
留学をスタートさせた当初のこと。ある日の夜中、キャンパスを突っ切って寮へと家路を急いでいると、向こうからガヤガヤとわめきながら学生の集団がやって来た。すれ違った瞬間、嗅いだことのない匂いがぷ~ん。何これ?と思ったら、一緒にいた友達が「マリファナ(大麻)だよ」と言う。近くのパブかどこかで、吸ってきたらしい。
その時のショックはいまも覚えている。カナダのトップ大学の学生が、堂々とドラッグをやっているなんて!だが、カナダではマリファナはタバコ感覚で吸われているという。マリファナの使用は違法にも関わらず、警察が厳しく取り締まらないため、合法と思い込んでいる人も少なくない。マリファナの合法化を進めようとしている政党、その名も「マリファナ党」まで存在するから驚きだ。マリファナに対するカナダの“寛容な”姿勢は、昔この地に栄えたヒッピー文化の名残だという説もある。
さらに深刻なのは、コカインやヘロインといった麻薬の広がりだ。バンクーバーのダウンタウンには、観光地と隣り合わせの一角に、浮浪者がたむろす通りがある。ほとんどは麻薬中毒者と見られ、白昼から麻薬の使用や売買が公然と行われていたり、道端に注射針が転がっていたりする。すぐ近くに大きな警察署があるのだが、あまり機能していないようだ。
バンクーバーには約8千人もの麻薬中毒者がいて、彼らのHIV感染率は90年代後半に3割に達し、北米一を記録したという。治安の良いイメージが強いこの街の、意外な一面である。
これに対し、バンクーバー市が取る対策はなかなか過激だ。2001年に始まった「ハーム・リダクション」と呼ばれるその対策の目玉は、なんと麻薬中毒者へ注射針を無料で配布するサービス。使用済みの注射針の回し打ちがHIV感染の要因となることから、予防するには新品を与えよう、という発想だ。市が配布する注射針の数は、年間約三百万本にも上る。だが、路上や公共トイレにポイ捨てされる針数の増加につながるという指摘も。
さらには、北米初の「公認麻薬使用施設」なるものまで誕生した。中毒者はここに自分の麻薬を持ち込み、職員から清潔な「注射キット」をもらってモニター監視の下に打つ。市としては、公共の場で麻薬を使われるよりまし、というわけだ。これらの対策が本当に効果があるのか気になるところだが、今のところ、麻薬中毒者の数は増えても減ってもいない状況という。
日本人留学生も、カナダにきてドラッグにハマってしまうケースがある。違法行為には違いないので、誘われてもくれぐれも手を出さないようにしよう。
(初出『ALCカナダ留学』2006)