若い刑事が走っている。自分と組んでいた同僚刑事が暴力団と癒着しその増長を許していたことを知ったからだ。
どれだけ走ったか覚えもいない。ようやく路地へ追い込んだ所で銃を撃たれた。振り向きざまに。説得する間も、息を落ち着ける間も、同僚の事を信じる間も、一切存在しなかった。

弾丸が一直線に向かってくる。

死ぬと悟ったその瞬間、次々と思い出がフラッシュバックしてくる。
赤ん坊の頃から順々に、一年一年登場人物が増えてきてそれが次々と「主よ、人の望みの喜びよ」を口ずさみ始める。しかも輪唱で。
思い出の中の登場人物はだんだん女の子ばかりになってくる。
女の子達は顔の一部にモザイクがかかっていてはっきりと思い出せない上に、なぜか決まってトランプカードを見せ付けてくる。番号はまばら、図柄は決まってハート。
もやっとする。
死ぬ間際までずっともやっとする。
女の子のはっきりとした顔も、トランプの謎も、同僚の心内も、何もかもわからず俺は死ぬ。

ふと、目を開けると、弾丸がまだ俺の元に届いてないことがわかる。

「遅っ!!」

毎秒10センチの弾丸に恐れる必要も何も無かった。