こんにちは。4期の小林です。
温泉サークルなる奇妙な団体の門を叩いてはや4年。本当ならもうとっくにサークルを引退しているはずでしたが、後輩の厚意により今年いっぱい在籍させてもらっています。
迷惑をかけてばかりのサークル生活でしたが、それももうお仕舞い。最後の迷惑として拙文を残して去ろうと思い、1年ぶりにブログの筆を執りました。

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趣味として温泉を巡りはじめてからちょっとした月日が経ち、悲しいことに訪れた温泉が店じまいするという知らせを聞くことが多くなってきた。そういえば2年前の岩手秋田合宿で泊まったあの湯治宿も、昨春に惜しまれながら閉業したらしい。
そして2021年12月31日、横浜市郊外のある温泉がその歴史に幕を下ろす。旭区上川井町にある温泉施設「横浜温泉チャレンジャー」だ。一温泉ファンとして、また物心ついた頃から利用させていただいてきた地元ユーザーとして、このお湯について書き留めたい。
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横浜温泉チャレンジャー

チャレンジャーは社会福祉法人「創生会」が運営する老人ホームの敷地内につくられた温泉施設だ。1993年春、老人ホームの施設長が「温泉は必ず出る」という信念のもと地下1500メートルの源泉を掘り当てた。今となっては珍しくもなくなってきた高深度掘削であるが、当時は開発されたばかりの新技術であった。
施設長が掘り当てた源泉は約45℃の塩化物泉。翌1994年9月に老人ホーム内の大浴槽を利用し、「横浜温泉チャレンジャー」として一般開放が始まった。温泉不毛の地に湧いた湯を有り難がり、周辺の団地の住民が多く訪れた。しかし当時の浴室は一つしかなく、男女で日替わりの交代制。評判が広がるにつれてやや手狭になってきたこともあり、2000年5月に新しい建物をこしらえて新生「地域交流施設 横浜温泉チャレンジャー」としてリニューアルオープンした。

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汲み上げ設備と源泉タンク

「酷いアトピーの赤ちゃんが、入浴を重ねるにつれて良くなっていくのがわかるんですよ。」
そう語るのは、現在チャレンジャーの運営を担当していらっしゃるKさんだ。今回お忙しい合間を縫ってお話を聞かせてくれた。
「平日は近隣のお客さんが多いんですけど、土日は車で東京などの遠方からくるまで来てくれる方もけっこういるんです。お客さんの話を伺うと、皮膚炎やアトピーが良くなったという話を聞くことが多いですね。うちは個別浴室もあるので、状態が悪くて周りの目が気になる方も気軽に温泉に入れるんです。」
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個別浴室(横浜温泉チャレンジャー公式サイトより引用)

少々地元贔屓が入るかもしれないが、たしかにここのお湯は良い。
無色透明(浴槽の色によってか?少し黄緑がかっている気もする)の新鮮なお湯が、時おり湯口から間欠泉のようにゴボゴボ供給される。等張性(成分総計8,857mg/kg)の食塩泉で、舐めるとしょっぱく、触感はツルスベ感が強い。おそらく太古の海水が地下に閉じ込められた「化石海水型」の温泉であろう。
加えて特筆すべきことが二点。一点目は196mg/kgというメタホウ酸の含有量だ。施設のホームページにはその含有量の多さゆえに専門家から「美人の湯」と称されていると書かれており、Kさんもこのメタホウ酸が肌に良い作用をもたらしているのではとおっしゃっていた。続いて二点目はお湯の香りだ。温泉マニアが好む石油に似た香りが浴室に立ち込めていて、何を隠そう温泉分析書にも「微弱石油臭」としっかり記載されている。首都圏で明確な石油臭を知覚できる温泉はかなり貴重な存在なのではないだろうか。
こうして五感から「温泉に入っている感」をこれでもかと突き付けられ、それが満足感・多幸感に変わっていく。
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浴室全体(横浜温泉チャレンジャー公式サイトより引用)

しかし、お湯が良ければ客が来る、という図式が必ずしも成り立たないのが現実だ。
「最盛期は年間20万人くらい来ていただいていたんですが、今は5万人くらいですね。月に直すと4000人。」
リニューアルオープン数年後から周辺に大型スーパー銭湯が建つようになり、客が分散した。もともと経営が厳しくなっていたところに、新型コロナウイルス感染拡大がダメ押しとなった。
「人件費、タンクや配管のメンテナンス費、下水道使用料…。正直、6年前から赤字でしたね。本当は続けたいんですが、これ以上の運営継続は厳しいという判断になりました。」
リニューアルから20年経ち、配管など設備の急なトラブルも増えてきたという。濃い塩分を含む高温泉を地下1500メートルから汲み上げ続けるのは容易でなく、相当なメンテナンスが必要になるのだろう。天然資源を使った商売の難しさを改めて痛感させられる。
 
客は一時期に比べて減ったとはいえ、それでもこのお湯が生活の一部となっている人が多くいるのもまた事実だ。
「アトピーの治療で通われている方から来年はどこに行けばいいかと聞かれても、答えに窮してしまうんですよね。そうした方々にとってはこのお湯がかけがえのない存在であるということも痛感している。だからできるだけ閉めたくはないんですが…。あとは老人ホームに引いているお湯も止めてしまうので、お年寄りを温泉に入れてあげられなくなるのも辛いですね。」
老人ホームにいるお年寄りに温泉を、という気持ちも込めて掘り当てられた温泉。その運営には当初から公共の福祉という理念が貫かれている。なればこそ、今回の決断も断腸の思いによって下されたものであろう。
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前方の建物がチャレンジャーで、後方が隣接する老人ホーム

良質なお湯が想像もできないほど地下深くから湧きあがり、様々な方が癒しを求めて日々訪れる横浜温泉チャレンジャー。浴室は「普通風呂」「ジェット風呂」「寝湯風呂」の3つからなり、そのすべてに源泉かけ流しの新鮮なお湯が湯口から供給されている。この3つの風呂を思いにまかせて楽しみつつ、露天のバルコニーで涼しい風を浴びるのがチャレンジャー流の過ごし方だ。サウナや露天風呂はないが、疲れを癒して「ととのう」にはこれで十分だ。
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寝湯(横浜温泉チャレンジャー公式サイトより引用)

この先お湯は、そして施設はどうなるのか。
「お湯は汲み上げるポンプを止めてしまいます。また施設をどうするかの目途は立っていません。」
しかし、とKさんは続ける。
「温泉施設として使いたいという方が出てくれば貸すということも考えているんです。やはりせっかくの温泉ということで誰かに使ってほしいという気持ちがありますし、希望を込めてということで不動産のサイトにも載せています。ポンプのメンテナンスも時々して、本当に諦めるまでは可能性を繋いでいこうと思います。」

チャレンジャーがこの先どうなるかは私にはわからない。しかし2021年12月31日の営業終了まで、可能な限り足を運んでその姿を心にとどめようと思う。
またこの記事をご覧になっている方がいれば、ぜひ訪れてみてほしい。多少辺鄙な立地ではあるが、横浜駅からは路線バスで一本である。26日からの営業最終週は子どもの入浴無料で、31日の最終日は甘酒をサービスで振る舞うとのこと。今年もいろいろあったが、一年間の出来事を、数万年の時を経て地上に湧きあがったお湯に流してはいかがだろうか。
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談、小林

〈地域交流施設 横浜温泉チャレンジャー〉
〒241-0802
神奈川県横浜市旭区上川井町2287
TEL:045- 922-5590
【営業時間】
9:00~20:00(受付は19:30まで) 
【料金】
3時間以内  (大人 中学生~)800円  (子供 3歳~小学生)300円 
延長は1時間ごとに300円
個別浴室利用は要予約
※2021年12月31日をもって営業終了予定
※営業時間、料金などには変更等もありますので詳しくは直接お問い合わせください。
【アクセス】
JR横浜駅 横浜駅西口バスターミナルからバス5系統若葉台中央行きに乗り「若葉台南」下車 徒歩5分
東急田園都市線 青葉台駅からバス65系統若葉台中央行きに乗り「消防出張所前」下車 徒歩5分
東急田園都市線 長津田駅からバス40系統若葉台中央行きに乗り「消防出張所前」下車 徒歩5分
JR横浜線 十日市場駅からバス65系統若葉台中央行きに乗り「消防出張所前」下車 徒歩5分
相鉄線 三ツ境駅からバス116系統または境21系統若葉台中央行きに乗り「消防出張所前」下車 徒歩5分
東名高速道路 横浜町田ICから車10分
国道246号線、保土ヶ谷バイパス至近