2017年03月13日

五浄出立

作:万城目 学

有名な中国古典のサブキャラクターや創作された脇役、更にその作家とされる司馬遷の人生に焦点を当てた、五編からなる短編集。

西遊記の沙悟浄は猪八戒を分析しながらキャラ立ちしない己と向き合い、三國志の趙雲(一部では主役そっちのけの大人気みたいだが)は「桃園の誓い」や「三顧の礼」の様なメジャーなイベントで君主と繋がっていない引け目や蜀という土地へ希望を持てずにいる自分をもてあまし、大王たる項羽との繋がりをただ享受していた虞美人は、それを自らのものとして取り戻す矜持を発揮する。

他に皇帝暗殺未遂に関わるエピソードや司馬遷と家族の交わりを描いた作品があり、いずれも短編でありながら各キャラクターへの愛情が深く感じられ、全ての作品が長編となれば是非とも手に取ってみたいと思わせる。

中国古典なんか知らないし。
という人にもとっつけるように、各人物の注釈が添えられている親切ぶりに感心です。
  
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2017年02月27日

光秀の定理

作:垣根 涼介

戦国時代最大の事件「本能寺の変」、明智光秀が何故信長を討たなければならなかったのかを、その人となりを描くことによって導きだす意欲作。

といっても物語りは織田家と関わる以前の光秀不遇の時代が大半を占め、剣客「玉縄新九郎」と破戒僧「愚息」の二人と光秀のかかわり合いや、妻との関係を丁寧に描写する事で光秀の人間性がストンと腑に落ちるようにできている。
結果的に織田家中の有名武将達は完全な端役になっており、彼らの活躍をもっと見たいという人には物足りないかも。

しかしそんな事を差し置いてなお新九郎や愚息は魅力的なキャラクターであり、実はこの二人こそが本作の主人公だ。

そして本能寺の変を経て豊臣の世となり、世間では光秀が謀反に及んだ訳があれこれと噂される。
曰く、信長の激しい叱責に恨みを抱いていた。
曰く、秀吉にそそのかされた。
いずれの話しを聞いても釈然としない新九郎は、久方ぶりに愚息の元を訪れる。
過去の光秀との交わりを通して謀反の真相に至った二人は、亡き友の為に盃を重ねていく。

結果的に何かが解決したり、誰かが救われたりはしないが、清涼な読後感をもならすのはやはり二人のキャラクターによるものか。
  
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2017年02月16日

不死症(アンデッド)

作:周木 律

いわゆるゾンビものの推理小説。

この手の作品はマンガやゲーム、映画やもちろん小説でも多数提供されており、それぞれ趣向を凝らして独自性を演出していると思いますが、この作品では何が原因で問題が発生したのか究明していく所を肝に据えています。

色々調べてあれやこれや考えて創られたのでしょうが、読後の感想としては「なんだかなぁ」といったところ。

ゾンビものなので勿論アクションあり、確執あり、さらに恋愛ありと王道の要素は網羅してあります。

それでも前途のように感じてしまうのは、登場人物の感情の動きに共感出来ないというか、リアリティが感じられないせいなのかと。

ある事柄を人生の目標とするに至った経緯、作中で発生するイベントへの対処、自衛官の立ち居振舞い、そして特にラストでヒロインが取る行動。

読んでいて随所に首を傾げる場面が多い印象でした。
  
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2017年02月02日

バイ貝

作:町田 康

ある小説家を主人公に、現代人の消費活動を皮肉った娯楽小説。

現代人は鬱を貯めながら活きている。
それを発散する為に消費活動するが、その消費を支える費えを担保する為の労働により更に鬱を募らせる。

というジレンマに敢然と立ち向かう小説家。

町田節炸裂のナンセンスで支離滅裂な展開の連続。
こういうぶっ飛んだ論法やワードはどうやって捻り出されてくるものか。
別に何も難しいこと考えなくてもスイスイ出てくるよ。
って事なのか、自分の世界観を維持する為に七転八倒してるんだ。
って事なのか、非常に興味深い。
  
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2017年01月22日

黒豚姫の神隠し

作:カツミキレイニー

沖縄の離島を舞台にしたファンタジーホラー絡みの青春小説。

島には人の出す負の感情、「淀み」を食べる豚の神様の伝承がある。
皆の淀みを引き受けた豚神は穢れ神となり忌み嫌われ、孤独を紛らす為に子供を拐うという。
実際7年前に神隠しがあってから、大人達は子供の夜歩きに異常なまでに神経質になっている。

主人公は中学3年生。
閉じられた島の生活に辟易し、外へさえ行ければ何かが変わるという妄想と共にくすぶっている。

クラスに全く馴染もうとしない東京からの転校生が、ある日音楽の授業で披露した歌声に衝撃を受けた彼は、その転校生を主人公に映画を撮るというアイデアに躍起になる。

彼女に近付こうと奮闘しドタバタを繰り広げ、結果的にその秘密に迫っていく。

沖縄という土地が神秘的な説得力を持っているという前提は安易かもしれないが、そこが作者の育った場所でかつ基本的にこれは青春小説で純な少年の無鉄砲さや家族愛を描いた作品であり、オカルトやファンタジーは味付けに過ぎないのだと受け止めればさして嫌味ではない。
  
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2017年01月07日

コラプティオ

作:真山 仁

舞台は東日本大震災後の日本。
震災後の復興に奔走して時代の寵児となり、一気に総理大臣まで登り詰めたカリスマ政治家の光と影を、その秘書官と新聞記者の目線から描き出している。

それぞれの立場、たち位置から一人の人物を見た印象がどう変わってくるのか。
仕事に対する信念や人間性も含めて受け止め方の違いがいい具合に描かれている。

またそれぞれの周りに配置された関係者のキャラクターも癖があって面白い。

治家はその言葉で良くも悪くも国を導き、ジャーナリストが使う言葉は体制を批判し、あるいはまつり上げる。

以前紹介した神家 正成さんの「深山の桜」という作品でPKOのイビツさを描いていた。
今作でも国際協力という美名の元にエゴイスティックな欲望を隠して押した横車が、小さくない不幸を呼ぶ図式を違ったアプローチで描き出している。
  
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2016年12月31日

はやくも

edf93254.jpgぼけ開花。

暖かい日が何日かあったからなぁ。
例年だと1月末から2月の半ばくらいなんだけど。
  
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2016年12月24日

ロボット・イン・ザ・ガーデン

作:デボラ・インストール

ポンコツロボットとポンコツ中年を主人公にしたロードムービー的作品。

両親を飛行機事故で亡くして以来、それまで取り組んできた獣医師の勉強を放り出し、遺産に頼って生活を続けるベン。
弁護士としてのキャリアを重ねる妻は、そんな夫にストレスを感じ、すれ違ってばかり。

そんな夫婦の家の庭に、ある日小学生の図工作品と見紛うようなロボットが座り込んでいた。
そのロボットへの対応を巡り、夫婦の齟齬は決定的となり妻は家を出ていく。

ベンは少ない情報を頼りにイギリスの自宅からアメリカへ、そのロボットを修理する為の旅に出る。

様々なハプニングや出会いを通じて二人(?)の間に芽生える絆や成長。
やがて明らかになるそのロボットの出事。

ロボットが主人公の割に正直SF的な要素は皆無と言っていいと思います。
むしろ大人の為に「みにくいアヒルの子」をスーパーアレンジしたような。

作家さんはそんな積もり全く無いのかもしれませんが。
  
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2016年12月14日

Sの継承

作:堂場 瞬一

日本の政治システムの変更を求めて革命に邁進する男逹、またそれを阻止すべく戦う警察官の活躍を描いた作品。

物語り冒頭、群馬県で突如発生する毒ガス事件。
警視庁から派遣された警部は、県警が捜査を仕切っていく様に安堵を覚える。
しかし毒ガス発生現場から白骨化した死体が発見され、さらに都内でも事件を起こす準備があるとの犯行予告が警視庁へ寄せられるにいたり、彼は暗澹たる思いに捕らわれる。

ここで物語りは学生運動末期のデモや安保闘争が世間を騒がせている頃へさかのぼる。

世間の狂騒をよそに秘かに進行する革命の計画。
いくら大規模に行ってもデモでは国を変革することは出来ないと、旧日本軍が研究していた毒ガス(通称「S」)を完成させ、少数の仲間だけで事に臨もうとする。

そして後半部は再び現代へ、犯人の予告通り渋谷で発生する毒ガス事件。

犯人は国会議員の総辞職と官僚主体の政治システムへの移行を要求。
ネット上に上げられる犯行声明や犯人の思想は、ネットの住民逹から一定の評価を受ける。

毒ガスで不特定多数の国民の命を人質に退陣を迫られた政治家の対応。
徐々に明かされる犯人の素性。
対応する警察官の意地と心意気。

毒ガスを武器に都民の命を人質に取って立て籠る犯人、解決への突破口はどこにあるのか。

安全保障法案や原発政策にからんで国会議事堂周辺に多くの人が集まった映像は記憶に新しい。
それでも体制は小揺るぎもしなかった。
今、彼等はみんな諦めたのか、あるいは冷めたのか。
それとも別の手法に乗り換えたのか。
  
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2016年12月07日

大翔製菓広報宣伝部 おい!山田

作:安藤 祐介

業績が伸び悩む菓子メーカーが一人の社員を「ゆるキャラ」に起用するという手に打って出た。
その「ゆるキャラ」に指名された山田助(やまだたすく)は笑顔を絶やさない行動派。
しかし余りに突飛な「人間ゆるキャラ」は様々な部署から「ふざけている」ととらえられて総スカンを食らう。

果たして山田はゆるキャラとして生き残ることが出来るのか?
一見無責任な部長の思惑とはなんなのか?
そして社内恋愛の行く末はいかに?


比較的ライトなタッチで描かれるストーリーを通して仕事や会社との向き合い方を見つめていく本作は、全体的に理想主義的な印象である。
その為にいい大人が読むと青臭く感じるかも知れないが、その青臭さがなんとも言えない眩しさを放っている。
  
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