私立アークフィア学園。
それは地方都市ホルムにある中高一貫校である。
この物語は、そんな学園に在籍する学生達の青春群像劇である。

 

 


「ああー……ったりい」
俺のルームメイトであり腐れ縁のパリスが、本当にかったるそうに欠伸をする。
在籍していた野球部が潰れてからは、彼の駄目人間っぷりが増すばかりだ。
しかし俺も人の事は言えない。こうしてこいつとつるんでる内は、俺も同類項だ。
放課後だってのに、俺達はこうして人の掃けた教室でぐだぐだしている。
「なぁパリス。俺達このままで良いのか?」
「んだよヴァン」
「このまま、ぐだぐだ貴重な高校生活を潰して良いのか?」
「良いよもう。野球出来ないんだし」
「いや、もっとあるだろ?サッカーとかバスケとか……」
「どうでもいい」
駄目だ、完全に腑抜けてしまってる。
何かコイツに火を付ける良い案は……あった!!
「パリス。お前、彼女とかいんの?」
「なんだよ急に……いねえよ」
「好きな娘は?」
「いねえよ……まさか、お前俺の事が!?」
「んな訳ねえだろ!いいか?そんなだからお前は駄目なんだよ」
高校生活で頑張るべきなのは、勉強や部活だけじゃない。
「折角の高校生活なんだから、甘酸っぱい思い出のひとつでも作ろうぜ?」
パリスの目に、再び活力が宿る。
「っしゃあ!行くぜヴァン!無限大の彼方に!!」

 

私立アークフィア学園
第1話 男の告白

 

……そんな訳で俺達は、図書室の前に来ていた。
とりあえず、元女子部員に総攻撃を仕掛ける。
まずはテレージャを落とす。あいつが図書委員になったのはリサーチ済みだ。
なんと言っても、あのおっぱいは魅力的だ。
「どっちが取っても、恨みっ子無しだぜ?」
パリスがギラついた目で俺に告げる。
「ああ。ここからは敵同士だ」
そして、2人同時に図書室へと突入した。
「やあ、久しぶり」
彼女は図書委員用のカウンターで本を読んでいた。
ブックカバーで内容はわからないが、きっと難しい内容の本なのだろう。
「テレージャー!俺だー!付き合ってくれー!!」
いきなりパリスが大暴投をかました。
まあいい。俺の為に死んでくれ!
「ごめん。もう私には彼氏がいるんだ」
「「なん……だと……?」」
その時、俺とパリスに電流走るっ……。
「お、調度良い所に。エメクー、こっちおいでー」
彼女の呼び出しに応じてトコトコ歩いてきたのは、なんと中等部の後輩だった。
「あ、あの……僕、エメクです。はじめ……まして……」
急に呼ばれた後輩は、事態を飲み込めずにおどおどしている。
「やぁーエメク君、こんにちはぁ。テレージャと付き合ってるんだって?」
パリスが気味の悪いトーンで、妙に馴れ馴れしい態度でエメクに詰め寄った。
「え!?ええと、その……はい……」
「ぶうっ殺すぞこのガキがぁああああああッ!!」
おおっとパリス投手、二度目の大暴投。駄目だこいつ。
その時、図書室のドアがブチ壊れんばかりの勢いで開かれた。
「君達、図書室で騒ぐとは何事だ!!」
「「げぇ!?バルスムス先生!!」」
俺達は強面な生徒指導の先生から尻尾を巻いて逃げ出した。


「撒いたか?」
「ああ、大丈夫だ」
バルスムス先生から逃げる内に、もう夕方だ。
急がないとみんな帰ってしまう。
「よし、次行くぞ」
「次は誰に当たってみる?」
「そうだな……」
「何してんの?」
突然、男同士の秘密会議に耳慣れた女の声が乱入してきた。
「なんだよ、アイリ」
アイリは俺の遠縁の親戚で、去年この学校に編入して久しぶりに再会した。
ピンクのツインテールの髪を見た時は、頭がおかしくなったんじゃないかと心配したものだ。
「俺達は大事な話をしてるんだ。帰れ」
俺を介して関わりのあるパリスも、彼女を追い払おうと試みるが、しかし。
「当ててあげようか?ズバリ、二人して女子を口説こうとしてる!」
「してねーし!全然してねーし!」
やめろパリス。そのリアクションじゃ肯定してる様なものだぞ。
「よーし、じゃあ候補の娘の名前言ってみて。フリーかどうか教えるから」
「……相変わらず、そういう話だけは詳しいのな、お前」
「もーう、褒めないでよヴァン!」
褒めてない。まあいい、ここは有効に利用させてもらおう。
「じゃあまず……フランは?」
「フランちゃんは生徒会長のキャシアスと付き合ってるみたいだよ」
これで2人目のアウト。次。
「ウェンドリンは?剣道部の」
「あー……。あの娘とはあんまり付き合いないからわかんないなー」
とりあえず、ここは保留だ。
「でも、この間告った男子がブッ飛ばされたって聞いたから、気をつけなよ」
訂正。却下だ、却下。次。
「じゃあ次は……ネルはどうだ?」
「ネルならヴァンとパリスも知ってるんじゃないの?幼馴染みなんでしょ?」
「……最近アイツとあんま喋ってないからなぁ」
「そうなんだ。残念だけどお手つきだよ。アベリオンと付き合ってる」
マジかよ……。ガリ勉君もやる事やってんな。次だ、次。
「マナは?」
「……なんかね、メロダーク先輩いるでしょ?あの人と付き合ってるみたい」
「嘘だろ!?あの留年番町と!?」
パリスが素っ頓狂な声を上げて驚く。俺も正直信じ難い。
……もういい、ラストだ。
「キレハはどうだ?」
「うーん……浮いた話は聞いてないなぁ」
保留……いや、決定だ。
「よし、ありがとうアイリ。行くぞパリス!」
「おう!」
「ちょっと待ってよ!私には聞かないの!?」
「……だって、俺は一応親戚だし」
「ヴァンはいいの!そこの駄目人間!私は無視なの!?」
そういってアイリはパリスの顔を指差した。
「駄目人間だぁ!?俺だってお前みたいなパ●ラッチ女ごめんだね!」
「何よそれー!まぁ、別にいいんだけどさ。彼氏いるから」
「「マジで!?」」
思わずパリスとハモってしまった。
「ひどい!何よそのリアクション!もういい、早くフラれてきなよ!」
彼女に追い払われる形で、俺達はその場を去った。
途中、シーフォンとすれ違った。振り返るとアイリが彼に手を振っていた。
そしてアイリはシーフォンと手を繋ぎ帰っていった。
……よりによってシーフォンとかよ。やっぱりあいつはどこか常軌を逸している。


アイリの情報を参考にし、俺達は今度は弓道場の前で彼女を待つ事にした。
そろそろ練習も終わる頃だろう。
……よし、来た。
「よう、お疲れ」
俺はそう言って、彼女にスポーツドリンクを差し入れた。
「何よ突然」
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
ここはしくじる訳には行かない。慎重に行かなければ。
「キレハ!俺と付き合おう!それしかない!!」
「おいィ!?」
パリス、本日三度目の大暴投。死んでしまえ。
「……いや、無理」
当然この返答だ。“ごめんなさい”よりも重く冷たい、“無理”の一言で一刀両断だ。
「な、なんで……」
「なんでって……逆になんで?いきなりそんな告白されても……」
「だってさ、彼氏いないって聞いたし、ならいけるんじゃねーかなーって……」
「どういう理屈よ!?なんかすっごく失礼だし!」
「あーわかった!あれだろ?“ツンデレ”ってやつだ!」
「いや、そういうのじゃなく普通に無理」
「何故だーーーーーーーーーー!?」
もういい。パリス、もう休め。下がっていろ。
「ごめんな、なんかパリスが変な事言って。それでさ……」
「先に言っておくわね。無理」
「ウボァーーーーーーーーーー!!」


肩を落として、すっかり暗くなった家路を歩く。
「ああ~ときめいて~♪な~み~だ流して~♪しょっぱい青春の~日々は~♪」
「歌うなパリス。年がバレるぞ」
「だってよぉ、こんなのってありかよぉ!?」
「……これが現実だ」
そう、現実である。
「はぁ……もうこんな時間かよ。絶対チュナに怒られる……」
「あ、今日ヤングルイナの発売日だったな」
「どうせ今週も廃都物語休みだろ?別にいいよ」
「でも俺おでん食いたい」
「……まあ、チュナのお土産に買ってくか」
コンビニのおでんだけが、俺達に優しい夜だった。


第1話 男の告白  了

 


――――予告――――


すべての希望を打ち砕かれたヴァン。
そんな彼に、神は一縷の光明を残していた。
突如やってきた都市伝説級イベントに、ヴァンは歓喜の絶頂に立つ。
しかし、それは死と隣り合わせの絶頂だった。
何一つ変わらない明日と死を孕んだ新しい明日。果たして彼の選ぶ答えは。


次回、第2話 死に至る弁当、そして