ブラッド・ピット
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2012-10-03



また分析は定量的なデータに限った話ではありません。定量データがなくても、「良い結果」を出すための分析は必要になります。例えば、大学受験をする時には、まずは自分が行きたい大学を決めるために大学の情報を色々と集め、そしてその大学に合格するための勉強法等も情報収集します。これによって集められる情報(学部学科、校風、勉強法等)は決して定量的なものに限られません。定性的な情報ではありますが、意思決定をするためには非常に重要な情報です。定量情報であっても、定性情報であっても積極的に取りに行くことが求められます。

■「良い結果」を出すために必要なこと
「良い結果」を出すためには、「良い原因」が必要になります。「良い原因」は、2つに分かれます。まず1つ目が「良い選択」をすることです。「良い選択」とは良い結果を出す基となるプロセスや行動のことです。先ほどのマネー・ボールの例では、データを活用する方法を選ぶことであり、大学受験の例では、良い勉強法を選択することに該当します。
そして、「良い選択」をするためには、「良い情報」が必要です。この「良い情報」が2つ目の要素であり、具体的には野球選手それぞれの打率・出塁率等の多くのデータや、良い勉強法・参考書等に該当します。「良い情報」が集まらなければ、「良い選択」をすることができず、「良い結果」は生まれません。バラの花を咲かせるためには、タンポポの種を植えるのではなく、バラの種を植えなければなりません。最初のステップとして大事なのは、このバラの種を準備すること、つまり「良い選択」と「良い情報」の準備ができていることです。

■終わりに
今回は分析を進めるにあたっての最初のステップとして、心構えを説明してきました。
次回からの投稿では、「良い選択」と「良い情報」について、具体的にどのようなことを準備して、実行していくのかを説明したいと思います。

このエントリーをはてなブックマークに追加

今週は非常に大きなニュースが飛び込んで来ました。

日本の大手自動車メーカーのホンダがグーグルを傘下に持つアルファベットと完全自動運転車の開発に向けて共同研究を検討したとのことです。正式な発表は以下の通りです。

「ウェイモ社と米国にて自動運転技術領域の共同研究に向けた検討を開始しました。両社の技術チームは、ウェイモ社の自動運転技術であるセンサーやソフトウェア、車載コンピューターなどをHondaの提供する車両へ搭載し、共同で米国での公道実証実験に使用していきます。」

それでは、ホンダはなぜウェイモとの共同研究をしようとしているのでしょうか。
ウェイモの方では、もともと親会社のアルファベットが今年5月には、フィアット・クライスラーとも提携を発表しています。様々な自動車メーカーと提携して、自社の自動運転プラットフォームを提供していきたいのでしょう。
これはスマホのアンドロイドと似た戦略だと思います。

ホンダの方はと言えば、完全自動運転に向けて、他社に遅れをとっていた部分を補強することが目的であると考えられます。
それでは、日本の代表的な自動車メーカー×関連業界の中で、代表的なプレーヤーの関係を見ていきましょう。

・日本の代表自動車メーカー3社×関連業界プレーヤーマップ
NIG13

*公開情報を基に筆者作成


図の中で赤く表示されているのが、ウェイモです。
ウェイモはまさにホンダの欠けていた1ピースなのです。

トヨタ、日産、ホンダはもちろん各社素晴らしい技術を持っていますが、自動運転競争に勝つためには、仲間が必要です。
トヨタは人工知能研究所(TOYOTA Research Institute)をアメリカに設立したり、マイクロソフトと合弁会社を作るなど、自動車の頭脳の部分を大幅に強化してきました。
また、日産もマイクロソフトとコネクテッドカーの共同研究をするなど、自動運転競争に向けて仲間づくりをしてきました。

しかし、ホンダの場合はどうでしょうか。
ホンダは上の図の中で、「情報」プレーヤーとの提携がありませんでした。
ホンダは従来自前主義を貫いてきましたが、それではダメだと感じたのか、近年はオープンイノベーションを推進しています。

例えば今年、ホンダの研究開発子会社である本田技術研究所は、ソフトバンクと協力し、ソフトバンクグループ傘下のcocoro SB株式会社が開発したAI技術「感情エンジン」のモビリティへの活用に向けた共同研究を開始するとしています。
また、ホンダは知能化研究開発のオープンイノベーションを更に強化するために、東京・赤坂に知能化技術の研究開発を行う新拠点「HondaイノベーションラボTokyo」の開設準備を進めています。今回の共同研究は、AI技術のオープンイノベーションの取組みの1つとなっています。

ただ、AI技術において、自社開発をするだけでは開発競争に勝ち残るのは難しいです。また、ホンダはソフトバンク傘下のcocoro SBと提携をしていますが、当社が持つAI技術はあくまで感情を解析する技術であって、自動運転に必ずしも寄与するものではありません。そこで、自動運転に向けて車の「頭脳」の強化が必要だったのです。

ホンダは ウェイモが持つ自動車の頭脳だけでなく、膨大なデータも欲しいのではないでしょうか。
現在、アメリカでは多くのグーグルカーが街を時速40kmで走っています。けっこう遅くてイライラするそうです。
ゆっくり走行しながらグーグルカーは何をしているかというと、走行中に膨大なデータを収集・解析しているのです。
ウェイモはこのような実証実験を繰り返してきました。街中に自動運転車が走行していない日本と比べて、アメリカの方が自動運転実験の規制が緩い状態になっています。そのため、自動運転をするためのデータを蓄積しやすいのです。


ホンダは、ウェイモがこれまで集積してきたデータをきっと欲しいはずです。そして、ウェイモの頭脳とデータを提供してもらい、完全自動運転に向けてさらなる飛躍を目指しているのでしょう。


追記:
プレーヤーマップを見ると、ホンダ派閥ではテレマティクス保険を提供している会社はいません。
ウェイモと提携するとデータ収集もしやすくなると思うので、どこかの企業がホンダの車に関連してテレマティクス保険を始めるかもしれませんね。 
このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ