2016年11月30日

ママの狙撃銃

作:荻原 浩

主人公は二人の子供を持つ一見平凡な主婦。
夫は腑抜けだがおおらかな性格。
中学に上がったばかりの娘は難しい年頃に差し掛かり、世間との齟齬と折り合えずいじめられている気配。
幼稚園児の息子は甘えたいさかり。

ある日一本の電話があり、日本で再び仕事を受けてみる気はないかとの誘いを受ける。

幼少の頃にアメリカ人の祖父(元陸軍のスナイパーで暗殺者)と二人で暮らしていた彼女は、その祖父から射撃の手解きを受けて成長した。
祖父には射撃以外にこれといった特技はなく、幼い孫に教えられるものがそれだけだったのだ。
いつの間にか卓越した技量を身に付けていた彼女は、とある事情からやむを得ず一件の暗殺を請け負う。

その彼女の過去を知る依頼主の事を彼女は何も知らない。

今の生活が壊されるのでは、家族に危害が及ぶのではという恐怖から依頼を断ることが出来ない彼女は、祖父の唯一の形見であるライフルを携えてその場所へ赴く。

何より二人の子供の健やかな成長を願いながら、他人の命を奪わなければならない事に激しく葛藤し、それでも家族を守る為に孤軍奮闘していく。


日本人の主婦がスナイパーとかって正直どうなの?というような懸念は無用。
無理目な設定とみせつつ破綻なく進む物語りで、母として、妻として、暗殺者として、そして人間としての彼女の有り様が迫ってくる。
  
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2016年11月25日

約束の森

作:沢木 冬吾

主人公は妻が殺人事件の被害者となった事をきっかけに道を踏み外した元公安の刑事。
職を辞し世捨て人の如く日々をおくっていた彼の元へ、現職から潜入捜査の依頼がもたらされる。
彼にその依頼を受ける気にさせたのは、潜入先の資料として見せられた写真の一枚に写っていたドーベルマンの人を拒絶する目だった。

現場は寂れた地方のモーテル。
一般客向けのいくつかのコテージから更に奥の森の中に隠された建物があり、様々な分野の人間が表に出せない会合や遊興に使っているとのこと。

現場に着いた彼は任務の詳細を知らされる。
公安内部で半ば都市伝説の様に語り継がれる「N」という組織、その「N」の重要人物の娘と親子としてそこで生活し、「N」を炙り出そうというのだ。
彼は指示により二人の若者と暮らしながら、ドーベルマンの心を取り戻す事に注力していく。

前半は主にドーベルマンと主人公の関わりや、登場人物の過去にスポットが当てられ、物語りへ引き込まれて行く。

そして後半、「N」を釣り出すという作戦に隠された裏の目的が浮かび上がり、諸々の謎がサスペンス要素を盛り上げながら怒濤のアクションシーンへと雪崩れ込む。

登場人物それぞれにストーリーがあり、癖があり、作者がキャラクターへ寄せる愛がある。

いびつな生い立ちや過去を持った三人と一匹のドーベルマンと一羽のオウムからなる偽の家族は、見知らぬ土地での共同生活と事件を経てどのような結末を迎えるのか。

骨太なハードボイルドでありながら、随所に見せる人間臭さやユーモアが肩の力を良い加減に抜かせてくれる。
  
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2016年11月18日

悲しみのイレーヌ/傷だらけのカミーユ

作:ピエール・ルメートル

以前紹介した「その女アレックス」の前後作。
同じくカミーユ・ヴェルーヴェン警部の活躍が描かれたサスペンス作品。

「悲しみのイレーヌ」は随分前から書店にあるのを認識していたのだが、「その女アレックス」を先に読んでしまった為に結末が見えてしまい中々手に取れなかった。
それでも作品のクオリティは高い筈だと、ちょっとした覚悟を持って読み始めた。

やはり推理小説としての精度は素晴らしい。
でも結末を知りながら読むのはあまりに切ない。
というかツラい。


一方の「傷だらけのカミーユ」はアレックスの1年後という設定。

過去の悲劇から立ち直ったカミーユに再び悲劇が降りかかる。
それに立ち向かうカミーユは暴走を繰り返し、まさに傷だらけになりのたうち回り、翻弄されながら事件に立ち向かっていく。


いずれもクオリティの高いサスペンス作品でありながら、主人公への容赦無さ加減が半端ない。
  
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2016年11月07日

ニルヤの島

作:柴田 勝家

ペンネームと作品の内容があまりにもかけ離れているのだが、これは近(?)未来のミクロネシアを舞台にしたSF作品だ。

人生に起こる出来事、それに対する感情や行動を逐一ログとして記録していくシステムが構築されたことにより人生の再現が可能となった世界。
そこでは「死後の世界」という概念が崩壊し、それを担保する事が重要な役割であった宗教が存在意義を失った。

テクノロジーによって人生の再現が可能になりました。
だから死後の世界は無くなりました。
結果、宗教が不要になりました。
という論法には疑問符が付きますが、それはまぁそういうものとして受け入れないと先に進めない。

物語りというにはあまりに散文的で、それでもこれは何かと言えばやはり物語りなんだろう。

基本的に3つのパートが時間軸を前後させながらバラバラに重なりあっていき、読んでいて置いてきぼりにされない様にひたすらしがみついていってる内に、気が付けば結末に集約していた。

このままテクノロジーが進化していけば宗教や神というモノにも新しい展開があるだろうという認識は納得。

押井守監督の映画に見るような観客置き去り感があり、M気質な人ははまるかも。
  
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2016年10月31日

さなぎ

91e7d682.jpgなんの?

ベランダのスミレの葉っぱを食い荒らしていた毛虫(全体に黒くて背中に朱色のライン)
片っ端から駆除していたのだが、監視の目を掻い潜って一匹だけサナギになった。

形はアゲハのと似てるけど、刺々してて銀色の斑点あり。

正体不明。
  
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2016年10月26日

ポンチョに夜明けの風をはらませて

作:早見 和真

いつも冒頭では出来るだけ短い文で作品の概要を伝えられる様に気を付けているのですが、自分の拙い筆力ではちょっと無理でした。

ストーリーは登場する複数の主人公達の主観で綴られていく。

それぞれそれなりに不幸な生い立ちの男子高校生達。
彼らは互いをリスペクトするがゆえに劣等感を抱き、あるいはそれを受け入れ、あるいは抵抗し、あるいは逃げ出す。

そして卒業式を目前に彼らの物語りは破天荒な転がりを見せ、そこに関わってくる女性陣がまたそれぞれに不幸を抱えている。

にも関わらず全体のテイストはあくまで軽く、不幸な境遇を蹴っ飛ばしてしまうしなやかさを感じさせる。

東京から岡山へ走るロードムービー的小説であり、青春群像であり、自分のルーツへの旅であり、そしてとんちんかんな娯楽作品である。

またサブキャラ的に登場する親達がいい味出し過ぎで何とも愉快。


ラスト、岡山への破天荒ジャーニーを終えた彼らが卒業式を終え、更なる旅立ちへ向かう所で物語りは締められている。

彼らの前途に幸多かれと祈らずにはいられない。
  
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2016年10月16日

みのり

0ce3529b.jpgベランダで毎年育てている米。
今年もわずかばかりの実りを賜った。
  
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2016年10月12日

峠越え

作:伊東 潤

ご存知、徳川家康が主人公。
彼の人生に深く関わった織田信長とのやり取り、その回想を通してどこまでも凡人である自分と向き合いながら戦国を生きる様が描かれている。

桶狭間で信長の今川打倒に秘かに助力した家康は、以降三河の地を治めるも織田信長の風下に立つことを余儀なくされ、武田信玄に対する防波堤の役割を担わされる。
しかし武田家亡き後は織田家の東側に蓋をしている自分が邪魔になっている事に気付き驚愕する。

これまで戦国乱世をなんとか生き残ってきた「凡人」徳川家康は、信長の魔の手から如何にして逃れるのか。

そして本能寺、その時家康は堺にあり、三河への帰路には伊賀越えという大きな障害が待ち受けている。
その峠での困難を乗り越えた先で家康目に写るものとは。

この手の大河系小説ではフィクションの織り交ぜ具合が物語りに入り込む上で重要なポイントになると思うのだが、家康と信長、徳川家中との関係性や有名な歴史的転換点での立ち回り方など、大胆でありながら逸脱しないさじ加減が心地好い。
  
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2016年10月04日

何様ですか?

作:枝松 蛍

屈折した女子高生の主観と活発な女子高生のブログ、その同級生である男子高校生が兄に宛てた手紙という三層構造で展開する物語。

「このミステリーは凄い」という文学賞で『隠し玉』に選ばれた作品だそうで、このミス大賞作品にいつも楽しませていただいている身としては「隠し玉?なんだ?佳作か準大賞的な扱いか?」と手に取ってみた。

結論として『隠し玉』はあくまで『隠し玉』であり、佳作でも準大賞でもありませんでした。

不幸な家庭環境によってすっかり性格がゆがんでしまった彼女は、他者を寄せ付けず周りの全てを蔑んで生きている。
その同級生で生徒会役員を勤める彼女は、活発で誰とでも分け隔てなく接している。
同じクラスにいるある男子は、他者を寄せ付けない雰囲気を神秘的と受け止め、秘かに想いを寄せる。

登場人物に感情移入できず読後感もなんだかモヤモヤ。

途中、学校で小説家の講演会が開かれ、そこでその小説家が散々突き上げられるエピソードがあるのだが、高校生達が小説家へ向けた批判と同じ手法が本作中に幾度か使われている。

何か狙いがあるのでしょうか。

また作者は仮面作家だそうで、ペンネーム以外は正体不明。

まぁ何か事情があるんでしょうが。
  
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2016年09月23日

作:摩耶 雄嵩

かつて高名なバイオリニストが所有していた京都山中の洋館。
そこは同時に彼が引き起こした殺人事件の現場でもあった。

とある大学のサークルが夏休みの合宿にその「ファイアフライ館」を訪れる。

当然発生する殺人事件。
携帯電話は圏外、洋館への一本道は降り続く雨により増水した川に阻まれた。

閉鎖された山中で学生達の自己防衛と犯人探しが始まる。

設定はまさにミステリーの王道。
というか王道過ぎて二の足を踏みたくなるだろうその設定に挑んだ筆者の勇気にまず敬意を表したい。

状況が使い古されていようと、展開や小道具で読者を引き込んでいけるという自信があったのだろう。

実際はまぁ、どうなんでしょう。

ミステリーに付き物のどんでん返し部分ではちょっとやられちゃった感ありますが、この事件が起こったバックボーンや落ちの部分には正直感心できませんでした。
  
Posted by uzonnkeiketeru at 13:29Comments(0)TrackBack(0)