「30歳からの留学を成功させるコツ」

バンクーバーのリアルな現地事情を、メディアジャーナリスト・渡辺真由子がレポート (初出:ALCカナダ留学 2005-2006)

campus, Victoria, Konrad 001

 

留学をスタートさせた当初のこと。ある日の夜中、キャンパスを突っ切って寮へと家路を急いでいると、向こうからガヤガヤとわめきながら学生の集団がやって来た。すれ違った瞬間、嗅いだことのない匂いがぷ~ん。何これ?と思ったら、一緒にいた友達が「マリファナ(大麻)だよ」と言う。近くのパブかどこかで、吸ってきたらしい。


その時のショックはいまも覚えている。カナダのトップ大学の学生が、堂々とドラッグをやっているなんて!だが、カナダではマリファナはタバコ感覚で吸われているという。マリファナの使用は違法にも関わらず、警察が厳しく取り締まらないため、合法と思い込んでいる人も少なくない。マリファナの合法化を進めようとしている政党、その名も「マリファナ党」まで存在するから驚きだ。マリファナに対するカナダの“寛容な”姿勢は、昔この地に栄えたヒッピー文化の名残だという説もある。


さらに深刻なのは、コカインやヘロインといった麻薬の広がりだ。バンクーバーのダウンタウンには、観光地と隣り合わせの一角に、浮浪者がたむろす通りがある。ほとんどは麻薬中毒者と見られ、白昼から麻薬の使用や売買が公然と行われていたり、道端に注射針が転がっていたりする。すぐ近くに大きな警察署があるのだが、あまり機能していないようだ。

バンクーバーには約8千人もの麻薬中毒者がいて、彼らのHIV感染率は90年代後半に3割に達し、北米一を記録したという。治安の良いイメージが強いこの街の、意外な一面である。


これに対し、バンクーバー市が取る対策はなかなか過激だ。2001年に始まった「ハーム・リダクション」と呼ばれるその対策の目玉は、なんと麻薬中毒者へ注射針を無料で配布するサービス。使用済みの注射針の回し打ちがHIV感染の要因となることから、予防するには新品を与えよう、という発想だ。市が配布する注射針の数は、年間約三百万本にも上る。だが、路上や公共トイレにポイ捨てされる針数の増加につながるという指摘も。

さらには、北米初の「公認麻薬使用施設」なるものまで誕生した。中毒者はここに自分の麻薬を持ち込み、職員から清潔な「注射キット」をもらってモニター監視の下に打つ。市としては、公共の場で麻薬を使われるよりまし、というわけだ。これらの対策が本当に効果があるのか気になるところだが、今のところ、麻薬中毒者の数は増えても減ってもいない状況という。

日本人留学生も、カナダにきてドラッグにハマってしまうケースがある。違法行為には違いないので、誘われてもくれぐれも手を出さないようにしよう。


(初出『ALCカナダ留学』2006)

 

 

Canada Washroom

海外での寮生活は昔からの憧れだった。部屋代は安いし校舎に近いし、なんといっても様々な国籍の学生たちと知り合えるのが魅力的ではないか。基本的に、大学付属の語学学校に通う場合では入寮資格は得られない。正規の学生にのみ与えられる特権なのだ。私が正規の学生を目指してひたすら勉強に励んだ動機の40%くらいは、この“寮生活願望”が占めていたといっても過言ではない。


さて、そんな熱い思いで手に入れた寮生活。家賃は食事なしの個室で月4万5千円ほど。同じ階に住むのはカナダ、中国、トルコ、インド、ベトナム、韓国、そして唯一の日本人の私という多国籍な顔ぶれの女子と男子である。・・・そう、この寮は女男混合なのだ。それだけならまだいいが、なんとトイレやシャワーも一緒に使うのである。海外ドラマ「アリー・myラブ」でも女性と男性がトイレを共有していたが、私の寮ではトイレがある一室にシャワーと洗面台も併設されている。


このため、女子が花の香りのソープに包まれて顔を洗っているすぐ横で、男子が高らかなサウンドを響かせながら用を足していたりする。もちろん、朝イチのトレパン姿でひげを剃る男子の背後で、女子がシャワーを浴びていることもある。日本人の感覚としては盗聴・盗撮その他の事件が起きてもおかしくないのではと思えるのだが、こちらではそんなことはない。「別に気にしないもんね」とお互いあっけらかんとしたものだ。


さすがはオープンな国カナダの大学、これも健全な青年育成のための一環だろうか。日本では異性への興味が歪んだ形で表れる犯罪が後を絶たないが、教育現場で女子と男子の生理的な部分を隠し合ってきたことも一因かもしれない、と感じさせられる。


この寮は食事が付かず、しかも山の上なので近くにコンビニや定食屋などあるはずもなく、学生たちは自炊せざるを得ない。共同で使うキッチンでは誰が何を洗ったのかわからないベチャベチャのスポンジなどを使い回すので、きれい好きな人には耐えられないかもしれない。


そんな場所でも、女子も男子も様々な調味料を駆使して凝った料理を作る。夫にするなら寮出身者はイチオシだ。ちなみに和食好きが多いカナダ人は、日本人はみな寿司を作れると思っているらしく、作ってくれとせがまれることが度々ある。私は握りはおろか手巻きも散らしも稲荷も作り方を知らないため、「日本じゃスシ職人になるには10年かかるんだ」と言ってその場を切り抜けているが、カナダに来るなら多少は作れるようになっておくことをお勧めする。


寮に暮らす限り、騒音や汚損といった問題は付きものだ。それでも他の学生たちと話す機会が増えるので英語の勉強になるし、賑やかな環境は留学生活の孤独感を吹き飛ばしてくれる。すっかり寮生活が気に入った私は、来学期は別の寮に移る。今度は一戸建てを4人でシェアするタイプだ。新しい寮での暮らしも、いずれお伝えできるだろう。       



モントリオールのマック
★モントリオールのマック

 寝台車はお気に入りの交通手段だ。ガタゴトと揺られつつ横になって車窓から見上げる夜空は旅情をそそるし、
移動と睡眠を兼ね備えているので時間と宿代の節約にもなる。
ただ、たまに揺れが激しいので、
私 のように立ってでも眠れるタイプでないと睡眠不足を招くかもしれない。

 そんな寝台車最大のお楽しみは朝食だ。以前マレー半島を縦断した時に利用したタイの 寝台車の朝食が美味だったので、今回のVIA鉄道でも迷わず朝食付きのプランを選んだ。これがまたアタリである。温かいオムレツにパン、フレッシュなチー ズ、スウィーツ、個別包装された瓶入りのジャム、そして飲み放題のコーヒー、紅茶にホットチョコレート・・・。柔らかな朝日が差し込む車窓のもとで食して いると、もう永遠にモントリオールには到着しなくてもいいと思えるのだった。

 カナダ東部の旅6日目の午前、モントリオールに到着。カナダでありながら、フランス語圏としてパリに次ぎ世界第2の規模を誇るこの都市は、英語表記よりもフランス語表記が優先されている。
街の通り名も、駅名も、道行く人の言葉もフランス語。
英語が通じないことはないが、
学生時代に第二外国語としてフランス語を専攻し、卒業と同時に記憶から抹殺した者としては肩身が狭い。

 街並みはやはりというかヨーロピアンテイスト満載であ る。石畳の道に壮麗な教会、マクドナルドまで石造りなのには感慨を覚えた。小道には画家の作品や手作りのアクセサリーが並び芸術の薫りが漂うのも、昔訪れ たパリを思い起こさせる。噂によると近くのケベック市まで足を延ばせば、更にディープなフランス系文化が待っているらしい。

グリーンゲイブルズ
★グリーンゲイブルズ!

 そして8日目。最後にしてこの旅のハイライト、プリンスエドワード島へ。もちろん「赤毛のアン」ゆかりの地を巡るためである。
この小説の大ファンの私は小学生時代にシリーズをほぼ読破し、映画も最新版まで見た(愛らしい主演女優の急激な老けぶりにはビックリである)。
自分も幼少の頃は“みにくいアヒルの子”のような姿をしていたので、コンプレックスに負けず健気に振る舞うアンに共感したのだ。

 同 じようにアン好きのあなたなら是非、キャベンディッシュのアボンリー村を訪れよう。アンが通った学校や教会が再現され、一日中道端でミニ芝居が行われてい て、まるでアンが現代に実在しているかのような錯覚に陥る。貸し衣装でアンになりきれるのもたまらない。島には他にも、小説に登場する森や湖が保存されて いる。舗装された道路やテーマパークなどがファンタジーの風情を少々そぐが、どこまでも広がる草原に牛や馬がいるのどかな風景、見たこともないような夕焼 けの色が、アンの世界にどっぷりと浸らせるのである。

赤毛のアンに変身!
★赤毛のアンに変身!?

 夢見心地で真夜中のバンクーバーへと戻ってきた私を待ち受けていたのは、飛行機に 預けた荷物の遅延という事態だ。中に家の鍵を入れていたので途方に暮れると共に、遅延の補償をしようとしない航空会社に怒り心頭である。9日間に及ぶ旅の 最大の収穫は、某大手カナダ系エア・ラインには2度と乗るものかという教訓であった。     

(本記事は、カナダ留学中の2005年に『アルク』連載用として執筆したものです)

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